遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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そして、光が溢れ出す
ターン6 天上の氷炎と正義の誓い
「………ハッ!?」
慌てて跳ね起きるとそこには、
「知らない天じょ」
「む。夢想先輩、丸藤先輩!起きてください、先輩が目を覚ましましたよ!」
「最後まで言わせてよ!」
「何馬鹿なこと言ってんですか!」
名セリフを邪魔されたのがちょっと悔しくて怒鳴ったらその倍くらいの勢いで怒鳴り返された。怖い。
「清明!」
「清明君!」
「あれ、2人とも。どったの?」
「どったの?じゃないッスよ、清明君!もう倒れてから4日も経ってるんスよ!?」
「何ィ!?」
あー、なんかだんだん思い出してきたかも。カイザーがエドに負けて、行方不明のユーノを追いかけたら時の魔術師を見せられて、いきなり意識が飛んで………。
「アニキが教えてくれたんスよ。あいつのサッカーが助けを呼んでるって。で、そうしたら森の中で清明君がバッタリ倒れてて」
「そのあとはもう大変でしたよ。息してないどころか心臓まで止まってましたし。よっぽどこの人はゾンビか何かかと思いましたよ」
「あ、あははー」
ゾンビ、と言われればあながち否定もしにくい気が。うーむ、何と言ったものか。
『時の魔術師だからな。油断した、完全に我々の時間を止められた』
「(あ、チャクチャルさん。それより時間を止められたって………)」
『どうやったのかはわからないが、どうやら彼も精霊の力を行使する能力、ないしはそれに類似したものが付いたらしい。なぜそうなったのかはともかく、これは厄介な相手だな』
なるほど、どれくらいヤバいのかはっきりしたことはピンとこないけどとにかくヤバそうなことだけはなんとなくわかった。しかしこれ、もしもサッカーが助けを呼びに行ってくれなかったらどうなってたんだろうか。等々とそんなことをつらつら考えていると、ついうっかり自分の世界に閉じこもってしまった。周りの心配そうな視線に気づいて慌てて咳払いし、ふと気になったことに話題をすり替える。
「と、ところでさー。なんか今回、お見舞い少なくない?去年保健室の厄介になったときはもっといろいろ来てくれたってのにさ」
適当に思い付いたことを口にしただけだったのに、一気に暗くなった3人の顔を見て地雷を踏んだことをいっぺんに悟る。
「実はね、清明。清明が倒れた次の日、学校にエド・フェニックスが来たんだよ、だってさ」
最初に重い口を開いたのは、夢想だった。普段は何を考えてるのか今一つ掴みづらい彼女だけど、今何か心配事があることだけはよくわかった。多分、それがこの話に関係するんだろう。
「それで、エドがアニキとデュエルしたんスよ。最初はアニキが優勢だったんだけど、そのあとでエドがこれまで見たことないテーマ、D-HEROに戦術を切り替えて、それで……」
「それで、何?もしかして負けちゃったの?」
つらそうに顔を伏せ、コクリ、と頷く翔。その時のことを思い出したのか、なんだかこれ以上喋らせたら泣きそうな雰囲気になってきた。その様子を見て気を使ったのか、ため息を1つついて葵ちゃんがそのあとを喋る。
「それで、その十代先輩ですが。負けた後しばらくの間ショックで自分のカードのテキストやイラストを確認することができない、いくら見ても白い紙にしか見えない状態になっちゃったんです。そして、ちょうど昨日のことでしたね。先輩の隣のベッドで寝かしつけてたはずなんですけど、丸藤先輩と剣山さんが元気づけに行ったらもう行方不明になってたんですよ」
「はあ!?」
なにそのトンデモ展開。でもまあ、あの十代のことだ。あのデュエル馬鹿がカードを見ることができないなんてなったとしたら、ショックの余り山にでも引きこもったってあんまり違和感ない気がする。
「そ、それで?当然探してるんだよね?」
「ううん、実は清明、話はそれだけじゃないの、だってさ。エドが来たその日の夕方ぐらいから生徒の間で急に光の結社っていうのが流行りだしたの、って。」
「光の結社………」
どこかで聞いた気がする、と思ったけどあれだ。ついさっき、じゃなかった僕が倒れた日の昼、クロノス先生が見せてくれたノース校からの連絡で市之瀬校長が愚痴ってたやつだ。あの時は変なこともあるもんだ程度に聞き流してたけど、まさかこっちにまでその熱が移るとは。気づかないうちに、事態はどんどん僕の知らない方向に向けて動いて行っている気がする。
「それで、その先導をやってるのがあの万丈目君なんスよ!なんか真っ白い服をどっかから持ってきて、万丈目ホワイトサンダーって名乗って校内で目に付いた人に片っ端からデュエルを申し込んでは完勝、するとなぜかその負けちゃった人も真っ白い服に着替えて光の結社バンザーイって言いだすようになって………今日この部屋に来るのだって見つからないようにしながらだからすごく苦労したんスよ」
