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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン5 鉄砲水と過去の源流

「………よしっ!もうこれで大丈夫、どんな状況が来てもサッと応えられる!」
「ふーん。じゃあひとつ質問していい?これ答えられたらテストで困ることはないだろうから帰ってもいいよ」
「え、ホント稲石さん!?よーし、かかってこいやー!」

 いつもの廃寮にて。新学期最初の実力テストを前に、僕は亡霊稲石さんの個人授業を受けていた。なにせ実技がなければ進級すら怪しい程度の成績だったから、テストは気が抜けないのだ。

「じゃあ問題。自分のライフが1000、相手ライフが1500とします。相手の場にダーク・キメラが出ている状態で自分と相手がブラック・ガーデンを発動、その後召喚したカラテマンが効果を使って攻撃を仕掛けたら相手が攻撃宣言時に収縮をカラテマンに使いました。そこでチェーンして旗鼓堂々を発動、墓地の進化する人類をカラテマンに装備。さあ、この場合どっちがいくつダメージを受けるでしょう」

 長い長い長い!問題長いよ稲石さん!だ、だけどこれはあくまで戦闘ダメージに関する問題なんだ。その場合、こっちには切り札がある。

「当然0以外ありえないね。なぜならその戦闘で、両者が手札からクリボーの効果を発ど……」
「却下。それ言い出したら問題にならないでしょ?」

 ですよねー。いい案だと思うんだけどなあ。まあでも休みを獲得するために、脳みそをフル活用させて考える。そもそもカラテマン自身が召喚した瞬間攻撃力………あれ?カラテマンの最初の攻撃力っていくつだっけ?いや、確か1000だったはず。だから半分の半分で250になって、そこから効果を使うけど確かあの効果は元々の攻撃力を倍にする効果なはず。つまりここまでで2000。だけど収縮で元々の攻撃力が半分になって進化する人類で攻撃力が上がって、あれそもそもダーク・キメラの素の攻撃力っていくつだっけ?

「………参りました。授業続けてください」
「ん。ちなみにダーク・キメラの攻撃力は1610、収縮の効果で半分になるのは進化する人類で2400になったカラテマンのもともとの攻撃力。つまりこの場合は攻撃を仕掛けた側が410ダメージを受けるからね」

 まあこれがしっかり言えるならわざわざこんなところまで補習なんて来ないよね、と言いながら手早く机の前に問題集を積み上げていく稲石さん。ポルターガイスト現象を駆使してふわふわと教科書をページが開いた状態で漂わせるその姿はまるでファンタジーによくある魔法使いのようだけど、浮かんでる本はあくまでもただの教科書だからそんな大それたものじゃない。
 あ、そういえばデュエルモンスターズの初期の名前、(マジック)(ウィザース)って確かプレイヤーが魔法使いという設定で行うゲームなんだっけ。そこまで考えたところで、コツリと頭を小突かれた。

「あいて。教科書の角で叩くのはやめて……」
「集中集中。はい、じゃあ次はこのページね」

 なんだかんだいって、この人………じゃない、この霊の授業はわかりやすい。だからこそ、僕も最近はじわじわ成績が上がってきているのだ。入学試験時は110人中92番だったけど、今の平均はなんと88番ぐらい。これはすごい進歩だと我ながら思う。
 …………いかん、いくらなんでも虚しくなってきた。





「さて、と。とりあえずこれだけ詰め込んどけば赤点は回避できるかな?間違いなく言うこと聞かないのはわかってるけど、普段から勉強しておこうね」
「あーあー聞こえなーい聞こえない~」

