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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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オリジナルストーリー 目覚める破壊者
  60話:〝英雄(ヒーロー)〟は遅れた頃にやってくる

 
前書き
 
久しぶりの朝投稿です(笑)
結局十日近く経ってしまいました。申し訳ないです。
  

 



「―――はぁ…はぁ…はぁ…」
「うまく、いった…かなぁ…?」
「もう私、結構限界なんやけどぉ…」

それぞれのデバイスを支えにするように立ち、息も切れ切れに言う三人。はやてのユニゾンも、着地と同時に解除される。

「どう…?」
「…正直わからない。この煙じゃ、士の姿も確認できないし…」
「エイミィさん、そっちは?」
『今再検索中!もう少し待ってて!』

どうやらアースラの計器も反応はキャッチできているが、詳しいことはまだわからないようだ。

「リイン、ありがとうな」
「い、いえ…これぐらい、皆さんの苦労に比べれば…」

そう言いながらも、疲労しているのが手に取るようにわかる、疲れ切った表情をするリイン。
それを見た三人も、同じような表情になる。

だが……

「―――うわあぁぁっ!」
「―――ぐうぅっ!」

そこへ背後から何かが転がり落ちてくる。慌てて振り返った三人が目にしたのは……

「ヴィータちゃん!?」
「シグナム!?」

ボロボロになった騎士服を纏った、シグナムとヴィータ。そして、見るからに激戦を繰り広げたのであろうと伺える程、主と同じようにボロボロになっている二人のデバイス―――レヴァンティンとグラーフアイゼンの姿だった。

「二人共、大丈夫か!?」
「あ、主……くっ…!」
「ぅっ…ぐぅ…!」

そんな姿をした家族を心配するはやてだが、二人はそれでも自分が飛んできた方向に向こうと、もがいていた。

「―――やはり満身創痍。貴様では役不足だということだな。将よ」
「―――何度も同じことを繰り返しおって…つまらんのだ、貴様の短調な攻撃は」

そう言って現れたのは、銀色の戦士とマントの男―――シャドームーンとアポロガイスト。
シグナムとヴィータは二人の姿を視界に入れると同時に、鋭い目つきでそれぞれが相手した者を睨んだ。

だが二人の男はそんなもの屁でもないように、ただただ歩み寄るだけだった。

「さぁ、そろそろ終いにしよう」
「我らが計画を邪魔しおって…」

それを見た二人は、そのボロボロの体に鞭を打ち、同じくボロボロのデバイスを握りしめ立ち上がろうとした。主を、そして仲間を守るために。

「二人共あかん!そんな体じゃもう…!」
「しかし、主…!」

しかしそれを止めようと、はやては二人の腕を掴んだ。どう見ても、誰が見ても二人は限界。先程シャドームーンが言った通り、満身創痍であるのは火を見るよりも明らかだ。
それでも二人は、歩いてくる敵から視線を外さなかった。それは自分が相手するべき者達だから。

そんなやり取りをしている間にも、シャドームーンとアポロガイストは一歩ずつ近づいてくる。
何を思ってか、シグナムはヴィータとアイコンタクトする。ヴィータも一瞬シグナムの目を見て、一回頷いた。

「…主、お逃げください」
「え…?」

そしてシグナムから提案されたのは、『逃走』の一手だった。

「先程ハラオウン執務官と念話をして……向こうも状況が厳しいらしいです。ですから主達三人はハラオウン達と共に一旦アースラに戻り、体勢を立て直してください」
「……シグナムと、ヴィータは…?」
「あたし達はあいつらの足止め。たぶん今海鳴(ここ)にいる怪人達の中で、あいつらが一番強いから」

その提案に、三人は目を丸くした。それはつまり、自分達を置いて逃げろ、という事。
しかし今の二人は見るからにボロボロ。そんな二人を置いていけば、どうなるかは容易に想像がつく。

「そんなの…認められへん!私達が逃げるなら二人も一緒、戦うなら私達も戦う!二人だけを置いていくなんて、そんなの認められへんっ!!」
「しかし主、このままでは…!」

「つまらん言い争いは終わりにしてもらおうか」

はやてとシグナムの言葉を遮るように、シャドームーンが言い放つ。その手には、恐ろしいまでに真紅に染まった剣が握られている。

「どうせ逃げたところで、全員殺すことになるのだから意味がなかろう」

隣にいるアポロガイストの手にも、銃と盾。その二人が持つ武器の剣先と銃口は、確実になのは達に向けられていた。

このままでは全員殺される。そう思い、シグナムとヴィータは身構える。

「私達で時間を稼ぎます、その間に主達は…!」
「ダメや、絶対認めへん!シグナム達が死んじゃったら…!」

「主はやてっ!!」

シグナムの叱声に、思わずビクリッと体を震わせるはやて。その後ろにいたなのはやフェイトも、目を丸くした。よもやシグナムが主であるはやてに、そのような物腰で叫ぶなんて思わなかったからだ。

