魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep16氷神 ~Ancient Empress~
前書き
お蔵入りになる予定だったレヴィの設定が次々と出てきます。
ツッコミの方はどうかご勘弁を。
「「ムーンライト・・・・ブレイカァァァァーーーーーーッッ!!!!」」
ヴィヴィオとレヴィ、2人分の全開魔力による特大集束砲撃。バインドで拘束されていたルシリオンはその砲撃の直撃を受けた。
集束砲撃魔法ムーンライト・ブレイカー。
集束技術を持つ者、砲撃を放てる者が2人と揃うと扱える集束砲撃魔法。
レヴィ独自の集束技術を用いた複数人(最大で3人まで参加できる)で完成させることが出来る術式。上下に展開された魔法陣が、術式発動に参加した魔導師の魔力を吸い上げ、自動で攻撃に転用する。
参加した魔導師の魔力が高ければ高いほど効果は高まり、最初の光の奔流の威力や噴出時間などが変動する。
その後、集束担当が頭上の上部魔法陣で魔力を集束させ、砲撃担当が魔力スフィアに魔力砲を撃ち込むことがトリガーとなり、魔力スフィアはトリガー砲を吸収した状態で撃ち出される。それが、ムーンライト・ブレイカーという集束砲の全容だ。
命名は、レヴィとルーテシアとティアナによる試し打ちの際、その見学者の1人であったなのは。集束担当だったレヴィのすみれ色の魔力スフィアが月に見え、砲撃担当だったティアナのオレンジ色の砲撃が――魔力スフィアを照らす太陽に見えたことからそう名付けられた。
ちなみに、レヴィとなのはとフェイトの3人で行った際、あまりに威力が高くなり過ぎて暴発・自滅したという伝説もある。
「「はぁはぁ、はぁはぁはぁ・・・!」」
先程まで熾烈を極めていた戦闘が行われていた広場に、ヴィヴィオとレヴィの息遣いのみがが響く。ボロボロになった地面に座り込んでいるレヴィとヴィヴィオは、ルシリオンが居るであろう場所へと視線を向けていた。粉塵が完全に晴れた広場のある場所に、意識を失っているルシリオンが倒れ伏していた。
「勝った・・・?」
「勝っちゃった・・・?」
レヴィとヴィヴィオが信じられないといった風に顔を見合わせ、互いの頬を抓る。2人は同時に「痛い」と言って、お互いが手を離し、抓られた自らの頬をさする。夢ではない。レヴィとヴィヴィオは一か八かの賭けに勝利し、見事ルシリオンを撃破することに成功したのだ。
「「勝てたんだ・・・!」」
2人は張り詰めていた緊張から解放され、疲労困憊ということもあって後ろ向きに倒れ込みそうになった。が、「ルールー!」とヴィヴィオがハッとして、フラフラになりながらもルーテシアの元へと駆け寄る。
「ま、待って、魔力がすっからかんで、上手く足が動かない」
レヴィもヴィヴィオに続こうとしたが、ヴィヴィオ以上に魔力も体力も消費しきっていることで両膝がガクガクと震えていた。
「レヴィはそこで休んでて。わたしがルールーをそっちに連れてくから!」
ヴィヴィオにそう言われたレヴィは「ごめん、お願い」とその場にへたり込んで、ドサッと仰向けに寝転がった。
「うぁ~、目が回ってる~」
「大丈夫? ルールー」
「なんとか~」
いつの間にやら意識を回復していたルーテシアは、ヴィヴィオに肩を貸してもらってゆっくりと歩いて来ていた。その様子にレヴィは「良かった、本当に・・・」涙を湛えて、ルーテシアの無事を喜んだ。
「レヴィも、お疲れ様。・・・勝ったんだね、ルシルさんに」
「ん。おかげでボロボロだよ」
「本当にね」
レヴィの隣に座ってすぐにルーテシアも仰向けに寝転び、ヴィヴィオも「うぁー、もう歩けない~」と寝転がった。そして疲労からか元の姿に戻り、すぐに眠ってしまった。ヴィヴィオの寝顔を見ながらルーテシアとレヴィは管理局が来るのを待った。
それから少しすると、待ちに待った管理局車両のサイレンの音を耳にしたレヴィは、「これで何とかなればいいなぁ」と首だけを動かし、力なく倒れているルシリオンを見つめながら呟いた。
