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緋弾のアリア0/D  No.0 & DollMaster

作者:白崎黒絵
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絶望の宴編
首斬り人形
  3幕 入学式

「――――それでは次は校長による挨拶です。起立、礼、着席」

 数千人にも及ぶ数の生徒たちが一斉に立ち上がり、礼をする。俺も立とうとしたのだが、隣に座っている柚子に止められたため、座ったままで礼をすることにした。

「えー、新入生の皆さん。入学おめでとうございます。これから皆さんは――――」

 やたらと長ったらしくて面倒くさい校長の話が始める。まともに聞くのもバカらしいので、状況整理を行ってみよう。

 もう気付いていると思うが、今は入学式の真っ最中だ。

 あの後、俺は柚子にこの学校の簡単な説明を受けたり、入学に必要な書類の最終確認などを行い、そのまま入学式に参加していた。

 いくら『武偵』を育成する学校であるナゴジョでも、入学式は普通の学校と特に変わらなかった。普通の学校の入学式を体験したことなどないが、アニメやラノベで得た知識で判断するなら、あまり問題は無いはずだ。

 たった一つの点を除いて。

 ところでさっきの状況説明で、1つおかしなところがあることに気付かなかったか?

 『数千人にも及ぶ数の生徒たちが一斉に立ち上がり、礼をする。俺も立とうとしたのだが、隣に座っている柚子に止められたため、座ったままで礼をすることにした』。どうだろう?絶対に一か所だけ、疑問に思うところが出てくるはずだ。OK?もうわかったよな?なら、正解を発表するぞ?正解は――――

(――――新入生の俺が教師である柚子の隣に座っていることだよッ!)

 俺は何故か生徒用の席ではなく、職員用の席に座っていた。しかも、ちょうど生徒には見えないような位置に。これは確実に何かある。ここに案内するときに柚子が楽しそうに笑ってる時点で気づくべきだった。

「――――これで私からの挨拶を終わりとします」

「次は生徒会長による歓迎の言葉です。生徒会長の山崎(やまざき)刃狩(はかり)さん、よろしくお願いします」

 どうやらようやく校長の話が終わったらしい。で、次は生徒会長さんのお話か。そういえば、この学校の生徒会長ってどんな人なんだ?

 俺は若干の期待に胸を膨らませつつ、壇上の上を見る。するとそこにいたのは――――

「はーいみんなー!やっほー!みんなの生徒会長(アイドル)山崎(やまざき)刃狩(はかり)ちゃんだよー!苗字がダサいとか言うなー!全国の山崎さんに失礼だゾ☆」

 なんか魔法少女っぽいコスプレをした変人だった。

 ショッキングピンクに染め上げられた長いロングの髪に、紫色のカラーコンタクトを着けた大きな瞳。体型は女性としても武偵としても合格点って感じだが、服装が最悪すぎてせっかくの身体を無駄にしている気がする。

 というか、アレだな。某異世界召喚もののラノベの黒ウサギに某魔法少女アニメのまどかの服を着せた感じだな。ウサ耳も無いし、ソウルジェムも無いけど。

 おそらく大概の新1年生は俺と同じようなことを思い、2、3年生はもう慣れたのか呆れた表情をしている。

 自分の発言に何のリアクションも無いのが辛いのか、生徒会長がもう一度マイクを手に叫ぼうとすると、すかさず……

「いい加減にしろよコラ。スケジュールが狂うからさっさと自分の役割を果たせバカ」

 と、司会の人が微妙にキレながら言う。あの人怖いなー。いやマジで。

 司会の人のあまりの迫力に生徒会長もビビったのか、マジメに挨拶する気になったようだ。

「それでは改めまして。新入生の皆さん、こんにちは。そしてようこそ。名古屋女子武偵高校へ。これから皆さんはこの学校で立派な武偵になるための訓練を積みつつ、青春を謳歌することとなります。色々な苦難もあるとは思いますが、私から言えるのはただひとつだけ。この学校での生活を、楽しんでいってください……これで私の挨拶を終わりとします」

 そう言って生徒会長は壇上から降りて行った。

 すごくマジメな声ですごくマジメなことを言ってるんだが、服装(コスプレ)のせいでギャグにしかならねえな。可哀想に。

 これまた多くの生徒が俺と同じことを思ったのか、体育館全体に微妙な空気が流れる。その空気を敏感に感じ取ったのか、生徒会長はもう一度壇上まで戻ってきて、

「なんだよもー!わたしのこの格好に文句がある奴は生徒会室まで来なさーい!その腐った性根とまともに機能していないであろう視神経を鍛え直してあげるんだから!」

 と叫んだ。性根はともかく、視神経を鍛え直すのは医学的知識が無いと無理じゃないか?



