神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・後半-日来独立編-
第六十九章 竜神《1》
前書き
セーランに近付いてくる天桜の女子学勢。
彼女らの目的は一体。
空いていた距離を詰められたセーランは反射的に動こうとしたが、それを見越して彼方は言葉を放った。
「邪魔する気は無い」
一言。
聞いて、落ち着くセーランは再び来た砲撃を流魔によって創った盾により今度は軌道を空に逸らす。
副砲による砲撃だったため、容易く軌道を変えることが出来た。
セーランは進むのを止め、近付いてきた天桜の女子学勢の様子を伺う。
「お前らはなんで竜神に近付く。黄森の戦闘艦が砲撃を行っているなかで、わざわざ自ら砲撃のなかに飛び込む必要は無いだろ」
「竜神が拙者達の長を狙った。ならば長を守るために動くのは当然のことだ」
「そうかい、なら一時的に協力し合うってのはどうだ?」
聞いて、驚いたような表情を見せる繁真。
先程まで、今であっても自分達黄森は宇天の長を解放しようとした敵だ。なのに、どうして協力し合おうと言えるのか。
不思議な感覚を覚えた。
竜神は戦闘艦による砲撃から逃れるために一度空へと高く飛び、今三人がいる場に砲撃は来ない。だから映画面|《モニター》に“足場”と表示された上に立ち、本来ならば交える筈の無い者と話しを交えた。
「馬鹿言わないでください。貴方にとって私達は敵。協力し合うなんてこと、世界が崩壊するまであり得ませんよ」
刺を刺すように言う清継。
二十センチ四方の一つの足場の上に、器用に両足を揃えて立っている。
地上を見下ろす程の高さで、小さな足場に止まる姿勢制御の能力に度胸。身体は寸分も揺れることが無く、芯が通っているかのようにぴしっとしていた。
以上の点から既に彼女が日常的に目にするような、普通の学勢ではないことが解る。
「お前達の目的は長を守ること、俺の目的は竜神の流魔の回収だ。なんで竜神が天桜長を狙うのかは分からねえが、流魔の回収が済むまではやらせるわけにはいかねえな」
「流魔の回収が済んだならばどうする」
「竜神を神域空間に戻す。宿り主の体調が良くないものでね。すぐにでも取り掛かりたいんだが」
「やるには砲撃が邪魔な筈だ。よければ止めさせるが」
繁真の言葉を聞いた清継は耳を疑った。
掌を返したかのような態度に、幾ら先輩であっても失望に似たものを覚えた。
人がいいのは知っている。しかし、あまりにも甘過ぎはしないか。
敵に情けを掛ける必要は無い。上手くいけば、ここで日来の長を仕留めることも可能な筈だ。
「敵に協力するなんてあり得ませんよ」
「そうも言っていられないだろう、こんな事態に」
清継の耳に聞き覚えなの無い声がした。
女性の声だ。
誰なのかと声のした方へ視線を向けると、そこには――
「お、飛豊じゃねえか。リュウに乗って何か報告か?」
「違う。宇天長の救出が無事終わったからな、もうお互い争う意味が無い。戦いの中止を伝達しようと来たんだよ」
「そう言えば作戦内容にあったな。けど今の状況じゃあ」
「竜神暴れてるなー、おっかないなー」
背に飛豊を乗せたリュウが、何時も通りの語尾を伸ばす口調で言う。
ああ、とセーランは返事を返す。
何も無かったら危ないここへは来ていないわけで、来たからには何がある。
飛豊は黄森の女子学勢の視線を受け、変な汗を流しつつ。
「明確な終わりが無いためか、いまだに戦いが続いている。せめて学勢達だけでも止めさせなければ、今後に関わると思うんだ。私達、日来は特にな」
「何をいきなり現れて二人で話しているんですか。戦いを終わらせる? 勝手に変なこと言わないでもらえますか」
