| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

黄蓋との勝負

師匠達と合流した俺達は城に戻る。
正直、物凄く疲れた。
釣りに行ったと思えば、熊と戦う事になったりと何回死にかけたか分からない。
城に帰ると孫堅は孫策の頬にビンタを入れた。
孫策は何も言う事なく、孫堅を見ている。

「分かっているか?
 お前の勝手な行動のせいで、周瑜と関忠が死にかけたんだぞ。
 何より、お前も死にかけた。」

「孫堅様!
 私は大丈「少し黙っていろ。」・・・・はい。」

周瑜が何かを言おうとしたが、孫堅に言われ口を閉ざす。
師匠は黙ってその光景を見つめ、弓を持った銀髪の女性もその光景を見つめている。

「はい、分かっています。」

「なら、する事はあるな。」

孫堅はそう言うと、孫策は小さく頷く。
そして、俺と周瑜の所にやってくると頭を下げた。

「本当にごめんなさい。」

俺と周瑜はおそらく同じ表情をしているだろう。
俺は少ししか孫策と関わっていないが、こんな風にきっちりと謝る所は想像できない。
俺でこれなら、周瑜は本当に目を見開いて驚いているだろう。
周瑜は小さく笑いつつ言う。

「これに懲りたら、もう少し自重して欲しいものだな。
 今回は強く止めなかった私にも責任がある。」

「俺もそうだな。
 だから、そう深く抱える事はないぞ。」

「二人とも・・・・ありがとう。」

俺達は笑い合いながらそう言った。
師匠達も俺達の姿を見て、笑みを浮かべている。
その時、銀髪の女性が師匠に話しかける。

「丁原殿。」

「どうした、黄蓋殿。」

「あの子供は貴方の弟子ですかの?」

「そうだ、彼が最後になる弟子だろうな。」

「急な申し出ですまないのじゃが、あの子と一戦交えても良いかの?」

その言葉を聞いた師匠は少しだけ驚き、俺はかなり驚いている。
何でそうなるんだ?
俺は首を傾げていると、その女性は理由を説明する。

「そやつは熊をも退け、さらには和解して熊を森に帰らせた。
 儂でもあんなに上手くはいかぬ。
 それで興味が湧いてな。」

「私も興味あるわね。
 どう、烈?」

「そうだな・・・・」

と師匠は指を顎に当てて、考える。
そして、俺に視線を向ける。

「縁、お前が決めるといい。
 戦うのはお前だ。」

「えっと・・・・」

そう言われると困る。
さて、どうしたものかと考えているとその女性が話しかけてきた。

「なに、深く考える必要はない。
 一戦といってもあくまで稽古。
 武器も弓ではなく木刀で相手する。」

おそらく、今の俺では剣を扱うのは難しいと思ったのだろう。
確かに間違ってはいない。
実際、街で両刃の剣を持った時は重くて使いにくかった。
やはり、俺の武器は刀だと思う。
軽くて使いやすく、何より家でも何回は振った事はある。
前の世界では実家が古流剣術を受け継ぐ流派だ。
なので、真剣の日本刀とかは何本か置いてある。
後々は俺も古流剣術を受け継ぐ予定だったが、その前に死んでしまった。
閉話休題。
俺は少し考えた後、これも経験だなと思いその稽古を受ける事にした。

「なら、決まりじゃの。
 稽古は明日からじゃ。
 今日はゆっくり休むといいじゃろ。」

「部屋はこっちで用意しておくから、宿の心配はいらないわよ。」

「感謝する。」

師匠は一礼をして、従者の人に部屋まで案内してもらう。
来客用の部屋なのか、ベットが二つと机などが置いてあった。
日も暮れており、夕食もすぐに出来るらしい。
師匠はどっから拾ったのか、太い木の棒を持ち、小さい剣で削り始める。
どうやら、明日使う木刀を作ってくれているようだ。
木刀は出来る限り、日本刀の形に作ってもらっている。
この時代では刀はないはずなので、俺が無理を言って作ってもらった。
師匠曰く、こんな物で人が斬れるのか心配らしい。
この時代、剣の重さで敵を叩き切るのが主流だろう。
そこら辺は俺の腕次第だろう。
木刀ができる頃には夜になっていて、夜ご飯をごちそうさせてもらった。
みんな一緒に食べようという事で、食堂みたいな所に集まり食事をすることになった。
その時に孫策が話しかけてきた。

