ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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巨人-ウルトラマン-
校庭は酷い惨事が起こっていた。動かない者にさえも牙を向ける光線。かなり無差別に発射されているため中には負傷者が出てくることもあった。
「うあああ!!」
その中には、サイトに決闘を挑んだあのギーシュもいた。ビームの爆風によって吹っ飛び、足に怪我を負ってしまったのだ。そのせいで彼は走って逃げるどころか、立つこともできなくなってしまう。
「ギーシュ!待って、すぐ…きゃああ!!!」
彼の身を案じてモンモランシーが駆け寄っていくが、彼女の目の前の地面にビームが落下し、彼女の行く手を阻んだ。
「ちぃ!」
サイトはギーシュの危機を見過ごせなかった。剣を握ったまま、その驚異的な足でギーシュに接近、近くにいたモンモランシーと併せて二人、肩に担いでまだ攻撃を受けていない北側の塔の物陰に二人を運んだ。
「ふう…二人持っても結構楽だったな」
人間を二人も担いで疲労をあまり感じなかった。自分の変異した身体に改めて衝撃を感じるサイトだった。
「き、君…」
なぜ僕を助けた。この時のギーシュはサイトが自分たちを救った理由がわからなかった。モンモランシーはまだわかる。だが、手痛い目にあわせようと、最悪命さえ奪おうとした自分をなぜ?
「…別にいいだろ」
ギーシュたちから背を向け、サイトは剣を握りしめたまま答えた。
「嫌な奴だろうが、誰かを助けるのに理由がいるのかよ?」
「…!!」
その言葉は、ギーシュの心に強く響いた。走ってその場から去っていくサイトの姿を、彼は無自覚の内に見送っていた。
オスマンの命令で、学院の教師一同は生徒と使用人を非難する班と、攻撃の光を放ってくるクール星人の円盤に向けて、魔法を放つ。
「エア・ハンマー!!」「ファイアボール!!」
しかし、彼らの魔法は人間同士の戦いでならまだしも、はるか上空の物体や生物に攻撃を当てることに向いていなかった。円盤からの距離が遠すぎて、全く当たる気配がない。
「おのれ!卑怯者め、こっちへ来い!」
風系統の魔法の力を自負している男性教師『ギトー』が忌々しげにクール星人の円盤に向かって喚いた。
「ミスタ・ギトー!!下手に相手を挑発なさらないでください!生徒や使用人たちの避難が終わっていないのですよ!」
「ち…魔法さえ届けばあのような奇妙な物体に我らの神聖な学院を土足で踏み込ませなどさせなかったのに!」
シュヴルーズから注意されて舌打ちし、円盤を睨むギトーだが、魔法を直撃させられない現実が、魔法が当たったところで、宇宙金属で構成された円盤に傷一つつけることもできない、無駄なことに気づかせてくれなかった。
「な、なんなの?何が起きたの!?」
ルイズは辺りをキョロキョロ見渡して困惑するばかりだった。どこからともなく降ってくるこの破滅を呼ぶ光に、動くべきかどうかの判断もできない。
「ルイズ、突っ立ってる場合じゃないわ!早く逃げるわよ!」
ルイズはその声で我に返る。気が付くといつの間にかいたキュルケが自分の背を叩いて逃げを促していた。誰もが空から降り注ぐこの光に、逃げ惑っている。今まで学び舎として利用し感謝してきた学院が、崩れ落ちていく。ルイズの心に、怒りが湧き上がってきた。
いや…今なら。今自分があの空に見える円盤に立ち向かい、撃ち落とすことさえできれば…!いや、そもそもどうして自分は逃げている?違う!ここはこの学院と、自分の貴族の矜持のために戦う時ではないのか!?ここで逃げるなど、それこそ『ゼロ』のままだ!
