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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―振り子の担い手―

「お前のせいだ!」

 洞穴のようなモンスターたちの隠れ家に、そんな叫び声が木霊した。その叫び声の主は、ここのリーダー格である《本の精霊 ホーク・ビショップ》であり、彼に糾弾されている者は……この俺、黒崎遊矢だった。闇魔界の戦士 ダークソードこと、オルネッラと名乗った敵を倒した直後、彼は突如としてそんな言葉を俺に叫んだのだ。

「お前がここに来たせいで、闇魔界の連中が来たんだよ!」

 激昂したホーク・ビショップの叫びに呼応して、他の精霊たちも口々に俺の事を非難する言葉を吐いていく……隣に立った、リリィを除いて。

「お前が目覚めたら闇魔界の連中が来たんだ……言い逃れは出来ないぞ!」

「ちょ……ちょっと待ってくれ! 俺はあいつ等とは何の関係もない!」

 そう非難の声が叫ばれていた俺は、突然の出来事に困惑してしまい、今の事態を理解するまで言い逃れが遅れてしまう。俺は無実だと証明するべく、両手を挙げて関係がないことを叫ぶが……その動きすらも、彼らには警戒されてしまう。

 俺と、俺が付けているリリィから借りたデュエルディスクを見る精霊たちははっきりと脅える表情を見せている。俺が何をしようと彼らには届かず、彼らにとって俺は、『平穏を打ち破った危険人物』としか移らない……

「待って……ください。彼は、私たちを、守って……くれました」

「うるさい! そいつを連れてきたお前もグルだろう!」

 見かねてリリィが仲裁に入るものの、さらにそのリリィすらも槍玉に上げられてしまう。もはや彼らとは、まともに話は通じない……それほどまでに熱狂している。

 そして俺は理解する。彼らは誰かを悪役にしないと、止まることは出来ないのだと。いくら俺がオルネッラから――結果的には――みんなを守ったとしても、その俺を悪役に、敵にしないといけないほど、彼らの精神は磨り減っているのだと……

「出ていけ、疫病神!」

「違い……ます。彼は……」

 さらにヒートアップしようとしている精霊たちに、リリィは諦めずに説得を続けるものの、俺はその言葉を遮って彼女の前に出た。これ以上行ってしまえば、彼女もまた俺と同じように、悪役になってしまうだろうから。

「分かった、俺はこっから出て行く。だが、そいつは関係ない」

 わざと普段よりぶっきらぼうに、リリィの方を見ずに精霊たちに言い放つ。彼女は助けてくれた恩人ではあるのだから、こんなことに巻き込んではいけない。

 ホーク・ビショップはまだ何か言おうとはしたものの、俺の腕のデュエルディスクを見て言葉を飲み込むと、黙って他の精霊たちに梯子を用意させていた。オルネッラが派手に開けた頭上の穴から出て行け、ということだろう。

「遊矢、様……」

 精霊たちが天井に梯子を掛けている間に、背後にいるリリィがおずおずと話しかけてくる。……そんな風に様付けされるのも、どこか懐かしい遠い出来事のようだ。レイは、みんなは元の世界に戻ることが出来ただろうか、と考えつつ、リリィの方を向き直った。

「助けてくれてありがとう。……悪いが、このデュエルディスクとデッキ、借りるぜ」

 ――返せるかどうかは分からないけれど――という最後の言葉は言わずに。彼女は無表情ながらも、罪悪感を持った視線で俺を見つめて来る。

「あなたは……」

「おい、準備が出来たぞ」

 何かを言おうとしたリリィの言葉に重なって、ホーク・ビショップの威圧的な言葉が重なった。オルネッラとデュエルする以前には、この隠れ家から出て行ってはいけない、と俺を制止していたが、今は一刻も早く出て行って欲しいらしい。もちろん、そんな考えを言葉にはせず、リリィにはあえて何も言わずに梯子を登っていく。

 精霊たちが用意していたが、何らこちらの世界の梯子と変わらない、と思いつつ、天井まで登りきって外に出ようとすると――

「待っ……て!」

 ――下から聞こえて来た、そんなリリィの言葉に後ろ髪が引かれたものの……俺は隠れ家から外に出て行った。俺が外に出て行くと同時に、あったはずの天井の穴は綺麗さっぱり無くなっている。精霊たちの力で直したのか、あるように見せかけた幻なのかもしれないが……試す意味もなく、ここに帰る意味もない。

「…………」

 今はもう、出て行った場所よりこれからのことを考えなくては。

 まずは、せっかくの高所にいるのだから、この世界のことを俯瞰する。やはり一際目立つのが、そびえ立っている中央に巨大な城……恐らく、あそこが闇魔界の本拠地だろう。そして、今俺が立っている場所も含め、周囲には岩場ばかりで、とても入り組んだ場所になっている。この岩場や、かつて住んでいた廃虚に、闇魔界の軍勢ではない……狩られる者たちは隠れ住んでいるのだろう。