・―・―・―・―・―・
「うそ・・・サフィーロが、あのルシルが、負けた・・・。やっぱり、延命処置のレベル1だと彼の本領は・・・発揮できないのですね」
ハーデはベッドの上で苦しそうに胸を押さえながらルシリオンの敗北に驚愕。しかしその原因が自分の延命処置ということを知っているため、彼女は心の内で自分を責める。
【・・・ルシ――サフィーロ! 聞こえまずか? サフィーロ!】
ハーデが“テスタメント”幹部独自の回線による念話で呼びかけるが、ルシリオンからは一切の返答がない。彼女は両手で顔を覆い隠し「完全に意識が落ちてる・・・」と悲しそうに小さく呻いた。
それから延命処置のレベル1を再開させ、自分の身体を数分とかけて万全へと持っていく。2日間寝たきりだった身体の調子を確認してストレッチ。そしてクローゼットの中に納められていたスーツを手に取る。
スーツを取った際にソレに引っかかりパサッと落ちたある衣服。それは管理局の制服だった。ハーデの肩書の1つには管理局員というものもあった。しかし彼女が“ミュンスター・コンツェルン”のCEOということは管理局内では誰も知らない。何せ彼女は決して表舞台には出ずに、CEO代行を表舞台へと送っているからだ。
「・・・」
ハーデは管理局の制服をクローゼットに掛け直し、慣れた手つきでスーツを身に纏っていく。そして「ふぅ」と一息ついて、どこからともなく“テスタメント”幹部の証である白コートを取り出し纏う。
それから女性としての身体のラインを隠すための白マントを取り出し、羽織る。白マントの中に隠れた右手には、いつのまにか赤い本“ディオサの魔道書”があった。
「私の大切なルシルを早く助けにいきませんと・・・。待っていてくださいルシル。すぐ行きますから」
ルシリオンの愛称である、ルシル、を愛おしそうに口にしながら、フードを目深に被ったハーデはその寝室から姿を消した。
・―・―・―・―・―・
力なく212部隊の隊員に両側から支えられて連行されるルシリオン。ルーテシアとレヴィ、その騒がしさから目を覚ましたヴィヴィオは、その姿をただ悲しそうに見ていた。レヴィにとっては今の生活をくれた大恩人であるルシリオン。そんな彼が敵となり、彼と戦い、彼を撃墜し、そして管理局に連行されていく様は、彼女に複雑な気分をもたらしていた。
(ルシルパパ・・・)
ヴィヴィオにとって彼は、なのはのように本当の親ではないが、それでも大好きなパパだった。記憶が戻った時は本当に嬉しかった。もうこれで戦わなくても良いんだと心底安堵した。しかし彼は突如苦しみ出し、再び記憶を失い敵となった。救うため。その思いだけで戦って撃墜した。そんな彼は、はやてが応援要請した212部隊に連行されていく。
「ルシルパパ・・・。これでもうルシルパパと戦わなくても良いんだよね・・・・?」
「・・・ルシリオンは誰かに操られている上に記憶操作を受けている。これは確定と見ていい。だから厳重な監視体制の元、ルシリオンを外に出させない。この事件が完全に解決するその日まで・・・。待とうヴィヴィオ。ルシリオンが戻ってくるまで」
レヴィはヴィヴィオを後ろから抱きしめながらそう優しく語りかけた。ヴィヴィオは零れ落ちる涙を手の甲で何度も拭いながら「うん」と頷く。これで一件落着と思った。ヴィヴィオ達もその場に居る212部隊も。
ルシリオンが護送車へと入れられたその時・・・
「私の大事な同志を返してもらおうか」
広場に若い男の声が響いた。212部隊に緊張が走る。もちろんヴィヴィオ達も周囲を警戒する。
「氷漬けにされる前に我らが同志を解放したまえ」
コツコツと靴音を鳴らしながら、白マントを羽織った1人の人間が歩いてくる。それは声を男のものへと変えたハーデだ。212部隊の面々がストレージデバイスを一斉にハーデへと向けるが、それを見ても彼女は歩みを止めずにルシリオンの居る護送車へと向かっていく。
