インフィニット・ストラトス 自由の翼
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クラス代表戦と赤い傭兵 前編……です。
前書き
前後編に分かれてしまいました(汗
悪しからずでお願いします。
では……羽ばたけ、フリーダム!
○???side
そこは暗いどこか。
宇宙でもなく深海でもないがとにかく暗い。
そこは<彼>の領域であり、とある少女の暮らす場所。
彼女の傍らに提げられている端末のスピーカーからは機械音声のような歪で不可思議な男性の声音が響く。
[……マドカ。彼の監視と支援を頼むぞ?]
「……」
話しかけられた少女―――マドカはそれに対して返事もせず、ただ虚空を眺めていた。
[返事を期待するわけではないが、もう少し顔の筋肉を動かせ―――将来年齢以上に老けるぞ?]
「……余計なお世話だ。」
そのやり取りを見かねたのかマドカの隣に控えていた女性。ばっちりとスーツを着こなす金髪に美貌を持つ女性が彼女をいさめる。
「エム。ル・コボル様の前ではきちんとしなさい。」
[構うなスコール。元々から無愛想だろうに。]
それに対してその声の主は女性を、スコール・ミュゼルを宥める。
[そうだな……戦いに生きることしかしらねぇ、その年頃のガキは大概が無愛想なんだよ。―――自分の心を押し殺して戦うからな。知ってたか、スコールの姉さんよぉ?]
「黙れ、プログラム体が。気安く私の名前を呼ばないでちょうだい。」
[ヘッ……俺も嫌われたもんだな。で、旦那。俺の機体はどうなってやがるよ?]
[そう焦るな戦争屋。用意してあるし、存分に暴れてもらっても構わない。ただ、無茶はしてくれるなよ?]
稼動データを持ち帰ってくれないとと話にならないからねと彼は戦争屋―――ニューロ体のアリー・アル・サーシェスに釘を刺した。
[へいへい、クライアント様のご依頼とあれば俺は従いますよ……もっとも、俺は戦争ができればそれでいいんだけどよぉ……。]
[戦争屋。お前の望みである肉体の再構築とアルケーの建造。これが契約であり、それ込みのデータ収集……アルケーの建造には<ツヴァイ>の稼動データが必須なのだ。―――頼むぞ戦争屋。]
彼はサーシェスに改めて依頼した。
RS<ツヴァイ>の稼動データ収集を。
[……分かったよ。やらせてもらいます―――これでいいのか?]
[結構だよ、戦争屋。]
サーシェスのような覚醒した悪意のニューロは自我を持つ特殊な存在である。
電脳精神体のニューロは肉体を失った存在で活動範囲が限られている。
しかし、彼らの殆どは高性能AIに勝る操縦能力と判断力を持っている。
ただ、命令に素直で隷属するAIとは違い元々が人であったために彼ら、ニューロ体は<欲>を持っている。
故にサーシェスは自身の肉体を要求しているのだ。
電脳空間からサーシェスは自身の仮初めの器となる<ツヴァイ>を一瞥する。
ガンダムスローネシリーズの2号機の設計データを用いて作り出されたRSである。
右肩に大型近接ブレードの<GNバスターソード>を装備した近接に特化しつつ突撃と射撃を両立した無線誘導端末の<GNファング>を8基搭載しているほか<GNハンドガン>や<GNビームサーベル>といった近~中距離戦で効力を発揮する強力な兵装がそろっている高性能な機体である。
動力には<GNドライヴτ>を使っておりRCIが保有するオリジナルの太陽炉とほぼ同等の粒子放出量を誇る。
ただし、この動力には活動限界がある。最大の連続戦闘可能時間は50分と大きく制限されていることに加えて動力のメンテナンスと再稼動には8時間を要するなどの欠点もいくつか存在している。
が、結果的に言ってしまえば<ツヴァイ>はあくまでも試験機である。
[ケッ……さっさと体を手に入れて本物の酒が飲みたいぜ。―――まぁ、今回の仕事が待ちに待った宣戦布告ってわけだが。せいぜい楽しませてくれよ?ツヴァイさんよぉ……。]
暗い電脳のラウンジで酔えない酒を片手に彼は口角をつり上げながら嗤っていた。
それに答えるようにツヴァイの疑似太陽炉が唸りをあげる。
紅い死のGN粒子は皮肉にも美しいものである……そのGN粒子が生物の細胞を傷つけると劣化や細胞異常を引き起こすほどの極めて有毒性の強いものとなっている。
しかし、彼からすればそんなことは関係ないのだ。戦争ができればそれでいいと思っているだけの男なのだから……。
[さぁ……我が望みの道を……人の勢力圏縮小と管理を掌握するために―――闘争の狂争曲を奏でようではないか。]
彼の、ル・コボルの計画が動き出す。
地球圏の人類の管理と地球環境再生のための―――人類縮小計画が産声を上げるのであった。
●
○Noside
試合当日。
春奈は第2アリーナの控え室にいた。
クラス対抗のリーグマッチとなるはずだったので勝ち進んで鈴と当たると彼女は予測していた。
しかし、試合の1週間前に発表された初戦の相手が鈴だったことには春奈も心底驚いていた。
そして、一夏の白式も修復が間に合わなかったため代理で春奈が出場することになった……いや、正確には彼女が立候補したのだが。
先日の出来事を目撃していた面々と天地、一夏の推薦もあったのでスムーズに決められた。
