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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第八十八話

「・・・危機、一髪・・・」

 俺は、ギリギリのところで落ちることができた異世界で、無意識のうちにそう洩らした。

「本当よ。まつろわぬ神相手に背中を向けるなんて」
「自殺行為にもほどがある。全く、何がしたかったんだ」

 そして、本来間に合わなかったはずのギリギリを稼いでくれた二人・・・崎姉とナーシャが、肩で息をしながらそう言ってくる。
 あの時、氷柱や立夏の倍以上のスピードで飛翔してきたナーシャが崎姉を抱えて俺の元まで来て、俺を捕まえた瞬間、崎姉がペガサスを足場に跳躍。
 そうしてほんの一瞬だけ稼いだ時間に蚊帳吊り狸を発動し、どうにか逃げたわけだ。

「で、どう?立てる?」
「あー・・・無理だな。脚の骨が折れてる」

 とはいえ、完全な脱出とはいえなかった。
 その代償として俺の脚は雷鎚の衝撃を受けて折れたのだ。
 まあ、もともといろんなところの骨が折れていたので、今更ではあるんだけど。

 何より、これくらいならどうにか戦えそうな感じがしているのだ。
 立てない癖に何を言っているのだ、ではあるんだけど・・・それでも、そう思った以上は何とかなるだろう。
 とかそんなことを考えていたら、急に唇が柔らかいものにふさがれた。

「ちょ、何を・・・」
「じっとして」

 驚いて声をあげるが、そう言われて反射的に体の動きを止める
 再びふさがれた唇は相手・・・崎姉のそれに包まれる。
 その感触に対して、やっぱり一人一人違うんだなぁ・・・という、若干現実逃避ぎみの感想を抱いた瞬間、舌をねじ込まれて、舌同士が絡む音で現実に引き戻された。

 そのタイミングで真っ赤になっているナーシャを見て止めようと思ったのだが・・・それは、出来なかった。
 崎姉が力を込めていて抜けられないわけではない。おしいと思った、というのも少し違う。何というか・・・心地よかったのだ。

 林姉やリズ姉と違って、崎姉からははっきりと『姉』というものを感じた。
 それが妙に心地よくて・・・俺は目を閉じ、されるがままになっていた。



◇◆◇◆◇



「えっと・・・ありがとう、崎姉」
「気にしなくていいわ。可愛い弟のためだもの」

 俺は恥ずかしくて崎姉を直視できないんだけど、崎姉はどうにもそうではないようだ。
 なるほど、予想はついてたけど、この人はどちらかと言うとリズ姉よりだな。

 そして・・・

「・・・・・・」
「おーい・・・ナーシャちゃん?」

 ナーシャは、目を回していた。
 うん、ナーシャはどちらかと言うと林姉よりの性格してるんだな。とりあえず、頬をぱちぱち叩いて意識を戻してもらう。

「・・・君たちは、本当に・・・姉弟だろう!?」
「まあ、そうなんだけどな・・・この体質が悪いんだ」
「それに、うちでは姉弟(兄妹)間での恋愛禁止されてないものね」
「そこではないだろう!?というか、立夏君と言いマリー君といい氷柱君と言い、どうしてそうも兄妹間での恋愛をしている人がいるんだ!」

 氷柱―・・・思いっきりばれてるぞー・・・

「武双君が魅力的、っていうのもあるけど、私は、それだけじゃない気もするのよね~。他にも何人かいるみたいだし」

 そう言いながら、崎姉はナーシャを見ている。
 あの笑顔は・・・何か聞きたいことがあるときの笑顔だな。こう・・・本心を言え、みたいなと気に使う笑顔だ。神代家に来たばっかりの頃、あの笑顔は一度向けられている。

「な・・・何だい、御崎君?」
「いや、ナーシャちゃんはどうなのかなー、って」
「どうって・・・そんな感情あるわけがないだろう!何度も言っているが、兄妹だぞ!?」
「最近、その言葉がいかに脆いものなのかを実感してる気がする・・・」

