遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―勇ましき戦士達―
闇魔界の戦士長とのデュエルに敗れた俺は、この異世界に倒れていた俺を見つけてくれた、カードの精霊《リリィ》が乗った竜に助けられた。ライフポイントが0になる、という事態からは避けられたものの、あのままでは確実に、俺は戦士長の攻撃に倒れていた。デュエルから逃げるなんて、デュエリストらしくない……などと考えている余裕などない。何故ならば、この世界でデュエルに負ければ、この世界から消滅してしまうのだから。
そうなればどこの世界に行くかは、この世界のカードの精霊たちにも分かっていないらしい。……まさか、俺たちの世界に帰れるという事はないだろう。まだ俺は消えるわけにはいかない……十代に謝罪し、明日香を見つけだすまでは。
そう意気込んで、精霊たちの避難所から出て行ったは良いものの……結果は惨敗。明日香を見つけだすどころか、最初に戦った相手に敗北する始末だ……それがたとえ、相手が闇魔界の最強の戦士だとしても。
そして竜に乗って戦士長から逃げだした時、竜を操るリリィは彼女特有のたどたどしい口調のまま、俺にこう頼んで来たのだった――『覇王を倒す救世主になって欲しい』と。
「救世主……?」
俺はリリィとともに《漆黒の闘竜》――確か闇魔界の戦士とのユニオンで、効果を発揮するモンスターだったか――に跨がりつつ、リリィの問いかけに応えた。漆黒の闘竜は敵から見つかり難いように、建物の影から建物の影を縫うように飛んでいて、あたかもジェットコースターのような様相を呈していたが、スピードは出ていないためあまり苦ではない。
「はい……救世主、です」
リリィも《漆黒の闘竜》を慣れない様子で操りながらも、俺の言葉に小さながらもはっきりとした様子で、救世主と言ったのがが聞き間違いではないと、俺に言い聞かせるように話した。俺はそのリリィの言葉に、頭をカリカリと掻きながら返答する。
「救世主なんて資格は俺にはない。この世界を救うなんて目的はないし、そんな力もない」
俺の目的はこの世界にいる筈の明日香を見つけだし、デュエルアカデミアがある元の世界に帰ること――この世界の実情への同情やリリィへの恩などはあるし、その目的の過程で闇魔界の軍勢とデュエルをすることはあるだろうが、救世主になどなる気はさらさらない。
「世界を救うなんて……しなくて良いんです。でも、その力を……私たちに貸して頂けませんか?」
「私……『たち』?」
リリィの返答は何やら引っかかる言い方であった。彼女もまた、あの避難所にいるだけの精霊だと思っていたが、その口ぶりでは……闇魔界の軍勢と戦う者たちの、仲間であるような。俺のその疑惑の視線に気づいたのか、リリィは顔を俯かせて、言いにくそうにしながらも答えてくれた。
「異世界、から来た、戦士族の皆さんが……戦っています。話す機会を逃してしまい……申し訳、ありません」
どうやら、闇魔界の軍勢と戦っていて、組織として行動出来ている者もいるらしい。……考えてみれば、当たり前のことではあるが。一刻も早く、あの避難所から出て行かなくてはならなかったからか、リリィはそのような組織があることを言うタイミングを逃してしまったようだが、それについては『気にしなくて良い』と言っておく。
「なら、この竜が向かってるのは……」
異世界から来た戦士族……俺たちの世界でも、フリード軍やゴブリン部隊のように、ストーリーが設定されているモンスター達も存在する。あのような戦士たちの集団なのだろうか……?
「はい……その皆さんのところ、です。そこに行けば……そのデッキ、も改良出来る、と思います」
リリィから半ば無理やり貸してもらった、俺が今装着しているデュエルディスクとデッキを指差しながら、彼女はそう言った。……戦士長に負けたのはデッキパワーのせい、などと言うつもりは毛頭ないが、確かにその申し出はありがたかった。リリィ本人も寄せ集めと言った通り、【グリードバーン】を主格にした魔法使い族にしては、かなり中途半端な構成と言わざるを得ないデッキだからだ。
リリィの腕に申し訳程度に装着されたままの、俺がアカデミアで使っていたデュエルディスクと、今まで考えていたこのリリィのデッキのことを思うと……やはり、俺の頭の中には【機械戦士】のことが思い浮かんだ。十代とのデュエルに敗れてユベルの攻撃を受けた折に、デュエルディスクからバラまかれてしまった。ずっと共にデュエルしてきた彼らがいない――それは俺のデュエルの実力だけでなく、精神的にも多大な影響を与えていた。
「きちんと……掴まっていて、下さい!」
そんなことを考えていると、突如としてリリィの叫び声が響く。その大きい声ではないが透き通った良い声に反応し、漆黒の闘竜にしっかり掴まると、リリィはそれを確認した後に竜を大きく迂回させ、上空から来た火炎弾を避けた。
《火竜の火炎弾》――という魔法カードが頭の中に浮かび、火炎弾が来た上空を見てみると、俺たちが乗っている《漆黒の闘竜》と同じようなドラゴンが飛翔してこちらを睥睨していた。続けて二発目の火炎弾が発射されるが、リリィの操る漆黒の闘竜は器用にその火炎弾を回避してみせる。
「捲けるか!?」
俺はリリィにそう言いながらも、これから俺たちがどう行動すれば良いのか悟っていた。上空にいるために良く見えないが、俺たちを襲っているのは《騎竜》――この《漆黒の闘竜》の上位種である。逃げることが出来ないならば、あの騎竜を打倒するしかないが、《火竜の火炎弾》のような魔法カードは俺もリリィも持ち合わせていない。ならば、ここから逃げることが出来る方法は一つ。
