魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep4の英雄を測る者たち ~First encounter 2~
前書き
このエピソード、完全にACE COMBATの影響を受けまくっています。
第4管理世界カルナログの地上本部へと向かう3つの人影。三角形の隊列で飛行し、一糸乱れぬ軌道で空を翔ける。その3人は、第1世界ミッドチルダに現れた男・陽気なる勝者グラナードと全く同じ格好だ。どれもが純白のコートを纏い、フードを目深に被っている。しかし纏う空気はグラナードのような陽気さではなく、歴戦の戦士のような風格だった。
『堅固なる抵抗者より各員へ。現時刻より5分後、1440時。ボスより承った任務を実行へ移す』
先頭を飛行する者・堅固なる抵抗者マルフィールから、後ろを飛行する2人へと彼らの独自回線による念話を入れる。
『堅固なる抵抗者の右腕、了解』
『堅固なる抵抗者の左腕、了解』
マルフィールに答える後ろを飛行する者たち。堅固なる抵抗者の右腕マルフィール・デレチョは若い男の声を、堅固なる抵抗者の左腕マルフィール・イスキエルドは若い女性の声を発した。
『任務内容を確認』
『任務内容確認、了解。1440時に任務を実行開始。第4管理世界カルナログにある時空管理局・地上本部への攻撃。及び市街地への攻撃。攻撃における一般市民の死者数はゼロとする】
マルフィールに答えるイスキエルド。声からもそうだが、女性特有の細さと膨らみを持っていることがコートのラインから窺い知れる。落ち着いた口調、しかし言っていることは物騒極まりなかった。
『そして任務妨害を行う者に対し、深き慈悲を持って交戦すること。最低限の犠牲は止むを得ないとする』
デレチョが続けて口にする。マルフィールは2人から任務内容を聞き、間違いがないことを確認。ただ静かに『うむ』とだけ発した。そして任務開始時間の14時40分と・・・なった。
『マルフィール隊、任務開始』
『『了解』』
3人は威力を極限にまで抑え込んだ射撃魔法を、眼下に広がる市街地へと撃ちこんだ。死者が出ることはまずあり得ず、多少の怪我をするだけの非殺傷設定の射撃魔法。それが雨のように降り注ぐ。それは白という天使のような格好でありながら、為している事は悪魔の所業だった。市街地では民間人の悲鳴が木霊する。
・―・―・―・―・―・
同時刻/カルナログ地上本部・第12演習場
『スクランブル。 正体不明の魔導師によって市街地へ魔法攻撃が行われた。現場に最も近い教導隊第5班に出撃命令。演習を中断し、現場へ急行せよ。魔法攻撃の実行犯は尚も市街地への襲撃を繰り返している。至急、市街地への魔法攻撃を停止させ、襲撃犯を逮捕せよ。繰り返す。市街地へ――』
演習場に響き渡るスクランブル放送。ざわめき立つ、演習を行っていた航空部隊に入隊したばかりの新人たち。しかし、そんなざわめきその中で航空部隊に叱咤を飛ばす者が1人。
「うっせぇ! ・・・あたしらは少し出てくるから、テメエらは待機!!」
小さい外見だが、それでも人より長く生きている歴戦の騎士。“元機動六課・スターズ分隊・副隊長”、鉄槌の騎士の二つ名を持つヴィータ二等空尉だ。
ヴィータの叱咤に押し黙る新人航空魔導師たち。そのヴィータの隣には、ヴィータと同じ“元機動六課・スターズ分隊”、その隊長を務めた女性が居た。管理局内外を問わず有名な航空魔導師。高町なのは一等空尉。エースオブエースと謳われるほどの猛者である。
「みんなはヴィータ二尉の言う通り待機。・・・こちら教導隊第5班、高町なのは一尉。任務了解しました。市街地の飛行許可を――・・・」
