少年と女神の物語
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第七十三話
「おー・・・あの巨体であれだけのスピードが出せるのか」
確か、あんな感じの毛皮に包まれた獣は持久走が苦手なはずなんだけどな・・・神獣たる所以、ということか。
「リズさんはずいぶんと余裕なのね。追いつかれたら死んでしまうかもしれないのよ?」
「まあ、ただ何もしなければ死ぬかもしれないな。だが、このメンバーなら時間稼ぎくらいは出来るだろう?」
「それで、時間を稼いでどうするのかしら?」
「時間を稼いで、それで終わりだ。その先の心配は無い」
そう言いながら目を閉じて眠ろうとしたとたん、車が急停止した。
「まさか、ここで迎え撃つのか?」
「だって、今リズさんがいったんじゃん。時間さえ稼げればどうにかなる、って」
まあ、確かにそういったが・・・時間を稼ぐなら、もう少し車で逃げた方がいいだろうに。
とか考えているうちに三人が車から降りて、恵那が一体、残りの二人が二体か・・・まあ、妥当ではあるな。
ただ問題なのは、最低限の時間がどれだけなのか、だな・・・って、神獣相手するのにカンピオーネの元を離れてどうするつもりなんだ・・・
「はぁ、見てられん。祐理といったか」
「は、はい。なんでしょう?」
「私はあの二人の様子を見てくる。そこの魔王が目を覚ましたら、何か霊視したことでも伝えてやるんだな。きっと、ためになる」
そう言って車を降り、加速用の術を使ってさっさと追いつき・・・やめた。
「ふむ・・・毒、か」
さて、どうするか・・・このまま近づけば間違いなく私も毒を吸うことになる。
かといって、何もしなければあの二人は死ぬな。
当然、自分の命とあの二人の命なら自分の命をとるが・・・見捨てるのもあれだな。
「・・・この木、太くて長くて、中々に重そうだな」
左手で触り、投函の術で猿の神獣の上に落とす。
バランスを崩したところで回収の術を使い木を回収し、再び落とす。
「あ・・・砕かれた」
木が砕かれた以上、この手はもう使えないな・・・拘束、っと。
預かっているグレイプニルを使い、縛り上げた後に使える限りありったけの術を放つ。
「お・・・元々手負いだったのか。いい感じに決まる決まる」
とはいえ、このやり取りは後続けられて(呪力量的に)三日くらいだし・・・それで殺しきれるかどうか。
それ以前に、見つからないといいんだが・・・
「あ、見つかった」
マズイな・・・とりあえず、右手で木に触れて再び落とす。
ついでで目元に足元の砂を投函し、もう片方の視界も一時的に奪って・・・
「ふぅん・・・珍しいな。リズ姉が家族以外のために戦うなんて」
そこでようやく来た武双が、猿の神獣の上に乗っていた。
「何を呑気に話してるんだ、武双は。さっさと足元のを倒せ」
「まあ、それもそうだな。毒持ち呪え、ゲイ・ボルグ」
武双はそのまま右腕で殴りつけ、神獣を殺して見せる。
そういえば、武双の左腕にはゲイ・ボルグが宿っているんだったか。
「遅いぞ、武双。危うく私が本気になるところだったじゃないか」
「本気・・・?ああ、フルバースト?」
「そうだ。まったく、何であれを家族以外のために使わないといけないんだ」
「まだ使ってないみたいだし、いいじゃん」
武双が周りの風景を見ながらそう言ってくる。
まあ、使ってないからいいんだが。
「毒も消えないか・・・とりあえず、あの二人だけ回収しておこう」
「武双は、毒の影響を受けていないのか?」
「多少は。でも、カンピオーネに対して神獣ごときの毒は効かない」
そう言いながら毒の中を悠々と歩き、二人を回収して、私のいる毒のない場所まで戻ってくる。
「あ、そうだ。念のためにリズ姉も飲んどいて」