 その後、生徒会長が司会の人に思いっきりグーで殴られたりしたが、入学式はほぼ何事も無く進んでいた。そして次は、

「次は新入生代表による挨拶です」

 新入生代表の挨拶か。そういえば、新入生代表ってどんな奴なんだろうな?頭のいい秀才タイプか、はたまたこの学校らしく戦闘に秀でたタイプなのか。

「今年度の新入生代表は、本校が開校して以来初の男子生徒、天樫ゼロ君です。それでは天樫君、お願いします」

 一瞬、頭がフリーズした。

 司会の人の言っている意味が分からなかった。
 シンニュウセイダイヒョウノアマガシゼロクン?誰だそいつは。俺によく似た名前だな、いや全く同じか。HAHAHAこんな偶然もあるもんだな……って、んなわけあるか!第一、この学校に入学する男子生徒は俺しかいないはずだろ!

 つまり、えーと、何だ、その、今年の新入生代表って俺?

「何やってるんだ?ほら、さっさと壇上に上がって挨拶してこい」

 隣にいる柚子が耳打ちしてくる。いやいや、『さっさと壇上に上がって挨拶してこい』じゃねえよ。

「何で教えてくれなかったんだよっ!」

「聞かれなかったから」

「……orz」

 もう嫌だ。ここに入学するって決意してから1時間も経っていないが、もう既に退学(やめ)たい。マジで。

「まあ、文句は後でいくらでも聞いてやるから。早く挨拶してこい。このままじゃ今後の流れに支障が出る」

「そんなこと言われたって俺、挨拶の内容なんて1ミリも考えてないぞっ!」

「そこはあれだ……気合でどうにかしろ」

「気合でなんとかなるかバカっ!」

「いいからさっさと行け。挨拶なんてその場で考えろ」

 何その無理難題。そんなことできるような奴は、そもそもこんな不条理な学校には来ない。

 柚子と睨みあっていると、ふと他の場所から視線を感じた。その方向を向いてみると……司会の人が笑顔でこっちを見つめてきていた。超恐い。今日俺は、笑顔は時に何よりも恐ろしいということを学んだ。

 はあ……こうなっては仕方がない。このまま司会の人から笑顔を向けられ続けることに、俺は耐えられない。観念して、さっさと挨拶してこよう。

 俺は跳ねる心臓を押さえながら壇上に上がり、

「Hello. nice to meet you. I’m zero amagashi. Thank you from now.」

 あ、やば。つい癖で英語が。しかもこれじゃあただの自己紹介じゃねえか!やっちまったよ……

「えっと……天樫君?できれば挨拶は日本語でお願いできるかな……?」

 司会の人が戸惑った表情で言ってくる。なんだか申し訳ない気持ちになった。

「す、すみません……えっと、それでは改めまして。皆さんこんにちは。新入生代表の天樫ゼロです。その……校訓第1項にもあるように、強いことはとても大切なことだとは思いますが、しかしそれだけでは武偵としては失格だと思います。確固たる自分の正義を持ち、弱気を受け入れることも必要だと思います。ですから新入生の皆さん、一緒に頑張っていきましょう。そして上級生の皆様方、ご指導ご鞭撻の方よろしくお願いいたします……これで新入生代表の挨拶を締めくくらせていただきますっ!」

 俺は最後の方は早口で言い切り、脱兎のごとく壇上から駆け下りた。

 俺が席に戻ると、柚子がニヤニヤした笑いを浮かべて待っていた。滅茶苦茶殴りたい。

「ずいぶん立派な挨拶だったじゃないか。いやほんと、即興で考えたにしては上出来だったよ、うん」

「顔がにやけてる奴に言われても嬉しかねえな」

「まあそう言うな。いいと思ったのは本当なんだから」

 信じられるかバカ。日頃の行いと今の自分の表情を考慮しろ。

「そうふてくされるな。笑えよ、ゼロ。今日からおまえはこの学校の生徒として、強さを追い求め、青春を謳歌するんだからさ」

 柚子は妙に悟ったような顔でそう言った。なんだ、こいつも割と教師らしいところがあるんだな、と思ったが……言い切った後にドヤ顔になったから撤回だな。

 それにしても。

 本当に、今日から俺もこの学校に通うんだな。色々危なっかしいことを教えたりする普通じゃない学校だけど、本物の学校に。

 そう考えると、改めてこの学校での生活が楽しみになるのだった。

「――――それでは以上をもちまして、今年度の名古屋女子武偵高校の入学式を終了します。一同、起立、礼、着席」 
 

 
後書き
お久しぶりです。白崎黒絵です。
まずは謝罪を。更新が2ヵ月近く止まってしまい、大変申し訳ありませんでした。これからはこのようなことは無いように気を付けていきたいと思います。

今回は入学式のお話です。新キャラは魔法少女のコスプレをした生徒会長さんです。ちなみにこの学校は強さで生徒会長などの生徒会役員は決まるので、新入生を除いて、この人がこの学校では最強です。

次回あたりからようやく話がそこそこ前に進む予定なので、次回もお楽しみに。

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