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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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決闘-ファイト-

「やっちまった…!」
 いくらムカついていたからって女の子相手に言い過ぎたかもしれない。この世界に来てからの苛立ちと鬱憤を一気にすべて吐き出したサイトは自己嫌悪に陥っていたが、今はある意味もっと重要な問題を抱えていた。
「腹減ったな…」
そう。この腹減りをどうしのぐかだ。ルイズの用意した食事とも言い難いあの侘しい朝食セットを口にしないままだったのは、
ぐーぐー鳴る自分の腹を抑えながら、サイトは唸った。
「サイトさん、どうしたんですか?」
ちょうどそこで、タイミングよくシエスタが現れた。
「ああシエスタ。実は今、腹減っちゃってて…」
「そうなんですか?だったら厨房に来ません?賄い食がまだあったと思うので」
 彼女は学院の校庭の端に建てられていた二階建ての小屋へ案内する。そこがこの学院の厨房だった。
 


 厨房で用意された賄食だが、その味はとても絶品だった。これらは生徒たちが食事で残したものだと言っていたが、こんなものを残した生徒たちの舌を疑いたくなった。
「まいううううううううう!!!」
 もう地球ではだいぶ前に流行って忘れられつつある言葉で、喜びを表すサイト。リスのように口に食べ物を詰め込んでる辺り、相当の感激だったらしい。
「それにしてもサイトさん、ミス・ヴァリエールからご飯貰えなかったのですか?」
「固いパンだったよ。どうせ昼もそんなだろうから…」
「大丈夫なんですか!?貴族の方にそのような態度で…」
 不安げに尋ねるシエスタだったが、サイトはルイズの他人への態度とは思えない行いを思い出して憤慨した。
「貴族がなんだよ。魔法が使えるからとか身分が高いからって威張りやがって!確かにそりゃ能力としちゃすごいとは思うけどよ」
 昨日の夜からサイトは苛立ちの境地だった。クール星人に誘拐されかけて命が助かったまではよかった。だが、見知らぬ場所にいきなり呼び出され、謝りもせず藁で寝かして、朝食は固いパンにまずいスープ?誰だって嫌になるだろ!とブツブツ言いながら。
 それに魔法…よくよく考えれば、確かに地球人から見るとすごく、そして面白い能力だとは思うが、これまで幾度も地球で暴れた怪獣や異星人の強大な力と比べると大したものではない。
「す…すごい!サイトさん勇気あるんですね。貴族に媚びたりへつらったりしない立派な姿勢。
尊敬しますわ!」
「い、いやぁそれほどでも…」
 シエスタの言葉は決してお世辞ではなかった。憧れに近い眼差しでサイトを見ている。サイトの言葉を聞いたシエスタは尊敬の眼差しで彼を見つめながら褒め称えると、サイトは照れながらも謙遜の言葉を口にした。
「ですがほとんどの方が魔法主義の方です。中にはオスマン学院長のような、平民や貴族関係なく皆を公平に扱う立派な貴族もいますけど…」
 彼女が言うにはこの学園の長たるオールド・オスマンは平民にも良くしてくれる人物らしかった。サイトはその人物に興味を抱く。
「ミス・ヴァリエールもそういった、敬られるに相応しい立派な貴族になろうとしているんだと思いますよ。実際、私はあの方を貴族様の中で尊敬しているんです」
「え、そうなの?」
 あのルイズを!?サイトは目を丸くした。
「ええ、私もお世話になったんことがあるんです」
 シエスタの話によると、彼女は以前ある男子生徒に絡まれたことがあったらしい。目的はシエスタを自分のメイドにする…というのは建前で、実際はシエスタを自分の慰み者にしようとした下劣な目的があったという。もちろんこれは立派な校則違反だ。貴族たるもの、平民相手に規範となるべく精進するのが最も理想的。だが、権力を持って調子に乗るあまり、自分より身分の低いものを相手に暴威を振るうこともある。無論、他の連中の目の届かぬよう狡猾に見謀らないながら、だ。
 貴族に逆らえない立場のシエスタでもそんなのは嫌だが、相手が貴族では断ることもできない。「先生に報告しますよ!」と言っても、必ずしも聞き入れられるわけではないのだ。中には「貴族を悪く言う平民には罰を与えるべきだ」などと抜かし、結局平民が泣きを見るパターンも少なからずあるのだから。
 どうしたものかと思った時、ルイズが現れてその男子生徒を爆発魔法で退けた。その後ルイズは同級生を傷つけたとして罰則を受けたのだが、その男子生徒は学校の風紀を乱し、未遂とはいえ貴族にあるまじき婦女暴行罪で学院を退学させられたという。自分が罰を受けることも顧みず自分を助けてくれたルイズに、シエスタは大きな恩義を感じていた。
 あのルイズが…。自分が思っているような、ただの高慢ちきな女じゃなかったのか。ほんの少しだったが、サイトはルイズへの認識を改めた。でも同時に思う。シエスタを助けるだけの優しさがあったのなら、少しくらい俺に分けたっていいのに…よくわからん。
 食べ終わると、シエスタはサイトに微笑みながら食器の片づけをしはじめた。
「なぁシエスタ。食わしてもらった礼に何か手伝うよ」
食わせてもらってばかりでは申し訳ない。サイトはシエスタに手伝いを申し出た。
「ホントですか?じゃあデザート運ぶの、手伝ってくださいな」
「ああ、いいよ」
 二人とシエスタはデザートのケーキを配り始めた。ちなみにちゃっかりケーキが余ったら貰う約束まで取り付けた。