「ん?ああ、酒か」
念のため、でしかないが一応飲んでおく。
その後武双も飲んで、一人ずつ抱える。
「この二人には飲ませないのか?」
「飲ませてもいいんだけど、それよりもよさそうな手がある。護堂のところまで運ぼう」
何があるのかは知らないが、まあ祐理とやらの頭の中でも覗いたのだろう。
それ以前に、私としてはこの二人がどうなろうが、どうでもいい。
◇◆◇◆◇
とりあえず、エリカとリリアナの二人を護堂に渡してからあの五人と別れる。
まあ、少年の権能を使うんだとしたらさすがに同席する気にはなれないからな。
「にしても、少年の化身か・・・つまり、アイツは自分の化身を掌握した、ということか?」
「まあ、そうなんだろうな。羨ましい限りだよ」
「羨ましい?武双だって権能の掌握位しているだろう?」
まあ、してるんだけど・・・
「つっても、全部を掌握してるわけじゃない。『即席工場』、『誓いの槍』、『知に富む偉大なる物』、『沈まぬ太陽』、『豊穣王』・・・どれもこれも、戦闘メインの権能じゃない」
「他のは掌握していないのか?」
「ああ、してない。掌握した、と思った権能もいくつか有るんだけど・・・こう、掌握したには違和感があるからな~」
少なくとも、『終なる全王』、『火の知恵者の仕掛け』。この二つは、掌握しきれていない。
「・・・まあ、掌握しきれるほど使ってない、ってのも有るんだけど」
「数がある分の弊害か」
それにしても、ゼウスのが掌握し切れていないのは少しモヤモヤする。
一番最初に手に入れた権能なんだけどな・・・
「・・・ゼウスから簒奪した権能、終なる全王。この権能は、ゼウスの雷関係全て、そのはずなんだ」
「・・・にしては、地味じゃないか?」
そう、地味なのだ。
そりゃ、ゼウスの権能の完全解放。アレは強力だし、見た目派手だろう。
だが、ゼウスの権能で出来ることにしては中途半端。あれでは、ゼウスの雷の破壊の面しか表せていない。もう一つの面を、表せてはいない。
それ以前に、ゼウスの持つ雷関係のものは、雷そのもの、キュプロスの杖、肩当だけじゃないはずで・・・
「はぁ・・・いくら考えても無駄、か」
「カンピオーネの権能に変化が現れるのは、常に戦闘の中だけ、か」
「それも、神か同族との、ね。その辺、俺はズルしちゃってるからな~」
掌握は、しづらくなっているのかもしれない。
「まあ、これ以上は話しても無駄だろうな」
「だな。まあ、戦ってるうちにどうにかなるさ」
考えても無駄なら、考えるのをやめるとしよう。
「で、だ。武双はこれからどうするつもりなんだ?」
「これから、というと?」
「孫悟空との戦いについて、だ」
ああ、そういうことか。
「それなら、頭で考えるだけなら俺は必要なさそうなんだよな」
「というと?」
「向こうが出してきた神は、猪八戒に沙悟浄。つまりは、孫悟空を含めて三柱だ。んで、今日本にいるカンピオーネは合計四人」
「それで?」
で、ここからかんがえると・・・
「まず、護堂は間違いなく孫悟空と戦うことになる」
「万里谷ひかりが捕まっているからな」
これで、一人は確定。
「次に、翠蓮。アイツはかなり孫悟空と戦いたがってたし、間違いなく参戦してくるだろ」
「そもそも、それが目的で日本に来ているんだからな」
これで、二対三。
「最後にスミスだけど・・・アイツは、性格上美味しいところで現れる」
「・・・そういうやつだったか」
で、これで三体三なわけだ。
でも・・・
「なんか、モヤっとするんだよなぁ・・・」
まあ、俺もスミスみたいに美味しいところで駆けつけるか。
それまでは、高みの見物でもしていることにしよう。
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