喧嘩腰な清継の口調に、申し訳無いと言わんばかりに飛豊は自己紹介を始めた。
「これはすまない天桜指揮官補佐。私は日来学勢院覇王会伝達者の岩清水・飛豊だ」
「リュウはリュウだぞー」
「覇王会伝達者に……竜? 破族でも見たことない系統ね」
意外にもリュウに興味を示した清継。
はっとそんな自分に気が付いて、咳払いをして調子を取り戻す。
覇王会伝達者であることから、先程の会話の意味が解った。
覇王会の各役職には権限が存在し、そのなかで覇王会伝達者は所属する学勢院の学勢の行動、または他学勢院の学勢の行動さえも制限出来る。
それをするためには明白な勝敗が必要だ。
勝ち敗けが決まったのならば、もう戦う必要など無いためだ。だから今回は、
「話しを戻すが、私達日来の手によって解放から宇天長を救い出した。これはつまり日来の勝ちであり、黄森の敗けを意味する」
「私達はまだ敗――」
清継の肩に繁真の手が載る。
発言を阻害するその行為は清継の発言が間違いであることを示し、反論の隙を与えないかのように繁真が話し始めた。
「いや、ここは素直に敗けを認めた方がいい」
「なんでですか! まだ、まだこれから!」
「宇天長は救出され、ましてや竜神が現れた。今は拙者らの長を助けるのが優先される。それにこれ以上辰ノ大花にいても意味が無い」
「で、でも……!」
後から口ごもるようにして、自分の発言を終わらせた。
後輩の言葉を否定はしない。そう感じて当然なのだから。
しかし覇王会ならば、重要なことはそこではないことぐらい分からないといけない。
「いいか、拙者達には守らなければならない者がいる。守れる者も守れずして得た成果など意味をなさぬ」
今はまだ自分には分からないだけだと、自己主張の意思を殺し、この場は先輩の意見に参道する道を選ぶ。
「納得いきません。いきませんけど、今回は先輩の意思を尊重します。いいですか、あくまでも先輩の命令で仕方無く! 貴方達に! 協力するんですからね!」
「協力してくれるんならなんだっていいさ」
「そちらの判断に感謝する。なら私は覇王会伝達者の権限をもって戦いの中止を呼び掛ける」
「黄森の者達には拙者から伝えておこう」
無駄な戦闘を避けたいのは、やはり彼方も同じかと飛豊は思った。
今回の黄森はあまりにも手緩い気がしてならないが、自国の者だからこそ同情が湧いてしまったのか。
なんにしろありがたいというのが、素直な感想だ。
セーランは竜神の攻略のために案を上げ、
「砲撃を止めたら俺は竜神の頭部に接触する。そのための援護を二人には頼みたい」
「頭部は竜口砲の死角になるからだな。了解した。日来長が先行した後、援護へと回ろう」
間が空いたのを確認し、早くここを離れたいがために飛豊はすぐに話し始めようとした。
近くには竜神がいるのだ。何時なんどき自分が標的にされるか分からない。
「それぞれやることが決まったならもう離れてもいいな。怖さでどうにかなりそうだ」
「ビビりだからな飛豊は」
「お前には言われたくない! て言うか、平然としていられる方がおかしいだろ」
「ブツブツ言ってると狙われるかもよお?」
「今この状況でその冗談マジで洒落にならない気がするから止めろ」
叱られ、へーい、と気の抜けた返事を返したセーラン。
心配はあるものの、飛豊は自身が残ったとしても何か出来るわけでもないのを知っている。ゆえにこの場から離れることは正しい行為だ。
それに黄森の覇王会に直で見詰められ、変な汗が止まっていない。
「ここは頼んだぞ」
「おうよ。そっちも頼んだわ」
頷き、飛豊はリュウに行こうと伝えるように背を叩く。
それを受け、理解したリュウは一言。
