Element Magic Trinity
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日常編 その3。
チェンジリング
この世界には、魔法がある。
人々の生活の奥深くまで魔法は根付き、その魔法を駆使し生業とする者もいた。
だが・・・存在する魔法全てがいい方向に働く訳ではない。
星の数ほどに存在する魔法の中には、誰も知らず、そして不気味な魔法が存在する。
今回お見せするのは、その不気味で恐ろしい魔法。
そして――――それにかかってしまった不幸な妖精達のお話。
マグノリアの街唯一の魔導士ギルド、妖精の尻尾。
闇ギルドの六魔将軍を討伐し、ウェンディ、シャルル、アラン、ココロの4人を新たに加えたこのギルドは今日も賑わっていた。
「どーするアルカー」
「そうだな・・・この間大がかりな討伐したばっかだし、かといって討伐系抜くと選べる仕事減るよなー」
数多くの依頼が張られたリクエストボードの前にはルーとアルカがいた。
チームを組んでいる2人は何やら考え込みながら依頼書を1枚1枚見つめている。
「ん?お前達も仕事か?」
「エルザ、おはよー」
「まーな。決まってねえけど」
そこにエルザを筆頭にしたギルド最強チームのメンバーがやってきた。
もちろんティアの姿もある。
まぁ、彼女は興味なさげに髪を弄っているが。
「お?なんか変な依頼があんぞ」
「変な依頼?」
リクエストボードを見ていたナツが声を上げ、それに反応したティアが目線だけをナツに向ける。
普通の依頼書は白い紙や、若干黄ばんだ紙なのだが、この依頼書は何故か端から端まで真っ黒だった。
「えーっと『この文字の意味を解いてください。解けたら50万J差し上げます』?」
「おおスゲェ!50万Jだってよ!」
「あい!」
「文字の意味を解け?珍しい依頼だな」
「序でに言うと不気味だな。依頼書黒いし、内容珍しいし。それに、文字読むだけで50万はつり合わねえ」
ナツの横から依頼書を覗き込んだルーが依頼内容を読み上げる。
ナツとハッピーは興奮するが、グレイとアルカは訝しげに依頼書を見ていた。
「てかコレ、古代文字じゃねーか。こんなモン読める奴いんのか?」
「サルディアは仕事に出ちゃってるしね」
「ティアなら読めんじゃねーの?」
「読めるには読めるけど、こんな怪しいもの読みたくないわ」
「でも大丈夫そうだよ。ほら、隣に現代語訳がある」
依頼書に書かれた文字は古代文字であり、こういう時こそ歩く魔法辞典ことサルディアの出番なのだが、彼女は生憎、珍しく単独で仕事に出てしまっている。
もう1人問題なく古代文字を読む事が可能なティアはいるが、怪しいから読みたくないと首を振ると、ハッピーが古代文字の横に現代語訳があるのを見つけた。
「おお、こっちは読めるぞ」
「読めるぞって・・・怪しいし止めておきなさいな。てか、現代語訳があるならそれなりの意味は解けると思うし」
「大丈夫だって!ほらティア、読んでくれ」
「何で私が!?」
「古代文字読めんのお前しかいねーし」
「隣に現代語訳があるの見えてるんでしょうね・・・何が起こっても私のせいにはしないでよ」
依頼書を突き付けられたティアは渋々それを受け取り、古代文字に目を落とす。
数秒の間目で文字を追っていたティアは、ゆっくりと口を開いた。
「ウーゴ・デル・ラスチ・ボロカニア・・・」
「何だそれ、意味わかんねーっ!」
ティアが読み上げた言葉の意味が解らず、ナツは頭を抱える。
すると――――――
『!?』
その瞬間、その場にいたナツ、ルーシィ、グレイ、エルザ、ハッピー、ルー、アルカ、ティアの体が虹色の光に包まれる。
「ん?何だ?」
「どうしたんだ?」
その様子に他のメンバー達も気づき、ナツ達に目を向ける。
やがて光は収まり、そこにはいつもと何も変わらないナツ達が、さっきと同じように立っていた。
『・・・』
特に何事もないかのように立っているナツ達。
最初に動いたのは、グレイだった。
「さ・・・寒ィ・・・」
・・・なのだが、何故かグレイは自分の体を抱いてガチガチと震え始めた。
その顔色は青く、近くにいたエルフマンが怪訝そうな表情になる。
「あ?氷使いが何で寒ィんだよ」
「な、何だよコレ・・・体が寒ィ!冷えたとかじゃなくて根本的に寒ィ~!」
氷の魔導士であるグレイは寒さには耐性があるはず。
が、現在進行形でグレイは寒さに震えている。顔色を青くして、だ。
普段は絶対にありえない状態にギルドメンバーは首を傾げる。
次に声を上げたのはアルカだった。
「な、何だコリャ・・・熱ィ!焼けるみてぇに熱ィ!つか背が高ェ!」
「何言ってるの?アルカの背はいつもと変わらないでしょ?」
炎使いであるアルカが何故か熱がり、羽織っていた黒いジャケットを脱ぐ。
恋人の不思議な姿を見たミラが首を傾げると、何故かグレイが振り返った。
「そういや何か背が低いな――――――ってオイオイ!?」
そしてアルカを見て目を見開いた。
明らかにおかしい様子にメンバーが呆然としていると――――
「わわわわわっ!金髪だぁ!」