「ちょ、ちょっと待って!え、万丈目ってあの?いくらなんでもそれはないでしょ」
あのいつもゴキブリみたいに黒い上下ばっかり着ておジャマ軍団共々やたら高い生命力としぶとさを全身で表現してるようにしか見えないあの万丈目が、全身真っ白?似合うとか似合わない以前にそもそもイメージできん。
でも、僕だって口ではああ言ったけど、伊達にこの1年を1つ屋根の下で暮らしてきたわけじゃない。翔がこんな嘘をつけるタイプじゃないことはよくわかってるんだ。だから、この話に嘘はない。わからないのは、何がどうなってそんなイメチェンをするまでに至ったかだ。
「で、なんで万丈目がそんなことになっちゃったの?なんかこうほら、原因とか理由とか、思い当たることは?」
「………それは……言いにくいッスけど………」
翔さん翔さん、その態度そのものが僕のせいだって言ってるのとほぼ同義なんですがそれは、とは思っても言わない。これでも翔なりに考えて気を使おうとしてくれてるのだ、ってことにはもう入学して2か月目ぐらいの時には理解できてたし。ただ、こういう時にはできれば、
「私も又聞きだけど、急に外に出た清明を探しに行った時からこうなったみたい」
そう、こんなふうにスパッと言ってくれる方がまだマシだったりするんだよね。ありがと夢想。
「いや、いったんは寮で待ってたんスよ?だけどいきなりアニキと万丈目君が清明に何かあったみたいだって言って外に出ちゃって、それで僕とアニキは清明君を探しに行ったんスけど、反対側にユーノ君を連れ戻しに行くって言ったっきり万丈目君が帰ってこなくて、それで次の日にはもう」
なるほど、少し読めてきた。僕がユーノを追いかけて外に出て、時の魔術師の効果を受けたところでサッカーが救援を求めてレッド寮に。精霊が見える十代と万丈目の二人がそれぞれ僕とユーノを探しにバラバラになったところをその光の結社とやらに狙われたってことか。
…………畜生。
「つまり、だ。一から十まできれいさっぱり全部まとめて僕のせい以外の何物でもないよねーこれ。だいたいわかってきたけど、まだほかにいるでしょ?明日香とか三沢、それに剣山とか神楽坂辺りは今どうしてるの?」
努めて投げやりな口調になって、煮えたぎってる腹の中を表に出さないようにする。自分のことを許せない。どうしてこう、迷惑をかけるんだろう。僕が1人で外に出なけりゃ、こんなことにはならなかったろう。せめて誰かに声をかけておくなり、この事態を回避する方法はいくらでもあったはずだ。下手に自分の感情を爆発させたらどうなるかわからない一方で、それを冷静に見てる自分も心のどこかにいる。もし今心の中にあるものを全部解き放ったら、ダークシグナーになったことで増幅されたらしい心の闇の力も相まってとんでもないことになるだろう。もう、闇堕ちルート待ったなしの一直線。
でも、それも面白いかもね。そう心の中でそっと続け、それに対してまたぞくりとする。
『安心しなさい。心の闇なら私の、地縛神の専門だ。私がいる限り万一そちらでコントロールし損なっても何とかできる』
………お人よしというかなんというか。本当に優しいなあ、この神様。効果も強いし、これで自爆さえしなけりゃ言うことなしなんだけど。っと、また話がずれた。
「まず、神楽坂君はもう光の結社ッス。剣山君はさっきまでいたんスけど、清明君が目を覚ますちょっと前に十代のアニキも心配だから山まで行ってくるドンって」
「明日香は昨日、ショック療法で万丈目君の目を覚まさせてあげるわって言ってついデュエルを挑んだの、だってさ」
「明日香らしいね。それで、どうなったの?」
もう薄々予想はつくけど、それでもはっきりと聞いておかなきゃいけない。僕が引き起こしたとまでは言わないまでも、僕のせいで被害が圧倒的に大きくなってることは否めないんだ。せめて今できることは、何が起きたかを正面から受け止めることだけだ。
「万丈目君、いつもとは全然違うデッキを使ってたんスよ。それでも明日香さんは強くて、あと一撃で勝てるところまで行ったんスけど、結局最後には負けちゃって………それから急に、まるで何かに憑りつかれたみたいに光の結社の一員になって、今はかなり上位の方で片っ端から勧誘をしてるみたいッスよ」
「そう……それで、三沢は?」
セブンスターズの時に共に戦った七星門の鍵の守護者最後の一人、三沢大地。正直、三沢まで敵に回られたらかなり難易度が上がるからやめてほしいのだが。
「あ、そろそろですよ先輩達!今日はその三沢先輩が、万丈目先輩にデュエルを挑んでるんです!目が覚めたなら見に行きましょう、もうすぐ始まっちゃいます!」
