Element Magic Trinity
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妖精達に日常あれ!
【片思いの無自覚バカップル】
魔導士ギルド、妖精の尻尾には多くの人間が属している。
皆家族のような絆で結ばれており、問題ばかり起こしているが絆の強さと魔法の強さはどこにも負けないギルドだ。
そのギルドの中でも、特別仲のいい奴等がいる。
「ルーシィ!おはよぉっ!」
「うわっ!」
例えば、この2人。
「ちょっとルー!いきなり抱きついて来ないでよ!」
「えへへっ、ごめんね~」
青年の名はルーレギオス・シュトラスキー。ルーの愛称で呼ばれている。
エメラルドグリーンの髪に、実年齢より5歳は幼く見える童顔、身体つきも男にしては華奢でよく女に間違われている。
少女の名はルーシィ・ハートフィリア。
金髪に美少女の類に入る顔立ち、スタイルもよく、青いリボンが風に揺れる。
ルーはルーシィが大好きであり、飼い主にじゃれ付く子犬のようにルーシィにじゃれ付いているのだ。
「あ、そーだルーシィ。そろそろ今月の家賃危ないんじゃない?」
「・・・何でアンタは毎回毎回ピッタリ当てるのかしら・・・そう、だから依頼選んでたの」
「そっかー」
ルーシィが組んでいるチームは、実力的に見て最強だ。
そして、常識の無さも最強と言っていいだろう。
何せメンバーは仕事に行けば必ずと言っていいほど何かを壊すナツ、すぐ服を脱ぎナツとは犬猿の仲のグレイ、ギルド最強の女魔導士のエルザ、最強の女問題児であり半殺しのプロであるティアなのだから。
この常識という言葉を絶対に知らなさそうなメンバーの中に常識人ルーシィが1人入ったところで結果としては何も変わらず、報酬減額は当たり前、悪けりゃ1Jももらえない。
そんな感じで依頼に行くので、ルーシィはよく金欠になって家賃7万Jが払えなくなってしまう。
で、そんな時にピンポイントでそれを当てるのがこのルーなのである。
「うーん・・・“洞窟の魔物退治”は無理だし・・・“村と街を繋げる道を塞ぐ岩を壊す”ってのも無理そうだよね・・・」
「ねぇルーシィ、見て見てっ!」
「ん?」
依頼書を1枚1枚目で追うルーシィに、ルーが弾む声で呼びかける。
その両手には1枚の依頼書が握られていた。
「えーっと・・・えっ!?何コレ!」
「人気作家が魔導士の小説書きたいから魔法を生で見せてほしいんだって。すっごくルーシィ向きだと思うんだけど、どうかな?」
「行くっ!行きたい行きたい!ありがとルー!」
「わっ」
こてっと首を傾げてルーは微笑む。
小説家を目指すルーシィにとってはこれ以上ないくらいに嬉しい依頼だ。
ルーの両手から依頼書を受け取り、跳ねるようにミラのいるカウンターへと向かっていく。
「ミラさん!この依頼行ってきます!」
「あら、ルーシィ。なんだか楽しそうね」
「はい!あたし好みの依頼をルーが見つけてくれたんで!」
そんな会話をしながらミラに依頼書を手渡し、受理してもらう。
「行ってきますっ!」
「いってらっしゃい、ルーシィ」
「気を付けていってこいよー」
ミラが笑顔で手を振り、カウンターの席に座っていたアルカがヒラヒラと手を振る。
ルーシィはギルドの入口へと足を進め――――
「あーっ!待ってよルーシィ!」
その後ろから、学生鞄を片手に持ったルーが駆けてきた。
「僕も行くっ」
「え?でも依頼、討伐じゃないし・・・あたし1人でも大丈夫だよ?」
「そ、そーじゃなくてっ」
首を傾げるルーシィにルーは少し躊躇うと、淡く頬を染めてはにかんだ。
ルーシィは知っている。
こういう表情をした時のルーは、聞いてるこっちが照れそうな言葉を言う事を。
「たまには、2人っきりもいいかなーって・・・ダメ?」
「!」
悪戯っぽく微笑み、ルーが首を傾げる。
純情ルーシィはそれだけでも頬を染めてしまう。
すると、ルーの表情がいつもの子犬のような愛らしいものへと戻った。
「それはOKって事でいいよね?それじゃ行こう!」