なんとルイズは避難先の北側から反転、杖を構えてクール星人の円盤の方へと走り出したではないか。
「る、ルイズ何してるの!?」
キュルケの静止の言葉も耳に入れない。そもそも嫌っている相手の言葉など聞きたくもなかったルイズは完全に無視を通し、ヴェストリの広場まで戻ってきた。そして呪文を唱え、空に浮かぶクール星人の円盤に向けて魔法を放った。
「当たりなさい!ファイヤーボール!」
しかし、起こったのは小さな爆発が円盤に届きもしない距離で起こっただけだった。元はゼロと揶揄されるほど魔法が不得手なルイズのことだ。自分の貴族たるべきと思っている姿に目が眩み過ぎているルイズは、正常な判断力が著しく欠けていた。それが彼女の、戦いにおける致命的な弱点とも言えた。
それでもなお、彼女は魔法を放ち続けた。だが起こるのは、届きもしない距離での爆発。
(なんで、なんでこんな爆発しか起こせないの!?)
やはり自分はただの『ゼロ』なのか?何もできない無能な奴なのか?これではまた周りの奴に馬鹿にされるだけじゃないか。使い魔であるサイトからもさらに失望を買うだけじゃないか。
(どうせ同じ爆発しか起こらないにしても…いい加減当たりなさい!!)
ルイズはとことん意固地になって魔法をがむしゃらに放ち続けた。
その時だった。たった一発だけ、彼女の爆発がクール星人の円盤の一つに当たったのだ。だが、やはり打ち落とすまでに至らない低威力だった…はずだった。
「地球人以上に原始人臭い奴らだ。確かに不思議な力を持っているようだが、我がクール星の科学力に敵うはずも…」
地上でこちらに暴走しがちな様子で魔法を放ち続けるルイズをモニターから見て、見る者を不愉快にさせる態度でクール星人のリーダーは鼻で笑い飛ばしていた。相手を見下している分、自分たちの母星の科学力に絶対的な自信を持っている。負けるわけがないのだ。
だが、部下の一人のクール星人が喚きだした。
「大変です!今の爆発で被弾した円盤に、ヒビが!!!」
「な、何!!?」
あのちっぽけな爆発で、円盤にひびが入っただと!?クール星人のリーダーは青ざめた。馬鹿な!?あんな原始人…地球人以上に昆虫にも見えるあんな小娘一人に、我らの円盤に傷が入っただと!?クール星人のリーダーの心に焦りが現れる。
いや、これはこれで絶好の機会だ!自分たちの目的はこの星の人間の標本を集めること。ならば遥かに文明の低いはずの世界の住人であるにも関わらず円盤に傷どころかヒビを入れたあの娘はまさに興味深い。標本に、研究対象に相応しい。
「捕獲光線を使え!あの娘を何としても捕まえるのだ!」
一方で地上に残ったままのサイトは人が残っていないか学院の中庭を走り回っていた。これまで数人、まだ残っていた人がいたので彼らを誘導し、しかし相当走りまくったために体力が落ちてしまっている。
ルイズたちは無事だろうか?確か避難した場所は学院から少し距離を置いた森だったはず。そこへ行って安否を確かめに行こう。
と思ったのだが、サイトはここで自分の足を止めてしまうのに十分なものを見つけてしまう。
「シエスタ!」
破壊された学院の外壁が瓦礫となっていた。その傍らに、足を負傷し歩けなくなっていたシエスタが座り込んでいたのだ。不運にも、瓦礫に足が埋まってしまったせいで足にひどい怪我を折ってしまったのだ。
「い、痛…!」
とても走る余裕なんてない。シエスタは痛みで顔を歪ませていると、サイトが超特急で駆けつけてきた。彼の突然の出現に戸惑ったが、彼は構わずシエスタを背中に乗せた。
「シエスタ、しっかりつかまれよ!」
「ひゃ!?さ、サイトさん!?」
シエスタをおぶったサイトはそのまま一気に走り出した。走って走って、避難先の森へと急行する。シエスタは危険も顧みずに自分を助けに来たこの少年の背中が大きく感じた。胸が、不思議とドキドキする。
サイトがギーシュから決闘を挑まれたあの時、彼が殺されると思った自分は恐ろしくて逃げ出してしまった。でも、彼はなんと勇気があるのだろう。こんな状況でなおも心が折れないままでいられる。そして他の誰かのために体を張ることを躊躇わない。
