Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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無印編
第三十六話 治療と……
なのは達が起きてくるまでどこで待とうかと思ったら
最終的な報告も兼ねて眼を覚ましたら一旦リンディさんのところに集まる予定に
なっているらしいのでのんびりとリンディさんの部屋でお茶をごちそうになる。
ちなみに服は予備として持ってきていたモノに着替えた。
反動のせいで服はズタズタだったのでそのまま廃棄処分となったためだ。
で、お茶をすすりながら思ったことがある。
……腹がすいた。
正直、肉体を酷使したためかかなり空腹ではある。
単純に最後の食事から時間が経っているせいかもしれないが。
何か食べておいた方がいいかもしれない。
吸血衝動が空腹のために大きくなりましたじゃ笑う事すら出来ない。
「どうしたの?」
考え込んでいた俺に不思議そうにリンディさんが首を傾げている。
「いえ、さすがに空腹だなと」
「そうよね。もう半日以上何も食べてないものね。
プレシア女史とも合流したら朝食にしましょうか」
「ん? プレシアは歩いても?」
リンディさんの言葉は嬉しいのだが、プレシアの身体の負荷にはならないのだろうか?
「食事はしっかり摂らないとプレシア女史の身体にもよくないわ。
ただでさえ身体が弱ってるんだから。
手があるんでしょ?」
「……ええ、必ず治して見せますよ」
リンディさんの言葉に少しだけ驚いた。
どうやらなのは達が集まったらプレシアのところに行って治療をしてから皆で朝食を摂るつもりらしい。
その考えには俺も賛成なので頷き、のんびりとお茶をすする。
それにしても少し疑問なのが、俺が手があると言ったとはいえ、本当の事だとあっさり信じているのもどうなのだろう?
「どうかした?」
俺のそんな表情に首を傾げるリンディさん。
「いえ、あっさりと信じたなと思いまして」
「ああ、魔術は私達の常識で測れるものじゃないもの。
それに士郎君はそんな嘘を言ったりしないわ」
ずいぶんと信用されているものだ。
だからこそその信用に応えたいとも思うのだが。
それからは他愛のない話をお茶をすすりながらゆっくりとした時間を過ごす。
そんなのんびりとした時間にも一段落ついた時、部屋のアラームが鳴った。
「どうぞ」
リンディさんの返事と共に開いたドアの向こうにはなのは、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノ、エイミィさんと勢揃いしていた。
「おは……」
そして、ドアの向こうにいたメンバーは皆固まった。
続く静寂。
その静寂を破るように鹿威しの音が部屋に響いた。
瞬間
「士郎君っ!!」
「士郎っ!!」
「ちょっ!」
ものすごい勢いでなのはとフェイトに抱きつかれ、押し倒される俺。
「怪我は!?」「心配したんだよ!」などなど心配かけた事は謝るし、申し訳ないとは思う。
だが!
いくら傷を確かめたいからといって服をめくるな!
手を這わせるな!
「はいはい。なのはさんもフェイトさんもその辺でね。
恰好もすごい事になってるから」
リンディさんの言葉になのは達が改めて己の姿を見る。
抱きつかれた勢いで二人とも服が乱れている。
特にフェイトはスカートが短いので色々とまずい。
さすがにクロノとユーノは顔を赤くして眼を逸らしている。
それ以前に女の子二人が男の子を押し倒し、服をめくり上げ、肌に手を這わせている状況自体が結構まずい光景だ。
「「っ!」」
顔を真っ赤にし一気に距離をとる二人。
俺は服を整え
「心配かけてすまなかった」
二人の頭を丁寧に撫でる。
二人はそれに笑顔で応えてくれた。
ようやく落ち着いたのも束の間
「士郎、アレは」
「はい。ストップ」
そのまま質問タイムになりかけたのだが、ありがたい事にリンディさんがすぐに待ったをかけてくれた。
「士郎君もちゃんと説明してくれるっていうしね。
今は皆でいきましょう」
リンディさんの言葉に俺を除く皆が首を傾げる。
そして、リンディさん先導の下辿り着いたのはプレシアの部屋。
といっても医務室だが
少々多いが全員で部屋に入る。
プレシアは身体はベットに横たえていたが
