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ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~

作者:enagon
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第3章 さらば聖剣泥棒コカビエル
  第57話 愛、故の殺意

 
前書き
またしても間が開いてしまいました!
申し訳ありません!
でも今回は忙しさにかまけて執筆さぼってたってわけじゃないんで勘弁して下さい!

実を言いますと前々からやってみたいと思っていたイラスト描きを始めたんです。
というわけでついにこの小説にも扉絵がつきました!
目次ページに載っているので、よかったらご覧ください!

ただアットノベルスの方はなぜか扉絵機能が機能しなくなっていますので、ご覧になりたい方は暁の目次かギャラリー、もしくはpixivの方を御覧ください。
ユーザー名は一緒ですのですぐ見つかると思います。

ただ実を言うと絵を描くのなんて中学三年の美術以来なんで実に10年ぶり、加えてその時書いたのは風景画などだったんで、人を書くのは初めてだったりします。
なのであまり期待しないでください。
お願いします。

それから前回の話なのですが、結構酷評されました。
私としては「ラスボスに仲間が一致団結して挑む」程度の軽い気持ちで書いたんですが、感想ではただのリンチじゃねぇか言われる始末。

……の割に話別評価の点数は今までの話に比べて高めなんですよね。
う~ん、どう判断すべきか困るところです。

ただ正直な話、多くの方がおっしゃっていたように1人ずつ挑んだとすると

スピード上げて後ろに回り込む
   ↓
首に一撃入れる
   ↓
気絶して終わり
   ↓
以下人数分ループ

という面白くもなんともない話になっちゃうんですよね。
「書き直せ」とまで言う人もいるんですけど、ご希望の一人ずつ挑む話だとこんな話になっちゃうんですけどそれでも読みたいですか?


 

 



「死ぬな、火織!」

「お願いです! 目を開けて下さい!」

「そんな……せっかくまた会えたのに、こんなのってないよ! 火織ちゃん!」

「目を開けなさい火織! 主に無断で死んじゃうなんて絶対に許さないんだから!!」

「火織ぃぃぃいいいッッ!!」







「……」







 皆が必死に呼びかける中、私は………………







「あっはっはっ!! いやぁ~、死ぬかと思った!」

 アーシアの治療が終わってすぐ、笑いながら上半身を起こした。

『『『………………は??』』』

 ……ん? どうしたんだろう? 皆いきなりフリーズしちゃったけど。けどまあ今はそれよりも

「よくやったわね祐斗! まさか本当に禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めるなんて!」

 そう言って私はなんか祐斗の手からスッポ抜けて地面に転がってる聖魔剣を見ようと手を伸ばすけど

「痛っ!?」

 触れた指先に痛みを感じて手を引っ込める。

「あ~、そっかぁ~~……」

 私はそう言って顔を上に向ける。そこでは龍巳の張った結界上に展開されていた魔法陣が崩壊を始めていた。残念、これじゃあもう聖剣に対して耐性がなくなっちゃってるから、祐斗の聖魔剣も触れないか。いや、痛いの我慢すれば触れるけど、特に必要性もないのに我慢してまで触りたくないし。うぅ~、でも一剣士としてせっかくだから手にとって見てみたいし……

「ねぇ祐斗。因子なしの悪魔でも触れる聖魔剣って創れない?」

 そう言って皆のいる方に再び顔を向けると……

『『『………………ってちょっと待てぇぇええっっっ!!!』』』

「うひゃぁいっ!?!?」

 な、なんか皆がすごい形相で叫んできた!?
 
「っていやいやそうじゃなくて! 火織、怪我は大丈夫なのか!?」

 そう言いながらイッセーが私に詰め寄ってきた。

「怪我? それならアーシアが治してくれてたのあんたも見てたでしょ? ほら」

 そう言って私はバッサリ斬れちゃった制服とブラを、胸が見えないようにガバっと開いて傷がないことを皆に見せようとするんだけど

「わ、わっ!? ちょっ、バカッ!!」

 イッセーは顔を真っ赤にすると私の手を抑えて開いた前を閉じさせた。ってあれ? こういう時イッセーってガン見しちゃうような性格じゃなかったっけ?