シエスタは、彼に惹かれ始めていた。森に着くと、たくさんの避難者たちが貴族平民問わずそこにいた。
「誰か来てくれ!怪我をしている子がいるんだ!」
サイトは傷を見てくれる人がいないか呼びかけると、真っ先にモンモランシーがやってきてくれた。
「頼む、シエスタの足を治してやってくれ!」
「ええ、さっきの借りもあるし任せておきなさい。あなたは?」
彼女はサイトに怪我がないかを尋ねたが、サイトはまだけがをしていない。だからモンモランシーの問いを違う意味で捉えていた。
「ルイズたちが心配だ、見てくる!」
「あ、ちょっと!」
「さ、サイトさん待って!危険です!」
心配になったシエスタは彼を追いかけようとしたが、足の痛みのせいでバランスを崩して転んでしまう。
「あなたも無茶しないで。傷を見せてちょうだい」
モンモランシーはシエスタを座らせて足をピンと伸ばさせると、傷口から滴る血をふき取り、水の治療魔法をかけてシエスタの傷を癒していった。
「サイトさん…」
去っていったサイトの消えた森の入り口を見て、シエスタは彼の名を呼ぶ。まだ助けてもらったお礼を言ってもらっていない。自分にできることは祈ることだけだ。どうか、生きて戻ってきてほしい。ただそう願い続けた。
「ルイズ、何してるの!止めなさい!」
魔法を放ち続けるルイズを見て、キュルケが見てられず彼女を引っ張ろうとしたが、ルイズは逆にその手を振りほどこうとする。
「離しなさいよキュルケ!逃げたいならあんただけ逃げればいいじゃない!」
「いくら犬猿の仲のあんたとはいっても、知り合いが殺されるところを黙って見てたら目覚めが悪いわよ!」
ルイズはキュルケを嫌い、キュルケもルイズをとことんからかってくるのだが、実は内心ルイズのことを実家の連中ほどキュルケは嫌ってはいなかった。普段の互いの対応のせいで、それに気づけていないだけなのだ。
「キュルケの言う通りだ!逃げろルイズ!」
そこへサイトも、常人離れした速度で二人の元に駆け付けてきた。魔法とは聞こえが良くても、あのくらいの威力ではとてもクール星人の円盤は落とせない。あれで落とすことができたら、今頃自分の故郷はウルトラマンに頼らなくても侵略者の脅威にさらされることなどなかったのだから。
ここへ来たのはサイトだけではない。キュルケの友人の少女、タバサもまたやってきて、指笛を拭いて見せる。すると、遥か空の彼方から、青い体をした一匹のドラゴンが飛来し、タバサの元に降りてきた。タバサの使い魔の風竜『シルフィード』である。
「ど、ドラゴン…!」
ゲームとかで知ってはいたが、所詮架空の何かと思っていたところがあったのか、実物を見てサイトは驚いていた。
「…寝坊助」
「きゅい…」
タバサはシルフィードの頭をこつんと、身の丈ほどある杖で叩いてしかりつける。存在自体が高等な風竜。彼女の使い魔の存在は、召喚したタバサの優秀さを証明するのに十分だった。が、こんな非常事態に気づきもせず寝坊すると言う以外に間抜けなところもあったのである。
「乗って」
緊急事態でも冷静さを保つタバサは、いつもの静かなテンションのまま皆に、シルフィードの背に乗るように言った。キュルケがルイズを引っ張って先に乗せ、自分もその後ろに乗り込む。サイトも乗り込もうと考えたのだが、やめた。まだ逃げ遅れている人がいるかもしれない。
「先に行ってくれ。俺はまだ避難が終わってない人がいないか確かめに行く!」
「さ、サイト!待ちなさい!」
そう言った途端、彼はルイズの引き留める声を無視し、剣を握って走り出した。同時にシルフィードも空へと羽ばたきだす。
「タバサ下ろして!」
サイトを連れ戻さなければ。ルイズはタバサに自分を下ろしてほしいと願い出るが、彼女は首を横に振って断った。
「あなたも巻き込まれる。犬死するだけ」
「でも!」
ここでサイトを死なせてしまっては自分の沽券に関わってくる。…というのは建前で、実際ルイズはサイトの身を無自覚の内に強く案じていたためだった。