 それこそ、人それぞれな気がする。
 護堂の妹の静花ちゃんとか、血は繋がってるだろうけど護堂のこと好きだろうし。若干は、恋愛も入ってると思う。

「う~ん・・・まあ、仕方ないわね。ナーシャちゃんがそう言うなら、今はそういうことにしておきましょうか」
「そういうことも何も、兄妹愛はあるが、それ以外の愛はない」
「兄妹になる前から出会ってるんだから、そういう感情があってもおかしくないじゃない?」
「いや、あの頃は魔王カンピオーネのお一人、という認識が強かったから・・・」
「それは・・・うん、ありそうね」
「おれ、そこまで危険視されるようなやつか・・・?」

 少しばかり心外だったので、そう反論してみたが・・・

「武双君・・・さすがにもう、それを否定してあげるのは難しいと思うの」
「・・・なぜ?」
「まず、武双君が最近まつろわぬ神と戦った時、どれも復興に費用がかかってるでしょう?」
「まあ、それはかかるだろうけど・・・まつろわぬ神をそのまま放置するよりはましじゃない?」
「確かに被害は小さくて済むだろうが、それでもあり得ないほどの被害が出るのは間違いないからな」

 ナーシャからはっきりと否定された。
 いや、確かにそうだけどさ・・・

「俺たちカンピオーネって、見方を変えれば神話の英雄とかアニメや漫画のヒーロー的ポジションに入れると思うんだよ。ほら、あいつらの攻撃も被害大きいじゃん」
「それでも、公爵や教主のような古参のイメージが先行するものなんだよ、そういうものは」
「なにより、本来人間にはありえない力を自由に使う、っていうところが恐怖の対象よね~・・・」

 えー・・・それこそ、アニメや漫画の主人公みんなじゃね?
 まあ、そう言ったものと現実とでは違うだろうし、事実としてこの権能を自分のためだけに使ってるカンピオーネもいて、過去にもこれから先にもいるだろうし。
 そう言ったやつらの影響で、俺たちがひとくくりに恐怖の対象になるというのも、まあ仕方のないことである。

「それに、もういろんな人から言われてるとは思うけど、武双君って出雲大社を壊したじゃない?」
「あー・・・それは、うん。いろんな人から言われる」

 それこそ、俺との関わりが薄い人はそれで俺が危険な対象だと判断するくらいには。
 いや・・・確かにあのせいで、五柱の神と同時に戦うことになったんだけど。あれが原因で少しばかり神が出てきやすくなったんだけど!

「あれだけの場。神を刺激しないことは誰もが考えていること。それを何の躊躇もなく・・・」
「いやだって、あの機会を逃したらスクナビコナは倒せなかっただろうし・・・」
「それでも、せめて場所を変えるとか」
「あの時は、スクナビコナをキレさせることでどうにか戦う方向に持ってったからなぁ・・・無理だろ」

 と、そこで俺は一つの作戦を思いついた。

「・・・あの神、どうにかしてキレさえられないかな?」
「・・・どういうこと?」
「いや、もしそれができれば少しは戦いやすくなると思うんだよ・・・あの手のやつは大抵、プライドが高いからな。そういうやつほど、プライドが崩れたら脆くなるもんだ」

 そして、いまだに名乗りすら上げていないところをみると・・・名乗りたくない、という可能性でも出てくる。
 中には名乗るのを忘れてた、とかいうふざけたパターンもあるんだけど・・・試してみるだけの価値はあると思う。

「それなら・・・ナーシャちゃんが霊視した情報、あれでどうにかならないかしら?」
「ん、あの神の正体について霊視できたのか?」
「ああ・・・まあ、一応な」

 それは頼もしいな。

「じゃあ、俺がその情報を」
「ナーシャちゃん、教授してあげて?」
「「は!?」」

 崎姉の言葉に、俺とナーシャの声が被った。

「え?私、何かおかしなこと言ったかしら?」
「いや、おかしなこと言っただろう!?なぜ、そんな・・・」
「ってか、俺がナーシャの頭の中を覗けばいいだけだしな」

 その後、なぜか崎姉は不満そうにしていたがそのまま知に富む偉大なる者(ルアド・ロエサ)でナーシャの頭の中を除き、今回の神についての情報を引き出した。

 さて・・・次で決着をつけるぞ!
 
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