「再度伝える。我らが同志を解放したまえ」
「止まれと言っているのが判らないのか!」
「攻撃準備!」
再三に亘る投降勧告を無視したハーデに、212部隊の分隊長が「撃てぇぇ!」と号令をかけた。ハーデへと迫る幾つもの砲撃。しかしハーデはただゆっくりと歩を進み続けるだけで、防御も回避も取ろうとしない。
砲撃の直撃まで2mを切ったところで、ハーデは「凍れ」と囁いた。瞬間、迫ってきていた魔力の塊である砲撃が、まるで物質のように凍りついた。ガシャァァン!と音を立てて氷漬けにされていた砲撃が砕け散っていく。この場に居る全員がポカンと呆けた表情をした。
「この感じ・・・!」
唯一レヴィはまともに思考が出来ており、ハーデの異常さにいち早く気付いていた。魔力をも凍結させる魔法。いくらなんでも有り得ない現象だと。さらにハーデのマントの中から異様な“力”を感じ取っていた。
ハーデはレヴィからの視線に気付き、ルシリオンを倒した彼女をフードの中から睨みつける。ハーデの目が見えずともレヴィは無意識に構え、ヴィヴィオとルーテシアを後ろへと追いやった。
「ルールー!?」「レヴィ!?」
思うことはただ1つ。戦えるか、その一点のみ。しかしそれは不可能だった。ルシリオンとの戦闘で魔力をほとんど使い切っているからだ。ヴィヴィオがレヴィの私服のクロークにしがみ付きながら「レヴィ」と緊張に満ちた声で名を呼んだ。
(レヴィ・アルピーノ・・・あの子が、私のルシルを・・・!)
護送車からレヴィへと進路を変更しようとしたハーデだったが、ルシリオンを救い出すことを優先として踏み止まる。レヴィから視線を外し、またコツコツと靴音を立てて護送車へと歩いていく。レヴィは無意識に構えを取っていたことに気付き、大きく深呼吸して構えを解いた。
(どうする。このままじゃせっかく倒したルシリオンが解放される・・・)
(だけど、今の私たちじゃどうすることも・・・)
ただ黙って見ていることしか出来ない悔しさに歯噛みするレヴィとルーテシア。ヴィヴィオもどうすることも出来ずに、レヴィのクロークを強く握り締めているだけだ。そんな3人を余所に地上部隊はハーデに攻撃を加えていく。しかし次々と魔力が凍結されていき決定打を与えることが出来ずにいた。
「退け・・・!」
ハーデの命令口調の囁きがレヴィには聞こえた。レヴィに緊張が走る。これは何かまずいと、すぐにこの場から逃げた方が良いのではと。
「これで最後だ。大人しく同志を解放しろ」
「この・・・・ふざけるなッ!!」
ハーデの最後の命令に激高した分隊長は、自らが持つストレージデバイスを構え至近距離で砲撃を放った。マントの中に隠れた“ディオサの魔道書”が光を放つ。レヴィは背筋が凍りつく感覚を得た。これは絶対にまずい、ここからすぐに逃げろと。
すぐさまレヴィはヴィヴィオとルーテシアを両脇に抱え上げて、全力でこの場から離れるために疾走する。ヴィヴィオとルーテシアは突然のレヴィの行動に驚くが、レヴィの焦りが滲んだ真剣な横顔を見て、何も言わずにキュッとレヴィの服を握り締めた。
――愚かしき者に美しき粛清を――
そしてそれは起こった。レヴィは全力疾走しながら背後へと振り向く。世界が一変していくその様を見て、レヴィは心が、そして身体が恐怖に震えた。
トパーシオとルシリオンが1度は展開した、六角形の魔法陣。ソレを足元に展開させたハーデを中心に、目に見えるもの全てが凍りついていく。抉れた地面も、212部隊も、車両も、砲撃も、大気も、何もかもが凍っていく。
(違う! これは魔法じゃない!!)
全力で駆ける自分のすぐ後ろにまで冷気が迫り、地面を凍結させていくその様子を見たレヴィはさらに走る速度を上げる。息遣いが荒い。心臓が早鐘を打つ。疲労で身体が重い。それでも自分たちのために速度を決して緩めることなく走り続けた。
(もう少し・・・!)