すると、彼女たち三人を乗せたシルフィードにもクール星人の円盤はビームを撃ち込んできた。シルフィードは三人を振り落さないように、かつ決して当たらないように、華麗にすばしっこく回避していった。そのまま高く飛び続け、ある程度の距離を保った状態で、タバサは頭上に自分の身の丈以上の巨大な氷の矢を作り出し、それを円盤に向けた。
「…ウィンディ・アイシクル…『ジャベリン』…!!」
彼女が杖を振った時、その氷の矢は円盤に向かって行くが、突き刺さらることなく、円盤に当たった途端砕け散ってしまった。
「タバサの氷の矢も通じない…!」
タバサは若干15歳にしてトライアングルクラスのメイジ。大の大人のメイジさえも歯が立たないこともあるほどの才能の持ち主にして実力者。そんな彼女の魔法がこうも通じないなんて。ルイズは青ざめた。
「タバサがダメじゃ、私の炎でもとても歯が立たないわね…悔しいけど、ここは逃げましょう!」
キュルケは悔しそうに歯噛みしながらも、ここは引くことを提案したが、ルイズが食って掛かる。
「でも、このままじゃ学院は!」
そうだ、自分たち学院の生徒にとって大切な学び舎、魔法学院はどうなるのだと、キュルケの逃亡するという提案に反対する。
「今は、私たちの命の方が大事。勝てない相手に無謀な戦いを挑むのは無駄」
だが、タバサもキュルケの意見に同意する。このまま戦っても奴らの格好の的でしかないのだ。タバサはシルフィードに、一端ここから離れるように命じた。
だが、なおも光線を発射し続けるクール星人の円盤。きっと円盤の中では、相手は怪獣よりもちっぽけな竜一匹だと言うのになぜ当たらないのだと苛立つクール星人の姿があるだろう。だがこの光線は一発当たっただけでも相当危険なもの。タバサもシルフィードも、無論一緒に乗っているルイズとキュルケも油断できない。
しかし、必死に避け続けていくうちにシルフィードにも疲れがたまり始めていた。
「きゅうう…」
「…まだ、諦めないで」
静かな口調のままだが、必死さを垣間見せるタバサ。だが現実を誤魔化すこともできないし状況だって打破できない。ついにふらつきが目立ち始めた。
「…ごめん。二人とも」
タバサはルイズとキュルケに謝った。さすがにこれ以上飛ぶことも難しくなってきていたのだ。
「し、シルフィード!しっかりして!」
ルイズがシルフィードを励ましたが、やはりそれでも体力は戻らない。キュルケも加わってシルフィードを励まし続けるが、無情にもクール星人の円盤のビームが彼女たちに襲い掛かってきた。
「きゃあああああ!!」
「ルイズ!」
サイトも頭上を見上げ、ルイズたちの危機をその目で確認する。
遠く離れすぎているし、空高くルイズたちも飛んでいる。さっき自分が見つけた驚異的な跳躍力をもってしても、とても届く範囲じゃない。
「や、やめろおおおおおおおおお!!!」
サイトは無我夢中で叫び、走り出した。
その時の脳裏に、ある光景が浮かぶ。
『父さん、母さあああああああん!!!!』
―――中学生時代、粉々に吹き飛ばされた町を。瓦礫の山と化した景色を。変わり果てた昔の実家を。そして…。
家族を呼んで子供のように泣き叫ぶ自分の姿を。
『ウルトラマン、早く来てぇ!!』
(絶対、諦めるもんかああああああああああああああああ!!!)
サイトは、クール星人の円盤のビームの脅威にさらされているルイズたちを見て、心の中で胸がはち切れるほど叫んだ。
その時だった。
――――対して取り柄もないくせに、前に出すぎだっての
「!」
今の声は…?いったいどこから?サイトは辺りを見渡す。周りの音が静かに聞こえるほどはっきりと今の声は聞こえてきた。若い男の声をしている。
――――いい加減危なっかしくて見てられねえな
まただ、また聞こえてきた。幻聴などではない。
「だ、誰だ!?さっきから、一体なんなんだよ!」
――――仕方ねえから、てめえに力を貸してやるよ
その時だった。サイトの体、胸から溢れんばかりの青い光が放たれていく。
そしてもう一つ、あまり気に留めていなかった左腕の鉄製のブレスレッドにも異変が起こった。
ブレスレッドからまるで生えてきた植物のように金属が発生し、ガシンガシンと合体ロボットが組み立てられていくような音を立てながら、青い光と共に自分の体を包み始めたではないか。
なんだこれ…!?
うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!
サイトの立っていた場所から、渦を巻きながら蒼く染まった光の柱がまばゆい輝きを放ちながら天へ立ち上り、ルイズたちを包み込んだ。突如のことにルイズたちは近らし、ただ光のまぶしさのあまり目を閉じた。
「何が起こったのじゃ!?」
ルイズたちを除いた全員が避難し終わった森の中から、たくさんの学院の人々が顔を出した。森の中にまで眩しく光が届いていた。
オスマンは目を大きく見開き、光の柱を見つめていた。
「あ、あれは…!?」
コルベールが光のまぶしさを実感しながらも目を凝らしながらその中にある『何か』を見た。
光の柱は、やがて52メイル(メートル)ほどの巨大な人影を作り出し消滅した。
そこに立っていたのは、一体どれだけの分厚さでできているか想像もつかない、部位同士をケーブルで繋ぎとめている鎧とマスク。
ギギギ…と金属音が響き、煙がシュコーっと吹いている。その下に見えるのは青と赤の模様と、タトゥーのように刻み込まれた白きライン。
目を開いたルイズたちが見たのは、そんな姿をした巨人だった。
気が付くと、自分たちは巨人の掌に乗っていたのだ。タバサもキュルケも目を奪われている。
「鎧の、巨人…?」
シルフィードの背中に乗せられていたまま、ルイズがその鎧を着こんだ巨人を見上げながらそう呟いた。巨人は彼女たちを地面に下ろすと、上空のクール星人の円盤軍団を睨む。
「デュ!」
マスクの黒いグラスの奥に隠れた金色の目を光らせながら身構える鎧の巨人の姿は、クール星人たちの円盤のモニターにも映された。映像を見た彼らは、たちまちどよめき、恐怖を摘み隠さなかった。
クール星人の一人が、震えた声でおびえ始める。
明らかに分厚くて動かしにくそうな鎧を身に纏っているが、間違いない。あの鎧とマスクの奥に隠れた姿は…かつて地球人の標本を集めようとして失敗した同胞をはじめ、数多の侵略宇宙人や怪獣たちを葬り去った、一族全員が宇宙正義を掲げる宇宙人…
「ば、ばば…馬鹿な!?
『ウルトラマン』だと!!
なぜこいつらがこの星に!!この星は奴らの管轄外のはずじゃ…」
「来ます!」
クール星人のクルーの一人が、映像に映る…ウルトラマンと呼ばれた鎧の巨人がこちらに接近するのを見てそう叫んだ。
もう皆もお分かりだろう。
地球でサイトがルイズの召喚のゲートに引っかかったことでクール星人の宇宙船から脱出できなくなったとき、宇宙船に突進してきた青い発光体。
その光の正体こそ、たった今サイトが姿を変えたこの鎧の巨人、『ウルトラマン』だったのだ。
「ジュアアアアアアア!!!」
若々しく、そして勇敢でどこか粗暴な掛け声を挙げながら、鎧のウルトラマンはクール星人の円盤軍団に突進し始めた。星人の円盤はすぐにバラバラに散ってウルトラマンの拳から逃げ切った…と思ったら、一機が突き出された拳によって粉々に吹き飛んだ。
「このままでは敵わない!逃げろ!」
すぐに脱出を図るクール星人たちだが、もう時すでに遅し。さらにもう一機の円盤を掴んだウルトラマンは、それを逃げていく2・3機の円盤に向けて投げつける。まるでボールのように投げつけられぶつかり合ったそれらの円盤は火を噴きながら落下し、全部砕け散った。残ったのは一機だけ。その円盤は他の円盤を狡猾にも囮代わりにしてただ一気に逃げだそうとしていたが、全速力でウルトラマンは突進、そのまま拳を突き出した。
「ウゥウゥウゥウゥラアアアアアアア!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」
ウルトラマンの止めの鉄拳制裁を食らい、円盤はひとつ残らず消し飛んだ。
「…」
学生も使用人も、教師たちも、誰もがクール星人をあっけなく撃退したウルトラマンの姿に注目していた。そして、畏れた。今度はあの巨人は自分たちを襲ってくるのではと。