「明日、頑張ってね。」

「まぁ、全力は尽くすけど。」

「祭・・・黄蓋はかなり強いから油断したら駄目よ。」

うん?
孫策は何て言った?
黄蓋?
もしかして、あの黄蓋か?
黄忠や夏侯淵に並ぶ弓の将で有名なあの黄蓋かよ。
何かとんでもない人に稽古をつけて貰えるな。
俺の表情が固くなっているのを見た孫策は俺の背中をバンバン、と叩く。

「関忠なら大丈夫よ!
 熊に立ち向かう時の貴方はもの凄くかっこよかったんだから。
 明日は楽しみにさせてもらうわよ。」

その言葉に俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
食事が終わると昼間の疲れがきたのか、一気に眠くなり俺はベットに寝転び、寝る事にした。





次の日の早朝。
一同は中庭に来ていた。
俺と黄蓋は皆とは離れ、中央で向かい合っている。
俺は木刀を両手で持ち正眼の構えをとる。
対する黄蓋はこの時代の剣を模倣した木刀を片手で持ち、こちらの様子を窺っている。

「そう言えば、まだ自己紹介しておらんなんだな。
 儂は黄蓋、字は公覆じゃ。」

「俺は関忠、字は統だ。」

「では、関忠。
 一つ手合わせと行こうかの。」

お互い簡単な自己紹介の後、言葉が消える。
黄蓋は依然とこちらの様子を窺っている。
どうやら、俺の構えが見た事のない構えなのか警戒しているようだ。




「烈、お前の弟子は見た事のない構えをするんだな。」

「私もあれを見た時は眉をひそめたよ。
 もしかしたら、あいつは武に関しては天性の何かを持っているかもな。」




(様子を見ていても始まらん。
 こっちから打つに行くか。)

すると黄蓋は距離を詰め、右手に持っている木刀を俺の脇腹に向かって素早く降る。
師匠との修行が役に立っているのか、俺は持っている木刀でその一撃を受け止める。
受け止めた瞬間、手にかなりの衝撃が走る。

(力つええ!!)

そのまま黄蓋は何度も連続で攻めていく。
肩、足、頭、腕、など一撃でも貰えば、何かしらの行動に支障が出る箇所を狙って来ている。
それも木刀で受け止めるだけで、軽く痺れるくらいの威力だ。
受ければ勝負は決まったようなものだろう。
必然と俺は防御に徹してしまい、ジリジリと追い詰められていく。

「どうしたどうした!
 お主の力はその程度か!!」

黄蓋は攻めながらこちらに挑発してくる。
確かに師匠に比べればまだ遅い。
だが、今の俺の腕ではカウンターや斬りかえしなどはできない。
耐えて耐えて耐えて、隙を見つけるという方法が限界だ。
しかし、黄蓋の一撃は重く、手の痺れがどんどん大きくなっていく。
このまま防戦一方では負ける。

(打ち込む隙も全然見つけられない。
 それなら。)

俺は痺れている両手に力を入れて、黄蓋を押し返して、距離を開ける。
その隙に俺は型を変える。

「むっ。」

俺の突然の型の変化に黄蓋は追撃を一旦止める。
上段の構え。
木刀を頭より高く振り上げた状態だ。
体勢から剣を振り下ろす事だけであり、斬り下ろす攻撃に限れば全ての構えの中で最速の行動が可能だ。
刀剣を用いた攻撃において、最もそのリーチを生かす事の出来る構えの一つでもある。
俺の構えを見て黄蓋は眉をひそめる。

(明らかに胴から下が隙だらけ。
 これは誘っておるのか?)