第1世界ミッドチルダでシグナムを苦しめたグラナードの仲間であろうマルフィール隊を迎え撃つべく、管理局トップクラスの魔導師なのはとヴィータが空へと上がった。
・―・―・―・―・―・
一通りの攻撃を終えた市街地より地上本部へと移動を始めたマルフィール隊。
『マルフィール・デレチョよりマルフィールへ。敵航空魔導師、数は2の接近を確認。事前情報にあった例の英雄2人で間違いない』
デレチョが少し顔を上げ、マルフィールへと報告を行う。
『マルフィール了解。高町なのは一等空尉と、守護騎士ヴォルケンリッター・紅の鉄騎ヴィータだな』
『現在の英雄・高町なのは・・・。お手並み拝見といきましょう。どれほどの腕を持つ教導隊魔導師なのか・・・』
彼らマルフィール隊のはるか前方、赤色と桜色の魔力光が彼らを逮捕する為に接近して来る。
『ではマルフィール隊。英雄に対し、最大の敬意を持って・・・交戦せよ』
『マルフィール・デレチョ、了解』
『マルフィール・イスキエルド、了解』
三角形の隊列から横一線の隊列へと変更される。3人のフードの中に隠れている目が妖しく光を放つ。
(高町なのは・・・か。フッ、13年ぶりに見せてもらうとしよう。高町、あれからお前がどれほどの力を身に付けたか・・・)
マルフィールは静かにほくそ笑む。それは教師が久しぶりに生徒と再会することを楽しんでいるかのように。
・―・―・―・―・―・
「アイツらか。市街地へ魔法攻撃なんつう馬鹿げたことしやがったのは・・・!」
ヴィータが怒りを露わにして、前方より向かって来る3人を睨みつけた。なのはも同じことを思っていたが、口には出さずに3人の航空能力をじっくりと観察していた。
「気をつけて、ヴィータちゃん。あの人たち・・・」
「ああ、判ってる。アイツら間違いなく強えな。新人たちを連れて来てたらヤバかった」
一目見ただけで判るほどの卓越した航空能力。そのことから、相手はかなりの腕を持った航空魔導師だと、なのはとヴィータは判断した。
『こちら時空管理局、高町なのは一尉です。市街地へのテロ行為の罪であなた方を逮捕します。武装を解いて投降してください』
なのはが武装解除と投降を促すが、それに返答しないまま飛行を続ける3人。そして今度はヴィータが『大人しく投降しねえと落とすぞ?』半ば脅迫めいたことを言い出した。それを聞いていたなのはは若干困り顔になったが、すぐに真剣な表情へと戻した。
『こちらマルフィール隊・隊長マルフィール。大変心苦しいが、そちらには従えない。許したまえ』
『『マルフィール隊?』』
聞き慣れない単語とその発音に、心の内で首を傾げるなのはとヴィータ。現在確認されている世界で使用されている言語のいずれかにも該当しないものだったからだ。
『時空管理局の空の英雄・高町なのは一等空尉、そして元“夜天の魔導書” の守護騎士プログラム“ヴォルケンリッター”が紅の鉄騎ヴィータとお見受けする』
『なっ!? なんでそれを・・・!?』
『あなた達、一体何者ですか? (この声・・・どこかで・・・)』
ヴィータはシグナム同様に驚愕しうろたえたる。理由もまたシグナムと同じ。管理局内でも知る者はかなり制限される情報を、目の前のテロリストが握っているからだ。なのはも内心驚愕するが、努めて冷静に3人へと問いかける。そして別の思いも生まれる。聞こえてきた声に、どこか懐かしいものを感じ取ったからだ。
『先程名乗った通りだよ、英雄殿。マルフィール隊・隊長マルフィール。そして随伴するのは私の部下である・・・』
