普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
016 袖振り合うも多生の縁
SIDE 平賀 才人
「なかなか速いですね」
「そうだな」
虚無の曜日。場所はトリスタニアとトリステイン魔法学院の中間の上空。……つまりはルイズを連れ立った先週と同じ様に飛竜型の〝魔獣〟で飛んでいた。俺が騎手を務め、後ろに乗って居るのはユーノ・ド・キリクリ──もとい、一 円。
「あの…ユーノ、その…」
「? サイト、どうかしましたか?」
円──ユーノは俺に魔術で風避けをしてあるのに、俺にしがみついている。……当然そうなれば、ユーノからの柔らかい感触が俺の背中を占拠し、俺の理性や精神力やらをガリガリと削っていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
精神力と理性がユーノによって削り切られる前にトリスタニアへと到着出来た俺とユーノは、ユーノの案内に従い、大通りから2、3路地裏に入り、ユーノの目的の店に着いた。
「って、ここは【白銀の月夜】亭じゃないか」
「あれ? 知っているんですか?」
「まあな。情報収集の時によく使う店だからな」
【白銀の月夜】亭。どこぞ魔術結社に肖った様な店名だが、当然魔術やらは関係していない。店の大きさは【魅惑の妖精】亭よりは一回り小さい程度だが、店員の快活さは負けていない。
ユーノが案内してくれた店は既知の店で、ユーノとそんな会話をしながら手押し扉を開き、【白銀の月夜】亭へと入店する。
「いらっしゃませ──って、サイトに、ユーノ様!?」
俺達が来店して開口一番に声を掛けてきたのはユーノやモンモランシーとはまた違った趣の金髪に、店専用の給仕服がよく似合う少女──キーラだった。
「久しいですね。キーラ──」
「やぁ、キーラ。久しぶり──」
「「……って、知り合い?」」
俺とユーノは同時に口を開いたので思わず目を見合わせる。
「……私は町でキーラが1人で悪漢に絡まれているところ偶然見掛けて、それを助けただけです。大した事はしていませんよ」
「……その節は本当にありがとうございました」
「ごめんなさいね。辛いことを思い出させてしまって」
ユーノは思い出したように口を開き、何でも無いかの様に──本当に何でも無いかの様にキーラと出会った時の事を語る。……キーラは当時の恐怖を思い出したのか、軽く身体を震わせていると、ユーノがキーラの頭を撫でて安心させている。
……俺の精神衛生上、心無しかキーラの顔が朱に染まっている様な気がするのは気のせいにしておく。
「……俺はこの店でタチの悪い絡み酒の客から助けただけだ」
「たまに居るのよね~。ああいう客。あの時は店長が居なかったから困ってたの。……ありがとう」
四方山話はそこまでにしてユーノは切り出す。
「キーラ、今日VIPルームは空いてますか?」
「空いてますよ」
「なら、案内して下さい」
(VIPルーム? そんなんあったか?)
「サイト、ここのVIPルームは所謂一見さんお断りと云う感じでして──その…会瀬や密会、人に聞かせにくい会話をする場合に使われる事が多いです。後、これは少ない例ですが、1人で静かに食事がしたい場合にも使われます」
聞き覚えの無いワードに疑問を持っていると、ユーノはそんな俺を慮ってか、態々注釈を入れてくれる。……顔をこれでもかと紅潮させながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
VIPルームは【白銀の月夜】亭の二階の隠し通路の向こうに存在するらしく、10畳ほどの部屋に在るのは、やや大きめのテーブルとやけに豪奢な造りのベッド、それにアダルティな雰囲気を醸し出すライトだけだった。
(成る程……)
【白銀の月夜】亭には、一階と二階を見比べても面積的に違和感をが在って、どこかに空いているスペースがあるのは何と無く気が付いていたので、この部屋を見て得心した。
「ユーノ様には言うまでも有りませんでしょうが、雰囲気が合わないようでしたらライトの色はライトに備え付けられた〝つまみ〟にてライトの色を変更出来ます」
「ありがとうございます。キーラ、貴女ももう一階に行って良いですよ?」
「はい。食事が必要でしたら今この場でご注文頂くか、誠に失礼ながら1解までご足労いただく必要が有ります」
「そういえばそういうシステムでしたね。……ではタルブ産のワインをいただきましょうか。勿論グラスは2つお願いしますね」
「かしこまりました。少々お待ちを」
キーラはユーノの注文を聞くとそそくさと退室して行った。
「「………」」
沈黙が部屋を充たす。次に沈黙を破ったのはユーノだった。
「とりあえず椅子に座りましょうか」
「そうだな。……そういえばユーノとはルイズより2年も早く出会っているのに、ユーノとはちゃんと話した事は無かったよな」