「火織! 本当に大丈夫なの!? あなた聖剣に斬られて!」

「いやいや何言ってるんですか部長? 斬られた時はまだ術式発動中だったんですから聖のオーラによるダメージは無いですよ?」

「で、でも……!」

「そ、そうですよ火織さん! 傷は塞ぎましたけど、こ、こんなに血が!! う、動いちゃダメですぅっ!」

 アーシアが顔を青くしつつ私の肩を抑えて寝かそうとしてくる。と、そんな中

「にゃっははは、とりあえず皆落ち着くにゃ」

 そう言いながら黒姉たちがわざわざ()()()()()()()()、結界を抜けて私達に近寄ってきた。

「あなた達何を悠長にしているのです!? 火織さんが!!」

「会長、というか皆さんも落ち着いて下さい」

「ん、火織お姉ちゃんのこと、よく見る」

 そう言って龍巳は私を指さしてくる。それに釣られ、皆も私の方に視線を向けてきた。

「……えぇっと……?」

 それに対して私はとりあえず首を傾げる。そんな私に対して皆を代表して部長が聞いてきた。

「……火織、あなた本当に大丈夫なの?」

「えぇ、まあ。特に問題はないですよ?」

 そう言った途端

『『『はぁ………………』』』

 皆は気が抜けたようにしてその場に崩れ落ちた。

「……そうよね。火織だものね。心配するだけ損よね」

「ってそれはちょっとひどくないですか!? 一応痛くはあったんですからね!?」

「ならなんでそんなにピンピンしてるのよ!? っていうか黒歌たちも火織が無事だって分かってたわね!?」

 と部長が怒りつつも泣きながら私達に詰問してきた。

「そりゃあ当然。この程度で死ぬわけ無いにゃ」

「ん、この程度で死んでたら我の修行でとっくの昔に死んでる」

「そうですね。以前火織姉様が腹ワタぶちまけちゃって死にかけたことはありましたけど、それでも何とかなりましたし。むしろそれのおかげでどこまで耐えられるか分かりましたよね」

「あ~、あったわねそんなことも。普段なら簡単に避けられるのを足滑らせちゃって、モロに食らっちゃったんだっけ?」

「ん、あの時は焦った」

「確か私達全員で治療して、なんとか一命を取り留めたんですよね」

「そうそう、あの時はまだ若かったから今では考えられないくらい取り乱しちゃったにゃ」

「我らの治療もそうだけど、火織お姉ちゃんの治癒力、この中で一番高かったのが幸い。でないと死んでた」

「そういえばあれの直前にようやく完成してたのよね。龍巳と一緒にコツコツ頑張っててよかったわ」

「火織姉さまの回復力はもはや反則級ですもんね」

「もはや怪我に対する心配は火織は龍巳同様必要ないんじゃにゃい?」

「あ~、黒姉それはひどいよぉ~」

「「「「あっはっはっはっは!」」」」

 私達は朗らかに笑いながらいつも通り楽しくお話に興じる。と、そこで

「笑い事ではないでしょう!? どれだけ心配したと思ってるの!」

 と部長が涙ながらに言う。っていうか部長……

「そもそも全員で一斉にかかってくる方がひどいと思いません?」

 それを言った瞬間、うっ、と皆気不味くしながら私から目を逸らした。

「いや、何というか……」

「火織相手なら全員でかかったところで……」

「うん、いつもみたく最終的にはこっちが負けちゃうかなって……」

 ……皆好き勝手言ってくれちゃって。

「むぅ~、私だってか弱い乙女なんですからね?」

『『『……か弱い??』』』

「ってそこでハモるって皆ちょっとひどくないですか!?」

 た、確かに龍巳に鍛えてもらってある程度の実力はつけて貰ったけど……でもそれでも私だって女の子なんだからね!?

