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戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
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十四章 幕間劇
  麦穂の気持ち

陣屋をぶらついていると、まだ昼なのにあちこちで酒盛りが始まっている。俺達だったら、しないけどね。任務終わりでのオフ会ならやるが。

「それにしてもよく命令に従う兵だな」

越前攻めの宣言と共に出された無礼講の許し。なので、忠実かつ迅速に実行しているわけ。戦を前にしてのこの余裕。尾張武士の度胸も頼もしく思えつつも、賑わう陣内に行く。といっても働く人もいるわけで。

「至急、本国の守将に届けて下さい。子細はこの書状の内にしたためてあります」

「はっ、すぐに早馬を飛ばします」

書状を受け取った兵士が駆け出していく。

「お疲れ」

入れ替わりに、俺は麦穂に声をかけた。

「一真・・・・様」

「よく働くけど、久遠からは休めとか言われたのでは」

「仕事がありますし、この城に残る者や、本国を守っている者への指示があります。敵の別動隊が本隊の留守を突いて来ないとは限りませんから」

ふむ。何か普段通りの麦穂ではないな。確かにその通りなんだが、顔には出てないが声で分かるな。と考えていたら、いつの間にか普請担当の者と話していたけど。それも俺がいないようにして、二人で打ち合わせをしてしまう。

居心地が悪いので、とりあえずこの場から離れた。なんか馬鹿にされてるようだったし。一瞬だけど、神の覇気を浴びせたりしようとしたがやめた。違う陣幕に行くともう一人働いている者がいた。壬月だった。壬月の周りには十人ほどが膝をついて控えているけど。ふむ、あの十人は歴戦の強者たちかなと。

「・・・・先程の指示を各隊に周知徹底せよ。では、解散!」

強者たちは『応っ!』と言っては散開した。

「壬月」

「おう、一真様か」

「お疲れ。なんかの作戦会議?」

「と、いうほどのものではないな。指示の念押しだ」

やっぱり家老何だなと思った。最後まで気を緩まないのは壬月と麦穂だし。

「そうか。あの十人は歴戦の強者と思ったが、将もだけど兵も優秀なんだなとな」

「さすがですな。それに目的を伝えるだけであとは勝手にやり遂げてくれる。一真様の者たちだってそうでしょうな」

「確かに。だけど、いくら歴戦の強者たちだったとしても詳細もしなければ、やり遂げてくれないだろうし。壬月がいるから織田軍何だと思うが」

「いなくて困るのなら麦穂の方だろう。あいつは掛け値なしに優秀だ。私などは、掛かれ掛かれと喚いているだけだが、麦穂は織田軍全ての武具から兵糧まで、責任を持って預からねばならん」

「壬月が前で麦穂は後ろか。確かにな、麦穂が手堅く兵站があるから、壬月たちは手柄を立てることに専念か」

「織田家では、私も麦穂もいないと困る。私は大雑把だからな、器用で世知にも長けている麦穂には、戦場以外でもよく助けてもらっている」

「麦穂も壬月と同じように思っているんだと思う。二人の間には、ただの仲良し以上に特別な絆がありそう」

「あやつとは古い付き合いだしな」

「性格も得手不得手も違う二人が補っての織田の両輪だとな」

この二人が組み合わせることで、倍ではなくコンビネーションを最大限に発揮できるのではと。すると、壬月が笑ったのでどうしたと聞いたら、相手の機嫌を良くさせることに長けているなと言われた。そりゃ妻はたくさんいるし、奏とは何百年の付き合いがある。しかし、先ほどの麦穂については気になるな。