 そして同じく、異世界に飛ばされたはずの明日香のこと。この世界の支配者である闇魔界の軍勢は、理由はともかくデュエリスト狩りをしているという……ならば大なり小なり、明日香のことを彼らが知っている可能性は高い。……腕の立つ人間のデュエリストとしてか、倒れていた人間のデュエリストとしてかは、ともかくてして。

 と、なると。まずは、自分なりの隠れ家を見つけなくては――

「ほう。デュエリスト、か……」

 突如として発せられた声に驚きつつも、声のした方向にデュエルディスクを向けながら、身体をそちらに対して警戒させる。油断していた、こうも早く闇魔界の軍勢に見つかってしまうとは。

「オルネッラがパトロールに行って帰って来ないと思えば……ふむ」

 新しく現れた闇魔界の戦士は、冷静にこちらを値踏みするように観察してくる。……いや、目の前にいる敵は《闇魔界の戦士》ではない。戦士よりも豪華な鎧、戦士よりも強者たる佇まい、戦士よりも目立つ気配――あらゆることで戦士より格上の存在。

 俺たちの世界のモンスター名で言うならば、《闇魔界の戦士長 ダークソード》。戦士たちを束ねる長にして、ダークソード系列における最新・最強のモンスターである。

 オーラからして、ただの戦士であったオルネッラとは違う戦士長を前に、俺は……その岩場から入り組んだ路地に飛び降りた。早い話が逃げたのだ。

「なるほど、良い手だな」

 いきなり敵前逃亡をした俺を見逃してくれる、ということはなく、戦士長は悠然と岩場を飛び移って俺のことを追い詰める。俺も狭いところから狭いところへ、出来るだけ見失うように逃げているものの、これは振り切れそうにない……!

「ふん!」

 それでも全力疾走で逃げていた俺に易々と追いつき、戦士長も岩場から路地裏の俺の前へと飛び降りてくる。敵の方が勝手知ったる場所で、かつ敵の方が足が速いのだ、この結果は当然だろう。……だが、先程の隠れ家から離れることは出来た。

「まずは君を、デュエルで拘束させてもらう」

 どことなく礼儀さすら感じさせる、老紳士のような口調で戦士長はデュエルディスクを展開する。口調は老人のようではあるが、こちらも油断はせずに息を整えつつデュエルディスクを展開する。

 ……ここまで戦士長を誘き出すのが、俺に出来るリリィへの、最大の恩返し。もちろん、あそこでデュエルをしていれば目立ちすぎる、という理由もあるが……今は関係がないことだ。今関係があることは一つ、戦士長とのデュエルに関することのみ……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
戦士長LP4000

「俺の先攻!」

 リリィからの借り物のデュエルディスクが、俺に先攻だということを表示する。先攻にドローすることは出来ないが。

「俺はモンスターをセット、さらにカードを二枚伏せてターンエンド!」

 同じくリリィから借りたこのデッキとしては、安定した初手の布陣。自分から攻撃しないデッキはあまり得意ではないが、守りに入るデッキとしては、なかなかの手札だった。

「私のターン、ドロー……」

 リリィのデッキのことよりも重要なのは戦士長のデッキ。……さらに言うならば、オルネッラのデッキに投入されていた、『ペンデュラム召喚』のことである。

 二枚のカードから手札のモンスターを一度に特殊召喚する、こちらの世界にはなかった未知の召喚方法。オルネッラはあまり使いこなせてはいなかったが、その召喚方法が脅威なことには違いない。出来ることならば、戦士長に使われる前に決着をつけたいところだが……

「私はまず、そうだな。コレを使わせてもらおう」

 ――そう言って、戦士長が二枚俺に見せたカードは、モンスターカードと魔法カードが合わさったようなカード――オルネッラ戦の時にも見た、ペンデュラムモンスター!

「私はスケール1の《星読みの魔術師》と、スケール8の《時読みの魔術師》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

「いきなり……だと!」

 驚愕する俺の前でオルネッラ戦と同じように、二体の魔術師が入った赤いスケールと青いスケールが天井へと伸びていき、光の軌跡を描きながら振り子が揺れる。

 そして、振り子によって描かれたアークによって出現した魔法陣から、光となって三体のモンスターが相手フィールドに並び立つ……!

