少年と女神の物語
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第六十六話
俺は横に広い口に吸い込まれないよう全力で動きながら、同時に槍を創り出して飲み込ませる。
そのまま距離をとって観察すると、次の瞬間には粉々に砕かれた槍が吐き出された。
あ~あ。蛇相手だから蚩尤・・・鋼の武器が効くと思ったんだけどな。
「オイ、神殺し。いささかやる気に欠けるのではないか?」
「気のせいだよ・・・少し、やりづらいだけだから安心しろオオナマズ」
そう、今回出てきたあの蛇の正体はオオナマズ。
元々、日本において地震の原因は日本列島の下に横たわる、あるいは日本列島を取り囲む竜とされていたが、江戸時代から地下に住んで、体を揺らすことで地震を起こす巨大な鯰の姿をした生物へと変わった。
それゆえに、コイツは最初あの巨大な蛇・・・いや、竜として顕現していたのだ。
今伝わっている伝説では鹿島神宮に祭られている際神、鹿島神ことタケミカヅチが要石で押さえつけて動きを止めると言われているが、これは鹿島神宮に要石があったことによる後付の伝説。
そんな形であれ、神話の変化によってタケミカヅチは鋼の神格を得たんだろうなぁ・・・いや、蛇の神であるカグツチを殺した際に、鋼であるアメノオハバリに付いた血より生まれた神。
死んだ蛇の骸から鋼が現れるのは、様々な神話で見ることができる話。タケミカヅチは元々鋼の神格を持っていて、それゆえに蛇であるオオナマズを抑える役として抜擢されたのだろう。うん、そうに違いない。きっと、知に富む偉大なるもので調べても似たような結果が出てくるだろう。
そう納得して、戦いに集中しなければ。
そういえばヤマト王権にも関わってたなぁ・・・いかんいかん。こんな時に限って俺は好奇心が深くなる。ダグザを殺してからというもの、たまにこうなるんだよな、俺は・・・
「まあいい、さっさと来いよ。俺はお前を倒して、鯰料理を食いに行くことに決めたんだ」
「残念だが、キサマは我が食らう。・・・カカッ。腹の足しにはならんだろうが、よき戦いが出来るだろう!」
そう言いながら全身で突っ込んできたオオナマズを、俺は避けてから槍を突き刺す。
竜ではなくなったことで鱗は消失したのに、堅さは健在。ふざけてやがるな、ホント。
でも・・・そんなことは言ってられないよな!
「どうした、神殺し!先ほどまでの威勢はどうした!?」
「・・・安心しろ、ちょっと放出の仕方を変えただけだ」
俺がそう言いながらオオナマズを蹴って距離を置くと、それを追うようにしてオオナマズが海水が波を打ち、俺にぶつかる。
その感覚によいそうになるがどうにかこらえ、一瞬止まってしまった瞬間に突進を食らい、ぶっ飛ばされる。
流石は日本を取り囲む竜、その質量が纏れば、こんな威力になるのか・・・泣きたい。でも・・・!
「まだ、俺は戦える・・・!」
海底に手を突いて、一気に立ち上がる。
「まだ立ち上がるか、神殺し」
「ああ。何せ、俺は死なないからな」
いったんロンギヌスとグングニルをしまい、両手を開ける。
そのまま大量の槍を召喚して・・・片っ端から食べる。
オオナマズが変な目を向けてくるが、そんな事を気にせずに食べ・・・さらに、海水も飲み込む。
ストックしていた槍を全て食べつくし、海水も腹に入る限り詰め込み、準備は終わり。
途中何度か妨害も入ったが、全部こなせた。よし、これできっと、いける!
