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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第七十章 竜神《2》

 
前書き
 竜神に意識を吸い取られたセーラン。
 まぶたを開け、見たものとは。 

 
 ここは何処か。
 音も無く、何もかもが止まったかのような空間。
 不思議なこの場所を既に知っている筈だ。
 上位の神が個々に持つ、固有空間の存在をセーランは知っている。
 何故この空間に来たのか。いや、来たのではなく来させられたのだ。竜神の身体に“憂いの葬爪”を突き立て、奏鳴の内部流魔を吸収している際に。
 傀神以外で直接、他の神に会うのはセーランとて初めてだった。
 なんの考えがあってのことなのか。
 んまあ、そんなの目の前にいる本人に聞けばいいか。
 神だから本人という表現はおかしいかと思いつつ、目の前に真っ直ぐ視線を向ければ竜神がいる。
 現実空間に現れた竜神とは何処か違う気がしたが、姿を見せたくないのか青い炎によって間を遮っていた。
 見えるのは青い炎に、その炎の向こうにいる竜神によって、炎の色が濃くなった部分だけだ。
 濃くなった部分は竜神の身体が炎と重なっている箇所であるものの、きちんと身体の形が分かる。
 セーランが立つ場所は一面、瓦礫が散らばった戦場後のようだ。
 消えぬ炎が瓦礫を燃やし、動くと積もった灰が哀しく舞う。
「傀神の宿り主、幣・セーラン。まさか己の宿り主と結ばれるとはな」
 深く、力を感じられる声を放つ竜神。
 相対する存在の大きさに圧倒されつつも、後退りはせず、セーランは正面を見続ける。
 現実空間で暴れていたのは別の存在なのではないか、と思う程にここにいる竜神は冷静だった。
 疑問に答えるかのように、開いている距離を閉じないまま言う。
「己のことについて何か思うことがあるか。何、現実世界に現れたのは己であって、己の意思の一部。流魔から己と同じ存在を創れないとでも思ったか」
「神ってのはめちゃくちゃだな」
「ゆえに神は人類の上に存在する」
「だったらさあ、崩壊進行どうにかしてくんね?」
「無理だ。それは己の管轄外、手出しは出来ぬ。ならば貴様の傀神が少しは適任かと思うがな」
 頭を掻いて、悩むセーラン。
 正式に神の宿り主となる前は、大抵の宿り主は宿している神の声を聞くことは出来無い。セーランもそうであり、だが竜神の答えを聞き、同じ質問を傀神にしても返事は同じだと思った。
 神には管轄が決まっており、管轄外のことに対しては手を出さない。
 例えを出すとするならば死を管轄する、いわゆる死神は死に関連するものにしか現れず、それ以外のことに関しては力を使わない。だから死神は死に関連しないものには、一切手を出しはしない。
 竜神は水神の神ともされ、農作をやっていた者達にとっては恵みの雨をもたらす存在として知られていた。セーランは恵みの雨を癒しと捉え、崩壊進行を静められるのではないのかと考えたのだ。
 対して傀神は愚かなる傀儡の神と言われているものの元は再生と破壊の神として、セーランの今無き故郷では伝えられていた。
「出来るのかよ傀神」
 一応確かめておこうとセーランは、姿の見えぬ傀神に問う。
 すぐに返事は来なかった。
 少し経ち、間を開けてから声はこちらへ届いた。
『馬鹿を言うな、崩壊進行は流魔の異常流出が原因の筈……。再生なぞ必要無く、まだ破壊による流魔消滅がマシな話しだ……』
「流魔消滅はもう他国が動いてやってるんだよな。もし俺が破壊の力使えたら、一体どんくらいまで行けるんだ?」
『今の我が宿り主では破壊の力は使えん……。再生の力である“憂いの葬爪”を使っている間はな……』
「もしもの話しだって」
 何かをためらうかのような沈黙。
 傀神が何を考えているかはセーランには分からないが、傀神なりの考えがあるのだろう。
 言うべきか、言わないべきか。
 沈黙の長さが傀神の真剣さを表すが、長く続くと思われていた沈黙は案外短いものだった。
『我が破壊の力である“憤怒の火爪”は流魔消滅を行える……。仮に使えたとして、使い続ければ我が宿り主は一夜にして死ぬ……。それに対して消滅出来流魔の量は、最低創生区域全土が半年に使う流魔ぐらいだろう……』
「一日で半年分の流魔をか。魅力的だけど死ぬなら魅了は無しだな」
『宿り主に死なれては我は困る……』
「気にすんなって。死なねえよ、俺は」
