普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
017 少女自覚
SIDE ユーノ・ド・キリクリ
トリスタニアから学院へと帰ってきて数時間が経過し時刻は夜9時となった。窓の外から見える、地球ではまず見ることが出来ない双月を右手で覆うように隠す。
(今日は楽しかった)
真人君と──サイトと本当の意味で再会出来たし、四方山話に花を咲かせる事が出来た。
……やはり、サイトには〝知識〟は無かったから教えようと思ったけどやめた。……そんな〝知識〟なんてものは本来なら無い方が当たり前だし、それに〝知識〟なんて教えた結果、サイトがどう動くか判らないからだ。……そうなれば、このまま様子を見て徒然なる結果を受け止めるしかない。
(それにしても……)
「抱いてくれても良かったのに……」
サイトが何かしたのだろう。サイトに抱き締められていた時の火照りは既に引いている。……が、サイトに抱き締められた時の余韻は未だ残っている。サイトの体温を未だ覚えている。
「はぁ。……“サイレント”」
TSしていつの間にか生まれていた〝女〟が疼き出す。その〝女〟を鎮める為に、ボクは部屋に〝遮音〟の魔法を掛ける。……ダメだと思いつつも、先に残るのは虚無感だけだと理解しつつも、独りで耽ってしまう。
……この時、今日が≪土くれのフーケ≫によって〝破壊の杖〟強奪イベントが発生する日だという事がボクの頭からスッポリと抜け落ちていた。……デルフリンガーはサイトが既に持っていたし。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 平賀 才人
丁度ルイズが俺から目を離したタイミングに〝遍在〟を消し、ルイズと合流して時刻は夕食の時刻となったので、いつも通り食器荒いの手伝いをしていると……
「そういえばサイトさん、明日はフリッグの舞踏会が行われるんですよ」
もうすぐ全部の皿が洗い終わるという頃に、突然と俺に仕事を教えてくれている学院のメイドの1人──シエスタが口を開いた。
「フリッグの舞踏会?」
「はい。このトリステイン魔法学院では毎年この時期になるとそういう催しが行われるんです。何でも、上級生と1年生の親睦を深めさせる催しらしいですよ?」
聞き慣れないワードに鸚鵡返しをするとシエスタは注釈を付けて軽い説明をしてくれる。
「へぇ~、そうなんだ」
給仕である俺にはあまり関係無さそうな事なので、生返事を返すしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
関係無いと思っていた。無関係を決め込んでいた。なのに……
「いくわよ、サイト」
給仕の仕事も一段落が着いたので休憩を貰い、一息吐こうとテラスで黄昏ていた俺の手を強引に引っ張るのは、仮とは云え主であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
「まぁ、いいか。……それと、似合ってるよルイズ。とても綺麗だ」
これは社交辞令でも、言わされている訳でも何でも無くて、純然たる事実である。……初めて見るルイズの正装は目一杯にドレスアップされているし、気立ての良さが所作の一つ一つから滲み出ていて、同じくテラスに居た周りの男達の目線独り占めにしている。
「何を当たり前の事を言ってるのよ。私が綺麗って事なんて、夜には双月が空に昇ると同じ様な事よ」
「ははは、常識レベルって事か。……さぁ、ミス? 貴女のエスコートと云う大儀を、不肖このサイト・ヒラガに任せていただけないでしょうか?」
「ふふ。……ええ、しっかりとエスコートしなさいよね?」
冗談混じりにルイズへと恭しく礼をすると、ルイズはクスリと笑い徐に手を差し出して来た。俺はそんなルイズの手を取って、俺の所為でルイズに風邪を引かせる訳にはいかないのでダンスホールへとルイズと一緒に戻って行った。
SIDE END
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
「ははは、常識レベルって事か。……さぁ、ミス? 貴女のエスコートと云う大儀を、不肖、このサイト・ヒラガに任せていただけないでしょうか?」
「ふふ。……ええ、しっかりとエスコートしなさいよね?」
