少年と女神の物語
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第六十五話
俺はまず、水中で呼吸が出来る自分、水中で喋ることができる自分、水中で自由自在に動くことが出来る自分を想像し、権能でそんな自分になった。
よし、これで水中でも戦える。
「よう、やっと挨拶が出来たな神様。俺は神代武双だ」
そして、目の前にあるでっかい竜の顔に、そう挨拶をした。
いや、それにしてもでかすぎるだろ・・・もう、でかすぎて蛇か竜かの区別もつかん。
「ほう・・・水中で言葉を交わすか、神殺しよ」
「まあ、出来たもんは仕方ない。ってか、名前いっただろ。ちゃんと呼べよ」
「悪いが、すぐに会話も出来なくなる相手の名を覚える趣味はなくてな。それと、これからしに行くものに名乗る名など持ち合わせておらん」
「チッ・・・面倒な神だな。なら、また死に際に教えてやるよ」
そう言いながら、俺は権能を発動する。
「我は全ての武具を作りし者である。我はここに我が武を生み出し、使役せん!」
俺が今回作ったのは、軽めで、それでもしっかりとした強度のある槍だ。
水中で重いものを振り回すよりは、こっちの方がいいだろうという軽い発想からではあるが、まあそんなことは気にしない。
「さて・・・行くぞ!」
俺はそのまま水を蹴り、一気に蛇の下にもぐりこんで腹に槍を突き刺し、そのまま引き裂く。
か、鱗の表面に多少の傷が出来ただけで、大した傷にはなっていない。それどころか、背後から尾による打撃を受けてぶっ飛ばされる。
「ゲホッゲホッ・・・って、どんだけ長いんだよ・・・」
俺を殴ってきた尾を見ると、それがどこまで続いているのかが全く分からない。
そして、もしかしてと思って頭からもたどり、そちらも先が見えないことでそのでかさを再確認した。
コイツ・・・これまでに俺が戦った中で一番でかいんじゃないか?
「なあ!お前全長どれだけだよ!?」
「人間の単位など知らんよ。ただ、倭の国を一囲み出来るほど、というしかないな」
「でかいってレベルじゃねえぞ!?」
つまり、日本の全体を一周するくらい・・・あ、うん。もう考えたくもないや。
ってか、さすがにそんな神様がいたら俺でも印象強すぎて覚えてると思うんだけどな・・・
「考え事をする時間はないぞ、神殺し!」
蛇がそういった瞬間に、俺の周りの水が揺れる。
マズイ・・・酔う・・・俺はとっさに豊穣王を使い、海草に押し出される形で揺れる水から脱出する。
そして、その先には蛇の口が・・・
「食われてたまるか!」
「ふむ・・・やはりそう簡単にはいかんか」
海草の進路を強制的に変更し、俺はそのまま蛇の胴体にしがみつく。
うわ・・・鱗の感覚が気持ち悪い・・・って、そんなこと言ってる場合でもないか。
俺は両手に少し大きめの刃をつけ、それを鱗と肉の間に全力で突き刺す。
「ぬおおおぉぉぉぉぉぉ!!神殺し、キサマ!」
「うるせえ!これが邪魔で攻撃が通らないなら、剥がしてやるまでだ!」
「させぬ、それはさせぬぞ!」
俺を振り落とすつもりか、蛇は滅茶苦茶に暴れだした。
クソッタレ・・・!俺はそう思いながらも、さらに鱗をそぐために力を込める。
「オラオラどうした!でっかい体、ずいぶんと動きづらそうじゃねえか!」
「ほざけ、神殺しが!」
そして、俺が鱗を一枚剥がしたのと同時に・・・俺は、岩に叩きつけられた。
あ・・・ヤベエ、まず間違いなく骨折れた。ってか砕けた。さっきから何回も死んでるのが分かる。
そして、俺は口の内側の肉を噛み千切り、そこに隠してあった超小さい小瓶を噛み砕き、中の治癒の霊薬を飲み込む。
ほんの一滴二滴程度しかないが、沈まぬ太陽を使っている間はそれで十分だ。
「ふぅ・・・まだ戦えるぜ、俺は?」
「今ので無事とは・・・いいだろう。それでこそ殺し概があるというものだ!」
そして、真正面から突っ込んできた蛇の頭を槍で抑え、そのままもう片方の槍で目でも奪ってやろうと・・・
「よっと!」
「気付いたか」
はせずに、上に跳んだ。
じっさい、俺が避けていなかったら背後から迫っていた尾でブスリ、だったであろう。
なんにせよ、あのままあそこにいるのは危険だった。岩とか簡単に貫いてるし。
「さて、本気でどうするか・・・って、考えても仕方ないか!」
俺は考えるまもなく向かってきた蛇の頭を避け、そのままその背に乗る。
再び振り落とそうとしてくるのをどうにかこうにか耐えながら、俺は先ほど鱗を剥がしたところまでたどり着き、そこに深々と槍を突き刺す。
「グオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
「やっぱり、鱗さえなければ刺さるんだな!ならこれで・・・!」
俺はそのまま、刺した槍をグリグリと動かし、蛇の中をかき回す。
「いい加減にせぬか、神殺し!」
「グハッ・・・!」
そして、また岩に叩きつけられた。
あー・・・学習してないな、俺も。今回は受身が取れたから、鋼よりも頑丈な俺の骨は折れたりせずに耐えてくれたけど。
「・・・まさか、ここまで小さきものが我に抗うとは、思ってもいなかった」
「そうかよ。でも、たいていそんなもんだぜ?どこの神話でも、竜を退治するのはそれより遥かに小さい勇者、英雄だ。どうせお前も、そんな感じだったんじゃないか?そんなでかい蛇で、地震なんて現象を起こすんだ。どう考えても、討伐される側の存在だよ、お前は」
そう言いながら、俺は誓いの槍と聖槍を装備し、構える。
「第二ラウンドと行こうぜ、蛇野郎。もうお互い、十二分に探り合っただろ。こっから行うのは、ただの殺し合いだ」
「・・・そうだな。いいだろう、小僧。全力で相手してくれる!」
そう言いながら、蛇は姿を変えた。
「・・・オイオイ、その姿はなんだよ?さっきまでとは全然違うじゃねえか」
「フン。キサマが言ったのであろう、神殺し。ずいぶんと動きづらそうだ、と。確かにその通り。故に!我はもう一つの姿で相手をすることにした!」
目の前にいるのは、先ほどまで相手をしていたでっかい蛇ではない。
むしろ、日本で地震と言われて、真っ先に思いつく姿だ!
「さあ、雌雄を決しようぞ神殺し!」
「・・・ああ。その前に、今度こそ名を名乗る気はないのか?」
俺の中では、もうこの神の正体はつかめている。
今、目の前にある姿。これさえあれば、最初から分かってたのに・・・!
「俺は神代武双。神殺し・・・カンピオーネだ」
「・・・よいだろう。その技の冴えに敬意を賞し、わが名を名乗ろうではないか!」
そんな神様じゃないと思うんだけどな、こいつは。
そして、その神はようやく、その名を名乗った。
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