魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep15引き裂かれた父娘の絆~VS.Rusylion~
フェイトは自分のデスクで頬杖をついて、はやてに聞いた“テスタメント”幹部のことを考えていた。任務中に殉職した管理局員が何らかの術で蘇り、“テスタメント”を組織したのではないか、という内容だ。
フェイトはあまりの内容に溜息を吐いた。悩むのもそこそこにし、ヴィヴィオが家に帰ったかどうか確認するために通信を入れようとしたとき、ヴィヴィオから通信が入った。フェイトはいいタイミングだ、と思いながら繋げる。
『フェイトママ! 今ルシルパパとレヴィが戦ってるの!』
焦りや悲痛に染まるヴィヴィオの表情と声、その内容にフェイトは目を見開いた。
『高町ヴィヴィオ、アルピーノ姉妹を危険因子と認定。マスターより戦闘許可・・・受諾。・・・すまないが君たちをこの場で撃墜する』
泣き顔に歪むヴィヴィオの映るモニターから話が真実だという証の声が聞こえた。フェイトは「ルシル!」と大声を上げて勢いよく椅子から立ち上がる。ヴィヴィオが『フェイトママっ、どうすればいい!?』フェイトにどうすればいいか尋ねた。
「場所を教えてヴィヴィオ。地上部隊に連絡を入れるから!」
フェイトはヴィヴィオから今どこに居るのかを聞き出し、上司である「はやて!」を呼んだ。
「うん。フェイトちゃん行ったって! 地上部隊へは私が連絡入れとく!」
フェイトとヴィヴィオの通信を聞いていたはやては、フェイトの出撃許可を即座に出す。はやてに「うん!」と力強く応えたフェイトは、愛するヴィヴィオの元へ向かうためにオフィスから駆けだした。
・―・―・―・―・―・
「レヴィ・アルピーノを最大気危険因子と断定。この場で最優先に撃墜する」
そう告げたルシリオンの周囲に蒼いスフィアが8基展開される。パチンっと指を鳴らし、魔力弾を一斉にレヴィへと襲撃させた。
「っとと!」
レヴィは高速移動魔法・瞬走壱式を発動、容易く回避する。しかしそこで気付く。狙いは自分ではなく「ヴィヴィオ、ルーテシア!」だということに。
「っの!」
「大丈夫!」
――トライシールド――
すぐさま引き返そうとしたが、ルーテシアがシールドを展開。魔力弾はシールドに当たる直前に炸裂。閃光弾として放たれた魔力弾だったことで3人の視界が一時潰れた。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
激しい閃光の奥からルシリオンの詠唱が3人の耳に届いた。リヴィはその場から後退し、ルーテシアもヴィヴィオの手を取ってルシリオンから距離を取るべく後退した。閃光が収まるも、発光が突然だったこともあって3人の視界は明滅していた。
「まずは君からだ」
背後から聞こえたルシリオンの宣告にレヴィはハッとし、再度その場から逃れようとした。しかし、「うぐ!?」レヴィは胸倉を掴まれ、グイッと持ち上げられた。
ルシリオンの足元に幾何学模様の円が展開され、そこから強烈な閃光が螺旋を描いて噴き上がる。その光の奔流の中、レヴィは魔力を全て防御に回して攻撃が終わるまで耐える。
「くぅぅぅ・・・!」
「「レヴィ!!」
ようやく奔流が止み、レヴィは何とか耐えられたと思ったが、それで終わりではなかった。ルシリオンはレヴィを勢いよく地面に叩きつけ、背中から叩きつけられた彼女は「かはっ」と咽る。
「さぁ行くぞ。レヴィ・アルピーノ!」
――ラディウス・テンペスタース――