 私は何も聞いてませんよー?的なオーラを全面的に出しつつ、お小言が増える前にとっとと退散する。まったくもう、とため息をつきながらもこれまた心霊現象の一種なのだろうか、稲石さんが片手をあげると錆びついた門がひとりでに開いたので、そこから外に出る。
 そういえば、今日はあのカイザーの試合がテレビ中継される日だっけか。卒業してプロになったカイザーは当然のごとく連戦連勝で、ファンも多いと聞く。よし、夜になったら見てみようっと。
 そんなことを考えつつプラプラ歩いていると、ポケットに突っ込んであったPDLが音を立てた。おや珍しい、僕の番号を知ってる人がほとんどいないからこっちから使うことはたまにあってもこっちが呼び出されるなんてめったにないのに。どうせ葵ちゃんからの砂糖を切らしたとか小麦粉をぶちまけたとかいう報告だとは思うけど。

『もしもし清明?だってさ』
「む、むむむ夢想!?」

 ビックリした!!なんかもう例えるならチャクチャルさんが目を覚ました次の日からしばらくの間ナスカでシャチの地上絵が一夜のうちに消えさりましたってニュース見た時と同じくらいびっくりした。

『ちょっと、大丈夫?って』
「え、え、え、なんで?えー嘘、なんでこの番号知ってるの!?」
『ああ、それ?それは、ほら。はい、かわりに喋ってくれる?だって……………あ、もしもし先輩ですか?私です、葵です。なんでも夢想先輩が先輩の連絡先を教えてほしいって言ってたからこの番号伝えましたけど、もしかしてまずかったですか?』
「い、いや。盛大に驚いただけだから。みりんと醤油を間違えちゃうようなもんだよ」
『あー、それは確かにキツイですねー。じゃ、そろそろ夢想先輩に戻りますので…………ってことなの、なんだって』

 うん。確かに店の関係でトラブルがあったらすぐ僕に連絡ちょうだいって葵ちゃんにはアドレス教えてあったから、確かに筋は通ってる。それにしても若干、どころかかなりカッコ悪いところを見せたような気がする。気がするんじゃなくて完全に見せた。くっ、今からでもなんとか誤魔化せるだろうか。

「ごめんごめん、いきなりだったからつい。それで?どうしたのさ一体」

 言ってから思ったけど、今のはいくらなんでもちょっと素っ気なさすぎやしなかっただろうか。これで夢想に申し訳ない気持なんか持たせたらどうしよう、いやそれならまだマシなほうだ。最悪嫌われてもおかしくない。
 画面の前でたらたらと冷や汗を流すその姿は、さぞかし不審に見えたことだろう。だけどわからない、この後どういった対応をするのがベストなのかがまったくもってわからない。よく考えろ、僕。下手なことを言おうものなら一発で泥沼にはまり込むぞ。というか、もうすでに片足突っ込んでる気もするし。
 あれこれ考えすぎて脳がオーバーヒートする寸前ぐらいのところで、夢想の声が聞こえた。

『とりあえず校長室まで来て、だってさ。鮫島校長………はいないから、代理のクロノス先生から話があるんだって』
「?」

 今度こそ、何かやったのがばれたんだろうか。見つかったら怒られるであろうネタは身に覚えがありすぎるぐらいにあるから、もう何が見つかったのかが分からないけども。





「どうも皆さん、よく来たノーネ」

 校長の椅子に満面の笑みでふんぞり返るクロノス先生。確か『臨時』で『代理』の『仮』校長になったんだっけか。鮫島校長はどこ行っちゃったんだろう。

「前置きはどうでもいい。こんなに人を集めて、一体何のつもりだ」

 むすっとした声の万丈目。こんなに、というのももっともなことだ。何しろこの部屋には今、僕と同じように招集をかけられた万丈目に十代に三沢に明日香と夢想。メンバーがカオスすぎていったい何をやらせようとしているのかまるで見当がつかない。と思ったけどこの面子、よく考えたら万丈目以外は去年のノース校対本校のタタカイに代表者として出たメンバーじゃないか。その万丈目だってあっち側のリーダーだったんだし。

「いい質問ナノーネ、シニョール万丈目。実は先日、デュエルアカデミアノース校の校長から通信が入ったノーネ」
「ノース校から?一体あいつらが何の用だ。アームド・ドラゴンなら返すつもりはないと言っておいてくれ」