続いてルーシィが声を上げた。
自分の金髪を指ですくい、見つめている。
「金髪だ・・・って、ルーシィ元から金髪だろ?」
「うわっ!何か胸辺りが重いよう!アルカ助けて~!」
「つか・・・そんなガキみてーな口調だったか?」
目を若干潤ませてアルカに助けを求めるルーシィを見て、ライアーとスバルが首を傾げる。
因みに基本ラストネーム呼びのライアーがルーシィを「ハートフィリア」と呼ばないのは、そう呼ばない方がいいだろうと思っているからだ。
次に口を開いたのはルーだった。
「ちょ・・・何コレ!あたしなんか背が高い!どうなってんのーっ!?」
「あたし?ルー、お前遂に一人称まで女に・・・」
自分の体を見て叫ぶルーにヒルダが何処か遠い目でルーを見つめる。
そして・・・ここまでくれば他にも様子のおかしいメンバーがいる訳で。
「熱い・・・てか、何で私こんなに薄着なのに熱いのよ・・・」
「おお?何か体が軽いぞ。つか冷てぇ!」
羽織ったベストを掴んで扇ぐナツはダラダラと汗をかいており、不思議そうに自分の体を見るティアは体が軽いと飛び跳ねる。
「ね・・・姉さん?どうしてそんなに口調が荒れているんだ?だがそんな姉さんも俺は愛しているぞ!」
「なー、そろそろコイツ本格的に変人になってんぞー」
違和感の塊状態の姉を見てクロスは小さく震えるが、クロスにとってこの程度の違和感はこの程度でしかないようだ。
すると――――――
「一体何を騒いでいる!」
きりっとした表情で、叱咤の言葉を口にした。
――――――ハッピーが。
「わーっ!ナツ!見て見て!」
「あん?何だよ?つーか何でこんな髪長ぇんだ?しかも青いし」
そして明るく陽気な声でナツを探すのは、エルザだった。
腰近くまで伸ばした青い髪をくるくると弄りながら、ティアは返事を返す。
「オイラの体にカッチョイイおっぱいが2つついてるよ!ホラ、ホラ」
『おおっ!』
そう言って何故か自分の胸を持ち上げ自慢げに見せびらかすエルザに男性メンバー達は興奮の声を上げる。
「やめんかーーーっ!」
そんなエルザに向かって、なんとハッピーが飛び蹴りを決めようとする。
だが―――――
「~~~~~~!」
「あんまり痛くないよ」
ハッピーの飛び蹴りが炸裂すると同時にエルザは鎧を纏ってしまい、逆にハッピーがダメージを受けた。
「何なんだこのネコ型体型は・・・というかコレはネコそのものだ!私は換装した覚えなどないぞ・・・」
床に膝をつき、ハッピーはブツブツと呟く。
あの依頼書を囲んでいたメンバーが揃いも揃って様子がおかしくなっている。
「何がどうなってんの!?どうしてあたし大きくなってんの!?」
「何か胸が重いよー!何で、何で~!?」
「寒ィ!んでもって背が低い!何なんだよこりゃあ!つか何でそこにオレがいるんだ!?」
「あ?何の話だ・・・って何だよこの声!」
「・・・ん?なんか私の声が低いんだけど!しかも何か体が男みたいになってるし!」
「足がスースーすんなぁ・・・つか何で胸こんなデケェんだ!?」
もうおかしいどころではない。異常だ。
その様子を見るメンバー達は呆然と固まる。
すると、ハッピーがいつもとは違う凛とした声で言い放った。
「まだ気づかんのか!私達の心と体が・・・入れ替わっている!」
『・・・ええーーーーーーーーーーっ!?』
まさかの状況にギルド全体が声を上げる。
すると、ティアがハッピーに問いかけた。
「どういう事だ!?ハッピー」
「私はエルザだ!」
「ハッピーはオイラだよ!ティア酷いよ!」
「それは私じゃなくてナツ。ティアはこっちよ」
ティアがハッピーに怒鳴り、それを聞いたエルザが憤慨し、ナツが冷静に自分を指さす。
普段なら絶対ありえない光景に周りも戸惑い、見かねたクロスとライアーが状況を整理し始める。
「よく解らんが・・・こういう事でいいのか?」
「ドラグニルと姉さん・・・ルーシィとシュトラスキー・・・フルバスターとイレイザー・・・」
「そしてあろう事か、私とハッピーが入れ替わったのだ!」
『ええーーーーーーーっ!?』
「何であろう事か何だよぉ!」
ハッピー(中身はエルザ)の説明に再びギルド全体が叫ぶ。
すると、声が響いた。
「古代ウンペラー語の言語魔法・・・“チェンジリング”が発動したんじゃ」
いつの間にかギルドの入り口付近に、定例会に出ていたマカロフが立っていた。
「マスター!」
「じっちゃん!」
そんなマカロフのところに入れ替わってしまったメンバーは駆け寄る。
「あの依頼書が原因じゃ。ある呪文を読み上げると、その周囲にいた人々の人格が入れ替わってしまう。これぞ・・・チェンジリングじゃ」
「チェンジリング~!?」
ルー(中身はルーシィ)は怯えたように声を出す。
他の入れ替わりメンバーも愕然とする中、アルカ(中身はグレイ)がナツ(中身はティア)の肩を掴んだ。
「お前、ティアなんだよな?」
「そうだけど」
「テメェ!何て事しやがった!」
「私を責めるのは筋違いよ!読めってバカナツが言うから読んだだけの私に文句を言うより、読めって言ったバカナツに文句を言うべきじゃないかしら!」