「三沢が!?」
で、保健室からそう遠くないデュエル場。去年もしばらく寝込んでた僕だからわかるけど、デュエルの際の叫び声やら爆発音やらがドアを開けると聞こえてくる程度には近い。一応防音設備は整ってるから保健室を本気で閉め切ればシャットダウンできるんだけど。なんでも、デュエルの生の音を聞かせることによりデュエリストとしての生存本能を高めて免疫系を活性化させ、強引に傷も病気も治してやろうという理由があるらしい。でもまあ、入院で退屈してる時にぱっとデュエルが見に行けるってのはありがたいよね。
閑話休題。僕たちが駆けつけると、確かにそこには真っ白な2Pカラー版万丈目と黄色いいつも通りの三沢が向かい合っていた。
「そこの貴様、誰が2Pカラーだ!俺は斎王様からの訓示を受けた白の貴公子、万丈目ホワイトサンダーだぞ!」
「げ、聞こえてたの!?」
その声を聞き、三沢もこちらを向く。もう大丈夫だ、ということを伝えるため軽く手を振ると、ほっとした様子で片手を上げて返事した。そして万丈目の方を向き、重々しく口を開く。
「万丈目………お前の目は、ここで俺が覚まさせてやる!天上院君の仇は、俺が取る!」
「ふん、1つ教えてやろう、三沢大地。俺は万丈目ホワイトサンダー、つまりは万。そしてお前の名は三沢、つまり三だ。わかったか、俺とお前の間には、戦う前からすでに9997もの差があるのだ!」
「どこかで聞いたような気がするセリフだな、万丈目。言いたいことはそれだけか?」
「無論。言葉なぞはもう必要ない、斎王様の正しさはこのデッキが語ってくれる」
すっかり変わったような、でも本質的にはそんなに変わってないような気がする万丈目と、上着の中からデッキを1つ取り出して素早くセットする三沢。もっと見やすい位置に移動している僕らをよそに、黄色と白の戦いが始まった。
「「デュエル!」」
先攻となったのは、三沢。
「俺が召喚するのはこのカード、豪雨の結界像だ」
カエルのような水色の置物が三沢の場に召喚されると、不思議なことに室内のはずのフィールドに雲が立ち込め、あっという間に雨が降り始める。
豪雨の結界像 守1000
「このモンスターが存在する限り、お互いに水属性以外のモンスターは特殊召喚できない。まずはこのモンスターでお前の目論見を崩してやろう。カードをセットし、ターンエンドだ」
「ちっ、特殊召喚封じか。忌々しい、俺のターン!おっ、いいカードを引いた………いいか三沢、1つ教えてやろう。俺が今引いたカード、これこそが斎王様が今朝俺に渡してくれた運命のカード。宣言してやろう、お前はこのカードの効果の前に敗北することになると!だが今は使わない、このカードともう1枚、別のカードをセットしてライトロード・ドレイド オルクスを召喚する」
大きな石板を小脇に抱える、白い服と髪が特徴の壮年の男性が召喚される。なるほど、ライトロードか。ロクに効果は知らないけど、そういうテーマがあるってことだけは知っている。カードごとのスペックの高さが売りの戦闘集団、だったかな。
ライトロード・ドレイド オルクス 攻1200
「行け、オルクス!その小さなカエルを噛み千切ってやれ」
万丈目の声にコクリと頷いたオルクスが呪文をぶつぶつと唱えるとその姿がいきなり光り輝く一匹の狼になって結界像に突撃し、その牙であっけなく噛み砕いた。
「なるほど、オルクスがいれば自分のライトロードは効果の対象にならないからな。俺の次のカードを警戒したか」
ライトロード・ドレイド オルクス 攻1200→豪雨の結界像 守1000(破壊)
「ふふふ、どうやら最初のバトルは俺の勝ちのようだな。エンドフェイズにオルクス第2の効果が発動し、デッキの上からカードを2枚墓地に送る。これでターンエンドだ」
三沢 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
万丈目(白) LP4000 手札:3
モンスター:ライトロード・ドレイド オルクス(攻)
魔法・罠:2(伏せ)
「俺のターン、ドロー」
万丈目の場にいるのは攻撃力1200のオルクスただ一人。伏せカードもないから一見攻撃し放題に見えるけど、問題はそのオルクスが光属性だということだ。となると、最優先で警戒すべきは手札にあるかもしれないあのカード。これは、うかつに攻撃できない。
………とまあ、そんなことは僕よりも三沢が一番よくわかってるだろう。その上で、何か手を打ってくるはずだ。
「俺が召喚するのは、ハイドロゲドン。このカードならばオルクスよりも攻撃力は上、そのまま攻撃だ!ハイドロ・ブレス!」
水素の名を持つ三沢の水デッキの中核を担うモンスター、ハイドロゲドン。確かに攻撃力はオルクスよりも高い、だけどそんな単調な攻撃じゃあおそらく万丈目には通用しない!