「おはよう。無事で一安心したよ」
無事な姿を確認し、声をかける。
もっとも顔色がいいとはお世辞にも言えないが、この場合無事であることを喜ぶべきだろう。
なによりその表情は憑き物が落ちたように落ち着いていた。
「ええ、お互いね。
私よりあなたの方が危なそうだった気もするけど」
「まあ、色々あってね」
エクスカリバーの真名開放から会っていないかったので少し心配だったがこれだけ軽口が叩けるなら大丈夫だろう。
そして、フェイトに向けられるプレシアの視線。
「お、おはようございます。母さん」
「え、ええ、おはよう。フェイト」
お互い恥ずかしそうにしながら挨拶をかわすテスタロッサ親子。
まあ、すぐに関係修復とはいかないかもしれないがすぐに落ち着くだろう。
「プレシア、今から貴女の治療を行う」
「私の? 残念ながらもう手遅れよ。
私の身体だものそれぐらいなんとなくわかるわ」
「はあ、そういう事はフェイトを見てから言え」
俺の言葉にハッとしたようにフェイトに視線を向けるプレシア。
フェイトは懸命に手を握り締めていたがその表情は今にも泣き出しそうに歪んでいた。
「……私、嫌だよ」
「……フェイト」
フェイトの表情と言葉にプレシアも自分の失言に気がついたようだ。
それにプレシアは忘れているようだが
「プレシア、言ったはずだぞ。
病は俺がどうにかする。とな」
「でも本当に大丈夫なの?」
俺を心配するようにリンディさんが見ている。
だが
「そのためにあの宝石を使ったんですよ。
―――投影、開始」
魔力の補充も兼ねて宝石を飲んだのはこのため
プレシアの病を治すモノを投影する。
そして、手に握られるのは一振りの片刃の剣。
その剣の銘を『布都御魂』という。
日本神話に登場する豊布都神が持ちし霊剣である。
武器としての性能も高い切れ味を誇る内反りの剣である。
ただの盾相手であれば、防いだ盾ごと切り捨てるもことも可能だ。
そして、この剣にはある能力がある。
剣に魔力を流しながら、暴走しないようにアヴァロンへの魔力供給が止まらないように意識する。
刀身に纏う魔力。
魔力を纏う剣を振り上げる。
プレシアは慌てることなく瞳を閉じる。
「なっ! ちょっと待て!!」
「士郎君!!」
「病切り祓う豊布都神の剣!」
クロノとエイミィさんの慌てたような声を無視をして剣を振り抜いた。
「い、いきなり何をするんだ! 衛宮士郎! 君は!」
「クロノ、落ち着いてプレシア女史を見なさい」
「え?」
リンディさんの言葉に呆然とするクロノに、傷がないか確かめるエイミィさん
「あれ? 斬れてない?」
「なに? 確かに斬ったはずだぞ」
クロノとエイミィさんは俺がプレシアを始末すると思ったらしい。
不思議そうな顔でプレシアの身体を確認している。
これが『布都御魂』である。
布都御魂には味方の軍勢を毒気から覚醒させたという伝説がある。
すなわち、この霊剣は通常使うときは武器として、真名開放すれば体内の毒や病など内面の治癒にも使える癒しの宝具なのだ。
手に持つ剣を霧散させる。
「リンディさん、念のために確認を」
リンディさんに頼むとすぐに通信で医師を呼んでくれる。
プレシアは医師が来るまでの間、自分の身体に起きた事が信じられないように手を握ったり開いたりしてみていた。
そして、プレシアの診断結果はというと
「完全に消えています。
今まで生活で多少身体が弱ってはいますが、これなら持ち直します」
医師の言葉になのはもユーノも皆、笑顔で安堵の表情を浮かべる。
そんな中俯いて涙を流すフェイト。
だけどその涙は悲しみの涙じゃない。
「……フェイト、いらっしゃい」
そんなフェイトに手伸ばすプレシア。
プレシアの手に涙を流しながらも戸惑うフェイト。
「ほら」
そんなフェイトの背中を優しく少しだけ押してやる。
ただそれだけで
「母さん!! 母さん、母さん」
「大丈夫よ。私はここにいるわ」
プレシアに抱きつき、泣くフェイト。
そんなフェイトを優しく包み込むように抱きしめ、撫でるプレシア。
再会を喜びあう親子。
二人が踏み出した最初の一歩であった。
なのはやアルフは涙を浮かべながらもうれしそうに、勿論ユーノ達も満足そうにフェイトとプレシアを見つめていた。
あれだけの事件。