「止めんかアルカ・・・いやグレイ」
言い争い睨み合うアルカ(中身はグレイ)とナツ(中身はティア)をマカロフが宥め、更に説明を続ける。
「この魔法で入れ替わるのは人格だけではない。魔法も入れ替わるのじゃ」
『はぁ!?』
「最後にもう1つ。チェンジリングが発動してから30分以内に呪文を解除しないと・・・未来永劫元に戻る事はない・・・という言い伝えもある」
『!?』
30分以内でないと元に戻れない。それを過ぎたら永久に戻れない。
それを聞いた入れ替わりメンバーは愕然とし、グレイ(中身はアルカ)が慌てた様子でミラに訊ねる。
「ミラっ!あれから何分経った!?」
「16分。あと14分よ」
様子がおかしいなーと思っている間に制限時間の半分が過ぎていた。
ティア(中身はナツ)がマカロフに向き直って叫ぶ。
「じっちゃん!元に戻す方法は!?」
「うーむ・・・なんせ古代魔法じゃからのう。そんな昔の事は、ワシはよう知らんっ!」
『!?』
あまりにもバッサリと言われ、入れ替わりメンバーは背後に『ガーン』という文字が見えそうなほどに絶望的な表情を浮かべる。
「サルディアなら何か知っているかもしれんが、確かサルディアが行った仕事は泊まりがけのものじゃったしのう・・・ま、せいぜい頑張る事じゃ」
ザ・無責任な発言を残してギルドの奥へと引っ込んで行ってしまったマカロフ。
残された入れ替わりメンバーは呆然とした様子で膝をつく。
「なんてこったーーーー!ええい、こうなったら!」
「オイ待てえーっと・・・グレイ!確かにオレ達は性別同じだがな!脱いでも特に変わりねえがな!だけど脱ぐんじゃねーーーーーーっ!」
「脱ぎてー!」
「この変態がアアアッ!脱いだらマジで殴るぞコノヤロウ!」
半狂乱状態のアルカ(中身はグレイ)がジャケットの下に着ていた白シャツに手を掛ける。
それを見たグレイ(中身はアルカ)がそれを全力で阻止する為にアルカ(中身はグレイ)の両腕を抑え込んだ。
「そっか。中身がグレイだから脱ぎ癖もそのままなんだね。あっ、そうか!」
「ハッピー!?な・・・何を!?」
「面白そうだなー、やってみようっと!」
「や・・・やめろ!」
そんな2人を見ていたエルザ(中身はハッピー)は何かを思いついたようだ。
その様子に嫌な予感を感じたハッピー(中身はエルザ)は止めようとするが――――
「換装!ウパーーーーー!」
時既に遅し。
エルザ(中身はハッピー)は換装を発動し――――
「じゃーん!」
『うおおっ!これはこれでっ!』
スクール水着にツインテールという格好になった。
それを見た男性メンバーは声を上げる。
「やめろーーーーーっ!」
中身は違えど見た目は自分。
ハッピー(中身はエルザ)はエルザ(中身はハッピー)に殴りかかるが―――
「ぐはっ!」
「あっ・・・」
エルザ(中身はハッピー)が振り返った時に肘当てが直撃した。
重く硬い鉄が直撃し、ハッピー(中身はエルザ)はあえなく地面に倒れる。
「な・・・なんという事だ・・・S級魔導士としてのプライドが・・・」
「あれー?おかしいなー?カッコいい鎧にするつもりだったのに」
膝をつき、ハッピー(中身はエルザ)は涙目で落ちこむ。
思ったような鎧に換装できなかったエルザ(中身はハッピー)は首を傾げる。
「あ」
「どうしたライアー?」
「もしかして、魔法は入れ替わるには入れ替わるが、中途半端になってしまうのでは・・・」
クロスに問われ、ライアーはおずおずといったように口を開く。
「ん?って事は、今の僕はルーシィって事?」
「ルー、お前驚くぐらい口調に違和感ねーぞ・・・」
「一人称だけ違うけどな」
今更ながらに気づいたルーシィ(中身はルー)に、マカオとワカバが呟く。
それを聞いたルーシィ(中身はルー)は暫し考え込み、少しして口を開いた。
「僕・・・このままでもいいかも」
「ええっ!?何言ってんの!?」
呟かれた言葉にルー(中身はルーシィ)が反応する。
ルーシィ(中身はルー)は少し遠い目をし、ポツリと呟いた。
「だって・・・この姿なら女と間違えられないでしょ?」
「あ・・・気にしてたんだ」
「気にするよっ!だって女と間違われるんだよ!?僕男なのに!男なのにっ・・・うわあああああああああんっ!」
ルー(中身はルーシィ)に言われ、ルーシィ(中身はルー)がダンっと立ち上がる。
最初は力説していたが途中で声が震え目が涙目になり始め、最終的には号泣した。
・・・が、元々女っぽいからか全く違和感がない。
強いて言うなら「あ、今日のルーシィちょっと子供っぽいなー」程度だ。
「って事は、これはティアの体って事か。どーりで胸デケェし腕細いと思った。これ折れちまうんじゃねーの?」
「折れないわよっ!」
自分の腕に触れ腕を擦るティア(中身はナツ)にナツ(中身はティア)が食って掛かる。
「いあ、だって腕とか脚とか細すぎんだろ。お前ちゃんと飯食ってんのか?」
「食べてるに決まってるでしょ!そりゃあアンタと比べたら少食だけど・・・ってアンタに何でそんな心配されないといけないのよ!」
「なのに胸は無駄にデケェし。バランス悪ィな」