「…これは、必要な犠牲です。このままあなた達が殺されては、意味がないのです」

唇をかみしめ、それでも目線は歩いてくる二人に向けたまま言う。同じように、ヴィータも前を見据えている。
それでも……「必要な犠牲」なんて、認めたくなかった。それが身内なら、尚更……

「だから…―――」















「―――必要な犠牲だと?笑わせんなっ!」
〈 ATACK RIDE・BLAST ! 〉

そんな叫びと音声と共に、銃声が街に響き渡る。そして火花が散るのは、目の前にいる“敵の足元”。
シャドームーンとアポロガイストは、それに対し腕を、マントを前に出し、火花の光を遮る。

あまりに急な出来事で、なのは達はポカンと呆けてしまう。
だが後ろから…コツッ、コツッというわざとらしい足音が聞こえ、思わず全員揃って振り返る。

そこにあったのは、なのは達三人の砲撃で生まれた煙。だがそこには、一時穴が空いていたような渦が数か所。そして、成人男性程の背丈の影。

最初に煙から出てきたのは、四角い形をした白い銃身。その後から出てくるのは、白と黒で彩られた腕。
内側が白、外がマゼンタに染まった足。10を意味する意匠を入れられた胸部。

緑色の複眼、そしてバーコードをモチーフとした仮面の、額にあるシグナルポインターが黄色に輝いていた。

「……ぁ…」

誰が漏らしたかわからない声。だがそんなもの、どうでもよくなる程の何かに、なのは達は襲われていた。

そう……そこにいたのは、まさしく―――

「悪いな皆…世話かけた。ありがとう」

そこに響く仮面の男の声。そう、その声こそ彼女達が待ち望んでいたもの。

「それと…迷惑かけてごめん」

そう言って彼は、倒れるなのは達の間を通り…ボロボロになりながらも立っているシグナム達の前に立つ。

「―――後は、任せろ。ケジメ、全部つけてやる」

そう、そこにいたのはまさしく―――



 ――――“英雄(ヒーロー)”――――




















仮面の男―――ディケイドは、ライドブッカーの銃口をシャドームーン達に向けたまま、仁王立ちさながらの雰囲気を醸し出していた。
それはまさしく敵に対する威嚇であり……足止めであった。

「―――士…?」

そこへ初めに声をかけたのは、フェイトだった。だがその声も、色々な感情が渦巻く状態でのものだった為か、どういう意味で言っているのか、本人はわかっていなかった。
しかし名前を呼ばれたディケイド―――門寺 士は、しっかりとそれを耳に入れ、顔を後ろに向ける。

「ほんまに…士君なん…?」

次にそう質問してきたのは、はやてだった。しかしそれも、フェイトと同じような雰囲気の言葉だった。
それを聞いた士は、呆れたように肩を落とした。

「はぁ…そうだよ。正真正銘、皆の知る『門寺 士』だよ」

先程のシャドームーン達を睨みつけながら言葉を発していた時の雰囲気はどこへやら、おどけるような口調で言う士。
その瞬間、士は肩を掴まれグイッと引っ張られる。

「おわっとと…!?」
「貴様、ようやく戻ってきたか!前もそうだったが、貴様遅すぎやしないか!?」
「お、落ち着けよシグナム。取りあえず落ち着け!」

肩を掴んだままだが、そのまま掴みかかって来そうな勢いで叫んでくるシグナム。これにはさすがに士も宥めるしかなかった。
取りあえず落ち着いたのか、シグナムは士の肩を離した。しかしその目は変わらず、じっとりとした目だった。