『マルフィール隊所属、マルフィール・デレチョ』
『同じくマルフィール隊所属、マルフィール・イスキエルド』
徐々に縮まる両者の距離。マルフィール隊からの自己紹介を受け、ますます混乱するなのはとヴィータ。だが、次の言葉で否応でも戦闘を開始するほか無くなった。
『君たちの力量を実際に戦って測らせてもらうとしよう。マルフィール隊、交戦開始。散開』
『『交戦開始、了解』』
マルフィール隊が散開した直後、3方向からの射撃魔法を撃ってきた。その魔力光は碧、黄、赤の信号機のような色だった。なのはとヴィータもまた散開し、仕方がなく応戦する。
「くそ。テメエら、何が何でも話してもらうぞ!!」
≪Explosion≫
――シュワルベフリーゲン――
「おおおらぁぁぁぁッ!!」
ヴィータは8発の魔力弾を“グラーフアイゼン”のヘッドで打ち飛ばす。標的にされたのは、ヴィータに一番近かったデレチョだ。
「甘い・・・!」
――ラウンドシールド――
彼は右手を前方に翳し、黄色のシールドを張る。魔法陣はミッドチルダ式のものだった。全弾防ぎきった後、左手の人差し指をヴィータへと向ける。
――バリアブレイク・ブレット――
黄色に輝く3発の魔力弾が人差し指から放たれる。ヴィータは速さにバラつきのある魔力弾を誘導性のあるものと判断し、注意を払う。回避ではなく迎撃を行うため、1発を新たに生み出したシュワルベフリーゲン単発で相殺。1発を振り下ろした“グラーフアイゼン”で粉砕。最後の1発が目前に迫り・・・
――パンツァーシルト――
ベルカ魔法陣状のシールドを展開。魔力弾がシールドに着弾した瞬間、ヴィータの張ったシールドが容易く粉砕された。あまりの呆気なさに目を見開くヴィータは、シールドを突破してきた魔力弾を半身ズラすことで回避。
「何しやがった!?」
「・・・フッ」
デレチョが放った射撃魔法バリアブレイク・ブレットは、対防御魔法の効果を有する特性魔力弾だ。防御魔法全般のプログラムに割り込みを瞬時に掛け、防御魔法の術式を破壊するというもの。バリアジャケットにも効果がある為、直撃は即撃墜となる危険な魔法だ。その反面、防御魔法以外には弱く、迎撃されやすいというデメリットを抱える。
「さぁ行くぞ」
ヴィータへと突撃してくるデレチョが純白のコートははためかせ、黄色の魔力光を纏って突撃してきた。
「マジか!?」
≪Pferde≫
ヴィータの両足に魔力による渦が発生する。フェアーテと呼ばれる高速移動魔法だ。突撃してきたデレチョをギリギリで躱し、すれ違いざまに“グラーフアイゼン”を彼の腹部へ叩きこんだ。
「ぬ゛ッ!?」
体がくの字に折れ曲がるデレチョは苦悶の声を漏らし・・・
「おおおおらぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
――テートリヒ・シュラーク――
ヴィータの気合の入った声と共に振り抜かれた“グラーフアイゼン”によって吹き飛ばされる。きりもみ状態のまま吹っ飛ばされているデレチョへと、今度はヴィータが突撃する。
「アイゼン!」
≪Raketen Form≫
「ラケーテン・・・ハンマァァァーーーーッ!!」
“グラーフアイゼン”が急襲形態ラケーテンフォルムへと変わった。ヘッドブースターが点火。高速回転し、遠心力いっぱいの一撃をお見舞いしようとヴィータは空を翔ける。しかし黙って撃墜されるわけにもいかないデレチョはシールドを張る。衝突する槌と盾。激しい火花をまき散らしながら拮抗している。
(くそっ、こいつのシールド・・・、なのはやスバルのヤツみてぇに堅ぇッ!!)
