Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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無印編
第三十五話 生還
side リンディ
士郎君が持つ黄金の剣。
それに士郎君の纏っている魔力。
全てがケタ違い。
もはや一個人が扱えるレベルの魔力ではない。
それに士郎君が放った一撃。
八個ものジュエルシードを一瞬で跡形もなく消滅させる?
不可能としか思えない。
それでも士郎君はそれを行って見せた。
士郎君の手から落ちた剣が砂のように崩れて消えていく。
やっぱりアレは転位じゃない。
「っ!」
だけど今はそんな事を考えている場合じゃない。
先ほどの一撃の事や魔術に関しても後回し。
今私がしないといけないのは士郎君の調査ではない。
無事に士郎君とプレシア女史をアースラに回収する事だ。
士郎君もプレシア女史も吐血している。
プレシア女史の病状の把握は勿論、あれだけの魔力行使を行った士郎君の状態も確認しないといけない。
救護班を向かわせる。いや正確に言うなら向かわせようとした時
士郎君の口がなにかをつぶやくように動いた。
何をつぶやいたかは私には聞こえなかった。
「ダ、ダメ!」
「士郎、ダメ!」
でもそれに反応するようになのはさんとフェイトさんが急に叫ぶ。
二人が何をダメと言ったのかわからなかった。
だけど次の瞬間に嫌でも理解することになる。
ブリッジに響く、骨が砕け、肉を引き裂き、肌をナニカが突き破る音
士郎君を貫く、いや食い破って出てきた幾多の剣。
腹部から、太腿から、肩から、背中から、その数は二十を超える。
「「いやああああ!!!!」」
二人の叫びに現実に引き戻される。
「すぐに救護班を出して! 急いで!」
「っ! は、はいっ!!」
私に返事をしたエイミィは口元を押さえていた。
「……無理もないわね」
あまりに悲惨な光景。
わずか九歳の子供がいくつもの剣に貫かれる光景。
現場が長い私でさえ寒気がして眼を逸らしたくなる。
やっぱりこれが士郎君の選択なのね
世界を救うために自分を切り捨てる。
アレだけの膨大な魔力を隠していた。
士郎君が使えばどうなるかを理解していないはずがない。
わかっていたのに、それでも使った。
少しでも多くの人を救うために自分を犠牲にするナニカが壊れた人。
絶対に士郎君を一人にするわけにはいかない。
彼を一人にしてしまったら、彼は一人のまま死んでいく。
自分の命を一番最初に切り捨てて剣を執る。
彼の過去なんて関係ない。
このままではあまりにも彼が寂しすぎる。
少しでも時空管理局として力になれなくてもリンディ・ハラオウンとして力になろう。
「なのは! フェイト!」
崩れ落ちたなのはさんとフェイトさんを支えるアルフさん。
そこに
「士郎は?」
「どうなった?」
ブリッジに駆けこんでくるユーノ君とクロノ。
二人もモニターに映し出された士郎君の姿を見て茫然としていた。
ショックもわかる。
でも
「クロノ、次元震は治まりましたが時の庭園自体がかなりダメージを負ってるわ。
救護班の護衛に回ってちょうだい。
ユーノさんとアルフさんは二人を部屋に、目が覚めるまでそばにいてあげてください」
今一番優先しないといけないのは彼だ。
「わ、わかりました」
「うん」
「了解」
なのはさんを背負ってフェイトさんを抱きかかえるアルフさんと共にユーノ君はブリッジから出ていく。
そんな二人と共に転送ポートに再び走っていくクロノ。
(母さん、じゃなくて艦長、一体何が?)