(良心ゼロ…ね…)
 いつまでもいじけているわけにもいかず、ルイズは一人校庭を歩いていた。
(確かに、床の上とかは…流石にやりすぎたわね。あいつにだってそりゃ、考えてみればあいつ自身の事情とかもあっただろうし…それを無視して、当たり散らして…あんなところ、お母様や姉様も見てたら…)
 使い魔は召喚したメイジにとっては最高のパートナーでなければならない。つまり召使でもなければ奴隷でもない。なのに、自分は平民を召喚したことで馬鹿にされて頭に血が上りすぎていたのかもしれない。
 サイトに対する酷い仕打ちをしたことに申し訳ない気持ちが沸いていた。
(でも、だからって謝るのも癪だし…私は貴族よ!平民相手に謝るなんて、貴族としての面目が立たないわ!
だ、第一あいつだって、あんな最悪な言い方ないじゃない!
…でも、そもそも私が召喚なんてしなければ、それにご飯もちゃんとしたものあげなかったから、あいつだってあそこまで怒らなかったかもしれないし…
べべ、別にあいつのことなんかなんとも思ってないわ!ただ、そ…そう!使い魔の信頼も尊敬も勝ち取れないメイジのままじゃ、実家にいるお母様たちに申し訳が立たないし、私の貴族としての尊厳に関わるから!そう、本当にそれだけなんだからね!)
 でも、謝るという選択肢は浮かばなかった。それは貴族としてのプライドと、ルイズ自身の気位の高すぎる性格が、素直にさせてくれないのだ。一人心の中で、地球で言うツンデレキャラを発揮するルイズに、とりあえず『乙』という言葉を与えてあげてほしい。
 とりあえず彼を探しに行くことにした。
 ふと、ルイズは中庭の方にやたら生徒が集まっているのを見つけた。何やらヤジが飛んでいるように見える。すると、人ごみの方から涙目の後輩生徒『ケティ・ド・ロッタ』が走り去った姿を目撃し、その後は同級生の『モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ』がおぼつかない足取りで現れた。
「ど、どうしたのよモンモランシー?どうして泣いてるのよ?」
「…今は放っておいて頂戴」
 彼女も時折ルイズを笑う立場にあったのだが、今回ばかりはそんな気も起らなかったようだ。モンモランシーはそのまま歩き去ってしまった。
 人ごみの方で何かあったのだろうか。ルイズはヤジの溜っている中庭の方へ向かった。