 そういや万丈目のアームドシリーズって、ノース校で伝説扱いされてたのを借りパクしてるカードなんだっけ。1回本人から聞いたことがあるけど、特に返せと催促されなかったから返さなかったとのことらしい。

「まあまあ、とりあえずこの映像を見るノーネ。その方が話が早いですーノ」

 そう言ってリモコンをピッと操作すると、ウイイイインと天井からスクリーンが垂れ下がってきてさらに自動でカーテンが閉まった。

「へえ、この部屋こんな機能があったのか!」
「随分とハイテクザウルス。さすがデュエルアカデミア高等部だドン」

 そんなどうでもいいことをしゃべっているうちに、画面にはノース校の校長………えと、名前なんだっけ。まあとにかく、校長が写った。

『どうも、鮫島校長。お久しぶりです』
「ポチッとな。このセリフについては、彼はこのクロノス・デ・メディチが校長となったことを知らないうちに送ったメッセージだから聞き流してほしいノーネ」

 わざわざそこで一時停止を入れるクロノス先生。あれ、代理だよね?とツッコミたくなったのは僕だけじゃないはずだ。

『さて、こうして連絡を入れたのはほかでもありません。去年はそちらに敗れたノース校対本校の試合ですが、ぜひ今年もやりたいとの声がうちの生徒から多数寄せられまして。もしよろしければ、昨年と同じ条件での5対5のチーム戦を開催したいと思っているのですが、いかがでしょうか。返信、お待ちしています』
「ポチっと。つまり、そういうことなノーネ」

 懐かしいなあ。まさか、急にやって来たとはいえテレビ中継までされたあのノース校との戦いで鮫島校長が勝ち取ったものがトメさんのキス1回だとは思わなかった。たぶんあのノース校長もどちらかというとそっちの方が目当てなんだろう、きっと。

「それで?わざわざ呼びつけておいて、まさかそれだけということはあるまい」
「それには深いわけがありまスーノ。今日集まってもらったシニョールアーンドセニョリータにまた代表5名をしてもらいたいと思っていますが、実はこのテープ、まだ続きがあるノーネ。またまたポチッとな」

 急に真剣な顔になって、リモコンのボタンを押す先生。画面のいち……いちの………そうだ、市ノ瀬校長だ!まあとにかく、その校長が再び口を開く。

『ところで、鮫島校長。愚痴をこぼすようで申し訳ないが、私には一つ心配事があるのだが。最近このノース校では生徒たちの間でなにか宗教のようなものが流行っていて、それに影響された子が制服を白くしたり部屋を白く塗り替えたりとやりたい放題なんだ。確か名前は………光の結社、とか言ったかな。今のところ全生徒の3分の1ほどの間に広まっていて、あのサンダー四天王の言うことにすら反発することもある一大勢力を築きあげつつあるのだよ。教職者として、私に至らない点があったのは認めよう。だからせめて、私のことを反面教師にしてアカデミア本校ではくれぐれも気をつけてほしい。それと万丈目君、アームド・ドラゴンを返してくれ』

 ………なんだろう、これ。こんなものを僕らに見せて、一体クロノス先生は何がしたいんだろうか。
 だけど、万丈目はどうやら違うことを感じたらしい。

「おい、クロノス教諭。この話、もう少し細かいところはわからんのか?とりあえずアームドは返さんと連絡を……」
「申し訳ないですが、さっぱりわかりませんーノ。何回かノース校と連絡を取ろうとはしていますが、全然応答がないノーネ」
「何、応答がないだと?」

 なんだか、ずいぶんと不穏な話になって来たものだ。大丈夫だろうか、ノース校。

「これは私の勘でスーが、どうもこの話には嫌な予感がするノーネ。皆さんが引き受けたくないというのなら、なんとかして断れるよう私が直接ノース校に出向いて交渉してみまスが、いかがでしょう」
「なるほどな。つまり、進むか退くかここで決めてほしいと」
「その通りデス、シニョール三沢。私個人としては、この挑戦を断ることでノース校に馬鹿にされるのは確かに悔しいでスーノ。しかーし、私はそれ以前に一人の教師。生徒に少しでも危険が及びそうなことは断じて許さない、それが教師のありかただと思ってますノーネ」