「まぁまぁ…そんな目で見ないでくださいよ…」
「…本当に、遅すぎだ。どれだけ…」
「お、おい…!」

だがシグナムは言い切る前に、地面に膝をつけてしまう。士は少し驚くが、その後ろでヴィータも倒れたので驚きはさらに膨らむ。

「はぁ…はぁ…ったく、手間かけさせやがって…」
「…すまねぇな、ヴィータ」
「礼はいいよ。さっさと終わらせてくれよ?」
「……あぁ、わかった」

士はそういうと、一回なのは達に顔を向けて、すぐに前を向き直した。

「あっ…」
「つ、士君!」

そこへ慌ててフェイトとはやてが声をかける。士はそれを聞いて少し動きを止める。

「え、えっと…その…」
「その、やな…」

呼び止めておいて、言いよどむ二人。

そんな中、なのはは何も言わずに士をじっと見ていた。
そしてふと、その目と合ってしまった士は、数秒見つめ合った後―――プイッと前を向いてしまう。

「あっ…」

それを見てなのはは声を漏らす。士はそれに構わずなのは達の前へと躍り出る。

「あ、あの…!」

それでも食い下がるように声を出すなのは。その声色は、不安でいっぱいだった。

彼が自分達と戦うことになってしまった理由は、自分自身にある。そのことが心にずっと残り、なのはは悔やみ続けていた。
だから、どうしても謝罪の言葉を言わせて欲しかった。しかしいざ言うとなって、声が上手く出ない。上手く言葉が頭に浮かんでこない。

そんななのはの、不安の詰まった声を聴いた士は、スッと手を上げる。

そして―――グッ、と。

士は親指を立てる―――サムズアップをなのは達に背中を向けた状態で、手の甲を向ける形でやって見せた。
それを見てなのは達が目を大きく開けるのと同時に、士は目前にいる敵に向かって駆け出した。















「うおおおぉぉぉぉぉ!」
〈 Sword form 〉

なのは達から離れた士は、持っていたライドブッカーを剣へ変え、前にいるシャドームーンとアポロガイストとの距離を詰める。

「フンッ!」
「はっ!」

士は剣を振り上げ、シャドームーンもそれに合わせるように振り上げ、そして金属同士が音を立ててすれ違う。
しかしその先には細身の剣『アポロフルーレ』を持つアポロガイストが。それを見た士は踏み込んだ足を軸に、回し蹴りを繰り出す。

アポロガイストはその蹴りをガイストカッターで防ぐが、勢いの乗った蹴りだったせいか、若干後退する。
蹴りを放った士に、今度はシャドームーンの剣が襲う。若干下から振り上げられる攻撃を士は上手く弾き、シャドームーンとほぼ同時にまた振り下ろす。

「貴様、何故…!?」
「俺には頼りがいのある仲間がいるんでな!」

そう言って俺は一旦シャドームーンを押し離し、さらに後ろからやってくるアポロガイストに横一閃。

「ヌッ!?」
「だぁ!」

アポロガイストはガイストカッターで防ぐが、士はさらにガイストカッター越しに前蹴りを放ってアポロガイストを押しのける。
さらにそこへシャドームーンの剣が襲い掛かるが、それを掻い潜るように避ける。

〈 Gun form 〉
「はぁっ!」

士はライドブッカーを銃へ変形させ、銃口を向け引き金を引く。放たれた弾丸を、シャドームーンは剣で、アポロガイストはガイストカッターで防ぐ。
さらに士は引き金を引きつつ、二体の怪人に向かって駆け出す。

「ハァアッ!」
「くっ…!」

そこへ繰り出されるシャドームーンの剣をライドブッカーで受け流し、シャドームーンと肩をぶつけるような体勢で剣を押さえつける。

「そこぉ!」
「ヌゥッ!?」

そして抑える手から反対の手へライドブッカーを移し、アポロガイストに向けて弾丸を放つ。フルーレで斬りかかろうとしていたアポロガイストは、直前で防ごうとするが間に合わず少しダメージが通る。

「フンッ!ハァ!」
「ぐあっ!?」

だがそこでシャドームーンが拘束を弾き、士を斬りつける。士は火花を散らしながら後退するが、それでもシャドームーンに向けて弾丸を放つ。シャドームーンはそれを跳躍することで避ける。
















そんな士達の戦いを、離れたところで見ていたなのは達。
相変わらず魔導士とはまたベクトルが、次元が違う戦いに全員が見入り、茫然とする。

魔力ではない弾丸が飛び、攻撃が当たれば火花が散る。
刃がすれ違い、蹴りや拳で繰り広げられる攻防戦。

そのどれもが、質量兵器を禁じられたミッドなどではまず見ることのない―――まさに決闘。

以前にもそれを見たことのあるシグナムやヴィータは、相変わらず凄いと感心し……
初めて彼の戦闘を…否、“彼自身”を初めて見るリインフォースⅡは「ほぇ~…」と呆けた声を上げ……
直前で声をかけ、結局何も言えなかったフェイトとはやては、真剣な眼差しを向ける。