だけど誰ひとり欠けることはなく、そしてフェイトの思いはしっかりとプレシアに届いた。そんな光景がうれしくて俺はしばらく見つめ続ける。
そして、俺の後ろにいるクロノに目配せし、なのはの手を握る。
一瞬驚くなのはだが、俺の視線が扉に向いているとわかると頷く。
俺達は二人の再会を邪魔しないように部屋を後にした。
医務室の前でゆっくりと待つ俺達。
フェイトとプレシアの幸せそうな光景。
それを邪魔しないように言葉も交さない。
だが全員が満足そうな表情をしていた。
どれくらい時間がたったか扉が開き、フェイトが恥ずかしそうに出てきた。
「……えっと、お待たせしました」
「よかったね。フェイトちゃん」
恥ずかしそうなフェイトを向かる満面の笑顔を浮かべたなのは。
そんななのはに気恥ずかしげに、でもしっかりと笑顔で頷くフェイト。
「それじゃフェイトさん。プレシアさんも連れて朝食にしましょう。
これ、お願いね」
「は、はい。ちょっと待ってください」
リンディさんがフェイトさんに差し出した紙袋。
その袋には服らしきものが入っていた。
プレシアは患者用の服を着ていたから、おそらくプレシアの着替えだろう。
紙袋を持ち、再び部屋に戻るフェイト。
それにしてもさっきまで持ってなかったはずだが、いつの間に用意したのだろう?
しばらくして私服に着替えたプレシアと一緒にフェイトが出てくる。
「それじゃ、行きましょうか」
リンディさんの言葉に皆で食堂に向かう。
で、アースラの食堂はバイキング方式なのでそれぞれが取りたいのを取るのだが
「プレシアは座っていていいぞ。フェイトもだ」
「だけど」
「いいから」
「悪いわね」
「うん」
プレシアとフェイトを座らせて、俺は自分の分を含めた三人分の食事を取りに行く。
なぜ俺がそんな行動に出たかというとプレシアの身体である。
病を布都御魂で浄化し完治させたとはいえ、落ちた体力までは戻らない。
つまりは広いアースラの移動だけでプレシアが少々疲れてしまったのだ。
というわけで左腕にフェイトと俺の朝食のお盆を載せ、右手にプレシアの分を持つ。
「士郎君、器用だね」
その光景に感心しているエイミィさんと頷く他の面々。
慣れればそう難しい技術じゃないんだけどな。
それぞれが準備が終わったので
「では」
「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」
全員で手を合わせ、朝食を食べる。
ちなみに席は左からプレシア、フェイト、俺、なのは、
向かい側の席にアルフ、リンディさん、エイミィさん、クロノ、ユーノである
なぜかフェイトとなのはの二人の間に座るように言われたのだ。
食事中も他愛もない話をする。
フェイトとプレシアはまだ言葉こそ少ないが時おり目が合ってはどこか恥ずかしそうに笑顔を浮かべている。
心地よい雰囲気の食事だが全員の食事が終わるにつれて皆の口数は減ってくる。
そして全員が食べ終わると俺は立ち上がり食後のお茶を用意する。
人数分のカップとおかわりも含めてだ。
おかわりがあるのは話をするから
全員もそれをわかっていたのか、俺がお茶を用意している間静かに待っていた。
全員にお茶を注ぎ、俺も席に着く。
「さてと約束通り話をします。
なにから話しましょうか?」
お茶を一口飲み、ゆっくり全員を見渡した。
後書き
後書きを書き忘れて更新してしまった。
30分ばかり後書きがなかったと思います。
ちなみに今週も一話です。
・・・なかなか思い通りにいかないものですね。
今週のオリジナル宝具。
・病切り祓う豊布都神の剣
日本神話に登場する豊布都神が持ちし内反りの片刃剣。
武器としての性能は高く、並な防御や守りなど守りごと切り裂く程の切れ味を誇る。
真名開放は武器としてではなく、治療もの。
その剣の霊力は軍勢を毒気から覚醒させ、軍勢は活力を得てのちの戦争に勝利したという伝説の通り、体内の毒や病など内面の治癒などに関しては高い効果を持つ。
ただし外傷の治療という意味ではあまり有効ではなくかすり傷の治療程度。
それと貫咲賢希さんから貰った挿絵で「第十四話 出会いとは突然やってくる」の挿絵を入れ忘れてたので更新しました。
それではまた来週。
ではでは
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