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戦国異伝

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第百六十六話 利休の茶室にてその二

「あの者達は二人じゃ」
「それ故にですな」
「どの様な者達も近付けぬわ」
 毛利と服部がいる限りはというのだ。
「決してな」
「だからですな」
「あの二人にしたのじゃ」
 滝川でも蜂須賀でもなく、というのだ。
「ここはな」
「左様ですか、それでは」
「うむ、ではそろそろじゃな」
「もうすぐそれがしの家の者が来ます」
 利休は穏やかな声で信長に答えた。
「ですから」
「そうじゃな、ではな」
「茶のことは」
「御主に任せた」
 毛利と服部は守りを、そして利休はというのだ。
「それはな」
「それでは」
 利休は信長のその言葉に微笑んで応えた、そしてだった。
 茶室の入口からだ、声がしてきた。その声が言うことは。
「来られました」
「お通しを」 
 利休は声にこう返した、そして茶室の狭い入口からだった。
 顕如が入って来た、そのうえで。
 彼は茶室に入り信長の向かい側に座った、利休は彼が入ったのを見て茶を淹れはじめた。そうしてであった。
 お互いに会釈をした、それからだった。まずは顕如が言った。
「お招き頂き感謝する」
「よく来られた」
 信長も言葉を返す。両者は座したまま見合っている。睨み合いではないがじっと見合っている。そうしてその中でのやり取りだった。
 顕如はだ、こうも言った。
「では」
「茶を」
「馳走になる」
 こう言うのだった。
「喜んで」
「飲まれよ、ではそれがしも」
 信長もだというのだ。
「馳走になろう」
「では」
 利休もだ、信長に応えてだった。
 茶を用意するのだった、そうして利休に茶を用意させる中で二人は話すのだった。今度は信長からだった。
「ところでこの度の和議のことだが」
「そのことを聞かれるか」
「左様」
 顕如を見据えたまま答える。
「我等が伊勢で襲われてはじまったこと」
「それは我等も同じこと」
 顕如も負けていないという感じで返すのだった。
「やはり伊勢で織田の兵達に襲われた」
「当家はその様なことはせぬ」
 信長は顕如のその言葉を否定した、それもすぐに。
「決してな」
「しかしその兵は青かったと聞く」
 織田家の色だ、まさしく。
「それでもそう言われるか」
「当家の家臣に何もしておらぬ民を攻める者はおらぬ」
「一人たりともか」
「左様、一人たりとも」
 それは決してだというのだ。
「その様なことはせぬ」
「確かに。織田家は本願寺の者達であっても歯向かわねば何もしなかった」
 このこともだ、顕如は知っていた。石山にあってもそのことは聞いていた。 
「灰色の者達には」
「歯向かうなと命じておったな」
「戦になろうとも民を巻き込むことは親鸞上人の御教えに反する」
 その考えがあるからこそだ、顕如は灰色の服を着ている民達には戦になろうとも命を粗末にするなと強く命じたのである。 
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