 おお、いい人だ。この人がこんなこと言う先生になるなんて、僕らの入学時には思いもよらなかったのになあ。だけど、その気持ちはありがたいけど、僕らだってデュエリストなんだ。なにより去年はセブンスターズ相手に闇のゲームで大立ち回りを繰り広げてきた僕らにとって、そんな新興宗教なんぞ怖くない。だから、

「気持ちはありがたいけど、俺はそのデュエル引き受けるぜ。売られたデュエルは買うのが礼儀だしな」

 ………なんで先に言っちゃうかなあ、十代。

「当然、俺もだ。ノース校のやつらにはまたこの俺が直々に活を入れてやる」
「私も参加するよ、だってさ」
「右に同じく、だ」
「私も参加するわよ」

 ………だからなんで僕より先に言いたいこと言っちゃうかなあ、この人たちは。それとも単にこっちのタイミングが悪いんだろうか。しょうがない、せめて締めの一言ぐらいは言わせてもらおう。

「ってことですよ、先生。きっと大丈夫です、僕らは勝ちますから」





「とは言ったものの、具体的にどうしようかなあ」

 あれからクロノス先生はまだ少し心配そうだったが特に何も言わず、そのまま流れ解散。正直、何かしようにも情報が少なすぎるのだ。

「ただまあ、特訓はしておかないとねえ」

 きっとサンダー四天王だってこの1年を遊んですごしたわけじゃないはずだ。なら、僕はさらにその上をいかないと格好がつかない。そもそも僕、去年は副将の鎧田にこそ勝ったけど公式の試合では万丈目に負けちゃったし。
 そして、僕には1つ前々からやってみたかったことがある。いい機会なので、あの男に頼んでみよう。





「………なるほどな。確かにこの学校中探しても、そういうことなら俺が一番だろうな。いいぜ、あの時に俺を止めてくれた借りもまだ返せてなかったしよ」
「うん、ありがとう。だけど悪いね、せっかく自分なりのデッキを作ってる最中でまたこんなことさせて」

 あっさりOKはもらったけど、さすがにちょっと良心が痛む。何しろ今からやってもらうことは、例えるならばアル中が治りかかってきた人を結婚式に呼んで酒盛りさせるようなものなんだから。
 だけどその男は、気にすんな、と快活に笑ってみせた。

「実を言うとな、もうできてるんだ。ちょっと待ってろ、今持ってくるから」
「うん、頼むよ………神楽坂」

 おう、と一言返して。ラーイエローにおいて三沢とは別のベクトルで秀才と呼ばれる男、神楽坂は席を立った。

「さて、と。考えてみれば、こういう頼みをされるのは初めてだな。じゃあ、俺………いや、()とデュエルしようか」
「うん。じゃあ、デュエルと洒落込もうか!」

「「デュエル!」」

 先攻をとったのは、神楽坂。5枚の手札をざっと見て、一瞬で自分のとるべき最適な一手を見つけ出す。

「手札からアトランティスの戦士を捨てて効果発動、デッキからアトランティスのフィールド魔法をサーチする。そしてこのアトランティスをそのまま発動。さらに魔法カード、スター・ブラストを発動!このカードは500単位でライフを払って、手札か場のモンスターのレベルを下げるカード………僕は1000のライフを払って、手札にいるレベル6になったシーラカンスのレベルをさらに2つ下げる!レベル4のシーラカンスを通常召喚だ!」

