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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン4 変幻忍者と太古の鼓動

 突然だけど。混乱しているときに落ち着く方法としては、今自分に起きていることを3行でまとめてみる、という方法がある。ちなみに本当か嘘かは知らない。何せ、小学生の時に近所の兄ちゃんから教えられた程度の知識だからだ。なんでこんなことを今思い出したのかはよくわからないけど、少なくともやってみる分には悪くないだろう。えーっと、

①何かと怪しい新入生、エドに絡まれる。
②てえへんだ旦那、夕飯の支度ができてない。
③全速力で帰ったら十代たちレッド寮メンバーの他に誰かいた。

 なるほど、さっぱりわからん。改めて、玄関の前に立ってこちらに手を振ってくる筋骨隆々の男をまじまじと見る。別に野郎なんて見ても面白いものは何もないことは百も承知だけれど、ノースリーブ状に加工された、元はラーイエローの制服だったとおぼしき服装やや頭に巻いた恐竜の頭のようなバンダナが目を引いたのだ。
 するといつまでも距離をとったまま動こうとしない僕を不審に思ったのか、もう1度声をかけてきた。

「何してるドン?もう外は暗いんだから、そんなところで立ってないで中に入るザウルス」
「う、うん。みんなごめん、ただいまー」

 僕がドアをくぐると、その黄色い男も後から入ってきてドアを閉める。とりあえず説明がほしいなあと、こういう事態には一番話の通じそうな万丈目をこっそり手招きして呼び寄せる。

「(ねえ万丈目。あの人だれ?)」
「まずお前は飯を作れ。話は全部それからだ」

 空腹のあまり話す気力もない、と言いたげにそっぽを向く万丈目。うう、やっぱり僕のせいなんだろうか。でも、別に誰かがかわりに作ってくれてもよかったのよ?と思う今日この頃。もっとも、それだけ僕の料理が評価されてると思えばまあ悪い気分じゃないけども。
 夕飯は手早くできるもの………よし、チャーハンでいいか。





「できたよー、チャーハン7人前ぐらい」
「相変わらずお前の作り方はアバウトだな」

 そうは言うけどね万丈目さん、食べ盛りの男子高校生が相手なんだから足りない、なんてことはあっても作りすぎ、なんてことはあり得ないんだよ?これ口に出したらまた言い合いになるから言うのはぐっと我慢するけど。

「おお、待ってたぜ!」
「遅いッスよ、清明君~」
「ふん、当然この俺を待たせただけの物にはなってるんだろうな」
『とか何とか言っちゃって~、あのね清明のダンナ、さっきまで万丈目のアニキったらダンナが帰ってこないからってすごく心配してたんだよ~』
「んなっ………でたらめ言うんじゃない、この雑魚め!」
『キャー、ハネクリボーのダンナ、アニキがいじめる~』
『ク、クリ!?』

 いつも通りの、(精霊が見える人にとっては)にぎやかな食卓。翔にもなんとかして精霊を見せてやりたいものだとは思うけど、去年1年考えてもなかなかいい方法が思いつかない。
 ただ、今日は決定的に違う点が1つあった。今も精霊たちがじゃれあってる机の片隅にドン!とチャーハンのおかわり分を入れたフライパンが置かれ、潰されかかったおジャマ・イエローたちが慌てて避ける。

「いやあ十代のアニキから話は聞いてたけど、本当に先輩の料理はうまいドン!これならいくらでもおかわりいけるドン!」

 なんとなく浮かんだもう一杯食べれるドン、という言霊を全力で無視しながら、あのままのペースで食べられると僕らのおかわりする分がなくなることに気が付いて慌てて自分の取り分を口に放り込んでいく。
 そして結局追加を作る羽目になり、それもきれいに平らげたところで長かった夕食も終わりを告げる。さあ、ここからはお待ちかね質問タイムだ。

「で、改めて聞くけど。君は誰?」
「俺の名前はティラノ剣山。よろしくだドン、遊野先輩」
「ユーノ?………ああ。別に下の名前、清明(あきら)でいいよ。それと、その先輩ってのも1人の後輩とかぶるからやめて」
「そ、そうかドン。わかったドン、清明さん」
「ん。だいぶマシになったよ。こちらこそよろしく、剣山君」