「現れろ、ガジェット族!」

 ……光とともに現れた三体のモンスターは、『ガジェット』と呼ばれるシリーズカード。レッド、イエロー、グリーンの三色の人型機械族だった。オルネッラのように上級モンスターは現れなかったものの、三種のガジェットはそのガジェットをガジェットたらしめる効果が起動する。

「ガジェット族が召喚・特殊召喚に成功した時、特定のガジェット族を手札にサーチする。よって、三種のガジェット族を手札に加えさせてもらうよ。さて……バトルだ!」

 フィールドに現れた際に後続をサーチする、という単純かつ強力な効果により、ペンデュラム召喚で無くなっていた戦士長の手札に、三枚ものカードが加わっていく。つまり、俺が次のターンにガジェットを破壊しようと、ペンデュラム召喚で更なるガジェット族が現れるだけだ。

 しかし、手札にサーチしたガジェット族を、戦士長は召喚せずにバトルを開始した。ペンデュラム召喚を行っただけで、まだ通常召喚を残しているはずなのに。手札にガジェット族を貯めるのが目的か、それとも他に何か目的が……

「レッド・ガジェットでセットモンスターを攻撃!」

 いや、次のターンや戦士長の目的を考える余裕などないほど、俺はガジェット族の物量に圧倒されていた。まずは、赤いガジェット族が俺のセットモンスターを攻撃する――その正体は《ゴーストリックの人形》、その守備力は1200。僅かに100の差ではあったものの、ゴーストリックの人形は容易く破壊されてしまう。

「おっと、これはレッド・ガジェットで攻撃して正解だったようだ。続いて、イエロー・ガジェットでダイレクトアタック!」

「ぐっ……!」

遊矢LP4000→2800

 戦士長の言う通り、イエロー・ガジェットから攻撃してくれれば、ゴーストリックの人形の守備力でも耐えることが出来たのだが。そうそう上手いことは行かず、イエロー・ガジェットのダイレクトアタックが俺に炸裂した。

「最後に、グリーン・ガジェットでダイレクトアタック!」

「……そいつは通さない! リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚カードをドローする!」

 伏せられた二枚のうち一枚のリバースカード、《ガード・ブロック》が発動し、無数のカードの束がグリーン・ガジェットの攻撃を止め、その中の一枚が俺の手札へと加わる。何とか三体の攻撃は防げたらしい。

「流石、防いだか。私は永続魔法《補給部隊》を発動してターンを終了しよう」

「俺のターン、ドロー!」

 オルネッラのフィールドは一ターンにして、その状況を一変させていた。三種のガジェット族に、天に浮かんでいる二体のペンデュラムモンスター、そして発動しただけで沈黙を続ける永続魔法《補給部隊》。

 このデッキに、戦士長のデッキほどの展開力もデッキパワーはないが……その紳士ぶった足元を掬うべく、こちらも負けじとモンスターを召喚する。

「俺は《連弾の魔術師》を召喚!」

 四種類の火球を携えた、マントを被った魔法使いを召喚する。そのバーン効果は、俺の手札に通常魔法がないために発動することが出来ないが……単純な攻撃力ならば、こちらの方が上回っている。その優秀なサーチ効果とは引き換えに、ガジェット族のステータスは低いのだから。

「バトル! 連弾の魔術師でイエロー・ガジェットを攻撃!」

 更に言うならば、戦士長のフィールドにはリバースカードもない。ガジェット族の中で攻撃力が最も低いイエロー・ガジェットに狙いを定め、連弾の魔術師はその手のひらから火球を発射すると、イエロー・ガジェットを貫いた。

戦士長LP4000→3600

 僅か400のダメージ、戦士長は大して気にもしない。だが、イエロー・ガジェットが破壊されて墓地に送られた際、沈黙を続けていた永続魔法《補給部隊》が反応した。

「さて、永続魔法《補給部隊》の効果を発動させてもらおう。一ターンに一度、私のモンスターが破壊された時、カードを一枚ドローするのだよ」

 墓地に送られたイエロー・ガジェットと引き換えに、戦士長はカードを一枚ドローする。……引き換えとは言うが、イエロー・ガジェットは召喚した際の効果で、自らを召喚した際のアドバンテージを補っている為……全く引き換えになっていないのが現状だが。

 そして、これまで戦士長が使ったカードから、戦士長のデッキのコンセプトが伺える。――ペンデュラム召喚で三種のガジェットを途切れず召喚し、ガジェット族の効果と《補給部隊》でその手札消費をカバーし、そのまま優秀な下級モンスターの物量で圧倒する、という。さらにペンデュラム召喚の特性上、切り札となる上級モンスターの召喚をすることも出来る……!

 しかしどんなデッキだろうと、必ずどこかに付け入るべき隙は存在する……!

