魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
59話:〝希望(ひかり)〟に手を伸ばせ
前書き
え~、皆さん一週間ぶりの更新です。お待たせしました。
感想で指摘されました『リインフォースⅡの描写』を前二、三話に急遽加えました。
一応リインフォースⅡの誕生は、「なのはの事故の少し後」としています。よって士はまだ知らない事になってます。
そして、感想では書いたんですが…一応決定した事があります。詳しくは後書きにて。
真紅の刀身と、白い刀身がぶつかり合い、火花を散らす。それらを振るうのは、銀色の男と桃色のポニーテールの女―――シャドームーンとシグナムだ。
「貴様ら、門寺に何をした!?」
「フフフ…話すと思うか?」
「ならば、無理にでも聞かせてもらおう!」
会話を交わす間にも、剣と剣がぶつかり合う。
時には体を反転させ、時には剣を逆手に持ち替え、時には蹴りを使う。そんな高レベルの攻防戦が行われていた。
「はぁあっ!」
「フンッ!」
ギィィン、と大きな音を立てて二振りの剣が衝突する。
「門寺が死んだだと?笑わせるな!奴はそんなに柔な人間じゃない!」
「…確かに、死んだといえば語弊があるかもしれぬな」
「何っ!?それはどういう―――」
その瞬間、シャドームーンはシグナムの剣を押しのけ、さらに蹴りを加える。
苦痛に顔を歪ませながら視線を上げると、既にシャドームーンが剣を振り上げていた。
「くっ!」
シグナムは即座に飛び上り、シャドームーンの斬撃を避ける。
だがシャドームーンはそれに対し、剣を握っていない左手を少し後ろに引いた。
「だが貴様らが知る必要はない!」
「っ!レヴァンティン!」
〈 Panzergeist(パンツァーガイスト)!〉
第六感が働いたか、シグナムは即座に全身に纏うタイプのバリアを発動する。だがシャドームーンはそんなもの無視するかのように、一度引いた左手を突き出す。
「フンッ!」
「ぐあぁぁ!?」
するとその手の平から、緑色の稲妻が放たれた。稲妻はシグナムに向かっていき、シグナムの肩や足、腕に次々と命中していく。その衝撃は、シグナムの防御魔法をもろともしない程だった。
(感電や火傷は抑えられたが…これ程までの威力とは…!)
稲妻が命中した肩を押さえながら、少し距離を取るシグナム。だがすぐにレヴァンティンを鞘に納刀し、カートリッジを使う。
〈 Schlangeform(シュランゲフォルム)〉
「飛竜…一閃!」
それから抜刀。連結刃となったレヴァンティンを振りぬき、魔力を乗せた貫通力のある斬撃を放つ。
だがシャドームーンはそれに対し……
「フンッ!」
「なっ、受け止めた!?」
真紅の剣―――サタンサーベルを振り下ろし、受け止めてみせた。
しかしそれだけではない。その一振りだけでシグナムの攻撃を弾いてしまった。
「バカな…!?」
「ハァァ!」
「っ、しまった!?」
シグナムがその光景に驚いている隙に、シャドームーンはサタンサーベルの刀身から稲妻を発し、今度はシグナムを拘束するように巻きつける。
「ハァッ!」
「ぐっ…―――ぐはあっ!」
そして剣を振り、シグナムを地面に叩きつけた。その衝撃で煙幕が立ち込め、晴れた時には顔に血が流れているシグナムが倒れ伏していた。
「ぐっ…!」
「やはり貴様では役不足だったな、将よ」
ガシャン、ガシャンと一歩ずつ歩み寄ってくるシャドームーンを、シグナムは立ち上がろうとしながら睨む。
だが体の苦痛で立ち上がれず、地面に伏してしまう。
「よくこれだけの兵力で、我らと相対そうと思ったものだ。そうは思わないか、将?」
「くっ…ぬぅ…!」
「勝つ為には兵力と戦略が必要だ。その両方が満たされていない貴様らでは我らの計画は阻めんし―――」
―――何も守ることはできん。
その一言に、シグナムは表情を変える。そして再び立ち上がろうと、体に力を込める。
「ぐぅ…うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
彼女らしからぬ雄叫びが、海鳴の交差点に響く。そんな彼女の頭には、ある光景が映っていた。
―――それは彼女の主、はやてとその友人…なのはとフェイトの姿だった。
彼がいなくなって……士がいなくなって、彼女達は変わった。
なのははアリサのおかげで幾分マシにはなったが、それでも悲しそうな表情をしている時があると聞く。
フェイトは夜遅くまで仕事と勉強をしながら、士の捜索の手伝いをしていた。誰が見ても無理しているようにしか見えないが、彼女は誰にも弱音なんか吐かなかった。
自分の主は、夜中や一人でいる時、よく泣くようになっていた。一人で細々と、声を抑えて……
シグナムは片膝をついた状態になり、足に力を込める。さらにレヴァンティンを支えにして、腕にも力を込める。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
―――彼女達はどうして変わった?