「売られた喧嘩は買わない主義だったのですが……なんともいえませんね。」
春奈は自分しかいない控え室でポツリとつぶやいた。
「さて、もうそろそろ時間ですね。……ピットに向かいましょうか。」
控え室を出て春奈は早足でピットに向かう。
彼女はこの1週間に天地の手を借りて対近接格闘の訓練を重点的に行っていた。
もちろん、生徒会の仕事である書類の整理は終わらせている。……まぁ、本音が仕事をしてくれればそれはそれでいいのだが―――一抹の不安が春奈に宿ったのにも無理はない。
春奈は鈴のISが近接格闘と中距離戦を主眼として、安定した稼働率を目指した中国第3世代ISの<甲龍>と目星をつけたのだ。
フリーダムの展開装甲[防御特化]に残されていたデータからあの時防いだ不可視のエネルギー体は衝撃砲の砲弾と考えればその可能性も高いことが伺えた。
射撃型のフリーダムにも近接ブレードが搭載されてはいるが威力は鈴の物理ブレードのほうが重く優れているだろう。
そこで、春奈は常に一定の間合いを取り隙を見つけては撃ち込む一撃離脱のバトルスタンスで挑むことにしたのだ。
無闇な格闘戦はせずに常に相手の挙動を読み、先回りする。これが彼女の出した答えである。
今の春奈はいつもの暖かな春のような気配とは打って変わり、鋭さと美しさを兼ね備えた剣の様に研ぎ澄まされた鋭敏な気配を纏っている。
これはいつになく彼女が本気に近い臨戦状態になっている証明であり、千冬でも話しかけるのを躊躇うほどの気配なのだ。
春奈は自身を一喝して士気を上昇させる。
「迷うな、貫け。守るな、攻め続けろ。諦めない、私は不屈の化身―――」
1拍子開けて彼女は吼える。
「迷破突貫―――やってやろうじゃん!」
彼女の声は暗い廊下に響き渡る。
―――試合開始までの時間は刻一刻と近づいていた。
●
○sideアリーナ観客席
アリーナの一角にある中段の席には千冬が腰掛けていた。
ここからであればアリーナ全体を見渡すことができるので彼女はこの席を選んだのだ。
「隣、失礼する。」
千冬の周りにはまだ生徒がいなかったので、その声はよく聞こえた。
少々癖毛の金髪に緑瞳。右目の周りには痣となった傷痕の残る顔はナイスガイという言葉が似合う長身の男性が傍らに立っている。
「エーカーか……お前も物好きだな。」
「物好きで結構。―――将来有望で私のライバルとなりそうな操縦者の下見さ。とはいえ、その可能性を持つのは君の姉弟か、それとも私の自慢の弟子か……。」
「ふんっ、相変わらずの過大評価だな。今のあいつらなどお前の足元にも及ばないだろう。」
少し不機嫌な千冬の物言いに苦笑いしながら彼は言葉を続ける。
「ふふっ[今のあいつら]……それは君の期待の裏返しじゃないのかい―――千冬?」
その言葉についつい素が出ていたことに気がついた千冬はそれ以上言うなといわんばかりに彼をにらみつける。
しかし、それが千冬の最大の照れ隠しであるということを知っている彼は特に気にはしなかった。
千冬は話題を変えようと少々強引に話を振る。
「お前のRS<スサノオ>はどうなっている。稼動試験はクリアしたのだろう?」
「調整に関しては順調だ。なにせ社長主導で直々に設計、開発中だからね。」
「まったく。あのキャベツの考えることと挙動はどこかの天災にそっくりだ……まさかISコアをコピーするとは思いもしなかったし、それを男にしか動かせないようにするとはな。」
「そこは問題ない。束女史の要求通りISを超えることはない代物さ。……私のスサノオ同様に<アレ>を積んでいるのであれば話は別だがね。」
「故に<偽りの宇宙>なのだろう?第一今の情勢でISに対抗するようなものを建造するなど、打倒女尊男卑と思われても仕方がない気もするがな。」
「……結果的には[その瞬間]に対抗策がなくては困るというものだ。だからこういう言葉もあるだろう―――」
同時に2人の言葉が重なる。
「「備えあれば憂いなし(だろ?)。」」
一瞬だけ2人は顔を見合わせてキョトンとするが、ぎこちなくもあれど微笑み合う……さながら長年連れ添ってきた仲の夫婦のように。
「今は試合観戦を楽しませてもらおうではないか。……いずれは私の義妹になる彼女の試合を。」
「何を寝ぼけたことを言っている。あの小娘はまだまだ伸びるぞ?なにせ、私の妹なのだからな。
それに、一夏も良い剣士の眼をするようにもなってきたからな。」
いつになく饒舌な今の千冬を一夏や他の専用機持ちが見たらさぞかし驚くことだろう。
滅多にどころか人前では決して春奈と一夏を褒めない彼女がここまで評価しているこの姿を織斑姉弟が見たらどんな反応をするのだろうか。
恐らく、やりようのない違和感と嬉しさで身悶えるかもしれない。
「なんと。君の姉弟に対する私の評価は過大評価で、君のベタ褒めになんの違いが……?」
「……なに?―――ッ!ち、ちがう!こ、ここっこっこれはだな……」
その言葉にハッとして我に返った千冬は激しく狼狽える。
「千冬。少し落ち着いてはどうだ……む?」
[間もなく第1試合を開始いたします。選手両名はピットカタパルトより発進してください。]
[凰 鈴音。<甲龍>で行くわよ!]