歯を食いしばりながら、なんとしてもシールドを突破しようとするヴィータ。フードを被っていて判らないが、何故かデレチョが笑ったかのように思えたヴィータは、「ぶち貫けぇぇぇッ!」さらに力を込める。挑発されたと思い込んだのだ。だがそれがいけなかった。目の前の事に囚われていたヴィータの背後から迫る赤い魔力弾が13発。
『ヴィータちゃん、後ろ!!』
「なに!?」
なのはの念話によって直撃を受ける前に離脱したヴィータ。彼女の脇を通り過ぎた赤の魔力弾、その全弾がデレチョのシールドに吸い込まれ着弾し、大爆発を起こす。ヴィータはそのあまりにも強い衝撃にバランスを崩しつつも、「おいおい、死んでねぇだろうな、アレ・・・!」デレチョの安否を本気で気遣った。
・―・―・―・―・―・
なのはは、マルフィールとイスキエルドの2人を相手に善戦していた。セイクリッド・クラスターによる弾幕で相手の行動を制限し、隙あらばディバインバスターによる一撃必倒を狙う。
「さすがだ、エースオブエース・高町なのは一尉。恐ろしいよ。凄まじい才能だ。そしてよく鍛えられている。これは事前情報における戦闘能力数値を上方修正する必要がある」
「・・・どこかで会ったことがないですか・・・?」
マルフィールからの賛辞に質問で返すなのは。彼女はどうしても気になっていた。マルフィールの声に聞き憶えがあるからだ。だが記憶に靄がかかり、もう少しで思い出せそうなのに思い出せないというジレンマが続いていた。
『こちらマルフィール・デレチョ。援護求む』
『マルフィール・イスキエルド、援護要請、了解』
ヴィータの猛攻を受けているデレチョからの援護要請に、イスキエルドは簡潔に応え、赤い魔力弾を13発、ヴィータへ向けて放った。それに気付いたなのはが、シールド突破に夢中になっているヴィータへと念話で知らせる。ヴィータは上手く回避でき、放たれた魔力弾は味方であるデレチョのシールドに着弾し、大爆発を巻き起こした。
「なんて威力・・・!」
なのはは射撃魔法でありながら、砲撃クラスの威力を持っていた魔力弾に驚愕する。一体どれだけの魔力が注がれていたのか。あまりの威力になのはの背筋が凍った。
「よそ見をしている場合か、高町なのは一尉?」
――ホーミング・レイ――
「っく・・・! レイジングハート!」
≪Strike Stars, Standby≫
迫る追撃性のある3本の光線を、アクセルフィンによる高速移動で回避しているその最中に、砲撃魔法を準備する。しかし誘導性能が凄まじく回避しきるのを不可能と判断し、「ラウンドシールド!」効果を高めたシールドで防ぎきった。そこに迫るイスキエルド。彼女が手にするのは魔力で構成された赤い投槍。
(今なら一網打尽に出来る・・・!)
ちょうどいい位置にマルフィールとイスキエルドが集まったことで、なのははチャンスとして砲撃を撃った。
――ストライク・スターズ――
なのはの周囲に発生した数個のスフィアからの射撃アクセルシューター、そして“レイジングハート”の先端から放たれた特大の砲撃ディバインバスターによる同時複数攻撃が2人に襲いかかる。
「迎え撃ちます」
――ウンフォルエンデッド・ピーケ――
迫るなのはの砲撃を真っ向から迎撃せんと赤の投槍を投げ放つイスキエルド。未完の長槍という意味を持つベルカ式の魔法だった。桜色の砲撃と赤い投槍が正面から衝突し大爆発。威力は互角だったことにより、しばらくの拮抗を続けていた砲撃と投槍は食い合うように消滅した。だが尚も残るはスフィアから放たれた幾条もの射撃魔法。それを防がんとするのはマルフィール。彼の両手が前面に翳され・・・
――デュアル・ディフェンダー――
ミッドチルダ式の魔法陣のシールドが展開される。二重に展開されたそのシールドを見て、なのはは「あ!」と声を上げる。ようやく思い出したのだ。目の前で自分の射撃魔法を防ぎきったマルフィールの声が誰のものなのかを。
「デミオ・アレッタ三佐・・・!?」
なのはが1人の名前を口にする。デミオ・アレッタ三等空佐。かつてなのはが世話になった教導隊魔導師の1人。短い期間での付き合いだったが、人柄が良いアレッタ三佐になのはは親しみを持っていた。なのははそんなアレッタ三佐から、教導隊員としてのイロハを教わっていた。今の教導隊員としてのなのはがいるのは、アレッタ三佐のおかげでもあった。研修が終わってからは早々会うことも無く、記憶の片隅に追いやられていたが、今の二重シールドを見て思い出したのだ。
「どうして・・・?」
なのはは知らずそう呟いていた。
・―・―・―・―・―・
爆煙から無傷で現れるデレチョが、「やれやれ。死ぬかと思った」とコートの裾をパンパンと叩く。
「おい、マジかよ。あんなのを受けて無傷って・・・、どんだけ堅ぇ防御なんだ・・・?」
さすがのヴィータも、今のでデレチョが墜ちたと思っていた。非殺傷とはいえ、あの赤い魔力弾の威力は異常だった。それゆえに敵の命の心配をしていた。だが、その心配は杞憂で終わった。
「今のはさすがに肝を冷やしたな」
(フルドライブかそれ以上じゃねえと勝てねぇな、こいつには・・・)
安堵の溜息をついているマデレチョを見て、ヴィータはある選択を強いられていた。フルドライブを使って勝ちに行くか否か。確かにヴィータのフルドライブならば彼の強固な障壁を突破できるだろう。しかしあるデメリットもあった。機動力・防御力が著しく低下してしまう、攻撃力重視の大きな形態だからだ。
(振り上げてる最中にさっきの魔力弾食らったら即撃墜だよな・・・)
ヴィータは横目でなのは達の戦闘を見た。
(何してんだ・・・?)