 遊野先輩、なんて呼ばれるのは初めてだ。ちょっとくすぐったいと同時に、ユーノがいるせいで非常にわかりづらい。
 だけど、向こうも向こうで君付けには慣れてないようで呼び捨てで構わないドン、ときっぱり言ってきた。ならいいんだけど。

「それで剣山、おぬしはどーしてラーイエローじゃなくてここにいるのかね?」
「ああ、もちろん寝る時間には寮に戻るザウルス。でも、俺は天狗になっていた俺の目を覚ましてくれた十代のアニキについていくことに決めたんだドン!」

 すっごくキラキラした目できっぱりと言い切る剣山。何がなんだかよくわからないけど、その迫力に負けて何も言えなくなる。あれ、でも十代の弟分って翔もだったような。するとまるでその思いが伝わったかのように、ムスッとした口調の翔が会話に乱入してきた。

「だから、アニキの第一の弟分はこの僕、丸藤翔なんだってば!そこは勘違いしてほしくないッス」
「まだ言ってるのかドン、丸藤先輩。この俺が十代のアニキの弟分になったんだドン!」

 やいのやいのと騒ぐ2人に、それをなだめにかかる十代。どうしていいのかわからず様子を見ていると、万丈目がすっと僕の横に来た。

「あの剣山とかいうふざけた恐竜野郎についてどう思う、清明」
「いや、どうって言われてもなんて答えりゃいいのさ。まあでも、悪い人じゃないんじゃない?」
「ふむ………俺の考えすぎなのかも、な。お前、エド・フェニックスっていうプロデュエリストを知っているか?」

 エド、というとついさっきまで僕とデュエルしてた新入生を思い出す。だけど、いくらなんでもあんな若いのにプロデュエリストなんてことはない、ただの偶然の一致だろう。そもそも僕でも勝てたし。
 しかしそうすると、エドなんて名前に聞き覚えはないわけで。

「いや、ちょっと。それで?そのプロがどうかしたの?」
「今日十代にデュエルを挑んで、直前に買ったパック8つを組み合わせただけのいい加減なデッキであの十代を苦戦させたんだ。なんでも、この学校に新入生として入ったらしい」

 …………ん?いやいや、まさかね。まさかあのエド、確かに胡散臭かったけどアレがプロなんてことはないだろう。

「ちなみに写真がこれだ」
「!?」

 万丈目が取りだした1冊の雑誌。その翔愛読のデュエルモンスターズ情報誌には、まぎれもなくあのエドの顔写真がプリントされていた。
 写真を見つめたままフリーズして動かなくなった僕を見て何かを察したのか、真剣な面持ちで顔を近づけてくる万丈目。

「まさか、お前の所にも奴が来たのか!?」
「う、うん………なんとか勝ったけどね、明らかに手は抜かれてたよ。天空の聖域軸の天使デッキだった」
「間違いない。それがさっきも言った、パック8個の寄せ集めデッキだ」

 うわあ、としか言いようがない。あれ結構強いデッキだと思ったけど、まさかそんな寄せ集めにあれだけ苦労させられたのか。ひきつった顔を見てどれほど苦戦したのか大体の見当がついたらしく、憐みの視線を向けてくる万丈目。

「………お前の場合はあいつのプレイングがどうこうというより、デッキ枚数60枚限界までぶち込んでるのが原因だと思うぞ」
「さ、最近頑張って1枚抜いたから今は59枚だもん」

 そこは全然違う。気分的にも、そして数学的にも素数かそうでないかという明らかな違いがある。

「それは同じだバカ」
「ぶーぶー。最近ユーノに似てきてない?口の悪さとか性格の悪さとかねじれた根性とか目つきの悪さとかその他もろもろエトセトラ」
「お、お前なあ………はあ、もういい。聞いた俺が馬鹿だったのかもしれん。それに、俺たちにはまだ理解できんプロの中での常識なのかもしれんしな」

 ため息とともに会話を切り上げ、つかみ合いのけんか一歩前にまで発展していた剣山と翔の罵り合いを止めに行く万丈目。と、そうだ。ユーノの話をして思い出したけど、1つ聞いておきたいことがあったんだ。