 サイト視点に変えて時間を巻き戻そう。
 サイトがデザートを運びに行った先の中庭に用意された白いテーブルがいくつかあった。ここで学院の生徒らは昼のおやつタイムを満喫しているのだろう。人が一時ひもじい思いをしている時に…とはサイトは気にせずシエスタのお手伝いでデザートを配っていった。
「なあ、ギーシュ!お前誰と付き合ってるんだよ?」
 二人がケーキを配っているとそんな声が聞こえてきた。
「付き合う?バカを言っちゃいけないよ。僕は薔薇。大勢の女性を楽しませるために存在するのさ!」
(うわ、キザな野郎…)
 なんかキザったらしい貴族の声が聞こえてきた。サイトは正直この痛いセリフを吐いていた奴に嫌悪感を抱く。
 見てみると、ギーシュと呼ばれたフリルつきの胸元が開いたシャツを着た、顔の整った金髪の男子生徒が薔薇の造花のついた杖を持ちながら取り巻き相手に気取ってた。
『ギーシュ・ド・グラモン』。彼もルイズの同級生だ。トリステインの優秀な軍人『グラモン元帥』の息子の一人なのだが、彼の一家の男子は皆女性好きという困った部分で有名でもあった。
 ふと、彼のポケットから何か小さな小瓶が落ちた。気が付いたサイトがそれを拾おうと思ったのだが、シエスタが先にその小瓶を拾った。
「サイトさん、これくらい私がやっておきますので」
 ケーキ運びの手伝いのお礼のつもりだろうか。サイトとしてはこのケーキ配り事態がお礼なのだが、彼女は小瓶を落としたギーシュの元へ向かう。
「ミスタ・グラモン。小瓶を落としましたよ」
 親切な子だ、とサイトはシエスタの対応に関心を持ったが、瓶を見た瞬間ギーシュの顔色が変わった。
「おい君、その瓶は僕のじゃない。下げたまえ」
「でも、確かに今…」
 間違いなくあなたが落としたはずではと、シエスタが問い続けようとすると、小瓶の正体に気づいた同級生の一人が声を上げた。
「それって、確かモンモランシーの香水だろ!」
「じゃあお前、モンモランシーと付き合ってたのか」
 しまった。このときのギーシュはそんな顔をしていた。何やらバレてしまったら不味いことを明かされてしまったらしい。さらに彼の視線の先には、自分の元へ歩み寄ってくる栗色髪の可憐な少女が近づく姿があった。
「ギーシュ様、噂通りミス・モンモンラシとお付き合いをしていたのですね…私のことなんか、結局ただのお遊びだったと言うわけですか!」
「ケ、ケティ…違うんだ、これは――」
「さよなら、嘘つきのギーシュ様!!」
パァァン!
 ケティと呼ばれた娘の平手がギーシュの頬を叩いた。さらに入れ替わるように、ケティが走り去ると次に遠くの席から、金髪ロール髪の少女もやってくる。サイトは彼女に見覚えがあった。昨日や今朝の食堂でも顔を見た子だ。
「モ、モンランシー違うんだ! 彼女とは近くの森に二人で遠出しただけで!!」
パアアアン!!!
「最低!さよなら!!」
 さっきよりも甲高い音が響くと同時に、ギーシュの頬は真っ赤に染められた手形を描いていた。だがモンモランシーの目尻にも涙が溜り、傷ついた心を表すように目が赤く染まっていた。
「…どうやら彼女たちは薔薇の意味を理解していなかったようだ」
 自分を振った女の子の心を察知もせず、ギーシュは勘違いなのか、それともフラれたショックを誤魔化しているような…いや自らの過ちから目を逸らすあまり妄言を吐く。
(こいつ、本気かよ…馬鹿だな)
 サイトは正直目も当てられないほど呆れていた。だが、さらに信じられない言葉を聞くことになる。
「君のせいで二人のレディが傷ついた!どうしてくれるんだね!!」
 こともあろうか、彼は親切に小瓶を拾ってくれたシエスタに責任転換してきたのだ。どう考えてもギーシュの自業自得ではないか。だが、何一つ悪くないのにシエスタは顔を真っ青にしてギーシュに頭を下げた。
「も、申し訳ありませんでした!」
「謝って済む問題ではないぞ!一体どうやって償ってもらおうか?」
 手に取った薔薇を象った杖を手に取るギーシュ。魔法を使って何の罪もないシエスタを傷つけるつもりなのか。
 ピキピキ…!!サイトはこめかみの血管を膨れさせた。あん時のルイズといい、このキザ野郎といい…貴族ってのは人間的にねじ曲がりすぎた奴らばかりなのか!!?地球人じゃない人は、ウルトラマンを除けばどいつもこいつも人を傷つけるのが当たり前だと思っているのか!?
 もう我慢ならず、ついにサイトはシエスタを背に、ギーシュの前に立ちふさがった。
「止めろ!!」
「ん?なんだね君は?僕は今彼女と話をしているんだ。無粋な第三者に用はないよ」
 まるで蠅のようにサイトを厄介者扱いするギーシュは、しっしとあっちへ行くように薔薇の杖を振う。だがサイトは引き下がらない。相手が魔法を使う貴族だとか言っているが、サイトはこの目でもっと怖いものをこの目で見てきたおかげなのか、それともルイズを含めた貴族連中への怒りのせいか、ずっと貴族の圧力におびえてきたこの世界の平民のシエスタと違い恐怖を微塵も感じていなかった。
「関係あるとかないとか、シエスタこそ関係のない子だろうが!二股かけたお前の自己責任だってのに、この子に八つ当たりするなんてどうかしてるだろ!」
「そうだギーシュ、お前が悪い!」
 ギーシュの取り巻きや他の生徒達から批判的な声が上がった。中にはルイズが受けたような、ギーシュを馬鹿にする笑い声もある。しかしそれが逆に悔しくみじめに思えたのか、ギーシュは己の過ちを認めようとせず言い訳を続けた。
「僕は君が香水を拾ったときに知らないフリをした。話を合わせるぐらいの転機を気かせてもいいんじゃないかい。おかげで二人の女性が悲しむはめになったじゃないか?」
「は?誰のせいだと思ってんだよ?お前さっきの…モンモンだっけ?」
「モンモランシーだ!君は僕の愛しの人の名前を間違えるなど、彼女を馬鹿にしているのかい!」
