少年と女神の物語
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第七十七話
「中々に面白い権能を持っているのだな、神殺しよ」
「ああ。どれだけの可能性を秘めてるのか全く分からない、楽しみな権能だよ」
今、俺たちの眼前に広がるのは元の世界を基調としているが全く違う世界。
宙にはいくつかの岩が浮いてるし、そこらじゅうに布がある。
建物なども全て岩と化し、単純すぎる景色のみが広がっている。
「しかし、よいのか?」
「何が?」
「ここに連れ込んだところで、オレの優位は変わらんぞ」
そう言っている玉龍の周りでは、水分が集まって今にも放たれようとしている。
全く・・・この程度で権能が終わりだとでも思ってるのか?
「残念だけど、それの対策だって打ってるぞ」
「ほう?興味深い事を言うな」
そう言われながら、俺の体の内側から血が、胃液が、あらゆる液体が噴出しようとしているのを感じる。
さて、そろそろやっとか無いとまずいかな?
「我は今ここに、この世界に対して一つのルールを設ける」
そして、世界に対して命ずる。
「この世界に・・・液体は必要ない」
その瞬間、玉龍の周りにあった液体が全て蒸発する。
ついでに、俺の中にある液体と言う液体が固体、又は気体になって役割をこなしていく。
うーん・・・ちょっと違和感。
「なんだ、これは・・・!?」
「俺は、俺が落とした世界に対して一つだけルールを設けることが出来る。ただし、代償が必要になってくるけどな」
そして、今回は代償を支払って“液体が存在しない”というルールを設けたわけだ。
「代償・・・これほどの権能、一体どれだけの代償を・・・!?」
「オイオイ、話す訳ないだろ。今重要なのは、殺し合いが始まる、ってことだけだ」
そう言いながら両腕の槍を出して構える。
そのまま跳躍の術を使って玉龍の元まで跳び、ゲイ・ボルグを突き刺してブリューナクでメッタ刺しにする。
「く・・・鋼の権能か!」
「おっと」
体をしならせて俺を弾き飛ばしてきたので、そのまま宙に浮いている岩に飛び乗り、そのまま再び跳躍して玉龍に迫る。
この権能において払わなければならない代償は、権能の使用不可。
ルールを設ける代わりに、権能を一切使えない状態で戦わなければならないのだ。
まあ、俺は一切困らないけど。
なにせ・・・権能と変わらない武器が、三つもある。
「我が敵の心臓を貫け、ゲイ・ボルグ!」
まず、空に向かってゲイ・ボルグを投げて三十七の破片に分かれて降り注がせながら、ロンギヌスを代わりに構えて巨体のいたるところに突き刺していく。
「ク・・・ハァ!」
「おおっと・・・」
玉龍の体に呪力が迸り、俺は吹き飛ばされる。
岩の建物に叩きつけられながら見た先では・・・龍はいなくなり、代わりに真っ白な馬がそこにいた。
なるほど・・・オオナマズ見たく、姿を変えてきたか。
「・・・その姿、お前が最古の龍と縁深いからなのか?」
「さて、どうであろうな?戦場で知ることではなかろう!」
そう言いながら玉龍はこちらに突進してきて、俺は雷を食らう。
古代、素早く駆ける馬は雷に比喩された・・・・それで、か・・・!
雷を食らうなんて、いつぶりだろうな!
「さあ、まだまだ行くぞ!」
「懐かしいけど・・・さすがに、二回も喰らうわけには行かないなぁ・・・」
そう言いながら手を開き、ゲイ・ボルグを再び形成して構えて・・・
「神槍、絶刃!」
玉龍ごと、上に弾き飛ばす。
「ぬぅ!?」
「悪いけど、一気に決めさせてもらうぞ!」
そう言いながら両腕の二振りを投げて突き刺し、動きが鈍ったところでとどめのためにロンギヌスを構える。
「ク・・・ッ!せめて、この世界から出ることさえ出来れば・・・!」
「させるわけねえだろ。お前は、ここで死ね!」
逆手に構えた槍を引き、
「聖槍に宿りし狂気よ。今ここにその力を現し、我が敵を貫きたまえ!願わくば、狂気によりて怨敵を誅さんと欲す!」
そして、ロンギヌスはしっかりと玉龍を頭から貫いて・・・玉龍の体が砂になって崩れていくのと同時に、俺の背中に重みが加わった。
「これで、後は・・・!」
俺はそう言いながら権能を解除し、元の世界に戻る。
「お、武双。帰ってきたか」
「ああ、中々に刺激的な体験だったよ・・・向こうは、どうなってる?」
両手両膝を地面についていたのだが、俺は無理矢理に体を動かして立ち上がり、リズ姉に問いかける。
体内から液体が消えていたのが急に戻った関係だろうか。体の内側が重傷だ。
「ああ、それなら・・・」
リズ姉がそう言いながら指差した方向を見ると、スミスが殲滅の焔を使おうとしていた。
このまま何もしないのも癪だな・・・よし、俺も参加させてもらおう。
そう決めたら無理矢理に立ち上がり、肩当と杖を装備する。
「雷よ、天の一撃たる神鳴りよ。今この地に破壊をもたらさん!」
杖を掲げ、天を仰いで言霊を唱える。
ゼウスの権能を完全解放する言霊を。
「この一撃は民への罰。裁き、消し去り、その罪の証を消滅させよ。この舞台に一時の消滅を!」
今回はいつもと違い、大量に降り注がせていた雷を一つに纏めて狙った場所にだけ落とすイメージを持ってみた。
掌握が進んだおかげか上手く行き・・・スミスの殲滅の焔が落ちたのと寸分違わぬ位置に雷は落ちてくれた。
ま、強力はこれで十分だろ。
「・・・武双、こっち向け」
「え・・・ん!?」
俺は、口の中に突っ込まれた指の感覚に驚き・・・指に挟まれていたものを飲み込むことで落ち着く。
「これ・・・」
「治癒の霊薬だ。まあ、今日はこれ以上戦わないだろうし、使っちゃってもいいだろう」
そう言いながらリズ姉は肩を貸してくれて、そのまま跳躍の術を使う。
正直、今日はもう呪力を使いたくない気分だ。
「どこに向かう?」
「とりあえず、あっちまで。最後の挨拶くらいは参加したいし」
「了解」
そして、そのまま護堂たちの元に降り立つ。
「お、武双。そっちはどうだったんだ?」
「しっかり玉龍は倒して、権能を簒奪したよ。・・・普段とは違う理由で死にそうだったけど」
そう言いながら自分の足で立ち、三人の元まで歩いていく。
「最後の雷、あれは貴方のものですか?」
「ああ。さすがに何もしないのは、って思ってな。必要なかったかもしれないけどやらせてもらったよ」
「いや、神との戦いに対して過剰、ということは無いだろう。例を言う、神代武双」
そう言いながら差し出された黒手袋の手を、俺は握り返す。
次の瞬間には黒い魔鳥になって飛んでいったのを見送ってから、蚩尤の権能ででっかい盾を作って、それを芝右衛門狸の権能でバイクに変える。
「それじゃあ、俺たちもこれで帰るな。あいつらが来て面倒ごとに巻き込まれるのもあれだし」
「ああ、分かった。・・・って、そのバイクはどこから?」
「今作ったというか変幻させたというか・・・そんなところだ。それじゃ」
そして、俺はリズ姉と二人乗りで家まで向かった。
うん・・・バイクにしたのは間違いだったと、途中で気付いたよ。でも、変えられる雰囲気ではなかった。
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