『だといいがな……』
 それだけを言って、傀神の声が途切れた。
 話すことはもう無いということだ。
 セーランにも今聞くことは他に無いし、別に後からでも聞ける。今後、傀神の力は必要不可欠だ。
 傀神の力がなければ自身はただの人族だということを、セーラン本人は自覚している。
 世界を相手にするには自分はあまりにも弱過ぎる。だから神の力を得た。
 一刻も早く、世界を少しはマシにするためにも。
 話しが脱線した。思ったセーランは竜神に問い掛ける。
 律儀に黙って待っていてくれた竜神は、特に思うこともなく自身に向けられた問いを聞いた。
「なあ、竜神さんよお。なんでお前、でいいのか……現実空間で暴れてるんだ。宿り主である奏鳴が疲弊してるの分かってるだろうに」
 炎の壁の向こう。竜神が動いたのが、炎に映る影によって分かる。同時に炎も揺らめく。
 熱を感じさせない炎は不思議なもので、ただ傀神と直接会った時と同じように、青い炎がこの空間内を照らしていた。
 かがり火のように照らし、上を見上げれば何処までも続く暗闇。
 空を飾る星は無く、地上は何処までも広い。
 どの辺りから空なのかも分からない空間。
 自分の居場所であるこの空間で、一人の人の質問に竜神は答える。
「己の宿り主は怒りを黄森長に感じていた。神具・政宗によって己の宿り主が己に流魔を分け与えた時、流魔が怒りの感情を記憶した。その流魔を受け取ったことによって現実空間にいる己が怒りの感情を得、暴れている理由だ。
 意思の一部であり、現実空間に神が現れればかなりの弱体化を強いられる。普段よりも格段に弱い、ゆえに宿り主の感情に支配されたのだ」
「なるほどな。んでさあ、奏鳴の暴走はもう無くなるんだよな」
 奏鳴本人には暴走は無くなると言ったが、あくまで人間の考えを元にした結果を言ったまでだ。
 この世に神が存在する以上、急な理不尽はやってくる。だからセーランは今後の奏鳴の安全を知っておきたかった。
 竜神が世界の全てを決めるわけではないが、気休めであっても神の口から聞いておきたかった。
 今現在、竜神が分かっていること。多分それはセーランとあまり変わらない。
 何故ならば、全ての神が運命を知っているわけではないのだから。
「宿り主になるということは、宿した神と近い存在になること。現実空間の概念上、人は人として扱われるが、時として神とも捉えられる。己が己の力を飲み込もうとも暴走などしない、自身を受け入れるのだからな。
 暴走になるということは今後考えにくい。憑依によっても、かなり己の宿り主は己の力に慣れた」
「なんでお前はそこまで力を求める。神である以上、ましてや竜の頂点だろ……自分の宿り主の命削ってまでやることかよ」
 どうしてそこまで力に執着する。
 怒り。そうこれは怒りだ。
 竜神に対する、神への反抗意識。
 歯向かうものを前にした竜神だったが、たかが人一人。恐れるに足らなかった。
「力は全てだ。何においても、ましてや貴様のように世界へと歯向かうのならばな」
「答えになってねえよ。お前は神だ、それも上位のな。なのになんで力が欲しい、答えろ」
 伝わってくる。竜神は感じた。
 セーランという者から自身へと向けられた負の感情。粘っこく張り付きそうな、そんな怒り。
 何故に怒っているのか。それは竜神でなくとも安易に想像出来ることだ。
「愛した者の余命が短いこと、己に向ける怒りはそこから来るのだろう」
 そう言うことだ。
 セーランは決して自分に向けられたことに対し、ここまで怒ることはなかった。
 誰かが傷付き、傷付けられた時のみ、潜めていた怒りが表へと顔を出す。
 優しさからではない。ただ、そうでしか怒りを露にすることが出来無いのだ。
 本人は理解していなく、単純に怒っていると思っている。異常なのかどうなのか。――きっとそれは異常だ。
 怒るということは意思の表現。自分のことに対して怒れないということは、本人自身が自分のことを大切にしていないということである。
「何故、己が力を欲するか。その根源は単純だ――!」
 炎の壁が中央から、広がるように左右に割れた。
 とっさの反応で身構えるセーランの前に、青い火の粉が散る向こう側、竜神がいるのは確かだ。
 しかし、目に映ったのは現実空間のそれとは違かった。
 圧倒的な存在感。
 その存在自体が既にセーランにとっては絶対なものに感じられ、同時に相手の強大さを感じ取った。
 にじみ出る脂汗は圧倒され、恐怖を感じ取った証拠だ。