「無理しちゃ駄目だぞー」
セーランに言ってから、竜神と距離を離すように遠くへ離れて行った。
覇王会伝達者である彼女の発言で日来、宇天の学勢は戦いを止めるだろう。黄森の学勢も手出しをしてこない相手に対し、無闇に攻撃はしてこないに違いない。
問題を上げるとするならば黄森の社交員の方で、幾ら覇王会でも社交院までは縛ることは出来無い。
今現在、この場にいて社交員の行動を制限出来る者は繁信のみだ。
理解している繁真は映画面を表示し、まずは黄森の社交員らへと指示を飛ばす。
表示から少し経ってから口を動かして、
「全社交員に告ぐ。戦いは中止、各自撤退の準備を開始しろ。繰り返す。戦いは中止、学勢にもこの指示を伝えた後、各自撤退の準備を開始しろ」
急な戦いの終わりを告げる指示を聞き、一瞬動きが止まった社交員達。
当然のことだ。急に言われたのだから。
何も言わずに理解出来る程、彼方も大人ではなかった。
『何故そのような指示を行う。まさか敗けだというのか!』
『もう二度と解放の機会が無いかもしれないのに、これはどういう判断だ』
『アタシも納得いかないね。指示は聞くが、説明も無しにってのは頂けない。どういうつもりだい、天桜指揮官』
他にも素直に指示を聞いてくれない者はいる。
彼方も央信の指示に賛同し、付いてきてくれた者達だ。
自分よりもやはり央信が発言した方が、こういうことは無いのだろうと考えてしまう。
説明を求めているならば聞かせる他無い。
「長が竜神に狙われている。更には体調もあまり優れていない。竜神を倒した後に再び宿り主となった宇天長を相手にするのは不可能と判断した。
それでもなお戦うのならば、長の意思を無視したものと思え」
学勢が指示を出していることが気に食わないのか、舌を打つ音が聴こえてくるも反論は無かった。
しかしながら最後の一文が効いたのだろう。
『『了解』』
と返事を返して次々と表示されたいた映画面が消えていき、塞ぐようにして表示された映画面が無くなったことにより見えた清継に日来の長。
様子を伺うように向けられた日来の長の視線を感じ、結果を報告することにする。
「聞き入れてくれたみたいだ」
「ご苦労さん。これであっちのことは心配しなくて済みそうだ」
「だがまだ自分達の心配は無くなってはいない。――やるぞ」
セーラン、清継は頷く。
お互い敵同士だが、狙いは竜神であることが協力体勢を生む結果となった。
まだ互いが理解し合うには時間が掛かりそうだと思いながら、セーランは止まっていた自身の身体を動かし始める。
足場となった映画面から下り、重力に引っ張られ落ちていく。次に流魔線を数百メートルは離れた竜神へと繋げた。
「全艦に告ぐ、今すぐ砲撃を止めろ。いいか、今すぐに砲撃を止めろ」
繁真が再び映画面を通じ、竜神へ砲撃を放つ黄森の戦闘艦に命令する。
何を考えているのかと言いたそうに、戦闘艦を指揮する各艦長は唸り声に似た声を発する。
それを次の声で吹き飛ばした。
「しろと言っている!」
声を張り、説明も無しに意思を通す。
今の状況で説明している暇は無い。それくらいは彼方も解っている。
しばしの間。
返答は無かったが、砲撃が止んだことから察するに了承してくれたのだろう。ならば次にやることに移ることとする。
日来の長は竜神に流魔線を繋げ、ぶら下がっている状態だ。暴れる竜神であっても流魔線を上手く繋ぎ、竜神との距離を詰める下準備を行う。
宿り主であるものの、覇王会会長の地位にいることから実力は本物に違いない。
思いつつ映画面を消す繁真はセーランの方を向き、砲撃が来ないことを告げる。
「砲撃の方は大丈夫だ。早々に取り掛かるぞ」
「なら行きますか」
