少年と女神の物語
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第七十六話
俺と玉龍は飛びながら戦っていた。
俺が雷を放つと向こうは水を放ち、飛びなれていない俺が一方的に物量で押し切られる。
さすがに、あの巨体を鞭のようにして打ち付けられるのは辛いな。
「どうした、神殺し。飛び方がなっていないぞ!」
「うるせえな!こっちは飛行第一回なんだよ!」
そう言いながら突っ込み、巨体の下に入った瞬簡に空気中の水分が集まって俺にぶつけられてくる。
アカン・・・これ、どこにいても相手の間合いだ。
「・・・なあ、リズ姉。どうしたらいいとおもう?」
「神と神殺しの戦いに対して、ただの人間にアドバイスなんぞ求めるな」
ごもっともな意見を言われながら俺は水の槍を腹に受け、穴が開く。
そして、流れ出した血も・・・!
「やっべ!」
とっさに雷をぶつけて全て消し飛ばし、死ぬ前に腹に医薬の酒をかける。
「おいおい・・・水分なら何でもいいのかよ・・・!」
「神殺し、呆けている暇はないぞ!」
いつの間にか後ろに玉龍の尾が迫っており、思いっきり殴られた。
仕方ない・・・不利になるけど、これを使うしかないな。
「我は永続する太陽である。我が御霊は常に消え常に再臨する。わが身天に光臨せし時、我はこの地に息を吹き返さん!」
その瞬間に俺は死なない(厳密には違うが)体になり、代わりに流れ出す血は一切止まる様子を見せない。
その結果、俺は時分の体から出た瞬間に襲い掛かってくる血を避け、その隙を玉龍に襲いかかられる。
「こんな神、どうやって倒すんだよ・・・」
最低限、コイツについていけるだけの飛行能力だよな・・・と、そこで俺は俺の権能の可能性に気付いた。
まさか・・・いや、多分いける。俺がアイツから簒奪したものを考えれば・・・
「武双、前!」
「え?・・・おわ!?」
考え事をしている間に食べられかけていた。
慌てて避けて、そのままいったん距離を置く。
その間に蚩尤の権能で作り出したナイフにゼウスの雷を宿らせて傷口を焼きとめる。
これで血による攻撃は受けずに済む。
「何をするつもりだ、武双?」
「いや・・・ちょっと、元々使ってた権能にも視点を当ててみようかと思って」
といっても、俺の中では既に出来るという確信があった。
ああ、出来る。俺の権能がゼウスの持つ雷関係全てなのだから、当然アイツも使える!
「我がためにここに来たれ、羽持つ馬よ」
しっかりとイメージを持って、言霊を唱えていく。
「我がために我が雷を運べ。我がために天を駆けよ。その為にここに現れよ!」
俺が言霊を唱えきると、空から俺の元まで駆けてくるものがあった。
それは、翼を持つ馬。
かつては神としてあがめられ、ギリシア神話においてはメドゥーサの首から誕生する。
そして、ゼウスの雷を届ける神獣でもある存在!
「我が元に来たれ、ペガサス!」
そして、俺の隣に来たペガサスに跨る。
そう、ゼウスの雷関係の一つでもあるペガサスを俺が使えない道理は無い。
だからこそ、最源流の鋼の持つ特徴である騎馬を、こうして呼び出すことが出来た!
「ほう・・・ゼウスから簒奪した権能は、中々に多彩なようだな」
「そうみたいだ。駆けよ、ペガサス!」
俺はペガサスにそう命じて、玉龍に向かって駆ける。
騎乗用の槍を構えて、一気に突っ込んでいき・・・その体を貫く!
「グオ、神殺し・・・!」
「これでようやく一発だ!」
そう言いながら止まる様子の無いペガサスから跳び、追加で攻撃を加える!