―――どうして高町は悲しい表情をする?
―――テスタロッサは何故無理をしていたのか?
―――我が主は、どうして一人で泣いていた?
「うおぉおぉおおおおおおおっ!」
立ち上がったシグナムは、その瞳にシャドームーンを写し、剣を構える。
「我らにだって…絶対に守りたいものぐらい、ある…!」
彼女達の悲しむ顔は、もう見たくない……
彼女達には、辛いことを一人で抱え込んで欲しくない…!
―――彼女達の涙など…もう、見たくない!!
「我らは守護騎士…主の盾となり、剣となる、それが我らのいる意味!それがなせねば、意味がない!」
〈 Explosion!〉
カートリッジが数発消費され、レヴァンティンの刀身に炎が灯る。
シグナムはすぐさまシャドームーンに切り込み、横から一閃。シャドームーンもすぐさま防ぐが、シグナムは即座に剣を離し、次は上から縦に振り下ろす。
「ヌッ!?」
「はあああっ!」
シグナムの雄叫びが響き、シャドームーンは力負けして後退する。シグナムは未だに炎が消えないレヴァンティンを正面に構える。
「主の為…そして主のご友人の為……今は、貴様を叩き斬る!!」
〈 Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)!〉
「うおおおぉぉぉぉ!」
別の場所では、また別の二人の人物がぶつかり合っていた。
一人は赤いゴスロリ風のバリアジャケットを纏う少女―――ヴィータ。もう一人は大きな盾と銃を持つ仮面の男―――アポロガイスト。
「フンッ、ハァッ!」
ヴィータが放った鉄球を、アポロガイストは盾で防ぎ、銃で撃ちぬいた。
だがヴィータはそんなもの気にせずに、ラケーテンフォルムとなったアイゼンで突っ込んでくる。
「はあああぁぁぁぁぁぁ!」
「…ハァアッ!」
衝突するヴィータとアポロガイスト。ヴィータの攻撃の勢いで、両者の間に火花が散る。
「―――フンッ!」
「うわっ…!?」
「ハァ!」
「ぐはっ!?」
しかしアポロガイストはその攻撃を上手く受け流し、バランスを崩したヴィータに蹴りを加えた。
蹴り飛ばされたヴィータはビルに衝突し、その衝撃の所為で吐血する。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
「何度やっても同じなのだ。この私が、たかが魔導士一人に負ける筈がない」
そう…このような攻防、先程から何度も続いていたのだ。おそらく十数回…もしかすると、二十回以上行われていた。
何度も、何度も…ぶつかっては弾き返され、ぶつかっては躱され……
それでも、ヴィータはそれを止めることはなかった。
「うっ…せぇよ…」
両足に力を込めてしっかりと立ち上がる。先程の壁との衝突の影響か、左肩を抑えながら目の前の敵を睨む。
「あいつにはよぉ…まだなんも、返せてねぇんだ…」
彼は自分達がはやての元にいることを知りながら、それを管理局に伝えなかった。何故か?
その疑問を、一度だけ彼に聞いた事がある。その返答は……
『何の確証もないまま、それを伝えたって意味ねぇじゃん?実際、あの後教えたらはやてが助からなかったかもしれねぇぞ?』
そんな返答に、少し呆気に取られてしまった所為か、礼の一つも言えなかった。
彼は闇の書事件の時、はやてを助けようとしてくれた。何故か?
『友達だからに決まってんじゃん』
何を当たり前なことを、という顔で言われてしまい、またも礼を言うタイミングを逃してしまった。
そして彼は、自分や怪我をしたなのは、隊の皆を庇ってくれた。助けてくれた。何故か?
