インフィニット・ストラトス 自由の翼
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怒髪天の宣戦布告……です。
○Noside
午前の授業が一通り終わった昼休み。
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
一夏は自席の前にやって来たセシリアと箒に責められていた。
「状況が飲み込めないんだが……俺がなにかしたか?」
セシリアと箒は午前中だけで真耶に注意5回、千冬に制裁3回を執行されていた。
原因は転校生の鈴音にやけに親しげな反応を見せた一夏の反応にあった。……なんてストレートに聞けない―――もといヘタレな2人の八つ当たりに違いはないだろう。
「まあまあ、2人とも落ち着きなよ。みんなで食堂に行かない?」
「春菜は関係ないだろうが!」
「部外者の方は口出ししないで頂けますか!?」
その一喝も春菜はスルーして言葉を続ける。
「今度の休日にギンガナムさんからケーキの試食会に誘われてるんだけど、あと2人どうしようかな~……2人とも行く?」
「「……それなら検討しよう。(しましょう。)」」
女子とは哀しきかな[花より団子]という言葉がよく似合う。
女子にとってケーキとはどうでもいい騒ぎを鎮圧するのに効果的なのはいつの世も変わらないらしい。
「じゃあ善は急げってことで……あ、七ノ瀬も一緒にどうだ?」
一夏は天地を食堂に案内するようにと指示されていたのを思い出して一緒に行かないかと誘う。
「ああ、同行させてもらってもいいか?」
「別に構わないぞ?」
「よろしくてよ?」
「いいよ~。人数いたほうが楽しそうだしね。」
「よし、じゃあ行くか。」
3人の返事を聞いた一夏は各々を引き連れて食堂へ向かった。
向かう途中でセシリアは天地に話しかける。
「七ノ瀬さんはどういう経緯でIS操縦者になられたのでしょうか?わたくし、気になりますわ。」
「確かに私も気にはなっていた。一夏以外の例外がいるかどうかの調査を政府が秘密裏にわからなくもないが……七ノ瀬の場合はどうなんだ?」
箒も疑問に思っていたのか会話に口を挟む。
「ん?俺が操縦者になった経緯か?……俺はLAの稼動試験でISと模擬戦をした時にな。―――整備班のやつらと悪ふざけして順番にISの[打鉄]に触ったら俺の番で起動できた……理由は不明だ。」
『LA……?』
「ああ、LAのことだな。……LAは書いて字の如く陸戦専用強化外装のことだ。」
春奈も他の3人も心当たりがなく、首をかしげる。
「知らなくて当然だな……かなりマイナーな機動兵器だし。」
そう言いながら天地はポケットからスマートフォンを取り出して小型立体投影画面とデータを呼び出すと、そこに映されていたのはISに似た機械の鎧だった。
腕や脚部装甲に剥き出しのフレームとパワーシリンダーが取り付けられたその姿はISと比較するとまるで異形である。
ISとシルエットは似ているが非固定部位はなく、大型スラスターもない。ただ、脚部装甲に力強さを感じさせる大きなランドローラーが取り付けられていた。
「てか、これでISと戦ったのかよ!?」
「まぁ、撃墜一歩手前まで行けたんだけどな。こっちのエネルギー切れで負けたよ。」
『そのほうがおかしいだろ(でしょ)(ですわ)!?』
一同は流石に突っ込んだ。この旧世代の遺物を目の当たりにして、かつISを撃墜寸前まで追い詰める。など有り得ないと専用機持ちの2人が特に反応していた。
「まぁ、第二世代の打鉄だぜ?それくらいならできるだろ?」
春奈もポカンとしている。反論ができない状態といったところである。
「ん?あそこが食堂か?」
通路の先を指差す天地。どうやら食堂にたどり着いたらしい。……心なしかいつもの2割増の生徒でごった返しているようにも見えた。
「う……席空いてるかな?」
周りからはヒソヒソと声が聞こえる。やはり目当ては……
「彼が、噂の男子転校生?」
「ホントに男子だ……かっこいい……」
「赤い髪……青い眼帯……隣に織斑くん……デュフフフッ!いいネタゲットよ!」
最後の声について、春奈は聞かなかったことにした。
「……待ってたわよ一夏!」
一夏たちの前に立ちはだかったのは二組の転校生で中国代表候補性の鈴だった。
その手には湯気を立てるラーメンを乗せたトレーを持っている。
「とりあえず、鈴ちゃん。食券買えないからちょっと通してね?」
春奈が鈴の肩を持ちススッと横へ彼女をスライドさせる。
「ちょっと春奈、なにすんのよ!?」
「他の人が券売機で食券買えないでしょ?そこを陣取ると。」
春奈は諭すように、そして優しく鈴を注意する。鈴は決まりが悪そうに「わかったわよ」と呟いた。
一同が食券を購入してカウンターに出す。ちなみにメニューがランクで分かれており、リーズナブルなBとちょっと贅沢なAその上を行くSが存在する。春奈と一夏、箒はB、天地がA、セシリアはSを頼んでいた。