「何ですってええええええっ!」
本格的にキレたナツ(中身はティア)はティア(中身はナツ)の腕を捻ろうとその腕を掴むが、
「・・・?」
「ん?」
がしっと掴み、そのまま動きを静止させた。
不思議そうに掴んだ腕を見つめるナツ(中身はティア)にティア(中身はナツ)が首を傾げる。
すると――――――
「ん・・・」
「なっ!?」
ぎゅうぅっ、と。
ナツ(中身はティア)はティア(中身はナツ)に抱き着いた。
「お、おいティア!?」
「・・・」
思わぬ行動に頬を真っ赤に染めて狼狽えるティア(中身はナツ)。
周りも何事かと目線を送る中、ナツ(中身はティア)は呟いた。
「冷たい・・・気持ちいい・・・」
「・・・へ?」
「アンタの体って熱いのよ・・・あー、ひんやりする・・・」
どうやら腕を掴んだ時にその体の冷たさを知り、熱い体に耐えきれず抱き着いたという事らしい。
その姿は飼い主にじゃれ付くネコを思わせる。
小さい方に顔を埋めて抱き着いたままのナツ(中身はティア)にティア(中身はナツ)は目を見開いて頬を真っ赤に染めたまま、石化したように固まった。
「おお・・・空を飛ぶとはこんな感じか・・・などと感心している場合ではない!もう時間がないぞ!」
ハッピー(中身はエルザ)は翼を使って飛んでいた。
が、もう時間がない事を思い出して慌てる。
「あーもー!どうしたらいいのよーーーーー!」
頭を抱えてルー(中身はルーシィ)が絶叫する。
すると――――――
「ルーちゃん!私に任せて!」
『!』
全員の視線がギルドの入り口に向く。
そこには3つの人影があった。
「レビィちゃん!」
立っていたのはレビィ、ジェット、ドロイのチーム“シャドウ・ギア”。
レビィは本好きという接点からルーシィと仲が良い。
「オレ達チームシャドウ・ギアが出てきたからには、必ず元に戻してやるぜ!」
「ああ、安心しな!という訳で――――」
「「頼むぜレビィ!」」
「つまり、何とかするのはマクガーデンだけという事か」
威勢のいい事を言いながらも結局レビィ任せのジェットとドロイにクロスが呆れる。
「ルーちゃんの為だもん!頑張る!」
「で、どうすんだ?」
「私、古代文字ちょっと詳しいんだ。だから、まずはこの依頼書の文字を調べてみる」
「時間がねえ、間に合うのか?」
「とにかくここはレビィに任せよう・・・はっ!なぜ私が魚を・・・」
ハッピー(中身はエルザ)はいつの間にか魚を口に銜えており、思わず自己嫌悪した。
レビィは風詠みの眼鏡をかけ、依頼書の古代文字と古代文字に関連する本を調べ始める。
「もう時間がねえ・・・もうずっとこのままだったらヤベェぞ」
「だな。オレとグレイは特に変わらねえが・・・オレとしてミラとデート出来ねえのはキツい」
「そこかよ」
アルカ(中身はグレイ)の言葉にグレイ(中身はアルカ)は真剣に頷く。
が、問題視しているポイントが若干ずれており、アルカ(中身はグレイ)は思わずツッコんだ。
「確かにマズイわね。性別まで入れ替わるなんて酷だわ・・・しかもバカナツだなんて」
「つか、お前いつまでこのままなんだ?」
「熱いのよ」
ナツ(中身はティア)は眉を顰める。
・・・が、背後からティア(中身はナツ)に抱き着いたままである為、言葉にあまり説得力がない。
熱さには耐えられないのだ。
「何か“ルーちゃん”って時々僕が呼ばれてる気がするんだよねー」
「今関係ないでしょ!?」
こんな状況でありながら全く関係ない事を呟くルーシィ(中身はルー)にルー(中身はルーシィ)はツッコむ。
「オイラは気に入ってるよ。もう1回、換そ―――――」
「だからやめんかっ!」
再び換装しようとするエルザ(中身はハッピー)をハッピー(中身はエルザ)が止める。
そんな会話をしている間にも、レビィは本を閉じた。
それを見た入れ替わりメンバーはレビィのいるテーブルに向かう。
「どう?レビィちゃん」
「何か解ったか?」
ルー(中身はルーシィ)とグレイ(中身はアルカ)がレビィに問いかける。
そしてレビィは―――――――
「・・・解んないっ!」
その瞬間、全員の表情に絶望が浮かんだ。
返ってきたのは最悪の知らせ。
マカロフも解除方を知らず、歩く魔法辞典少女サルディアは泊まりがけの仕事のため明日まで帰ってこない。唯一の希望のレビィにも解らないとなれば・・・。
「そうか・・・私はこれから先、妙な羽の生えたネコとして生きていくのか・・・」
「オイラは妙じゃないよぉ!」
「ええいっ!」
「だから脱ぐなってーっ!」
「やっぱり僕は僕でいたいかも・・・」
「今更っ!」
「一生ティアの体・・・って前に、常にこうなのかーっ!?」
「私だって好きで抱き着いてるんじゃないわよ・・・あー、気持ちいい・・・」
ハッピー(中身はエルザ)は諦めかけ、エルザ(中身はハッピー)は憤慨する。
服を脱ごうとするアルカ(中身はグレイ)をグレイ(中身はアルカ)が必死に止める。
今更ルーシィ(中身はルー)は真剣に呟き、ルー(中身はルーシィ)はツッコむ。
ティア(中身はナツ)は未だにぎゅーっと抱きついたままのナツ(中身はティア)に目を向けた。