少し自信過剰なところがある彼は、おそらくこういうだろう。
『あそこで俺がやらないで誰がやる?』
そんな事を言って、笑みを浮かべる彼の表情が簡単に目に浮かぶ。
まだ何も言えてない。『ありがとう』も、『いつもごめん』も、何もだ。今まで何度も助けてもらったのに、今の今まで一度も。
だからこそ、今度はちゃんと言おうと思っていた。お前がいたから自分達は助かった、ありがとう、と。
―――でも、今度は礼も言わせてくれない。
そう決めていたのに、記憶がないとはなんだ?これじゃあ礼を言ったところで、何にもならないじゃないか。
「言わせろよ…礼の一つぐらい…!」
頭ぐらい、下げさせてくれよ。まだ今まで助けられた分、何一つ返せてねぇんだ。
「あたしが叩いて記憶が戻るんなら、何度だって叩いてやる」
だから、戻ってきてくれよ……
「だから、てめぇを相手にしてる暇は……ねぇんだよぉぉっ!!」
「でやぁああああ!」
「うりゃぁあああ!」
魔力を付加させた拳を振り、アルフとザフィーラは怪人達を打ち負かす。
だが、流石に数が多すぎる。一旦怪人達から距離を取った二人は、一様に肩を上下させていた。
二人の体力でも、限界という壁に近づいていた。
「クロノ、このままじゃ…!」
「わかってる!使いたくはなかったが…やるしかない!」
そう言ってクロノが取り出したのは、S2Uではなく、かつての師匠とその主から託された魔導の杖―――デュランダル。
「皆、怪人達をできるだけ一か所に!凍結魔法で一気に動きを封じる!」
「「「「了解!」」」」
「チェーンバインド!」
「鋼の軛!」
「ストラグルバインド!」
「クラールヴィント、お願い!」
それぞれが魔法を行使し、怪人達の行動を限定していく。じりじりと追い詰めながら、四人は怪人達を一か所に集めた。
「―――詠唱完了、行くぞ!」
〈 Eternal coffin 〉
その掛け声と共に四人は一斉に距離を取り、クロノはランクSオーバーの高等魔法を発動。
放たれた冷気を一気に駆け巡り、そして一瞬にして怪人達を巻き込んだ氷山を作り上げた。
「はぁ…はぁ……くっ…!」
「クロノ君!?」
それを視認したクロノは、片膝を地面につける。近くにいたシャマルがすぐにやってきて、回復魔法を使用する。
成功したとは言え、こんな戦闘中での使用は初めてだった。前回はこれを使うまで自分は他に魔力を使っておらず、尚且つ他の皆が攻撃をしていてくれたおかげで、詠唱を完了させ万全の体勢で放てたのだ。
しかし今回は発動前までに大技をいくつか使い、かつ魔力を完全に回復させる暇などなかったのだ。疲労感は前回の倍以上だ。
「でも…これでここにいる怪人達はもう…」
動けない。そう言おうとした矢先だ。
氷の中にいる怪人の数体が、赤く発光し始めたのだ。それを見たクロノは、思わず言葉を詰まらせた。他の四人も、氷の中の変化に気づいて表情を硬くした。
クロノはかつて、彼に『怪人にはどんな種類がいるんだ?』と疑問を投げかけた事があった。ある程度種類があれば、もし仮に出会ってしまったとしても対処のしようがあるかもしれない。そう思ったからだ。
だがその質問に彼は即座に、それはもう一瞬にして答えた。
『ほぼ無限だ』、と。
曰く、中には人を簡単に凍結させ、それを砕いて殺す者もいる。
曰く、人が通常感じられない、目にも映らない(・・・・・・・)ような速さで動く者もいる。
曰く、飛行能力を持っている者もいれば、逆に地底での行動の方が優れている者もいる。
それぞれが千差万別。似たような能力があっても、完全に似た能力を持つ怪人など、存在することこそ稀なのだと。
それを聞いた時、クロノは軽く絶望した。それではなんの対処のしようがない。聞くんじゃなかったと若干後悔した。
そしてそんな彼の言葉の中に、確かにあったのだ。
『高熱、高温を操る怪人や、火や炎を扱う怪人もいる』、と。
今まさにその怪人達が、クロノが使った『極大の凍結魔法』からの脱出を図り、自らの能力で氷を解かそうとしているのだ。
あまりにも理不尽すぎる。クロノは思わず舌打ちをしてしまった。こうも数がいると、何をやっても無駄に思えてくる。
「―――…だけど、今は怪人達の攻撃は来ないよ」
急にかけられた声に、クロノは少し驚く。顔を上げると、目の前には、手を差し伸べてくるユーノがいた。