しかしただ一人―――なのはは…
彼が戦いに行く前に見た彼の姿を―――彼の仮面(かお)を、思い出していた。

彼と目を合わせていた―――否、仮面越しだったので正確に目が合っている確証はないが、おそらく合わせていたと、なのはは感じていた。
その目が合った数秒。しかしその数秒で、なのはは何かを感じ取っていた。

思い返せば―――それはそう、おそらく“不安”というものだ。

いつもの彼からは感じえない、何かに対する心配。少し何かに怯えているような。
目が合っただけでそこまでわかるものか?と問われてしまえば、なんとなくとしか言えない程感覚的なものだが、なのはは彼の仮面の…その奥にある筈の目に、それを感じた。

視線を上げれば、その彼が戦っている。敵の攻撃を掻い潜り、反撃をする。攻撃を受けて後退、または地面に膝をつけるが、すぐに相手に向かっていく。

そんな彼の姿。いつもは猛々しく、大きなその背中。
あの時も―――闇の書事件の最後の戦いの時も、あの背中になのはは憧れを抱いた。

だが今は、何かが違う。
戦ってるのはやはりいつも通り。しかし何か…何処かが違う。そう思うのは、自分だけだろうか。

そう思ってなのはは、はやてやフェイトに声をかけようとして―――止まった。

彼女達もまた、同じようなことを思っているのだろうか。真剣に見入るその表情に、何処か不安の色が見える。
だからそう思ったのが、自分だけじゃないことがわかった。

そして再び彼の姿を目で追って、やはり違和感を感じる。
その違和感が、なのはの不安をさらに駆り立てることとなる。

〈―――マスター〉
「っ!レイジングハート…」

そんななのはに、彼女の相棒(デバイス)―――レイジングハートが声をかけてきた。

〈マスターは彼を信じると決めた筈です〉
「……で、でも…」
〈信じたからこそ、マスターは“それ”を持ってきたのでしょう?〉

レイジングハートに言われ、なのはは思わずそれをバリアジャケット越しに掴む。
確かにそうだ。彼を助けた後、渡すつもりだったもの。それが今ここにある。

でも……今、自分がこれを渡す時、彼はどうするだろうか。
戦ってる最中に行って、彼は迷惑に思わないだろうか。もしかしたら、あの時のように―――

〈マスター〉
「…レイジングハート?」
〈私は何度だって言います。マスターは彼を信じると決めた筈です〉

そう言って宝石の部分を点滅させるレイジングハート。

〈マスターが信じる彼は―――その程度で折れるような人物(ひと)でしたか?〉
「―――っ!」
〈あの人は強い。それは、誰よりもあなたが―――彼の背中を見てきたマスターが、一番よく知っている筈です〉

レイジングハートにそう言われ、なのはは思わず視線を上げて彼を見た。

二体の怪人―――それもシグナムやヴィータを圧勝して見せた相手に、剣を振るい引き金を引く彼の姿。
敵の刃を受け止め、弾き、放たれた弾丸を避けていく。

そうだ。彼はいつだって、その背中を自分達に見せて戦ってくれていた。いつもその背中が、自分達を守ってくれた。


―――だけど、


そう思った瞬間、真紅の剣と細身の剣が彼を襲う。斬りつけられた彼は、火花を散らし呻き声を上げながら地面に転がった。
周りにいる皆が、あっと声を上げる。なのはも目を見開くが、しかし声までは出なかった。

それでも彼は再びゆっくりと立ち上がる。剣を振り上げ、二体に向かって走り出す。剣を振りながら、途中で蹴りやパンチを織り交ぜながら戦っていく。

―――いつもそうだ。
彼はいつも自分達を守ろうと、全力で戦ってくれる。自分達の為に、それはもう死に物狂いと言った風に。

でも、これでいいのだろうか?自分達は、守られるだけで。
いつも守ってくれる。だけど、彼は自分の所為で戦うことになってしまった。結果的には、彼を取り戻すことができたが……それでも、その原因の一つは自分にもある。

なら、今度は自分が―――“彼を守る”番じゃないだろうか。
彼に「背中を向けて戦う」までいかないにしろ、「彼の隣」で、「彼の背中を預けられて」戦うことが、できないだろうか。

