少年と女神の物語
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第八十七話
「はぁ・・・にしても、石化した海の上で戦うことになるとはな」
「なかなかできない経験ではあるわね。それもこれも、神との戦いの影響かしら」
「確かに、これくらいならあり得るか、と思う自分はいるな」
俺、崎姉、ナーシャの順にそう言っていると、前方からこちらに向かってくる巨人がいた。
あれが今回の・・・確かにでかいな。それに、雷がゴロゴロ鳴ってる。
「・・・んじゃ、行きますか」
俺はそう言って、石化した海の上を歩きだす。
焦る必要はない。ただ堂々と、歩いていればいい。神を敬う立場にはいないんだから。
「・・・一応、初めましてじゃない・・・よな?」
「そうだな。確かに数日前、お互いの存在を認識している」
俺が槍を構えて挨拶をすると、向こうも鎚を持って返してくる。
お互いに武器を構えた、いつでも戦いを始められる体制。
「ったく・・・いきなり挨拶もなしに雷を放つとか、誇り高き神としてはどうかと思うぞ?」
「確かに、あれはいささか礼に欠いておった。我なりの形で、謝罪をしよう」
神は鎚を構え、それに雷を纏わせていく。
「正々堂々、正面から戦うことで謝罪としようではないか!」
「やっぱり、そうなるよな・・・分かりやすい。大歓迎だ」
牙を向くくらいに笑みを浮かべて、跳躍で一気に跳ぶ。
頭上に来てから槍を投げて、それを鎚で弾くのを見ながら再び跳躍。
一気に俺の間合いまで近づいて槍を振るうが、そこにあった防具を破ることができず、槍が破壊される。
「やっぱり、固いか・・・」
「そうやすやすと打ち破れると思うなよ、神殺し!」
振りぬいた一瞬動けない瞬間、神は鎚で俺を殴り飛ばす。
そのまま結構な距離を跳んでから石の海に叩きつけられ、死にそうになるのを意志を強く持って抑える。
「・・・我は永続する太陽である。我が御霊は常に消え常に再臨する。わが身天に光臨せし時、我はこの地に息を吹き返さん!」
とっさに沈まぬ太陽を使い、死なない体になる。
とりあえず、これで・・・
一息つこうとしたら、目の前まで鎚が迫っていた。
「神槍絶刃!」
とっさに槍を召喚し、それを犠牲に鎚・・・雷鎚を横にはじく。
そして、先ほどと似た形の隙に対して神が迫ってきて・・・その拳で、殴り飛ばされた。
あー・・・間違いなく、肋骨は一本残らず折れたな。そんなことを考えながら胃液を吐きだし、体を無理やり立たせていつの間にか拾って再び投げてきた雷鎚をよける。
「っつ・・・質量のある武器は、どうにも相性が悪いな」
「そう言いながら、この間ボクを圧倒したのは誰だい?」
「だとしても、相性は悪いわね。どうするの、武双君?」
そして、いつの間にか、勇敢にもここまで来ていた二人に話しかけられる。
「・・・ま、そうぼやいてても仕方ないか。それに、壊れない槍を使えばいいだけだし」
そう言いながら崎姉から霊薬を受け取って煽り、両手にゲイ・ボルグとブリューナクを構えて神をにらむ。
「ずいぶんと力技なんだな。もう少し何かないのか?」
「これもまた、神と神殺しの戦い方だろう」
「確かにそうなんだけど、こんな戦い方をしたのはまだ二回目なんだよな・・・どうにも、慣れない」
そういうわけで、俺は俺の戦い方をさせてもらうとしよう。
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」
言霊を唱えながら種を投げ、石に根を張って広がっていく。
そのまま神の行動範囲を制限し、さらに権能を使う。
「我は全ての武具を作りし者である。我はここに我が武を生み出し、使役せん!」
ついでにもう一個!