「捲く……ことは難しい、です。でも、なんとか……」
「いや。俺に、デュエルをさせてくれ」
そう、こうなればあの《騎竜》から逃れる術は、俺があの竜に乗っているであろう操舵手に、デュエルで勝利するしかない。リリィもそれを分かっているだろうが、彼女は火炎弾を避けるだけしか行動を取ろうとしない。
「やっぱり、そんなデッキでデュエル、なんて……無謀です。私のせいで、あなたを殺したく、なんて……」
「救世主に誘ってる時点で、そんなことは今更だ」
他人に死んで欲しくなどあるはずもなく、自らの身を省みずに助け出すために行動する。だが自分には力はないため、その行動とは裏腹に、誰かを救世主として戦わせなくてはならない。そのジレンマがリリィを苦しめている……それぐらいは見てとれた。彼女は戦士を送り出すにしては、優しすぎる性格だと分かった気がする。
「大丈夫。あんたが救世主にしようとしてる奴を、信じてくれ」
デュエルディスクを展開させ、上空の《騎竜》を見上げながらリリィに力強く言い放つ。こんなところで戦士長でもない相手に負けるようならば、どだい救世主など務まらない、とばかりに。
「分かり……ました。その、頑張って下さい……!」
火炎弾を撃ってきた瞬間を見計らい、遂にリリィ操る《漆黒の闘竜》が、火炎弾を避けながら上空へと向かって飛翔する。《漆黒の闘竜》も待っていたとばかりに飛び上がり、即座に《騎竜》の上を取った。
あちらの乗っている竜の方が上位種にもかかわらず、あっさり上空が取れたことを訝しんでいたが、その理由はすぐに分かった。《騎竜》を駆り俺たちを狙っていた、《闇魔界の竜騎士 ダークソード》もデュエルディスクの展開を終わらせていた。最初から敵は、こちらとのデュエルを望んでいたのだ。
俺も《漆黒の闘竜》に掴まりながらデュエルの準備を完了すると、あちらの竜騎士もニヤリと笑ってデュエルの準備を完了させた。
『デュエル!』
遊矢LP4000
竜騎士LP4000
こちらから先制攻撃をしたようなシチュエーションだったが、俺のデュエルディスクに表示されたのは後攻。自ら攻めに行くタイプのデッキでもなし、ここは相手のデッキの様子見をさせてもらおう。
「私の先攻。モンスターをセットし、カードを三枚伏せてターンを終了する」
気取った口調でカードをドローした竜騎士だったが、その布陣は守備一辺倒。合計四枚のカードをセットしてターンを終了し、そのターンを後攻である俺に譲る。
「俺のターン、ドロー!」
さっきも言ったが、このデッキは自分から攻めにいけるデッキではない……だが、相手のデッキタイプが分からない以上、このままこちらも守備に回るのは危険。俺は《ゴーストリック》シリーズの一体を、手札からデュエルディスクにセットする。
「俺はモンスターをセットし、《太陽の書》を発動! 《ゴーストリックの魔女》を反転召喚!」
黒を基調とした、杖を持った金色の髪をした魔法使いの少女がフィールドに降り立った。モンスターを裏側守備表示にする効果はあるが、その効果は今は意味を成さない。まずは様子見として、セットモンスターに攻撃をしてもらう。
「バトル! ゴーストリックの魔女で、セットモンスターに攻撃!」
竜騎士のフィールドに伏せられた三枚のリバースカード、そのいずれかによってゴーストリックの魔女の攻撃は防がれる……と思っていたのだが、その予想に反してゴーストリックの魔女の魔法はセットモンスターに直撃する。その魔法は、セットモンスターであった宝箱の姿をしたモンスターの姿を一瞬だけさらけ出し、そのまま墓地へと送っていった。
「破壊されたのは《暗黒のミミックLV1》。よって私は、カードを一枚ドローする」
こちらの世界では珍しい部類に入る、レベルアップモンスターの一種である《暗黒のミミック》シリーズ。万丈目の《アームド・ドラゴン》のように、レベルアップするごとに強力な効果や攻撃力を持ち合わせていく、という訳ではなく、最高でもそのシリーズのレベルは3。だが、そのドロー効果は見ようによっては、《アームド・ドラゴン》シリーズより厄介なもの。
「……カードを二枚セットして、ターンエンド!」
「私のターン、ドロー!」
さらに、《暗黒のミミック》シリーズは単体で活躍できるほどの性能はなく、他のカテゴリーのサポートのために活用される。つまり、ゴーストリックの魔女で攻撃した目的の一つ、竜騎士のデッキを見極めるには至らない。
「私はスタンバイフェイズ、《エンジェル・リフト》を発動し、墓地から《暗黒のミミックLV1》を特殊召喚する!」
低レベルモンスター蘇生カードにより、先程《ゴーストリックの魔女》に破壊された《暗黒のミミックLV1》が即座に復活するとともに、さらに竜騎士は手札から魔法カードを発動する。未だに彼のスタンバイフェイズは続いており、ならばその魔法カードは速攻魔法。
「速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動!《暗黒のミミックLV1》を、デッキから更に二体特殊召喚させてもらおう!」
「……俺は《ゴーストリックの魔女》を更にもう一体、特殊召喚する」
竜騎士の手札から発動された魔法カードは、俺にも馴染み深い《地獄の暴走召喚》。その効果はもはや説明不要で、デッキから更に二体の《暗黒のミミックLV1》が特殊召喚される。デメリット効果により、こちらにももう一体の《ゴーストリックの魔女》が特殊召喚されたが、あちらはスタンバイフェイズに効果を発揮するレベルアップモンスター……!