私はバリアジャケットの下から、ある物を取り出す。それを両手で握りしめる。
あの二体の怪人は強い。今の彼が負けるかもしれない。だからこそ、これが必要だ。

「…やれるかな、私に」
〈勿論、マスターなら必ず〉

そう返してくれたレイジングハートに、ありがとうと礼を言い立ち上がる。

私のこの行動が、吉と出るか凶と出るか…それはまだわからない。
ただ、この一手が彼の助けになるように……彼の勝利につながるように……

そして―――いつか自分が「彼の隣に立つ」為の…第一歩になるように……




















「ハァアッ!」
「ヌアッ!」
「ぐあああっ!」

振りぬかれた二振りの剣が、士を襲う。地面に倒れた士は剣を支えに立ち上がろうとするが、それは膝立ちで留まってしまう。

「はぁ、はぁ…」
「おとなしく我々の軍門に下って欲しいところだが…」
「やはり気絶させた方が手っ取り早いのだ」

くっ、と声を漏らす士。そこへゆっくりと、余裕という態度でやってくる二体の怪人の姿。

(やっぱきついなぁ、シャドームーンとアポロガイストを同時に相手するなんて…)

その様子を見た士は、心の中で苦笑いを浮かべる。
流石はあの仮面ライダーを苦しめた幹部級の怪人だ。その実力は、確かなものだ。

「さぁ、再び我々と共に世界を…」
「…くそっ…やってくれるぜ…!」

せめて置いてきちまった“あれ”があれば…。そう思いながら、立ち上がる為に両足に力を込めた。

――――その時、







「士くぅぅぅぅんっ!!」



「―――っ!?」

突如背後から、己の名前が士の耳に飛び込んだ。
その唐突さに、思わず振り向く。

その時士の目にに映ったのは、腕を振り上げる―――というより、何かを投げるように腕を動かしていた後の…なのはの姿。

そして、士となのはの間を飛んでいる物体。携帯のような四角いそれは、回転しながら宙を舞う。
まっすぐに、士に向かって飛んでくる物体―――丁度さっき頭の中で出てきた、ケータッチ。

士はそれを確認するとすぐに、飛んでくるケータッチに向かって手を伸ばした。そして片手で受け止め、反対の手でライドブッカーからカードを抜き取る。
それを見たシャドームーンとアポロガイストは「なっ!?」と声を上げる。

痛みに耐え、立ち上がりながら振り向き、士はケータッチに抜き取ったカード―――ファイナルコンプリート・カードを差し込む。
ブォン、という特殊な音を立てて、ケータッチ自体も変化する。大きさは一回り大きく、所々マゼンタ色だった部分が金色に変わる。

「まったく―――お前も慣れない事しやがって…」

士がそう言ってベルトのバックルに手をかけ、ケータッチを構えた瞬間―――閃光と弾丸が士を襲った。

「あっ!」
「士くん!?」

それらがシャドームーン達の手によって繰り出された攻撃だと、なのは達はすぐにわかった。

煙が立ち込めてまたも見えなくなる彼の姿。その光景を見たなのはは、再び後悔の念に襲われる。
またやってしまった。自分の所為で彼が……

〈 FINAL KAMEN RIDE・DECADE FINAL COMPLETE 〉

なのはがそう思ったその時、煙の中から十数枚のカードが飛び出した。
それらは回転しながらシャドームーンとアポロガイストへ向かっていき、二体の怪人はそのカードに斬りつけられ、地面に倒れ伏す。

そしてブーメランのように煙の中へ戻っていき、一瞬の静寂が空間を支配する。
次の瞬間、立ち込めていた煙が一瞬の内に弾け、その中央には……


士が―――ディケイド・ファイナルコンプリートフォームが佇んでいた。


士は手に持つ剣を肩に担ぎ、ゆっくりと踏み出す。

「…散々やってくれたなぁ、お前ら。―――だが、ここからは俺の攻撃(ターン)だ。これ以上この世界も、俺の仲間も……()らせはしないっ!」

そう言って剣の刀身を撫で、シャドームーン達に向かって一気に飛び出した。

「ヌゥッ!やらせん!」

既に立ち上がっていたシャドームーンはサタンサーベルを構え、士と激突する。
二回程の衝突音が響き、シャドームーンは声を上げて剣を横に振りぬく。

だが、そこにはもう士の姿はなく……

「―――ヌァ!?」

シャドームーンの肩にいきなり重みが加わる。士はシャドームーンの攻撃を跳躍することで回避し、さらにシャドームーンの肩を足場にすることで、一気に後ろにいるアポロガイストの少し上まで飛んだ。

「はぁあっ!」
「グゥ!ガッ!?」

落下の速度を利用しつつ、アポロガイストに斬りかかる士。アポロガイストはそれをアポロフルーレで受け止めるが、すぐに士の蹴りが腹部に直撃し、後退する。

そこへ振り向いたシャドームーンが再びサタンサーベルを構え、襲い掛かる。

「であぁあ!」
「なっ!?グアァ!」

だがそれを士は振り向きざまに振り上げたライドブッカーで弾き、上から斜めに一閃。シャドームーンの体を傷つける。
そこからさらに抜き銅のようにすれ違いざまに斬りつける。シャドームーンのがら空きな背中に後ろ蹴りを入れ、地面に転ばせる。