「《補給部隊》にチェーンして永続罠《グリード》を発動し、ターンエンド!」

 その時は発動しただけだが……エンドフェイズにこのカードはプレイヤーに対し、無差別に牙を向く。

「ぬぅっ!?」

戦士長LP3600→3100

 初手に伏せた《ガード・ブロック》ではない方のリバースカードが発動し、エンドフェイズ時にその効果が起動し戦士長に対して500ポイントのバーンダメージを与える。このカードこそが、戦士長のガジェット族に対する、このデッキにおける付け入るべき隙……!

「《グリード》はプレイヤーが効果でドローする度に、500ポイントのダメージを与える。つまり……」

「戦闘でモンスターが破壊される度に500ダメージ、か……」

 俺の台詞を引き継ぎ戦士長が、ダメージの原因となったドローしたカードと永続魔法《補給部隊》を見ながら呟く。戦士長の口振りからそうだろうとは予測していたが、やはり《補給部隊》のドロー効果は強制効果。いくら《グリード》が発動していようとも、戦闘でモンスターが破壊されればドローをしなくてはならない。

「ふん、久々に骨のある相手のようだな……私のターン、ドロー!」

 戦士長が気合いを入れてカードをドローした瞬間、フィールドにそびえ立っていた二体の魔術師が作り出す赤と青のスケールが再び輝きだし、天空に魔法陣が刻まれていく。

 ――ペンデュラム召喚の合図だ。

「ペンデュラムにより現れろ、《グリーン・ガジェット》! 《起動兵士デッドリボルバー》!」

 二回目のペンデュラム召喚によって現れたのは、フィールドにもう一体いる《グリーン・ガジェット》に、《起動兵士デッドリボルバー》。そして《グリーン・ガジェット》の効果により、《レッド・ガジェット》が手札に加えられるが、ドローではないので《グリード》は反応しない。

 さらに新たにペンデュラム召喚された《起動兵士デッドリボルバー》は、同系統のガジェットのサポート《機動砦 ストロング・ホールド》をひと回り小さくしたようなモンスターで、ガジェット族の火力不足を下級モンスターでありながら補うことを可能としている。

 起動兵士デッドリボルバーの中央にポッカリと空いた穴に、レッド・ガジェットがハマって歯車のように回転すると、デッドリボルバーが本来の能力で起動する。その攻撃力は、ガジェット族を遥かに超えた2000。

「バトル……と行きたいところだが。先に発動しておこう、《ナイト・ショット》!」

 戦士長の背後の空間から一筋の光が走ったと思った瞬間、俺が伏せていたリバースカードが打ち抜かれて破壊されてしまう。その速さには、チェーンを組んで発動する暇もない。

「《ナイト・ショット》はセットカードを破壊する、発動を封じながらね。さて、バトルだ! デッドリボルバーで連弾の魔術師を攻撃……ん?」

 リバースカードを破壊して心置きなく攻撃しようとするが、戦士長の思惑とは違いデッドリボルバーは動こうとはしない。いや、正確には動こうとはしないのではなく、どうやってもその場から動くことは出来なかった。

 何故ならば、起動兵士デッドリボルバーに……いや、戦士長のフィールドには、亡霊たちが蠢き機械の動作を止めていたからだ。所狭しと亡霊たちは暴れあい、デッドリボルバーは攻撃どころではない。

「これは……?」

「……お前がさっき破壊したカードの効果さ」

 墓地から一枚の罠カード――先程戦士長の《ナイト・ショット》によって墓地に送られていた、《ゴーストリック・ナイト》のカードを戦士長へと見せつける。セットカードを破壊したからと言って、必ずしも、その攻撃が通るわけではないということを。

「《ゴーストリック・ナイト》は相手に破壊された時、相手モンスターの攻撃を封じる」

「くくく、なるほど。カードを一枚伏せ、ターンエンドとしよう」

 起動兵士デッドリボルバーを始めとするモンスターの総攻撃が、結果的に自分の魔法カードによって失敗に終わったというのに、戦士長は楽しそうにくつくつと笑う。そんな態度に苛立ちながらも、まずはドローするべくデッキに手を伸ばす。

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドは、主力モンスターとなっている《連弾の魔術師》にダメージ源の永続罠《グリード》。ライフポイントは残り2800で、手札は今ドローしたカードを含めて三枚。

 ……対する戦士長のフィールドには、グリーン・ガジェットが二体にレッド・ガジェット、起動兵士デッドリボルバー。ペンデュラムモンスターである《魔術師》が二体に、モンスターが破壊されたら一枚ガードをドローする《補給部隊》にリバースカードが一枚。ライフポイントは3100で、手札は残り二枚……だが、ガジェット族と補給部隊の特性上、ほぼその手札は尽きることはない。