幾何学模様の円がひと際強く輝き、先ほど以上の光の奔流が噴き上がった。光が天へと昇り切り、寂れ静かだった広場がさらに静寂に包まれる。ルシリオンは力なく手足を広げるレヴィをさらに持ち上げる。
「レヴィ! もうやめてルシルパパ!」
「これ以上はさせない!」
――キャプチュード・ネット――
ルーテシアが太いロープ状のバインドを発動し、ルシリオンの四肢を拘束してギュッと締め上げた。特にレヴィの胸倉を掴む左手首を強く締め、その手を離させた。
「げほっ、げほっ」
解放されて地面にへたり込んで咳き込むレヴィが無事であることにホッとしたヴィヴィオが「クリス、セットアップ!」と告げ、大人モードとなって臨戦態勢。
「ルシルパパ・・・!」
ルシリオンが大人モードなったヴィヴィオへと視線を移した瞬間、レヴィは目をカッと見開き、両手の平に魔力スフィアを生成。その魔力スフィアをルシリオンの腹へ打ち込むように掌底を繰り出した。
「いっつ!」
レヴィの一撃は外れた。ルーテシアのバインドを即座に引き千切って自由となったルシリオンがバック宙すると同時に彼女の両腕を蹴り上げたからだ。的を失った魔力スフィアが霧散する中、ルシリオンはレヴィから距離を取った。
「レヴィ!」
「大丈夫!?」
「なんとか・・・。結構魔力を持っていかれたけど、まだまだ戦える。それよりヴィヴィオ、大人モードになってどうするの? 戦うつもり?」
「・・・戦う。それでルシルパパを止められるなら。ホントは嫌だけど、それでも・・・わたしも戦う」
「・・・判った」
「オッケー。私が全力でサポートするよ」
「うん、ありがとう、ルールー、レヴィ」
構えを取るヴィヴィオとレヴィ、後衛に就いたルーテシアを見つめるルシリオンが「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱。
「トーデス・ドルヒ!」
先制はルーテシアの短剣形射撃魔法、19発。ルシリオンを包囲するような射線だったが、彼が全身より魔力を放出したことで弾き返されてしまった。そこにヴィヴィオとレヴィが一気に距離を詰め、放出が終わったルシリオンへと拳打と蹴打をそれぞれ放つ。左右同時から仕掛けられたヴィヴィオの拳打を裏拳でいなし、レヴィの蹴りを前腕で受け止める。
「ディバインバスターッ!」
「紫光破!」
2人はすぐさまルシリオンの側から離脱し、右拳を突き出して砲撃を放った。ルシリオンは慌てることなく迫る砲撃に手を翳し、蒼の盾を斜めにして展開する。2発の砲撃は盾によって軌道を上へと逸らされ、空高くに消えていった。
「クラウソラス!」
間髪入れずルーテシアが砲撃を発射。ルシリオンはなんと前後開脚することで回避した。その様に目を見開くヴィヴィオ達だが、本当に驚くのはこれからだった。ルシリオンは、ブレイクダンスのウインドミルを始め、そして足裏より・・・
――エンディング・ストライク――
「「「うっそ・・・!」」」
砲撃を放った。スピンを行いながらの砲撃ということもあって、ヴィヴィオ達は慌てて回避行動に移る。だが、砲撃の射線が上下左右と目まぐるしく変わるため3人は動きっぱなしになってしまう。
「格好いいけどウザい!」
「レヴィ、しゃがんで!」
「ルールーは跳んで!」
そうして砲撃は止み、ヴィヴィオ達も肩で息をしながら足を止めた。
――ナイト・オン・ザ・ブラッドライアー――
それを狙っていたかのようにヴィヴィオ達の足元から黒い竜巻が生まれ、3人を飲み込んだ。
「「「~~~~~~っ!!?」」」