「そういやさ万丈目、どっかでユーノ見てない?なんか今朝からずっといないんだけど」
「ふむ、そういえば見てないな。まあ、この名探偵万丈目サンダーの力を貸してほしいというのなら別に考えてやらなくもな……」
「そっかー。おっかしいなあ、どーこ行っちゃったんだろ」
「人の話を聞け!」

 多少気にかかることこそあったものの、その日はこうして全体的には平和なまま過ぎていった。結局剣山がイエロー寮に帰ってもユーノは戻ってこず、明日の朝になればひょこっと出てくるさ、と自分に言い聞かせてベッドにもぐりこむ。





「うーむ」

 結論から言うと、その日の昼になってもユーノの姿は見かけなかった。ただ、授業が終わってふらりと調理室に入り込むと、そこでは現在進行形で他の問題が起きていたわけで。

「だ、か、ら!こっちだって予約でパンッパンなんですから後から来て急にそんな無茶言わないでください!」
「そこをなんとか、この通りだドン!こうやって男ティラノ剣山が恥を忍んで頭を下げてるんだから、なんとか融通を聞かせてほしいザウルス!」
「無理なものは無理です!そもそも、そういう話は私じゃなくて今日も追試中であろう先輩に聞いてくださいよ」

 やいのやいのと顔を真っ赤にして叫ぶ葵ちゃんと剣山。個人的にはそーっと抜け出して見なかったことにしたいんだけど、さすがにそういうわけにもいくまい。一応僕の店だし。でも、入ったら何かめんどくさいことになりそうな気もするしなあ。

「なら、その先輩が来るまでここで待たせてもらうドン」
「いや、そういう話じゃなくてですね。そもそも、先輩の頭だとパスするのにあと2、3時間はかかりますよ?」

 よし、入ろう。ちょっとだけイラッときた。正論なのが特に。

「オーケー葵ちゃん、普段から僕のことをどんな目で見てるのかはよーくわかった」
「せ、先輩!………追試、ボイコットはいけませんよ?」
「いや受かったからね!?僕だってたまには合格点ぐらいとるよ!?」

 なんかこの後輩の中では、僕はとんでもないバカキャラとして定着してたらしい。否定はしない。否定はしないけど、さすがにあんまりな扱いだと思う。嫌味の1つや2つぐらい言おうとして口を開いたところで、さっきまで黙って見ていた剣山が割り込んできた。

「おお、清明さん!ちょうどよかったドン、頼みがあるザウルス!」

 その後の剣山の話をまとめるとこうなる。なんでも朝から十代の所へ向かったらそれより先に翔と鉢合わせてしまい、昨日の口喧嘩の続きをしていたらそこでこんなセリフを言われたらしい。

『じゃあ、そこまで言うんなら1つ条件があるッス。清明君がやってる洋菓子店、実はアニキはあそこの………えっと、チーズケーキが大好物なんスよ。そこまで言うんなら、それを見事アニキのところまで持っていくッス』

 で、それを聞いて喜び勇んで駆け付けてきたらしい。しょ、翔………。

「えーっと、剣山?盛り上がってるところ悪いんだけど」
「だから頼むドン、先輩!金ならちゃんと払うから、一切れでいいんで売ってくださいドン!」

 この通り、と必死になって拝み倒してくる剣山。何と言っていいのか返事に困っていると、すっと葵ちゃんがそばに来てひそひそ話しかけてきた。

「(先輩?そもそもココ、チーズケーキなんてメニューにありましたっけ?)」
「(それがあるんだよね………なんか知らないけど焼き菓子系に人気が持ってかれてほぼ注文無いから最近作ってないけど)」
「(確信犯じゃないですかそれ!)」