「何をするつもりかは知らんが、無駄だ神殺し。キサマの攻撃はどれも決定力にかける。それでは、我を倒すことは出来ん!」
「だろうな。なんせ、俺の持つ権能の中で一番攻撃的なのが使えないんだ」
まあ、だから。
「だから、使える空間まで招待させてもらうぞ!」
俺は全力で跳び、オオナマズの腹に入り込む。
そのまま何かされる前に掴み、ついでに蚩尤の権能で創り出したナイフで、手の甲を貫いて俺とオオナマズを固定する。
これでコイツは、俺から離れることが出来ない!
一気に決めさせてもらうぞ、オオナマズ!
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」
海草を束にすることで強度を造り、オオナマズの腹に向かってくる。
そして、こっちも!
「我は鋼を喰らいて万物をなす。今ここに、我が望みしものを創り出せ!」
そして、海底に手を突いたときにマーキングしてあった位置から一気に金属の柱が延び、先ほどの海草の束と一緒にオオナマズの腹に当たって、オオナマズを押す。
その勢いは一切衰えずに、オオナマズをこの場から追い出す!
「神殺し、キサマ!」
「あんたのフィールドでの戦いはもう十分だ!こっからは、俺のフィールドへどうぞ!」
何度も逃げようとするオオナマズは、俺に固定されているせいで逃げることが出来ない。
俺自身が、金属柱に固定されてるからな!
ザッバアアアアアアアアアン!!!!
そんな音を立てながら俺とオオナマズは海面に出て、空中に投げ出される。
そのまま俺は、オオナマズが海中に逃げないように海面に金属を張る。
まあ、これくらいは簡単に砕かれそうだけど、その隙を狙えばいいだけだ。
「来い、二振りとも!」
俺の呼びかけにこたえて、ゲイ・ボルグとブリューナクが戻ってくる。
よし、これで装備は揃った!
「神殺し・・・否、神代武双よ!キサマは何度も我が想像を超えてくれる!良い、良いぞ!血が滾る!」
「まつろわぬ神ってやつは、どいつもこいつも戦い大好きだよな!俺もだけど!」
そう言いながらブリューナクを構え、水中では使えなかった権能を使う!
「わが内にありしは天空の雷撃。社会を守る、秩序の一撃である!今ここに、我が身に宿れ!」
肩当を装備し、現れた杖を掴む。
そのまま杖を宙を舞っているオオナマズに向け、全力で雷を放つ。
さあ、フィナーレだ!
「雷よ、我が敵を貫け!」
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
苦しんでいるところに、ダメ押しでもう一発!
「ブリューナクよ、雷光をまとい、貫け!」
『オウ!』
もう片方の手に持っていたブリューナクを投げて、その攻撃も加える。
これでどうだ・・・
「・・・まだ、まだ終わらぬ!」
「んな!?」
そう思っていたら、オオナマズが俺にぶつかってきた。
お互い宙を舞っていたのと、重さの差があったのだろう。思いっきりくらい、俺が作った金属の板を、おれ自身で破壊することになった。
ついでに色々と骨が折れたし、変なところに刺さった感覚はあるが・・・まあいいや。どうせ、後一撃で終わりだ。
足場がなくなったので代わりに水面に立てる自分を想像することで水面に立ち、ゲイ・ボルグを構える。
「毒もち呪え、ゲイ・ボルグ!」
俺が投げたゲイ・ボルグはブリューナクの隣に刺さり、その毒で一気にオオナマズを犯していく。
「まだ・・・まだだ。まだ、負けぬ・・・」
「いや・・・もう終わりだよ、オオナマズ!」
俺はそう言いながらオオナマズの尾まで跳び、ロンギヌスとグングニルを構える。
そのまま雷の刃を長く、包丁のように生成して・・・そのまま、尾を挟むようにオオナマズに切り込ませる。
「ぬぅ!?」
「さあ、始めようか。・・・調理を!」
足に雷をまとい、一気に噴出して勢いよく飛ぶ!
「三枚下ろし!」
そのまま、上中下の三枚に下ろし、オオナマズを殺しきった。
そして、俺もまた背にかかる重みに任せて、意識を失った。
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