繋げた流魔線を縮ませ、開いていた距離を閉じていった。
接近するセーランに気付いたのか、竜口砲を放とうとした竜神はそれを止め、狙いをセーランへと変えた。
さすがに宿り主であり、現実空間で幾ら弱まった神であろうと戦うことは一苦労だ。まともに戦い勝てるかどうか。
それに今は戦う場合ではない。
いち早く竜神から奏鳴の内部流魔を取り出し、本人に戻して身体を回復させ、暴走を止めさせなければならない。
長々と戦っている時間はありはしない。
「あっちから来るぞ。気を付けろよ」
二人に告げ、迫る竜神の迫力に圧倒されながらも冷静に判断する。
わざわざ彼方から接近してきてくれたのだ。タイミングを見計らえれば、どうにか身体に張り付くことが出来るかもしれない。
セーランの読みを呼んだか、竜神は接近しながら竜口砲|《ドラゴンブレス》を放つ準備を行った。
地上を狙った、上空からの竜口砲。
例え回避出来たとしても、下にいる者達の被害が考えられた。何も考えずに回避の選択を取った場合、余計な犠牲が生まれる。
竜神が何故ここまで襲ってくるのか、現時点では誰にも明確な答えを出せずにいた。
ただ、宿り主を解放させようとした黄森の長に仕返すため。またそれを邪魔するものに対して攻撃しているとしか言いようがない。
ゆえにセーランは考えるのを止め、竜神との戦いに集中した。
竜口砲は明らかにセーランを狙ってはいるが、もし避けてしまうと地上に被害が及んでしまう。そうはさせないため流魔操作を行い、範囲数十メートルの円形の盾を複数枚創り出し、重ね合わせることで地上を守る。
「避けろ! 地上は盾で守られてる。竜口砲を放つ瞬間、それ以外の動作は行えない。その隙に距離を縮めろ!」
「了解した。清継は左側から接近、右は任せろ」
「了解。各自のご武運をお祈りします」
繁真は右側、清継は左側を担当することとなり、回避の行動を取ると同時に移動した。
宙に足場となる映画面を表示し、上手く上に着地する。連続して同じ動作を行い、まるで宙を自由に走っているかのように錯覚させる。
同じくして回避を取るセーランの近くを、球状の竜口砲が通り過ぎた。
後から来た風に揺らされながらも、流魔線を上手く駆使し、足場のために表示した映画面に流魔線を繋げてぶら下がる状態で宙に留まった。
ぶら下がっている状態で、竜口砲が創り出した複数枚の盾が重なり合った部分に直撃したのを確認した。
鼓膜を破くような爆発音が空気を震わせ、衝撃で強さを証明した。
竜口砲を防ぐ盾にひびが入る。しかし割れることはない。
球状のため単発な攻撃なために、攻撃の衝撃は一瞬だ。もし放射状の竜口砲ならば、新たに盾を追加しなければ防げなかっただろう。
防げたことを確認し、即座にセーランは移動を開始した。
前より近くに見える竜神。
先行した黄森の女子学勢二人の内、黒髪の女子学勢が腰に下げている鞘から妖刀を抜いたのを見た。
一度見たことのある妖刀だ。
ある程度の距離を置いて、巨大な竜神の身体に向かって繁真は攻撃を放つ。
「沸き出ろ、蛆虫」
妖刀を振った軌道上に細長い黒い玉が無数に現れ、すぐに蝿へと姿を変えた。
黒い蝿は竜神の身体へとぶつかるや否や、一定の範囲ではあるものの無数の穴が空いた。
傷口から血が滴るように、空いた穴からは竜神を構成する流魔が分解され、散っていく。
まだ終わりではない。空いた穴をよく見ると蛆が沸いていた。竜神の身体を喰い、穴を広げて蝿へと成長する。
数は次第に増えていき、蝿によって攻撃を受けた周辺は黒く動くものによって侵食されていた。
自身の身体が喰われていることに竜神は怒ったか、長く巨大な身体を乱れるようにして暴れ出した。