迫る冷気のスピードが遅くなっていくのを確認したレヴィは、広場を出れば逃げ切れると確信した。そして広場から抜けたところで転倒。ヴィヴィオを下敷きにしないようにレヴィは身体を捻って自分の身体をクッションにする。
仰向けに倒れたままレヴィは肩で息をし、何度も咽る。ヴィヴィオとルーテシアが「レヴィ!」と泣きそうな表情で叫んでいるが、無茶が重ねたことで意識が徐々に落ちていっているためレヴィには聞き取れない。
(・・・魔法・・・じゃない・・・。間違い・・・なく・・・・“魔術”だ)
そう思ったところで、レヴィの意識が完全に途絶えた。
・―・―・―・―・―・
「これは・・・!」
フェイトが広場へ到着したときには事はすでに終わっていた。1.6km四方の広場の7割強が凍結され、周囲に強烈な冷気を放っている。そして212部隊の面々や車両はまるで氷塊を掘って作ったオブジェのようなものとなっていた。すぐさま応援に来た別の地上部隊に、氷漬けになった隊員たちの治療の処置を指示する。
「フェイトママ!」
「ヴィヴィオ!」
フェイトがヴィヴィオとルーテシアとレヴィの姿を捜していると、ヴィヴィオの方から声を掛けてきた。フェイトはフラついたヴィヴィオへと急いで駆け寄る。
「フェイトママ。ルールーとレヴィが・・・」
ヴィヴィオは事のあらましを話しながらフェイトを、ルーテシアとレヴィを休ませている場所へと案内する。フェイトがヴィヴィオに案内された場所は、広場の外周に設置されているベンチだった。ベンチで横にされているルーテシアとレヴィ。今は静かに寝息を立てて眠っている状態だ。ヴィヴィオもフェイトが来たことで緊張の糸が切れたのか、フェイトにもたれかかるように眠りについた。
「ヴィヴィオ!?・・・・お疲れ様、ヴィヴィオ、レヴィ」
ルーテシアとレヴィを担架に乗せて緊急車両へ運んでいた女性隊員たちに、「この子もお願いします」とヴィヴィオを預ける。発車する緊急車両を見送ったフェイトは現場指揮を始めた。
・―・―・―・―・―・
『――ということで、氷漬けにされていた212部隊は全員一命を取り留めました』
はやてのデスク上に展開されているモニターに映るフェイトがそう報告した。212部隊の隊員たちは重度の凍傷を負ったが、ハーデが手加減したのか誰ひとりとして死者が出ることはなかった。
「そうか。それは良かった。・・・それで、それもルシル君の仕業・・・・なんか?」
はやては聞き辛そうにフェイトに尋ねた。ハーデが現れたことをはやては知らないことからの質問だった。
『ううん。違うみたい。待って、レヴィが話してくれるから』
フェイトが横にずれると隣にレヴィが現れ、2人一緒にモニターに映る。レヴィはもう完全回復したようで、『お久しぶりです、はやてさん』と微笑みながら挨拶した。はやても「久しぶりや。元気そうで良かったわ」と返した。
「それでレヴィ、悪いけど話してもらってもええか?」
『うん。えっと、まずは・・・ルシリオンのことだけど、ルシリオンの記憶が一時的に戻ったよ』
「『っ!!』」
はやてとレヴィの隣に映るフェイトが目を見開いた。フェイトが『ルシルの記憶が戻ったの!?』とレヴィの両肩を掴んで尋ね、鬼気迫るフェイトに『落ち着いてフェイトさん』と宥めた。
『ご、ごめんレヴィ!』
「レヴィ、どういうことなん? ルシル君の記憶が戻ったっていうんは・・・?」
はやては努めて冷静にレヴィに尋ねた。レヴィは頷いて、広場で起きたことを話し始めた。
『ヴィヴィオが、ルシリオンに機動六課時代の写真を見せたの。するとルシリオンは動揺して、急に苦しみ出して・・・・そうしたら記憶が戻ったんだ』
「過去の自分の映る写真を見て思い出した・・・?」
『だと思う。だけど、急に尋常じゃない叫び声を出して苦しみ出した。首に環状魔法陣が展開されて、ルシリオンの首を締め付けるように消えた。そうしたらルシリオンの記憶がまた消えて、戦わざるを得なくなった、ということで』
レヴィが悲しそうに話した。それを聞いたはやてとフェイトが考え込む。
『それで結構重要な情報だと思うんだけど、ルシリオンは記憶を書き換えられて操られている可能性が高い』
『ルシルの記憶が書き換えられて――』
「操られてる!?」
フェイトとはやての驚愕の叫びに両手で耳を塞いだレヴィ。レヴィは耳を塞いでいた手を離し、話を続ける。