 ……要するに不利な状況ではあるが、絶望的という訳ではない。一つが永続罠《グリード》と永続魔法《補給部隊》の存在で、その効果が合わさって、戦士長はモンスターが破壊されたら500ダメージを受けることとなる。さらに、確かにガジェット族は脅威だが、そこまで単体で通用するステータスではない。故に、連弾の魔術師でもガジェット族とは充分に渡り合える。

 ……そして最後に、この《連弾の魔術師》というモンスターの存在、だ。

「俺は魔法カード《ヒュグロの魔導書》を発動!」

 俺が新たに発動したのは『魔導書』というカテゴリーのカードの一種の、《ヒュグロの魔導書》。その書に記された効果は単純明快、自分フィールド場の魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイントアップさせることだ。俺のフィールドには《連弾の魔術師》しかいないため、当然ながら連弾の魔術師の攻撃力が1000ポイント上昇する。

 更にこれだけでは終わらない。攻撃力を上げるというコンバットトリックらしい効果だが、残念ながら《ヒュグロの魔導書》は通常魔法、コンバットトリックには使えない。だが、今回の場合はそれだから良い……通常魔法が発動したことにより、連弾の魔術師の効果が発動する。

「連弾の魔術師の効果発動! 通常魔法を発動した時、相手に400ポイントのダメージを与える!」

「ほう……?」

戦士長LP3100→2700

 連弾の魔術師が持つ火球の一つが戦士長へと炸裂する。戦士長はダメージを受けたことより、その効果の方に興味を示したようだったが、しっかりとライフポイントを削って、俺と戦士長のライフが微々たる差ではあるが逆転する。

「バトル! 連弾の魔術師で起動兵士デッドリボルバーを攻撃!」

 力を与える魔導書こと《ヒュグロの魔導書》の効果で攻撃力が上がり、連弾の魔術師は巨大な火球を作り出す。起動兵士デッドリボルバーも負けじと連弾の魔術師に向かって来るが、発射された巨大な火球には対抗することは出来ず、はめ込んでいた《レッド・ガジェット》を遺して破壊された。

戦士長LP2700→2100

 更に、《起動兵士デッドリボルバー》を破壊しただけでは終わらない。《ヒュグロの魔導書》には攻撃力を上げる効果だけでなく、相手モンスターを破壊した際に発動する効果がある。

「《ヒュグロの魔導書》が適応されたモンスターが相手モンスターを破壊した時、デッキから魔導書を手札に加えることが出来る!」

「だが私も《補給部隊》の効果で、一枚ドローさせてもらうとしよう」

 《起動兵士デッドリボルバー》が破壊されたことにより《補給部隊》の効果が発動し、戦士長はカードを一枚ドローする。その効果と同じように力の魔導書は、更なる魔導書をデッキから呼び込む効果をも持つ。俺がデッキから手札に加えるカードは、新たな魔導書を作り出す力を持つ《グリモの魔導書》。

「メイン2、《グリモの魔導書》の効果を発動! デッキから更に魔導書を手札に加える……そして通常魔法が発動したことにより、連弾の魔術師の効果が起動する!」

 《グリモの魔導書》、その効果はまたもや魔導書を呼び込むこと。一枚のデッキ圧縮と《連弾の魔術師》の効果の発動を伴い、更なる魔導書を手札に加えつつ、連弾の魔術師が戦士長に火球を放つ。この効果の恐ろしいところは、一ターンに何度となく発動することが出来る、ということだ。

戦士長LP2100→1600

「……モンスターとカードを一枚ずつ伏せ、ターンエンド」

 しかし《グリモの魔導書》で手札に加えたカードは通常魔法ではなく、《連弾の魔術師》の効果はここで打ち止め。だが、《起動兵士デッドリボルバー》が破壊されたことにより起動した、永続罠《グリード》のバーン効果が戦士長を襲う。

戦士長LP1600→1100

 俺も《魔導書》の効果で手札に魔法カードを加えてはいたが、それはあくまで手札に加えていただけで、《グリード》の発動トリガーとなるドローではない。《グリード》と《連弾の魔術師》のバーン効果により、戦士長のライフは大きく削られ1100ポイントとなったものの、戦士長の顔は楽しそうな笑みのままだった。

「私のターン、ドロー……《貪欲な壷》を発動!」

「なにっ!?」

 汎用ドローカード《貪欲な壷》……そのカードの使用自体は、墓地にモンスターが貯まりやすいガジェット族では、特に驚くには値しない。俺が驚いたのは、そのカードの発動について……《貪欲な壷》を発動したということは、《グリード》の効果によって1000ポイントのバーンダメージを受けると、確定したようなものなのだから。