 と、そんな中祐斗が皆の中から一歩前に出てきて、私に頭を下げてきた。

「火織さん……本当に、本当にすまなかった」

 そう言った祐斗の目から、涙がぽたりと地面に落ちた。

「火織さんは僕のためにあんなに頑張ってくれてたのに、なのに僕は火織さんに、エクスカリバーに勝つことに必死で………………それが、それがあんなことをしてしまうなんて……!」

 私はそう言って頭を下げる祐斗の頭に手を載せて、ゆっくりと撫でた。

「祐斗、顔を上げて。別に私は気にしてないから。必死に頑張ってたのは私が一番分かってるし、最後のだって事故みたいなものでしょ? だから祐斗もそこまで気にしないで。それにどっちかというと私嬉しいのよ? 気付いてる? 剣の性能もそうだけど、祐斗の剣の実力もこの2週間で一気に伸びたってこと」

 そう私が言うと、祐斗はその場で跪いて頭を垂れてきた。

「火織さん、僕はここに誓うよ。いつか必ず君と並び立てる『騎士《ナイト》』になると、この剣に誓う」

「えぇ、楽しみに待ってるわ」







   ☆







 火織が無事であると分かったあと、俺達の話題はそのまま木場の新たに目覚めた禁手(バランス・ブレイカー)に移行した。ここで一番面白かったのは、やっぱりイリナとゼノヴィアだな。

「木場祐斗、その……だな……」

「私達にも聖魔剣、見せてもらってもいい?」

 なんておずおずと木場に頼んだんだ。もうなんというかこの2人、出会った当初の雰囲気がまるっきり無くなってるよな。

 そんな2人に対して木場は

「もちろんいいよ」

 とあっさり了承。木場はすぐさま新たに2本の聖魔剣を創り、瞳をキラキラ輝かせているイリナとゼノヴィアに手渡した。……思うんだけど俺たち悪魔は聖なるオーラのせいで聖魔剣に触れないのに、イリナたちは触るだけなら魔なるオーラによるダメージ受けないってちょっとズルいよな。

「おぉ、これが聖魔剣! 本当に聖と魔が混じっているぞイリナ!」

「えぇ! すっごく綺麗! で、でもいいのかしら? だって聖は主の象徴で魔は魔王の象徴よ?」

「し、しかしこれも神器(セイクリッド・ギア)で創られたものということは、我らが主のご意思という可能性も……あぁ、しかし……」

 なんて言いながら苦悩しつつもこれでもかという程聖魔剣を眺め回し、最終的には

「「あぁ主よ! 我らがごとき若輩者には貴方様の崇高なるご意思をどう受け止めればいいのか分かりません!!」」

 なんて天を仰ぎながら口にした。でもそんな時でも手に持った聖魔剣は離さないのな。そんな2人を俺たちオカ研と生徒会の面々は苦笑しながら見ていた。2週間前には考えられなかった光景だよな、これ。これも体張ってくれた火織のおかげなのかね? ……ん? 火織?

 よくよく見てみると、俺達の輪の中に火織が、それに黒歌姉や龍巳、白音ちゃんもいない?

 不審に思いつつ辺りを見回すと……何故か俺達から少し離れた所で4人が固まっていた。あいつら一体どうしたんだ?

「さて、そろそろ()()()の対処もしようかしらね?」

「そうにゃね、そろそろ視線と殺気もうざいし」

「火織姉様は休まなくても大丈夫ですか? もう怪我の方は回復してますけど体力の方は……」

「あはは、大丈夫よ。それに殺気もどちらかと言うと私1人に集中してるし。なら私も対処に回らないとダメでしょ」

「ん、でも無理しない」

「えぇ、分かってる。龍巳は結界の制御、よろしくね」

「了解」

「初手は火織かにゃ?」

「えぇ、うまくいけば一手で終わるし。黒姉と白音は外した時にお願いね?」

「任せるにゃ」

「火織姉様には指一本触れさせません」

 という会話とともに火織は右手に刀、左手に脇差しを創りだした。更に黒歌姉もライザーと戦った時のように両手の爪を鋭く伸ばし、白音ちゃんも両手の指をポキポキと鳴らし始める。こいつらいきなりどうした……っていうか殺気ってなんのことだ?

「あ、あなた達一体何を?」

 遅ればせながら皆も火織達が臨戦態勢になっているのに気付き、部長が代表して疑問の声を上げる。それに対して

「皆はその場でじっとしててくださいね? 大丈夫ですから」

 と、火織が俺たちを安心させようとするかのように笑顔を向けてきた。……いや大丈夫って言われても両手に刀持ったまま言われてもな。黒歌姉たちは真上見ながらなんかピリピリしてるし。

 そして笑顔だった火織もすぐに真剣な表情になると黒歌姉たちと同様に真上を向きつつも、左手の脇差しをまるで弓でも引き絞るかのように脇へと構え……

禁手化(バランス・ブレイク)

 って禁手化(バランス・ブレイク)!? 火織本当に一体何を!?