戦闘行動を中断し、向かい合っているなのは達。その光景を見て、一体何をしているのかと考えた。そこに・・・
「教導官たる者が戦闘中によそ見とは・・・。少し質が落ちたんじゃないか、現在の教導隊は・・・?」
――バリアブレイク・ブレット――
「うお!?」
黄色の魔力弾が8発。それがヴィータの脇を通り過ぎていった。驚きと当たらなかったことへの安堵が心の内に拡がる。そしてすぐに生まれた何故当たらなかったのかという疑問、その答えが瞬時に出た。
「テメェ、わざと外しやがったな・・・!」
外れたのではなく外された。ヴィータにとって、それは屈辱以外の何物でもなかった。
「ならば次は気を付けろ」
「テメェ・・・。上等じゃねえか」
ヴィータが“グラーフアイゼン”をハンマーフォルムへと戻す。
≪Schwalbe fliegen≫
前面に赤い魔力を纏った鉄球が次々と設置されていく。誘導操作弾による弾幕展開、対象の行動制限、そこに強烈な一撃を与える。よくなのはが使用する手の1つだ。
「こいつでどうだ!!」
――シュワルベフリーゲン――
ヴィータは何度も往復させながら“グラーフアイゼン”のヘッドで誘導弾を打ち放っていく。十数発という誘導弾が一斉にデレチョを強襲する。
「なるほど。悪くは無い、というよりかは基本だな」
落ち着き払い、冷静に評価するデレチョ。迫る誘導弾をシールドで弾き、または彼の攻撃用の魔力弾で相殺していく。だが一向にヴィータの誘導弾の数は減らない。何故ならヴィータが次から次へと打ち放っていっているからだ。
「アイゼン!!」
≪Gigant form≫
――コメート・フリーゲン――
先程まで打っていた小さな鉄球ではなく、一回り以上大きい鉄球が4基と配置され、赤い魔力に覆われた。ソレをギガントフォルムとなった“グラーフアイゼン”で打ち放った。未だに幾つかの誘導弾の対応に追われていたデレチョへと迫る。
≪Explosion≫
“グラーフアイゼン”が何発かカートリッジをロード。振り上げられたギガントフォルム状態である“グラーフアイゼン”のハンマーヘッドがさらに巨大化する。それはかつて“闇の書事件”の最終決戦で使用された一撃を放つための形態だった。
「轟天爆砕!!」
「む!? 」
各誘導弾の対処に当たっていたデレチョから驚愕の声が上がる。明らかに対人に使っていいようなモノではないからだ。あまりの光景に彼はつい動きを停めてしまい、対処していた誘導弾を何発か受けた。そこにサイズが大きいコメート・フリーゲンが続々襲いかかっていく。それにはきちんとシールドを展開し防ぐが・・・
「ギガント・・・シュラァァァーーーーークッ!!!」
ヴィータの一撃必倒の威力を持つ“グラーフアイゼン”が振り下ろされた。
――オーバー・ラウンドシールド――
デレチョの前面に何重にも重ねられたミッド魔法陣のシールドが展開される。直後、衝突。ドゴォォン!!という轟音を立てて、受け止め切れなかった彼は地上へと向けて急速落下していった。
「・・・あ、ヤベぇ。やり過ぎちまった・・・!」
ヴィータは今さらながらに心底やり過ぎたと反省していた。だが、そのやり過ぎたという思いは容易く覆される。落下途中でデレチョが体勢を整えたのをその目で見たからだ。
「あ・・・ありえねぇ・・・。まるでアイツみてえだ・・・」
ヴィータはかつて今と同様にギガントシュラークを食らわせた1人の男を思い出していた。
・―・―・―・―・―・
『マルフィールより各員。増援部隊が迫ってきている。これによりただいまを持って任務遂行失敗とし、現空域より離脱する』
時間をかけ過ぎたことで増援部隊の接近を許したことに気付き、マルフィールは部下2人に撤退を指示した。