「うるせえ!馬鹿にしてたのはてめえだろ!それになにが愛しの、だよ!さっきのあの子、去り際に涙を溜めていたのが見えてなかったのか!!それも分からねえなんて、てめえは彼女の気持ちを弄んだ糞だ!」
 間違いなくあのモンモランシーという少女は、ギーシュから遊ばれているだけの身だと思って酷く傷ついていしまっているに違いない。見るからに泣くのをこらえていた顔だ。それだけ悲しくて、怒って、そして屈辱的だったはずだ。
 自分のためなら平気で人の心を踏みにじる…このときのサイトにとって貴族とはこれまで地球を襲ってきた侵略星人となんら変わらなかった。
 だが、彼女の涙を話に持ち上げられてなおギーシュは自らの罪を認めようとしない。認めなくなかったのだ。こいつの言い分は正しいと頭でわかっていても、こんな平民ごときに引き下がっては貴族の名が廃ると、かえって己の品位を落としていると言うのに彼はサイトの言葉を受け入れようとしなかった。どちらにせよ、貴族以前に人としてあるまじき振る舞いだ。
「どうやら君は貴族に対する礼儀というものを知らないようだ」
「あいにく貴族なんていない所から来たんでね」
「ふっ、いいだろう。君に礼儀を教えてやる。決闘だ!!!」
 決闘と聞いた途端、周囲がざわつき始めた。ギーシュの決闘という名の責任転換がよほどのことに聞こえたのだろうか。
「決闘?」
「そう、決闘だ。君と僕、一体一でのね!」
 つまり、僕を納得させたければ実力で勝って見せろと言うことか。単純な話だ。だったらこいつをとことんボコせばいい。
「おもしれえ、やってやるよ!後で吠え面かくなよ?」
「サ、サイトさんすぐに謝ってください!」
 不敵に笑うサイトの傍にいたシエスタは顔を青くしていた。貴族の恐ろしさを知っているシエスタは彼が酷い目に合わないように必死だった。
「どうして?悪いのはあいつだろ?」
 そんなことを知らないサイトにはなにを言っても無駄だった。もう彼の運命は一つしかない。そうとしか思えなくなったシエスタは青かった顔を白くし震えだした。
「―ちゃう…」
「?どうしたシエスタ…」
「あなた、殺されちゃう!」
ガタガタと震え、彼女はバッ!と身を翻して走り去ってしまった。
「おいシエスタ!!…どうしたんだ?」
「あははは、あのメイドは賢いね。メイジである僕の力を恐れて引き下がった。それに引き換え君はなんと愚かなことか。まぁもっとも君の主人はあの『ゼロの』ルイズだ。なら仕方ないかもしれんが」
 ギーシュはわざわざ『ゼロの』を強調してルイズの名を口にした。
「おい、ルイズは関係ねーだろ! つかアイツ頭いいんだろ!!成績優秀って聞いたぞ」 
「おやおやなにを言いだすかと思ったら… 確かに頭は良いが魔法が使えない時点で彼女は優秀どころか最低の落ちこぼれだよ。そんなことも分からないとは、さすがゼロの使い魔」
 ギーシュの言葉に同意するかのように他の生徒達も笑い声を上げながら好き勝手言い始めた。
 内容は主人ともども無能だの、あの能なしの貴族の面汚しの使い魔だから下等なのはあたりまえだの。サイトとルイズに対してあまりにもひどい言いようだった。サイトは怒りに震えた。
 こいつら貴族は人をどこまでもバカにしやがって!しかもこの騒動に関係ないルイズのことまで!
ルイズは…こんな感じにゼロって言われてバカにされてたのか。一方的に。サイトは自分がルイズをバカにしたことを思い出した。確かシュヴルーズという先生が仕切っていた授業では、座学で頂点に上っていたと言うルイズ。男子生徒に絡まれたというシエスタを助けたルイズ。その点については誰よりも褒めるべきだし、彼らよりもまともだろう。でも、こいつらは…!誰にだってできることとできないことくらいはある。それはこいつらにだって言えることだ。それも分かろうともせず、人のことをとことん見下す。ほんのちょっとの欠点をいやらしく責めては罵って侮辱する。
 あの時は、ルイズに苛められたことに対しての仕返しのつもりだったが、今までの彼女の受けた屈辱について考えたら罪悪感が芽生えてきた。後でちゃんと謝ってやろうかな。でも、それよりもこいつらのことが許せない。
見せつけてやる。ルイズの分もこいつをボコって見返す。
「おい、キザ野郎!どこでやるんだ?」
「決闘はヴェストリの広場で行う。逃げずに来たまえ」
 二人の決闘が決まり、ギーシュは体を翻し先に広場へと向かった。と、同時に人込みを分けルイズがギーシュと入れ替わるように寄ってきた。
「何やってんのよ、あんた!」
見るからにまた怒っている。
「よおルイズ」
「よお、じゃないわよ!何事かと思って来てみれば!そこですれ違ったメイドから全部聞いたわよ、何勝手に決闘の約束なんてしてんのよ!!」
 先ほど逃げたシエスタからここに至る経緯は既に聞き及んでいたらしく、ルイズはサイトに怒鳴りつけ彼の手を引いて歩きだした。
「どこ行くんだよ?」
「ギーシュに謝りにいくのよ。今なら許してくれるわ」
「嫌だね、なんで俺が謝るんだよ」
 ルイズの手をふりほどいて、サイトは自分の非を認めなかった。そもそも、この二股騒動の件についてギーシュ以外に非など誰として何一つなかったが。
「あんた何も分かっていないわね。平民は貴族に勝てないの、ケガで済めば運のいい方なんだから!」
「うるせぇな、そんなことやってみないとわからないだろ!とにかく見てろ、これに勝って俺とお前の汚名を挽回してやる!」
――――え?今、なんて…?
呆けているルイズをよそに、サイトはちょうど目に入った金髪太っちょの生徒…シュヴルーズの授業でルイズに一言馬鹿にしたセリフを吐いたマリコルヌに広場の場所を尋ねていた。
「なあ、ヴェストリの広場ってどこだ?」
「ああ、あっちだよ」
「ちょっとマリコルヌ!?」
 サイトは広場の場所を知るや否や、ルイズの手を振りほどきギーシュの取り巻きに連れられ広場に向かっていった。
「もう、使い魔の癖に勝手なことするんだから!」
怒りながらもサイトを放っておくことはできず、彼女はサイトを追い始めた。