「フッ……《暗黒のミミックLV1》の効果により、レベルアップ! デッキから現れろ、《暗黒のミミックLV3》!」
《暗黒のミミックLV1》がレベルアップすることにより、更にその宝箱に模した外見だけは荘厳な物になっていく。ステータスはLV1の際とあまり変わりなく、このレベルアップもLV3で打ち止めだ。
「これが私の勝利への第一歩……! バトルだ、《暗黒のミミックLV3》!」
「迎撃しろ、《ゴーストリックの魔女》!」
そう勇んで叫ぶものの、出来る事ならば迎撃して欲しくはない――《暗黒のミミックLV3》の攻撃力は、レベルアップをしたとしても僅かに1000。ゴーストリックの魔女には惜しくも及ばない。だが、《暗黒のミミックLV3》は戦闘破壊された際に効果が発動されるモンスターであり、《ゴーストリックの魔女》の低い攻撃力はむしろ好都合。
「バトルする瞬間、二枚のリバースカードを発動する!」
……そして、そんな俺の予測を竜騎士は更に上を行くべく、二枚のリバースカードを発動した。
「ダブルリバースカード《アルケミー・サイクル》&《スピリットバリア》!」
気取った竜騎士が格好付けながら、その伏せられていた二枚のリバースカードが俺へと姿を見せつける。戦闘ダメージを無効にする伏せカード《スピリットバリア》は、戦士長も使用していたこともあって予測出来ていた。だが問題は、同時に発動された《アルケミー・サイクル》……!
「《アルケミー・サイクル》は、自分のモンスターの攻撃力を0にする代わりに、破壊された時に一枚ドローする効果を付与する。さあ、戦いを続行せよ!」
ただでさえ攻撃力が1000と低い《暗黒のミミックLV3》だったが、竜騎士本人が使用した《アルケミー・サイクル》により、バトル中にもかかわらず、その攻撃力は0となってしまう。もちろん《ゴーストリックの魔女》にすら手も足も出ず、《暗黒のミミックLV3》は魔法によって破壊されてしまうが、その戦闘ダメージは《スピリットバリア》に防がれてしまう。
「《暗黒のミミックLV3》の効果……レベルアップしたこのモンスターが戦闘破壊された時、二枚ドロー! 更に《アルケミー・サイクル》が適応されているため、もう一枚ドロー!」
《暗黒のミミックLV3》の、レベルアップした際に戦闘破壊されると二枚ドローする、という効果に《アルケミー・サイクル》の一枚ドロー。この二枚を併せ竜騎士は、脅威の三枚ドロー……いや、残り二体の《暗黒のミミックLV3》も同じように特攻を果たしたため、そのドローした枚数は計九枚にもなる。
「フハハハハ! ハハハハハハハハ!」
このコンボに使用した《エンジェル・リフト》や《地獄の暴走召喚》の分も引いても、その程度は誤差になる九枚のドローによって竜騎士はご満悦のようで、ひとしきり高笑いした後に、二枚のカードを俺に見せつけるように発動する。
「メインフェイズ2……私はスケール8の《時読みの魔術師》に、スケール1の《星読みの魔術師》をセッティング!」
――やはり発動される二枚のペンデュラムモンスター。大量展開がメインのペンデュラム召喚において、手札の消費率は通常のデッキ以上である。戦士長は、特殊召喚した際にサーチ効果が発動する《ガジェット》と、《補給部隊》を併せることで、その手札消費を抑えていた。この竜騎士は、《暗黒のミミック》シリーズによって手札を補充することにより、ペンデュラムモンスターを手札に呼び込むとともに、ペンデュラム召喚をするモンスターをもドローした。
二体の魔術師が赤と青の光を発すると、空中に発生していく魔法陣から、三体の光がフィールドに降り立った。
「三体の《魔貨物車両 ボコイチ》をペンデュラム召喚!」
何が来るかと身構えていた俺の前に現れたモンスターたちは、下級かつ通常モンスターである《魔貨物車両 ボコイチ》。ステータスだけならば、それこそ先の《暗黒のミミック》にすら及ばない、とるに足らないモンスターである。
「私は未だ通常召喚をしていない。モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンエンド」
バトルフェイズは《暗黒のミミックLV3》の自爆特攻で終わっており、更にカードを二枚セットしたのみで、竜騎士は不気味にターンを終了する。
「俺のターン、ドロー!」
しかし、竜騎士がセットしたカードはおおよその検討はついていた。《魔貨物車両 ボコイチ》がフィールドに並んだ時、リバースすることにより大量のドローを果たすことが出来る、《魔装機関車 デコイチ》――このカードに間違いない。
「俺は《ゴーストリックの雪女》を召喚!」
《魔装機関車 デコイチ》の効果は、フィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》の数だけ、カードをドローすることが出来る効果。ならば、ペンデュラム召喚された《魔貨物車両 ボコイチ》の数を減らすべく、新たなゴーストリックの魔法使いがフィールドに召喚された。だが、《魔装機関車 デコイチ》――だと思われるモンスター――がセットされた際に、リバースカードがもう二枚伏せられた。これはもちろん、《魔貨物車両 ボコイチ》を守るためのカードだろう。わざわざ《魔貨物車両 ボコイチ》を、攻撃表示でペンデュラム召喚したのも、罠だというあからさまな証。……《スピリットバリア》があるので、攻撃表示でも特に問題はないと踏んだのかもしれないが。