【・・・マルフィール・デレチョ、了解】
マルフィールに応じたデレチョ。あのギガントシュラークの一撃を受けながらも、両腕の骨折程度で済ましていた。そしてちょうどヴィータとの距離が開いていたこともあり、一切の問題無しに撤退を終えた。
【マルフィール・イスキエルド、了解】
自身の投槍となのはの砲撃によって起こった爆発の衝撃に動きを停めていたイスキエルド。彼女もまたその姿を忽然と消していた。
「アレッタ三佐!! どうしてあなたのような立派な局員がこんな事を!?」
「高町一尉。人違いではないかね? 私はマルフィールだ。デミオ・アレッタという名ではない」
なのはへと冷たく返すマルフィール。それでも引き下がろうとしないなのはは何度も「アレッタ三佐」と呼び、投降を促す。
「何してんだ、なのは!!」
――シュワルベフリーゲン――
デレチョに逃げられたことでイラついているヴィータが怒鳴りながらも、マルフィールへと誘導弾を放った。彼はそれを大した障害ではないとでも言うように、シールドを張って容易く防ぎきる。
「チッ、逃げられちまうぞ!!」
ハンマーフォルムへと戻していた“グラーフアイゼン”を手に近付いて来るヴィータ。なのははヴィータからの、逃げられる、という言葉を聞き、「・・・アレッタ三佐、あなたを逮捕します」“レイジングハート”を向け、拘束魔法を発動しようとした。だがその時、マルフィールが急に上空へと視線を移し、困惑と焦りを含んだ声で囁いた。
「何てことを・・・!『どういうつもりだ誠実なる賢者!?』」
「アレは・・・!?」
「おい! なんか落ちてくるぞ!!」
なのはとヴィータもつい彼の視線の向かう場所へと視線を移す。視認できたのは、上空から落ちてくる蒼の光球。それはミッドチルダの首都・クラナガンの上空を襲ったあの散弾砲だった。なのはとヴィータは、一瞬とはいえマルフィールから視線を逸らしてしまった。その一瞬でマルフィールはその姿を消していた。
「くそっ、逃げられた!」
「ヴィータちゃん、あれをなんとかしないと・・・!」
「判ってる!」
蒼の光球が攻撃魔法であることを看破したなのはとヴィータが対応に翔ける。その間に2人は蒼の光球を見て、ある1人の男を思い出していた。5年前にこの世界から去っていった親友の1人である男の事を。
「アイゼン!」
≪Gigant Form≫
「いっけぇぇぇぇぇぇッ!!」
――コメート・フリーゲン――
「ディバイィィーーーン・・・バスタァァァァーーーーーッ!!」
再度ギガントフォルムとなった“グラーフアイゼン”のヘッドで打ち放った巨大な魔力弾と、なのはが放った砲撃が、蒼の光球へと一直線に進む。あと数秒で衝突というところで蒼の光球が弾け、辺り一面に拡散する。それを見た2人は直感的に来た路を急いで戻り、さらに低空へと逃げた。
その次の瞬間、蒼の光球から分かたれた幾つかの光球が一斉に爆発し、カルナログ首都上空を蒼一色に染め上げた。なのはとヴィータは咄嗟の機転で直撃を免れ、大事には至らなかった。
「・・・おいおい。なんつうタチの悪ぃ砲撃だよ。なのはのクラスターより物騒じゃねえか。なぁ、なのは?」
「・・・アレッタ三佐・・・」
「・・・。はぁ。こちらヴィータ二尉。敵航空魔導師に逃げられた。よってこれより帰還する」
ヴィータが軽口を叩くが、なのははマルフィールの事で頭がいっぱいだった。自分にいろいろと教えてくれた先輩、デミオ・アレッタの事が。ヴィータは、そんな考え込むなのはに今は何を言っても無駄だと分かり、演習場へとなのはを連れて帰還した。
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