…とりあえず突っ込まないでほしい。サイトの言った『汚名挽回』は間違いで、本当は『汚名返上』というのが正しい表現ということについては。




一方で、学園長室。
「ありとあらゆる武器を使いこなし千の軍をも一人で壊滅させ、並みのメイジですら敵わなかったとうガンダールヴ…のう」
 コルベールの描いたサイトのルーンのスケッチと、彼の持ってきた文健に描かれたルーンの絵。その二つは不思議な子とそっくりだった。
「はい、調べたところ黒髪の少年に刻まれたルーンはガンダールヴのものだと分かりました」
「のうミスタ・コルベールよ。あの少年は本当に平民じゃったのか?」
「その事なのですが、ディティクトマジックを使用した際、特に魔法の反応はありませんでしたので黒髪の少年は平民と判断しました」
 コルベールがそこまで言った時、扉がノックされロングビルの声が聞こえてきた。
「学院長、生徒がヴェストリの広場で決闘を行おうとしています。教師が止めようとしましたが生徒に阻まれられて止められないようです」
「やれやれ。で、生徒の名前は分かるかの?」
 オスマンはため息交じりに生徒の名前を尋ねる。
「一人はギーシュ・グラモンです」
グラモンと聞いて、まるで以前に何か聞いたことがあるのか、彼は呆れた様子だった。
「グラモンとこのバカ息子か。恐らく女の子の取り合いじゃろうて。して相手の生徒は?」
「それが生徒ではなくミス・ヴァリエールの平民の使い魔です」
 ルイズの使い魔。それを聞いて、オスマンとコルベールは互いの顔を見合わせた。ロングビルは扉越しに続ける。
「教室達は決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用を求めていますが?」
「アホか!子供の喧嘩に秘宝など持ち出せるか!放っておくのじゃ」
「分かりました」
 そう返事をするとロングビルは去っていった。彼女が去った直後、コルベールは強い口調で詰め寄った。
「よいのですかオールド・オスマン!平民と貴族では勝負になりません!あの少年の身が危ないですぞ!学院から貴族の出来心で平民に死者が出たりしたなどという事実が王宮に知れ渡ったら…」
「待つのじゃ。ミスタ・コルベール、その少年がガンダールヴか確認するかよい機会じゃ。大丈夫じゃて、危なくなればきちんとわしが責任もって止めるからの」
「はぁ…」
 コルベールがしぶしぶ納得すると、オスマンは杖を振り壁にかかった遠見の鏡にヴェストリの広場の様子を映し出した。
「さて、本当にガンダールヴなのか…」
 このとき、彼らは予想もしていなかっただろう。今のサイトには、この世界で伝説と謳われた存在『ガンダールヴ』の力だけではない。

もっと別の…それも誰もが想像を絶するほどの力を知らずの内にその身に宿していたことを…。



 その頃…。
 地球からの脱出に成功し、サイトが転送された先の惑星の座標を割り出したクール星人たちは、残った小型円盤の群れを成して、ハルケギニアの存在する惑星『エスメラルダ』へとたどり着いていた。
「やはり、この星は面白い。姿形は偶然にも地球人にそっくりだが、そんなことはどうでもいい」
 モニターから地表の街や村の映像を眺める一体のクール星人はそう言うと、別のもう一体のクール星人も言葉を放った。
「そうだ。我々が求めているのは…この星の知的生命体どもの持つ特殊な力だ。それを科学的視点で解析を行う。そうすれば、我らクール星の軍事力は飛躍的に上昇するやもしれない」
「さっき我らを邪魔し、せっかくの標本を取り逃がした原因となった『奴』もここまでは追ってこれまい。くく、狩り放題だな」
「これより、標本採集に入る。全員配置に付け!今度こそ標本を手に入れるのだ!」
 円盤すべてを指揮するクール星人のリーダーがそう命じたとき、クール星人の円盤軍団は怪しげな飛行音を鳴らしながら、エスメラルダへと近づいて行った。