 翔としても、自分の居場所が後輩に取られそうで必死だったんだろう。それはいい。問題は、それを無関係の僕に押し付けてきたことだ。しかも翔の性格から考えて、間違いなく本人に悪気がないのが余計にたちが悪い。
 うまいことこの場を収める方法としては、どうすればいいだろうか。本当のことを言ったとしても、見た感じ素直に信じてくれそうにない。それでYOU KNOWの評判が下がるだけならまだしも―――――いや、それも十分よくない話だけど―――――怒りの矛先が翔の方に向いたとしたら、今度こそリアルファイトに発展しかねない。そうなった場合、体格の差から言って翔がえらいことになるのは避けられないだろう。そこでふとあることを思いついてちらり、と部屋の隅に置いた業務用冷蔵庫を見る。実はあの中には、もうすでに1個だけチーズケーキが冷やしてあるのだ。まだ改良途中の試作品だから美味しいかどうかもわからない代物だけど、チーズケーキには変わりない。ただ、作りかけなんだよねあれ。………今から大急ぎで作ったとしてだいたい15分くらい。よし、やってみるか。

「ということで葵ちゃん、1つ頼みがあるんだけど」
「了解です。じゃあ剣山さん、こうなったらデュエルで決めましょう。私が勝ったらあなたには帰ってもらいますが、あなたが勝てばチーズケーキは渡します。それでいいですか?」

 できる後輩って素敵。僕のやってほしかったこと、そっくりそのまま悟ってくれた。

「デュエルで?もちろんだドン!ただし1つ言わせてもらうと、俺は強いザウルス。後になって文句は言いっこなしだドン」
「そのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ。………じゃあ頼みますよ、先輩」

 僕に向かってウインクし、デュエルディスクを構える葵ちゃん。観戦していたいところだけど、ここは我慢我慢。時間稼ぎは全部彼女に任せよう。

「「デュエル!」」

「先行は私ですね。モンスターをセット、さらにカードを2枚伏せます。そしてターンエンドです」
「悪いけど、ここは最初から全力で押し通すドン!手札から俊足のギラザウルスの効果を発動、このカードを特殊召喚するドン!」

 ダダダダダッと、たくましい足を持った小型の肉食恐竜が見た目通りの俊足で駆けてくる。

 俊足のギラザウルス 攻1400

「ギラザウルス、ですか」
「そう、このカードは手札から特殊召喚できるドン。本当はこの時に相手は相手の墓地からモンスターを特殊召喚するデメリットがあるけれど、1ターン目ならそれも関係ないザウルス。さらにギラザウルスをリリースして、暗黒(ダーク)ドリケラトプスをアドバンス召喚するドン!」

 暗黒ドリケラトプス 攻2400

 バサリと羽を広げ、恐竜と鳥の中間地点にいるような進化の途上、といった見た目のモンスター。裏守備になった葵ちゃんのモンスターを肉食獣特有の鋭い目でギラリとにらんだ。
 って、ダメじゃんこっち見てちゃ。集中集中。

「さらに手札のキラーザウルスの効果を使うザウルス。このカードを墓地に送りデッキのジュラシックワールドをサーチ、そしてそのままフィールド魔法、ジュラシックワールドを発ドン。この効果を受けて、恐竜さんの攻守はともに300ポイントアップするザウルス」
「む、それは通せないですね。リバースカード、砂塵の大竜巻を発動。この効果でまずジュラシックワールドを破壊、さらに第2の効果を使って手札のこのカードをセットします」
「お、俺の恐竜さんの楽園が!」

 一瞬あたりにジュラ紀だとか白亜紀だとかを連想させる巨大植物が生えてきたかと思ったけど、別にそんなことはなかったね!一瞬呆然とした剣山だったけど、すぐに気を取り直して攻撃を仕掛ける。

「だったらバトルだドン!ドリケラトプスで伏せモンスターに攻撃、怪鳥(けちょう)!」

 暗黒ドリケラトプス 攻2400→??? 守1200(破壊)
 葵 LP4000→2800

「ドリケラトプスは貫通能力を持つモンスター、先制ダメージはもらったドン!」
「甘いですね、忍者はただではやられません。今リバースしたモンスター、カラクリ忍者 参参九(さざんく)の効果を発動です。相手モンスター1体を墓地に送りますよ」
「俺のフィールドにモンスターはドリケラトプスだけ………やられたザウルス」

 機械の忍者をその巨体で押しつぶし、剣山のモンスターゾーンに帰っていったドリケラトプス。だがその足が地面についた瞬間、参参九がひっそりと仕掛けておいた無数の火薬玉が爆発した。何発もの至近距離での直撃にはさすがに耐えきれず、巨体が炎の中に崩れ落ちていく。
 っと、また見てた。いかんいかん。