「死ぬ気か……!?」

「ふふふ……更に伏せていた永続罠《スパーク・ブレイカー》を発動し、その効果を発動する!」

 俺が冷や汗をかきながら問うた質問には不吉な笑みで返し、戦士長は伏せていたリバースカードを発動すると、《レッド・ガジェット》がそのカードから放たれた雷により破壊された。それもそのはず、《スパーク・ブレイカー》の効果は、一ターンに一度自分のモンスターを破壊するという、普通のデッキで使う分には意味のない効果なのだから。

 しかし、今現在この局面で《スパーク・ブレイカー》の発動は意味のある発動。どんな方法であれモンスターが破壊された、ということは――

「クク、更に《補給部隊》の効果によって一枚ドロー!」

 ――自分フィールドのモンスターの破壊をトリガーとする、永続魔法《補給部隊》の効果が発動するということ。更に言うならば《補給部隊》の一枚ドロー効果に反応し、エンドフェイズに《グリード》の効果が発動するということ。

 戦士長の残るライフポイントは1100、三枚のドローを果たした今、エンドフェイズ時に《グリード》の効果によって1500のバーンダメージを受ける……!

「先に行っておくと、私の手札に《サイクロン》みたいなカードはないよ。安心してくれて良い」

 俺がたどり着くであろう結論を、先に戦士長は自分の口で封じ込める。《グリード》が発動するタイミングはエンドフェイズのため、先に《サイクロン》に類するカードで破壊しておけば、《グリード》のバーンダメージは発生しないからだ。

「じゃあ、何でわざわざドローを……」

 命が懸かっているというのに、わざわざ死にに行くようなその行動が理解出来ない……そんな俺の問いかけに対し、愚問だとばかりに鼻で笑うと、戦士長はやはりニヤリと笑いながら答えた。

「こちらが死ぬか相手が死ぬか……ドキドキするだろう?」

 ――その台詞と共に天空に掛かる光のアークが再始動し、ペンデュラムが揺れるとともに、魔法陣が光輝いていく。三回目となるペンデュラム召喚と、その戦士長の言葉から……奴は、このターンで決着をつける気だと悟る。

「ペンデュラム召喚――《マシンナーズ・フォートレス》!」

 そして天空の魔法陣からペンデュラム召喚されたのは、機械仕掛けの要塞こと《マシンナーズ・フォートレス》――それが三体。ペンデュラム召喚の本領である、大型モンスターの大量召喚が存分に発揮されていた。

 《マシンナーズ・フォートレス》。攻撃力は2500と、最上級モンスターとしては少し物足りない数値ではあるが、この状況ではその攻撃力でも充分に脅威。機械族モンスターを捨てて特殊召喚する効果を始め、低い攻撃力を補って余りあるその優秀な効果は、戦士長のデッキである【ガジェット】――いや、【マシンガジェ】に相応しい。

 ……《グリード》が発動するエンドフェイズまで、その《マシンナーズ・フォートレス》三体と《グリーン・ガジェット》二体の攻撃に耐え抜かなくてはならない。加えて、《マシンナーズ・フォートレス》を絶対に破壊してはならない、という条件付きでだ。何故かというと《マシンナーズ・フォートレス》の第二の効果として、破壊時に相手のカードを一枚道連れにする効果がある……その効果で《グリード》を破壊されてしまえば、俺にはもはや勝ち目はない。

 俺に残された手段は、攻撃表示の《連弾の魔術師》、セットモンスター、一枚のリバースカード。これらで、戦士長の総攻撃から自身のライフと《グリード》を守り抜くこと……!

「どうだ? この生きるか死ぬかの瀬戸際……わくわくするだろう?」

「……全くもって伝わらないね」

 今の自分の気持ちが伝わらないことに落胆するポーズを取る。こちらとしては、今からのことの緊張状態でそれどころではなく――戦士長は面白くなさそうにしながらも、笑って機械族たちに攻撃を命じる。

「バトル! まずはマシンナーズ・フォートレスで連弾の魔術師に攻撃!」

 遂に始まった運命のバトルフェイズ――第一の攻撃は、マシンナーズ・フォートレスの一体からの、こちらの戦線をずっと支えてきた《連弾の魔術師》への攻撃。

「速攻魔法《ゲーテの魔導書》を発動!」

 《グリモの魔導書》で手札に加えていた新たな魔導書が発動すると、墓地から今まで発動した二枚の魔導書がフィールドに現れ、《ゲーテの魔導書》に吸い込まれていく。《ゲーテの魔導書》は、魔導書を生贄にし新たな力を発揮する魔導書……吸い込まれた魔導書は、二つ。