一言でまとめれば、入れ替わりメンバー全員が完全に取り乱している状況である。
「みんな落ち着いて!もっともっと考えるから!」
「残り時間はあと8分。そろそろ腹括った方がいいんじゃねーの?」
レビィは再び本を読み漁り、スバルが軽い調子で残り時間を呟く。
残り時間はあと8分。
「「フレ~、フレ~、レ・ビ・ィ!」」
「アイツ等ただの応援団か・・・」
ジェットとドロイの応援を見たライアーが苦笑いを浮かべる。
レビィは必死に本を漁る。
そんな中、入れ替わりメンバーは1つのテーブルに集まっていた。
「もしずっとこのままだったらどうするよ?」
「あん?どうって何だよ」
「この先この状態のまま仕事に行くつもりかよ?」
「そりゃ、元に戻らなかったらそうするしかねえだろ」
「オイラはそれでもいいと思うよ。だって黙ってれば見た目じゃ解んない訳だから」
「ま、オレとグレイもだな。口調似てるし性別同じだし、グレイが脱ぎ癖さえ発揮しなきゃ変わんねえだろ」
「僕も大丈夫だと思うよ。だって一人称あたしに変えて「家賃が払えないよー」って言ってればルーシィでしょ?」
「何でそれなのよ!」
エルザ(中身はハッピー)は楽観的。グレイ(中身はアルカ)も戻りたいとは思っているが戻れなくても問題ないだろうと頷く。
ルーシィ(中身はルー)は呑気に呟くが、選ばれたセリフが「家賃が払えないよー」だった為ルー(中身はルーシィ)は叫ぶようにツッコみを入れた。
その空気の中、相変わらず抱きついたままのナツ(中身はティア)が溜息をつく。
「アンタ達・・・そんな事よりもっと考えるべき事があるんじゃないの?」
「考えるべき事?それは何だ?ナツ・・・ではなく、ティア」
ハッピー(中身はエルザ)に聞かれ、ナツ(中身はティア)はやれやれと言いたげに首を横に振った。
そして、1から説明を始める。
「普段私達が依頼を受けて仕事を終わらせられるのは何で?」
「何でって・・・そりゃ、任された仕事をやるからだろ」
「そうね。じゃあ、仕事をするには何が必要?」
「気合とミラの笑顔と魔法だな」
「じゃあ・・・」
ナツ(中身はティア)の言葉にグレイ(中身はアルカ)が1つ1つ答えていく。
それに頷き、ナツ(中身はティア)は真剣な表情で続けた。
「その魔法をまともに使える人間がいない今、どうやって仕事をするの?」
『!』
全員が目を見開いた。
そして、各々が魔法の確認をする。
結果をまとめると、こうだ。
ティア(中身はナツ)→普段扱う魔法と対極する属性だからか、上手く操れない。試しに大海怒号を放った結果、水鉄砲を発射したような弱い威力だった。
ナツ(中身はティア)→こちらも対極の属性だからか上手く操れない。少し油断すると口から涎のように炎が溢れてしまう。
アルカ(中身はグレイ)→炎も土も操れない事は無いが、かなり弱々しい。炎に至っては蝋燭1本に火を灯せる程度。
グレイ(中身はアルカ)→氷を造ろうとすると歪でおかしな形になる。油断すると口からポロポロと氷が溢れてしまう。
ルー(中身はルーシィ)→風を操る事は出来るが鷲や槍にする事が出来ない。盾を張ったが余裕で拳がすり抜け、回復や補助は全く出来ない。
ルーシィ(中身はルー)→魔法を扱うどうこうの前に、どれがどの星霊の鍵か解らない。教えても5秒後には忘れている。
エルザ(中身はハッピー)→実証済み。換装しようと思うと鎧ではなく変な格好になってしまう。
ハッピー(中身はエルザ)→唯一魔法が問題なく使える。が、ハッピーの使用魔法は翼の為、戦闘力はない。
「て、事は・・・」
「今の・・・」
「私達は・・・」
『妖精の尻尾最弱のチーム!?』
最強チームであるはずの面々は魔法が上手く扱えない事により最弱チームとなってしまった。
しかも、ギルド最強の女魔導士であるエルザは見た目がハッピーである為ネコに、最強の女問題児であるティアは暑さに耐えきれない為見た目はティア、中身はナツに抱き着いている状態だ。
「ヤバイ!そう言われりゃかなりヤバい!」
「ウソだろオイ!これじゃあミラを守る事すら出来ねえじゃねーかっ!」
「うわあああああんっ!それじゃあ僕は本格的に役立たずじゃないかー!」
「何故そんな単純な事に今の今まで気づかなかったのだ!?」
「魔法どうこう以前に入れ替わってる事に騒いでたからでしょ・・・あー、冷たい・・・」
ナツ(中身はティア)の言葉に取り乱す入れ替わりメンバー。
このままでは仕事に行くどころか魔導士も名乗れない。
「マクガーデン、その依頼書を借りてもいいか?」
「え?いいけど・・・」
すると、「くそっ・・・見た目がドラグニルの姉さんは兄さんと呼ぶべきが、いやだがしかし俺にとっては姉さんな訳だから姉さんと呼ぶべきか・・・」と1人超真剣に悩んでいたクロスがレビィに許可を取り、依頼書を手にした。
「なるほど」
数秒見つめ、何かに気づいたように頷く。
その姿を見た入れ替わりメンバーの表情が明るくなった。
「何か解ったのか!?」
「ああ、一応な」
「さすがクロス!」
やっぱり超完璧主義の才女の弟も優れていた!