シャドームーンの転がった先には、銃を構えたアポロガイストが。銃口を向けているのを見た瞬間、士は横に転がるように飛ぶ。
飛んだ瞬間、アポロガイストの凶弾が飛んできた。もう数瞬遅ければ危なかった、と内心冷や汗をかく士。

しかしそれでもアポロガイストの攻撃は止まらない。再び照準を合わせてきたことに気づき、士はまた回避行動を取る。

〈 Gun mode 〉
「はぁっ!」

アポロガイストの弾丸を避けつつも、士はライドブッカーを銃に変え、引き金を引く。ファイナルコンプリートになった恩恵で強化された弾丸は、アポロガイストの弾丸を相殺した。

「ヌッ、私の弾丸を…!」
「ハアッ!」

驚くアポロガイストだが、その側に並んだシャドームーンが手の平を翳して攻撃を仕掛けてきた。士は慌てて転がって、その攻撃を回避する。

「チィッ!ちょこまかと…!」
「だあぁ!」

シャドームーンの攻撃を避けた士は、シャドームーンに向かって走り出す。
それを見たシャドームーンは驚きはしたが、絶好の機会だと判断。まっすぐにやってくる士に剣を斜め左から振り下ろす。

だが士は右斜め上から来る斬撃を、急停止からの上半身の動きだけで避ける。
そして右足を振り上げ、回し蹴りをシャドームーンの顔面目がけて放った。

(来たな…!)

しかしシャドームーンも、ただ攻撃した訳ではない。サタンサーベルは右手だけで持ち、左腕で攻撃に対処する。
狙い通り見事左腕に回し蹴りが当たり、直撃を避けたシャドームーン。左腕は弾かれたが、代わりにサタンサーベルの方へ腕を回せた。

これで隙を見せた奴に剣を振れば、と考えサタンサーベルに力を込めた、その時。
士は次に先程振りぬいた右足だけで飛び、左の後ろ回し蹴りを繰り出してきた。

流石にこれには対応しきれず、シャドームーンの顔面に見事左足の踵が命中。そのまま振りぬかれ、シャドームーンは大きく吹き飛んだ。

「フンッ!」
「っ!」

そこへアポロガイストが、自らの盾であるガイストカッターを投げてきた。
突然の事だったが、士はそれを避けライドブッカーを剣にして、アポロガイストに向かって走り出した。

(バカめ!かかった!)

しかしそれを見たアポロガイストは、兜の下でニヤリと笑った。
それを合図とするかのように、躱されたガイストカッターは弧を描き、Uターンして士の背中に向かっていった。

そう、アポロガイストの真の狙いは、士の背後からの攻撃だったのだ。

「―――バカはてめぇだよ」
「何っ!?」

だが士はその狙いも読んでか、タンッと跳ねるようにジャンプする。背後から襲い掛かろうとしていたガイストカッターは、ジャンプした士の下を通る羽目になる。
さらに士は剣に魔力を付加、そしてガイストカッターの丁度中央に剣先を突き刺した。

その瞬間、ガイストカッターにヒビが入り、まるでガラスのように粉々に砕け散った。

「なっ、そんな馬鹿な!?」
「お決まりの追尾機能…読みやすいぜ」

ガイストカッターがいとも容易く砕かれ、驚愕するアポロガイスト。あの程度の一撃で砕かれる程、あれは脆くはない筈…!

「俺の仲間を、あまり嘗めない方がいいぞ?」

士のそんな一言に、アポロガイストは再び驚愕する。まさか、先程の戦いで既に傷つけられていたのか、あの小娘に!?そこを奴は狙って…!?

「はあああっ!」
「しまっ―――」

驚愕するアポロガイストに、襲い掛かる士の剣。驚愕したことによって見せた隙、捨て置くことはしない。
数回の斬撃を浴びせ、大きく振り上げる。当然アポロガイストはそれを防ごうと、アポロフルーレを取り出し構える。

士は迷いなく、魔力を付加させた剣を振りぬき、今度はアポロフルーレをも粉砕する。
ぐっ、と声を漏らすアポロガイストに、追い打ちをかけるように剣を振り上げる。アポロガイストはそれを食らい、火花を散らしながら吹き飛んだ。