「セシリアはいつもS定だな。」
「いいにくいのですがわたくし、これくらいが口に合いますので……」
「さすが良家のお嬢様だね。」
一夏と春奈がそう言うと「当然ですわ!」と胸を張るセシリアであった。
「鈴も一緒にどうだ?」
「じゃあ相席させてもらうわ。」
一向に鈴を迎えて空いていた席に座る。
右からセシリア、箒、春奈、一夏、天地、鈴の席順である。
「てか、キャバクラじゃねぇか!」
天地がそう突っ込むのも無理がない。キャバクラのラウンジに似た席なのである。
「七ノ瀬、慣れろ。」
その言葉に一夏は天地にサムズアップを返した。
「……わかったよ。そう言えばちゃんとした自己紹介もまだだったな。俺は七ノ瀬天地だ。」
天地は隣に座る鈴に声をかける。
「しょうがないから自己紹介してあげるわ。あたしは凰 鈴音。よろしくね、七ノ瀬君。」
「ああ。……みんなに言っとくが俺のことは天地でいいぞ?」
天地がそう言うと5人も呼び捨てでいいと同意した。
「私たちだけ呼び捨てっていうのも気が引けるし、私のことは春奈でいいですよ。」
「そうだな。私のことは箒で構わん。」
「呼び捨てで構いませんわ。」
「織斑が二人もいたらややこしいだろうし一夏でいいぜ?」
「あたしのことも鈴でいいわ。」
「じゃあそう呼ばせてもらう。改めてよろしくな。」
自己紹介を交わした面々はそれぞれの料理をつまみながら雑談を始める。
「で、一夏と凰はどういう関係なのだ?」
「そうえすわ、そうですわ!やけに一夏さんが親しげですし……説明を求めますわ!」
箒の発言に便乗してセシリアが説明を求める。
「……ていうか、あんたら自己紹介もしないの?」
「「う……わかった(分かりましたわ)。」」
「私は篠ノ之箒だ。一夏の幼なじみで一緒に食事をしたなかだ。」
「ちょっと一夏!幼なじみはあたしだけじゃなかったの!?」
「鈴ちゃん落ち着いて。箒ちゃんは鈴ちゃんが転校してくる前に仲が良かった幼なじみでね。」
一夏に噛み付こうとした鈴をなだめる春奈であった。
その後、セシリアと箒は鈴と自己紹介を終わらせたが互いにギクシャクする関係となったことは言うまでもない。……恋のライバルがまた増えたことに。
「あ、そうだ。天地って専用機持ちだよな?今日の放課後に模擬戦でもどうだ?」
「お、いいなそれ。じゃあ第3アリーナで放課後に待つぜ。」
「おい、一夏。今日は私と格闘の訓練ではなかったのか?」
「明日にでもしようぜ。お前もこいつのISに興味あるとか言ってただろ?」
「む、むぅ。お前がそういうのならば仕方がないな。」
ちなみに天地は専用機持ちであることをクラスに伝えていた。
「じゃあ放課後な。」
「おう。そろそろ教室に戻らねぇと織斑先生の出席簿が火を噴くぜ?」
『……そうだった(でしたわ)!』
意外といい連携を見せる一同であった。
●
○Noside
第3アリーナの観客席には幾人の生徒が見学に来ていた。
その生徒の中にセシリアと箒、鈴、春奈も含まれているが。
「なぜお前がいるのだ?凰。」
「別にいいじゃない!なに?いたらだダメなの!?」
「どうどうどう。そんなことは思ってないよね?箒ちゃん。」
春奈は余計な諍いを起こすなと箒に表情で伝える。その顔は笑ってはいるが……長い付き合いの二人だけがわかる表情での以心伝心である。
「……ぐぅ。み、微塵も思っていない。」
鈴も春奈が怒り出すと恐ろしいということを知っているのでそれ以上何も言わなかった。
「さてと、じゃあ2人とも、準備はいい?」
春奈はISのオープンチャンネルで一夏と天地に話しかける。
「ああ。問題はない。」
「お構いなく。……織斑一夏、白式出る!」
一夏はカタパルトの勢いそのままにアリーナへと飛び出した。
「俺も行くか。七ノ瀬天地、OOで行くぜ!」
天地もカタパルトを起動してアリーナへ飛び出した。
「な、なんだ?あの機体は。」
「スラスターがありませんわ……それにあのきらきら光る粒子は一体なんでしょうか?」
「……あれは……GNドライヴ!?」
春奈の驚きの声がアリーナに響いたのは言うまでもない。
●
○side一夏
「随分シンプルな期待だな。……データにない。」
俺は目の前の機体に見覚えがあった。……シルエットが似ている。春奈の[フリーダム]に。
スリムで取り回しを求めたシルエットのスリムなISアーマー。白、蒼、赤のトリコロールにシャープなブレードアンテナ型の頭部ハイパーセンサー。
だが、春奈のフリーダムとは違い、その背中には肩までの長さのアームに支えられた緑色に輝く粒子を放出する機関が取り付けられている。
「褒め言葉として受けるよ。じゃあ、はじめるか。」
「ああ、うじうじすんのは性に合わないからな。」
俺は雪片弐型と60口径ハンドカノン[零式]を呼び出して銃剣の構えを取る。
天地は腰に固定されていた2振りの近接ブレードを抜刀する。……二刀流か。
なんでもいい。まずは小手調べだ!