サイトがいきなり態度を変えた事に思わず苦笑してしまう。……本気じゃないにしても、サイトが私に対してちゃんとした──見てくれだけとは云え、礼儀を見せたのはこれが初めてかもしれない。
(それにしても……)
「何でそんなダンスが上手いのよ」
「ルイズに合わせているだけだよ。……それに初めて会った夜にも言っただろ? 俺に出来ない事はあまり無い」
私とサイトがステップを踏むたび、周りに居た舞踏会の参加客は感嘆の声や息を漏らす。……エスコートついでに1曲だけサイトと踊る事になったのだが、サイトは〝私に合わせている〟と言うだけで謙遜しているが、逆に言えば〝私に合わせられる〟技量が有るという訳だ。私は一流の講師の教えでそれなりに努力して現在の技量を持っているが、サイトはそれに難なく合わせてくる──否、私がサイトにリードされる事すらもある。
(サイト・ヒラガ…か)
「ん? どうしたどうかしたか、ルイズ」
〝色々な感情〟で私がサイトの顔をじっくりていると、私の視線に気が付いたのか、怪訝な表情で訊ねてくる。
「……何でも無いわ」
「ははは、変なルイズだ」
私はサイトを誤魔化そうと、いつものツンとした態度で返してしまったが、サイトはそれを咎める事も無くただ──ただただ困った笑みを浮かべるだけだった。
(……あ)
そんなサイトを見た私は、私の心臓がトクン…、と脈を打ったのを感じた。更にその脈はトクン…トクン…、と速度を急速に速めていく。ただ、その脈に不快感は無く、寧ろ心地好く感じて、サイトから離れたくなくなり──
(……ああ、そういう事ね)
この感情は嘗てその昔、ワルド子爵様に抱いた感情とは明らかに違う感情。……漸く気付いた──否、気付かないフリをしていた。……こうなれば話は早い。自分の中で〝その感情〟を明確にするだけ。
(……私は──ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはサイト・ヒラガの事が好きだ)
――ドクン
その瞬間、一際大きな鼓動とともに私の世界が一気に拡がった。
(……でも、私だけじゃ無理ね)
このまま放って置けば、トリスタニアで会ったミス・バレッタの言う通り、サイトは間違いなく次々に女という女を、それも無意識に籠絡していくだろう。そうなれば、私だけではサイトを囲いきるのは難しい。
(……それならば)
愛人、若しくは後妻になるのは──サイトの寵愛を私の一身に受けられないのは業腹ではあるが、不特定多数の女や、ツェルプストーがサイトの傍に居るよりは100倍はマシなので、サイトの事を一番最初に〝好き〟と言った〝彼女達〟と手を組もうと決めた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ユーノ・ド・キリクリ
先日行われたフリッグの舞踏会から、ルイズのサイトに対する態度が変わった。……何て言うか、険が取れたように感じたし、何より日常の所作の一つ一つにルイズに以前までは備わっていなかった、〝女らしさ〟が感じられる様になった。
(……あれじゃあ、まるで──恋する乙女だ)
ボクが納得出来るかどうかは別として、サイトはモテる。メイド達はサイトの名前を端々に挙げて互いに牽制し合っている事を鑑みるに、しっかりとサイトを意識している事が窺える。
……思えば、前世──サイトが真人君だった頃からそうだった。真人君はツリ目な双眸、産まれついての見事な茶髪、ガキ大将を押さえ付けられるだけの腕力、割かし横柄な口調──外的要因だけで見れば、完璧に不良のそれだった。……ただ、横柄な口調に似合わず根は真っ直ぐで、ツリ目だったが容姿は良い方で──何より、人間関係に於いてのフォローが凄まじく巧かった。
(どうしようか……?)
――コンコンコン
ボクがこれからについて頭を悩ませいると、不意に部屋のノックが鳴らされた。
「ルイズ……?」
ノックの主は、今ボク頭を悩ませている要因であり、ボクの意中の相手の──サイトの主でもあるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった。
SIDE END
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