「さぁ、そろそろ終いにしよう」
〈 ATACK RIDE・ILLUSION 〉

そう言って士はライドブッカーからカードを取り出し、発動。その背後からもう一人のディケイドが現れる。

「そっちは頼むぜ?」
「おう」
〈 Gun mode 〉

分身体の士はライドブッカーをまた銃にして、今度はカードを取り出す。そのカードに描かれているのは、金色のディケイドのマーク。
それを投げるようにライドブッカーに放り込み、バックルを押す。

〈 FINEL ATACK RIDE・de de de DECADE ! 〉

音声と共に銃身に手を添えて、ゆっくりと銃口をアポロガイストに向ける。銃口の先にはディケイドのマーク、そしてその先に円形に配置され回転する十三のライダーズクレスト。それらは全て、金色に染まっている。

「ヌゥ…私は、こんなところでぇっ!!」

ようやく立ち上がったアポロガイストは、最後の武器アポロショットを構える。

〈 Final dimension blast 〉
「はあああああああっ!!」

「ヌオオオォォォォ!!」

そしてほぼ同時に引き金が引かれ、二種類の砲撃が衝突し拮抗する。
それは閃光を放ち、衝突による衝撃や突風を巻き起こす。

だが―――

「な、何っ!?」

その競り合いは突如終わり、士の放った攻撃が、アポロガイストの砲撃を飲み込み始めた。

「バカな…この私が…!」

そう声を漏らすアポロガイスト。その眼前に、士の砲撃が迫る。

そして士の砲撃がアポロガイストに命中し、火花を散らしていく。
砲撃が収まり、アポロガイストは佇んでいた。だがその体の所々が焦げていたり、火花を散らしていたりしていた。

「見事だ、ディケイド……だが、忘れるな。貴様を倒し、この世界を支配するまで、何度でも…蘇る…」

そう言ってアポロガイストは覚束ない足取りを抑え、両手を上に掲げた。

「そう…私はどんな世界でも―――最も迷惑な奴として、蘇るのだぁぁぁぁぁぁ!!」

アポロガイストはそう言い残し、後ろに倒れると同時に爆死した。

「なっ、アポロガイスト…!」
「よそ見している暇があるのか?」
〈 FINAL ATACK RIDE・de de de DECADE ! 〉

アポロガイストが爆死したのを見て、シャドームーンは驚愕する。だが間髪入れずに、本体の士が金色のディケイドのマークが描かれたカードを取り出し、バックルへ入れる。

音声と共に士とシャドームーンの一直線上に、十四個のライダーズクレストが並ぶ。

「はぁああっ!」

士は剣を構え、目の前に並ぶライダーズクレストを通過し始める。一つのクレストを通る度剣に光が宿り、次第にその光は刀身を包み込む程のエネルギーへと変わっていく。

しかし、それを黙って見ているシャドームーンではない。呻き声を上げながら立ち上がり、剣を構える。

「サタンサーベル!」

数回剣を振り、突き出すように構えるシャドームーン。その時士は、十一個目のライダーレクストを通過しきっていた。

そして遂に士が最後のクレストを通過しようとした瞬間、

「ヌァッ!」
ドンッ!
「―――っ!」

シャドームーンが一気に飛び出し、自らとレクストとの間隔を埋めた。そしてレクストを通過する途中の士目がけて、サタンサーベルを振り下ろそうとする。

(剣は構えきれておらず、振ることはできまい!さらに今は無防備…これで、終わりだ!)

シャドームーンは遂にサタンサーベルを振り下ろし、士を襲う。
周りで見ていたなのは達は、またもあっと声を上げる。このままでは、彼に攻撃が……






―――だが、


刹那、シャドームーンの視界から彼が消え失せ、剣による一撃は何もない空間を斬るだけに終わった。

(なっ、バカな!奴は一体どこに…―――っ!?)

まったく手ごたえの感じないことに疑問を抱いたシャドームーンが思考を巡らせたその時、彼の耳に地面を削るような音が入ってきた。そして視界の端には、人影が。
その人影を追うように視線を向けると、そこでは彼が―――ディケイドがスライディングをしながら進んでいた。

(まさか、アレをスライディングをしながら避けて…!?)