「何?おいおい、ラーイエロー主席のタクティクスはそんなに単調なものなのか?ならば、ダメージステップに……」
「まあ待て。俺はこの攻撃宣言に合わせる形でこのリバースカード、マインドクラッシュを使用する!宣言するのは当然、オネストのカードだ!」
「何!?………くっ、俺は手札に存在するオネストを2枚、墓地に送る………」
なんとまあ、としか言いようがない。準制限カードであり光属性において最も警戒しなければならないカードであるオネスト、それをいきなり2枚とも手札に握っていたとは。そんな運命力を持ち合わせる万丈目もすごいけど、きっちりそれをカウンターして見せた三沢はもっとすごい。やっぱりあの男は敵に回したくないもんだ。
ハイドロゲドン 攻1600→ライトロード・ドレイド オルクス 攻1200(破壊)
万丈目(白) LP4000→3600
「そしてハイドロゲドンが戦闘で相手を破壊した時、デッキから別のハイドロゲドンを呼び出すことができる!」
フィールドに水柱が噴き上がる。おそらく、あそこから2体目のハイドロゲドンが特殊召喚されるのだろう。だが、万丈目もただでやられる男ではなかった。
「甘いな。カウンタートラップ発動、真剣勝負!このカードは相手がバトルフェイズにカード効果を使用した時、その発動を無効にして破壊する。これで貴様のハイドロゲドン連続召喚は無効になったばかりか、最初の1体さえフィールドからいなくなるわけだ」
一瞬三沢が圧倒するかに見えたこのデュエルも、これでまたわからなくなってきた。次のターンに万丈目がモンスターを出せば、十中八九ダイレクトアタックを食らってしまうだろう。
「カードをセットし、ターンエンドだ」
「俺のターン。いいカードを引いた、ライトロード・アサシン ライデンを召喚だ!」
金色に輝く包丁型の短剣を逆手に握る上半身裸の細マッチョが、鋭い眼光で三沢を睨む。
ライトロード・アサシン ライデン 攻1700
「そしてライデンの効果を発動。メインフェイズに1度、デッキの上からカードを2枚墓地に送ってその中にライトロードのモンスターがいれば攻撃力を200ポイントアップする。普通に使えば何が落とせるかはわからない効果だが、今の俺には斎王様のご加護がついているからな、この程度は朝飯前だ!送った2枚のカード、ライトロード・ビースト ウォルフを自身の効果により特殊召喚!」
ライトロード・ビースト ウォルフ 攻2100
ライトロード・ビースト ウォルフ 攻2100
ライトロード・アサシン ライデン 攻1700→1900
「デッキトップ2枚に連続してウォルフだと!?馬鹿な、そんなことが2回も連続して起きるわけがない!」
「そういえば、天上院君に光の結社の素晴らしさを教えたのも激流葬からのこのコンボだったな。さあ三沢、お前もこの3体の同時攻撃を受けてみろ!まずはライデンで攻撃だ」
「させるか!永続トラップ発動、モンスターBOX!相手の攻撃ごとにコイントスを行い、当たった場合その攻撃力はエンドフェイズまで0になる………まずは裏を選択だ」
ピーン、と空に向かって跳ね上げられる1枚のコイン。クルクルと宙を回りながら落ちてきたそれを、三沢が手の甲で受け止める。
その向きは………表!つまりライデンの攻撃力は1900のままだ。
ライトロード・アサシン ライデン 攻1900→三沢(直接攻撃)
三沢 LP4000→2100
「くっ………」
「ふはは、あと2回の攻撃、どちらか一方でもコイントスを外したらジャストキルで俺の勝ちか。このまま斎王様の予言したカードを使わずに勝つのもあるいはまた一興かもしれんな、ウォルフで攻撃!」
「俺が宣言するのは、もう1度表。ゆくぞ、コイントス!」
再び宙を舞い、三沢にキャッチされるコイン。もう後がない状況で三沢が出したのは、表。これにより攻撃力が0になったウォルフの一撃は三沢に傷をつけることすらできず、すごすごと引き返していく。だけど、まだ危機が去ったわけではない。
「最後のウォルフで攻撃!」
「確率的に言って、表が2回連続で出たということは………よし、次は裏を宣言しよう」
三度宙を舞うコイン。そういえば昔、三沢に聞いたことがある。なんでも3回コインを投げて2回表が出た場合、次に表が出る確率は2分の1よりもちょっと少ないんだとか。何回聞いてもさっぱりわからない理論だったから理解しようとするのは諦めたけど、とにかくそういうことらしい。
「そして、裏が出たな。そのウォルフの攻撃力も0だ」
「それで命拾いしたつもりか?いや、残念だがそれは違うな。やはり貴様のライフポイントは、予言通りこの伏せカードによって0になる運命なだけだ。エンドフェイズにライデンの効果によってさらに2枚のカードを墓地に送り、これでターンを終了する」
三沢 LP2100 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:モンスターBOX
万丈目(白) LP3600 手札:1
モンスター:ライトロード・アサシン ライデン(攻)
ライトロード・ビースト ウォルフ(攻)
ライトロード・ビースト ウォルフ(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターン!スタンバイフェイズにモンスターBOXは維持コストとして500のライフを払わねば自壊する。維持コストを払おう………む?」