頭の中に流れてくる不愉快な衝動に、3ヴィヴィオ達は堪らず叫び声を上げる。上空へと巻き上げられていた3人は着地することも叶わず、ドサリと地面に叩きつけられ、苦悶の声を漏らした。そんな3人へとゆっくり歩み寄って行くルシリオンだったが・・・。
「シューター・・・、シュート・・・!」
――ソニックシューター・アサルトシフト――
倒れ伏したままのヴィヴィオの周囲に虹色のスフィアがいくつも展開され、一直線にルシリオンに迫る。
「無駄だ」
――知らしめよ汝の忠誠――
左手に魔力剣を生成し、ソレを振るって魔力弾を全て斬り裂いて迎撃した。さらにルーテシアがルシリオンの周囲に魔法陣をいくつも展開し、そこに魔力弾を4発と発射。魔力弾が魔法陣の内面に着弾すると、ピンボールのように反射した。
「リフレクト・ミラージュ!」
それがルーテシアの反射弾攻撃魔法だ。ルシリオンは反射する魔力弾の射線をしっかりと見極め、魔力剣で魔力弾と魔法陣を斬り裂く。ヴィヴィオとルーテシアが稼いだその時間でレヴィは体勢を立て直し、背を向けるルシリオンへと駆け寄った。
「こんのぉぉぉぉぉぉッ!!」
――崩山嵐蹴牙・砲双掌――
跳躍したレヴィは、振り向いたルシリオンの胸部を数回踏みつけるような蹴りを入れ続けた。最後に彼が仰け反るほどの全力の蹴りを入れ跳躍、地面に着地したと同時に両掌底を打ち込み、先程は不発に終わったゼロ距離砲撃が放った。
「ぐぅぅ・・・!」
すみれ色の光が広場を染める。吹き飛んだルシリオンがヴィヴィオの元へと吹っ飛んでいくのを見たレヴィは、ヴィヴィオに向けて「やっちゃえ!!」と叫んだ。
「ごめんねルシルパパ・・・!」
ヴィヴィオは身体を捻って右拳を引き、右足の踏み込みと同時に右拳を突き出す。ルシリオンは体勢を整えることが出来ず、腹部にヴィヴィオの拳打がドゴン!と音を立てて刺さる。
「むごぉ・・・!」
――ディバインバスター――
拳打の後のゼロ距離砲撃の直撃を受け、ルシリオンは再び吹き飛ばされてしまう。その衝撃にバウンドしながら地面を転がり続けるが、両手を地面について何度もバック宙し勢いを殺して、地面に着地。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
脱げたフードを被りなおして詠唱。追撃に来ていたレヴィへと「小賢しい・・・!」と言い放ち、全身に蒼い炎を纏わせた。
――グランドヴァイパー――
迫り来るレヴィへと体勢を低くして高速で突進するルシリオン。蒼炎の塊が自分に迫ってくるその光景にレヴィは息を飲み、全力で跳躍した。しかしレヴィのその選択は間違いだった。
「甘いッ!」
ルシリオンも跳躍。空中に漂うレヴィへと蒼炎の対空突撃が迫る。しかしレヴィはニヤっと笑みを浮かべ、「瞬走弐式」と囁いた。その瞬間、ルシリオンの視界からレヴィの姿がかき消える。
空中でひとり蒼炎の中から周囲を見渡す。そして発見した。そこは地上。レヴィはヴィヴィオの隣に佇んでいた。彼は「疾い」と驚嘆。
全身に纏っていた蒼炎が消えルシリオンもまた地上へと降り立った。レヴィが使ったのは空中用の高速移動魔法・瞬走弐式。それを発動し、突撃の射線上から地上へと離脱していた。
(今のは結構ヤバかったかも・・・。というかゼロ距離砲撃をあんなに受けて平然ってどれだけ?)
(どうしてルシルパパは始めからこんなすごい力を使わなかったんだろう・・・?)
(結構時間は稼げてるはず。きっと、そろそろフェイトさん達が来てくれる・・・!)