「ちょっ・・・あたし何も言ってないけど!?」
「レッツゴー!」
「人の話を聞きなさーい!」
満面の笑みで拳を突き上げるルーに手首を掴まれ引かれ、ルーシィはツッコみまくる。
その様子を見ていたアルカは呆れたように微笑み、ぬるくなったコーヒーを啜った。
「・・・こういう事って実際にあるんだな」
そして、呟く。
「ブラックのはずなんだが・・・やけに甘ェ」
【完璧な・・・?】
「ティアー!オレと勝負し」
「はいスタート」
「ごべばっ!」
ナツが完全に言い終える前にティアはその腹目掛けて鋭い膝蹴りを決めた。
不意打ちにナツは倒れる。
勝者、ティア。
「不意打ちだとっ!汚ねぇぞテメェっ!」
「本当の戦いならそんな事言ってられないと思うけど」
「ぐっ・・・」
正論が返ってきた。
ナツの中にその正論に返せる言葉はない。
再び勝者はティアである。
「・・・お前ってさー」
「何よ」
「出来ねぇ事あんの?」
「は?」
怪訝そうな表情でティアはナツに目を向ける。
「だってよ、お前基本何でも出来るだろ?だから」
確かにそうだ。
ティアは基本完璧に何でもこなす。
まぁそれは彼女のストイックというか完璧主義な性格からきているのだが。
そう言われ、ティアは思い出すように口を開いた。
「あー・・・昔からいろいろ教え込まれてきたからね。料理にソシアルダンス、裁縫に速読に計算に絵画に文章書きに綺麗な文字の書き方に、剣舞なんかもやったかしら。剣とか斧とかの武器の扱いもそうだし、趣味のガラス細工もそう。楽器を弾くのも教え込まれたわ。日曜大工っぽいのに陶芸、それから掃除洗濯、あとカラーコーディネートとか。情報処理もいろいろ教え込まれて、必要なものとそうでない物に分けるようになったからついたようなものだし。他にもいろいろね・・・そういえば、魔法だけは誰にも教わってないわ。全て独学」
淡々とした声の中に山のような出来る事が溢れる。
ナツは思わず絶句した。
昔からこれだけの事を教え込まれてきて、しかも彼女を最強の女問題児にするほどに強い魔法は全て独学。
唖然呆然とするナツに、ティアは「でも」と続けた。
「私に出来なくてアンタに出来る事、あるじゃない」
「?」
自分の事ながら、ナツには全くピンとこない。
頭に?を浮かべるナツに、ティアは薄く笑みを浮かべた。
「バカみたいに突っ走る事とか、無駄に諦めの悪い事とか」
「・・・」
どうも褒められた気がしないのは、気のせいか?
【怪しい?】
「なぁ、ティア」
「?どうしたのよグレイ、なんか変だけど。あ、アンタが変態なのは前からだけど」
「本気で殴るぞ」
「水を殴れるものなら、どうぞ」
「・・・ハァ」
ギルド1と言ってもいい程の曲者の言葉には勝てない。
だが、ギルド1切れ者であるのも彼女である。
何であろうと、頼れるものは頼らせてもらいたいのが今のグレイの状態だ。
「・・・お前に相談があるんだけどさ」
「何?内容によっては答えてあげる」
頬杖をつき、ティアが先を促す。
その向かいに腰掛けたグレイは溜息をついて口を開いた。
「最近、変な視線を感じるんだよな」
「自意識過剰なら専門のルーシィへどうぞ」
「そうじゃねーって!ギルドに来る度に何か見られてるんだよ!それも毎日!」
「ふーん・・・」
どうやら本当らしい。
ティアは何気なく視線を彷徨わせた。
そして―――――見つける。
「!」
青い髪をショートカットにした、ジュビアを。
それだけで、ティアは全てを把握する。
(なるほど、ジュビアね)
ジュビアはグレイに惚れている。
それも一目惚れ、出合った瞬間敗北を認めたのだ。
そしてティアの唯一の“友達”でもある。
数秒何かを考えたティアは、ゆっくりと口を開いた。
「安心なさいな、グレイ。その視線は変でも怪しくもないわ」
「何言ってんだ!?ここんトコ毎日視線感じてんだぞ!?怪しい以外の何物でもねーじゃねーか!」
「怪しくないって言ったら怪しくないっ!」
「お前適当だろ!?」
これには思わずグレイも反論する。
が、ティアはティアで必死なのだ。
