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万華鏡

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第七十一話 おとそその四

「陣中でも欠かさなかったっていう位」
「お酒大好きだったんだな」
「般若湯がね」
 僧侶なのでやはりこうなる。
「好きだったのよ」
「そうだったんだな」
「そうなの、縁側に座って梅干を肴に夜空を見上げつつ飲んでたのよ」
 そうしていたというのだ、謙信は。
「静かに飲むことが好きだったの」
「成程な」
「まあとにかくお寺でもね」
 宗教関係だ、だからだというのだ。
「欠かせないから」
「お酒、いや般若湯がだな」
「そうなの、あるから」
「それで新年もお坊さんも集まって飲むんだな」
「すき焼きで飲むとか言ってるわ」
「肉食もいいのね」
 彩夏は仏教のことから言った。
「今は」
「出されたものは残さず食べるだから」
「いいのね」
「そうなの、神主さんもね」
「お坊さんも変わったわね」
「まあ。普通に奥さんもいるからね」
 尚宗教施設では細君の存在が非常に大きい。奥さんが寺社の裏方の一切を切り盛りしているのがこの世界である。
「お寺もね」
「世俗的ね」
「こっそり持つよりいいでしょ」
「こっそり?」
「昔はお坊さんの子供とか結構いたのよ、秘密のね」
 景子は彩夏達にこのことも話した。
「密かに奥さんがいてね」
「そうだったの」
「肉食妻帯は表だけのことでね」
「実際はなの」
「江戸時代とかでも食べてたし奥さんもいてね」
「密かになのね」
「そう、実際はそういうものだったのよ」
 この辺り中々面白いというか複雑なものがある、僧侶といえど人間であり修行をしていても、ということであろうか。
「これがね」
「何か比叡山のお話みたいね」
「昔だからね。けれど今は公でいいってことになってるから」
「そういうことなのね」
「そう、かえっていいと思うわ」
 公で許されている方がというのだ。
「実際昔からお坊さんで奥さんも子供さんもいる人いたから」
「確か浄土真宗は最初からいいのよね」
 琴乃はこう景子に言った。
「奥さんいても」
「ええ、親鸞さんの頃からね」
 その浄土真宗の開祖である。悪人正機説を唱えたことでも知られている。
「あの宗派はいいのよ」
「そうよね」
「まあお釈迦様も奥さんいたし」
 出家前ではあるがだ。
「今じゃ普通よ」
「日本ではなの」
「そう、今はどの宗派でもいいから」
「じゃあ景子ちゃんのお知り合いのお坊さん達も」
「奥さんいるわよ」
 実際そうだというのだ。
「それに新年のすき焼きもね」
「いいのね」
「いい人達よ」
 こうも言う景子だった。
「お坊さんだけあって温厚で人生についてもよく御存知でね」
「お坊さんとしては立派な人達なのね」
「少なくとも乱れることはないわ」
「そうなのね」
「まあ何処かの国でお坊さんが集団で鉄パイプ持って暴れてたけれど」
「それは幾ら何でも駄目でしょ」
 即答で返した琴乃だった。 
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