「今の内に、しっかり休んでおこう。何が起こるかわかったもんじゃないしね」
確かにそうだ。怪人はまさに未知数の塊。こっちが根気よく戦っても、このままでは押し切られるのは必須。だから休める時に休む。これも重要なことだ。
クロノはユーノから差し出された手を握り、引っ張ってもらう。
「…まさか、フェレットもどきに諭されるとはな」
「フェレットもどきって言うな!」
「おぉそうだった。魔力適合が進んだんだったな。悪いな淫獣」
「それもやめろって言ってるだろ!?」
はぁ、とクロノは一息入れてから、視線をシャマルに移す。
「シャマル、今の内に皆の回復を頼みたい。特に前衛で頑張ってくれた、アルフとザフィーラに」
「了解」
クロノの指示を受け、シャマルはアルフ達の元へ。クロノはそれを見届けると、ゆっくりと視線を氷山の方へ移した。
そうだ。ここで倒れる訳にはいかない。少なくとも、あの三人が彼を救い出すまでは。だからこその休憩だ。
「…来い。お前達がいくら強かろうと、僕達は折れたりしない…!」
段々と氷山が解け、所々にヒビが入っていく様を見ながら、クロノは口を開いてそう言った。
「ユニゾン…」
「状態…」
エイミィの報告を受けた三人は、その言葉を理解するのに数秒を要した。
そして最初に動き出したのは、はやてだった。
「ユニゾンって…今私がしてるのと同じやつですか!?」
『そう、そのユニゾンだよ』
そこでようやくなのはもフェイトも、しっかりと理解することができた。
「でもユニゾンって、ユニゾンデバイスがないとできない筈ですよね?」
「はやての時と状況が似てるってことは、今士の意識は…!」
「おしゃべりをしている場合か?」
〈 Dimension buster 〉
「「「っ!?」」」
その隙を、ディケイドがみすみす見逃す筈もなく、魔力砲を放つ。
三人はすぐさま飛び上り、魔力砲を避ける。
『大丈夫皆!?』
「大丈夫です!それより、さっきの話は…」
『う、うん。でも可笑しいんだよ、これ。何度やっても、ユニゾンデバイスの反応がない(・・・・・)んだよ』
エイミィの言葉に、三人は再び驚いた。
ユニゾンしているのに、ユニゾンデバイスがない?思わず首をひねりそうになるが、それすらさせないかのように、ディケイドの攻撃が飛んでくる。
「で、でもデバイスなしでのユニゾンなんて…!?」
『でも確かにユニゾンに似た(・・)反応が出てるんだ。そう過程すれば、士君の魔力の質が若干変わってるのも頷けるんだ』
エイミィの言った言葉を信じるとしたら、士は『デバイスなしのユニゾン』を行っていることになる。それは今のミッドの技術じゃ、不可能なことだった。
『それで士君の意識がないのを踏まえると、もしかしたら融合事故(・・・・)が起きているのかもしれない』
“融合事故”。これは融合型デバイスが引き起こすとされる現象。
デバイスが主の意思とは無関係に術者の肉体、精神を乗っ取り、勝手に自律行動を行っていしまう事故の総称だ。
確かに、彼が何らかの理由、方法でユニゾンしているとして、彼の意識が見られないのは、それが原因の可能性が高い。
「確かに、それなら…!」
「筋が通る!」
『でも、やっぱり変な部分もあるんだよ。そこが腑に落ちなくて…』
そう。ただ気がかりなのは、今の彼にユニゾンデバイスがないことだ。何度も言うが、現代の技術でのデバイスなしのユニゾンは不可能だ。
だが、その事に関して心当たりがある人物がいた。
「―――あ、あの…もしかしてなんですけど…」
少し思案顔で、まるで『先生、トイレ行ってもいいですか?』といったテンションで口を開いたのは―――なのはだった。そんな間も、ディケイドの攻撃から避ける。
「少し前に、士君に聞いたことがあるんです」
ふと、疑問に思ったことがある。
怪人に多くの種類が存在する。なら、彼らはどうやって生まれてくるのだろうかと。
なのははその疑問を、一番詳しい士に投げかけた。
答えは―――『それもまた、数えきれない程』、だった。
一つに、道具を使った方法。また別に、そういう種族だという者も、普通の人間から生まれるようなものもある。
そして、その中でかつて使われた方法―――『改造手術』というものもある、とのことだ。