距離をおよそ40mと開けた位置で対峙するルシリオンを見て、ヴィヴィオとレヴィとルーテシアはそれぞれ思う。ゆっくりとルシリオンが歩み寄ってくることで3人は警戒する。徐々に狭まる3人の距離。
「ブースト、レベル3」
レヴィが囁いた。すると両手にはめられた“アストライアー”の甲にあるクリスタルコアが輝き、レヴィの翠色の瞳が薄く輝く。
「レヴィ! それはやり過ぎじゃ――」
「ぅく、ルシリオンの異常に堅い防御を・・あぅ、貫くならこれくらいしないと。やられる前にやれ・・っく・・・それが今のわたしに突き付けられた現実・・・ふふ、ふふふ」
ルーテシアの言葉を遮り、ドッと汗をかき始めたレヴィはルシリオンを睨みつける。レヴィは心配そうにしているルーテシアやヴィヴィオに「大丈夫だから」と微笑み、大きく深呼吸してからルシリオンへと歩み寄っていく。距離が少しずつ狭まる。残り30、25、20、15、10・・・。
――瞬走壱式――
レヴィの姿が消える。身体強化を重ねがけした今のレヴィは正しく目に見えぬ疾風だった。ルシリオンの目の前、体勢を低くしたレヴィが現れ、彼を上目づかいで睨みつける。ルシリオンの目がレヴィの居る下へ向こうとしたときにはすでに彼女は攻撃態勢に入っていた。
「いっくよぉ~っ♪」
レヴィは両手を地面につき、両足でルシリオンに足払いを掛けた。ガクっと体勢を崩すルシリオンにアッパーを食らわし、大きく仰け反らせる。すぐさま彼の左側へと一歩踏み込んで回し蹴りを背中に叩きこみ、彼を宙に浮かす。
「ぅぐっ」
呻き声を上げたシリオンへの連撃はまだ続く。レヴィは跳躍し、右足を垂直に上げ腹部に踵落とし。地面に背中から叩きつけられた彼はバウンドし、また僅かに浮いた。
「ふふ、うふふ・・・」
すぐさま地上へと移動したレヴィは、バウンドして地面から離れていたルシリオンの背中を蹴り上げ、さらに浮いたところを連続回し蹴りで空へと打ち上げていく。レヴィは再びルシリオンより高い位置まで跳躍し、両手を組んで思いきり胸部へと振り下ろした。
組んだ拳の振り下ろしと同時に放たれる砲撃を受け、ルシリオンは高速で地面へと落ちていった。しかし地面に叩きつけられる前に体勢を整え、ズンッと地面がめり込むほどの勢いで着地した。
「おのれ・・・!」
――瞬走弐式――
レヴィを視界に入れるために上を見るが、すでにレヴィは背後へと移動していた。空中用の高速移動魔法・瞬走弐式で移動し終えていたのだ。
「うふふ・・・ふふふふふ」
楽しそうに笑い声を漏らすレヴィ。ブーストのレベル3の副作用・興奮。気持ちが昂り悦楽状態に入るのだ。長時間の悦楽状態は中毒ものになってしまうため、レベル3には時間制限が定められていた。
「あはっ♪」
レヴィが回し蹴りでルシリオンの首を背後から襲撃する。首に強烈な蹴りを入れられたルシリオンが吹き飛ぶ前に、レヴィはその場で1回転し、彼の脇腹に肘鉄を打ちこむ。くの字に体を折ったルシリオンが「がはっ」と苦悶を漏らす。
――斬裂爪閃――
レヴィの両手の各指先から、2cmほどのすみれ色の魔力爪が生まれる。まずは左手で振り下ろしの一撃を入れ、すぐさま右手の振り上げの一撃を入れて身体を浮かせる。
そして独楽のように高速旋回して、魔力爪を連続でルシリオンの身体に様々な角度から叩きこみ、さらに魔力付加された回し蹴りも入れていく。すると、パキィィィンと何かが割れた音が周囲に響いた。
「っ!」
ルシリオンの身を護っていた障壁が砕けた音だ。彼の目が見開かれる。想定外の事態だった。そんな彼へとレヴィの斬裂爪閃の最後の一撃が迫る。ギリギリのところで蒼の盾を張り、攻撃を弾いた。
「あは・・あははは・・・やるぅ♪」
レヴィは弾かれ砕かれた魔力爪を見つめつつ、そう賛辞の言葉をルシリオンに贈る。すぐさまレヴィは突撃して、近距離用砲撃・ハーツイーズ・ストライクを放つ。ルシリオンは回避を選択し、放たれた2発の砲撃をやり過ごす。しかしレヴィの猛攻は止まらない。