だが、彼はこちらを襲うようなそぶりは見せなかった。両手をまっすぐ伸ばし、風に乗りながら彼ははるか遠くの地平線へ消えて行った。
「行っちゃったわね…」
自分たちにも牙を向けてくるのではと思ったのだが、何もせず去ってくれたのならありがたい。いや、この言い方は失礼というものだろう。あの巨人は、結果的にかもしれないが、自分たちを助けてくれたのだ。
「学院…ボロボロになったわね。みんな無事かしら?」
キュルケが、すっかり変わり果ててしまった学院を見上げながら呟いた。クール星人のビームによって、外壁は完全に役立たず状態だ。きっと直ちに土系統の教職員たちが立て直しを図ることになるだろう。怪我をした人だって大勢いるはずだ。それにしても、今日は何という日だろうか。
言うことを聞かない自分の使い魔が、急にギーシュと決闘することになって圧倒、その次は空から正体不明の円盤が学院を襲い、しかも次に現れたのは光から出現した鎧の巨人。
使い魔…?は!あまりの出来事の連続でわすれてしまっていたルイズはようやくサイトのことを思い出した。
「サイトを探さないと!!」
一方で、鎧の巨人が飛び去って行った後のこと。彼が去った方角の平原から、サイトがおぼつかない足取りで学院の方へ歩いていた。
一体自分に何が起こったのだろう。
記憶はある。確か、若い男の声が頭の中に響いてきた途端、知らない間に身に付けられていた腕輪から金属製の鎧が自分の体を覆い、光がさらに自分の身を包んで…。
「俺が……ウルトラ…マン…?」
間違いない。俺はさっきまで、今まで自分の故郷を守ってきてくれた宇宙人、ウルトラマンとなっていた。なにかと動き辛くて不格好な鎧に身を包んでいてわかりにくかったが、変身したサイト自身は、以前にも鎧を着こんでいて当初はウルトラマンかどうかよくわからなかったタイプのウルトラマンを見たことがあったこともあって、さっきの自分の姿がウルトラマンのものだと理解していた。
でも、どうして?
「もしかして、さっきまで俺に話しかけてきた声って…」
サイトは、地球でクール星人の宇宙船から脱出できなくなった時のことを思い出した。
青い光が、自分の乗っていた星人の宇宙船に真っ向からぶつかろうとしていた時、自分に手を伸ばしてきた光の巨人がいた。
(そうか、あの時俺は…)
「サイトーーーー!!」
向こうからルイズの声が聞こえてきた。顔を上げると、ルイズ・キュルケ・タバサ・ギーシュ・モンモランシーがまるでサイトを待っていたかのように、学院の崩れた外壁の傍らにいたのだ。
「おーーい!!」
サイトは自然と笑顔になって、彼らの元へと走って向かう。
指先で唇に触れながら熱っぽい視線でキュルケが視線を送っていたことに、彼は気づいてなかった。
(ふふ、最初は気づかなかったけど、なかなか素敵な男じゃない)
一方…。
辺り一面が大森林に覆われ、山に囲まれたその場所の夕日は、もうすぐ沈もうとしているように見えた。
ここは一体どこだろうか。一見普通の大自然溢れる場所のように見えるのだが、どうしてかこの場所が地球なのか、ハルケギニアなのか、そもそも現実の世界なのかさえ疑わせた。
山に囲まれた大森林の中央には山が一つ、そしてその頂上には不思議な形をした遺跡がたたずんでいた。ロケットのように先の尖っている変わった形状となっていて、周囲には怪物を象ったような奇妙な彫刻がいくつも彫られている。
その遺跡の建っている山のふもとから、その遺跡を見上げている一人の男がいた。
「目覚めの時は…近い」
意味深な言葉を呟いたその男は………。
謎の発光体に飲み込まれ、姿を消してしまっていたナイトレイダーの新人隊員、黒崎修その人だった。
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