「だけど俺だってそう簡単にフィールドをがら空きのまま終わらせはしないドン、魔法カードの一時休戦を発動。お互いにカードをドローして、これでターンエンドザウルス」

 一時休戦を使ったか。これで、葵ちゃんのターンが終わるまで双方ダメージは受けなくなったわけだ。派手な見た目からは予想もできないほど隙のない動きに、さすがの葵ちゃんもやや表情を硬くする。

 葵 LP2800 手札:2
モンスター:なし
魔法・罠:2(伏せ)

 剣山 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:なし

「私のターンです。ダメージが通せないのは痛いですが、まあよしとしましょう。忍者マスターHANZO(ハンゾー)を召喚し、効果発動。デッキから忍法と名のつくカード1枚、機甲忍法ラスト・ミストを手札に加えます。カードを伏せて、ターンエンドです」
「俺のターンだドン!ラスト・ミストは確か特殊召喚したモンスターの攻撃力を半分にするカード………なら、通常召喚で攻め込むザウルス!セイバーザウルスを通常召喚して、そのまま攻撃!」

 セイバーザウルス 攻1900

 尻尾が剣のようにするどい、怒りで体を赤くしたトリケラトプスが突進攻撃でHANZOへと突っ込んでゆく。しかし忍者マスターはそれを避けようともせずに、背中に背負った大きな鎖鎌をその足元に投げつけて転ばせる。

「これぞ忍具、鎖鎌………攻撃モンスターを守備表示に変更し、さらに攻撃力アップのカードとしてHANZOに装備します」
「鎖付きブーメラン、そのカードはラスト・ミストじゃなかったのかドン」
「はい」

 なるほど。ちなみに葵ちゃんが発動したのはさっきのターンに伏せたカード。ラスト・ミストを警戒して通常召喚したモンスターが攻撃するところまで読んでいたってわけか。
 ………あーもう!あっちのことはひとまず無視!でないとこっちが進まない!

 忍者マスターHANZO 攻1800→2300

 しかし、これだけは気になる。鎖付きブーメランはその効果発動時、必ず2つの効果を1度に使わなければいけないわけではない。つまり、わざわざセイバーザウルスを守備表示にしなくても攻撃力アップの効果だけで返り討ちにできたのだ。でもそれをしなかった。考えられるものとしては相手モンスターと自分の忍者を素材として上級モンスターを呼び出す超変化の術だけど、だとしたらわざわざブーメランをここで使う必要がない。いったい、何を狙ってるんだか。

「俺もカードをセット。ターンエンドだドン」

 葵 LP2800 手札:2
モンスター:忍者マスターHANZO(攻・鎖)
魔法・罠:鎖付きブーメラン(HANZO)
     1(伏せ)

 剣山 LP4000 手札:1
モンスター:セイバーザウルス(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「私のターン!カラクリ忍者 九壱九(クイック)を召喚します!」

 ドリケラトプスと相打ちになって倒れていった参参九の次に現れる第二のカラクリ忍者、九壱九。両腕に持ったクナイが、電灯の光を反射してギラリと鈍い光を放つ。

 カラクリ忍者 九壱九 攻1700

「バトルです、九壱九でセイバーザウルスに攻撃!」
「ぐっ、それは通すドン」

 カラクリ忍者 九壱九 攻1700→セイバーザウルス 守400(破壊)

「この瞬間、九壱九の効果が発動です。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊したので墓地のカラクリモンスター、参参九を特殊召喚!お出でませ、仕掛忍法カラクリターン!」

 カラクリ忍者 参参九 攻1200

「無論、私のバトルフェイズは終わってません。参参九、やってしまってください!」
「その攻撃は通せないザウルス!トラップ発ドン、化石発掘!このカードは手札1枚をコストに、墓地から恐竜さんを効果を無効にして特殊召喚するドン!マンモスの墓場を捨てて、ドリケラトプスを復活させるドン!」
「一方こちらはカラクリモンスターの共通効果によって必ず相手に攻撃しなくてはいけないですね。………なかなかやるようですが、私の忍者はさらに先をゆきますよ?トラップ発動、機甲忍法ラスト・ミスト!自分の場に忍者がいる状態で相手が特殊召喚した時、そのモンスターの攻撃力は半分になります!」
「なっ、それは最初のターンから伏せてあったカード!ラスト・ミストはずっと、あの時サーチするより前に伏せてあったのかドン!」
「ええ。特に使いどころもなかったですしね」