――煌蹴連昇破――
瞬走壱式でルシリオンの右横へと現れ、後ろへ振り上げた右足を前方へ向けて蹴り上げる。爪先からすみれ色の光線が生まれ、それは地面を走り、その一直線に伸びた光線から前方へ向けて閃光が噴き上がる。それが全てルシリオンを襲撃した。
「うふふふ、どう? お気に召しまして?」
直撃を受けて宙へと飛ばされたルシリオンを見て、それは楽しそうに笑みを浮かべるレヴィ。ルシリオンは身体を捻り着地。先程までとは違いフードの中で痛みに顔を歪めていた。
「さぁ、もっとわたしと踊ろう♪」
レヴィのその態度にルシリオンは「冗談ではないわッ!!」と怒りに吼え、地面に両手を叩きつけた。
――天地に架かれ汝の明星――
魔法陣が四方八方に何十枚と連って地面に巨大な渦を描き、上面よりを何十発という砲撃を発射。砲撃は途切れることなく持続し、砲撃の壁を築いた。ルシリオンはその中でもレヴィの気配を手繰り寄せ、ハッキリと位置を特定した。
「輝き流れる閃星!」
砲撃の壁が数えるのも億劫になるほどの小さな魔力弾へと変化した。そのあまりの多さにヴィヴィオとルーテシアが絶句した。レヴィも「あ、これダメかも~」と脂汗をかいている。
「殺しは厳禁と命令は受けている。安心して食らうがいい。ジャッジメント!」
下される号令。無数の魔力弾が一斉にレヴィへと殺到していく。
「連続瞬走壱式!」
レヴィの姿が掻き消えた。高速移動魔法を絶えず発動し続け、力技で強引に弾幕を突破しようと言うのだ。そんなレヴィを撃つべく魔力弾が全周囲から迫るが、彼女に直撃する魔力弾は一向に現れない。その全てが掠っていくのみ。
「ルールー! 何かない!?」
「そんなこと言われても・・・! こんな弾幕、私やヴィヴィオじゃどうしようも・・・」
ヴィヴィオとルーテシアが、レヴィを助けようとするがその手段がない。レヴィは目にも止まらぬ速さで公園内を駆け続け、ルシリオンは腕を組んでそれを見届けている。
「ルシルさんを狙う。ヴィヴィオはここに居て!」
「ルールー!?」
ルーテシアがヴィヴィオにそう言い、ルシルへと攻撃を加えるべく行動を開始する。
「ソニック・・・!」
高速移動魔法を発動し、ルシリオンの背後へ向かうために弾幕の中を突っ切っていくルーテシア。ルシリオンはレヴィに気を取られているのかルーテシアへ1度も目を向けず、彼女の接近を許した。
(私の全力で・・・!)
ありったけの魔力で生成した放電する魔力スフィアを右手の平に固定。
「レームング・シュラーク!!」
そして、ルーテシアは魔力スフィアを打ち込むように掌底を繰り出した。魔力スフィアが直撃するまでの僅かな時間。その間にルシリオンは魔力弾のうち3発を引き戻して、1発をルーテシアの右手首、1発を脇腹、1発を右太ももに直撃させた。
「きゃう!」
ルーテシアは着弾時に起きた爆発によって吹き飛ばされ、ボロボロになっている地面をごろごろ転がり、気を失ったのか倒れたままとなった。
「ルールー!」
「ルーテシア!?」
ヴィヴィオの悲鳴にレヴィが思わず足を止めてしまい、「しまっ・・・!」残りの魔力弾が殺到するのを許してしまった。
「レヴィーーーーー!」
何度も起こる魔力爆発。発生した白煙の中から、防護服がボロボロになっているレヴィがフラつきながら歩き出てきた。ヴィヴィオが急いでレヴィの元へと駆け寄って、彼女の体を支えた。
「レヴィ!? レヴィ!」
「だ、だいじょう・・・ぶ・・・。ルー・・・テシアは・・・?」
ヴィヴィオの視線の先、ルーテシアは未だに倒れたままだが、胸が上下している。つまり呼吸をしていることが判り、一応は無事と見て間違いないだろう。どちらかと言えば、何十発という魔力弾を受けたレヴィが意識を保っていることが異常だった。
(このまま逃げた方が良いかもしれない。今のわたし達じルシルパパに勝てない・・・!)