そもそも最初の仮面ライダーは、ショッカーの人造人間なのだ。怪人誕生の元といえば、誰もが最初に思いつく五個の内の一つぐらいに入る筈だ。
「だから、大ショッカーだってそれぐらいの技術がある筈だって、言ってました」
『それはまた厄介な話ですな…』
う~む、となのはの話に考え込むエイミィ。そこへフェイトも口をはさんだ。
「もし…もしそんな奴らが、この世界の技術を使えるようになったら…」
『…デバイスなしのユニゾンもあり得る、かもしれない…!』
エイミィはそう結論づけたように、何度も頷いた。
「だけど…!」
「どうすれば士君を救い出せるかは、くぅっ…!」
「まだ、わからないね!」
しかし、ここまでの考えを考慮しても、まだ彼を救い出す方向へは向かわない。三人はここに来て少しずつ焦り始めていた。
『でも融合事故が起きているなら、はやてちゃんのように士君の意識が戻るのを信じるしかないと思う』
「う、うん…」
「それなら、士に呼びかけてみよう」
「そうやね。もしかしたら聞こえてるかもしれへんし」
そう言って三人はお互いの顔を見合わせて頷く。元より士を信じていくつもりでいたのだ。やることは基本的には変わらない。
だからこそ、三人は視線を再びディケイドへ移す。そのディケイドは、じっとこちらを見据えたまま、ライドブッカーから三枚カードを取り出す。そして取り出したカードを、一枚を残し上に投げる。
〈 ATACK RIDE・SIDE BASSHAR 〉
残した一枚をドライバーへ通し、発動。ディケイドの背後から可変型バリアブルビークル『サイドバッシャー』が飛び出してくる。
それに合わせてディケイドは飛び上り、サイドバッシャーに乗り込む。それと同時にサイドバッシャーが変形し、二足歩行で立ち上がる『バトルモード』になる。
〈 ATACK RIDE・GIGANT. ATACK RIDE・LAUNCHER 〉
そしてそこへ先に放り投げた二枚のカードがディケイドの手元に行き、ディケイドはそれを発動。
サイドバッシャーのシート部分に立ち上がり、右足を前に構える。そしてその右足に青いフレームの『ランチャー』が装着され、右肩に巨大なミサイルランチャー『ギガント』を担ぐ。
「あっ…」
「あれは…非常にマズいんとちゃうか…?」
「っていうか、あれ質量兵器だよね?マズいどころじゃないよ!」
『今まさにミサイルが来そうですよ!?』
表情を引きつらせるなのはとはやて、その光景にあたふたするフェイトとリイン。だがそんな三人を他所に、ディケイドはさらにカードを取り出し、ドライバーへ挿入する。
〈 ATACK RIDE・ILLUSION 〉
その音声と共に、ディケイドは乗っていたサイドバッシャーごと(・・・・・・・・・・・・・・・)三人に分身した。
これには流石に驚きを隠せない三人だったが、ディケイドは躊躇なく引き金を引いた。
一斉に放たれるミサイル群。それらはお互いがぶつかり合わないように別々の軌道を描きながら、なのは達へ向かって飛んでいく。
「二人とも、私達が大きいの放り込むから、初手任せられるか?」
『マイスターと一緒に一掃してみせるです!』
「了解!」
「何とかしてみる!」
はやての言葉に、なのはとフェイトの二人は魔法陣を展開して答える。そして周りには、無数の魔力弾が浮遊する。
「アルカス・クルタス・エイギアス。轟雷なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル…!」
「リリカルマジカル…天空に映りし星々のごとき輝きよ、かの者の元へ降り注げ。導きのもと、響き渡れ…!」
二人がそれぞれ詠唱を始めて、魔力を高めていく。
そして迫りくるミサイル群に向けて、デバイスの矛先を振り下ろす。
「プラズマランサー・ファランクスシフト!」
「アクセルシューター・フォートレスシフト!」
「「ファイアァァァァーーー!!」」
ミサイル群に向かって一斉に放たれる、桃色の球と黄色の槍。それらはミサイルにめり込み、ミサイルを爆破する。
だがミサイル一発に対し、二人の魔力弾四つでようやく破壊できる状態。無数に放たれたミサイルに対しなのは達の魔力弾は少なかった。それを確認した二人は苦い顔をする。
「―――詠唱完了…行けるで、二人とも!」
「うん!」
「了解!」