 そう思う俺達をよそに火織はそのまま一気に構えていた脇差しを真上へと突き出すのと同時に

射殺(いころ)せ! 神殺鎗(かみしにのやり)!!」

 刀身が霞んだと思ったら一気に伸びて雲を割ったぁぁぁあああっっ!?!?

『『『えぇぇぇえええっっ!?!?』』』

 あまりの光景に驚きの声を上げる俺達! しかしそんな俺達の反応とは裏腹に

「……チッ、外した」

 と火織が苦々しげな表情で漏らした瞬間……

シュバババババッ!!

 と光る何かが雲の上から高速でジグザグに曲がりながら落ちて、いや突っ込んできた!? 何だあれ!? 一体何がどうなって!? しかも今気づいたけど龍巳の結界がいつの間にか解除されてる!? 火織が脇差し伸ばすために解除したのか!? でもあのままじゃあれがそのままここに激突して……!

 そう思った瞬間!

「咆えろ! 蛇尾丸!!」

 火織が右手に持つ刀が変形、振ると同時に落ちてきた何かに向けて伸びた! あれは……俗にいう蛇腹剣ってやつか!? 幾つもの刃を連結し、その刃節を伸ばすことによってまるで鞭のようにして落ちてきたものに襲いかかる!

 しかしながら光る何かはいきなり減速、火織の持つ蛇腹剣をふわりと避ける! あれは……白い鎧? 上空から突っ込んできたものの正体は背中から光る翼を生やした真っ白な鎧だった。そしてその白い鎧は……底冷えするかのような魔力を纒った右手を火織に向けた!? 火織! 危な……ッ!!

「おっと、よそ見してていいのかにゃ?」

 なっ!? 黒歌姉!? いつの間にやら白い鎧の背後に黒歌姉が!

「にゃっ!!」

 そして黒歌姉は掛け声とともに鋭い爪を振り下ろす! が、白い鎧はそれも危なげない様子でふわりと避けた!

「にゃんっ!」

「くっ!?」

 しかしその瞬間、懐に潜り込んでいた白音ちゃんから正拳突きが放たれる! さすがにここまで連続して不意を突かれると苦しいのか、最後の白音ちゃんのはギリギリだった。でも、奴は3人の攻撃をことごとく避け

「ふっ」

 両手に纒った魔力を黒歌姉と白音ちゃんに向けた! こ、今度こそ危な……ッ! と、その時

「「かかった」」

 と、黒歌姉と白音ちゃんが同時にニヤリと笑いながら口にするのと同時に

トンッ

 という軽い音とともに後退していた白い鎧の動きが止まった。

「なっ!?」

 慌てて振り返る白い鎧! そこには

「もらった」

 片手で白い鎧を押さえつける龍巳が! そして龍巳はそのまま白い鎧を押さえつける手に魔力を収束させる! ってちょっと待て! そんなもん結界の無い状態でぶっ放したら……っていつの間にか結界が張り直されてる!?

 そして

「ふっ飛べ」

 という言葉と共に、ズガァァァアアアンッッ!! と大爆発! 白い鎧の背中側が粉々に砕け、校庭の隅の方まで猛烈な速度で吹っ飛んで行った! お、終わったのか? でも黒歌姉や火織、白音ちゃんも厳しい表情で白い鎧が叩き落とされた衝撃で発生した砂煙から目を離さないな。 ま、まだ終わってないのか?

 そんな中唯一巻き上がった砂煙に目を向けず、魔力を放った右手をじっと見ていた龍巳がポツリと漏らした。

「失敗した」

 し、失敗? いやモロに喰らってたように見えたけど。砕けた鎧の破片もその辺に散らばってるし。

「ねぇ龍巳、今のってやっぱり……そうなのかにゃ?」

「一瞬でしたから細部まで確認する暇ありませんでしたけど……あの姿って……」

「うん、間違いない。………………本気で仕留めればよかった」

 そう龍巳が言った瞬間……黒歌姉、龍巳、白音ちゃんからとんでもない量のオーラが吹き出した!? しかもこの体が震えるような感覚……これってこいつらの殺気か!? 今まで殺気なんて明確に感じたことなかったけど、それでもはっきりと分かるくらい3人からは殺気が漏れていた!