「そうですね。あれから2年経ちますね。学院で話そうとしてもルイズやキュルケが何かと都合良く邪魔してきますからね」
「恐らくだがルイズのあれは〝所有欲〟で、キュルケはただの〝好奇心〟だよ。……そういう意味では学院で一番最初に俺に好意を伝えてくれたのは君だよ、ユーノ──いや、〝円〟」
「……やっぱりボクの事に気付いてたんだね。才人──ううん、真人君」
ユーノの──円の話し方が度数にすると170度ほど変わって、その見た目に見合わないボーイッシュな口調になる。……この話し方はよく覚えている。これは一 円の口調だ。
「うおっ!? 円!?」
ユーノは徐に立ち上がってフラフラと俺の近くに来たと思ったら、いきなり俺に抱き付いてきた。いきなりの事に俺も驚いてついユーノの事を円と呼んでしまうが、抱き付かれて数秒後ユーノの身体が小刻みに震えて居るのが手に取るように判った。
「……恐かった。……真人君が死んじゃった瞬間が未だに頭から離れないよ」
(あ、そうか。……円はあの時、俺が──好きな人が死んだ瞬間を見ているんだったか)
俺に置き替えて考えてみる。〝好き〟と思える女の子はまだ居ないが、好きな女の子が自分を助けて上から落ちてきた巨大な鉄骨に潰されて地面に赤色の花を咲かせる様子をイメージする。
「……うっぷ」
「? どうしたの、真人君。どっか調子でも悪いの?」
「いや、何でも無い。ただとてつも無くイヤな事をイメージしただけだから」
俺の身体が──と言うか脳が〝それ以上考えるな〟と警告してきたのだろう、強烈とまではいかないが吐き気を催した。
「円──イヤ、もうユーノか」
「サ…イト?」
俺を心配しながらも未だ微かに震えているユーノをゆっくりと、壊れ物を扱うかの様に優しく抱き締めてユーノの耳を俺の左胸当て、ユーノに俺の心音が聞こえる様にして、名前こそ変わってしまったが〝升田 真人は生きている〟と云う事をアピールする。
「ユーノ、俺は大丈夫だから。名前こそ変わったけど生きてるから」
「本当…に?」
「ああ。本当だ」
「う…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
ユーノは本当に安心したのか、俺にがっしりと抱き付き、溜め込んでいたものを吐き出さんばかりかに慟哭する。……こうして、一 円と俺──升田 真人の世界すらを超えた二人は正式に再会する事が出来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……落ち着いたか」
「……うん」
俺の腕の中には未だ目元に腫れを残しながら顔を赤くしているユーノ。……ワインを置きに来たキーラに泣き顔を見られたのが余程恥ずかしかったのだろう。
椅子に座っていては体勢が辛かったのでユーノと一緒に、椅子よりはまだマシなベッドに腰掛けた。それが拙かった。……〝それっぽい〟嗚咽を上げながら泣くユーノ。それを抱き締める俺。……性犯罪者かなんかに見えたのだろう。キーラのその時の俺を見る目は凄惨の一言だった。……ユーノが俺の事を庇ってくれなかったら、絶対──かなり面倒臭い事になっていただろう。
閑話休題。
「まさか、貴重な特典の一枠を使ってまで俺が居る世界に転生してくるとはな」
「ははは…。……まぁ、5個も貰えたからね──って、どうしたの? 真人君」
「5個…これが運の差なのかよミネルヴァさんよぉ」
ユーノのとの圧倒的な運の──特典の数の差に俺は思わずorz状態になってしまう。現実はあまりにも──どこまでも非情で残酷らしい。
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。果てしなく高い〝現実〟と云う壁に打ちひしがれているだけだから。……あと、今の俺は平賀 才人だよ」
「ふふふっ…うん、判ったよサイト──って、またどうしたの? 今日のサイト、何だかおかしい気がする」
俺の名前を言い直しながらカラカラと笑うユーノ。そんなユーノの、バレッタさんとはまた違った妖艶さを孕んでいる表情に、俺はしばし見惚れてしまった。
(ごめんなさい。でも、今日の俺がおかしい理由の大半はユーノさんの所為です)
「ははは、何でも無いよ──今度はユーノがおかしいな」
勿論、そんな事はおくびにも出さずに誤魔化す。
「うぅ。……あれ? なんか…身体が……」
……そんなユーノだが、どうもユーノの様子がおかしい。何やら顔を紅潮させながら身体をモジモジとさせている。この反応はある日のバレッタさんの反応と同じだ。……どうやら、いつの間にやら滲み出ていたドラゴンのオーラやら──フェロモンやらに当てられて発情のスイッチが入ってしまったらしい。
さすがに再会してすぐにシケ込む訳にはいかないので、仙術でユーノの昂った気を整えてやる。
SIDE END
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