だが、その後ろからかけられた声に反応して、二人は少し後方へ。
それを合図と見たはやては、さらに二人に言う。
「一応威力は抑えてるし、一発だけやけど…」
「わかってるよ」
「防御は私に任せて」
『お願いするです!』
んじゃ任せるで、と言ってはやては杖を振り下ろす。
「『クラウソラス!』」
はやてによって放たれた白い直射魔法は、ミサイル群にまっすぐ向かっていく。
そしてミサイルとの衝突すると、球状に衝撃波を生み出して後続のミサイルを巻き込んでいく。
〈 Wide area protection 〉
だがその余波は、なのは達にも少なからず及んでいる。それをなのはが防御魔法で防ぐ。
爆破による煙や閃光で悪くなった視界が、次第に晴れていく。
「なんとか防げたね…」
「大丈夫か、なのはちゃん?」
「うん、あれぐらいなら」
前に突き出していた右手を開いたり閉じたりしながら、はやての言葉に笑顔で答えるなのは。
なのはのそんな様子を見て、フェイトが口を開く。
「皆…―――」
行くよ、と言おうとした瞬間。
フェイトの姿がブレ、その場から姿が消える。
「え…?」
「フェイトちゃ―――」
そして次の瞬間には、はやてが同じように消える。
「なん―――」
なのはも言葉を発しようとした瞬間、体に衝撃が走り視界がブレる。そして気づいた瞬間には、背中を地面に打ち付けられていた。
「あぐっ…!!」
その衝撃にのたうち回るなのは。周りを見ると、ビルに突っ込んでいるフェイトと、自分と同じように地面に倒れているはやての姿があった。
「うぐっ……な、何が…?」
〈 Clock over 〉
何が起こったかわからないなのはだったが、少し離れた場所に突如ディケイドが着地したような体勢で現れる。
現れる際に聞こえた音声。なのははそれに聞き覚えがあった。
確かあれは温泉に行った時の戦いのときに士が使ったものだった筈。あの時は彼の姿が消えて、怪人が動いたと思ったら突然爆発して…
「―――っ!」
士から説明されたのは、確か通常ではあり得ない高速移動だということ。
それが事実なら、三人は目に見えない速さで攻撃されたということだ。
「………」
すくっと立ち上がったディケイドは、ゆっくりとなのはの方へ向き、歩み始めた。
そしてライドブッカーを取り出し剣へと変え、刃先をなぞる。
「くっ…げほっ…」
ビルに突っ込んでいたフェイトの頭から血が流れており、その血は左目の上に流れていた。フェイトはすぐにその血を拭い、自分の衝突で大きく開けてしまったビルの穴の縁に立つ。
「いつつ…」
『マイスター、大丈夫ですか…?』
「そういうリインこそ…大丈夫か?」
地面に叩き落とされたはやても頭を抑えながら立ち上がり、周りを見渡す。
そこには丁度、ディケイドが剣を持ってなのはに歩み寄っている姿があった。
「まずっ…!」
「バルディッシュ、ザンバーフォーム!」
〈 Zamber form 〉
それを見たフェイトは、バルディッシュをフルドライブのザンバーフォームにして、ディケイドに斬りかかる。
「はあああっ!」
「っ、フンッ!」
だがディケイドは直前でそれを察し、自らの剣で受け止める。だが剣の質量の差、つまりは重さの差によって、ディケイドは押され気味になる。その証拠にディケイドの足元が、クレーターのように陥没する。
「士、目を覚まして!そこにいるんでしょ!?そんなのに負けるような士じゃないでしょ!?」
「…相変わらず、煩い…!」
フェイトは再び振り上げ、思いっきり振り下ろす。ディケイドそれをも受け止める。
「くぅ…士ぁ!!」
「しつこいぞ…!」
〈 ATACK RIDE・EXCITE 〉
〈エキサイト・プリーズ〉
「っ…!?」
だがディケイドはカードを発動。下から魔法陣が現れ、それを通ったディケイドの全身の筋肉が肥大化する。
そしてフェイトの大剣を弾き、ライドブッカーに魔力を付加する。三度振り下ろされるフェイトの大剣に当て、バルディッシュの魔力刃の部分を粉々に粉砕した。
「なっ…!?」
「フンッ!」
「ガハッ…!?」
それに驚いたフェイトに、ディケイドの裏拳が飛ぶ。勢いよく弾かれたフェイトは、再びビルに飛び込んでいった。
「フェイトちゃん!この…!」
『バルムンク!』
それを見たはやてとリインはすぐさま魔力刃を複数展開して、ディケイドに放つ。