「へぇー、ふぅーん、やっぱりそうなんにゃ」

「私達の前に現れるなんて、いい度胸です」

「でも丁度いい。ここで仕留めて後顧の憂いを断つのもあり」

 ちょっ!? なんでこの3人いきなりそんなにブチギレてるんだ!? っていうか仕留めるって、あの白い鎧こいつらに何かしたのか!?

「ちょっとみんな。気持ちは分からなくもないけど、もう少し落ち着いて……」

 と、火織が3人をなだめようとした……その時!



ドォォォオオオン!!



 なっ!? 砂煙の中から巨大な魔力弾が!? あの白い鎧、健在だったのかよ!?

 その魔力弾の放たれた先にいた火織たちはすぐさま反応、跳んで難なく躱すんだけど……

「「「「あっ!!」」」」

『『『……えっ?』』』

 火織たちが躱したことにより、魔力弾はその背後にいた俺達にそのまま向かってきた! ま、まずい、このままじゃ!

 その時すぐさま反応できたのは、俺と木場、巡、ゼノヴィアとイリナだった。俺達はすぐさま皆より一歩前に出て俺は籠手を、巡とゼノヴィアはそれぞれの獲物を盾にするかのようにかざし、イリナは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を実際に盾の形に変形させた。そして木場はその場に膝をついて地面に手をかざす。おそらく地面から大量の魔剣か聖魔剣を生やして盾にするつもりだろう。くっ、俺達だけであれが防げるか!?

 と、その時

「私が受ける! 皆は行って!!」

 火織!? 火織が盾になろうとする俺達の前に一瞬で移動してきた! そして先程の言葉を受けて黒歌姉たちは砂煙の中にいる白い鎧の方に突っ込んでいく!

「火織! そこ危な……ッ!!」

「皆その場でじっとしてて!!」

 そう言うとともに火織は右手に持つ蛇腹剣を向かってくる魔力弾に向け

限定解除(リミット・ブレイク)!!」

 と叫ぶと同時に魔力弾が蛇腹剣に着弾、大音響と光が俺たちに襲いかかった!

『『『キャァァァアアアッ!?』』』

 俺の後ろで部員や生徒会の連中の悲鳴が上がる! ……けど、あれ? 確かにものすごい音と光に包まれたのに、衝撃が来ない? あんなでっかい魔力弾が当たって?

 不思議に思い思わずつむってしまった目を開ける。するとそこには……思いもよらない光景が広がっていた。

 一言で表すなら……骨。そう、それは大蛇の骨。それも全長何十メートルかも分からないほど巨大な大蛇の骨が俺たちを守るかのように俺たちの周りでとぐろを巻いていた! そしてその尾の先端を火織は右手で掴んでおり、たてがみを備えた禍々しき頭蓋骨は鎌首をもたげて白い鎧の方に向いている。まさか……これがさっきの蛇腹剣の禁手(バランス・ブレイカー)、いや限定解除形態(リミット・ブレイカー)だってのか!?

 おいおいおい、確かに今まで見た火織の限定解除形態(リミット・ブレイカー)である大紅蓮氷輪丸やさっき雲を割った伸びる脇差しもそれはそれで本当に木場と同じ神器(セイクリッドギア)なのかよと疑いたくなるような姿だった。でもあれらはまだ刃物の形を維持していたのに対し、今回のこれはもはや刃物ですらねぇ! 完璧怪獣じゃねぇか! いや本来蛇にはない背びれのような突起が刃物に見えなくもないけどさ!?

 そしてそんな物を創りだした火織はというと……

「……今のはちょっと私もカチンと来たわね」

 こめかみに血管が浮いていらっしゃった!