三沢 LP2100→1600
500のライフコストは、決して無視できる値ではない。ないのだが、永続罠は三沢の水デッキの核。ここでモンスターBOXを失うことはなんとしても避けたかったのだろう。だがなぜか、コストを払った瞬間に三沢が少し訝しげな顔をした。ちょうどこの位置からだと万丈目の背中しか見えないのだけど、なにかおかしなものでも見えたのだろうか。
「さらに魔法カード、ブラック・ホールを発動。これにより、フィールドのモンスターはすべて破壊される。その伏せカードは、俺のライフを削るためのカードなんだろう?なら裏を返せば、そのカードに俺のブラック・ホールを妨害する効果はないはずだ」
「く、忌々しい奴め。その通りだ」
「そのままオキシゲドンを召喚する。だが、攻撃はせずにカードをセットしてターンエンドだ」
オキシゲドン 攻1800
せっかく召喚された酸素の翼竜も、なぜか絶好の攻撃チャンスに攻撃をしないままターンを譲り渡してしまう。何をたくらんでいるんだろう、三沢。ユーノ、こんな時お前がいれば何か意見の1つも聞けただろうに。
「ちっ、余裕を見せたつもりか?いい気になっていられるのも今のうちだ、ドロー!くそっ、俺の運命力もまだ未熟だったか。ライトロード・モンク エイリンを守備表示で召喚。さらに魔法カード、おとり人形を発動。相手の伏せカード1枚を確認し、それが発動条件を満たしているトラップならば強制的に発動させることができる」
「もう少し後に使うつもりだったんだがな。このトラップは、炎虎梁山爆………発動時に俺の場の永続魔法か永続罠の数だけライフを回復する。今俺の場には2枚の永続罠、つまり回復量は1000だ」
三沢 LP1600→2600
「おとり人形は発動後、デッキに戻るカード。エンドフェイズにエイリンの効果を発動、デッキから3枚のカードを墓地に。よし、今落ちたライトロード・アーチャー フェリスを自身の効果で特殊召喚し、ターンエンドだ」
ライトロード・モンク エイリン 守1000
ライトロード・アーチャー フェリス 守2000
三沢 LP2600 手札:0
モンスター:オキシゲドン(攻)
魔法・罠:モンスターBOX
炎虎梁山爆
万丈目(白) LP3600 手札:0
モンスター:ライトロード・モンク エイリン(守)
ライトロード・アーチャー フェリス(守)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターンだな。随分と守りを固めたようだがどうした万丈目、お前の言う運命とやらは?スタンバイフェイズにまた500ライフを払い、モンスターBOXを維持する」
三沢 LP2600→2100
「魔法カード、マジック・プランターを発動。永続罠カード1枚、モンスターBOXを墓地に送ることでカードを2枚ドロー。さらに魔法カード、化石調査を発動。デッキからレベル6以下の恐竜族、ハイドロゲドンを手札に。そしてハイドロゲドンを召喚、そのままエイリンに攻撃!ハイドロ・ブレス!」
ハイドロゲドン 攻1600→ライトロード・モンク エイリン 守1000(破壊)
「そして、ハイドロゲドンの効果によって別のハイドロゲドンがデッキから特殊召喚される。攻撃、と言いたいところだが、フェリスを倒すことはできないな。メイン2に魔法カード発動、ボンディング-H2O!場のH、つまり水素2つとO、酸素1つを化学反応させ、このモンスターを呼びだす!ウォーター・ドラゴンをデッキから特殊召喚!」
「出たな、それがお前の切り札か!」
ウォーター・ドラゴン 攻2800
ついに出た、三沢の切り札の一つ。なるほど、確かにこの攻撃力ならば次のターンの攻撃でフェリスを倒すことができるだろう。これはさすがの万丈目にもきついはずだ、そう思っていると万丈目がいきなり高笑いをしだした。
「1度真剣勝負を食らったうえでなおウォーター・ドラゴンを呼び出してみせるプレイングは褒めてやろう。だがそれがどうした、三沢ぁ!俺のターン、フェリスの効果を発動!このカードをリリースして相手モンスター1体を破壊、さらにデッキトップからカードを3枚墓地に送る!ヴァルキリー・アロー!」
フェリスが猫耳をピンと立てて弓を引き絞り、勢いよく光の矢を放つ。ウォーター・ドラゴンの水の体をあっさりと突き抜けて大穴を開けたその矢が、ドスッとその向こうの壁に突き刺ささった。
「やはりそう来たか!だがウォーター・ドラゴンは破壊された時再び水素と酸素に戻る、つまり墓地のハイドロゲドン2体とオキシゲドン2体を特殊召喚だ」
なるほど、三沢は最初からフェリスのあの効果のことを知っていたんだ。知っていたからこそ破壊されてもリカバリーが効くように、つまりウォーター・ドラゴンは最初から囮として特殊召喚したわけか。あれはまさしく自分で使わないカードの効果から特殊裁定まですべてを丸暗記してる化け物級の秀才、三沢だからこそできる真似だろう。
ハイドロゲドン 守1000
ハイドロゲドン 守1000
オキシゲドン 守800
「ええい、しぶとい!ライトロード・ウォリアー ガロスを召喚、ハイドロゲドンに攻撃だ!」
申し訳程度に刃のついた斧のような杖を振り回すたくましい戦士が、ハイドロゲドンを一撃で打ち砕く。
ライトロード・ウォリアー ガロス 攻1850→ハイドロゲドン 守1000(破壊)