レヴィを抱えてながらルーテシアの元へと向かうヴィヴィオ。大人モードである今ならルーテシアとレヴィを脇に抱えれば逃げることは可能だ。問題は、ルシリオンがそれを黙って見ているか、だ。
『レヴィ、何とかしてルシルパパから逃げる。もうこれ以上は無理だよ』
『・・・ヴィヴィオ、あと少し粘るよ。今ルシリオンを倒しておかないと絶対まずい。そんな気がする。だから・・・一か八かのムーンライト・・・行くよ』
受けたダメージ量によりブーストのレベル3が強制解除され、レヴィは冷静を取り戻していた。そしてルシリオンの障壁が失われている今こそ倒すべきだと判断を下す。
「っ!? そんなダメージで撃てるわけ――っ!」
レヴィのムーンライトという単語にヴィヴィオは驚愕し、その提案を無茶だと嗜めようとしたが、レヴィの瞳に宿る決意と覚悟の眼光に口を噤まざるを得なくなった。
「決めてヴィヴィオ。わたし達でルシリオンを助けよう?」
「・・・判った。やろう、ムーンライト・・・!」
ヴィヴィオもここでルシリオンを倒す覚悟を決めた。レヴィに「もう立てるから」と言われ、彼女を降ろしたヴィヴィオはまず、布石となるバインドを成功させるために、どうルシリオンを誘導するかを考える。そして思いついたのが、彼女の母であるなのは直伝の拘束魔法。
(必ず成功させてみせるっ!)
ヴィヴィオはこちらに向かって歩いてくるルシリオンと対峙する。眉を顰めるルシリオンだったが、あくまで標的はレヴィと判断して、そのままヴィヴィオの脇を通り過ぎようとした。
「わたしが相手だよ、ルシルパパ・・・!」
「大人しく投降してくれれば、これ以上の攻撃を加えるつもりはないのだが」
「でもレヴィは倒すつもりなんでしょ?」
「彼女の戦闘能力は危険だからだ」
「なら投降なんてしない。ルシルパパに勝って、大手を振って帰る!」
ヴィヴィオの意思表示を聞いたルシリオンは「残念だ」と速度を上げて突撃して、蒼の魔力を纏わせた左拳を振るった。ここでルシリオンは選択を謝った。砲撃かまたは無視をすればよかったのだ。
――捕縛盾――
ヴィヴィオの展開したベルカ魔法陣のシールドに衝突するルシリオンの拳打。ピシッとひび割れる音がしたその時、シールドから幾本もの鎖が伸び、ルシリオンの身体を何重にも捕えた。ヴィヴィオはすぐさまルシリオンへと魔力を纏わせた拳打と蹴打を何発も叩きこむ。そして最後に「リボルバー・スパイク!!」という掛け声とともに打ち下ろしの回し蹴りを叩きこんだ。
「っぐぅ・・・っ!」
地面へと叩きつけられたルシリオンを中心にすみれ色の魔法陣が展開された。それは最初にルシリオンを捕えた高速捕縛魔法・マナクルで、さらに彼を何重にも拘束し地面に縫いつけた。ルシリオンを中心として5mと離れた場所にヴィヴィオと“モード・バスター”形態となっているレヴィが対角線上に立つ。
「いくよヴィヴィオ!!」
「うん、レヴィ!!」
3人の足元と頭上に巨大なすみれ色のベルカ魔法陣が展開される。レヴィとヴィヴィオの「はぁぁぁぁッ!!」上下の魔法陣の放射面から虹色とすみれ色の攻撃魔力が噴き上がり、拘束を解こうとしていたルシリオンを襲う。
「ぐぉぉぉ・・・!」
レヴィとヴィヴィオは高く跳躍し、頭上に展開されている上部ベルカ魔法陣へと着地。
「集まれ・・・!」
レヴィが上部魔法陣の中心に右手を付き、周囲の魔力を集束させていく。かなりの速さで大きくなっていくすみれ色の光球。息も絶え絶えに辛そうな表情で「ヴィヴィオ!」と合図を送り、ヴィヴィオは「うん!」と力強く答えてさらに跳躍する。
振り上げた右拳に集束する虹色の魔力。レヴィはその場から急いで退避。直視できないほどに虹色に煌く右拳。ヴィヴィオは落下の勢いのまま足下にある上部魔法陣を殴りつけ、それと同時にディバインバスターを撃った。
「「ムーンライト・・・ブレイカァァァァーーーーッ!」」
レヴィが作りだしたすみれ色の光球に、ヴィヴィオの虹色の砲撃が撃ちこまれる。すると集束していたすみれ色の光球が拳大よりさらに小さく収縮し、そして一気に炸裂。特大の砲撃となり、バインドで身動きの取れないルシリオンを飲み込んだ地面に着弾した集束砲撃がドーム状の衝撃波となって広場をすみれ色に染め上げ、光と音を完全に消し去った。
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