「別にアンタに害はないんだからいいでしょ!」
「そういう問題じゃねーんだよ!こっちは迷惑してんだ!」
「迷惑なんて失礼な!謝りなさい!」
「誰にだよ!?」
「アンタを見てる人によ!これは可能性だけど、アンタが好きな物好きかもしれないじゃない!」
「失礼なのはどっちだ!」
珍しくこの2人がぎゃあぎゃあと口論する。
そんな中、ジュビアは柱の陰にいた。
(ティアさん・・・ジュビアは物好きじゃありません・・・)
【苦労人の会】
「・・・という訳で、この間は大変だったんだ」
「そうですか・・・ライアーさんも苦労してるんですね」
「ああ、何かと苦労するのは俺の役回りになっている・・・だがフィジックス、お前も大変そうだな」
「まぁそれなりに・・・まだここに入って日も浅いし、未だにこのテンションについて行けないと言いますか・・・」
「やはりこのギルドはテンション高いからな、仕方ない事だ」
ライアーとアランは酒場のテーブルの1つを陣取り、話し合っていた。
お互いがお互いの話に耳を傾け、解る解るというように頷く。
「この間もいろいろ・・・ハァ、思い出しただけで疲れそうです・・・」
「無理に言う必要はない。だが、俺はいつでも話を聞くぞ」
「ライアーさん・・・!」
キラキラとした瞳でアランはライアーを見つめる。
ライアーも弟を見るようにアランに優しい目を向けた。
「何アレ」
「さあ?」
本から顔を上げたティアが問い、近くにいたエルザが首を傾げた。
【興味津々】
「なー、シュラン」
「お呼びでしょうか?アルカ様」
くいくいっと手招きされ、シュランはアルカに近づく。
アルカの隣の席に腰掛け、小さく首を傾げた。
「アルカ様が私をお呼びになるとは珍しいですね。何か御用でしょうか?」
「おー」
気の抜けた返事をすると、アルカはシュランのローズピンクの髪に触れた。
「!」
その表情は真剣で、シュランは思わず背筋を伸ばす。
性格がどうであれ、アルカは週刊ソーサラーの彼氏にしたい魔導士ランキング上位ランカー。顔立ちは整っている。
「シュラン・・・」
「は、はい」
囁くように名前を呟かれ、シュランの声が小さく震える。
そして、ゆっくりとアルカの顔が近づき―――――――
「・・・あれ?蛇じゃねーや」
「・・・え?」
ぱちくり、とシュランは瞬きを繰り返した。
アルカは不思議そうにシュランの髪に触れたまま、親指で髪を撫でる。
「鱗もねーし、おっかしいなー・・・なぁシュラン、お前の髪って蛇なんだろ?」
「蛇・・・というか、蛇に変えられるのですが」
「あ、そういう事か!常に蛇な訳じゃねーんだな。そっかそっか」
「・・・お聞きしたいのですが、アルカ様が私を呼んだのって・・・」
シュランの言葉に、アルカは不思議そうな表情をした。
が、数秒も経たずに明るく笑う。
「お前の髪が蛇だって聞いたからな。それって面白そうじゃねーか!見てみたくなった」
「・・・それだけ、ですか?」
「おう」
屈託のない笑顔を浮かべるアルカ。
それを聞いたシュランは絶句し・・・思った。
(妖精の尻尾の皆様は・・・行動力がかなりあるようですね・・・)
【ハッピーVSヴィーテルシア?】
「シャルルー!魚いる?」
「いらないわよ!」
もう日常的となったこのやり取り。
魚を抱えたハッピーがシャルルへと駆けていき、シャルルは冷たくあしらう。
毎日の事だというのに、ハッピーは諦めない。
「全く・・・オスネコは・・・」
どこか不機嫌そうに呟くシャルル。
すると、そんな彼女の前にティーカップが置かれた。
「!」
純白に桃色の装飾、持ち手の部分にはピンクのリボンの飾りがついたティーカップ。
中にはシャルルが好きなダージリンティー。
突然出された紅茶にシャルルが視線を上げた。
そこには、狼の耳に尻尾が生えた青年の姿。
「・・・ヴィーテルシア?」
「ああ」
「何で耳と尻尾が生えてるのよ」
「人間の男には変身しにくい。どうしても耳と尻尾が残る」
ふわふわと自分の狼の耳に触れ、ヴィーテルシアが呟く。
「ダージリンティーだ」
「香りで解るわよ。でも、どうして?」