「ふ、まだ俺には2体のモンスターが残ってるぞ?」
そう挑発的に笑う三沢に、いら立ちを抑えきれない様子の万丈目。だが手札のカードを使い切っている以上彼に何かができるわけでもなく、そのままターンを終えた。
三沢 LP2100 手札:0
モンスター:オキシゲドン(守)
ハイドロゲドン(守)
魔法・罠:炎虎梁山爆
万丈目(白) LP3600 手札:0
モンスター:ライトロード・ウォリアー ガロス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターン。カードを1枚セットし、ターンエンドだ」
「ふん、モンスターも引けなかったか。ならばその隙に、邪魔な壁を排除させてもらおうか。ライトロード・パラディン ジェインを召喚し、オキシゲドンに攻撃!この瞬間ジェインの効果により、攻撃力は300ポイントアップする」
「トラップ発動、DNA改造手術!このカードの発動時から、場のモンスターの所属は全て俺の宣言したものになる!俺が宣言するのは、炎族!」
正統派の騎士、といった見た目のジェインが掲げる光の剣が突然燃え盛る炎の件に代わり、若干ぎょっとしながらもそのまま翼を使って防御態勢をとる翼竜に切りかかる。だがその剣先が体に触れた瞬間、オキシゲドンの体は大爆発を起こした。
ライトロード・パラディン ジェイン 攻1800→2100→オキシゲドン 守800(破壊)
三沢 LP2100→1300
万丈目(白) LP3600→2800
「何!?」
「ははは、酸素に火を近づけたら爆発するのは世の中の常識だぞ。オキシゲドンが炎族モンスターとの戦闘で破壊された時、お互いは800ポイントのダメージを受けることになる!」
一瞬焦った様子だったが、三沢のライフも一緒に減っていることを確認してすぐに小馬鹿にするような声音になる万丈目。こういうところはまるで変わってない。
「だが、それでお前のライフまで減らしては本末転倒だな。ガロス、残ったハイドロゲドンに攻撃だ!」
ライトロード・ウォリアー ガロス 攻1850→ハイドロゲドン 守1000(破壊)
「これでお前の壁はもういない、エンドフェイズにジェインの効果を発動。デッキトップから2枚のカードを墓地に送る。そしてガロスの効果発動、もう2枚のカードを墓地に送り、この時墓地に送ったカードの中のライトロードモンスターの枚数ぶんだけカードをドローする。俺が落としたのはダメージ・ダイエットと2枚目のガロス、よってカードを1枚ドロー。ターンエンドだ」
三沢 LP1300 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:炎虎梁山爆
DNA改造手術(炎)
万丈目(白) LP2800 手札:1
モンスター:ライトロード・ウォリアー ガロス(攻)
ライトロード・パラディン ジェイン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「俺のターン、ドロー。カードをセットし、ターンエンドだ」
「ふん、よほどモンスターが引けないようだな。だがまあ、その伏せカードにも用心するに越したことはないか。ライトロード・マジシャン ライラを召喚、効果を発動。このモンスターを守備表示にすることで、相手の伏せカード1枚を破壊する。ライト・ブレイク!」
ライトロード・マジシャン ライラ 攻1700→守200
白い帽子をかぶったいかにもな女魔法使いが杖を三沢の伏せカードに向けると、そこからその伏せカードを撃ちぬこうと光が放たれる。永続罠だったらもうこれでアウトだったろうけど、三沢が引いていたのはうまい具合にフリーチェーンのカードだったらしい。
「トラップ発動、幻蝶の護り!このカードは発動時に相手モンスター1体を表側守備表示に変更する。これで、ガロスは守備表示になるな」
パタパタと無数のカラフルな蝶がフィールドを飛び回り、ライトロードの聖戦士を幻惑する。燃える斧のような杖を振って追い払おうとするものの、その前に目を回して座り込んでしまった。
ライトロード・ウォリアー ガロス 攻1850→守1300
「往生際が悪いな。ジェイン、ダイレクトアタックだ!」
「だがジェインの強化効果は、相手モンスターに攻撃するときのみ。この状況ならば、攻撃力が上がることはない。さらに幻蝶の護りのさらなる効果により、俺がこのターンに受けるダメージは半分になる」
ガロスにまとわりついていた蝶が、一斉にジェインの燃える剣に惹かれたかのように集まってきてパタパタと目の前を飛び回る。迷惑そうな顔をしながら振り下ろした剣は、三沢の体をかすめただけに終わった。
ライトロード・パラディン ジェイン 攻1800→三沢(直接攻撃)
三沢 LP1300→400
「首の皮1枚か、まったくしつこいものだ。とはいえこのデュエルに勝って光の結社の素晴らしさを伝えるのも俺の仕事、文句は言ってられんな。ジェインの効果で2枚、ライラの効果で3枚、ガロスの効果で2かける2の計4枚を落としてさらにその中のライトロード、3枚のカードをドローしてターンを終了してやろう」
三沢 LP400 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:炎虎梁山爆
DNA改造手術(炎)
万丈目(白) LP2800 手札:4