『えっと、ルシリオンがサフィーロとかいう状態に戻ったら、マスターから戦闘許可、とか言ってたし、ほぼ間違いないかな』
「マスター・・・」
『それじゃつまり、そのマスターとかいうのをどうにかすれば・・・』
「ルシル君を解放できる、ということやね、おそらくは・・・」
フェイトとはやては1つの希望を見出したため、表情が若干明るくなる。しかしレヴィの表情は晴れない。マスターというのに心当たりがあり、しかもおそらく本気ではない“力”を目の当たりにしたのだから。
『確かに解放できるかもしれない。ただ、そのマスターというのは一筋縄ではいかないと思う』
「どういうことや、レヴィ?」
レヴィには珍しい後ろ向きな発言にはやてはそう尋ねる。
『たぶんマスターというのは、広場と212部隊の人たちを凍結させた男のことだと思うんだけど・・・』
『確かにあんな光景を見れば一筋縄じゃいかない相手なのは間違いないよ。でも、ルシルを解放することが出来れば、きっと他の幹部たちの妙な力を無くすことが出来るはず』
「それだけでも十分相対する価値はあるな」
フェイトとはやては“テスタメント”のリーダーであるハーデをどうにかすれば全てに決着がつくかもしれないと考えた。
『そのマスターなんだけど、魔術師である可能性があるの』
「『な・・・!?』」
フェイトとはやての何度目かの驚愕。
『最後の――広場を凍結させた術。アレからは強烈な神秘を感じた。ルシリオンやシャルロッテが扱う魔術と似た神秘。だからあの男が使った広域凍結も魔術だと思う』
レヴィから告げられた“特務六課”にとって最悪と言っても過言ではない情報。敵に魔術師が居る。それが何を示すのか。はやてとフェイトはよく解っている。戦ってどうにか出来る存在ではない。思い出すのは、かつてルシリオンとシャルロッテがみんなに見せた2人の記憶で耳にした言葉。
――神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以ってあたえるべし――
現代の魔導師では過去の魔術師には勝つことは出来ない。
『界律の守護神テスタメントであるルシリオンの記憶を書き換えるなんて、魔術くらいのデタラメが無いと出来ないはず』
「そんな・・・やっぱり今回の事件は、私らじゃ解決できへんのか・・・?」
はやてが背もたれに体重を預け、天井を見上げている両目を右腕で隠す。レヴィの隣に映るフェイトも完全に呆けている。思考がほぼ停止した状態だ。ルシリオンをどうにかすれば何とかなる。そう思っていたときに、その彼を操る魔術師の可能性のある存在が敵に居る、と知ったのだ。
『それでなんだけど、はやてさん。わたしも嘱託魔導師として特務六課に入れてもらっていい?』
レヴィからの突然の“特務六課”へ参加したいとの言葉に、はやてとフェイトは唖然とする。
『わたしなら――万全で切り札を使った状態のわたしなら、何とか対抗できるはずだから。この身はかつて神秘であり、そしてこの身をこの世界に繋ぎとめる生定の宝玉。アレもまた神秘の塊。5年前ほどの神秘は扱えないけど、それでも一切の神秘の無い皆さんよりかはまともに戦えると思うの』
レヴィの最大の切り札、“許されざる嫉妬化”。“生定の宝玉”に宿る神秘を解放して、擬似的に神秘を扱うことを可能とする術。レヴィヤタンとしての“力”は5年前に本体を消したために使えないが、誰も扱えない神秘を扱えることだけでも十分だった。
「レヴィを・・・か」
はやてはどうするか迷う。レヴィの言う通り自分たちは神秘を使えない。確かにレヴィは心強い戦力になることに間違いなかった。嘱託とは言え巻き込んでいいのか迷っていた。それを察したレヴィは『わたしにも手伝わせてください』とハッキリと告げた。レヴィの瞳に揺らぎはない。
「・・・判った。レヴィ・アルピーノを特務六課に迎え入れる」
『はやてさん・・・ありがとう!』
「よろしくな、レヴィ。期待してるよ」
その本気の瞳を見たはやては、レヴィ・アルピーノの“特務六課”への参加を許可した。
この後、ルーテシアに事情を伝えたレヴィは、そのあまりの勝手さに散々怒られた。
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