万華鏡
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第七十一話 おとそその三
「だからないわ」
「そんなに飲んだの」
「クリスマスの後でお坊さんや神父さんや教会長さんが忘年会に来られたのよ」
「ああ、その時でなの」
「そう、全部飲んじゃったの」
その家にあった特級酒をというのだ。
「お父さん達がね」
「それは仕方ないわね」
「ええ、お付き合いだからね」
景子もそこはわかっていて応える。
「仕方ないわ」
「そうね、お付き合いって大事だからね」
「宗教は違えど同じお仕事だからね」
「宗教関係者ってことね」
「だから仲良いし」
この辺り本当に日本的だ、宗教の違いとい垣根は日本という国においては大した問題ではないのだ、だから景子の父もなのだ。
「忘年会もしてね、元旦の後はね」
「新年会ね」
「毎年やってるから、今度は天理教の教会でするらしいわ」
「天理教の教会でなの」
「そう、そこでね」
新年会を行うというのだ、八条町の宗教関係者達のそれを。
「これまた盛大に飲むから」
「天理教でも飲むのね」
「飲むのよ、これが」
天理教もまた然りと話す景子だった。
「神社に負けない位」
「何か宗教にお酒って欠かせないの?」
「実はなくてはならないものよ」
「お寺でもよね」
「般若湯だから、あれ」
「般若湯なのね」
「そう、般若湯よ」
酒ではないというのだ、尚実際はどうかは言うまでもない。何しろ鰻を牛蒡だと言って食べた話もある位である。
「上杉謙信さんもそれ飲んでたから」
「ああ、そういえば謙信さん坊さんだったな」
美優は謙信並に飲みつつ言った。
「あの人出家したから謙信になったんだよな」
「本名は上杉輝虎よ」
それまでに何度か名前が変わっている、だが最後の正式な名前はこの名前なのだ。景子はこのことも知っていた。
「謙信はお坊さんとしての名前よ」
「そうだよな」
「信玄さんもだから」
謙信のライバルである彼もだというのだ。
「あくまで本名は武田晴信だから」
「信玄も坊さんとしての名前か」
「そうなの、とはいっても信玄さん出家してからも奥さんと側室の方いたけれど」
尚信玄はわりかし信仰心が強かった。この辺りは信仰とはまた違うということであろうか。
「美少年好きでもあったし」
「それ謙信さんもだよな」
「当時は普通だったからね、美少年好き」
「織田信長さんとかな」
信長はこのことでも有名だ、森蘭丸が男としての愛人だったのだ。
「多かったよな、実際に」
「そうなのよ、まあとにかくお酒はね」
「般若湯って呼んでか」
「謙信さんも飲んでたのよ」
「確か謙信さんって酒好きだったよな」
「それも無類のね」
美少年と酒を愛していた、しかも服にも凝っていた。質素な生活だったというがそれと共に中々の風流人でもあったのだ。
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