リメイク版FF3・短編集
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雨濡れの日、君のを貸して
「なぁ……、おれ買いそびれた武器あるんだけどさ~。やっぱあっちがよかったってぇか………イングズ、ちょっと付き合ってくんないっ?」
またこいつは何を優柔不断な事を────
「断る。……雲行きが怪しくなっている上に、さっき出掛けたばかりだろう。まして無駄遣いするな、買った物をまず使え」
アルクゥとレフィアは宿部屋でそれぞれの事をしており、ルーネスは私の部屋へ来るなり我が儘な事を云う。
「いーじゃん、買ったやつ売ってギルにすればさぁ?」
「 ────元の分の半額だぞ、勿体ない」
「ケチケチすんなよぉ」
「そんなにすぐ買い換えたいなら、自分一人で行け。……私はそんな我が儘には付き合わん」
「む゙~、いけずー。いいもんね! 一人でもっとマシな方買ってきてやるっ!」
そう云うなりドアを開け放したまま踵を返してゆく。全く……、成長しない奴だ。
────それから暫くして雨が、本降りになってきた。云わんこっちゃない。……私の足は自然と部屋を出て、宿屋ロビーへ向かう。
するとちょうどその時────入口のドアが雨粒と共に勢いよく開いた。
「う、売り切れてた……。あぁっ、やっぱあっちがよかったぜ~」
はぁ……、びしょ濡れで戻って来て第一声がそれか。呆れる。
「 ────ほら、タオル。風邪引くぞ」
「う~ん、どっかに売れ残りないかなぁ? あ、それともアレの方がよかったかな……! へっくしっ」
こいつ、まだそんな事を。しかもタオルを受け取ろうとせず、くしゃみまでして……。仕方ない。
「 ────へっ、何? いきなし腕引っぱんなって……!?」
不平には耳を貸さず、部屋へ連れ込んで結ばれている銀髪の後ろ髪を解き、タオルで無造作にわしゃわしゃ拭いてやる。
「わっぷ! にゃにすんだよぉ?! や、やめっ………おまえはおれの、母親かっ!?」
──── 一瞬、手が止まる。タオルの間から覗く、困ったような紫色の瞳。いつも結んでいる銀髪を勢いで解いたが、そうか、これくらいの………肩程の長さだったか。
「な……、何見てんだよ? そ、その顔で見つめんの、やめろよな! ヘンな気なるだろっ」
────何故そこで顔を赤らめる。しかも私の"その顔"とは、どういう云い草だ?
「………後は自分で拭け。私はお前の母親ではないからな」
「何だそれ! 人の髪ほどいといて、やるなら最後までやってくれよなっ」
何をむくれているのやら。かわい………いや、今のは無しだ。
「い、今笑っただろ?! どこがおかしいってんだよ………へっくしゅん!」
「可笑しくないから、さっさと体も拭いて着替えろ。────自分の部屋でな」
「ここまで連れ込んどいて、そりゃないだろー? いいよ、ここで着替えるっ」
「何を云っている、着替える物は自分の部屋に─────」
「い~から向こう向いてろって! カゼ引かせるつもりかよっ」
「いや………なら私が出てゆく」
「ちょ、待てって……! すぐ終わるからさっ」
────こんな事なら、勢いで部屋に連れ込むんじゃなかったか。
一応、後ろを向いておく事にしたが────
「じゃ~ん! おまえの寝巻きのやつ借りたっ。やっぱちょっとデカいな~?」
何を、勝手な………? 思わず振り向くと、襟の部分が大きくずれて華奢な片方の肩が露出している。
下は短いスカートのようだ。髪を下ろしているせいか、無邪気な少女のようにも見える。
────おかしな話だ。
「じ……、じろじろ見るなっつってんだろ! その顔で……!」
「"その顔"と云われても、鏡などで見ない限り自分の顔はよく判らないものだ。姫様からもよく見つめられたものだが────私の顔に、"何"かあるのか?」
「自覚ないのかよ……。ヤバイんだよ、その顔! アブないんだっつーのっ」
何て云われようだ。姫様にも、実はそのように思われていたのか………?
「す……、すまん。そんなに"危険"なのか、私は─────」
「……はははっ、何謝ってんだ! これでもホメてんだぞ?」
ど、どこがだ。
「キレイすぎんだって、顔。姫さんがおまえに入れ込むのも、今なら分かるよ」
「綺麗……? それは主に、女性に対して使うものだろう」
「そんなことないんじゃね? おまえ一度じっくり鏡で自分の顔見てみろよ!……つーか、"ナルシスト"になっちまいそうだなっ!」
こいつはまた、訳の判らない事を。
「そういうお前こそ、どうなんだ。その男子らしからぬ顔────」
つい、思っている事が口を滑った。
「へっ、なに? おまえから見ておれの顔、どうなんだよ」
「中性的、というか……。お前が黙ってさえいれば、ぱっと見た感じでは男か女か判りづらい、気がする」
────私は一体、何を云ってるんだ。
「へ~え、おれってそんな風に見えんだ……? けどそんなこと云ったら、アルクゥだってそれっぽくね? レフィアなんて、鍛冶見習いやってるとっからして逆に男勝りだよなぁ!」
「まぁ、そうだな……。だが"今の"お前は特に─────」
「かわいいですか~っ?」
不意に腰の後ろで両手を組み、こちらを覗き込むように不敵な笑みを浮かべ、上目遣いしてくる。
「 ────かわいくない」
「へっへ~、ムリしちゃって。……んじゃおれ、自分の部屋戻るな!」
「おい……、人の寝巻きを着たまま行くな」
「あ? ────じゃ脱がしてくっ?」
「………もう勝手にしろ」
私は背を向ける。────これ以上付き合っていると、"何か"に襲われそうだ。
外の雨は、大分落ち着いてきているが。
「まー、寝巻きはあとで返すからさ、今夜は貸しといてよ。んじゃ、また今度なっ!」
何だ、"今度"って……。問う間もなく、あいつは嬉々として部屋を出てゆく。
後に残ったのは────
あいつの脱け殻………濡れて脱いでったまま、ベッドの上に────しょうがない奴。
END
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