「バトル! ゴーストリックの雪女で、魔貨物車両 ボコイチに攻撃!」
そう分かってはいても、俺の手札にはそう都合よく魔法・罠カードを破壊する効果を持つカードはない。だが、《魔貨物車両 ボコイチ》を放置しては、次の竜騎士のターンで四枚のドローを許してしまうため、攻撃をしない訳にはいかない。
どのような罠が来るか、警戒しながらゴーストリックの雪女の攻撃を見届けていると、ゴーストリックの雪女の攻撃がボコイチに届く前に時空の穴へと吸い込まれていく。
「伏せていた、《攻撃の無力化》を発動しよう……」
竜騎士が余裕しゃくしゃくと言った様子で《攻撃の無力化》を発動するが、防がれてしまうことは予想通り、特に驚くべきことでもない。むしろ、発動されたのが《攻撃の無力化》でありがたかったぐらいだ。そして、戦闘で破壊できないのであれば、他の手段で止めるだけだ。
「メイン2、俺は《闇の護封剣》を発動!」
俺が発動した魔法カードより現れた、黒色に鈍く輝く剣が竜騎士のフィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》を包み込み、三体のボコイチは一旦この天空のフィールドから消えていく。もちろん破壊した訳ではなく、ただセット状態にしただけだったが、セット状態にしておけば《魔装機関車 デコイチ》のリバース効果は十全に効果を発揮しない。
「更に三体のゴーストリックの魔法使いたちの効果を発動! 一ターンに一度、裏側守備表示に表示形式を変更出来る!」
一ターン目は、竜騎士のデッキの様子見も兼ねて発動しなかった――そして裏目に出て、《地獄の暴走召喚》と自爆特攻を食らった――《ゴーストリック》シリーズにおける共通の効果。自身の表示形式を、裏側守備表示にすることが出来る、という《サイクル・リバースモンスター》のようなモンスター効果である。本来ならば、この裏側守備表示という状態を活かして戦うカテゴリーなのだが、この魔法使いたちにはそこまでの力はない。
「カードを二枚伏せて、ターンを終了する!」
しかし裏側守備表示ならば、ボコイチたちをリリースして大型モンスターを召喚されようが、貫通効果を持ってさえいなければ、ダメージを受けることはない。……俺が心配しているのは、どちらかと言うと上級モンスターの召喚ではなかったが。
「ならば私のターン、ドロー!」
空を舞う飛竜に乗ったデュエル。リリィと竜騎士がデュエルがし易いように動かしているからか、あまりデュエルをしている当人には、飛竜の上だというのは気になってはいなかった。
俺のフィールドには《ゴーストリックの魔女》が二体に、《ゴーストリックの雪女》が一体、裏側守備表示で存在している。更に《闇の護封剣》で相手の《魔貨物車両 ボコイチ》のことを封じており、二枚のリバースカードが控えている。竜騎士が攻め込んで来ていないのもあって、ライフポイントは未だに4000。
対する竜騎士は四枚のセットモンスター――三枚は《闇の護封剣》に封じられた《魔貨物車両 ボコイチ》で、残り一枚は恐らく《魔装機関車 デコイチ》――と、ペンデュラムスケールを発生させている二体のペンデュラムモンスター、《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》。更に、戦闘ダメージを無効にする《スピリットバリア》とリバースカード一枚が控えている。これだけ展開しているにもかかわらず、その手札は未だに潤沢だった。もちろん《スピリットバリア》があるため、そのライフポイントは4000のままだ。
「では、まずは《サイクロン》を発動! 《闇の護封剣》を破壊する!」
竜騎士のカードから放たれた旋風が、三体の《魔貨物車両 ボコイチ》を封じ込めていた《闇の護封剣》をあっという間に破壊する。流石にこのカード一枚で耐えきることが出来る、などとは思っていなかったが、まさか一ターンで破られることになるとは思わなかった。
「総員反転召喚!」
竜騎士の号令によって、セットされていたモンスターが全て表側攻撃表示となる。その姿を現したモンスターは、もちろん三体の《魔貨物車両 ボコイチ》と、当たって欲しくはなかった《魔装機関車 デコイチ》――よって、そのデコイチのリバース効果が発動された。
「《魔装機関車 デコイチ》がリバースした時、一枚のドローに加えて、フィールドの《魔貨物車両 ボコイチ》の数だけドローする。よって、四枚のカードをドロー!」
先のターンで九枚のカードをドローしただけでは飽きたらず、更に四枚のカードをデッキからドローする。その結果残ったのは弱小モンスターのみだったが、それでも竜騎士はふてぶてしく笑っていた。
「これで終わりだ! 二枚の魔法カード、《サウザンドエナジー》・《リミッター解除》を発動!」
……発動された二枚の魔法カードによって、ようやく竜騎士のデッキの正体が判明する。《暗黒のミミック》や《魔装機関車 デコイチ》で大量にドローをしつつ、通常モンスターをペンデュラム召喚にて大量展開し、《サウザンドエナジー》と《リミッター解除》で強化をし、ワンターンキルを狙うデッキ――ドローばかりしているので、一時は《エクゾディア》かと思ったものだが。
「リリィ、結構揺れると思うが頼む!」
「そんな心配をしている場合か……バトル! 魔装機関車 デコイチでセットモンスターに攻撃!」
