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パンデミック

作者:マチェテ
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第五十九話「“レアヴロード”の侵攻」

―――【“エリア27”防壁】


「始まったか…………」

防壁の上で、感染者と交戦を開始した兵士達を眺める男が一人。
かつてエクスカリバーに所属し、ブランクやヴェールマンと共に感染者と戦った元兵士の適合者。

スコーピオだ。

本部防衛作戦の際にブランクに引き千切られた左腕は、元通りに再生していた。

「………………………」

スコーピオは無言のまま、新兵達の遺品を回収するブランクをぼんやりと眺めていた。

「あん時とは随分纏ってる空気が違うなぁ。あの超怖え暴走した時とはえらい違いだ」

スコーピオの後ろから、“硬化能力”を持つ適合者のレオが声をかける。
本部防衛作戦で、レオは暴走したブランクに完膚無きまでに叩きのめされた。
しかし、当時血みどろだったレオの身体は、ボロボロにされたのが嘘のように元通り再生していた。

「まったく、まさか硬化を真っ向から崩されるなんて思ってもなかった……」

「だろうな。俺もブランクのことを色々知っているつもりだったが……“アレ”は初めて見た」

「どうするんだ? スコーピオ。普通に俺様が戦えば、まだ殺れるかもだけどさ、暴走されたら俺様無難で
殺されるぞ? つーか………スコーピオの腕引き千切るような奴に、俺様も他の連中も勝てねぇって」

その言葉を聞いたスコーピオは、ゆっくりとレオの方に振り向いた。


「俺はブランクを殺せとは言ってない」

「あぁ、でもお前の考えの方がもっと実現しないと思うぜ? 俺様は」

レオは呆れ顔でスコーピオを見た。

「殺す方がよほど無茶だと思うがな。早かれ遅かれいずれブランクも気づく」





「この世界がどれ程救いが無いか…………この世界を救う“革命”のために我々がいる」



「そう、そんなお前に共感して“レアヴロード”って組織ができた」

「でも革命って単語をゲール語にして組織名にするって……カッコつけすぎっつーかダサくねぇ?」

「あれ? 組織名付けたのはスコーピオじゃなくて、レオとかじゃなかった?」

「…………………………うるせぇな、雑魚共」

「はいはい、うるさいわよ。スコーピオ、こっちは準備出来てるわ」

「…………………怖いよ、レオ…………」

「俺様だって、暴走した時のアイツが怖えよ。だから服にしがみつくなって」












スコーピオ。

レオ。

サジタリウス。

キャンサー。

タウロス。

アクエリアス。

ヴァルゴ。

アリエス。



8人の適合者が“エリア27”に集まった。






「エクスカリバーの精鋭を潰す絶好の機会だ。一人残らず防壁から出すな」




「ただし、ブランクは殺すな。奴も適合者だ。仲間として引き込みたい」








「行くぞ」


スコーピオの言葉と同時に、適合者達は防壁から飛び降りた。


8つの絶望が降り立った………………




















―――同時刻


ブランクは既に白骨化した兵士の遺品を、丁寧に拾い続けた。
兵士達の遺体が持っていた遺品は多種多様だった。

家族の写真。

結婚指輪。

ドッグタグ。

恋人のイニシャルが彫られたネックレス。


拾える物は丁寧に拾い、損傷が激しい物は欠片だけを拾い、ポケットに入れる。
そして、出会った遺体には全て目を閉じて短い黙祷を捧げた。

道中で何度か感染者に襲われたが、それも難なく倒す。
出来るだけ遺体に血が飛ばないように、これまでのような血肉が飛び散る“投げる”技は使わない。


ザザッ ガガーーーーッ


ブランクの無線機に通信が入ってきた。

『おう、ブランク。悪いな、途中で単独行動をさせちまって』

「気にするな。そっちは大丈夫か?」

『あぁ、なんとか全員生きてる』

レックスはブランクの遺品回収に付き合っていたが、途中でレックスの無線機に救援要請が入ったために、
ブランクから離れることになった。

『なぁ、ブランク。遺品回収も重要だけどよ…………お前、感染者を単独100体殺すノルマが………』

「お前と離れてからもう71体殺したよ、心配しなくていい」

『え?…………71体!?』

ブランクのさらっとした口調に騙され、危うくレックスは71体という数を聞き逃すところだった。
そもそも、ブランクとレックスが別行動になってまだ30分しか経っていない。

そんな短時間で71体という数を倒すなんて、もはやベテランの域を通り越している。

『そ、そうか。その調子なら何も心配しなくていいな。じゃあ頑張れ』

通信を切られた。


「まだノルマを達成していない。さて、そろそろ…………」


ザザッ ザザザッ ガーーーーーッ


気合いを入れ直したところで、再び無線機に通信が入ってきた。



『……………………………』


無線の向こうからは、一向に声が聞こえない。

「………?」

しばらく無線機に耳を傾けていると……………











『ごきげんよう、兵士諸君』




ブランクはその声に聞き覚えがあった。

かつて、自分達と共に感染者と戦った元同胞の声だ。





『これから始まるのは地獄だ』




『誰も防壁からは出られない』




『全員が犠牲になった兵士達と同じ道を辿る』




『見ればベテランが揃っているようだが、それで安心するのは愚かだ』




『我々も諸君らを全力で殺しにかかる』









『……………………我々を見くびるな、人間』






通信が切られた。


「………………」


奴は兵士達を“人間”と呼んだ。
つまり、完全に人類から決別した。


「…………お前はもう敵だ。フィリップ………いや、“スコーピオ”」


ブランクの覚悟は固まった。 
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