俺はいきなりの瞬間加速で距離を詰める。そして、近距離で零式をぶっぱなす!
「うん、良い速度だな。だが……遅い!」
ギィンッ!
「なんだと!?」
天地はあろうことか左の近接ブレードで弾丸を切り裂いてその回転とISの無重力軌道を利用した重い回し蹴り一撃を俺に叩き込んできた。
「ぐぅ……っ!?」
それを身を引きながら篭手でその蹴りを受けたのは良かったが吹っ飛ばされる。
そして、一気に距離を詰めてきた天地と雪片弐型で切り結んだが力の押し合いで負けた俺は再度吹っ飛ばされた。
……強い。強いぞ!
「ん?もう終わりか?」
「まだだ!―――やぁぁってやるぜ!!」
俺はまるで春奈と戦っている時のような高い高揚感と剣戟が奏でる不協和音にのめり込んでいった。
●
○Noside
「らぁ!」
「ふん!」
天地と一夏は荒々しく剣をぶつけ合う。ぶつかり合う剣が起こす衝撃波がビリビリと遮断シールドを震わせる。
天地はGNソードⅡをアリーナ内に放棄して、GNソード改を右手に、左手にはGNビームサーベルを装備している。
一夏も弾薬の切れた零式を収納して左手には耐ビーム物理シールド[白磁]を装備している。
天地のGNビームサーベルを白磁で受けていたためかその装甲面はいくつもの切り傷が焼き付いている。
天地はGNソード改を用いてもう何度目になるかもわからない斬撃を一夏に叩き込むがそれを彼は雪平弐型のしなやかな曲線を利用して威力を分散。受け流す。
(シールドエネルギーはそこまで削れてないが……GN粒子残量が63%か……このままじゃジリ貧だな。)
(お互いにジリ貧か。このままじゃキツイな。)
2人はほぼ同時にそんなことを考えた。
天地はGNビームサーベルの出力を落としてGNビームダガーにするとそれを投擲する。
飛来するそれを一夏は避ける。そして、切り込んだ。
「ぜあぁぁぁぁ!!」
ギャインッと火花と衝撃波が起こる程の剣撃を天地はGNソード改で受け止める。
しかし、その表情に余裕がない。
「……本気で行く!―――刹那、いけるか!?」
[粒子残量70%……行けるぞ!]
不意に声が聞こえた一夏は何事かと驚いた。そのあとにさらに驚かされる出来事が起こると彼も予測はできなかったようであるが。
「いくぞ―――」
「[トランザム!]」
キィィィィィィンッ……
高周波の高い音があたりに響く。そして天地の機体の周りにいくつもの投影ディスプレイが表示される。
その全ての画面には[TRANS-AM]と記されている。
「な、なんだぁ!?」
天地のOOの装甲が変色して赤く、紅く、朱く、緋く染まっていく。
[最大稼働時間はあと50秒だ。一気にケリをつけろ、天地!]
「それくらい言われなくてもわかってるよ!」
そう言いながら天地は一夏との距離を一瞬で詰めた。
「んなぁっ!?(無拍子だと!?)」
いきなり上がった天地のべらぼうな速度に舌打ちしつつ一夏はカウンターで反撃する。
常人では躱せないであろう必殺の太刀を天地はあろうことか一夏の、その背後に回ることで避けてみせた。
……ISのハイパーセンサーが捉えられないほどの速度で、だ。
「マジかよ!?」
すぐに振り向いて防御の構えを取る一夏。しかし、天地はそれを待たずにラッシュを開始した。
「うおぉぉぉぉ!」
一夏は何とか天地の斬撃を逸らし、止め、躱すがその攻撃速度と剣の鋭さが3倍近くも変わっており、装甲を掠めていた斬撃がそれを切り裂き、抉り始めていた。
「このままじゃ……っ!」
「俺が……俺達が―――」
「[ガンダムだっ!!]」
剣撃の嵐の中、一夏ははっきりと聞いた。[ガンダム]……と。
ガッシャーンッ!!