そんな私にクロノからの念話が入る。
映像を見ていないクロノにとっては一体何が起きたか理解できないのは当たり前の事ね。
(士郎君によってジュエルシード八つは消滅。それと共に次元震も収まったわ)
(ジュエルシード八つを消滅って……なんて奴だ)
(だけどそれだけの魔法、いえ魔術を使うための膨大な魔力を使った代償なんでしょうね。
結果、刃が士郎君の中から突き出てきたわ)
私の念話に対してクロノは無言。
クロノも士郎君が自分自身の事を切り捨てた事に気がついたのかもしれない。
(クロノ、何としても士郎君を、プレシア・テスタロッサを救いなさい。
もしプレシアに何かあれば彼は間違いなく自分を責めるわ)
(了解。必ず)
クロノとの念話をきり、私はモニター越しに士郎君を見つめ続けていた。
side クロノ
転送ポートから時の庭園に再び降り立つ。
最下層までの道は簡単だった。
なにせ最下層から断層が出来ており、一直線に降り立つ事が出来る。
これだけの魔術に恐怖を抱く。
戦いに使われればもはや防御なんて関係ない。
観測結果を聞いてないが、恐らくとんでもないものだろう。
最下層に降り立つと
「だめだっ! 近づけない」
「バインドも切り裂かれる」
「剣のないところを」
「だめだ。まるで生きているみたいに剣が体内に消えたり、新たに生えたりしてる」
「バリアジャケットを切り裂かれるんだ。下手をすれば死ぬぞ」
いまだ士郎は剣に貫かれて、身体を横たえる事も出来ずにそこにいた。
「どうした?」
「クロノ執務官、それが」
僕の質問に帰ってきた答えはとんでもないモノ。
剣があまりに鋭くて運ぶことが出来ない。
バインドを使用してみるもバインドさえ切り裂き、刃がまるで生きているように体内に引っ込み新たに貫く。
転送させようにも剣の魔力に阻まれているのか転送さえままならない。
という手を出すことが出来ない状況。
幸いプレシア・テスタロッサは吐血のせいで多少貧血気味らしいが、命に別状はないとのこと
それにしてもこれだけの剣が身体を貫いているというのに流れる血が少なすぎる。
そんな時
「クロノ……か」
「士郎、気がついたか」
意識を取り戻したのかゆっくりと士郎が視線を向けた。
side 士郎
聞き覚えのある声に意識が浮上する。
「クロノ……か」
「士郎、気がついたか」
心配そうに俺を見つめるクロノ。
突き破った剣が喉を貫いたのだろう。
声を出すのが辛い。
それでも状況を教える必要はあるがそれよりも先に
「クロノ、プレシアは?」
かすれた声でたずねる。
「吐血で貧血気味だが命に別状はない。それより士郎、君の方が問題だ。
これはどうすればいい?」
クロノの答えにとりあえず安堵する。
だがそれとは別に今の俺の状況をクロノが疑問に思うのも無理はないだろう。
俺の身体を突き破るいくつもの剣。
普通ではありえない光景のうえ、どのように治療するべきかわからないのだろう。
もっとも残念ながら
「……どうしようもないな。
封印回路を使用した反動だ。使用した時間と魔力量で多少変わるが自然と収まる」
「だが」
「過去にも経験があるし、今回ぐらいの展開規模なら死ぬ事はない」
新たに身体を侵食する剣の数と浸食した剣が身体の中に収まるように戻っていく数がそんなに変わらない。
既に浸食が抑えられ始めて修復が追いつき始めている証拠だ。
そう時間もかからず収まるだろう。
もっとも大きな問題としてはもう一つの方にある。
エクスカリバーの真名開放、これに膨大な魔力を使用した上に、アヴァロンと死徒の能力による肉体修復。
アヴァロンが肉体の修復を行っている間は吸血衝動を抑える力が落ちる。
それが魔力量が減っている今ならなおさらだ。
「クロノ、剣が納まり次第バインドで俺を拘束して、俺が出ようとしたら探知できる部屋に入れろ」
「何を言っているんだ?