 偶然にも、1ターン目の再現のような形になった参参九とドリケラトプスのバトル。さっきと違うところは、参参九のほうが手にした忍者刀を振りかぶって攻撃を仕掛けていることもある。だがそれ以上の違いとして今復活したドリケラトプスの体は九壱九とHANZOの忍術により半分ほど氷漬けにされており、自慢の翼も半分しかうまく開かなくなっていた。不意打ちにこそ長けているものの正面から戦いを挑む場合の戦闘力はあまり高くない参参九でも、今の体がでかいだけの的になったドリケラトプスならばなんとか互角の戦いに持ち込める。2体のモンスターが、盛大な爆発を起こした。

 カラクリ忍者 参参九 攻1200(破壊)→暗黒ドリケラトプス 攻2400→1200(破壊)

「覚悟はできてますね?HANZOのダイレクトアタック!」

 HANZOが巧みに鎖鎌を振るい、その先端が剣山の体を直撃する。

 忍者マスターHANZO 攻2300→剣山(直接攻撃)
 剣山 LP4000→1700

 場の状況、手札の数、残りライフ………どれも剣山が圧倒的に不利だ。しかも場にラスト・ミストが出ていることにより墓地アドバンテージも使いづらい状況になっている。ここで剣山が引くカード次第では、このターンでけりがついてしまうこともあるだろう。だけど、剣山は荒々しく笑いながらカードを引く。デュエルを楽しむその姿は、自らを弟分と主張するだけあって十代とよく似ていた。

「俺のターン!俺は今引いたモンスター、暗黒(ブラック)ブラキを召喚して効果を使うドン。このモンスターは召喚成功時に場のモンスター1体を表側守備表示に変更させるザウルス。忍者マスターを守備表示にして、そのまま攻撃!」

 黒い体のブラキオサウルスがその長い首を伸ばし、そのままHANZOの体を押す。余りといえばあまりに単調な攻撃は逆に避けづらかったのか、バランスを崩して倒れるHANZO。その体を、のしのしと歩くブラキの大きな足が踏みつぶした。

 暗黒ブラキ 攻1800→忍者マスターHANZO 攻2300→守1000(破壊)

「これで勝負はまだわからないドン。ターンエンド」

 葵 LP2800 手札:2
モンスター:カラクリ忍者 九壱九(攻)
魔法・罠:機甲忍法ラスト・ミスト
     
 剣山 LP1700 手札:0
モンスター:暗黒ブラキ(攻)
魔法・罠:なし

「確かに、わからなくなりましたね。だけど、それはこっちも同じことです。ドローカード1枚で、逆転の目はいくらでも作れる!機甲忍法ゴールド・コンバージョンを発動、場の忍法カードであるラスト・ミストを破壊して2枚ドローします。カードを2枚伏せ、九壱九を守備表示に。ターンエンドです」

 カラクリ忍者 九壱九 攻1700→守1500

「なんだ、大きなことを言った割には伏せカード2枚で終わりかドン?」

 若干呆れ気味の剣山の声。葵ちゃんは薄く笑うのみで、それにひとことも答えない。
 その静かな気迫に一瞬剣山もたじろぐが、すぐに気を持ち直す。

「まあ、どんな罠が張ってあるとしてもこのティラノ剣山、真っ向から受けて立つドン!暗黒ブラキで九壱九に攻撃!」

 再びどしどしと歩き、カラクリ仕掛けの忍者を踏みつぶそうと迫るブラキオサウルス。だが、今まさに踏みつぶされる、というところで九壱九の体がピカリと光った。そして、さっきまで九壱九のいた位置にはごろんと転がる丸太が1本。