「どうした?急に表情が暗くなったぞ?」

「麦穂についてなんだが」

「お、唐突だな」

いくら俺でも、分からない時がある。こういうときは付き合いが長い者に聞いた方がいいと思ってな。

「麦穂にもさっき会ったんだが、どうにも機嫌悪そうでな。話しかけても適当に返されてな」

「なるほどな。おそらくだが、麦穂が貴殿とどんどん離れていくという感じだな」

「あー、そういうことか。最近話してないかもしれないな。最近は忙しいからな、ここではなく他だけど」

「そうかもな。殿を除けば、貴殿を最初に認めたのは自分だという想いが、麦穂にはある。ただでさえ、存在は神様だから遠くなっていくが」

「俺の周りには常に女の子がいる。ヤキモチを妬いているということか、それに足利のもやってきて俺の恋人になったからか、恋敵が増えてしまったってことか」

「そういうことだ。こういえばさすがに分かるか、あとは対処法としては・・・・・」

で、作戦を考えてから俺はさっき麦穂がいたところに行ってみた。そしたらいたので、話しかけたら普請はもう終わっているようだった。

「特にご用件がないようでしたら、私は・・・・」

「一緒にご飯でも食わないか?」

会話を〆ようとしたので、遮断して会話に入った。そしたらキョトンとされたようだけど。

「えっ・・・・?」

「食事、まだだろう?」

「ええ、まぁ」

「俺もこれから作って食べるところだから、一緒にと思ってな」

「・・・・・・・・・・」

麦穂は、少し考えてから答えた。

「・・・・あの、やはり遠慮させて頂こうと思います」

「どうして?」

「それは・・・・その、用を思い出しましたので」

一瞬の間があったので、動揺してるなと思った。明らかにこの場から逃げ出したいという嘘だろうな。

「麦穂、山菜で良いのが入ったんだが」

「(山菜)」

「壬月から聞いてな。麦穂の大好物と知っていいのが取れたから、俺の料理でご馳走させたいんだが」

「いえ、私は・・・・・」

言いかけたらお腹の音が盛大に聞こえた。

「・・・・・・!!!!」

みるみる真っ赤になっていく麦穂の顔。

「お腹、減っているんだろ?」

「あ、あのっ、これはっ・・・・ですねっ!」

「遠慮するな、麦穂」

慌ててる麦穂の背後からすっと手を伸びる。

「み、壬月様っ!?」

麦穂の動きを封じ込むように壬月が麦穂の両肩を掴む。

「一緒にご馳走になろうじゃないか、一真様に。私も腹がぺこぺこだ」

「で、でしたら、壬月様だけが召し上がっていらしたらよろしいじゃないですか!」

「はっはっは。あれだけ派手に腹を鳴らしておいて、よく言う」

「ななっ・・・・あ、あれはっ!」

「ほら、行くぞ!」

「ちょ、ちょっと放して。壬月様っ、痛いです!」

と言って、行ってしまうので追いかけた。そして、料理はすでに作ってあったので目の前に置いたけどな。

「どうだ、一真様の手料理だぞ。実は私も少しは手伝ったんだがな」

「・・・・・・・」

壬月は上機嫌で次々と料理を口に運んで行く。対して麦穂は、俺と料理を交互に見ながらまだ機嫌が悪く見える。

「戦の前だというのに、このように豪勢な料理を作ったりなどして、兵糧事情も考えて頂きたいです」

「作った料理の材料は全部船から持ってきた物だから、心配はいらないよ。兵糧は一切触れてないし」

「それに使ったとしてもたかが三人分の料理に目くじらを立てることもあるまい」

「心がけの問題です。上に立つ立場の者がこんな贅沢をしていたら、兵にしめしがつきません」

麦穂の言い分も分かるが、これは俺達ならこんなのは当たり前。贅沢ならもっと高い材料を使っているが。

「麦穂よ。材料の山菜はこの辺りで採ってきたものだから」

「もぐもぐ、私も手伝ったんだぞ」

「材料に元手がかかっていないのは分かりましたが、料理は豪勢に見えます」

まだ食い下がるな、麦穂の奴は。

「パッと見は豪勢に見えるが、そこまで手はかかっていない」

といって、今回作ったのを説明して行く。最初は仏頂面だった麦穂ではあったが、山菜好きは本当のようで、次第に興味を持って聞いてくれたけど。

「ところで、これは一体なんですか?」

レシピに耳を傾けた麦穂が指を差したのは、山菜の天ぷらだった。

「ああ、これは天ぷらという。小麦粉と卵で作った衣をつけてから、油で揚げる料理だ。そのつゆをつけて食べてみて」

俺は一瞬考えたが、言う事にした。天ぷらはこの時代にはないはずだけど、まあいいか。

「なるほど・・・・」

興味津々で、山菜の天ぷらを箸で取る麦穂。

「もぐ、美味いぞ、こいつは!ついつい酒が欲しくなる」

「どうぞ」

「・・・・ぱく」

おそるおそるだが、天ぷらを口に運ぶ麦穂。そして食べたときに、ゆっくりと味合う麦穂にじーっと様子を見る俺。

「・・・・どうかな?」

「美味しい!」

ゆっくりと飲み込んだ麦穂は、目を輝かさせるけど。山菜を天ぷらにしたのは、あまりしないけどね。いつもは魚介類だし。俺は密かにガッツポーズをしていた。