期待に瞳を輝かせる入れ替わりメンバーに、クロスは微笑を浮かべて言い放つ。
「永遠の幸せをもたらす・・・つまり、入れ替わった人は永遠に幸せに暮らすという事だ」
『・・・は?』
思わず全員が固まった。
数秒停止し、叫ぶ。
「ちょっと待てー!それじゃこのままでいろって意味じゃねーかっ!」
「クロス・・・それは依頼書の意味が解っただけよ」
「え?・・・あっ、本当だ。すまない姉さん!俺とした事がっ!くそっ、これで姉さんを救えると思ったのに!」
今にも土下座しそうな勢いでクロスは頭を下げる。
その間にもレビィはクロスの手から依頼書を取り戻し、さらに調べ続けていく。
「「フレ~、フレ~、レ・ビ・ィ!」」
「あの応援チーム・・・何だがウザいな」
「いや、気合が入っていいと思うぜ!オレも参加してぇくらいだ!」
「はぁ?」
レビィ応援団にエルフマンが加わった!
残り時間はあと3分。
周りもそろそろヤバいんじゃないかと騒ぎ出す。
「レビィまだか!?」
「残り時間は1分を切ったぞ。そろそろ本格的にマズイな・・・だが安心してくれ。万が一の時はあらゆる手を使って姉さんだけでも助けて見せる!」
「ティアだけかよ!」
ぐっと拳を握りしめて意気込むクロスにアルカ(中身はグレイ)がツッコむ。
シスコンは24時間365日晴れの日も雨の日も曇りの日も人格が入れ替わっていようと絶賛発揮中なのだった。
「もうちょっと、何となく解りそうな気がして来てるんだけど・・・」
「頑張れ頑張れレ・ビ・ィ!くぅ~燃える~!」
「アイツ、似合い過ぎだ・・・」
「よっしゃ!オレも混ざるか!」
「スバル!?」
レビィ応援団にスバルが加わった!
すると、そこにマカロフが現れる。
「おや?まだやっとるのか?」
「じーさん、何か覚えてねえのか!?このままじゃオレ達は・・・」
「うーむ・・・おおっ、1つ思い出したぞ!」
『!』
「何ですか!?」
アルカ(中身はグレイ)の問いかけにマカロフは暫し考え、何かを思い出す。
そんなマカロフの下に入れ替わりメンバーが集まり、ハッピー(中身はエルザ)が代表して問う。
「この魔法を解く時は、確か1組ずつしか解けないんじゃ。いっぺんに全員を戻すのは無理だったはずじゃ」
『何ぃーーーーーーーっ!?』
ここにきてまさかの事実発覚。
残り時間は1分を切っているというのに全員まとめて戻せないとは!
「それだけ正確か解らんが、あと30秒くらいだ。たぶん」
「あ、いたんだヴィーテルシア」
「寝てた」
昼寝から目覚めたヴィーテルシアは超アバウトに残り時間を呟く。
そしてそのまま再び寝た。
ヴィーテルシアは太陽に弱いようだ。
「どのペアが最初だ?」
ライアーが問う。
その瞬間、入れ替わりメンバー全員が口々に喚きだした。
「当然オレとティアだ!なぁティア!」
「当たり前でしょ!一生バカナツの体なんて嫌よ!」
「そうはいくかァッ!最初はオレとグレイだ!明日はミラとデートなんだよっ!」
「お前の心配ミラちゃんだけか?ま、とにかく最初に戻るのはオレ達だ!」
「何を言うかーっ!いくらティアとアルカでも譲れないよ!最初は僕とルーシィだようっ!」
「そうよっ!まずはあたしとルーが戻るわ!」
「待てっ!私がずっとこのままだと妖精の尻尾はどうなる!?最初は私とハッピーだ!」
「オイラはどっちでもいいよー」
「スカーレット!最初に姉さんが戻ればギルドは安泰だろう!つまり最初に戻るべきは姉さんだっ!」
「そうそう。ティアが戻らねーとライアーの恋がモガガモガッ!」
「よ、よ余計な事を言うなスバルっ!お前はマクガーデンの応援をしてろっ!」
ギャーギャーと言い争う入れ替わりメンバー。
そして何故か参戦しているクロス。
スバルが余計な事を言いかけ、その口を慌ててライアーが塞ぐ。
「醜い・・・」
「人間、追い詰められると怖いわね・・・」
「15秒切った!」
その様子を見たワカバとミラが呟く。
スバルは腕を動かしたまま残り時間を叫ぶ。
すると―――――
「あ!解ったっ!」
『!』
レビィが叫んだ。
希望の言葉に入れ替わりメンバー全員が反応する。
「12・・・11・・・10・・・」
「レビィちゃん!」
「こういう事なの!つまり説明するとね・・・」
「9・・・8・・・」
「クロス、マカオを黙らせて!」
「了解姉さん!ウオラァッ!」
「ぐあっ!」
カウントダウンをしていたマカオがウザったくなったのか、ナツ(中身はティア)が叫ぶ。
見た目は違えど姉は姉。
クロスは素直に頷くとマカオを思いっきり蹴り飛ばした。
「レビィ!説明してるヒマはねぇ!」
「早く!」
「解った!」
説明なんてしていたらそれだけで残り時間が消える。
そう判断したグレイ(中身はアルカ)とティア(中身はナツ)がいい、レビィはすぐさま解除する為の呪文を唱えた。
「アルボロヤ・テスラ・ルギ・ゴーウ!アルボロヤ・テスラ・ルギ・ゴーウ!アルボロヤ・テスラ・ルギ・ゴーウ!」
レビィが呪文を唱えた瞬間、ギルド全体が眩しい光に包まれる。
そしてしばらくすると光が落ち着き、消えた。
すると―――――
「・・・あっ!元に戻った!」
「うわあい!僕が僕に戻ってきたよう!」
ルーシィとルーが元に戻った。
ルーはピョンピョンと飛び跳ね、ルーシィはレビィに抱き着く。
「レビィちゃん!ありがとう!」
「やったぁ!」
「どうやったの?教えて!」