 神楽坂 LP4000→3000
 超古深海王シーラカンス 攻2800→3000 守2200→2400 ☆7→6→4

 アトランティスの効果でレベルが1下がっているシーラカンスのレベルをさらに2つ下げての、1ターン目からの最速シーラカンス召喚。普段僕の味方として暴れてくれるシーラカンスがこうして敵に回るのは、考えてみれば初めてだ。
 だけど、これこそが僕の望んでいた展開。今神楽坂に使ってもらってるデッキは、去年の僕が使っていたものと同じものである。通称ミラーマッチと呼ばれるデュエルは、カードパワーが同じなぶんプレイングと運の差が物を言う。だが、神楽坂にはデュエルする際にコピーしたデッキの使い手のプレイングや癖をそっくりそのまま使うという特技がある。つまり、今僕の目の前にいるのは去年までの僕そのもの。この相手にどれだけ差をつけて勝つことができるかで、今の僕の力量も知れるというものだ。

「シーラカンスの効果を発動、手札を1枚捨てることでデッキからレベル4以下の魚族を出せるだけ特殊召喚する!魚介王の咆哮!」

 魚の王の号令が、デッキの部下を呼び起こす。まさにテンプレの動き。

 ハリマンボウ 守100→300 攻1500→1700 ☆3→2
 ハリマンボウ 守100→300 攻1500→1700 ☆3→2
 オイスターマイスター 守200→400 攻1600→1800 ☆3→2
 フィッシュボーグ-アーチャー 守300→500 攻300→500 ☆3→2

「カードをセットして、エンドフェイズにシーラカンスのレベルは戻る。ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!」

 あのデッキを使ってた僕だからわかる。あの伏せカードは恐らく、破壊された水属性を完全復活させる激流蘇生か攻撃を無効にしてダメージを叩き込むポセイドン・ウェーブだ。

「速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊だ!」
「しまった、激流蘇生が!?」
「よし!とはいえ、シーラカンス越えはそうそう出せないし………モンスターを裏守備でセット、さらにカードもセット。これでターンエンド」

 神楽坂 LP3000 手札:0
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
      ハリマンボウ(守)
      ハリマンボウ(守)
      オイスターマイスター(守)
      フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:なし
場:伝説の都 アトランティス

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:???(セット)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン!永続魔法、強欲なカケラを発動。そしてシーラカンスで裏守備に攻撃、マリン・ポロロッカ!」

 超古深海王シーラカンス 攻3000→??? 守1000→1200(破壊)

「この瞬間、グリズリーマザーの効果発動!このカードが戦闘破壊されたことで、デッキから攻撃力1500以下の水属性1体を特殊召喚する!僕が呼ぶのはこのカード、ヒゲアンコウ!」

 ヒゲアンコウ 攻1500→1700 守1600→1800 ☆4→3

 この攻撃はもうわかっていた。だって僕だし、あそこでセットモンスターを警戒するなんてありえない。そして引いたカードが強欲なカケラであることを自分からばらしてくれた以上、警戒することなく安心して僕のターンでモンスターが出せる。

「そして僕のターン。ダブルコストモンスターのヒゲアンコウをリリースして、青氷の白夜龍を召喚!」

 シーラカンスを超えるその攻撃力は、僕のデッキの中で最大の固定値を持つ。思えば、このカードにも随分とお世話になって来たものだ。

 青氷の白夜龍 攻3000→3200 守2500→2700 ☆8→7

「白夜龍でシーラカンスに攻撃、孤高のウィンター・ストリーム!」
「へへ、悪いね!墓地からキラー・ラブカのモンスター効果発動!このカードをゲームから除外することで魚族のシーラカンスに対する攻撃を無効にして、さらに白夜龍の攻撃力は僕のエンドフェイズまで500ダウンするよ」

 冷気のブレスは、半透明の魚によってあっさりと防がれる。しかも、攻撃力がシーラカンスを下回る結果になってしまった。

 青氷の白夜龍 攻3200→2700

「くっ、これでターンエンド」

 神楽坂 LP3000 手札:0
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
      ハリマンボウ(守)
      ハリマンボウ(守)
      オイスターマイスター(守)
      フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:強欲なカケラ(0)
場:伝説の都 アトランティス

 清明 LP4000 手札:3
モンスター:青氷の白夜龍(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「僕のターン、ここで攻め込む!まずドローしたから、カケラに強欲カウンターが一つ。ハリマンボウをリリースして、ジョーズマンをアドバンス召喚!そしてジョーズマンは当然アトランティスの効果を受けて、さらにこのカード以外の自分の水属性1体につき300で攻撃力を上げていく」

