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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第七十四話

「はぁ・・・なんで、また海に戻ってきてるんだろう・・・」
「暇だったから、だな」

 俺とリズ姉は、暇を持て余した結果海に来ていた。それも、もう朝から何時間も
 水着を着て遊んだりしているわけではなく、ただぼけーっとしている。
 こういう時間、これもこれで幸せを感じるよな。

「そういえば、武双はまだ使えない権能が二つあったな」
「あるな、うん。どんな権能なのか想像もつかないけど」

 狸なんて変化しか知らないし。で、変化はもう手に入れてるし。
 あのオオナマズについては、やれそうなことが一つしか心当たりないし。

「今回の神相手に役立つといいな」
「いや、無理だろ。あの二柱は・・・」

 権能はどんなものなのか全く分からないのだが、それでもそう感じる。
 どうしろと、この二柱から簒奪した権能。

「にしても、武双は節操無く神を殺していくな。共通点がまるで分からないぞ」
「って言われてもなぁ・・・神に会っちゃったんだし。そのまま戦いになっちゃったんだし」
「それにしても、神との遭遇率が高くは無いか?」
「それは仕方ないだろ。カンピオーネである俺とまつろわぬ神であるアテが一緒に行動するんだから」
「それにしても、だ」

 リズ姉はそう言い、眠そうな表情で続ける。

「確かに、神を呼び出しやすい二人が揃ってはいる。だとしても、神が出すぎだ」
「・・・完全な封印ではないから、じゃないの?」
「その問題については、オーディンの際に解決しただろう。あの術式については、アテが自ら抵抗しない限り完全に封印できる」

 リズ姉が自身満々に言っているということは、そうなんだろうな。
 じゃあ、なにが・・・

「まあ、カンピオーネが大量に誕生する年が有るくらいだから、神が大量に出てくる時期があるのかもしれないがな」
「それは、確かに。とはいえ・・・気にはなる、な・・・」

 そのせいで俺は、こんなにも神との殺し合いをすることになってるのか・・・

「気にはなるけど・・・家族を守るための力がどんどん手に入るし、そのあたりのおかげで家族が増えたりもしてるし」
「そのあたりの発想が武双だな。何回死んだか分かってるのか?」
「数え切れないくらい」
「それでもなお、神と戦うと?」
「ああ。カンピオーネだからな、俺」

 神との戦いは楽しい。これはかなり心から思ってるし、なによりも・・・

「それに・・・アテのためにも、まつろわぬ神は殺しておきたい」
「家族優先、武双は神代の鏡だよ」
「父さんと母さんほどじゃない」
「あの二人は家族のために神と戦ったとしても、殺すことは出来ない。そこは、武双だけの特権だ」

 まあ、家族の中で俺にしかできないことがあるのは嬉しい限りだけど。

「・・・神といえば、ナーシャはなんなんだ?」
「ナーシャがどうかしたのか?」
「いや、ほら。霊視があっただろう」

 よく覚えてるなぁ、そんなこと。
 俺はもう忘れてたよ。

「・・・俺、確かに幽界ではダグザの権能でナーシャの頭の中を覗けたんだよ」
「そう言っていたな。幽界から脱出する方法を探していたんだったか?」
「そう。それに、あの場・・・シヴァと戦ってる最中も、こっち側で頭の中を覗けた」

 あの時、頭の中を覗けたからこそ助けることが出来たんだ。
 なんだけど・・・

「普段、何にもしてない普通のときとかは、覗けないんだよな」
「今みたいな時か?」
「そう。例えば今やってみても・・・無理なわけだ」

 実際にやってみたが、全然覗けない。
 ついでにすぐ隣にいるリズ姉の頭を覗いてみると、それは覗ける。
 ということは、権能が作用していないわけではないのだろう。

「なるほど・・・どんなやつの頭は覗けないんだ?」
「神様と、カンピオーネ。アテや護堂の頭の中は覗けないんだよな」
「それは例外なく、か?例えば、神格を封印している今のアテでも?」
「そう。今のアテでも覗けない」

 他の色んな人で試してみても、俺が覗けるのははっきりと決まってる。
 だから、ナーシャみたいな例はかなりのレアなんだけど・・・

「原因が、分からないな」
「そう。原因に心当たりすらない」
「なら、人間以外の動物だとどうなんだ?例えば、あのカニとか」

 リズ姉が指差す先には、小さいカニがいた。
 試しに使ってみると・・・

「人間の言語じゃないから、何にも分からない」
「覗けるのか?」
「かなりモヤがかかった状態で。これ、覗くだけ無駄だ」

 なんか、色々と違和感だった。一生、動物の頭なんて覗くもんか。

「なら、狐鳥はどうだ?狐鳥も普通の人間じゃないだろ?」
「神代家に普通の人間はいないよ」
「そう言う意味じゃなく、だ」

 ・・・まあ、確かにそうなんだよな。
 狐鳥もまた、普通の人間じゃない。
 生まれは人間だけど、な。

「それでも、狐鳥の頭の中は覗ける。今は、眠いみたいだな」
「そう言うのも分かるのか」
「眠い時って、思考がグチャグチャになるから」

 まあ、ちゃんと布団の上にいるみたいだし、大丈夫か。
 まだ幼いんだから、眠いときには寝ないと。・・・五年生はそうでもないのか?

「となると、特殊すぎる体質だから、というわけでもない。なら他に何があるんだか・・・」
「少なくとも、ナーシャは自分のことを人間だって言ってたしな」

 一応、確認は取ったのだ。
 だけど、ナーシャは人間だって言ってた。このメンバーの中で、ウソはつかないだろうし。
 なにせ、既にカンピオーネとまつろわぬ神が一緒に暮らしている家だ、

「となると・・・失われている記憶が重要なのかもしれないな」
「そこだよなぁ・・・何かあったと思うんだけど」

 記憶を失うってことはそれだけの何かがあったということだ。
 いや、何かの拍子に頭を打った、とか言う下らない場合も有るけど・・・

 その瞬間、気取ったメロディーが俺の携帯から流れ出す。

「・・・なあ、武双」
「ああ。今のは、スミスからの合図だ」

 今回、介入すると決めたタイミングで俺にメールを入れてもらうよう、スミスには頼んでおいた。
 理由は簡単、ちゃんと参加できるようにだ。
 いやな予感がするし、参加するタイミングを失わないためにも。

「じゃあ、行くのか?」
「ああ、行こう」

 俺はリズ姉の手を取り、跳躍の術で現場まで向かった。
 
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