「二度は喰らわぬぞ!」
「え!?」
が、俺の攻撃は空を切り・・・その周りを、玉龍が回り始める。
これは・・・まさか・・・
予想通り、竜巻が出来た。
それも、俺を中に巻き込んだ。
「くっ・・・ペガサス!」
俺が呼ぶと、その瞬間に竜巻を作っている玉龍に対して雷が放たれる。
一瞬拘束が緩んだ瞬間にリズ姉の魔術補助で俺は隙間から抜け出し、ペガサスに掴まる。
「・・・予想外であった。まさか、オマエがここまでやれるとはな」
「頻繁に言われるなぁ、それ。俺ってそんなに弱そうに見える?」
少し傷つきながらそう言うと、玉龍はそのでかい首を横に振った。
「そうではない。ただ、自らの身を削ってでも勝ちをもぎ取りにくるとは思わなかったのだ」
「そうか?だとしたら、まつろわぬ神なのに神殺しってもんを理解してないんだな」
そう言いながらしっかりとペガサスに跨り、槍を片手にだけ構えて言う。
「俺たちカンピオーネは、勝利のためならどんな手でも取る。どれだけズルイと言われる手であろうが、な」
「そうであったな。よかろう!」
玉龍はそう言いながらこちらに突っ込んできて、ペガサスはそれを器用に避ける。
「ならば、オレも全力を持って相手をしよう!いかなる手も使い、オマエに勝利して見せようではないか!」
「そうか・・・ガハッ」
玉龍が高々と宣言した瞬間に、俺は全身から血を噴き出した。
まさか、コイツ・・・!
「俺の体内の液体も、操れるのかよ・・・!」
「むしろ、操れぬ道理はあるまい?」
「確かに、な。とはいえ・・・このままだと何も出来ないし」
仕方ない・・・ここは、ついさっき掌握できた権能で行きますか。
やっぱり、戦闘になると権能の掌握が進みやすい。
「・・・駆けろ、ペガサス」
ペガサスが駆けるのにあわせて、俺も片手に持った槍で玉龍を牽制する。
そして、玉龍の頭に飛び乗って髭を掴んで無理矢理にしがみつく。
「おのれ、放さぬか神殺し!」
「やなこった。この状態が、一番使いやすそうなんだよ!」
俺はそう言いながら全力で掴まり続けて、言霊を唱える。
「今ここに、我は太鼓を打ち鳴らす」
その瞬間、虚空からポン、ポン、と太鼓の音が鳴り出す。
「なんだ、この音は・・・」
「我は音に合わせて術を使い、音の数で狸を使い分ける」
玉龍が訝しげにしているが、俺は気にしない。
そして、五回打ち鳴らされたところで音は止まる。
「五の音は布。汝を異界へと導く、布の狸!」
そこで、俺の手に巨大な布が現れる。
その布はどんどん大きくなっていき、玉龍を覆えるほどになる。
そして、その布を掴んで玉龍から跳び、布を一気に引き下ろす!
「落とせ、蚊帳吊り狸!」
そして、布が玉龍を覆った瞬間・・・その厚みは消え去り、再びもとのサイズへと戻る。
「ふぅ・・・これで一旦はよし、だな」
俺はそう言いながら地上に降り、お守りになってもらっていたリズ姉を取り出す。
「なんだ、今の権能は」
「本陣狸大明神から簒奪した権能。多分だけど、狸系妖怪を使役できるんだと思う」
思う、というのはあまり自信がないからだ。
いや、多分あってるんだけど・・・どこまでなのかは、まだ分からない。
「そうか。で、ここからどうするんだ?」
「いつまでも玉龍を異界に閉じ込めておくのは無理があるから、俺も向こうに行って直接倒してくるよ」
「私は?」
「まず間違いなく、いくと同時に死んじゃうと思う」
「なら、残るとするか。武双、ちょっとこっちを向け」
「ん?何・・・」
その瞬間、俺の唇がリズ姉のそれによって封じられた。
ついでに、リズ姉の舌が入ってきて・・・
「って、何やってるの!?」
「治癒の術だ。これで、万全の状態で戦えるだろう?」
確かに、怪我は全て治っていた。
「でも、さ・・・こういうことって、本当に好きな人に対してするもんじゃないの?」
「さすがに、それくらいは私でも分かってるぞ」
・・・え?
ってことは・・・
「ほらほら、さっさと玉龍を倒してこい」
「あ、はい。分かりました」
俺は思考を強制的に中断され、なんだか釈然としない気持ちで異世界に落ちた。
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