《魔装機関車 デコイチ》は効果モンスターのため、発動された魔法カードの内一枚の《サウザンドエナジー》の効果は受けないが、《リミッター解除》の効果は受けている。攻撃力を倍にしたその一撃は、セット状態の《ゴーストリックの雪女》を容易く蹴散らした。
《ゴーストリックの雪女》には戦闘で破壊された際、その破壊したモンスターを裏側守備表示に固定する効果があるが……その効果を発動することはない。発動してしまえば、《魔装機関車 デコイチ》は《リミッター解除》による自壊を無効にし、再びリバース効果を発動する機会に恵まれてしまう。
――それより、問題はこれからだ。
竜騎士が先程発動した魔法カード《サウザンドエナジー》は、エンドフェイズに自壊する代わりに、レベル2の通常モンスターの元々の攻撃力と守備力を、1000ポイント上げるという魔法カード。それだけならば、ボコイチの攻撃力が1500になるだけで、あまり恐れることはない。……しかし問題は、《サウザンドエナジー》とともに発動された、《リミッター解除》。
《サウザンドエナジー》は元々の攻撃力を1000ポイント上げるため、《リミッター解除》によって《魔貨物車両 ボコイチ》の攻撃力は、3000。《魔装機関車 デコイチ》の効果のトリガーに過ぎないモンスターが一瞬にして、攻撃力が3000のモンスターとして変わり果てたのである。
「更に魔貨物車両 ボコイチで、セットモンスターに攻撃!」
ただでさえステータスが低いカテゴリーかつ、守備表示の《ゴーストリックの魔女》に攻撃力3000の一撃など受けきれる筈もない。続くもう一体の攻撃により、俺のフィールドはいとも簡単に制圧されてしまう。
「これで最後だ! 《魔貨物車両 ボコイチ》でダイレクトアタック!」
俺のことを守ってくれていた、ゴーストリックの魔法使いたちはフィールドから消えており、もはや俺のフィールドにモンスターはいない。リリィが操る《漆黒の闘竜》の正面に、攻撃力を想定以上に上げられて巨大化した《魔貨物車両 ボコイチ》が立ちはだかり、その巨大な質量をもっての体当たりを敢行し――突如として現れた、ボコイチをも凌ぐカードの束に防がれた。
「なに!?」
「《ガード・ブロック》を発動させてもらった! 戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」
カードの束は自分たちより何倍も巨大になった、ボコイチの体当たりを《漆黒の闘竜》に当たらないように逸らし、その中の一枚が俺の手札へとドローされる。これでボコイチたちの攻撃が終わり、そのモンスターたちはこのターンでの自壊が決定する。
「ふ、ふん……ならばリバースカード、《ハイレート・ドロー》を発動! 私のフィールドの機械族モンスターを全て破壊し、その数だけドローする! よって四枚ドロー!」
しかし《リミッター解除》や《サウザンドエナジー》の効果で自壊する前に、竜騎士は更なるドローの為のコストとしてしまう。自分フィールド場の機械族モンスターを全て破壊し、その数だけドローする罠カード《ハイレート・ドロー》により、ボコイチたちは最後まで竜騎士のドローに活用されたのだった。
コンボを利用したワンターンキルデッキは、一度防がれてしまえば立て直すのが困難なデッキも多いものの、竜騎士の低レベル機械族を使ったこのデッキは、そのようなデッキとは一線を画す。何故ならば、そのコンボに必要な通常モンスターは《闇の量産工場》などのサポートカードにより、容易く手札に揃えることが可能で、ペンデュラム召喚によってフィールドを制圧する。後は《サウザンドエナジー》などの魔法カードだが、それは大量のドローによって手札に呼び込んでいる。
「モンスターをセットし、カードを二枚伏せてターンを終了する」
「俺のターン、ドロー!」
次のターンにはもう、新たな通常モンスターが並んでいることだろう。そのワンターンキルを止める為には……と、今の手札で出来ることを考える。
「俺は《センジュ・ゴッド》を召喚! デッキから儀式モンスターを手札に加え、《ドリアードの儀式》を発動する!」
魔法使い族デッキであるこのデッキの、唯一の天使族モンスターである《センジュ・ゴッド》が、その効果でデッキから儀式モンスターをサーチするとともに、その儀式モンスターの降臨の為に自身を生贄にする。ペンデュラムスケールによって発生する魔法陣とはまた違う、空に浮かんだ魔法陣にセンジュ・ゴッドが吸い込まれていき、代わりに四つの属性を司る魔法使いが降臨する。
「儀式召喚! 《精霊術師 ドリアード》!」
エレメントを司る儀式モンスター――今の俺の目的の象徴であるような、そのモンスターの雄志をしばし見つめた。そして、起死回生のリバースカードを発動する。
「リバースカード発動、《風林火山》!」
もはや説明不要とも言えるコンボ。発動する為に四つの属性をフィールドに揃える必要がある《風林火山》を、四つの属性を持つ《精霊術師 ドリアード》一体で発動条件を満たす。そのリバースカードの発動とともに、《精霊術師 ドリアード》の身体に四つのエレメントが浮かび上がっていく。火、水、風、土、それぞれのエネルギーを限界までチャージして、ドリアードの杖は竜騎士の方を向けた。
竜騎士のペンデュラム召喚と低レベルを使ったワンターンキル。いちいち先のターンのように防いでいては身が持たないので、それを未然に防ぐ必要がある。そのためには、大量のドローを防ぐか――もうこれは遅い――大量展開の要である、サポートカードである伏せカードとペンデュラムカードを破壊する……!
