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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  018 トリステインの華


SIDE 平賀 才人

フリッグの舞踏会から一週間が経った。その一週間で変わった事も有り、何やらルイズの俺に対する態度が目に見えて変わった──というより、険が取れて柔らかくなった。……そのあからさまな態度から、ルイズのそれがどんな事を意味しているのは判るが、ルイズの〝その気持ち〟に応える気は〝まだ〟無い。身分やらなんやら解決しないといけない困難な事が多すぎるからだ。

(ただなぁ……)

ルイズだけなら良かったのだが、加えてユーノまでルイズに便乗するかの様に俺へとモーションを掛けてくる様になった。……それについては、ルイズがユーノに突っ掛からないところを見るに、俺の包囲網でも敷いているのだろう。

(……どうしろと? モーションを掛けてくる相手に手を出したら打ち首獄門コースとかどんなクソゲーだ)

俺はそう叫びたい欲求を制し、俺の隣で俺の布団に寝ている主──ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに思わず手を伸ばしそうになるが、持ち前の精神力とスキルを総動員してルイズへの情欲を何とか抑えつける。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ミス・ツェルプストー、最も強い系統は何だと思うかね?」

「さぁ? 虚無の系統なんじゃないんですか?」

とある日の授業中、〝最強の系統とは?〟ギトーとかいう教師がそんな事をキュルケに聞いたが、キュルケはどうでも良い云わんばかりの態度で、どうにも投げ遣りな答えを答えた。

(〝虚無〟か。……一理有るんだよなぁ)

確かに〝虚無〟は強いし、“忘却”等の便利な魔法も多い。……が、その分だけ詠唱は長いし、精神力(MP)を莫大に消費してしまう。俺も“アギトの証”が無かったら多分使っていない。

「ミス・ツェルプストー、私は現実的な話をしているんだ。まぁ良い、そこのメイジらしい使い魔君はどの系統が最強かと思うかね?」

……何故か俺に飛び火した。

(仕方ない)

「……とりあえず、その質問には前提条件が提示されてないと答えようが有りませんね。破壊力なら火の系統、利便性を重視するなら風の系統、防御に徹したいなら土の系統、回復でサポートに回りたいなら水の系統──といった感じに、それぞれの系統にはメリットがあれば、当然の様にデメリットも有ります。……尤も、こんな誰にも判りきった事なんて教師であるギトー先生には言うまでも無いでしょうけど」

「ふんっ!」

この問題については本当に一長一短なので、当たり障りの無い答えを──+αで皮肉も付けて答えを言い、ギトー先生も暗に俺が言葉の端に散りばめた皮肉に気が付いた様のか、苦虫を10匹単位で噛み潰した様な顔で鼻を鳴らした。

……その時だった──

「ややっ、失礼しますぞミスタ・ギトー」

「授業中ですぞ、ミスタ・コルベール」

「失礼、ミスタ・ギトー。至急皆さんに連絡しなければならない事があるのです。……んっん、今日の授業はすべて中止であります」

そう、教室に金髪巻き毛のカツラを被ってギーシュを想起させるようなヒラヒラを付けてオシャレ()をしたコルベール先生が入って来たのはその時だった。

コルベール先生はギトー先生に了解をとり、教室に居る全員に今日の授業が中止される旨を伝えると、コルベール先生は自身のいきなりの登場に驚いている生徒らをよそに、矢継ぎ早に口を開く。

「えー、皆さんにお知らせですぞ。恐れ多くも先の国王が忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされることになりましたぞ」

コルベール先生はその身体から涌き出る歓喜を抑える様に言い放つ。……その瞬間、シンと教室が静まった。

(アンリエッタ姫殿下ねぇ……)

……しかし俺はこの教室の静寂の中、俺の頭の中で鳴らされている第六感からの警鐘に、新たな厄介事が舞い込んで来たのを感じた。

SIDE END

SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

学院の正門へ向かう道程。〝姫様が来る〟……そう思っただけで足取りが軽くなる。サイトはそんな私を胡散臭げに見るが、私はそれを華麗にスルーする。

「随分とご機嫌だな。ルイズ」

「~~~♪ まぁね。姫様とは知己だから、また会えると思ったら嬉しくなっちゃった。……でも、私の事を覚えて無かったらどうしょうかしら」

「大丈夫。きっと覚えててくれてるさ」

「わっぷ?」

サイトは慣れた手付きで私の頭をくしゃりと撫でる。髪型が崩れるので止めて欲しいと思っている自分が居る反面、もっと撫でて欲しいと思っている自分も居る。サイトが私の頭を撫でる度、私の中から幸福感やら安心感が涌いてきて、頬が弛むのを抑えられない。