「トラップ発動、忍法 空蝉の術!このカードが存在する限り、私の九壱九は戦闘破壊されません。さらに九壱九は攻撃対象になったとき、表示形式を変更しますよ」

 暗黒ブラキ 攻1800→カラクリ忍者 九壱九 守1500→攻1700
 葵 LP2800→2700

「な、なんだ、驚いたドン。なら、メイン2で恐竜族モンスターのブラキをリリース。最上級モンスター、超古代恐獣(エンシェント・ダイノ)を召喚ザウルス!」

 ブラキオサウルスの姿が消え、背中から一組の翼を生やした角を持つ本当に恐竜なのかと疑いたくなるような恐竜が、口からビームを吐いて葵ちゃんを威嚇する。
 ねえこれ、本当に恐竜なんだろうか。恐竜型メカとかドラゴンとかそんな感じにしか見えないんだけども。

 超古代恐獣 攻2700

「こいつは最上級モンスターだけど、恐竜族モンスターを使う場合リリース1体で召喚が可能だドン。これでターンエンドザウルス」
「いいえ。エンドフェイズにトラップ発動、忍法 分身の術!場にいる忍者をリリースすることで、レベル合計がその忍者以下になるよう選択してデッキの忍者を特殊召喚します。九壱九のレベルは4、よってレベル1の青い忍者、同じくレベル1の赤い忍者を攻撃表示で特殊召喚!」

 赤い忍者 攻300
 青い忍者 攻300

 葵 LP2700 手札:2
モンスター:赤い忍者(攻・分身)
      青い忍者(攻・分身)
魔法・罠:忍法 空蝉の術(無)
     忍法 分身の術(赤・青)
     
 剣山 LP1700 手札:0
モンスター:超古代恐獣(攻)
魔法・罠:なし

「私のターンです。ふふ、覚悟はいいですね?2体のモンスターをリリースし、来なさい、葵流忍術最強のしもべ!銀河眼の光子竜をアドバンス召喚します!」

 銀河眼の光子竜 攻3000

 ついに現れた葵ちゃんのエース、白いドラゴン。羽の生えた恐竜などおそるるに足らずといわんばかりに光を全身から放つその姿は、僕がデュエルした時と同じように圧倒的な迫力を持っていた。

「バトル!銀河忍法は使わず、そのまま超古代恐獣を戦闘破壊します!破滅のフォトン・ストリーム!」

 銀河眼の光子竜 攻3000→超古代恐獣 攻2700(破壊)
 剣山 LP1700→1400

 最上級モンスターのバトルは、わずかの差で銀河眼が勝利を収めた。少しだが確実に、剣山のライフも削られていく。

「なかなかやるドン。でも、このドローによっては……!カードをセットして、ターンエンドだドン」

 ドローカードを見た剣山の目の黒目部分が一瞬スッと細まり、まるで人間じゃなくて爬虫類か何かのように見えたのは、僕の気のせいだったろうか。ともかく剣山は何かカードを伏せ、ターンを終えた。

 葵 LP2700 手札:2
モンスター:銀河眼の光子竜(攻)
魔法・罠:忍法 空蝉の術(無)
     忍法 分身の術(無)
     
 剣山 LP1400 手札:0
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)

「私のターン。おや、ここで引きましたか……魔法カード発動、成金ゴブリンです。相手に1000のライフを与える代わりにカードを1枚ドローします、これぞ名付けて成金忍法マネーイズライフ」

 剣山 LP1400→2400

「今はこれじゃなくてモンスターが欲しかったですね。まあ引けなかったものは仕方ありません、手札の装備魔法、愚鈍な斧を銀河眼に装備します。効果は無効になりますが、攻撃力が1000あっぷしますよ。そして攻撃です、破滅のフォトン・アックスストリーム!」

 いかにも重そうな大斧を両手持ちする銀河眼が、力任せにその斧を叩き付ける。明らかに銀河眼には合っていない武器ではあるが、そのサイズの刃物ならばただ振り下ろさせるだけでもかなりの破壊力を持つことになる。

「トラップ発動、生存本能!このカードは発動時に墓地の恐竜族を除外し、1体につき400のライフを回復させる。俺はギラザウルス、ドリケラトプス、キラーザウルス、べビケラザウルス、セイバーザウルス、暗黒ブラキ、超古代恐獣の7体を除外してライフを2800回復するドン!」」