 ジョーズマン 攻2600→4000 守1600→1800 ☆6→5

「さらにハリマンボウが墓地に送られたことで、相手モンスター1体の攻撃力を500ダウンさせる」

 青氷の白夜龍 攻2700→2200

 どんどん弱体化していく白夜龍に対し、攻撃力をガンガン上げていくジョーズマン。あれ、自分で言うのもなんだけど去年の僕ってこんなに強かったっけ。絶対神楽坂のやつ、ちょっと強さ盛ってるでしょ。

「このターンでケリをつけられるかな?前進あるのみ、まずはシーラカンスで攻撃!マリン・ポロロッカ!」

 超古深海王シーラカンス 攻3000→青氷の白夜龍 攻2200(破壊)
 清明 LP4000→3200

「ぐうっ………!だけどここでトラップ発動、リビングデッドの呼び声!墓地から白夜龍を選んで蘇生、アトランティスの効果で攻守アップ!」

 魚の王の突撃を受けて一度は吹き飛ばされた白夜龍が、今の一撃でぼろぼろになった氷の翼を広げてジョーズマンの攻撃から僕をかばうように立ちふさがる。………ごめん、白夜龍。

 青氷の白夜龍 攻3000→3200 守2500→2700 ☆8→7

「無論、ジョーズマンでそのまま連撃!」

 ジョーズマン 攻4000→青氷の白夜龍 攻3200(破壊)
 清明 LP3200→2400

「僕は、これでターンエンド」
「このターンで何かしないと……!ドロー!カードを2枚セットして、モンスターも伏せてターンエンド」

 状況はかなりこっちが押されてる。とにかく、あの布陣をなんとかしないと僕の勝ちはない。このカードがうまく通りさえすれば、一気に逆転の目もあるんだけども。ただこのカードはかなり受身なカード、あっちが警戒してそのまま攻撃したら何もできない。

 神楽坂 LP3000 手札:0
モンスター:超古深海王シーラカンス(攻)
      ジョーズマン(攻)
      ハリマンボウ(守)
      オイスターマイスター(守)
      フィッシュボーグ-アーチャー(守)
魔法・罠:強欲なカケラ(1)
場:伝説の都 アトランティス

 清明 LP2400 手札:1
モンスター:???(セット)
魔法・罠:2(伏せ)

「よーしっ、僕のターン!カードをドローしたから強欲カウンターがもう1つのって、その状態のカケラを墓地に送って2枚ドロー!ここはアーチャーを使おうかな。水属性モンスターをリリースすることで、シャークラーケンを特殊召喚!」

 シャークラーケン 攻2400→2600 守2100→2300 ☆6→5

 いよっしゃああああ、と叫びだしたい気分だった。馬鹿だ。昔の僕、やっぱ馬鹿だった。大体デッキの内容は大まかなところは変わってないんだ、この状況でセットなんてレベル4以上とのモンスターに対する戦闘破壊耐性もちの氷弾使いレイスか、2積みだったりピン刺しだったり時と場合で揺れ動くグリズリーマザーか苦し紛れのセットか、せいぜい警戒するとしてもリバース時に相手のカード1枚をバウンスするペンギン・ナイトメアぐらいの物だろう。つまり、あのシャークラーケン召喚はナイトメアただ1枚のみに対策した、ほぼ完全にオーバーキル以外の何物でもないわけで。

「だったらあとは、そこにできた隙をつくまで!トラップ発動、激流葬!モンスターが特殊召喚されたことで、場のモンスター全てを洗い流す!」
「な、なんだって!?」

 なんだって、とはいえ、多分神楽坂個人としてはオーバーキル狙いが隙を作りやすいなんてことはとっくにわかっていただろう。だけど、今の彼はあくまでも昔の僕のコピー。その役割に徹してくれたんだから、本当に感謝しないといけない。