「墓地の魔導書を二枚除外することで、攻撃してきたマシンナーズ・フォートレスを裏側守備表示にする!」

「ほう……ならば二体目のマシンナーズ・フォートレスで連弾の魔術師に攻撃!」

 一体目のマシンナーズ・フォートレスは、魔導書を二つ生贄にして得た《ゲーテの魔導書》の効果により、裏側守備表示として無効にしたが……もはやリバースカードがない俺には、二体目のマシンナーズ・フォートレスを止める術はない。マシンナーズ・フォートレスが装備した巨大な大砲に、先程までの活躍が嘘のように、連弾の魔術師は呆気なく破壊されてしまう。

「ぐっ……」

遊矢LP2800→1900

「続いて、グリーン・ガジェットでセットモンスターに攻撃!」

 マシンナーズ・フォートレスの大砲の衝撃波が収まらないうちに、グリーン・ガジェットがセットモンスターを殴りつける。隠れていた黒い服を着ていた魔法使いは、その攻撃にあえなく破壊されてしまうが……その魔法使いが持っていたバックは遺り、パカッとマジックのように開いた。

「破壊されたのは《マジカル・アンダーテイカー》! リバース効果により、《連弾の魔術師》を墓地から、守備表示で特殊召喚する!」

 《マジカル・アンダーテイカー》が遺したバックから、再び守備表示で特殊召喚される。だがその守備力は1200……せめてグリーン・ガジェットを止められたのならば良かったが、その守備力ではそれも適わない。

「二体目のグリーン・ガジェットで、連弾の魔術師を攻撃!」

 墓地からフィールドに舞い戻ったというのに、またもや連弾の魔術師は破壊されてしまい、俺のフィールドはモンスターどころかリバースカードもない、まさにがら空きという状態。

 ――対する戦士長のフィールドには、まだ攻撃をしていない《マシンナーズ・フォートレス》が残っているにもかかわらず。

「トドメだ……マシンナーズ・フォートレスで、ダイレクトアタック!」

 《連弾の魔術師》をいとも簡単に破壊したその大砲の一撃が、生身の俺に対して向けられる。明らかなオーバーキルと、デュエルに負けたら死ぬという事実から、俺はその場に恐怖で立ったまま動けずにいた。

 ガコン、と弾丸を装填する音がした瞬間、人間の身体など容易く引き裂く質量を持った弾丸が、《マシンナーズ・フォートレス》の大砲から俺のライフを0にすべく発射され――

 ――ようとした瞬間、眩い光がマシンナーズ・フォートレスの目の前で輝き、機械でも目は眩むのか大砲の狙いを俺から外し、意味もなくペンデュラムスケールが浮かぶ上空へと、その強力な弾丸を撃ちだした。

「……むっ!?」

 戦士長の驚愕の声とともに、マシンナーズ・フォートレスの前で輝いた光は俺のフィールドへと戻り、モンスターとしてセットされる。マシンナーズ・フォートレスが攻撃して来る前後で違うのは、俺の手札が減っていることと、フィールドにモンスターがセットされているということ。

「マシンナーズ・フォートレスの攻撃時、手札から《ゴーストリック・ランタン》を特殊召喚した。ゴーストリック・ランタンは、直接攻撃時に相手モンスターの攻撃を無効にした後、フィールドにセットされる」

 確かにフィールドに何もないが、残された手段は手札にある。《ゴーストリック・ランタン》は《速攻のかかし》と同じように、手札から誘発し相手の攻撃を防ぐモンスターであり、俺に残された最後の手札でもあった。

 だがこれで、戦士長の五体のモンスターは全て攻撃を完了し、俺のフィールドには永続罠《グリード》が健在……エンドフェイズ時に、戦士長に向けて1500ポイントのダメージを与えることが確定する。

 ……そんな状況でも戦士長は……笑っていた。心底、楽しそうに。

「クックック……最後に残された手札が逆転の手、というのは有るものだよ……本当に……」

 その戦士長の言葉は、最初は俺の《ゴーストリック・ランタン》に向けられたものかと思った。確かに、フィールドに何もない状況からの手札誘発で攻撃を耐え、そして勝利を得る……というのは逆転の一手としても差し支えはない。

 だがそこで俺は気づいた。戦士長の手札は三枚――内二枚は《マシンナーズ・フォートレス》の効果のコストに使う予定だったのだろう、ガジェット族が二体。……ならば残りの一枚は?