「お返し! 狒骨(ひこつ)!!」

 そう叫んだ瞬間骨の節目が尾の先端の方から順に赤く光りだした! そして首の根元の最後の節目が光ると同時に、大蛇が口をガバリと開ける。その口の中には……さっき俺たちを襲った魔力弾に決して劣らない魔力の光が!! そして

大砲(たいほう)!!!」

 口から魔力砲が放たれた!! その魔力砲は四方八方から浴びせられる黒歌姉たちの魔力弾を避けていた白い鎧に一直線に向かって行く!

「ぐっ!?」

 しかしながら白い鎧も遅まきながら向かってくるどでかい魔力砲に気付き、身をひねってそれを躱す。が、躱しきれずに肩の鎧を持って行かれ、その場でバランスを崩した! そしてそんな隙を俺の幼馴染たちが逃すはずがない!

「妖術と仙術のミックス攻撃を御見舞にゃ!!」

 黒歌姉の両手に纒ったオーラが混ざり合いながら白い鎧に放たれ着弾、上空へ大きく弾き飛ばされる。そして飛ばされた先には……大きく足を振り上げた白音ちゃんが!

「落ちて下さい!!」

 そして白音ちゃんの踵落としが鎧の延髄に振り下ろされる! 白い鎧はそのまま地面に向けて撃ち落とされた! そして、撃ち落とされた先には

「喰らえ」

 拳を構えた龍巳が! そして無造作に振り上げられた拳が白い鎧の腹部に突き刺さり、腹部の鎧が粉々に砕け散る!

「ゴハァッ!?」

 そして口の部分から血を吐き出しつつ、再び打ち上げられた! そして

「今にゃ!」

「火織お姉ちゃん!」

「トドメです!」

 それを聞いた火織は左手の脇差しを捨て去り、新たに一振りの刀を創りだして振り上げた。

限定解除(リミット・ブレイク)! 黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)!!」

『『『………………』』』

 そして現れたそれに俺たちは驚きの声を上げることもできず、ただ呆然とするしかなかった。火織が左手に持つ刀にこれといった変化はない。でも火織の背後に10mは軽く超えるであろう人型が、火織の叫んだ名前からすると明王が起立し、火織同様左手に持つとてつもなく巨大な刀を振り上げていた。

 そして火織が刀を振り下ろすと同時、まるでその動きをトレースするかのようにして明王もその刀を白い鎧に振り下ろし、白い鎧を地面へと叩きつけた。














『Divide!』







「……やっぱりね」

 火織がつぶやくと同時、ズンッ! と音を響かせてまるで力が抜けたかのように明王が膝をついた。……あの白い鎧がなんかしたのか?

 そして明王の刀が振り下ろされた地点には……膝をつきつつも破壊された鎧の各所をすでに修復したヤツがいた! おいおい、消耗はしてるみたいだけどあれだけの攻撃喰らって無事なのかよ!

「くっ……はっ……はっはっはっ! これはすごい! これはすごいぞ!! 肝心のコカビエルは見当たらないし、赤龍帝も両親が一般人のつまらん雑魚と聞いて、せめてもとルシファーの妹やバラキエルの娘、レヴィアタンの妹に期待していたが、まさかこんな奴らがここにいたなんて!!」

 そう言って歓喜の笑いを上げる白い鎧。こいつ、何がそんなに嬉しくて笑ってるんだ? どうやら強いやつを期待してるかのような口ぶりだけど………………もしかしてドM!?

「こいつら相手なら俺も遠慮なく戦えそうだ。我、目覚めるは……」

 そしてその白い鎧改めドMさんは何かを唱えようとした、その時!

『いいかげんにしろヴァーリ! そいつらには手を出すなと何度も言っているだろう!!』

「……チッ、なぜ邪魔をするアルビオン。先程から頭のなかでそう何度も喚かれては正直かなわん」

 な、何だ? あの白い鎧についてる玉みたいなのが突然しゃべりだしたぞ? それにアルビオンって前に何処かで……。と、その時俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宝玉が突然光りだした!?

『よぅ、白いの。久しぶりじゃないか』

『赤いの! これは一体どういうことだ! なぜそいつがそこにいる!?』

『まあ話せば長くなるんだがな。結論だけ言えばそこのオー……』

 とそこまでドライグが言った時


ベキィッ!!


