リメイク版FF3・短編集
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サケはのんでもなんとやら
前書き
現実世界では、おサケは二十歳になってから。───ルーネス視点。
「 ────おお? 何だ兄ちゃん、人にぶつかっといて謝りもしねーのかい?」
大柄な男に絡まれた────
いや、おれじゃなくてイングズが。
……前回レフィアとアルクゥだったんで、今回はおれとイングズがある町で買い出し担当していた。
二人して他愛ない会話しながら店を巡り歩いていたら……、急に大柄な男とイングズの肩がぶつかった。……明らかに幅きかしてるそっちが悪いのに、云いがかりをつけてきやがった。
「 ───何だよ、そっちがぶつかってきたんだろっ!」
おれは在り来たりな返しをしたが、イングズはあくまで冷静に構えてる。
「よせ、ルーネス。……謝罪が遅れて、申し訳なかった」
「あぁん?……兄ちゃんアレだな、体付きはいいが、男の割にキレイな顔してるじゃねーか」
大柄で筋肉質な厳つい男は、イングズの整った顔立ちを覗き込むように凝視する。
「ムサイ面イングズに近づけんなよっ!」
おれは思わず間に入って離れさす。
「おお? 何だちみっ子、こいつはおめぇの兄ちゃんか? ───それともアレか、女子みてぇな面したちみっ子とキレイな面の兄ちゃんは出来てんのかァ?」
「なっ、何だと!? どういう意味だよ!」
何故かおれは少し顔が熱くなるのを感じた。
「……付き合うだけ時間の無駄だ、行くぞルーネス」
少し呆れた様子でそう云って先へ行こうとするイングズ。
「おお、逃げるってこたやっぱそーなのかい。女々しいったらねーなァ?」
「 ────── 」
イングズの動きが、止まった。
「腕っぷしでやり合うのもいいが………俺様としちゃあ今"酒飲み"で勝負してぇのさ。兄ちゃん、男なら乗るよな?」
「 …………… 」
な、何でそうなるんだ? おれはイングズに近寄り後ろから小声で話し掛ける。
「あいつあんな事云ってるけど………イングズ、酒飲んだ事あんの?」
「 ────兵の仲間から、無理矢理飲まされた事は何度かある」
「む、無理やり……?!」
「いいだろう、受けて立つ」
つとイングズが振り向いて、大柄な男に云い放った。
「そーこなくちゃなァ、兄ちゃん! なら俺様とっときのパブに連れてっちゃる!!」
イングズが、挑発に乗るなんて────顔にはほとんど出してないけど、云われた事によっぽど腹立ったのかな………?
そして夕刻────酒場で野次馬に囲まれつつ、大柄な男と涼しい顔のイングズが、どちらが先に潰れるかまでの酒飲み勝負が始まった。
結果は─────イングズの負け。
……あ~ぁ、そりゃそうだよな。剣の勝負ならまだしも、相手は相当酒に強そうだったし。
けどイングズも結構粘って、それが好感持たれたのか、大柄な男は勝った負けた関係なしに満足そうに帰って行った。
────とはいえ、その後が大変だった。イングズが、酔い潰れてしまったんだ。こ、こんな姿………レフィアとアルクゥには見せらんないな。
パブの女主人が気を利かせて、空いている個室に案内してくれた。いい男の飲みっぷりを見せてくれたお礼とかで、一晩泊まってってとまで云われた。
はぁ、こういう時のイングズの好感持たれる体質は、うらやましい。
……おれだけじゃちょっと無理だったんで、女主人の手も借りて個室のベッドまで酔い潰れたイングズを運び入れる。
そして女主人は去り際、『いい夜を♪』とか云って店に戻った。
────いい夜もないじゃん。あぁ、レフィアとアルクゥには明日どう説明しよ………
「うぅ………、みず……ッ」
ベッドに仰向けで、片手の甲を額にやったままのイングズが掠れた声でそう云ったので、おれはコップに水を注いでイングズの身体を片手で起こしてやりながらコップを差し出す。
……多少赤みの差した顔だけど、それでもあまりヒドく見えないから不思議だ。とはいえ、目つきが半眼で据わってるけど。
「結局買い出しも済ませらんなかったし……、付き合うだけ時間のムダって自分で云っといてこれだもんなぁ? ……イングズ、ほんとは酒強くないだろっ?」
「 ────── 」
「てか、どこでムカついたんだよ。やっぱ、女々しいとか云われた事か?」
「 ────── 」
「テーブルにもたれ掛かってつっぷした時点で、負けだったもんなぁ………」
「 ────── 」
「まぁでも、負けたからって何か要求された訳じゃないし、そんな悪い奴でもなかったかもなっ?」
「 ────いい、な 」
「……は? なに………」
ふと、イングズが間近でずーっとおれを見つめていた事に今さら気づく。
────近い。何かやっぱ、酒臭い。しかも………不敵な笑みを浮かべてる。ちょっと、怖いぞ? つーか、"いいな"って何が??
「 ────かわいいな、お前」
はぁ? かわ、いい?………おれが!?
何云ってんだイングズ、酒のせいで壊れたか?!────うわっ、しかも迫ってきた……!!
「フフ、フフフフフ………!」
と、とうとう笑い方までおかしく…?! ヤバイ、ぜったいヤバイ……!!
ベッドに押し倒される前に、逃げっ────
「逃がさない……!」
ひぎゃっ、後ろから抱きしめられ……!? 酒気帯びた間近の息づかいが、おれの頭までどうにかしちまいそうだっ。
「う~ん………お前は、私の───もの────」
首元に擦り寄られた顔が、おれの顔に向けて─────
「いい加減にしとけよイングズ――っ!!?」
幻術師にジョブチェンジしたおれは、アイスンの黒出して<冷たい視線>でイングズを氷付かせてやった。
………あぁ、もういいや。明日の朝まで、このままにしとこう。そうすりゃきっと、醒めてるだろ、酔いも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「で……、ルーネスにイングズ、ひと晩中どこで何してたわけっ?」
「そうだよ、心配してたんだよ……!」
翌日、宿屋の方に戻ったおれ達を、レフィアとアルクゥが怒ったような心配した様子で出迎えた。
「いや、それが────私は何も憶えていないんだが……。ルーネスも、何も教えてくれないし───それに、寒気がするな………??」
「気にすんなってイングズ、レフィア、アルクゥ。何もなかったんだから、なんもっ。
────だから、何も聞かないでくれ」
おれは少し、遠い目をしてそう云った。
END
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