「諸君、決闘だ!」
 風と火の塔の間の中庭、ヴェストリの広間の真ん中にはサイトとギーシュが互いに向き合い、その周りには娯楽目的で集まった男女問わず多くの生徒達により囲いができていた。ギーシュの叫びにより、その観客達から歓声が響く。
「逃げずに来たことは褒めてやろう!」
「逃げるわけないだろ」
 こんな奴相手に逃げたら男が廃る。サイトは拳を鳴らしながら気合を入れる。
「ギーシュいい加減にして!決闘は禁止されてるじゃない!!」
 ルイズはそんな観客達の間を潜り抜けて、開けた場に出るとギーシュに向かって怒鳴りつけた。
「それは貴族同士での話だろう?彼は平民、何の問題もない」
「それは!……今までこんなことってなかったから……」
「おやルイズ。もしやあの平民に、清らかな乙女心をときめかせているのかい?」
 つまり、あの平民に惚れているのか?と言っているのだ。ギーシュの冗談なのは間違いないだろうが、言葉に詰まっていたルイズは彼の一言に真っ赤になる。
「な、なに言ってるのよ!自分の使い魔がボロクソにやられるのを黙って見てられるわけないじゃない!」
「ボロクソね…」
サイトはよほど自分が信用されていないことを悟る。
「ふっ、君がなんと言おうと決闘はすでに始まっているんだ!」
だが彼女の抗議むなしくギーシュは決闘を取り行おうとした。
「ちょっとルイズ!あの使い魔止めてよね!」
 困っていたルイズは、突然後ろから声をかけられ振り返った。声の主はさっき泣いて中庭から去ったはずのモンモランシーであった。その理由は、他の生徒達とは違いちょっとした後悔によるものからで、まさかギーシュを振ったらこんな騒ぎになるとは思わなかった。モンモランシーとしては自分の香水が原因で恋人が(すでに元カレだが)八つ当たりで別に悪くもない平民をボロクソにする、というのはあまりいい気分のするものではなかった。だから結局この広場にやってきていたのだ。
「言われなくても止めたけど聞かないのよ、あのバカ犬!」
「だったら止まるまで叫びなさいよ!」
「え〜!?」
 正直無駄に終わると予感していたルイズ。さっきまで酷い仕打ちをしてきたい相手の言うことなど彼が聞き入れてくれるなど怪しい。そう思いながらもモンモランシーの気持ちを汲んでサイトに命令した。
「止めなさい!止〜め〜な〜さ〜い!止めなさいったら!!」
 ルイズは喉が枯れるほど精一杯叫んだが、サイトはギーシュへと全力疾走の突撃。ルイズの声に対して聞く耳なし、というか完全に無視を通していた。
「あ、あの使い魔…主人の命令に従わないの?」
 主であるルイズを明らかに無視するサイトの様子にモンモランシーは信じられないという風に呟いた。
「愚かな、ワルキューレ!」
 ギーシュは薔薇の杖を振うと、杖の造花の花びらが一枚地面に落ちた。すると、その薔薇の花びらは地面に触れた途端に光ると、そこから戦乙女の姿をした等身大の青銅の人形が植物の発芽のごとく生えて出現した。
「うわ!?」
思わずサイトは足を止めて驚いてしまった。
「自己紹介がまだだったな。僕の二つ名は『青銅』、青銅のギーシュだ。したがって青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手する。僕はメイジだから卑怯だとは言わせないよ?メイジが魔法を使って戦うのは当然のことだからね」
「んなのありかよ!一対一って話じゃ…」
 そうサイトが文句をたれていると、ワルキューレは一気に接近し彼の腹に重い拳が打ち込んだ。強力な拳を食らったサイトは吹っ飛ばされてしまう。
「ぐふぅあ!?」
「サイト!?」
吹っ飛ばされた彼の元へルイズが駆け寄った。
「分かったでしょ。平民は絶対に貴族には勝てないのよ」
ルイズは心配そうな表情でサイトを抱き起こした。
「へへ…今、初めて名前で呼んだな」
「っ!こ、こんな時に何言ってんのよ!」
 サイトが苦笑いしながら言った言葉を聞いて、ルイズは自分でも分からず頬を赤く染めて思わず怒鳴つけてしまった。
「…危ねえからどいてろ」
 そう言いサイトはルイズを押しやって痛みに耐えながらも立ち上がった。その様子を見てギーシュが呟く。
「ほう、手加減がすぎたか」
「うるせぇ、いきなりだったから油断しただけだ」
 サイトは鼻の頭を親指で撫でて強がってみせる。青銅は金属の中で脆い方ではあるが、金属は金属。人間の体に打ち込めば滅茶苦茶痛いことに変わりない。
「どうして立ち上がるのよバカ!」
「ムカつくからだよ」
「え?」
 サイトの答えがルイズには理解できなかった。むかついたからといって貴族に逆らう平民がいるか?
「なぁルイズ、お前ら貴族は魔法が使えるからって人を見下せるほどに偉いのかよ…。はっきり言ってムカつくぜ。さっきお前にも言ってたけどさ、こいつの考えていることははっきり言って、俺の故郷を何度も攻めてきた侵略宇宙人と変わらねえ…!」
「それは…」
 その宇宙人という単語の意味がわからなかったが、少なくとも悪意ある存在のことを言うのだろうと悟ったルイズは、言葉を詰まらせた。
 魔法の恩恵がなければ貴族…メイジは生きていくことはできない。それがこの世界での価値観だ。だが、だからといって弱き者を見下したり暴力をふるうことなどが許されていると言ったら否だ。ここ最近のトリステインは、魔法が使えると言う自尊心と古いしきたりと伝統にこだわるあまり、そう言った人として当たり前なことを忘れる傲慢な貴族ばかりが増えて国を腐敗させている。せっかく召喚した使い魔がただの平民だった腹いせに、サイトへのきつい仕打ちをしてしまったことを恥じたルイズも、自分がその一人でもあると思うと恥ずかしくなった。
「…ごめんな」
「えっ?」
い きなりのサイトの謝罪の言葉をルイズは先ほど同様理解できなかった。
「シエスタから聞いたよ。お前男子生徒に絡まれてたあの子を、懲罰覚悟で助けたんだってな。座学でもトップってことはそれだけ努力してたこともさ。なのに、必死になって頑張ってたお前を他の奴らみたいにゼロってバカにして」
「こ、こんな時になにを…」
 あのメイド、余計なことを…と照れる思いを感じながらもルイズはサイトの方に手を置いていた。
「だからよ、償いってわけじゃねえけど、そんな頑張ってるお前をバカにしたこのキザ野郎と他の奴らの分も含めて、ぶん殴ってやるぜ!!」
 そう叫びサイトはギーシュのワルキューレに向かって走りだした。
「ちょ、ちょっと待って!そんなことしなくていいわよ!やめてぇ!!」
 ルイズの悲痛な叫びの中、サイトは突っ込んだ。だが生身で敵うはずなく青銅の拳を顔や体中に食らいボロボロになっていった 

…はずだった。

ガス!!