 銀河眼の光子竜 攻3000→4000→剣山(直接攻撃)
 剣山 LP2400→5200→1200

「なるほど、回復兼恐竜のエースとして名高いディノインフィニティへの布石ですか。そんなわかりやすい手、先輩じゃありませんし私にはまるっとお見通しですよ」
「ちょっと待って!なんで僕がそこで出てくるのさ!」

 さらっとひどいことを言われた気がしたのできっちり抗議しておく。もっとも、ディノインフィニティとやらがどんなカードなのかわからないから葵ちゃんの言ったことは全然間違ってないんだけど。

「まあ、先輩はいいとして。ターンエンドです」
「俺の狙いは確かにディノインフィニティだドン。そしてその手札の1枚が確実にラスト・ミストな以上、問題はもう1枚のみ。それが万が一オネストなら俺の負け、でもうまくいけば俺の勝ち。なら男剣山、ここはでっかく勝負ザウルス。俺は今引いたカード、ディノインフィニティを通常召喚!このカードの攻撃力は、除外されている恐竜族モンスター1体につき1000ポイントだドン!」

 恐竜の王者、ティラノサウルスが光のドラゴンと向かい合い、天に向かって一声吠える。どうやら、このデュエルもいよいよ終わりを迎えるようだ。

 ディノインフィニティ 攻0→7000

「バトル!ディノインフィニティで、効果が無効になっている銀河眼に攻撃!インフィニティ・ファング!」

 荒ぶる恐竜の、どこまでもまっすぐな突撃。それを重量感たっぷりのその斧で迎え撃つ銀河眼。
 そして―――――

「通るか!?」
「いいえ、手札からオネストの効果を使います!エンドフェイズまで銀河眼は、ディノインフィニティの攻撃力を得ますよ!」

 銀河眼が斧をそこらへんに放り投げ、全身全霊の光のブレスでディノインフィニティを焼き尽くした。

 ディノインフィニティ 攻7000(破壊)→銀河眼の光子竜 攻3000→9000
 剣山 LP800→0





「くーっ、負けたドン!十代のアニキといいアンタといい、世界は広いザウルス!」
「どういたしまして。あなたも強かったですけどね」

 負けたというのにどこか爽やかに笑ってみせる剣山。この切り替えの早さは立派な長所だと思う。うんうん、本当に今年の新入生は優秀だなあ、と一人で頷いていると、葵ちゃんがこっそり寄ってきた。

「(それで、先輩?どうせ私が勝っても負けても作るつもりはあったんでしょう?私にできるだけの時間は稼ぎましたけど………大丈夫ですか?できましたか?)」
「あ」

 そこでようやくピンときた。鎖付きブーメランとかオネスト召喚しないとかいくつか疑問点もあったけど、あれは全部時間稼ぎのためにやってくれてたのか。普段の彼女なら多少の伏せがあっても押し通すことが多いからああいう慎重プレイングは珍しいと思ったら、そういうことだったのね。

「…………ほんっとどうしようもない人ですね先輩はっ!」
「はい。ごめんなさい」

 さすがに半ギレ状態になった葵ちゃんを見て、すぐさま素直に頭を下げる。今回悪いのは全面的にこちらなのはよくわかってるし、もし下手に口答えして辞められたらものすごく困るので甘んじてこの説教は受けるしかないよね。

「ぼさっと立ってないで正座しなさい、先輩!」
「あ、あの、一応聞きますけど……」
「当然、床にですよ?」
「はい。わかってました」

 この様子をそばで見ていた剣山は、助けてくれるかと思ったけどすぐに巻き込まれたらかなわんと思ったらしくてこっそり部屋を出て行った。うん、良判断だと思う。多分立場が逆なら僕もそうしただろうし。

「先輩?いいですか?」
「は、はい!」

 そして思った。ああ、これ今日も帰りは遅くなりそうだ。
 ちなみに案の定というかなんというか、その日は完全下校時間ぎりぎりまで床に正座させられました。どこかで様子を聞きつけてきたらしい夢想が強制的に葵ちゃんを引っ張って行ってくれたから助かったけど、あれがなかったらと思うとぞっとする。
 ユーノは今日もいない。そろそろ不安になってきたけど、いったいどこで油売ってるんだろうか。 
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