動くことによって起きる風圧が、まるで嵐に吹く風のように強い。壁のように三人を近付けさせない風を、左側なら攻める清継が割って竜神への接近を試みる。
今の竜神は繁真によって放たれた蝿によって出来た穴から、沸き出てくる蛆に気を取られている。三人には目もくれていないため、接近するチャンスだと捉えたのだ。
判断は間違ってはいないが、目もくれていないということは周囲の把握を行っていないということ。
「無理はするな。蛆虫の攻撃に気を取られ、竜神は周囲を気にしていないが攻撃に巻き込まれる危険があるぞ」
「侮っちゃいけませんよ。私だって補佐ながらも黄森の覇王会なんですからね!」
暴れる竜神に迷い無く行く清継は器用に映画面による足場を駆使し、縫い目を縫うかのように竜神の軌道を読み、隙間を行った。
風をも味方とし、加速の補助として利用する。
そうやって行う清継の戦い方は美しかった。
魅了されたセーランは、自身も竜神に接近しながら清継の戦い方に興味を示した。
「舞闘か。やっぱ個人個人戦い方が違うから、灯の舞闘とは違うな」
一人、感想を言いながらも竜神に繋げた流魔線を縮め、距離を閉じた。
上手くいけば竜神に接近出来る。
そのための援護を黄森の学勢やってもらいたいが、どうにか出来るだろうか。
「すまねえけど、一瞬でもいいから竜神の動き止めれくれねえかな?」
「一瞬だけでいいのでしたら丁度よかったですね」
口調は変わらぬものの、何処かセーランに盾突くような言葉。
なんにせよ、彼方には何か策があるらしい。ならばやってもらう。
清継は舞うように移動しながら、確実に竜神との距離を縮める。軌道と言う流れを読み、両の手にした内の右の槍を通り過ぎる形で竜神の身体に刃を当てた。
冷たい音が響く。
身体の周辺に生えている鱗によって刃は弾かれたものの、あくまでも清継の狙いは右の槍、右鎖の刃を竜神に当てることだ。
狙っていたことを行えたため、セーランへと準備のことを告げる。
「日来長、攻めの準備を」
確認も取らずに、器用に清継は右鎖を片手で操り回転させた。
三回程回転させたところで、つまりそれが彼女がセーランに与えた準備時間であり、終えたのならば行動を再開する。
短く息を吸い、ある言葉を言う。
「縛れ、右鎖!」
それはまさに一瞬。竜神の動きが止まった。
暴れていた竜神が清継が言った言葉の後に、まるで何かに捕まったかのように。
系術なのか加護なのか。
系術にしては発動した感じが無かった。加護も同様だ。ならば、
ありゃあ宝具クラスの能力だな。妖刀に宝具か、品揃えいいな黄森は。
動きが停止したのはあまりにも短い時間だったが、決してセーランは見過しはしなかった。
既に竜神との距離を詰めていたために、流魔線を全力で縮ませれば余裕で接近出来る距離だ。
止まっていた竜神が動き出す。
「早くっ!」
清継が発する。
起こった好機に確実に決める。その考えは黄森の覇王会にも日来の覇王会にもあった。だからセーランは行った。
動き出して暴れる前に、竜神の頭部から数メートルの位置に接近し竜神の身体へと張り付いた。
暴れ始める竜神。
視界が乱れ、張り付いているのがやっとだ。
風が身体を打ち付け、体温と共にセーランをも吹き飛ばそうとする。
繁真と清継は自身の目で、セーランが竜神に接近して身体に張り付いているのを見た。
自分達の役目はここまでだ。後は彼方が、どのように竜神を止めるかによって行動が変わる。
ゆえに二人は安全な距離を置きつつ、竜神と日来の長との決着を見届ける。
どちらにしろ、こちらは自身らの長を守れればそれでいい。そのために日来が動くならば、協力しても構わないと個人的に思う繁真だった。
●