『『『………………は?』』』

 俺の隣に移動して来た龍巳が……籠手の宝玉に指を突き刺した!?

『グ、グォォォオオオッッ!?!?』

 苦しそうな咆哮を上げるドライグ!

「おい龍巳!? お前一体何やってんだ!?」

「イッセー、気にしなくていい。………………ドライグ、我前言った。その名で我呼ぶなって。あんなにお仕置きした、まだ分からない?」

 そう言いながらグリグリと宝玉の中で指を捻る龍巳。捻る度にベキベキと宝玉がどんどんひび割れていく!

『グァァァアアアッッ!?』

「お前いるからイッセー狙われる。迷惑。……いっそ力だけ残してドライグはそのまま……」

「ちょっ!? ちょっと待ってくれ龍巳!! ほ、ほら! ドライグは俺にとって大切な相棒だからさ! なっ!?」

 っていうかお前今すげー不吉なこと言おうとしなかったか!? ちょっと怖ぇよ!!

「……イッセーがそう言うなら」

 そう言うと龍巳は素直に宝玉から指を抜き取ってくれた。

「ドライグ、大丈夫か?」

『相棒……俺は今日ほどお前が相棒でよかったと思ったことはないぞ』

 ドライグは声を震わせながらも答えてくれた。お前……泣いてんのか?

 一方そんな光景を見せられたドMさんの方はフリーズしていた。まあ、うん……気持ちは分かる。

『……あー、赤いの。つまりそいつが味方しているのはお前ではなく』

『あぁ、俺の今回の宿主の方だ。俺としても不本意だがな白いの、相棒には手を出さない方がいい。………………お前はおろか俺まで消されかねん』

『………………どうやら今回だけはそうした方がいいようだな』

 結局俺らを置いてきぼりで話はついたようだ。それにしてもさっきからドライグたちが相手を呼ぶときに使っている『白いの』や『赤いの』、それにようやく思い出したけど前に龍巳が教えてくれたアルビオンって名前………………もしかしてこいつ……。

「勝手にお前たちだけで話を付けられては困るなアルビオン。俺はここでやめるつもりは……」

 こいつまだやるつもりか!? と思った所で鎧の各所にあった宝玉が突然光を失った。

『悪いがヴァーリ、神器の機能を停止させてもらった』

「なっ!? どういうつもりだアルビオン!!」

『いいからこの場は退け、ヴァーリ!! 今のお前では覇龍を使った所で勝ち目はない!!』

「……っ! お前が拒否するというのなら俺のみの力で!」

『聞き分けろヴァーリ! こんな所で終わるのがお前の本懐か!? 奴に借りを返すのではなかったのか!?』

「……くっ」

 そこでようやく奴は拳を下ろして臨戦態勢を解いた。

『それでいい。私もこんな所で歴代最強の宿主であるお前を失いたくはない。……まあそいつらが見逃してくれたらの話だが』

 あー、確かに。黒歌姉たちはまだやる気満々みたいだし。俺が止めたほうがいいのかな? と思った所で

「白龍皇、ここで退くなら見逃してあげるわ」

 と火織が言った。っていうかもしかしたらと思ったけど、やっぱりこいつが白龍皇だったのか。

「火織!?」

「今、絶好のチャンス!」

「それに今アルビオンは歴代最強って言いました! 見逃せばお兄ちゃんが危険です!」

 口々に文句を言う黒歌姉に龍巳、白音ちゃん。しかし火織の方も一歩も退かなかった。

「いいから!」

 その一言で黙る黒歌姉たち。でも顔は納得してないって感じだな。

『帰るぞ、ヴァーリ』

「チッ」

 一方の白龍皇も飛び立つために俺たちに背を向ける。が、すぐにこちらに振り返ってきた。

「……退く前に1つ。俺はここにアザゼルに頼まれてコカビエルの回収に来たんだが、奴が見当たらない。お前たちが倒したのか?」

「あぁ、そうなの。じゃあこれはあなたにあげるわ。持って行きなさい」

 そう言うと火織は影から例の氷の塊を出し、それをズザザーーッと白龍皇のもとまで滑らせた。初めてこれを見た生徒会の面々は顔を青くしてるな。まあ俺も最初はそうだったけど。

「……これはお前が?」

「えぇ」

 そう火織が言うと白龍皇は火織にギラギラとした視線を向けた。そう、まるで狙った得物を見定めるかのように。

「……ふんっ」

 そしてそのまま氷塊を鷲掴みにし空に向かって高速で飛び立った……その時!