モンスター:ライトロード・ウォリアー ガロス(攻)
ライトロード・パラディン ジェイン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
状況は相変わらず、三沢が圧倒的に不利だ。だけど、僕だってこの1年ずっと三沢がデュエルするのを見てきたんだ。だからわかる。まだ、三沢は諦めてない。自分のデッキのことを知り尽くしている三沢が諦めてないってことは、きっとあのデッキの中にはまだ逆転のカードが眠っているはずだ。
「俺のターン、ドロー………よし、魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のハイドロゲドン2体、オキシゲドン、豪雨の結界像、ウォーター・ドラゴンをデッキに戻すことで、カードを2枚ドロー。カードを2枚セットしてターンエンド。いいか万丈目、俺の永続トラップは、そう簡単に打ち破られるほど甘くはないぞ?」
きっぱりと言い切ってのける三沢。わざわざそんなことを言ったということは、あの伏せカードは2枚とも永続罠なんだろう。
「俺のターン、全モンスターを攻撃表示に変更。その伏せカードで守ったつもりか?残念だったな、ライトロード・スピリット シャイアを召喚。このカードならばたとえ貴様がグラビティ・バインドのようなカードをセットしていても、レベル3ゆえにすり抜けることが可能。そしてシャイアの攻撃力は、俺の墓地のライトロード1種類につき300ポイントアップする」
絶体絶命のピンチかに見えた一瞬。だが、ここでも笑ったのは三沢だったわけで。
「いいや、そうでもないさ。トラップ発動、激流葬!まんまと油断したな、万丈目。俺の知っているお前ならば、こんな見え透いた言葉には引っかからなかったぞ?」
「何!?」
万丈目の攻勢から一転し、再び空になるフィールド。わざと永続トラップ、という三沢のコンセプトである単語を口にすることで伏せカードがそうだと思い込ませ、いつでも警戒すべき激流葬を安全に通す………頭の回転が早い三沢ならではの一手だろう。実際、僕も引っかかった。ねえ、と同意を得ようとして横を見ると女性陣は、
「心理戦の基本だよね、だって。でも即興だろうから甘さが目立つかな、ってさ」
「ですねー。口先八丁は立派な忍者の武器の1つ、私ならもうちょっと捻れましたけど」
とかなんとか話してた。つくづく、女の子って怖いのね。
「まあいいさ。俺にはまだ切り札が残っているからな。墓地のライトロードが4種類以上の時、このカードはノーコストで手札から特殊召喚できる!これぞ俺の真の切り札、裁きの龍!!」
でかい。月並みなようだけど、第一印象はそれだった。純白に輝く龍が、今まさに裁きを下さんと冷たい目で三沢を見下ろす。
「やはり、握っていたか……!」
「当然だ。もしこれが通れば斎王様の予言に反することになるが、その伏せカードを確認する意味も込めて一応使ってみるか。裁きの龍の効果を発動!ライフを1000払うことで、このカード以外のあらゆるものを無に帰す!全てをなぎ倒す聖なる光、ジェネシス・レイ!」
万丈目(白) LP2800→1800
「無論、そんなものは通さんぞ。トラップ発動、デモンズ・チェーン!この闇の鎖に縛られたモンスターは、攻撃も効果の発動もできずに沈黙するのみだ」
白い龍が全身を光らせて文字通り裁きの一撃を放とうとした瞬間、地面から無数の闇の鎖が生えてきてその羽を、口を、足を拘束する。光のエネルギーを吸い取られた裁きの龍がなんとか振りほどこうとするも、その鎖はびくともしない。
「だろうな。まあそう来るとは思っていた。だが、1つ教えてやろう。俺の手札にはまだ2体目のライラがいる、次のターンにはこいつを召喚してそんな鎖など破壊してやる。ターンエンドだ」
三沢 LP400 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:炎虎梁山爆
DNA改造手術(炎)
デモンズ・チェーン(裁き)
万丈目(白) LP2800 手札:3
モンスター:裁きの龍(攻・デモチェ)
魔法・罠:1(伏せ)
ふう、とひそかに息を吐く三沢。前言撤回。さっき見た時はまだ諦めてないように見えたし実際諦めてはいないものの、これ、かなり追いつめられてる。勝利のビジョンが思い浮かんでない状態だ。ポーカーフェイスは割と得意な三沢だけど、注意して見てると完全に追い込まれてる時とカードがうまく引ければ十分逆転もあり得るときの差は案外わかりやすかったりする。たかだか20年も生きてない人間の表情などお見通しだってチャクチャルさんが言ってた。
「三沢………」
せめて何か声をかけようとした瞬間、頭の中に声が響いた。
『…………力が、欲しいか?この勝負、勝ちたいか?』
「あれチャクチャルさん何やってんの?」
『いや、今のは私じゃないぞ』
あんまりにもチャクチャルさん初登場シーンとかぶったセリフだったためなにかこの神様がよからぬことでも考えてるのかと思ったけど、どうやらそういうわけではないらしい。
『だいたい力が欲しいか、から入るのは我々のような役どころのお約束だろう。様式美というものだ』
え、あれってそんなしょうもない理由だったの?といいたいのをぐっと我慢する。まあ確かに、あれくらい強引な勧誘の方が手っ取り早いこともよくあるよね。じゃあそれにしても、この声はいったい誰が………?