「これまで食べたことのない味ですね。でもとっても美味しい」

「そりゃよかった。山菜好きの麦穂にどうしても食べさせたかったのだ」

「そうでしたか、嬉しいです」

やっとだが、笑顔を見せてくれた麦穂。

「まだたくさんあるから食べてくれ」

「はい」

伸ばしかけた箸が止まり、表情も微笑みが消える。麦穂は箸を揃えて置くと神妙な顔で俺に向く。

「おもてなしありがとうございます。それで・・・・私に何か頼みごとでもおありなのでしょうか?」

やはり鋭いな、でも俺の考えは変わらない。麦穂の目を見ながら言った。

「麦穂、今度一緒にどこかに出かけないか?」

「は?」

「無論今すぐという訳ではない。戦が終わって落ち着いてからになるが」

目を丸くして、麦穂は固まった。まあ突然すぎるのも、仕方がないがな。俺と麦穂は互いに見つめ合って黙っていたが、長い沈黙を破ったのは壬月の笑い声であった。

「な、何を笑うのですか?」

「いやいや、傍から見ていると偉く愉快でな」

「意味も分からず、笑われる方は愉快ではありません」

「それはすまん。それよりさっさと返事をしてやったらどうだ?せっかく一真様が逢い引きに誘ってくれているというのに」

「ええっ!?」

麦穂は俺と壬月の顔を交互に見る。

「一真様、そういうこと・・・・だったのですか?」

「まあな。嫌なら断っても構わんが」

「嫌だなんてそんな!ただ、どうして急に・・・」

「いやなに、最近忙しかったから話してなかったろ。もっと分かり合えたほうがいいかなと思ってな」

冷静に真顔で言ってみた、麦穂は黙ったまま俺から目をそらさなかった。しばらく、黙っていると一筋の涙が見えた。

「麦穂?」

「あ、いえ・・・・これはその・・・・嬉しくて、つい・・・」

微笑みを浮かべて、麦穂は頬に流れた涙を拭く。

「一真様の口から、そのような言葉を聞けるなんて思ってもいなかったので」

「ふふ。鬼の目にも涙か」

「うるさいですよ、壬月様!」

「すまんな、茶化して。さあ、遠慮せずに続けてくれ」

「もう・・・・」

壬月の手前なのか、喋りずらそうだったけど。ひとつ咳払いをしてから真剣な眼差しを向けてくれる。

「一真様。急に取り乱してしまい、申し訳ございません」

「いや、平気だ」

「私はずっと・・・不安だったのかもしれません。自分に自信がなかったから、皆を羨ましく感じていたのかも。ですが・・・・こういう言い方も、語弊があるとは思いますが・・・」

「気にせずによい。自分が思ったことを言えばいい」

「はい。私の事で少なからず、一真様はお心を煩わせておいでのようです。ならば、この場で今一度、私の気持ちをはっきりとお伝えしたいと存じます」

麦穂の気持ちを聞くが、声には緊張をしている。壬月も茶化さずに、静かにことの成り行きを見守っているようだ。

「私はその・・・・一真様のようなお方に、初めてお会い致しました。武も知もあり、存在は神なのにいつも謙遜ばかり。頼り甲斐のある御仁かと思えば、童のようなお顔を見せたりと、誠に捉えどころのない不思議なお方だと。そして、私は一真様のことが・・・・」

麦穂は一度そこで区切った。これは告白か。次に続く言葉を待ちながら、俺は待った。

「一真様」

「はい」

「もしも、もしも・・・ご迷惑でなければ・・・わ、私も一真様の恋人の一人に、加えていただけないでしょうか?」

やはりか、何となくだがそう感じたのはそれか。

「いいよ。俺の恋人に加えても」

「よろしいのですか?やはり迷惑では」

「迷惑ではない。むしろ大歓迎だ。俺のことを好意で見てるのは知っていたし、断る理由もない」

と言いながら、俺は麦穂の目の前に座った。

「一真様?」

「麦穂が俺に気持ちを精一杯伝えたんだから俺もな。俺は初めてあったときから、外見も中身も好きではあった。それにこの世界に落ちてきてから、話したり一緒に戦ったりして行くうちに、麦穂の好意のと言う目線があってな。俺が告白したほうがいいのか、分からなかったが」

「ははは。さすが、一真様だ。麦穂のことをそこまで理解しているとはさすがだな。さすが私の恋人になる男だ」

「え?今なんて」

「ふふ・・・・鬼との戦いを決意した力のある者には、皆、その権利があるのだろう?」

「ああ、なるほど。何となく思ったがそういうことね」

「そういうことだ」

麦穂もだけど壬月もか。家老二人を恋人に加えるとは。俺もとんだプレイボーイなのか。

「ふふふ・・・・さあ、まだお食事の最中でしたね。壬月様、早く済ませて戦支度に戻りましょう」

「だな」

理解に苦しむが、二人とも権利はあるしこれはこれでいいのかと思いながら食事に戻った。そのあと、料理を食べ終わったあとに二人は仕事に戻り、俺は使った皿を船の厨房に行って食洗に入れた。船にある俺の部屋で、今のところの恋人リストに新たに麦穂と壬月を入れたのであった。 
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