ゴィンッ!!



「ぶふぅっ!?」

「ゴインって、今ゴインって……」

「龍巳、結界解いてあげなさ……ふふっ」

「ぷ……う、うん……くくっ」

 白龍皇が頭から結界に激突していた! それを見てお腹を抱えて笑いをこらえる俺の幼馴染たち! っていうか見逃すつもりなら結界解いててあげようよ! よっぽど痛かったのか頭抑えて悶てんじゃねぇか! ……っていうかあんな速度でぶつかって破れないってよっぽど強力な結界張ってたんだな龍巳は。

 一方回復した白龍皇はこっちを恨みのこもった視線で睨みつけると、そのまま龍巳の開けた結界の穴から飛び立っていった。……これで、ようやく終わったのか。

「ねぇ火織、なんで見逃したにゃ?」

「あれ、イッセーにとって害悪」

「私達がいる限りお兄ちゃんに手出しなんて絶対にさせませんけど、見逃す必要も……」

 そう聞かれた火織は3人に答える代わりに俺に言葉を投げかけた。

「イッセー、あれがあんたのライバルよ」

「ライバル? 敵じゃなくってか?」

「えぇそうよ。イッセー、あなたは強くなりたいんでしょ?」

「あぁ、そのために毎朝あんな過酷な修行続けてるんだし。それに今までずっと守ってもらってたからな。だから今度は俺が火織たちを守ってやれるくらい強くなりたいんだ」

「「イッセー……」」 「お兄ちゃん……」

 う、俺今もしかしてすげぇ恥ずかしいこと言わなかったか? 黒歌姉たちもほんのり頬を赤らめてこっち見つめてるし!

「そう。ならもちろん私達より強くなるってことよね。ところでさっきの白龍皇も今度は私達に勝てるよう私達より強くなるかもしれないわよ?」

「……あっ!」

 そうか! あいつは白龍皇だから本来俺の宿敵だけど今のあいつが狙ってるのは火織たちだ! これ、俺が目標を叶えるためのチャンスじゃねぇか!!

「火織、俺強くなるよ! あいつが火織たちより強くなる前にあいつより強くなる! 今度は俺が守る番だ!!」

 そう俺が言ったとき火織は、嬉しそうに笑ってくれた。

「えぇ、頑張ってねイッセー」







「火織、もしかしてこのために?」

「えぇ、明確な指標があったほうがイッセーもやる気になるでしょうし」

「……でもやっぱり危険なんじゃ」

「あんまり過保護だとイッセーも成長しないわ。それに……いざというときは私達もいるんだし」

「……分かった。今は保留。でも……イッセー、本当に危なくなったら」

「うん、容赦しないにゃ」







 こうして長かった1日は、ようやく幕を閉じた。














「ところで、ねぇイリナ、ゼノヴィア」

「なぁに火織ちゃん?」

「どうしたんだ?」

「私が言えた義理でもないんだけどさ、良かったの? エクスカリバー全部砕いちゃって。祐斗が砕いちゃったのはまぁしょうがないとして、あなた達まで砕かなくっても良かったんじゃ……」


 ………………


 ………………………………


 ………………………………………………


「「………………あぁっ!?」」

 その後俺たちは必死こいてさっきまでの戦闘で荒れ果てたグラウンドから戦闘の余波で散らばったエクスカリバーの破片をかき集め、その中からなんとかエクスカリバーの核を見つけ出した。

 ……最後のこれが一番疲れたぜ。


 
 

 
後書き
次回予告

「イリナァッ! 絶対に負けないからなぁっ!!」

「実はお礼とは別にもう1つ、君に話があってね」

「にゃっははは! 出来るもんならやってみるにゃ~!」

「お兄ちゃん、見てください!」

「ぐぇほっ、けほっけほっ! は、鼻が……」

 次回、第58話 別れ、そして約束

「……教会の戦士たる私にとって、悪魔は等しく滅すべき敵だ」


 
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