「文字そのものに意味なんかなかったの。逆さ読みをやってみたんだ」
「あ、聞いた事あるぞ。古代は文字が少なかったからいろんな意味を伝えたい時に反対から読むと効力を発揮するようにしていたという・・・」
「そう。だから呪文を反対から読んでみたら魔法が解けたの!」
「てかそれ知ってたならやってよライアー・・・」
「ま、まさかそれが解く手段だとは思わなかったんだ!」
ルーはジト目でライアーを見つめ、ライアーは必死に弁解する。
「そっかぁ、ホントありがとねー!」
「うん!ありがとレビィ!」
「ルーちゃんの為だもん」
そう言って仲良く笑い合う3人。
これにて一件落着。めでたしめでたし――――――――
「「「ちょっと待てーーーーーーー!」」」
「私達まだ解けてないんだけどっ!」
「私もだ!ネコのままだぞ!」
「オイラはどっちでもいいけどねー」
『えぇぇーーーーーーーーー!』
――――とは行かなかった。
ルーシィとルー以外の3組は先ほどまでと変わらず、入れ替わったままだったのだ。
「もしかして・・・僕とルーシィ以外、制限時間に間に合わなかった?」
「そんなー!どうすりゃいいんだよ!?」
「レビィ!もう1回出来ないの!?」
叫びながらレビィに迫るティア(中身はナツ)とナツ(中身はティア)。
その時、レビィは重要な事に気がついた。
「あれ・・・何か、微妙に間違えちゃった・・・かも・・・」
そう。
ティアがナツに言われて唱えたのは、ウーゴ・デル・ラスチ・ボロカニア。
これを反対に読むと、アニカロボ・チスラ・ルデ・ゴーウ。
レビィが解除のため唱えたのは、アルボロヤ・テスラ・ルギ・ゴーウ。
・・・微妙に呪文を間違えてしまったのだ。
「じゃあ!オレ達ずっとこのままかよ!?こうやってティアが背中にへばりついてんのかよ!?」
「仕方ないでしょ熱いんだから!それはともかく、ナツとして過ごすなんて嫌よ!」
「冗談じゃねえ!うおおおっ!」
「だから脱ぐな!つか、明日のデートどうなっちまうんだよーっ!」
「悪夢だ!悪夢以外の何物でもなーい!」
「オイラはどっちでもいいけどねー」
叫び取り乱す入れ替わりメンバー・・・と、クロス。
すると、声が響いた。
「まあまあ、他にも何か方法があるじゃろ」
取り乱す入れ替わりメンバーを宥めたのは、カウンターの上に胡坐で座っている“ヒルダ”だった。
「・・・ん?私、背が縮んだか?やけに声も嗄れているし・・・」
そしてその近くには訝しげに自分の体を見つめるマカロフの姿。
数十分前なら「何かおかしいな」と全員で首を傾げていただろうが、ここまで来ればすぐに理解出来る。
・・・出来れば理解したくなかったが。
「オイオイ・・・まさかヒルダの奴!」
「じーさんとヒルダが入れ替わっちまった!」
レビィが少し間違えた呪文。
その影響で、マカロフとヒルダが入れ替わってしまったのだ!
「何というこのナイスバディ!うははははっ!」
「な、何をしますかマスター!やめてくださいっ!」
笑いながらセクシーポーズをとるヒルダ(中身はマカロフ)をマカロフ(中身はヒルダ)が必死になって止める。
「・・・嫌な予感がするわ」
ナツ(中身はティア)は嫌な予感がしながらもゆっくりと辺りを見回す。
そして―――――溜息をついた。
何故ならば・・・
「漢には諦めが大事だぞ、ナツ。ん?この以上に酒臭い体は何だ?ん、げっ!」
「なっ、何よコレ!何で私がエルフマン!?ああ、なんか急激に酔いが醒めてきた・・・きゃ!」
腕を組んで漢を説くカナ(中身はエルフマン)と、突如酔いが醒め転がり落ちるエルフマン(中身はカナ)。
「おい、ドロイ・・・あっ!?」
「ん?何だよジェット・・・んおっ!?」
「「オレ達入れ替わってんぞ!」」
ドロイ(中身はジェット)とジェット(中身はドロイ)が声を揃えるが・・・この2人はあまり変わったようには見えない。
「んあ?・・・ってゲッ!何かオレ、クロスになってんじゃねーか!」
「俺が、スバルに・・・!?ダメだっ!これでは姉さんの弟の俺ではないっ!そんなの・・・そんなの認めんぞおおおおおっ!」
クロス(中身はスバル)がぎょっとしたように目を見開き、スバル(中身はクロス)が今にも剣を振り回しそうな勢いで絶叫する。
「あらあら、大変ねー」
「・・・変身した覚えはないが、何故俺がミラのようになっている?」
天然笑顔を浮かべるヴィーテルシア(中身はミラ。しかも狼姿)と、不思議そうに自分の掌を見つめるミラ(中身はヴィーテルシア)。
他のギルドメンバーも全員、先ほどの呪文によって入れ替わってしまっていた。
「・・・もう・・・私の手には負えないです・・・」
混沌とした空気の中、レビィがポツリと呟いた。
「うわーい!みんな入れ替わったよー!面白ーい!」
「喜んでる場合かーーーー!」
嬉しそうに笑うエルザ(中身はハッピー)にこういう時こそ1番喜びそうなグレイ(中身はアルカ)が怒り任せに叫ぶ。
これは空想の話などではない。
魔法の存在する世界で暮らす彼等の日常のすぐ隣で、少しバランスの崩れた魔法なのである。
という訳で・・・続―――――――
「あ」
く、となる前にライアーが呟いた。
そして、全員思い出す。
呪文を唱えたレビィや、チェンジリングが解かれたルーシィとルーはともかくとして、だ。
何故ライアーは何事もなくライアーのままでいる?