「《風林火山》第二の効果! お前の魔法・罠カードを全て破壊する!」
「……何だと!?」
《精霊術師 ドリアード》の魔法が竜騎士の魔法・罠カードに炸裂する。その第二の効果は、相手の魔法・罠カードを例外なく全て破壊する……もちろん、ペンデュラムカードだろうと。ドリアードの魔法に撃たれ、竜騎士の《スピリットバリア》と伏せられていた二枚のカード――《同姓同名軍団》に《スキル・サクセサー》――更に、ペンデュラムゾーンにある《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が破壊される。
「ぬぅぅぅ……」
ペンデュラムゾーンの二体の魔術師が破壊されたことにより、竜騎士の背後を追うように飛んでいた赤と青のペンデュラムスケールが消える。これでひとまずは、通常モンスターの大量展開が無くなれば良いが……
「バトル! 精霊術師 ドリアードでセットモンスターに攻撃!」
「破壊されたのは《魔装機関車 デコイチ》……よって、一枚ドローさせてもらう」
ドリアードの魔法がセットモンスターを破壊するものの、そのセットモンスターは先程もセットされていた《魔装機関車 デコイチ》。今はその効果を増大させる《魔貨物車両 ボコイチ》はいないため、ドローする枚数は一枚だけで済む。
「カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!」
「……私のターン、ドロー!」
今度フィールドが空になるのは竜騎士の番。二色のペンデュラムスケールは消え失せ、《スピリットバリア》やフィールドのモンスターも消えた。だが、その手札は未だに無尽蔵と言って良いほどに潤沢で、まだまだ俺に油断をさせることはなかった。
「私は《闇の量産工場》を発動しよう。墓地から、二枚の通常モンスターを手札に加える」
やはり入っていた、通常モンスターの優秀なサポートカード《闇の量産工場》。ノーコストで墓地から二枚の通常モンスターを手札に加える、という強力な効果ではあるが、ペンデュラムカードを失った今、大量展開をする方法はない筈だ。
――と考えていた俺の希望は容易く破られることとなった。
「クククッ……私はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》をセッティング!」
「二枚目か……!?」
改めて考えてみれば、あれだけドローしてペンデュラムカードが一枚ずつ来ない、という方が不思議である。一枚しかないと考えていた自分の甘さに歯噛みしながら、再び天空に構築される二色のペンデュラムスケールを睨みつけた。
「ペンデュラム召喚! 出でよ、我がモンスターたちよ!」
竜騎士の雄々しい叫び声とともに、五つの光が竜騎士のフィールドへと飛来する。その光は徐々にモンスターとしての姿を取り戻していき、いつしか光ではなく四体のモンスターとなっていた。先程発動した《闇の量産工場》によってサルベージしたと思われる、再びフィールドに現れる《魔貨物車両 ボコイチ》。さらに、《風林火山》によって破壊した筈の、二体の《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》だった。
「魔術師……?」
もちろんペンデュラムモンスターである二体の魔術師は、今までのデュエルから察するに、サポートカードを共有出来る低レベル通常モンスターではない。それをペンデュラム召喚して来たということは、このターンで決着をつけるつもりなのかと考えたが、竜騎士の手札を見ると、《魔貨物車両 ボコイチ》をペンデュラム召喚した分しか手札が減っていない――!?
「ペンデュラムモンスターが破壊された時、墓地ではなくエクストラデッキへと移動する。そして、再びペンデュラム召喚されるのを待つのだよ」
俺の怪訝な表情を察してか、竜騎士が得意げな表情でこの状況とペンデュラムモンスターの種を説明してくれる。気取った口調のせいで分かりにくいが、要するにペンデュラムモンスターは破壊されると、墓地ではなくエクストラデッキへと送られる。さらにペンデュラム召喚をすることによって、エクストラデッキから特殊召喚が出来るということ。
つまりいくら破壊しようが、ペンデュラム召喚をすることが出来れば、ペンデュラムモンスターは不死身も同然……!
「魔法カード《サウザンドエナジー》を発動し、バトル!」
魔法カード《サウザンドエナジー》により、ボコイチの元々の攻撃力は再び1000ポイントアップする。墓地の《リミッター解除》を回収する手札はないようで、攻撃力は1500のままだったが、それでもこちらのライフを0に出来る数を揃えている。
「時読みの魔術師で《精霊術師 ドリアード》に攻撃する! ホロスコープカッター!」
攻撃をしてきた《星読みの魔術師》と、迎え撃つこちらの《精霊術師 ドリアード》の攻撃力は同じく1200。だが竜騎士の墓地には、先程《風林火山》で破壊された《スキル・サクセサー》がある。俺はドリアードを守るべく、落ち着いて伏せてあったリバースカードを発動――出来なかった。何故ならば伏せてある二枚のリバースカードが、魔法陣のようなものに捕らえられていたからだ。
「二体の魔術師のペンデュラム効果! ペンデュラムモンスターが攻撃する時、相手はそれぞれ魔法・罠カードを発動出来ない!」
ペンデュラムスケールに置かれている方の《時読みの魔術師》と《星読みの魔術師》が、呪文を唱えてこちらのリバースカードを封印する。ペンデュラムスケールに置かれている時にも発動する効果、という予想だにしない効果が明かされて、俺の発動しようとしていた伏せカードは封じられてしまう。
「だが私は、墓地から《スキル・サクセサー》を発動出来る! 星読みの魔術師の攻撃力を800アップ!」
もちろん竜騎士が罠カードを使えないわけがなく、墓地から《スキル・サクセサー》が発動し、その攻撃力を800ポイントアップさせる。星読みの魔術師から先端の円盤状の物が発射され、精霊術師 ドリアードの魔法をも切り裂いて破壊すると、俺たちが乗る《漆黒の闘竜》にも炸裂する。