 血のように赤い眼。藍色に近い、深い青。黄金色の光沢を放つ角に、同じく黄金の線が体に走っている。
 美しい。
 言葉に似合わぬ力を目の前にした恐怖。
 硬直したかのように身体を強ばらせ 、無意識にセーランは唾を飲み込んだ。
 短いその時間が長いように錯覚するも、ねっとした唾が喉を通り終えた。
「力は己の本能に訴いかけるもの。欲を満たすために欲することは当然。そこに理由など存在はしない」
 竜神にとって力とは、欲しいから集めるということに等しい。
 例え宿り主の寿命を削ってまでも、力とはそれ程までに魅力的なものだと竜神の目には映っているのだ。
 力を得るために、過去の宿り主から無理に流魔を吸い取ったりもした。
 今回、現実空間に現れた竜神は力を分け与えられ、宿り主の負の感情が強過ぎるがために暴走してしまった。
 それでも竜神は特に問題視はしていなかった。
 この固有空間内からでも現実空間への干渉は可能なのだから、面倒になったら消すことが出来たためだ。
「貴様の問い掛けには答えた。今度は己の問い掛けに答えてもらおう」
「俺に答えられる質問か?」
「問題無い、内容は同じなのだからな。何故に貴様は力を求めた。答えてみよ」
 問い掛けたものと同じ問いを、今度はセーラン自身が答える形となった。
 何処からか来る精神的圧迫感。
 油断していたら押し潰されそうで、一瞬でも気を抜いたら危険な気がした。
 力を求めた理由。
 世界を少しマシにするためではない。それは日来を存続させるための、自分達の目的だ。
 自分は立派な人ではない。セーランは自身をそう思っている。
 偉人のような魅力も無いし、能力も持ち合わせていない。なんでも出来るわけでもないし、出来無いことの方が山程ある。
 間違いながら進んで来て今へと至る。ただ、自分は宿り主という以外は特に特別な能力は持ち合わせていなかった。
 一般人より内部流魔の回復速度が早いが、世界から見ればごまんといる。人類の比率から見ると少ないだけであるために、しばし特殊なものだと思われているだけなのだ。
 宿り主以外、これといった能力も無いためにきっと力を求めた。
 傀神に。
 力を求める大きな理由となったのが、
「大切な人達を守りたいからかなあ」
 我ながら照れ臭いことを言ったものだと思った。
 小等部六年生の時、まだ他人の後ろを付いていくような頃。世界状況を知る授業が行われた。
 殆どが十二かそれに近い学勢で、彼らから見ればスケールの大きい授業だった。
 セーランは魅せられた。
 世界という広大な存在に。同じくらいに世界の理不尽が胸を打った。
 特に自分が住んでいた日来への理不尽が。
 日来という場所が世界からの省かれ者の集まり場だということ。奥州四圏からお荷物扱いされ、各国からも神州瑞穂攻略に最高の位置に存在し、常に狙われていること。
 その時に脳裏に過った、とてつもない未来への不安。
 誰も自分達を守ってはくれない。ならば、自分達が自分達を守るしかない。
 自分を、皆を受け入れてくれたこの場所を守るために力を望んだ。
 あの時に変われたのだと思い返すセーラン。
 誰かではない。自分がやる、やらなければならない。
「弱いままじゃ誰も守れねえ。だから力が必要なんだ。この手で守るためにも」
 ぎゅっと強く拳を握り締める。
「別に弱いままでも何も悪くはねえよ。けど守られるだけってのは堪えられねえ。大切な人や大事なもの失う時が、一番苦しくて哀しいんだ」
「力の得た先に破滅の運命が待っていようと、進んでいくというのか」
「強大な敵が現れて、どうしようもなくなったなら悪魔にだって魂を売って倒してやる。傀神にも言ったが死ぬ気は更々ねえけどな」
「……己は貴様を好きにはなれんな」
 一言。
 距離を置く言葉を聞くも、特にセーランは気にしていない。
 納得したように頷き、素直に受け止めた。
「そっか。俺はお前のこと好きだけどな。仲良くなれそう」
「貴様は仲間のために、己は己の欲を満たすために力を欲した。真逆の考えを持つ存在とは相容れぬ」
「仲間のために力を欲したのって、結局はそれも俺が俺の欲を満たすためにやったものだろ。同じじゃね?」
「違うな。貴様のは欲ではなく願いだ」
 厳密に言うと表裏一体の関係だ。
「欲とは自己を満たすためのもの。願いとは誰かのために尽くすもの。欲は欲を満たすための願いであり、願いとは誰かに尽くそうとする欲。
 まるで光と影のように、それらは切って切り離せぬもの」
「難しいこといってるけど、結局は同じようなものなんだろ」