「ウェンディに聞いた・・・お前の好きな物だろう?」
ヴィーテルシアは微笑んだ。
シャルルは無言で目を向け、紅茶を啜る。
(むむむ・・・ヴィーテルシアぁ~・・・)
ハッピーは密かにライバル心を燃やした。
【天然な青い閃光】
「ティアさん、どうなんですか?」
「は?」
ギルドの一角。
そこでお茶しているのはジュビアとティアの水の女魔導士コンビだ。
好物であるアップルパイを口に運び、その美味しさを噛みしめていた所にジュビアの質問がやってきて、ティアは右手にフォークを持ったまま首を傾げる。
「どうって・・・何が?」
「ナツさんですか?ライアーさんですか?それとも幼馴染だっていうリオンさん?・・・まさか、グレイ様!?」
「・・・話は全く見えてこないんだけど」
飛びすぎているジュビアの言葉にティアは困ったように眉を寄せ、フォークを置く。
改めてジュビアと向き合ったところで、ジュビアが再度言った。
「ティアさんの好きな人です!」
「・・・は?」
『!』
これにはギルドにいた全員が反応した。
何故ならば、ただ興味があるから。
友達のジュビアや弟のクロス、兄のクロノを除いては全てを他人とするティアにも恋する相手がいるのか!?と。
「何でその話になったのかしら」
「ジュビア、気になってました。ティアさんは美人で何でも出来ていい奥さんになりそうなのに、恋人がいないなんておかしいです!」
「・・・そう?」
「そうです!ジュビアはティアさん以上に魅力的な人を見た事ないです!」
力説するジュビアにティアも少したじろぐ。
「で、どうなんですか?」
「・・・」
ティアは沈黙し、小さく頬を掻いた。
視線を落とし、目線を逸らすティアの頬は、気のせいか淡い朱に染まっている。
「ねぇねぇアルカっ、ティアにも好きな人いるのかな?」
「いるなら応援しねーとな。アイツ、不器用だし」
ひそひそとティアと『他人だが仲のいい』2人は話し合う。
そして、ティアはゆっくりと口を開いた。
「・・・クロスとか」
『・・・え?』
出てきたのは、間違いなく双子の弟の名前。
弟の名の登場に、全員の声が揃った。
が、ティアはさらに続ける。
「兄さんはバカだけど、まぁいいわ。勿論ジュビアも好きだし、ヴィーテルシアは相棒だし・・・」
「え、えーっと・・・ティアさん?」
「ん?」
不思議そうな表情で、ティアは首を傾げる。
が、ジュビアからしたら首を傾げたいのはこっちだ。
「ジュビア、ティアさんの好きな人を聞いてるんですけど・・・」
「ええ、だから言ってるでしょ」
「へ?」
「私が好きなのはクロスに兄さんにジュビアにヴィーテルシアだって・・・改めて言うと恥ずかしいモノね」
照れたように頬を染め、目線を逸らす。
そこで全員は気づいた。
『ティア・・・“好き”の意味を間違えてる・・・!』と。
ジュビア達が聞きたいのは“恋”の方の“好き”。
なのだが、ティアはそれを間違えて捉えてしまっていた。
先ほど頬に朱が差したのは、この為だったらしい。
「あ、あのですね・・・ジュビアが聞いてるのは恋愛の方で・・・」
「恋愛?」
「はい」
こくりとジュビアが頷く。
ティアは全く考えず、すぐに答えた。
「何言ってるのよジュビア。そっちの意味の好きな奴なんていないわ」
「そうなんですか?」
「当然よ。私の周りにいるのは、基本的に私の嫌いな人種だし」
バッサリと言い捨て、ティアはアップルパイを一口。
そんな彼女は知らない。
(・・・俺も嫌いな人種、なのだろうか)
―――――まさか、ライアーが落ち込んでいるとは。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今回は短編集~みたいな感じ。
アイデアとして浮かんだけど、1話に出来るほど長くないものを集めました。
感想・批評、お待ちしてます。
個人的には【怪しい?】とかがお気に入りです。
そして全て駄作ですいません。
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