「……くっ!」
遊矢LP4000→3200
初めてのダメージに《漆黒の闘竜》がぐらりと揺れるが、すぐに持ち直して安定した飛行を取る。だが、まだ竜騎士のフィールドに更なるモンスターが追撃してくる。
「墜ちたりしたら興ざめだからな、手加減してやろう! 時読みの魔術師でダイレクトアタック!」
「リリィ、気を付けてくれ!」
俺の声を聞いてリリィは《漆黒の闘竜》に回避行動を取らせるものの、時読みの魔術師が放った魔法弾は正確に《漆黒の闘竜》の胴体を直撃する。翼を狙わなかったのが、その竜騎士が言う手加減とやらなのか。
遊矢LP3200→2000
「さらにダイレクトアタック……と言いたいところだが。罠があると分かっていて、踏み込む者はおるまい」
どうやら俺が《星読みの魔術師》が攻撃して来た時に、リバースカードを発動しようとしていたのを目ざとく見ていたようで、竜騎士は《魔貨物車両 ボコイチ》の攻撃を中止する。
「私はメイン2に――」
「悪いがまだ、そういう訳にはいかない。速攻魔法《皆既日蝕の書》を発動!」
《星読みの魔術師》の攻撃時に発動しようとしていたのは、フリーチェーンの魔法カード。攻撃宣言時にこだわったばかりに、二体の魔術師の攻撃を受けてしまったが、バトルフェイズ終了時に発動することに成功する。フィールドに石版が浮かび上がると、竜騎士のモンスターたちは《闇の護封剣》の時のように、強制的に裏側守備表示となってしまう。
「ぬっ……ターンを終了する」
また《魔貨物車両 ボコイチ》をコストにドローでもするつもりだったのか、裏側守備表示となった自分のモンスターたちを見て、竜騎士は憎々しげに唸りながら、カードを一枚伏せながらターンを終了しようとする。しかしもはや、竜騎士の意志だけではエンドフェイズを終えることは出来なかった。
「まだだ! 永続罠《グリード》を発動!」
伏せた三枚のリバースカードのうち、二枚目の永続罠が発動される。相手がドローする数×500ポイントのダメージを与える、このデッキのダメージ源のメインとなる罠カード。《暗黒のミミック》の時や《ハイレート・ドロー》の時に発動したかったものの、少し遅れての登場となる。
「そして《皆既日蝕の書》の効果を発動! 相手の裏側守備表示のモンスターを表側守備表示にし、その数だけ相手はカードをドローする!」
「なんだ……まだドローさせてくれるのか?」
竜騎士はニタリと笑いながら、裏側守備となっていたモンスターの数――つまり四枚のカードをドローする。……喜ぶ竜騎士には気の毒だが、その四枚のドローは永続罠《グリード》の効果のトリガーとなった。
「さらにお前のエンドフェイズ終了時、永続罠《グリード》の効果を発動! お前がカードの効果でドローした枚数×500ポイントのダメージを受けてもらう!」
竜騎士がこのターンに効果でドローをしたカードは四枚。よって、《グリード》によって2000ポイントのダメージが竜騎士とそれに乗る《騎竜》へと襲いかかった。《永続罠《グリード》のカードから雷が発射され、竜騎士のように手加減など考えずに《騎竜》へと炸裂する。
「ぬおおおおお!」
竜騎士LP4000→2000
急激なライフの減少に竜騎士は一時《騎竜》の操縦を失うものの、流石というべきかすぐに持ち直してしまい、《騎竜》も怒ったのか遠くまで聞こえるような雄叫びを響かせた。
「おのれぇ……許さんぞ!」
「こっちも必死なんでな……俺のターン、ドロー!」
竜騎士が怒りの形相で叫ぶとともに、その手札を六枚になるまで捨て、そのフィールドにいた《魔貨物車両 ボコイチ》が自壊していく。たとえ裏側守備表示になっていようと、《サウザンドエナジー》の効果で自壊することは避けられないのだ。
これで俺のフィールドには永続罠の《グリード》のみで、ライフポイントはちょうど2000。対する竜騎士のフィールドは、モンスターカードゾーンにいる二体の魔術師と、ペンデュラムカードゾーンにいる二体の魔術師に、リバースカードが一枚。ライフポイントはやはりちょうど2000。
「俺は《連弾の魔術師》を召喚!」
竜騎士のデッキの弱点として、強力なカードを防御に回すことが出来ない、というものがある。《サウザンドエナジー》はそのターンのみしか持続しない上に、そもそも通常モンスターはそのターンで自壊してしまう。それは大量のドローによって引いたカードで補うのだろうが、竜騎士のフィールドのリバースカードは一枚だけ。
「さらに《連弾の魔術師》に装備魔法《インパクト・フリップ》を発動!」
発動したのは通常魔法カードではないので、《連弾の魔術師》の効果は発動しない。それより、装備魔法カード――それを発動しただけで、少しだけ懐かしくなってしまうのは、おかしなことだろうか。いや、装備魔法カードならば、どんなものでも扱いこなしてみせる……と心の中で決心すると、その装備魔法《インパクト・フリップ》を装備した《連弾の魔術師》に攻撃を命じる。
「《連弾の魔術師》で、《時読みの魔術師》を攻撃!」
《連弾の魔術師》の宙に浮かべておいた火球の一つが《時読みの魔術師》に直撃し、破壊に成功するものの、《時読みの魔術師》は墓地ではなく再びエクストラデッキへと舞い戻っていく。次のターンにペンデュラム召喚を行うならば、またフィールドに現れることだろう。それより、《連弾の魔術師》に装備した《インパクト・フリップ》の効果が発動する。
「《インパクト・フリップ》の効果発動! 相手モンスターを破壊した時、相手のデッキトップを墓地に送ることが出来る!」
《インパクト・フリップ》は相手モンスターの表示形式を、表側守備表示にすることが出来る効果を第一の効果として、第二に今発動した効果を持っている。相手モンスターの戦闘破壊をトリガーに、相手のデッキトップを墓地に送る効果――そんなもの普通ならば、相手のデッキの墓地肥やしを手伝ってしまうだけの効果。だが、今この状況においては飛びきり有用な効果に違いなかった。
