リメイク版FF3・短編集
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赤マントにつつまれて
「 うらあっ! 」
「 ────甘いッ! 」
ある森の開けた湖畔で、戦士のルーネスと赤魔道師のイングズがいつものように手合わせしていると………
突如、蒼き幽霊のような魔道師の姿をしたモンスターのソーサラーが二匹現れ、ルーネスへ向け二匹同時に<ファイラ>を放ってくる。
「うぉあ゙っち~~!?」
突然の事に驚きパニクって、全身炎に巻かれたルーネスは思わず近くの湖に飛び込む。
「く……、不意討ちとはやってくれる。はぁッ!」
イングズは一人、片手剣でソーサラーに立ち向かう。
「ゔ~、湖がすぐ傍にあってよかったぜ……って、おれも加勢しないと!───せぇりゃ!!」
ルーネスはすぐに湖から飛び出して、ソーサラーの1匹に二刀流の踏み込みで倒す。
……もう一匹も既に、イングズの剣捌きによって倒されている。
「大丈夫かルーネス、回復が遅れてすまないな」
そう云って<ケアルダ>を掛けてくれる。
「いいって別に、あの時回復に走ってたらイングズも魔法の標的になってただろうし………へっくし!」
「お前………ずぶ濡れだな。乾かした方がいい、焚き火用に枝でも拾ってくるか」
「へ? あ、じゃあオレも……へっくしゅん!」
「 ────マント置いていくから、装備している物を脱いでそれを身に纏っておけ、すぐに戻る」
イングズはそう云って、赤マントを外してルーネスに渡し、一人森の周辺を歩いてゆく。
取り残されたルーネスは、云われた通りにして待っておく。……冷えた体に纏った赤マントが、さっきまでイングズが身に付けていたせいか温もりを感じ、心地いい。
暫くして戻って来たイングズは、両腕いっぱいに大小様々な枝を抱え、近くの程好い高さの木の枝にルーネスの濡れた装備品を引っ掛け、その下で焚き火を焚く。
「ふぃ~、あったけ~……。にしてもさっきの二匹、オレを火攻めにしやがって……! イングズだって、いたのにさっ?」
「単にその時、お前を狙い易かったんじゃないのか」
「ん~、イングズが火攻めにされて湖飛び込んでずぶ濡れなってるとこ、オレとしては見たかったなー」
「何を云ってるんだ、炎系魔法を使われた際、湖が傍にあるとは限らない。すぐに回復出来る手段を使うか、次の手を使われる前に相手を倒すか、だな」
「そりゃそうだろうけどさ………ん? 何だ、アレっ」
急にルーネスは、湖の向こう側へ目をやる。
「どうした、また何か現れたか?」
イングズは思わず身構える。
「いや、なんつーか………アレだよ、あそこ!」
ルーネスはつと立ち上がって、赤マントを身に纏ったまま素足で湖の端にしゃがみ込む。
「何だ、あれって……… 」
訝しみながらも、イングズもそこへ近寄る。
「ほら、アレ! 向こう! しゃがんで見ないと分かりづらいぜっ」
「ん……? ほう、確かに珍しい魚が──── 」
「そ~~れぇっ!!」
「な゙……ッ?!」
バシャアァン ─────
イングズが身を屈めて湖の向こうに目を凝らしているのを見計らい、突如背後から思いきりルーネスが背中を押しやって湖に落とし入れる。
「 ────ぷはッ、お……お前よくも……!」
「へへ~ん、やったね~! イングずぶ濡れ~っ」
羽根つき帽子も外れて頭からびしょ濡れたイングズの金髪は、追い風を受けたような感じからぺったりと下向きになってしまっている。
「うおー? やっぱ印象変わるなー、その感じも似合ってるぜっ!」
「馬鹿者ッ、故意に人を湖に落とすんじゃない! 全く………」
全身から水を滴らせながら、イングズは湖から這い上がる。
「………もう1回っ」
「 ────そうはいくかッ」
またルーネスが押しやってきそうだった所をイングズは難なくかわす。
「なんだよ~。……まいっか、ずぶ濡れてるとこ見れたしっ! そんでもって……、脱げば?」
「脱がん、お前の思い通りにさせるか」
「え~、カゼ引くぜ~?」
「鍛え方が違うんだ、焚き火にさえ当たっていれば自然に乾……ックシュン」
「お……?! 今くしゃみした、イングズがっ。ひゃは~!」
ルーネスが何をそんなに嬉々としているのか、イングズにはよく判らない。
「お前には付き合ってられ……クシュッ」
「あー、またしたーっ!」
何故か囃し立てられつつ、焚き火の方へ戻って二人して並んで座り込む。
「 じ ~ ……… 」
「じろじろ見るな、おかしな奴だな……」
「 へへ~っ 」
急にルーネスが、肩が触れ合う程身を寄せてくる。
「こ、今度は何だ……。というか、引っ付くな。私の方はまだ濡れて──── 」
「いいって別に。……しばらくこうさしてよ」
そう云ってルーネスは赤マントを身に纏った姿のまま、イングズの肩に銀髪の頭を寄せ、目をつむった。
「おい、ルーネス────?」
戸惑ったイングズが呼び掛けるも、既にルーネスは微かな寝息を立てて、眠ったらしい。
────こちらの気も知らないで……。こうして見ていると、まだあどけない少年なのに────
守ってやらなければ、せめてこの旅が終わるまでは。
いや、出来る事ならその後も────
もう一方の手で、イングズは銀髪を優しく撫でる。それに気づいてか知らずか、目をつむったままルーネスは微かに身じろいだ。
………もう日は暮れ始めていた。我々が戻らないのを、他の二人は心配しているんじゃないだろうか。だが今は、まだこのままでいい。このままで ─────
焚き火の前で肩と頭を寄せ合い、二人は共にまどろんだ。
END
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