あの一瞬でそんなことが?バカな!?
そう考えるシャドームーンだが、事実士はシャドームーンが目の前まで迫った瞬間、咄嗟にスライディングに切り替えて上手くシャドームーンの一撃を避けたのだ。

士はシャドームーンの背後までやってくると、足を引っかけることで走ってきた勢いを利用して立ち上がり、

〈 Final dimension slash ! 〉
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
「グォオッ!?」


そして振り向きざまに斜め下から一閃。さらにシャドームーンがよろけたところへ、

「だああぁぁぁぁ!!」
「ヌゥオオォォォ!」

横からの止めの一撃を振りぬく。勢いよく剣を振った所為か、士はシャドームーンに背中を向けるように半回転する。
銀色の装甲を深く抉られ、火花を体の所々で散らすシャドームーン。一歩、また一歩と士から離れていく。

「…今回は、貴様の勝ちのようだな…ディケイド……」

だが忘れるな、と続けざまに言うシャドームーン。

「我々は必ず、この世界を…次元世界そのものを支配する。そう…『必ず』だ!そのことを…肝に、銘じて…おけ……――――オオオォォォォッ!!」

そう言いながら前のめりに倒れ、シャドームーンは大きな音を立てて爆死し、士はその炎の光を背中で受け止めた。




















「や、やった…!」
「士君が…勝ったんだ…!」

シャドームーンの爆死によって、その一部始終を見ていたなのは達は歓喜した。
これでこの戦いも無事に終わる。彼もちゃんと取り戻すことができ、やっとまた皆と一緒に……

「―――……?」

だが、未だ揺らめく炎の先にいる彼は、どうも様子が違った。
いつの間にかファイナルコンプリートフォームから通常フォームに切り替えていた彼が、変身を解く仕草を一向にしない。それどころか、こちらに背を向けたまま空を仰ぎ見ていた。

心配になったなのは達は彼の名前を呼ぶが、それでも彼は反応を示さない。
どうしたのだろう、と疑問を覚え始めたその時、ようやく彼の手が動きだした。

すっと動き出した彼の両手は、左腰にあるライドブッカーへと移っていき―――“一枚のカード”を、取り出す。
戦闘が終わったのに何故?と再び疑問に思うなのは達を他所に、彼は取り出したカードを少し上げ、そして―――


その瞬間、

キュィイッ、ガギィン!
「「「「「っ!?」」」」」

突如彼の体に水色のバインドと緑の鎖が絡まり、彼の動きを止めた。
そのバインドと鎖の色に見覚えのあるなのは達は、急いで鎖の出所へ視線を移す。

そこには肩で息をする二人の少年―――手のひらを向けているクロノと、目の前の魔法陣から鎖を出しているユーノがいた。

「士…何をするつもりだ?」

訳のわからない状況の中、最初に口を開いたのはクロノだった。しかし士はその疑問に答えることはなかった。
この状況に付いて来れないなのは達は、只々戸惑うばかりだった。何故クロノが、ユーノが彼の動きを止めたのか……

一向に質問に答えない彼に、遂に苛立ちを隠せなくなったクロノが再び口を開いた。

「ならば質問を変えよう――――“何処へ”行くつもりだ?」

クロノのその質問を聞いた瞬間、なのは達は反射的に彼の方へ顔を向けた。
何処へ…行くつもり?まさか…ようやく彼を連れ戻して、戦いも終わったというのに…?

そんななのは達の疑問の目を感じてか、今動かせる首だけを動かしてチラリとこちらに顔を向けた。
だがそれも一瞬の事で、彼はすぐに前へ向き直った。そして、

「――――…悪いな」

ようやく彼が口を開くと同時に、クロノのバインドとユーノの鎖が一瞬にして粉々になる。
なっ、と見ていた誰もが声を上げた。彼がバインドの解除ができる程魔法に関して器用な方だと思っていなかったからだ。しかし今のはバインド解除というより―――バインドの“破壊”とでも言おうか、見慣れない壊れ方だった。

そんな誰もが驚いている状況の中、彼はそれらを気にせずカードをバックルに。

〈 ATACK RIDE・INVISIBLE 〉

その瞬間、彼の姿は煙のように消え去った。

誰かが逃走する彼に文句や言葉を投げかける暇もなく…彼はその場から

「―――どうして、なの…」

そう呟くのは、その目に涙を浮かべているなのはだった。
ようやく取り戻せたと思ったのに…また一緒に、同じ時間を過ごせると思ったのに……

彼はもう―――ここには、いない。

「どうしてなの…どうして……どうしてっ…―――士くぅぅぅぅぅんっ!!」

目から溢れ出てくる涙は静かにアスファルトの地面を濡らし、海鳴の街に悲痛な叫びが木霊した。



 
 
 

 
後書き
 
今年受験生となってしまいましたので、今回のように執筆時間が取れず更新が遅くなってしまう場合があると思われます。できるだけ気長にお待ちくだされば幸いです。

でもこの章を終えるまではできるだけ早く更新したいと思いますので、待っててくださいね?
それではまた次回に、お会いしましょう。
  
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