「だ、だけどオイスターマイスターがフィールドから墓地に送られたことで、効果発動!オイスタートークンを特殊召喚!」

 オイスタートークン 守0→200 攻0→200

 慌ててトークンを召喚する。だけど、そんなことはこっちだって織り込み済みだ。

「こっちもセットしてあったオイスターマイスターの効果を発動。カモーン、オイスタートークン」

 オイスタートークン 守0→200 攻0→200

「なっ……!?ぼ、僕にはまだ通常召喚が残ってる!オイスタートークンをリリースして、2体目のシーラカンスを召喚!」
「へっ、2枚目も引いてたの!?」

 いかん、これは予想外。ねえ神楽坂、僕、そんなに引きよくないよ?いや、これ言ってもどうしようもないのはわかってるんだけども。

 超古深海王シーラカンス 攻2800→3000 守2200→2400 ☆7→6

「ふっふっふ、一瞬肝を冷やしたけど僕の勝ちは確定かな。シーラカンスに対して魔法カード、アクア・ジェットを発動!これで攻撃力は永続的に1000アップする」

 来るか魚介王の咆哮第二陣、と身構えたのも一瞬。残り手札1枚を、貴重なシーラカンスの効果発動コストになるカードをあっさりと使う神楽坂=去年の僕。ほんっっっとに何を考えてたんだろう、去年の僕は。ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、入学当初の嫌味な性格だったクロノス先生の気持ちがわかる気がした。こりゃ嫌味の1つも言いたくなりますわ。

 超古深海王シーラカンス 攻3000→4000

「シーラカンスでオイスタートークンに攻撃、マリン・ポロロッカ!」

 超古深海王シーラカンス 攻4000→オイスタートークン 守200(破壊)

 とはいえ、攻撃力4000のシーラカンスをなんとかするのはかなり難しい。さすがに次に引いたカードはすぐコストに使うだろうし、そうなったら対象をとる効果を無効にできるようになるシーラカンスはまず倒せない。この伏せカードがうまく使えるチャンスは、あと1回。この僕のドローにかかっている。
 ………結局、いつもこうなるんだなあ。ギリッギリの状況まで持ち込まれて、そこからデッキに助けてもらってなんとか首の皮一枚から勝負を動かす。別に不満はないけれど、たまにはもっとこう終始相手を圧倒するデュエルとかしてみたい。

「ま、さすがにそれは高望みなのかな?」

 デッキトップに手をかけ、目をつぶってそのカードに神経を集中する。俺に任せろ、そうそのカードが言っているような気がした。なら、こっちができることはただ1つ。自分のデッキを信じるだけだ。

「僕のターン、ドロー!」

 ほら、そうすればきっと応えてくれる。だって、この子たちは僕の大切な仲間なんだから。

「ハンマー・シャークを通常召喚して、効果発動。このカードのレベルを1下げることで、手札からレベル3以下の水属性を1体…………アトランティスの効果でレベル3になってるシャクトパスを特殊召喚!」

 ハンマー・シャーク 攻1700→1900 守1500→1700 ☆4→3→2
 シャクトパス 攻1600→1800 守800→1000 ☆4→3

「ふん、そうやってモンスターを揃えてもシーラカンスの前には」
「ああそうさ、あのアクア・ジェットを手札コストに回されてたらね。僕がモンスターの特殊召喚に成功したことで、このトラップの発動条件がクリア………トラップ発動、ディメンジョン・スライド!相手モンスター1体、つまりシーラカンスをゲームから除外っ!」

 次元を飛び越えてシーラカンスの後ろにワープしたシャクトパスが、その鋭い口先……でいいのかなあれ。どちらかというと鼻面?まあとにかくその部分でシーラカンスの体を一刺しする。さすがの固い鱗もこの不意を衝いての予想外な一撃は防げなかったらしく、巨体がどう、と崩れ落ちた。