最後の一撃で天地は一夏を蹴り飛ばす。一夏は背中から遮断シールドに突っ込んだ。
天地の装甲が元の色に戻り、肩のコーン型スラスターはブシュッと蒸気を噴き出しながら、低出力モードになる。
『織斑一夏の戦闘不能により試合終了。勝者、七ノ瀬天地。』
そのアナウンスを聞いた天地は我に戻る。
「……一夏?って、大丈夫か!?」
ガシャガシャと音を立てながら一夏に駆け寄る天地。
「……死ぬかと思ったよこの野郎。」
軽く笑いながら一夏は立ち上がる。
その顔には焦りも、怒りもなく。ただ、清々しい笑顔だけが映っている。
「ここまで全力で負けるなんて予測してなかったぜ。まぁ、いい戦いだったよ。ありがとな天地!」
「ああ、役に立てたのなら光栄だ。んじゃ、ピットに戻ろうぜ。」
天地は一夏に肩を貸してPICを起動してピットAに向けて飛翔したのであった。
●
○Aピットside
今回の模擬戦で一夏の白式が負ったダメージは予想外に酷いものとなってしまった。
「お疲れ様一夏。」
「一夏さんお怪我はありませんの!?」
「白式も手酷くやられたようだな……クラス代表選に修復が間に合うのか?」
「すまん。調子に乗りすぎた。」
『やりすぎだ(よ)。』
1組の女子ズにヘコヘコと頭を下げる天地。まぁ、確かに原因は彼にあるのに違いはない。
「わからねぇな。春奈、どうだ?」
「うん。……ダメージレベルC。修復に専念しないと結構きついかも。」
オペレーターの春奈は一夏にそう告げた。
「じゃあ、クラス代表選は諦めたほうがいいのか。」
「そうだね。代理で誰かが出るしかないかな……。」
「冗談じゃないわよ!」
ブシュッと音を立てて開くドアの先から現れたのはいかり肩の鈴だった。
「あたしがせっかくクラス代表になったのになんてザマよ一夏!」
「どうしたんだよ?鈴。何か悪いものでも食ったのか?」
機嫌の悪い鈴に恐る恐る冗談を言って和ませようとした一夏。しかし、お気に召さなかったのか鈴は一夏に噛み付く。
「はぁ?馬鹿にしてんの?仮にも中華料理店を切り盛りしてる夫婦の娘よ!?そんなことするわけないでしょうが!」
「なに?お前がイライラしてると思って笑わせようとしたのが何が悪いってんだよ?」
ワーワーギャーギャーと口論を始めた二人にシビレを切らしたのは―――春奈だった。
「ああ、もううっさいわね!そこの唐変木、貧乳娘!やるなら別の場所―――……。」
ドガァン!!
「は、春奈!?」
鈴は右肩から右手の指先までをIS装甲で覆っている。
一同は唖然とした。
もくもくと煙が上がる中、一夏の声が静寂を切り裂く。
煙が晴れるとそこにはフリーダムの翼を部分展開した春奈の姿があった。背中のウイングバインダーが開いており、ドラグーンが4基、2つが連結した防御モードで起動していた。
春奈の表情は焦りも、怒りもなく。ただただ、鈴に冷たい視線を向けていた。
その視線を受けた鈴は一瞬怯んだがすぐに怒りの眼差しを春奈に向ける。
「言ったわね?……言ってはならないことを……。」
「だからって、生身の私をISで攻撃するのもおかしいよね?」
「関係ない!……いいわ。春奈、あんたに代表選の代理してもらうわよ?」
「……決闘ってこと?」
「……あんたの物分りのいいところだけは嫌いじゃない。けど、あんたは[禁句]を言ってしまった。―――首洗って待ってなさい。その余裕も含めてボッコボコにしてあげるから!」
そう言い残して鈴はピットを後にした。
Aピットが暫しの静寂に包まれたのは言うまでもなかっただろう。
●
後書き
遂に切られる鈴と春奈の決闘の火蓋。
二人の戦いに水を差すのは強襲する赤い影
「見つけたぜェ……ガンダムさんよぉ!」
次回インフィニット・ストラトス 自由の翼
クラス代表戦と赤い傭兵
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