[織斑 春奈。<フリーダム>、いきます!]
そのアナウンスを合図に2つの影がピットカタパルトのレールガイドに導かれながらアリーナへと躍り出る。
「あれが噂となっている……春奈君の、第4世代ISか。」
「……スペック上ではたったの1機でISを5機を相手にできるトンデモ機体だよ。まぁその分エネルギー効率に難があるのだがな。……加えて―――ん?」
突如として男は黙る。それに気がついた千冬は彼に話しかけた。
「おい、エーカー。どうしたんだ?」
「どうやら私は、おとめ座の数奇な運命に―――未だに翻弄されているようだ。」
「……は?」
千冬の訝しげな視線に構うことなく彼は―――グラハム・エーカーは魂底より、歓喜の叫びを上げる。
「長い間離れていた……あいたかった、会いたかったぞ!ガンダム!」
「……」
絶句する千冬を置いて彼は言い知れぬ高揚感に暫く浸っていた。
グラハムのガンダムLOVEはどこの世界でも、どんな時代でも揺るがない物である。
「……はぁ、またかお前は。」
溜息とともに頭を抱える千冬。自ら身内が婚約者がこの男だと知ったらどうなるのかと不意に考えた千冬はさらに深い溜息を吐くのであった。
●
○Noside
「ふぅん。それが春奈の専用機ってわけね。その武装の数、過重積載じゃないの?」
「動く要塞ですからね。これくらいはあっても問題はありません。」
春奈はそう言いながら指定されたポジションに付く。
すると春奈は嫌な予感を、彼女の持つ直感が働いた。
「鈴ちゃん、危ない!!」
春奈はウイングバインダーを開きドラグーンを防御シフトで起動、射出。展開装甲から防性エネルギーが放出される。
「ちょ、試合はまだ……!?」
鈴は途中で言葉を飲み込む。否、飲み込まなければならなかったのだ。
春奈が鈴をISごと抱えてその場から離脱。さっきまで鈴がいた所に赤いビームが降っていた。
[見つけたぜェ……ガンダムさんよぉ!]
バリィンッと遮断シールドを破りアリーナに突入してきたのは見知らぬ機体だった。
しかし、その機体の背中から放出されている赤い粒子に春奈は戦慄した。
「あ、あれは……疑似太陽炉……」
―――機体識別不能。unknownと断定。警告、ロックオンされています!―――
[わりぃな……こちとら身体が掛かってる分お前さんを討ち取らねぇといけねえんだわ……覚悟はいいか?……ん?女かぁ?]
「……へ?」
[訂正させてもらう。覚悟はいいか?ガンダムちゃんよぉ?]
「……ふざけた輩は嫌いです!」
春奈もフリーダムを戦闘態勢に切り替える。
[アリーナに残っている生徒のみなさんは教員の指示に従って避難してください!繰り返します!これは訓練ではありません!―――]
アリーナに響き渡る教師たちの声と生徒たちの悲鳴が重なった。
「鈴ちゃんは撤退して!」
「何言ってんのよ!?試合の決着もついてないし!」
「こんな状況じゃ試合も中止!あとできちんと謝るから……」
春奈の物言いにカチンときたのか鈴が声を荒らげて反論する。
「だからって、あんた一人で止めれる相手じゃないでしょうが!何を言ってもあたしは引かないから!」
「鈴ちゃん……!?」
―――遮断シールドがロックされました。設定強度5、クラッシュは不可能です―――
「……もう!どうなっても知らないからね!?」
「こっちのセリフよ!ちゃんと合わせなさいよ、春奈!」
閉じ込められたことに焦りながら二人はできることに全力を尽くす判断を下したのであった。
後半に続く。
後書き
赤い悪魔との戦いに駆けつけるは黒鉄の武士だった。
次回インフィニット・ストラトス 自由の翼
クラス代表戦と赤い傭兵 後編
ご期待下さい。感想、評価も待ってます!!
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