これだけの傷を負っているんだ。治療と検査をしないと」
「最悪、アースラ全員の命にかかわる」
俺の言葉にクロノが固まる。
無理もない。
だが正直意識を保つのが厳しい。
元いた世界ならこのぐらいで暴走する可能性はまずない。
しかし今の状況は違う。
子供になり大きくなった反動、大人と子供の身体という元いた世界との大きな違い。
今まで大丈夫だったレベルでも暴走する危険性がある。
万が一にでも意識を失っている状態で吸血衝動を抑えることが出来なくなれば、死徒の本能のまま手当たり次第に人を襲うだろう。
これは絶対に避けないとまずい。
正直、暴走したら最後クロノやなのはでも止める事は出来ないだろう。
ならば俺が暴走したら気付けるようにしてないとまずい。
「……わかった。約束する。
だが落ち着いたら最低限説明はしてもらうぞ」
「心得ているよ。あともし俺が暴れだしたら止めようなんて思うな。
全員をアースラから脱出させろ」
「それはどういう」
「説明する時間がない。頼む」
「……わかった」
クロノの言葉に一安心しつつ、ゆっくりと再び眠りについた。
side アルフ
私とユーノはなのはとフェイトを寝かせ、二人を見ている。
この部屋はなのはが使っている部屋で、フェイトの部屋は別に用意してくれると言ってくれたが、今回は断らせてもらった。
今はフェイトとなのはを引き離しちゃダメだと思っただけなんだけど。
もっともユーノも私と同じ事を思ってたのか何も言わなかった。
「士郎の奴、大丈夫かね?」
「わからない。でも大丈夫だと思う。アースラには治療専門のスタッフも何人もいるし」
確かにアースラには治療スタッフがいるけど、あの異常な光景。
正直思いだしたくもないけど、アレを治療できるのか少し疑問も残る
とその時、何やら通路が慌ただしくなる。
「ちょっと見てくるよ」
ユーノが廊下を覗き、クルーと話をして戻ってくる。
そして、ユーノが教えてくれた事に驚いた。
だって
「士郎の希望でバインドで拘束した状態でアースラの護送室に隔離されるらしい」
「はっ?!」
なんであいつが護送室で隔離されないと……士郎の希望で?
もしかして……
「アルフ、恐らく僕と同じ事を考えてるんだと思うんだけど」
「ああ、だろうね」
士郎の奴、あの赤い槍でジュエルシードを破壊した時と同じように魔力がうまく循環してないのだろう。
あれ? なら
「なんでそれで隔離する必要があるんだ?」
「僕もそれには同感。
仮にだけど魔力が巡回してないという事は魔力が足りてないとも言えるよね」
「……そうだね。で?」
「士郎が魔力を求めるとして魔力が不足しすぎているとなんらかの形でナニカが暴走するとしたら?」
なるほどユーノの言う通りなら、暴走を恐れて隔離室に入るだろう。
「あのバ、プレシアは?」
「プレシア・テスタロッサは医務室だって」
正直私はあの女の事は好きにはなれないがいなくなればフェイトが悲しむのは間違いない。
少なくともこれ以上フェイトが悲しむことがない事に安堵する。
「アルフは二人をお願い、僕は負傷した局員の治療の手伝いに行くから」
「あいよ。この事はリンディ提督には?」
「う~ん、あくまでも可能性の話だからしない方がいいと思う。
下手な情報を与えて混乱させてもなんだし」
「それもそうだね。あんたも疲れてんだからほどほどにね」
「ありがとう」
部屋を出ていくユーノを見送る。
だけど士郎は一体何を隠してるんだろうね。
それが少し寂しく感じていた。
side 士郎
ゆっくりと意識が覚醒する。
身体を横たえたまま、自身の身体を解析する。
―――肉体損傷、全修復
―――魔術回路、正常
―――封印回路、正常
―――警告、魔力不足
傷は全て治ってるようだし、封印回路の封印も問題ない。
身体を巡る魔力の淀みもなく何の問題もない。
ただ魔力がやはり足りていない。
だがアヴァロンが正常に動作しているようだし、安静にしていれば大丈夫か。
やはりエクスカリバーは俺には過ぎた武器だというのを実感する。
しかしそれ以前に子供の身体というのはあまりにも不安定だ。
完全に肉体が成長しきるまで封印回路は使わない方がよさそうだ。
ただでさえ大きい反動がさらに大きくなってしまう。
一歩間違えば本当に誰かを襲いかねない。
とりあえずは