「そう思うのならばそれでいい。己にとって結局それは人類の叡知に過ぎん薄っぺらいものだ、貴様がどう思おうと関係無い」
「へいへい、そうかい」
 ならそう思うことにしよう。
 少しの沈黙。
 そのなかで疑問が出てきたため、セーランはそれを口にした。
「竜神さんよお、後なんで姿を急に俺なんかに見せたんだ。嫌いじゃなかったのかよ、俺のこと」
 というものだ。
 固有空間で姿を見せるということは、真の姿を見せるということだ。つまり目の前にいる竜神こそが本来の姿である。
 わざわざ見せる意味があるのか。
 別に姿を相手に見せることは特別なことではないが、ここへ来て始めから炎の壁によって姿を隠していたのだ。
 隠す意味も無ければ、見せる意味も竜神には無い。
 たかが人一人に姿を見せるという労を使うことが、セーランは異常なことのように思えた。
「それは後で答えよう。まずは貴様を現実空間から引っ張り出してきた理由を話そう」
「うん、こっちの質問後回しなのね……」
 さすがは神様と言ったところか。
 ふ、と鼻で笑うような音を立てた竜神が退屈ゆえか、長いその身体を一回動かし、姿勢を変える。
 風が起こり、一瞬の強風。
 衣服や髪が揺れ、別の意味で身構えた意味があった。
「ここならばゆっくりと話しが出来ると思ってな」
 強風がぴたりと止む頃に聞こえた竜神の声。
 まぶたを閉じ、開ける一連の動作なかでセーランの眼前。
 竜神の顔があった。
 間近で見ると迫力は圧倒的で、数メートルの高さはあるだろうか。
 いきなり来たものだから、反射で後ろへ下がろうとするも足が縺れて尻餅をついた。
「――つうう! 急に近付くなよ、びっくりするだろ」
「心配しなくとも取って食おうなぞせぬ」
「分かってるけど大き過ぎて怖いんだわ。眼とか合った日には身体ぶるぶる震えるね」
 言いつつもセーランは真っ直ぐ、間近に見える竜神の眼を直視していた。
 言葉とは裏腹な態度。
 尻餅をついたままの状態で、距離を変えずに竜神は言う。
「ここは現実空間との時間の流れが違う。人間で言う一年が十倍、百倍早く流れるが、神によってそれは個々に違う。いずれまた訪れることになるだろう」
「ゆっくり話したいからって理由で連れてこられたわけだ。んで、俺の質問には答えてくれるのか?」
「姿を現した理由か。
 特に意味など無いが、上げるとするならば己の存在を憶えていてほしかった。と言ったところだ」
 それは何処か悲しげな言葉に思え、神という風格が削がれてしまいそうな気がした。
 意味も無く姿を現した竜神。
 真意はきっと教えてはくれない。
 竜神自身が人に甘えることを嫌っており、加え人という弱い存在に助けを求めること自体屈辱なのだ。
 宿り主がいなければ存在出来無い自分に対し、怒りの念を抱いている筈。
「神は人には甘えない。俺はそう教えられてきた」
「己にも分からん、何故だろうな。微かに見える未来、そこに己が存在しないがために取った行動なのかもしれんな」
「未来に存在しない? どういうことだよ」
 竜神は顔を横に振った。
「分かっているならば苦労はしない。ただそこに己が存在していない。分かるのはそこまでだ」
 神には未来が分かる。
 だがそれははっきりとしない場合が多く、未来の多くを知っている神は数少ない。
 きっと竜神、もしかしたら神も自身という存在が消えることに恐怖するのかもしれない。
 人類にとって絶対の存在である神。
 セーラン自身も、弱音に近いことを吐く神は聞いたことも見たこともない。そして何故、自分に向けて言ったのかも。 
 

 
後書き
 今回真の竜神が登場しました。
 現実空間に現れた竜神はどうやら本体の意思の一部らしいですね。
 当然と言いますか、現実空間と固有空間にいる時の姿も変わっております。意思の一部だからとも言えますね。
 何にしろ、自分の意思を分裂させるなんてさすが神様。チート能力なのは相変わらずで。
 これを宿している宿り主ってやっぱ凄いですよね。
 ですが神にも出来無いことぐらいあります。
 その神が管轄していないものについては、一切の行動が出来ません。
 感覚的には、商売繁盛の神様に恋愛関連のことについてお願いするようなものです。
 あくまでも商売の神様だから恋愛なんて知らないよー、ということ。
 凄いのか凄くないのかよく分かりませんな。
 それでは今回はここまでです。 
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