「ライアー、お前は入れ替わってないのか?」
「何ともないです」
スバル(中身はクロス)に聞かれ、見た目はスバルとはいえ中身は忠誠を誓う主なのでしっかりと敬語で答えるライアー。
すると、ライアーがおずおずと行った様子で口を開いた。
「あのー・・・」
「ん?どうしたのライアー」
「とても言いにくいんだが・・・」
歯切れの悪いライアーをナツ(中身はティア)が見つめる。
しばらく言いにくそうに口を開けたり閉めたりを繰り返していたライアーだったが、やがて決心したように口を開いた。
「チェンジリング・・・解けるかもしれない」
『・・・え?』
まさかまさかの言葉に全員が呆然とした。
レビィが帰ってくるまで誰も解けない状況だったというのに、ついでに言えばレビィが帰ってくる前からライアーはいたというのに。
ライアーは小さく頬を書き、背負ったフィレーシアンを抜く。
「俺の魔法に“魔滅連斬”というのがあるんだ。一定範囲内の設置型魔法を消滅させるものなんだが・・・」
BOFの際はフリードの術式を消すのに用いていた技だ。
が、それとチェンジリングには特に接点がないように見える。そもそもチェンジリングは設置型魔法ではない。
が、ライアーはさらに続ける。
「それで、その魔滅連斬には“改”がある。フィレーシアンを中心に一定範囲内の“状態異常系魔法”を消滅させるというものなんだが・・・」
困ったような笑みを浮かべて、ライアーは若干上目遣いに最後の言葉を放った。
「チェンジリングって・・・状態異常系の魔法、か?」
全員が黙った。
そんなの考えるまでもない。
人格が入れ替わる以上の状態異常魔法などあるものか!
『・・・』
「えー・・・っと?」
ライアーが首を傾げる。
その瞬間、ギルドは1つになった。
全員が叫ぶ。
偶然にも、同じ言葉を。
『それがあるなら早く言え!そしていいからさっさとやれーーーーーーーっ!』
「は、はいっ!ただいまっ!」
ビクゥッ!と。
本気でヤバいと感じたライアーはすぐさまフィレーシアンをギルドの床に突き付けた。
その後、ライアーによって全員のチェンジリングは解けた。
が、それと同時にライアーが長時間に渡って説教されたのは言うまでもない。
(確かに俺が悪かったが・・・あそこまで説教する事は無いだろう)
「あ、いた。ライアー!」
「!」
その日、ライアーがギルドを出ると、後ろから声がかかった。
振り返るまでもなく、その声の主は解る。
「ティア」
ライアーは少し驚いていた。
普段冷静な彼女の声色が少し明るかったのだ。
そんな細かい所にまですぐ気づいてしまうのは相当惚れている証拠なんだろうか、と心のどこかで思いながら、ライアーはティアと向き合う。
すると、ティアは薄い笑みを浮かべた。
「ありがとね」
「・・・え?」
「アンタのおかげで助かったから。一応礼は言っておかないと」
一瞬言葉の意味が解らず、ライアーはフリーズする。
が、言葉の意味が入ってきた瞬間―――
「!」
「わっ」
ボンッ!と。
ライアーの頬が真っ赤に染まった。
思わずティアは目を見開く。
「い、いや・・・どういたし、まして」
「そう。用件はそれだけだから。夕飯の買い出し、お願いね」
「あ、ああ」
それだけ言うと、ティアはスタスタとギルドに戻っていく。
ライアーは数歩歩き・・・
(あうう・・・可愛い・・・可愛すぎる・・・)
右手で顔半分を覆い、再度赤面した。
ちなみにこれは噂だが。
この日の境に、ナツには『ティアに抱き着くクセ』が出来たとか、出来なかったとか・・・。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
はい、アイデア思いつかず数日悩みました。
で、やってないチェンジリングをやろうと。
そしてラストはオリジナル。苦労人ライアーさんに幸あれ!
入れ替え組の説明を少し。
ナツとティアはド定番だし。
ルーシィとルーも入れなきゃだし。
エルザとハッピーは面白いし。
・・・となると自然とグレイとアルカになる。でもこの2人って変わってもあんまり違いないよな。
・・・でも、1つくらい「変わってるけど変わってない」のがいてもいいかも、って事でこうなりました。
だけどよく考えたらジェットとドロイが・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
最後のナツのクセは入れ替わってる間にずっと抱き着いてたからだろうね。
ま、後々出てくるか解りませんが。
出てきたら「あ、これだ」と思って下さい。
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