戦国異伝
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第百六十六話 利休の茶室にてその三
「幾ら念仏を唱えれば極楽に行けるといってもな」
「この世での生も大事にせよか」
「その通り、だからこそ」
顕如は彼等にはそう命じたのだ、戦は彼等の雇った兵達なり僧兵達なりで主に戦うつもりだったのである。
「あの者達には無駄死にはさせなかった」
「我等も民は狙うつもりはなかった」
「逆らわねば」
「武器を持たぬ民は守るべきもの」
信長は強い考えを見せて述べた。
「わしはそう考えておる」
「ふむ。それでは」
「織田家は何もせぬ民を襲わぬ」
それはだ、決してだというのだ。
「そのことは見てわかろう」
「確かに。貴殿は嘘を言ってはおらぬ」
顕如とてそれがわからぬ者ではない、信長の言葉にも目にもその嘘の色がないのを見抜いて言うのだった。
「決してな」
「そして貴殿もじゃな」
今度はだ、信長が言った。
「貴殿にしても我等を襲わなかったな」
「確かに織田家は寺社の力を削いでいる」
「それは当然のこと」
寺社の力を削ぐ、そのことはというのだ。
「かつての延暦寺の様に僧兵達の力で好き勝手されては天下が乱れる」
「延暦寺を話に出されるか」
「あの寺は平安の頃より好き勝手しておった」
そして都を騒がしていた、このことには白河院も頭を悩ましておられ平清盛も鎌倉幕府も手を焼いていたのだ。
そうした者達だからだ、信長は彼等の力を除いているというのだ。
「荘園と僧兵をなくし檀家を設けておる」
「檀家か」
「そうじゃ、それで寺社の糧を置く」
「そこまで考えてか」
「寺社に対しておる、これからは僧兵はいらぬ」
「それで僧兵は除きか」
「本来の寺社に戻らせるのじゃ」
僧兵や荘園を持たぬだ、平城京の頃の寺社にだというのだ。
「天下泰平の為にな」
「しかし寺社を否定せぬのじゃな」
「寺社を否定しても何にもならぬ」
それ故にだというのだ。
「天下の心を収めまつろわぬ者達から守る為にはな」
「寺社の力も必要か」
「寺社は寺社の本来の姿に戻らねばならぬのだ」
信長の考えだった、このことも。
「だから僧兵と荘園は除くのじゃ」
「そういうことか。では本願寺も」
「降ればよし」
それでだというのだ。
「それ以上は何もせぬ」
「その言葉信じてよいか」
「信じずともよい、どのみち和議の刻限が終わればまた戦になろう」
「石山を攻めるか」
「石山は天下の要となる、立ち退いてはもらえぬか」
「それは受け入れられぬ」
顕如、本願寺にしてもだというのだ。
「到底な」
「やはりそう言うか」
「あの場は代々の場、拙僧の代で終わらせられぬ」
「別のよき場を用意するが」
「あの寺あっての本願寺、そして拙僧は貴殿の言葉は聞いたが」
「それでもか」
「その言葉はまだ信じられぬ」
だからこそだというのだ、顕如は。
「和議が終わればまた戦をする」
「そう言うか」
「左様」
まさにだというのだ、顕如は。
「それは武家の言うこと、しかし」
「僧侶には僧侶の言うこと、考えることがあるか」
「そうなる、だからこそ」
「わしの言葉は今は受けられぬか」
「貴殿は民のことを考えており天下泰平を目指しておる」
「それはわかっておるのか」
「しかしそれはまことに民のことを考えておるのか」
果たしてだ、どうかというのだ。
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