天地がごちゃ混ぜになるような、乱れた視界が平行感覚を失わせる。自分が空を上にしているのか、陸を下にしているのか分からない。
ただ現状、竜神に張り付くように流魔線によって繋いで、暴れる竜神から離れないようにするしかないセーラン。
一度離れたら再び接近するのは困難だ。だからセーランは右腕の憂いの葬爪を竜神の身体に突き立て、肉を裂いた。
神にも痛覚が通っているのか、拍車を掛けたのか更に暴れだした。
頭部近くにいるが、もしかしたら竜口砲|《ドラゴンブレス》が来るかもしれない。可能性は低くなく、けれどもセーランは竜神に突き立てた憂いの葬爪から竜神の、正確には奏鳴の内部流魔を吸収する。
普通の者ならば分からぬ流魔の違いを、今のセーランにははっきりと分かる。
竜神の流魔は熱く、吸収などしなら身体が焼けそうだ。その点奏鳴の流魔は何処か冷たくて、何故か負に似た感情が感じられた。
吸収出来てはいるものの、量から言えばちっとも多くはない。少量過ぎて、これでは暴走を抑えることは出来無い。
流魔を生成出来る能力は憂いの葬爪には無い。あるのは流魔の回復などだ。
流魔が回復出来るならば奏鳴の内部流魔を回復させ、竜神の血による暴走を止められるのではないか。そう思ってもおかしくはない。
しかし内部流魔というのは回復と言う表現を使うが、外部流魔から無駄なものを取り除いて身に蓄える流魔。
つくり出すのであって、回復するのではない。
そのため幾ら憂いの葬爪に、流魔の回復の能力があったとしても意味が無いのだ。
吸収率が悪いと感じながらも、動けないのでは他の何かを出来るわけがない。
いや、待て。自分にそう言い聞かせた。
憂いの葬爪には流魔が記憶した出来事を読み取る能力がある。もしかしたら、竜神の流魔を読み取ることで竜神が黄森の長を狙う理由が突き止められるのならば。
可能性はある。
万物は流魔で出来ているのは当然のことだ。例えそれが神であっても変わりはしない。
新世代神、新世ノ神である傀神の力。
憂いの葬爪を使えば、何か分かるに違いないと思ったセーランは早速行動に移そうとした。
が、その時だ。
『我が宿り主よ……どうやら、彼方からやって来たようだ……』
脳に直接聞こえる傀神の声。
言葉を聞き終え、理解した後には既に遅かった。
意識が吸い込まれるかのように、急にくらっとした感覚を得る。
傀神の言う通りだ。流魔を読み取る前に、竜神自らセーランを自分の方へと引き寄せた。
なんの狙いがあるのか。
理解出来無かったが、結局は抗う前に意識が無理矢理引き寄せられた。
まぶたが重く、視界がぼやける。
疲れきった身体が睡眠を欲するように、すぐさま目の前が真っ暗になった。
後書き
憂いの葬爪の能力の一つである、流魔が記憶した記憶の読み取りを行おうとしたところ竜神から何かをされてしまったセーラン君。
どうなっちゃうの?
今回は久し振りの飛豊ちゃん登場だったり、モブキャラが喋ったりしていました。
ちょいちょい主要キャラでなくとも喋らせたりして他にも沢山人はいるんだよ、と伝えたい。
上手くいっているかはさておいて、まず学勢が大人仕切ってる時点であれなんですけどもね。
複雑な心境ではあるものの、実力的に考えてしまうとそんじゃそこらの大人よりも覇王会に務めている学勢の方が力では上なんですよ。
やっぱり戦場では力の強い者が皆を仕切るわけですから、当然と言えば当然なのでしょうか。
しばらくは学勢達の活躍にスポットが当たりますが、陰ながら学勢達を支えている大人達の存在も忘れないでやってください。
ではまた会いましょう。
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