「2体のモンスターでとどめ!シャクトパス、ハンマー・シャークでダイレクトアタック!」

 シャクトパス 攻1800→神楽坂(直接攻撃)
 神楽坂 LP3000→1200
 ハンマー・シャーク 攻1900→神楽坂(直接攻撃)
 神楽坂 LP1200→0





「ふー………」

 正直、まさかこんなに追い込まれるとは思ってなかった。あっちのプレイミスのおかげで助かったけど、もしかして僕自身はあんまり成長してないんじゃなかろうか。

「いや、そんなことはないさ。お前は昔のお前のプレイングの甘さを見ただけで気づけたんだろう?相変わらず、オシリスレッドにしておくのが惜しいぐらいだ」
「そうかな。そうだといいんだけど」
「それに、今ので俺も何かをつかみかけたような気もするしな。俺の、俺だけのデッキが完成するのもそう遠くはないはずだ。そうしたら、またデュエルしてくれよ?」
「うん、もちろん。いつでも相手になるよ」

 こうして、朝から晩まで常にドタバタしつづけた1日は終わった。明らかに様子がおかしいノース校とか明日のテストとか不安なことはいろいろあるけど、とりあえず今日は早めに寝………いやまだ終わってないな、大急ぎでテレビ見ないと。カイザーの試合、もうちょっとで始まっちゃう。
 そう思っていたこのころは、まだ思いもしなかった。





『互いに一歩も譲らなかったこのデュエル、勝者は…………エド・フェニックス!』
「嘘………カイザーが……」

 あのカイザーが、学園最強のサイバー流が、十代とはまた違うHERO、フェニックスガイ系統のモンスターを使うエドの前に一敗地にまみれるとは。

「なんだかもう、信じられな…………あれ?」

 圧巻のデュエルが終わり、テレビを切って何気なく外を見ると、窓の向こう側に見慣れた顔がちらりと見えた気がした。

「ユーノ?」

 一瞬だったから確証は持てないけど、あれは多分ユーノだろう。ここ数日間、一度も顔を見せていない僕の隣人。どこに行ってたのか、たっぷり問い詰めてやろうっと。

「おーい、ユーノー?」
『…………』

 何も言わずにスッと寮から離れていくユーノを慌てて追いかけ、外に飛び出す。どんどん遠くに行っちゃうユーノをさらに追いかけるうちに、いつの間にか森の中に入り込んでいた。

「あっれー?しょうがないなあ、手伝ってよサッカー」

 シャーク・サッカーの精霊をカードから呼び出して、ユーノの捜索を頼む。コクリと頷いたコバンザメが、するりと空中を泳いでいった。
 さてと、サッカーがあっちに行ったなら、僕はこっちに行こうかな。

『お前が探してるのは俺かい?』
「あ、ユーノ!なんだ、そこにい……た………の…………?」

 何かがおかしい。にやにやと笑うユーノに、別に不審な点はみられない。だけど、何かがおかしい。ふと気が付くと、いつのまにかデュエルディスクを構えていたことに気が付いた。どうも、無意識のうちに警戒度が跳ね上がっていたらしい。

『おっと、やりあおうってんじゃねえんだ。これ、ちょっと見てくれよ』

 そう言って彼が懐から取り出したのは、1枚のデュエルモンスターズのカードで、あのデュエルキング武藤遊戯の親友である城之内克也も愛用する由緒正しきカード、時の魔術師。

「これがどうし………っ!?」

 たのか、と言い終わる前にクラリ、と急に目がくらんできた。みるみるうちに意識が飲まれていくのを感じながら、どうすることもできない。

「くっ、サッカー……」

 多分サッカーが何かしてくれるだろうから、それを頼りにしよう。そう心の中で思う。完全に意識が消える寸前、ユーノのつぶやきが聞こえた。

『安心しな、4、5日もすりゃ目が覚めるさ。特殊能力、タイム・マジックの発展形だとでも思ってくれ………確かにやりましたよ、斎王(・・)様』 
 

 
後書き
いつかはやってみたかったミラーマッチ。
いざやってみたら敵が初っ端から全力出してきて対応に精いっぱいないつものパターンに。どうしてこうなった。 
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