どう攻めるか考えているのか、全く打ってくる気配がない。
それでも俺は待つ。
これは一種の賭けだ。
これが成功すれば、おそらくだが勝てるだろう。
チャンスは一度だけ。
俺はその機会を見逃さないように集中する。

(待っているのも性に合わん。
 誘いに乗るのも一興!)

開いた距離を詰め、黄蓋が俺に打ってくる。
俺の胴に目がけて。

(きた!)

黄蓋が振る太刀筋に合わせて、俺も一気に振り下ろす
しかし、打ち合うのは刃の部分ではなく、柄の頭だ。
俺の柄の頭と黄蓋の刃の部分がぶつかり合う。

「なんじゃと!?」

力で言えば確実に黄蓋の方が上だ。
だから、俺はそれを利用する。
柄の頭に当たり、それでも黄蓋の木刀が勢いを止まる事はない。
その勢いを利用して、左足を軸に黄蓋の木刀を避けつつ、一回転してさらに勢いをつける。
そのまま右足を前に出し鋭い突きを黄蓋の顔に向かって突き出す。
勝負はついた。
黄蓋の木刀は空を斬り、俺の木刀は剣先を黄蓋に突きつけた状態だ。

「どうやら、儂の負けの様じゃな。」

「ふ~~~っ。」

その一言を聞いて、俺は一気に息を吐く。
何とか勝つ事ができた。
上段の構えは胴に攻撃を誘う意味と、最速で剣を振り下ろす為だった。
もし、黄蓋が足などを狙った攻撃をされたら、俺は負けていただろう。
つまり賭けに勝ったのだ。
勝負を終えると、師匠達がこちらに歩いていくる。

「まさか、祭に勝つなんてね。」

「私も正直驚いている。」

師匠と孫堅は未だに驚きを隠せないでいる。

「凄いわ、関忠!
 あの祭に勝つなんて!」

「ふむ、正直感服したぞ。」

「いや、たまたまだよ。
 次に勝負しても必ず負けるよ。
 それに黄蓋さんは弓が本命だし。」

俺が謙虚にそういう。

「いやいや、これが戦場なら儂は殺られていた。
 そこは胸を張っていいと思うぞ。」

あの黄蓋に褒めてもらい、俺は少し照れる。
修行を終えた後、軽く休んでから城の門に移動していた。

「もう行くのか?」

孫堅は寂しそうな顔をする。
そう、俺達はまだ旅の最中だ。
もっと長く居たかったが、他の所も見て回らないといけない。

「ああ、まだまだ縁に色々と世界を見せる予定だからな。」

師匠と孫堅は二人で色々と話し合っている。
俺は少し後ろで待っていると孫策と周瑜がやってきた。

「関忠、元気でな。」

「また今度遊びましょう!」

「その時はもう少し安全な遊びでな。」

俺がそう言うと孫策は軽く頬を膨らませる。
師匠の方も話が終わったのか、自分の馬を引き連れて出発する。

「また時間が開いた時にでも会いに来るよ。」

俺はそう言って師匠について行こうとする。
しかし、腕を掴まれ振り返る。

「私の真名は雪蓮。」

「えっ。
 どうして・・・」

「命を助けて貰ったんだもん。
 真名を預けるに相応しいと思うわ。」

「そうだな。
 私の真名は冥琳だ。」

「なら、俺も。
 俺の真名は縁。」

「それじゃあ、縁。
 また、絶対に会いに来てね。」

「ああ、いつか必ず。」

そう言い終えると孫策は手を離す。
俺は後ろで待っている師匠の所に走って向かう。




「堅殿。」

「どうした、祭?」

「関忠統、いずれは世に轟く武将になるやもしれんな。」

「それは私も思っていたよ。
 将来がとても楽しみだ。」

二人は関忠に向かって手を振る二人を見つめながら、そう思うのだった。 
 

 
後書き
誤字脱字、意見や感想などを募集しています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