少年と女神の物語
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第七十五話
「余計な手間をかけさせおって。のこのこと参ったか、神殺しどもよ」
「のこのこ?いいや、ちがうな。私は君を葬るためにやってきた。ジョン・プルートー・スミスの参戦は、君を冥府に導く運命の先ぶれと思うべきだ」
「おおう、よくもまあそんな長ったらしいことをその場で言えるもんだ・・・そういや、まだ名乗ってないのは俺くらいなのか?神代武双だ。よろしく」
孫悟空に向かってスミスが魔弾×二を、俺がゼウスの雷を放ってから姿を出し、そう言ってみる。
「ふん。面白いやつらだ・・・我が弟たちを見たであろうに。どうれ、我ら兄弟の絆を以って、神殺しどもを蹴散らしてくれる!北海より出でよ、我が賢弟・猪剛鬣!西域より出でよ、我が賢弟・深沙神!」
俺たちカンピオーネの登場によって孫悟空の神力が爆発的に高まり、前にも見た二つの像を投げあげる。
「魔を討ち、鬼を裂き、羅刹を屠る剣神の宿星よ!我に怨敵征伐の利剣を授けよ!」
言霊を唱え終わるのと同時に二つの像は大きくなっていって、前回と同じように二柱の神が顕現してから・・・さらに巨大になっていく。
おおう・・・でっかいなぁ・・・
「くくくく、今度こそ長めの出番を期待しておるでござるよ、兄者!」
「お呼びに応じて馳せ参じました、大兄。何なりとお申し付けを」
二柱がそう吼えるのを前に、護堂は俺たちに声をかける。
「来てくれてありがとう。なんにしても、これで人数が合った」
「みたいだな。まさか、さらに呼んでたのか?」
俺とスミスがそう言いながら見上げる空からは・・・巨大な龍が、こちらに向かってきている。
最近、蛇と縁があるのかな・・・
「ほう・・・お前も来たのか。お師匠様は乗せとらんのか?」
「ふん、アイツは出てきては居ない。それに、まつろわぬ身で現れてすら幽界に引っ込むであろうよ」
「確かにそうだ!お師匠様はそうに違いない!」
「あの人柄ですからね、我らのお師匠様は」
・・・今の口ぶりからすると、孫悟空はあの龍が出てくるのには一切干渉していないようだ。
ってか、さっきの口ぶりからすると・・・
「・・・後、三蔵法師さえいれば三蔵一行の出来上がりなんだけどなぁ・・・」
「どういうことだよ、武双?」
「ん?ああ、もしかして護堂は知らないのか?結構有名な話なんだけど」
俺はそう言いながら現れた龍を指差して、
「たぶんあれ、西遊記で三蔵法師が乗ってた馬」
「え・・・あの馬も神様なのか!?」
「ああ。ちゃんと読んでれば知ってるはずなんだけどな。西遊記の最後では三蔵法師、孫悟空が仏の位を、猪八戒、沙悟浄が菩薩の位を貰って・・・で、その時一緒に乗ってた馬も菩薩の位を貰ってるんだよ」
「そうでなくとも、あの馬は元々天界の住人であるがな」
スミスはやっぱり知ってたか。
「でも・・・あれ、龍じゃなくて馬だよな?」
「龍と馬は縁深い存在だぞ。龍の元々の姿は鱗の生えた馬だし」
「・・・ああ、それは聞いたな」
もう既に聞いてたか。
って、孫悟空の神格を暴くにはどうしても必要なことではあるんだよな。
「それに、あの馬は龍だったのを観音菩薩がその力で姿を変えたものなんだよ」
「ってことは、アレは間違いなく・・・?」
「ああ。玉龍、って言う中国の龍だ」
そう考えて、間違いないだろう。
さっきの会話も、そんな感じだったし。
「ってことは、結局四対三じゃないか。不利は変わらない」
「そうか?俺はこの間五対一で戦ったし、かなりましだと思うぞ?」
「まあ、神代武双の言っていることは置いておこう」
オイコラスミス。
お前の正体を暴露してやろうか・・・!
「だがしかし、ひとりよりふたりがいい・・・という言葉もある。今回の場合、特に当てはまる箴言ではないかと思うがね?」
「そして、ふたりよりさんにんがいい、ってな。何より護堂、お前はこんな美味しい場面を独り占めする気なのか?」
「だとしたら、君はずいぶんと気前の悪い男なのだな。侮蔑に値するよ」
「なあ、打ち合わせをしたわけじゃないんだよな・・・?まあ、助かるけど」
あっさりとこのメンバーでの戦いを許可してきたな。
もう少し位は躊躇うかと思ったんだけど。
「おやおや。君はこんな得体の知れない男を信用する気か。後悔しなければいいが!」
「そうだぞ護堂。俺はともかく、こんなコスプレ趣味の有る男をあっさりと信用するのはどうかと思う」
ってか、男って・・・
「余計なお世話だ。俺は運がいいから、仲間選びで後悔したことなんてないし、これからもきっとない」
自信満々だねぇ・・・まあ、女難ではあるけど女運はいいからな、護堂。
性格はともかく、なのがいる気がしなくも無いけど。
「ああ。それとな」
護堂はそう言いながらニヤリと笑ってくる。
「さんにんよりよにん・・・だとは思わないか?」
その瞬間、俺たちの頭上を何か巨大なものが通った。
何かと思って見上げてみると・・・ああ、なるほど。そう言うことか。
納得したところで巨大な鳥から飛び降りてくる影を見つけ、それが羽のように着地したのを、俺は半眼で見る。
何も、あんな目立つものに乗ってこなくてもいいだろうに・・・
「待たせましたね大聖、そして我が弟よ」
弟って・・・まさか、護堂は翠蓮すら口説いたのか?
「・・・なあリズ姉、どう思う?」
「そうだな・・・とりあえず、彼はドンファンである、ということでいいんじゃないか?」
「やっぱりそう思うよなぁ・・・まさか翠蓮が口説き落とされるとは思ってもいなかった」
やっぱり、誰でも同じ意見のようだ。
ちなみに、今リズ姉は俺の首からさげられているお守りになってもらった。
さすがに、この場にただの人間をそのまま連れてくるわけには行かないと思ってのことである。
「神代王!」
「ん?」
そんな感じでリズ姉と話をしていたら、翠蓮に呼ばれた。
「これよりこの仕合において、我が陣中に加わることを許します。羅濠と共に戦いなさい!」
「相っ変わらずの上から目線・・・まあ、いいや。これはどうも、参加させていただきますよ」
言い争う気は無いので、俺はテキトーにそれくらいで終わる。
そして、そのまま四人の『同族』が肩を並べて四柱のまつろわぬ神と向き合う。
巨大化した三面六臂の猪剛鬣。
騎獣である水竜に鎌首をもたげさせ、その頭に乗る深沙神。
二柱の上からこちらを睨んでいる玉龍。
そして、その三柱を率いる孫悟空。黄金の雲に乗る彼は再び上昇し、空へ舞い上がっていく。
そろそろ、四対四の戦いの始まりかな?
「では、オレから相手を選ばせて貰おうか。そこの槍を持った神殺し」
「ん?俺?」
早速指名された。
なんでだろう?
「オマエ、最近我が同胞を殺しただろう?」
「同胞・・・?ああ、オオナマズのことか」
「左様。故に、我が相手はオマエにしてもらう」
「ふうん・・・ま、いいぜ。いくか」
俺がそう言いながら翼を生やすと、玉龍も飛び立つ。
さあ、神殺しを始めよう!
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