『どうなんだ?力が欲しいというのなら、我はその声に応えよう』
どうやらこの声は僕とチャクチャルさん、それと三沢にしか聞こえてないらしい。不思議そうにあたりを見回す三沢を、何をやってるんだといわんばかりの目で万丈目が見ている。とすると、この声は三沢あてに喋っているんだろう。
『代価などはいらぬ。ただ、我を一声呼べばよい。選ぶも選ばぬもお前の自由』
「お、お前は……お前は一体」
『くだらぬ話だ。心の内ではもう気が付いているのだろう?自分の思いに、守りたいものに素直になればよいだけだ』
「俺の………」
なんだろう。そういえばこの重々しい声、どこかで聞いたことがあるような気もする。
「ねえチャクチャルさん、これって止めたほうがいいのかな」
『…………いや、心配はいらないだろう。おそらくだが、あの申し出に敵意や裏はない。単純に腹に据えかねたのだろうよ、自分を倒した男があっさりと負けかかっているという事実が』
その言いっぷりからして、どうやらチャクチャルさんは声の正体に気づいているらしい。あとすこし、あとすこしで僕も思い出せそうなんだけど。
『さあ、決断しろ。力が欲しいか?』
まだ少し迷った様子の三沢だったが上の客席にいる僕をちらりと見て、目の前で苛立っている万丈目を見て、何か決心したように頷いた。
「………よし、わかった。俺の親友達を助けるため、俺の親友達を守るためだ。お前の力、貸してもらうぞ」
『それでいい。カードをドローし、我の力を存分に使うがよい』
「ああ。万丈目、いくぞ!俺のターン、ドローッ!!」
気合とともに引いたカード。その瞬間、空から天井を通り抜けて真っ赤に輝く炎がそのカードめがけて落ちてきた。あまりの迫力に怯んだ僕らをよそに、そのカードに炎がすべて吸い込まれていく。
「な、なんだ。一体何が起きているんだ!」
「さあな。実は俺にもよくわからん。だが万丈目、このデュエルは俺がもらうぞ。俺は自分フィールド上に存在する3枚のカード、炎虎梁山爆、DNA改造手術、デモンズ・チェーンを墓地に送り!手札からこのカードを特殊召喚する!」
永続トラップ3枚の墓地送り。思い出した、あの声はまさに去年の終わりに聞いたあのモンスターの。
「降臨せよ、神炎皇ウリア!」
去年あれだけ苦労して封印した3幻魔の1体にして、永続罠を軸として戦う他に類のない効果を持ったモンスター、神炎皇ウリア。まさか、あの赤い体をもう一度見ることになるとは。
「3幻魔だと!?」
「ウリアの攻撃力は、墓地に存在する永続罠1枚につき1000ポイント。俺の墓地にはすでに今送った3枚に加えモンスターBOXのカードが存在する、よってその攻撃力は裁きの龍を上回る4000だ!」
神炎皇ウリア 攻0→4000
だが、万丈目のふてぶてしい顔は変わらない。あの伏せカードにはよっぽどの自信があったりするのだろう。でも、今の万丈目は忘れてるのかもしれないけれど。神炎皇ウリアは伊達に3幻魔やってない、そんな伏せカード1枚に揺らいだりはしないのだ。
神炎皇ウリア第2の効果は、トラップディストラクション………相手フィールドの伏せカード1枚を、チェーンすることを許さず1ターンに1度ノーコストで破壊する恐ろしい能力。三沢も言ってたけどおそらくあのカードはバーンカード、それも今まで使ってこなかったことを見ると魔法の筒のように発動条件があるカードなのだろう。だとすれば、まさか三沢が勝負を焦って効果の使い忘れなんて初歩的なミスをするはずもないし、せっかくの予言とやらもトラップディストラクションの敵ではない。この勝負、どうにか三沢が勝ってくれそうだ。
だが、なぜか何かをウリアと相談する三沢。何やってんのさ、このまま効果を使って安全に攻撃するだけなのに。さすがに個人的な会話までは聞き取れないので何を喋っているかはわからないけど、なぜか少しだけ嫌な予感がした。
「待たせたな、万丈目。神炎皇ウリアで裁きの龍を攻撃、ハイパーブレイズ!」
そしてなぜか、最後まで効果を使わずに攻撃宣言をする三沢。ウリアの2つあるうち下の方の口が開き、そこから炎を吐きだす。
「ふ、馬鹿め。勝負を焦ったか、トラップ発動!やはり斎王様のお言葉は正しかったようだな、魔法の筒!相手の攻撃を無効にし、攻撃モンスターの攻撃力ぶんのダメージ、つまり4000のダメージを与える!」
神の炎を吸収し、そっくりそのまま跳ね返す茶筒程度の大きさの筒。自分めがけて襲い掛かるその炎に、三沢はふっと微笑んで静かに目を閉じて。
三沢 LP400→0
「三沢ー!?」
そのまま、なにもせずに吹き飛んで行った。
「う、うう………」
倒れた三沢に僕らが駆け寄る前に、万丈目がすっと手を差しのべる。その手を、三沢が掴んで起き上った。
「ありがとう、万丈目。おかげで俺も目が覚めたよ」
「ふ、ようやく理解してくれたか、三沢。さあ、これがお前のホワイト学生服だ」
「おお、美しい色だな」
そんなことを言いながら、今の今まで着ていた黄色の上着を脱いで6つのデッキケースがくっついたあの服をむき出しにした後、いそいそと白い学生服を羽織る三沢。嘘………でしょ?
「どうだろう、ちゃんと似合っているだろうか」
「ああ、安心しろ。それじゃあ、斎王様に報告に行くからついてきてくれ」
「わかった。あ、そこの君。すまないが、その黄色い服はもういらないんだ。適当に捨てておいてくれないか?」
僕に向かって最後にそう言い、万丈目について歩いていく三沢。何と言っていいのかわからないうちに、僕らをよそに2人はデュエル場の外に出て行った。
後書き
一期オープニングの三沢が出してた炎の龍さん。もうあれ、ウリアでいいんじゃないかな。という雑な考え。
一応、最初期からこの案はありました。やたらと永続罠押しの【ウォーター・ドラゴン】だったのも、ウリアと直接戦わせたのも、全部ここに繋げるための複線です。
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