「っぐ…!!」
 サイトはワルキューレからの顔面パンチで鼻血を出してしまう。
「終わりかい?なんだったらごめんなさいの一言で手打ちにしてやってもいいんだぞ?」
「うるせぇ 、休憩中だ……」
 ハンカチで鼻を押さえながらサイトは鼻血を拭く。ちょうどポケットにハンカチを入れっぱなしにしていたのでちょうどよかった。
「お願い、もうやめて。もういいじゃない、あんたはよくやったわ。こんな平民見たことないわよ」
 サイトの血を見てゾッとしたのか、心配して彼の傍に駆け寄ったルイズの鳶色の瞳には涙が浮かんでいた。会ってから高慢な態度をとり続けてきた彼女の泣き顔に、サイトは動揺しただけでなく、思わず何かに引き込まれる感覚を覚えた。
「泣いてる…のか…!?」
「な、泣いてなんかないわよ!」
気付いたら涙目だったことにルイズは恥ずかしくなって顔を真っ赤にするとサイトの頭をバチンと叩く。
「あいて!!…ったく、叩くことないだろ」
 ルイズに文句を言いながらも、サイトは再びギーシュと彼の使役するワルキューレを睨む。
 あのワルキューレとやらは、剣を持っている。ギーシュは余裕の表れのつもりで使わせていないようだが、まずはあれを奪い取ってやれば、こちらも武器を取ることができる。そうなれば少しはこちらが有利になるはずだ。
「っつ!」
サイトは狙い通り、ワルキューレの持つ剣へ手を伸ばし、それを掴みとり、強引にそれを奪い取った。すると、サイトの今の行動におお!とヤジから歓声が上がる。
「ほう、剣を取ったか。だが剣一本手にしたくらいで、僕のワルキューレを倒せると思うな!」
 ギーシュも素直にやるなと思ったが、それでも自分が優位に立っていると自覚していた。
 たかが剣。それも自分が作り出したものだ。今よりももっと固く丈夫なものを作ればいい。ギーシュは新たに青銅の槍を作り出し、それをワルキューレに持たせた。
「もう止めなさいサイト!あんたが武器を取った以上、ギーシュは絶対容赦しないわ!これは命令よ!」
「…なあ、ルイズ」
 命令してくるルイズに背を向けたまま、サイトは静かに語りかけてきた。
「俺を、元の世界に戻すことってできないんだろ」
「そうだけど…今は関係ないでしょ!」
「とりあえず俺のことは使い魔でいいさ。やってやるよ…生きるためだからしょうがねぇ……でもな!」
 サイトはルイズの手を振りほどき地面に刺さった剣の柄を両手で握る。なぜ俺がビクビク怯えて『お願い貴族様助けて』って感じに負けを認めなければならないんだ?
 こんな奴にだけは、頭を下げるわけにはいかない。もしここで頭を下げてしまったら…。

俺を、俺たち地球人を凶悪で卑劣な侵略者や凶暴な怪獣たちから守ってきた、

GUYSやウルトラマンたちに申し訳が立たなくなってしまう。

だから!!

「下げたくねぇ頭は、下げられねええええええ!!」

ブン!!

サイトはワルキューレから奪い取った剣を両手で持って構えた。

 その時だった。

彼の左手の甲に刻み込まれた使い魔のルーンが、青く光り出した。

「さあ行け!ワルキューレ!」
 命令されたワルキューレは、敵であるサイトに向かって槍を突き出した。
 もうだめだ。サイトの体はあの槍に貫かれてしまうのだ。ルイズは目を当てることもできず目を伏せた。

 しかし…。

「デエエエヤアアア!!」

青銅のワルキューレはサイトが放った横一直線の一太刀でいとも簡単に切り伏せられ、ただの青銅屑となって芝生に転がった。
「な!?」
 ギーシュにルイズ、モンモランシーをはじめとした、広場にいた全員は突然発揮された彼の力に驚いた。しかしそれはサイト自身も同じであった。
(昔見たメビウスとヒカリの剣捌きを真似た感じで振っただけだってのに…いや、それよりも!)
 剣を持った時からだ。手の甲のルーンとやらが、不思議な輝きを放っている。
そのせいか、体が軽くて非常に楽になっていたのだ。
まるで自分が空気か何かになったかのように、重みを感じない。
でも、それだけじゃない。今の自分にできないことはなにもない。怖いくらいの自信がみなぎっていた。
これなら…行ける!
「く!たかが一体倒したくらいで!」
 ギーシュは残りの造花の花びらを全て舞わせ、今度は本気だと言わんばかりに各々槍や剣、盾などを武装させた6体のワルキューレを造りだし、それすべてを一斉に彼に向け突撃させる。
 一体のワルキューレが槍を突き出す。サイトはそれを、後ろに飛んで避けた。そう、飛んで避けたまでは普通だった。だが、飛んだその直後からが、そうでなくなっていた。

―――!?

 後ろに飛んだとたん、地面が離れて、離れて…気が付いたら5メートル近くも高く飛んでいたのだ。スタッと着地すると、ヤジの生徒たちが騒ぎ出した。
「お、おい!あの平民5メイルは飛んだぞ!!」
「まさか、メイジだったのか!?でも杖は使ってないし…」
「じゃあエルフなのか!?」
「い、いったいどういうことなんだ…!」
 ギーシュは激しく動揺していた。ただの無能な平民。それだけのはずだった目の前の男。だが、彼は本能的に理解していた。しかし心から認めることはできなかった。
(あいつ、こんなに…!?)
 ルイズもこれには目を奪われていた。ただの平民かと思っていた。でも、そうではなかった。魔法を使ってはいない。でも、それでもあいつは人間離れした跳躍力で5メイル飛んで見せたのだ。『ゼロ』と罵られた、自分とは違って…。
(なんで俺、あんなに飛べたんだ…!?俺、一体どうなってんだ!?)
 サイト自身、さっきと同じように…いやそれ以上に驚いていた。たった今体感した、自分の驚異的な身体能力に。
…いや、そんなことはどうだっていい。これが今の自分の力だというのなら…このムカつくキザ野郎をぼこして後悔させてやるまでだ!
「……おい」
静かに、怒りをにじませた声でサイトはギーシュに言葉を放つ。
(な…なんだこの平民?急に様子が…?)
 ギーシュは、さっきまで侮っていたこの平民に、とてつもない恐怖とプレッシャーを肌で感じ取っていた。信じられなかった。たかが魔法も使うことのできない下級民族、平民の癖に、名門貴族グラモン家の嫡子たる自分が、恐怖している!?一体、どこからこんな覇気を出していると言うのだ。まるで、自分が巨大な何かに見下ろされている蟻のようだ。
「てめえ…覚悟できてんだろうな?」
 剣を逆手に持って拳を引くサイト。素手で殴りかかる気か。それならばすぐに青銅の盾を作って防げば問題はない。
「…いくぜ」
 瞬間、サイトの姿が消えた。一体どこへ!?誰もが辺りを見渡してサイトの姿を探す。だが、サイトの姿は影も形もない。と思ったその途端。サイトが、ワープしたのように突然ギーシュの眼前に剣を向けて立っていた。突如の事態に固まりかけたギーシュだが、今がチャンスと見た。自分とワルキューレの間に彼がいる。今の彼は背中ががら空きだ。今なら敢えて自分を囮にすることで後ろを突ける。
「今だ、やれ!」
全く脅かしてくれる。勝利を悟ったギーシュはワルキューレにサイトを攻撃するよう命令した。だが、ワルキューレは動かない。一体たりとも、6体全てがピクリとも動かないのだ。早く動け!そう言おうとした時だった。ワルキューレの体が崩れて初めて、最期に青銅の塊の山が出来上がったのだ。
 まさか、たった…たった一瞬ですべてのワルキューレを細切れにして見せたと!?
「…続けんのか?」
 結構体力を使ったためか、息が荒くなったサイトはギーシュを睨み付けながら尋ねる。
「…いや、まだだ!まだ僕は負けては…!」
 ギーシュは往生際悪く負けを認めなかった。サイトが自分に返答を求めている間にサイトの目の前から下がって薔薇の杖を彼に向ける。
「今から僕の真価を…!」
 真価を見せてやるとは言っているが、それは虚勢…ただの強がりでしかなかった。