だがディケイドはそれを腕一振りで粉砕し、一気にはやてに詰め寄った。
「いっ!?」
「はあぁああっ!」
「うわああぁぁぁ!」
はやての杖を掴んで、ディケイドははやてごと杖を振り回し投げ飛ばす。
投げ飛ばされたビルに背中を打ち付けられてしまい、呻きながらずり落ちる。それと同時にリインとのユニゾンも解除されてしまった。
「うぅっ……アクセルシューター!」
なのはもようやく立ち上がり、魔力弾を打ち出す。だがディケイドはこれも一振りで弾いてしまう。
「くっ…!」
「………」
それを見たなのはは前に踏み出すが、すぐに片膝をついてしまう。ディケイドもその時丁度『エキサイト』の効果が切れ、元の体形に戻る。
「………」
「くっ…!エクセリオン―――」
〈 ATACK RIDE・BIND 〉
〈バインド・プリーズ〉
ゆっくりと歩いてくるディケイドに、なのははレイジングハートの矛先を向ける。それに対しディケイドはまたカードを使い、今度はなのはの足元から鎖を出現させる。
「うわっ!?」
出現した鎖はなのはの腕や足に絡みつき、動きを抑える。その際、鎖はレイジングハートにも絡みつき、なのはの手から引きはがす。
「ぅ…うぅ…!」
「なのは!」
「なのはちゃん!」
動きを固定されてしまったなのはに、ディケイドは段々と近づいていく。
だがその後ろから、フェイトとはやてが二人がかりでディケイドに掴みかかる。
「士君、目ぇ覚まして!私の我がまま聞いてくれるんやろ!?」
「戻ってきてよ、士!」
腕や腰を掴み叫ぶ二人。ディケイドは抵抗するが、うまく引きはがせない。
「士!」
「士君!」
「えぇい…邪魔だ!」
「「うわぁっ!」」
二人は呼びかけ続けるが、ディケイドは遂に二人を振り払い、投げ飛ばす。
地面に転がる二人を眺めてから、再びなのはに向かう。
「士君…」
「………」
「…士君、私達士君がいなくなって…すごく辛かったんだよ…士君がいなくなって、皆寂しかった…」
ゆっくりとやってくるディケイドに、静かに語り掛ける。でもその言葉も、まだ士には届かない。
「いつも一緒にいてくれて…いなくなって初めて気づけた事もあったよ……」
「………」
「皆と一緒に…士君と一緒にやりたいことも、まだまだいっぱいある…」
そして遂に、ディケイドはなのはの目の前に立つ。それでも、なのははまだ語り掛けるのを止めない。
「なのは…」
「なのはちゃん…」
「話したいことも、伝えたいこともできた…」
「………」
なのはの言葉も空しく、ディケイドは剣をなのはの首筋に近づける。だがなのはも、そんな状況下であっても目線を逸らさなかった。
「だから、話させてよ…伝えさせてよ…」
「……言いたい事は、それだけか?」
ディケイドはそう言って、ゆっくりと剣を振り上げる。
フェイトとはやてがそれを見て立ち上がろうとするが、うまく立ち上がれずに地面に倒れる。
「なら―――」
「士ぁ!!」
「士君っ!!」
「―――死ね」
その一言で、ディケイドは剣を振り下ろす。
そして―――
「だから、戻ってきてよ―――士くぅぅぅぅぅんっ!!」
なのはの叫びが、海鳴の街を木霊する。
灰色の海を沈む人影。
それはただ、沈んでいくだけしかしなかった。
そこには一片の光もなく、生けるモノはその人影したいない。
だが、人影に突如光が当てられる。
暗く形しかわからなかった人影は、光によってしっかり形が判別できた。
そしてその光はその人影―――少年の意識を復活させるに至らせた。
少年がゆっくり目を開けると、そこには鮮やかに光る球体があった。
―――■くん…!
―――■…!
―――■くん…!!
ぼやけて聞こえたその声は、確かに目の前の光から聞こえてきた。
目の前の光から漏れた粒子のようなものが、徐々に形を形成していく。
それは―――三つの子供の手。
少年は何を思ってか、その三つの手に向かって―――手を伸ばす。
するとその三つの手は、弱々しく差し出された手を握り―――少年を引っ張った。
少年は勢いよく光の中へ包み込まれ、視界は真っ白に染まる。
それと同時に、少年はその光に対しある感情を抱いた。
(あぁ…温かい…)
それはいつの日かから忘れ去られてしまった感情……人の優しさ、温かさに触れた時の感情だった。
(―――そうだ……俺は…俺は…!)