(うぅ。……やっぱりサイトはズルい)

ユーノと手を組んで以来、度々何かと理由を付けてサイトの布団に入ってるが、未だに手を出してくる気配──気配は有るが、何を遠慮しているのか未だに手を出してきていない。

(ミス・バレッタの話では不能では無いのよね。だとしたら──)

やっぱり、サイトが気にしているのは格差なのだろうか? ……だとしたら、最悪の場合は姫様に〝お願い〟をするしかないかもしれない。

「おっと、髪型が崩れてしまったな。ちょっと止まってろ」

「あっ」

サイトが私の頭から手を離し、私の口からほぼ無意識の残念そうな呟きが漏れる。……かと思ったら、サイトはどこからともなく取りだした櫛で私の崩れた髪型を整えだした。

「んっ……」

私の髪を触る一つ一つのタッチはとても──壊れ物を扱う様に優しい手付きと櫛で私の髪がとかれる度に吐息が、意図していないのについつい漏れてしまう。

(……やっぱりサイトはズルいなぁ)

ユーノ曰く、惚れた弱みとでも言うのか、サイトになら何をされても良いと思えてしまう。

(今の私姫様に見られたら、姫様何か言われそうだわ)

それだけが少し心配だ。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 平賀 才人

アンリエッタ姫の行幸は恙無く終わって、今の時間はというと窓から見える双月が煌々と輝く時間帯になっていた。

「ん?」

「どうしたのサイト?」

(アンリエッタ姫。……恐らく、ルイズに何か用があるのか)

不意に聞こえた、聞き覚えの無い足音のリズムがこの部屋の前で停止したのを感じた俺は、その相手に不信感を覚え仙術でその足音の主の気を探ってみると、その正体はアンリエッタ姫。しかも、その後ろにはよく知った気配──何故かギーシュとユーノの気配も在った。

「どうやらルイズの幼馴染み様が来た様だ」

「どういう──」

ルイズが俺に鸚鵡返しをする前に扉から、独特なリズムでノックが鳴らされる。……恐らく、ルイズとアンリエッタ姫との共有の暗号の様なものだろう。ルイズは俺の言った事を理解したのか、驚いた様子で俺を見る。

「……そういう事ね。でもどうしてサイトは判ったのかしら」

「気配察知の真似事くらいは俺でも出来る」

「……そうよね。サイトだものね。それくらいお茶の子さいさいよね。……とりあえず、私が出るわ。言うまでも無い事でサイトも判ってると思うけど、姫様の御前ではくれぐれも失礼の無いようにしてよね」

「判ってるよ」

ルイズは驚いた表情から呆れた表情へとその表情を一変させると、徐にノックのした方向へとその足を進めてドアを開ける。

「……もしかして姫様ですか──」

扉の向こうに居るローブを纏う不信感バリバリの人物にルイズはおそるおそると問いかける──前にそのローブの人物はルイズへと抱き付く。

「流石ルイズ・フランソワーズ! こんなローブを被っていても一目で見抜いてくれるなんて流石私のお友達だわ!」

「はは、勿体ないお言葉です」

ルイズが自分との取り決めを覚えていてくれたのが嬉しかったのか、アンリエッタ姫はテンションを天元突破させている。……ルイズはそんなアンリエッタ姫に引き気味な愛想笑いをしている。

「ルイズ、今はプライベートですからそんなよそよそしい言葉を使わないで下さい。皆──枢機卿も母上も、欲に塗れた宮廷貴族たちも……それなのに貴女にまでそんな態度を取られたら、わたくし死んでしまいますわ」

「姫様……」

ルイズのアンリエッタ姫を儚むような呟きを皮切りに、二人は俺を放って昔話に花を咲かせ始めた。

「ふぅ……」

昔話に一区切りが着くと、アンリエッタ姫は悲し気な顔で一息ため息を吐く。そのアンリエッタ姫の顔を見て俺の第六感が、またもや俺の中で警鐘を鳴らしだした。……何だか一波乱有りそうな気がしてきた。

SIDE END 
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