「私は永続魔法《マスドライバー》を発動!」

 『残り一枚、敵にとって未知の逆転のカード』が発動されるとともに、戦士長の横に巨大な機械仕掛けのマスドライバーが用意される。マシンナーズ・フォートレスの大砲よりも巨大なソレは、モンスターを敵に撃ち出すためのマシーンだ。

「《マスドライバー》の効果! モンスター一体をリリースすることで、相手ライフに400ポイントのダメージを与える! グリーン・ガジェットをリリース!」

「があっ!」

遊矢LP1900→1500

 セットされた《ゴーストリック・ランタン》をすり抜けて、マスドライバーにセットされた《グリーン・ガジェット》が俺に痛烈な一撃を与えて自壊する。

「そら、二発目のマスドライバーだ!」

遊矢LP1500→1100

 先程と同じく《マスドライバー》に発射された《グリーン・ガジェット》が、一度目の攻撃を食らってよろめいていた俺に直撃し、俺はそのまま近くの壁に叫び声を出す余裕もなく叩きつけられる。

 これから起きることはもう変えられない……手札もなくフィールドにも何もなく、もちろん墓地にも何もない。俺の残りのライフポイントは1100で、一度に400ポイントのダメージを与えるマスドライバーは後、三回の起動が出来る。

 わざわざ懇切丁寧に説明するまでもない。この絶望的に状況に――

「《マスドライバー》の三回目の効果を発動!」

遊矢LP1100→700

 ――対抗策はない。そのことを証明するように、三回目のマスドライバーも無抵抗で直撃する。グリーン・ガジェットよりも質量の重いマシンナーズ・フォートレスの一撃を受け、寄りかかっていた壁も耐えられずに崩壊し、そのまま俺も吹き飛んでいく。

 そしてまたもや固い岩盤に当たる……ことはなく、吹き飛んでいった俺を柔らかい何かが受け止めた。痛みに耐えながら目を開けると、そこには白い服を着た女性が――

「明日、香……?」

「違……います。でも……」

 目を開けると自分は女性に抱き留められているようで、一瞬だけ明日香の顔が頭の中に浮かんだものの……すぐに彼女ではないと悟る。雰囲気が、抱き留めている力が、何もかも彼女とは違う。

「助けに……来ました」

「リ、リィ……!?」

 追い出された隠れ家であった場所で別れた、白衣に眼鏡をかけたカードの精霊、リリィ。その腕には異世界に来るときに壊れた俺のデュエルディスクが装着され、そのリリィの背後には小柄なドラゴンが鎮座していた。

「乗って……しっかり、掴まってて……下さい」

 慣れない手つきで怪我をした俺を小柄な竜に乗せると、自身もその竜に跨がると、竜は乗った二人がちゃんと落ちないようにしているか確認したような動作をした後に、大空に舞うべく翼をはためかせた。

「貴様……デュエル中に逃げるつもりか!」

 マスドライバーによって破壊された壁の向こうから、怒りの形相の戦士長が走り抜けてくる。だが戦士長がここに到着するより早く、俺たちを乗せた小柄な竜は空へと逃げていく。

「逃がさん! マスドライバーの効果を発動!」

 大空へと逃げていく俺たちに対し、戦士長は四度目の《マスドライバー》を発動する。マシンナーズ・フォートレスがマスドライバーによって高速で発射され、俺たちが乗る竜へと、とても回避が出来そうにないスピードで襲いかかってくる。

「ぼ、《防御輪》……発動っ……!」

 リリィが装着している壊れた俺のデュエルディスクに、効果ダメージを無効とする速攻魔法《防御輪》を発動する。デュエル外からの干渉も可能なのか、理由は分からないが竜の後方に《防御輪》が現れ、マスドライバーにより発射されたマシンナーズ・フォートレスを防ぎきり、その隙に竜は戦士長の死角の方へ飛んでいき……どうやら、逃げ切ることが出来たようだ。

 その証拠に、デュエルが中断されたということか、発動していた《防御輪》と《グリード》とセットされた《ゴーストリック・ランタン》が消え、天空に描かれていたペンデュラムスケールと魔法陣も消えていた。そしてリリィがつけていた、俺が使っていたデュエルディスクもまた、役目を終えたかのように沈黙する。……デュエル・アカデミアに入学してからずっと使って来たが、最後まで助けてくれてありがとうと、心の中でデュエルディスクに礼を言う。

 そして言葉では、またも助けられてしまった彼女に対して。

「ありがとうリリィ……また、助けられた」

「いえ……あなたは、ここで死んじゃ……いけない人ですから」

 《防御輪》のカードを壊れたデュエルディスクに戻すと、リリィは落ちないように竜のことを掴みながら、器用にこちらを向いた。もちろん死にたくはないものの……死んじゃいけない人、というのはどういうことかと聞こうとしたところ、リリィの口が先に開いた。

「お願いが……あります。あなたは……このまま、覇王を倒す……」

 彼女がはっきりと言葉を紡ぐ。俺の目を見据えながら、真摯に。

「救世主に……なってくれませんか」

 
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