何故なら、竜騎士のデッキは《暗黒のミミック》を始めとする大量のドローで、もうデッキ枚数の限界が来ていた筈だ。それを《皆既日蝕の書》を発動したことにより、さらに四枚のドローを強いられてしまい、あと竜騎士のデッキはいかほどあるのだろうか。先のターンの《皆既日蝕の書》は《グリード》だけでなく、竜騎士のデッキ破壊も兼ねていたのだった。
「ええい……」
竜騎士もこちらの狙いが分かったのだろう、苦々しい表情をしながらデッキトップを墓地に送っていった。
そして、肝心の残りデッキ枚数は――一枚。竜騎士の次のターンのドローで、彼のデッキは尽きることとなる。
「……ターンエンドだ!」
最後の一撃を仕掛けてくるとあっては、こちらも相応の防御を固めていきたいところだったが、俺にはもう生憎と手札はなかった。
「私のターン! ドロー!」
このデュエルにおける最後のドローにより、竜騎士のデッキは尽きることとなる。だが、まだその時点で敗北することはなく、次にカードをドローすることがあれば、竜騎士の敗北は決定する。
もちろん最後の攻撃を仕掛けるべく、背後の二色のペンデュラムスケールが輝くと、空中に魔法陣が浮かび上がっていく。そう、ペンデュラム召喚の合図である。
「ペンデュラム召喚っ――来い、我がモンスターたちよ!」
いくばくか先程までの気取った余裕が無くなりながらも、竜騎士は力強くペンデュラム召喚を唱えると、四体のモンスターが舞い降りた。その内の三体のモンスターが同じモンスターで、機械族の通常モンスター《バット》であり、もう一体はやはり、エクストラデッキからの《時読みの魔術師》だった。
「さらに《トライアングルパワー》を発動し、バットたちの攻撃力をアップ!」
《魔貨物車両 ボコイチ》に対して発動していた、《サウザンドエナジー》の対象をレベル1にした代わりに、上昇値が2000となった魔法カード《トライアングルパワー》。その魔法効果によって、ペンデュラム召喚された《バット》たち三体の攻撃力は、2300ポイント――《連弾の魔術師》を大きく超えることとなった。
「この五連撃、貴様には打つ手はない筈だ! バットで連弾の魔術師に攻撃!」
俺に向かって言っているというよりは、自分に言い聞かせているようにも聞こえる台詞を吐きながら、竜騎士は俺に最後の攻撃を開始する。《バット》の一体目が《漆黒の闘竜》に肉迫して飛行すると、ミサイルが《連弾の魔術師》に向けて放たれた。《連弾の魔術師》はそのミサイルを防ぐことは出来ず、そのまま爆散してしまう。
「…………」
遊矢LP2000→1300
なんの抵抗もなく《連弾の魔術師》が破壊されたことを、もう俺には打つ手はないと考えたのか、竜騎士の顔が喜びの表情で歪む。……自分に訪れている変化にも気づかずに。
「トドメだ! バットでダイレクトアタ――ッ!?」
確かにもう俺には打つ手はない。もう何か手を打つ必要がないからだ。竜騎士の攻撃宣言とともに、竜騎士のフィールドにいた三体の《バット》や合計四体の魔術師たちが消えていき、そこで竜騎士も自分の身体の変化に気づいた。
――自分の身体が足から消えている、ということを。
「何故だ! 何故だぁ! ……何故私が、敗北しているんだ……?」
この世界で身体が消滅していくということは、それは即ちデュエルに敗北したということ。竜騎士は何故自分が敗北したかも分からず、身体が消えていきながらも何故、と疑問の声を呈し続けていく。
「……装備魔法《インパクト・フリップ》の効果。このカードが墓地に送られた時、お互いにカードを一枚ドローする」
《連弾の魔術師》に装備された《インパクト・フリップ》の第三の効果。このカードが墓地に送られた時に、お互いにカードをドローするという、二つ目の相手のデッキトップを墓地に送る効果では無いにしろ、あまり扱い易い効果とは言えない効果だ。だが、強制効果でドロー出来ないプレイヤーは、その時点で、デュエルから敗北することになる。
……竜騎士は引けなかったのだ。《インパクト・フリップ》の第三の効果による、ドローを。
「何故……何故だぁぁぁあ!」
《インパクト・フリップ》の効果の説明をしても、受け入れることが出来なかった竜騎士が叫びながら、自身が駆る《騎竜》を俺たちの《漆黒の闘竜》に向けて飛翔させた。……自分が消える前に、体当たりで一緒に死ぬつもりか……!?
「避けてくれ、リリィ!」
彼女も事の重大さは分かっていたようで、急いで俺たちの《漆黒の闘竜》は《騎竜》から離れていく。俺がデュエルをしていた今までとは違い、きちんと態勢を整えていなくては、吹き飛ばされてしまうほどのスピードで。だが、元々《騎竜》は俺たちの《漆黒の闘竜》よりもスピードが上であり、竜騎士も文字通り死ぬ気で操縦しているためか、どんどんと差が詰まっていく。
……だが、あわや「駄目か」と思って瞬間、俺たちに迫って来ていた《騎竜》が、どこかからか現れた無数の剣に串刺しにされると、その行動を停止して地上に墜ちていった。
「何故、だぁぁ……」
――最期までそう呟いていた竜騎士の声が耳に届いたが、突如として起こったその出来事と、飛翔する《漆黒の闘竜》に掴まっていたせいで、俺は全く事情を掴むことが出来なかった。
「あっち……です」
どうやら、先にリリィが事情に気づいていたようで――いや、事情を知っていたのか――滞空する《漆黒の闘竜》から片腕を離すと、地上のある一点を指差した。先の《騎竜》との飛行戦により、地上へと向かっていたこともあり、現在位置は地上に近い。そのおかげで俺にも、リリィが指差した地上に、戦士の一団が待機していることが分かった。
――そのメンバーこそが、この世界で覇王と戦っている勇ましき戦士達の集団……《ヒロイック》と呼ばれる戦士達との出会いだった。
後書き
遊矢以外のデュエルが書きたい……明日香、こんな時に君がいてくれたら……(白き盾感)
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