「鞄に残りわずかな宝石があったな。アレを飲みに行くか」
念のために持ってきた残り僅かな魔力の込められた宝石を飲みに行くとしよう。
内包された魔力も宝石の純度もあまり高くないがないよりはいいだろう。
とその前に
「これはどうするんだ?」
身体を拘束するバインドに牢屋のような扉。
無理やりこじ開ければクロノに頼んだ事もあるので騒ぎになる。
とりあえず
「ふう」
伸ばした爪でバインドを切り裂き、身体を伸ばす。
と簡易ベッドの枕元にパネルのようなものが置かれている。
それに手を伸ばすが使い方はわからないので、とりあえず適当にボタンを押す。
「はい、リンディです」
「おはようございます」
「士郎君! 眼が覚めたのね」
仮眠をとっていたのか少し髪が乱れている。
仮眠を邪魔したのは申し訳ないが
「ここを開けてもらっていいですか?」
「そうね。今行くからちょっと待ってて」
しばらくしてアラーム音がして、扉が開く。
そこに立っていたはのリンディさんなのだが明らかに不機嫌そうだ。
「士郎君。まずは次元震を止めてくれてありがとうございます。
ですが色々言いたい事も聞きたい事もあります」
「わかっています。
ですが、今はやる事と確認したい事がありますのでそちらを優先させてください」
俺の言葉にしばらくリンディさんと見つめ合うが大きくため息を吐き
「……わかりました。ですが必ず話してもらいますからね」
「はい。まずは俺が使わせてもらってる部屋に行きましょう。
歩きながら確認しますので」
「はいはい」
俺の言葉にリンディさんが諦めたような返事を聞きながら、並んで俺の部屋に向かう。
ともかく歩きながら確認したい事が二つほどあるので
「まず、俺が意識を失ってからどれくらい経ちました?」
「十三時間ほどね。時間は午前六時を少し過ぎたところね。
なのはさん達も意識を失ってしまったけどそろそろ起きてくるはずよ」
意外と意識を失っていた時間が短い。
それはともかくなのは達まで?
「子供があんな光景を見たらしょうがないでしょう?」
リンディさんの言葉に納得する。
恐らく浸食された剣に貫かれた俺を見たのだろう。
それならば納得できる。
意識を失っていた時間が短いのは恐らく封印回路自体はエクスカリバーの投影と真名開放のみの使用だったので、封印を解いていた時間が短かった事が関係しているのだろう。
「他の局員となのは達とプレシアの容態は?」
「負傷した局員はいるけど命には別状はないわ。
なのはさんもフェイトさんも眠っているだけで平気よ。
アルフさんやユーノ君もね。
プレシア女史も弱ってはいるけど命に別状はないわ。ただ」
リンディさんが言いにくそうに言葉をきる。
「あまりに病気が進行しているわ。
初期の段階で治療をしていなかったからもう手の施しようがないわ。
延命治療してもあと半年。どんなに長く見積もっても二年が限界」
「それは手がありますから大丈夫です。
せっかく少し歩み寄れたんですからあと半年でお別れなんてさせませんよ」
丁度辿り着いた俺の部屋に入り、持ってきた鞄に手をやり決められた手順で鞄を開ける。
この手順を間違ったりすれば少々痛い目を見るのだ。
「それは宝石?」
「ええ、あまり純度は高くないですが」
リンディさんが興味津々に見る眼の前で宝石を全て呑み込む。
「し、士郎君! 何をしてるの! 早く吐き出して」
「だ、大丈夫です! これも魔術の一種ですからもう身体に吸収されてます」
ちょっと予想外だった。
確かに傍から見たら宝石を呑み込むなどかなり危険な光景だ。
俺はあまりにも見慣れてたから忘れていた。
今度から気をつけよう。
まあ、少しはマシになったかな。
これならいけるな。
「話をする約束でしたから集まったらプレシアのところに行きましょうか」
俺自身の魔術の事も話すことになるだろう。
今までなのは達に嘘をついていたのも事実。
この世界に来て結構経つがいまだ辿り着く答えはない。
だが俺が誰かのために剣を執るのは変わらない。
後書き
一週間ぶりのセリカです。
そして今週も一話だけの更新です。
ゆっくりと出来る、自由になる時間がもっとほしいよ。
それではまた来週に
ではでは
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