「この世の全ては我が玩具。現世の全ては我が意の中にある。その姿、その存在を我が意に従い、変幻せよ!」
言霊を唱えきると、空中から蚩尤の権能で作り出した大量の武器が降り注ぎ、さらには空気を変幻させた武器も降り注ぐ。
され、これである程度向こうの行動は制限で来た。後は・・・
「ずいぶんと姑息な手を使うな、神殺し!」
「策を練るのも一つの戦いだろ!」
「いかにも!ならば、我はそれを力を持って打ち破ろう!」
そう言いながら、神は雷鎚を振りまわして俺が作った包囲網を破壊していく。
降り注ぐ武具も、取り囲む植物も、一切の区別なく。
マズイな・・・急がないと。
「雷光を纏いて貫け、ブリューナク!」
『オウよ!世界の全てを貫いて見せようぞ!』
俺が投げたブリューナクは俺の望んだとおりに飛び、降り注ぐ武具を貫きながら神に迫り・・・雷鎚と打ち合い、ともに弾かれる。
「面妖な武具を持っておるな、神殺しよ!」
「称賛どうも!今ここに我は力を現す。人ならざる力をもちて相撲を取り、未来あるものを守り抜こう!」
「ぬぅ!?」
先ほどの委縮返しではないが、懐に入り込んで両手を打ちつける。
「我は盗人である。天上より民に火を与え、進化を支えたものである」
小声で言霊を唱えながらではあったが、怪力を発動していただけあって神をぶっ飛ばすことができた。
今回の相手は神・・・それも、あんなでかい雷鎚を振りまわす巨人だ。
当然ながら、濡れ皿の怪力の発動状態はかつてないほどに高い。
「ふぅ・・・これで、俺からも一発入れたぞ」
「・・・ははっ。ははははははは!よい、良いではないか!これぞ戦い!我れは望む位にまで到達していないが、それでもここまで心躍るとはな!」
神が高笑いしているのをにらみながらブリューナクを回収し、再び二槍を構える。
「・・・一旦、私たちは離れるわ。たぶん、そっちの方がいいと思うから」
「そうしてくれ。たぶん、ここからはこれまで以上に危険になる」
その瞬間、二人はナーシャの飛翔の術で飛び立った。
さて、それじゃあ・・・
「やるか、神。お前が力で一本取り、俺は策略で一本取った。次は、混合戦と行こうぜ。ルールは・・・命を取った方の一本だ」
「うむ、よかろう!ありとあらゆる物で争わねば、勿体ないからのう!」
次の瞬間、雷を纏った雷鎚と雷を纏った槍がぶつかり合い、お互いがお互いを弾き飛ばす。
俺は弾き飛ばされながら、言霊を唱える。
「我が姿は変幻自在。我が存在は千変万化!常に我が意思のみに従いて、自由自在に変幻する!」
芝右衛門狸の権能で俺自身を変幻させ、一度鳥の姿に変わる。小さくなることで、相手の攻撃からのがれやすくしてみた。
そのまま本気で飛んで神の上空まで行き、そこから雷を落として再び離れる。
見たところ、あの雷鎚がある限りは少なくとも雷は効かないようなので、元の姿に戻ってからまた違う言霊を唱える。
「我がためにここに来たれ、羽持つ馬よ。我がために我が雷を運べ。我がために天を駆けよ。その為にここに現れよ!」
なら、まず必要になるのは機動力。
だから、天地両方を駆ける素早い馬に乗るとしよう。
「我が元に来たれ、ペガサス!」
かけてきたペガサスに素早く乗り、神が雷鎚から放ってきた雷を肩当ての力で防ぐ。
そのまま背を向けて一気に距離をとり、本気で揺らしても俺に被害がないくらいまできたところで振り返り・・・そこで、視界いっぱいに広がる雷鎚を見た。
◇◆◇◆◇
「さて、これで我の・・・」
神は勝利を確信して前方を見るが、そこには傷つき倒れるペガサスの姿しかなかった。
そして、そのペガサスも光の粒となって消えていく。
「・・・いや、まだ分からぬか」
彼のまつろわぬ神としての本能は、いまだに警戒を解いていない。
そうである以上、神殺しは死んでいないのだろう。
そう考えながら神は雷鎚を拾い、それを少し振りまわして感触を確かめる。
「何にせよ、神殺しとの戦いまでに時間を取ることができるのは行幸であるな。未だ、我は我が望む位に上り詰めておらぬのだ」
神がそう言った瞬間に足下の石化が解け、海へと戻る。
だが、それでも神の体は海水の上に出ていた。下半身はほとんど水につかっているが、それは大した問題ではないのだろう。
「さて、今石化が解けたということは、つまりこの近辺に神、神殺しのいずれかがいるということ。そ奴らに戦いを挑むのも、それはそれで一興であろう。が・・・」
そして、神が真上に掲げた雷鎚に雷が落ち、神はその中獰猛に笑みを浮かべる。
「我はまず、あの神殺しと決着をつけねばなるまい!早く戻って来い、神殺しよ。次こそ、雌雄を決しようぞ!」
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