少年を包み込んだ光は、次第に灰色の世界をも飲み込んでいき、世界そのものを破壊した。
思わず目を瞑っていたなのはは、痛みがいつまで経ってもやってこない事に疑問を覚えた。
ゆっくりと目を開けると―――視界の少し上に、剣の矛先があった。
「っ…!?」
思わず驚いてしまうが、次の瞬間には疑問が浮かんできた。何故ここで刃が止まっているのか、と。
少し顔を上げると、目の前には変わらずディケイドが佇んでいた。
だがその腕は……微妙に震えていた。
「―――…な、何故だ…!何故腕が動かない!?」
そう叫んだのは、ディケイドだった。おそらく力を込めているんだろうが、震えるだけで動くことはなかった。
そしてディケイドは一歩一歩なのはから離れていき、なのはを縛っていた鎖が消える。
「なのは!大丈夫!?」
「なのはちゃん!」
ディケイドがなのはから離れた隙を見計らって、フェイトとはやてがなのはの元へやってくる。
「うん、私は大丈夫。けど…士君の様子が…」
「エイミィ、士に何か変化あった!?」
『魔力量や能力値が変動し始めてる!もしかしたら士君の意識が戻り始めてるのかも!』
後は魔力ダメージを思いっきり与えて、士君を起こすだけだよ! というエイミィ。
それを聞いた三人はお互いの顔を見合って、一回頷く。
「なのは、立てる?」
「勿論、行けるよ」
フェイトはなのはを引っ張って立たせる。そして三人は一様にディケイドを眺める。
ディケイドはまだ呻きながら、動きを見せない。これは狙い撃ちするのには、絶好のチャンスだが…
「っ…!」
なのはは苦い表情になる。今彼女が撃とうとしているのは、紛れなく士なのだ。
攻撃するにも躊躇してしまうし、もし次の攻撃で彼が目覚めなかったら、というネガティブな考えも浮かんでしまう。
そんななのはの肩に、フェイトとはやてが優しく手を置く。
「大丈夫だよ、なのは」
「フェイトちゃん…はやてちゃん…」
「士君を信じるんやろ?」
笑顔で声をかけてくれるフェイトとはやて。なのははそれに対して笑みを浮かべて頷く。
「行こう、フェイトちゃん、はやてちゃん」
「うん」
「それじゃ行こか!」
そう声を掛け合って、三人はディケイドから距離を取るように後方へ飛ぶ。
なのはとフェイトは着地した瞬間に、互いの魔法陣を足元に展開して重ねる。その二人の周りには、黄色と桃色の魔力スフィアが浮かぶ。
はやては少し上まで飛び、リインと再びユニゾン。ミッド式とベルカ式の魔法陣を展開し、砲撃の準備を開始する。
「N&F!」
「中距離殲滅コンビネーション!」
「響け、終焉の笛!」
そして一気に魔力を高めていき、魔法陣は次第に輝きを増していく。
「「ブラストカラミティ!」」
「『ラグナロク!』」
「「「ファイアアァァァーーーー!!」」」
杖から、そして魔法陣から放たれた光は、一斉にディケイドの元へ飛んでいく。
いくつもの光がディケイドを飲み込んでいき、やがて姿が見えない程の眩い光となる。
そしてディケイドを巻き込むように、シャマルの結界を破壊する程の巨大な爆発が起こった。
後書き
久しぶりの一万字越えとなりました。いかがだったでしょうか?
もう少し書くつもりだったんですが、四連休中ほとんど書けない可能性が出てきてしまったので、今回はここらで切らせていただきます。
え~…では、発表に移りたいと思います。ゴホンヌ。
―――ライダーファンの皆さん…特に、かの世界のお宝狙いの泥棒さんファンの皆さん、お待たせいたしました……
この度、皆さんのご希望により、『仮面ライダーディエンド』の登場を決定いたしました!
まぁ登場させるのはあくまでディエンドであって、『海東 大樹』ではないんですが…
おそらく登場はStrikers時になると思われます。皆さんあまり期待しないで待っていてくださいね?
そして先程も書いた通り、この四連休は執筆時間が著しく減ると思われます。なので更新は早くて来週の土、日になると思います。気長に待っていてください。
ではまた、次回にて。さようなら~
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