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レースへ向けて

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2部分:第二章


第二章

「今のところは順調だな」
「ええ、そうですね」
 宮城は来栖に対して微笑んで応える。
「このままいけばですね」
「今度こそはいけるだろうか」
「はい、それじゃあこのまま油断せずにいきましょう」
「油断大敵だ。それにだ」
「健康管理もですね」
「何ごとにも万全の注意を払わないとな」
 来栖は笑っていなかった。真剣そのものの顔だった。
 そしてその顔でだ。こう宮城に述べたのである。
「あと半年だな」
「はい、次のレースまで」
「それまで我慢して優勝だ」
「今度こそですね」
 こう話してだった。彼等はレースに挑もうとしていた。しかしだ。
 事故というものはどれだけ注意しても起こる時は起こるものだ。レースまで一ヶ月となったその時に彼等のチームの練習用のレース場で開発したバイクに乗り実際のレースの練習をしていた時だ。
 この時は宮城が運転していた。来栖は控えの場所で腕を組みその運転をスタッフ達と共に見ていた。その宮城がコーナーに入った時だ。
 不意に前輪がスリップしてだ。そのうえでだ。
 バイクが横転した。それを見てだ。
「まずい・・・・・・」
「宮城さん!」
「これは!」
 来栖だけでなく他のスタッフ達も驚きの声をあげる。宮城が運転しているバイクはだ。
 そのまま壁に突っ込む。宮城はその中でだ。
 何とかバイクから飛び出しだ。すぐに離れる。だがバイクはそのまま壁にぶつかり炎上した。その炎を起き上がりながら見てだ。
 宮城はバイクスーツ、練習用の地味な色のそれとヘルメットのまま見つつだ。呆然としていた。その彼のところに来栖が来た。
 彼はすぐにだ。宮城に問うたのだった。
「怪我はないか」
「はい、何とか立てます。ですが」
「事故のことはいい」
 そのことは責めない来栖だった。そしてこう言うのだった。
「御前の運転は万全だった」
「そうだったんですか」
「しかしだ。問題はだ」
「バイクですか」
「何故あそこでこけたかだ」
 来栖が言うのはそのことだった。
「それを調べないとな」
「わかりました。それじゃあ」
「とりあえず御前は精密検査を受けろ」
 事故を起こしたのは事実だ。後遺症がないかどうかだというのだ。
「それからだ。二人で考えよう」
 そうした来栖の言葉を聞いてだ。他のスタッフは驚いてこう言うのだった。
「あの、凄い冷静なんですけれど」
「あと一月しかないんですけれど」
「それでもですか?」
「いいんですか、それで」
「焦っても何にもなりはしない」
 来栖はその彼等にこう話すのだった。
「違うか。焦って何かなるのなら焦ってみせる。しかしだ」
「何もならないからですか」
「それで冷静なんですか」
「確かにバイクは壊れた」
 そのことは紛れもない事実だった。しかしだった。
「だが宮城君、そして俺が無事ならだ」
「やっていけるんですね、それで」
「大丈夫なんですか」
「そうだ。だからいい」
 腕を組み冷静そのものの口調で述べてだった。
 来栖はまずは宮城に精密検査を受けさせた。検査の結果彼に異常はなかった。ヘルメットのお陰で頭部にもダメージはなく少しばかりかすり傷を負っただけだった。
 だが、だった。バイクは完全に壊れていた。しかしである。
 
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