「あの少年、ミスタ・グラモンを圧倒していますね…」
「はてさて、どうしたものかのぅ…」
 オスマンとコルベール、そしてロングビルは円境越しに見ていた、広場で起こった出来事に困惑していた。
 この決闘、ギーシュはまだ負けを認めていないが、はっきり言ってサイトの勝ちとなっているのが目に見える。黒髪の少年が、目にも見えぬ剣捌きで青銅のゴーレムを全滅させた。もしかしたら、この世界において伝説の存在『ガンダールヴ』かもしれない。
「学院長、彼の事は全て王宮に報せるべきでは?」
 知らせるべきと思ったコルベールであったが、オスマンはそれを否定した。
「ミスタ・コルベール、このことは他言無用じゃ」
「何故です!?千人ものメイジでさえ歯がたたなかったあのガンダールヴはまさに世紀の大発見ですぞ!」
「だからこそじゃよ。伝説の使い魔らしき存在を手に入れたら、戦好きの軍人どもは喜んで戦争をおっ始めるやもしれん。この事は教師、生徒や使用人共々秘匿するのじゃ。よいな?」
「な、なるほど…はは!学院長の判断恐れ入ります」
 コルベールは、下手をすればあの平民の少年が戦争のための道具にされかねなかったことに気づき、自身の先見の目の足りなさを感じ、少年の力については口外しないことを決める。
 とにかく状況が状況なだけに、情報を外部の人間に知られないように手を打った。
だが、その時だった。

ビイイイィィィ!!!!ズオォォォォン!!!

 突然何かを引きずったような音が鳴り響いたと思ったら、外から常識外の爆発音が響き、学院の建物に地鳴りが走った。当然コルベールとオスマンもそれを肌で感じた。
「な、なんじゃ!?」
 円境を再び覗き見ると、生徒たちに向かって上空から正体の読めない奇怪な光が降り注ぎ、学院に攻撃してきているではないか!
「ミスタ・コルベール!ミス・ロングビル!全教師を集め、急いで使用人も含めた皆の者に避難を呼びかけるのじゃ!」
「「は、はい!」」
 オスマンに命令された二人は、直ちに同僚の教師たちに生徒・使用人たちの避難を呼びかけに向かった。




 一方、異常事態の起こった校庭。
 何の前触れもなく、突然学院の上空から正体不明の光線が落雷のごとく落下し、学院の外壁を破壊した。
「「うわあああああああああ!!!!」」
 急な出来事に混乱し、サイトたちの決闘を見に来ていたヤジの生徒たちはたちまち大パニックに陥る。どこからともなく飛んでくる光によって、学院が壊されていく。
 この驚愕が最も大きかったのは、サイトだった。
「な…あれは!」
 空を見上げた時の彼は、ショックを受けすぎて言葉も失いかけていた。赤い三角錐から赤いキノコを生やしたような奇怪な形の円盤が数機、学院のはるか上空から列をなして飛行しているのだ。あの船、間違いない!
「クール星人!!」
 そう、サイトがこの世界に来る前に彼と秋葉原の街の人たちを襲ってきた宇宙人『宇宙ハンター・クール星人』の円盤だった。あの時謎の青い発光体によって母艦である宇宙船を破壊されたものの、小型の円盤が今空に見えている分だけ残っていたのだ。
 しかし、一体どうやってこの星を見つけたと言うのだ。まだ秋葉原での事件からほんのわずかな日数…いや、一日しか経っていないのに!
(俺がこの世界に飛んできた時、この世界の座標を…!?そして超科学技術によるワープでここまで来たってのか!?)



 一方でクール星人の円盤。彼らは今、目的達成まであと一歩まで上り詰めたことで歓喜に溢れていた。地上の人々の心に恐怖を与えていることに、何の罪悪感も感じず。
「まずは威嚇射撃をかけるのだ!混乱して判断力を鈍らせた奴らは逃げ場に向かって一か所に固まるはず!そこを一気に我が船に転送し集めるのだ!」
「了解」
 リーダーのクール星人からの命令を、部下の星人が聞き入れ、引き続き星人の円盤からビームが地上の学院に向けて放たれ続けた。  
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