| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

無印編
  第三十四話 黄金の輝きと代償   ★

side リンディ

 ただ砂嵐が映し出されるモニター
 砂嵐のノイズが響き渡るブリッジ

 その光景にそこにいる全員が固まっていた。

 まだ時の庭園が完全に崩壊したわけではない。
 だけど天井という大質量の物が降り注いだという事実は変わりようがない。

 士郎君が持っていたのは黄金の盾だけ
 プレシア女史も吐血し、まともに魔法を使う事すら敵わない

 そんな状況で助かる見込みなんてないに等しい。

 頭には『死』という絶望的な言葉しか思いつかない。

 士郎君だけなら逃げられたはずだ。

 そうプレシア女史を見殺しにすれば士郎君の身体能力なら逃げられたのだ。
 だけど士郎君は見殺しにしなかった。
 いえ、正しくは自分を見殺しに助けようとした。
 「一番最初に俺を切り捨ててください」
 私が彼に初めて恐怖を覚えた時の言葉の通り、彼は自分自身を切り捨てたのだ。
 誰かのために自分の命を簡単に切り捨てる事の出来る思考。

 物語や言葉にすれば素晴らしい英雄譚なのだろう。
 自分を省みず誰かを助ける正義の味方。

 でも現実に実行できる人間がいるとするなら、それは致命的に何かが壊れている。
 普通の人間は自分と他人の命を天秤にかけた時、普通は自分の命が重くなる。
 士郎君にはそれが欠落している。

 その最終的な結果がこれなのかもしれない。

 誰かのために命を投げ出し、死ぬという……違う!

 違う!

 私はまだ確かめていない。
 魔導師の常識なら絶望的な状況。
 だけど士郎君は魔術師。

 まだ可能性は『0』じゃない。
 確かめれば最後の希望も消えてしまうのかもしれない。
 それでも

「エイミィ! まだ使えるサーチャーを全て最下層に送って!」
「っ! はいっ!!」

 私は確かめないといけない。
 それが私の役目だ。

「使用可能サーチャー最下層に送りました。
 映像来ます!」

 映し出された最下層の映像。

 半ば崩壊しかけていた最下層は瓦礫の山となっていた。
 その中で輝くジュエルシード
 それともう一つの黄金の光

「ジュエルシードと魔力反応!
 士郎君とプレシア女史です!」

 エイミィの言葉が聞こえる。
 だけど返事をする事も忘れていた。

 『0』に近い可能性。
 だけど士郎君はそのわずかの可能性を掴み取っていた。

 そこにいたのはプレシア女史を右腕に抱え、左手に持つ盾の光で瓦礫を防ぎきった士郎君。
 黄金の輝きはゆっくりと収まる。

「エイミィ! 士郎君のところにモニターを」
「はい」
「士郎君、怪我は?」

 エイミィに士郎君のところにモニターを表示させ、安否を確かめる。

「ええ、大丈夫です。
 もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせます」

 プレシア女史を横たえ、ジュエルシードに向かって一歩前に踏み出した。
 終わらせる?
 この絶望的な状況をどうやって?
 頭に浮かぶ疑問、それを尋ねようとする。
 その時、ブリッジに飛び込んできたなのはさんとフェイトさん、アルフさん。

 ものすごい勢いで飛びこんで来た三人に多少呆然としつつ、士郎君への質問を呑み込み三人が無事な事を確かめようと声をかけようとした。
 だけどモニターの向こうの異常ともいえる光景に言葉を紡ぐ事も忘れ、私はモニターに見入ってしまう。

 なぜなら士郎君は眼に見えるほどの膨大な魔力を放ち、黄金の瞳をジュエルシードに向けていたのだから。




side 士郎

 オハンが金切り声を上げるとほぼ同時に天井が落ちてきた。

 すぐさまプレシアを腕に抱え込み、盾を天井に向ける。
 そして紡ぐ言葉。
 それが

叫び伝える黄金警鐘(オハン)!!」

 オハンの真名開放であった。
 盾から広がる守りの光。

 黄金の盾『叫び伝える黄金警鐘(オハン)
 ケルト神話にてクルフーア王が持っていたとされる四本の黄金角と四つの黄金の覆い、持ち主に危機が迫った時に金切り声を上げる盾である。
 さらにその強度はカラドボルクの一撃を受けてもへこむ事はなく無傷であったといわれる。

 ならば確かに膨大な質量ではあるがただの瓦礫の雨如き防げぬはずがない。

「……ずいぶんとふざけたモノね」

 腕の中のプレシアがそんな事をつぶやくが無理もないだろう。
 宝具という規格外の防具。
 さらに魔術師とは根本的に違う魔導師にとっては完全に異質なものだろう。

 黄金の守りが瓦礫の雨を防ぎ続ける。

 そして、崩壊が一段落つき、守りの光が収まる。

「士郎君、怪我は?」

 とそれと同じくしてモニターが現れリンディさんの心配そうな表情が映し出された。

「ええ、大丈夫です。
 もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせます」

 映像の向こうのリンディ提督にかすかに笑いかけ、プレシアを安定した場所に横たえオハンを握らせる。
 真名開放は出来ずとも何かあれば自身を守る手段にはなるはずだ。

「すぐに片をつける」
「ええ、待っているわ」

 プレシアの言葉に頷き、ジュエルシードへ一歩前に踏み出す。

 解放されたジュエルシードは八つ。
 海鳴で破壊したジュエルシードの時とは魔力の量、密度共に段違いだ。
 まあ、数が八倍なのだから当然といえば当然だ。

 そして俺にはこれを破壊する術がある。

 かつての相棒にして騎士王の彼女が持ちし聖剣。
 大聖杯すら破壊することが可能なアレならば八つのジュエルシードでも破壊できる。

 しかしあの聖剣の投影、真名開放には膨大な魔力がいる。
 甲冑共の相手にフルンディングに、カラドボルクに、オハンの真名開放をしたこの状況。
 死徒になり264本の魔術回路を宿すこの身体。
 まだ戦闘を行うなら十分な余力はある。
 だがあの聖剣は別格だ。

 この余力がある状態でも聖剣の投影が出来てたとしても真名開放は難しい。

 ならばどうするか?

 答えは簡単だ。
 264本の魔術回路で真名開放が難しいのであれば、528本の魔術回路で行えばいい。

 あまりにも膨大な魔力に肉体の負荷が大きすぎるために封印されている封印魔術回路264本。
 使えばどうなるかも理解している。

 確かに命は危険にさらされる。
 だが躊躇う事はない。
 考え方は単純だ。
 俺一人の命を危険にさらせば、六十億を超える命を救えるのだから迷う必要がない。

 だから俺は―――

封印(トレース)―――」

 ―――己を縛る鎖を解き放つ

「―――解除(オフ)

 自身を縛っていたモノが砕ける音が聞こた。

 それと同時に528本の魔術回路の撃鉄を一気に叩き上げる。
 全身を駆け巡る膨大な魔力。
 抑えられていた力が溢れ、この身を纏う。

 瞳を閉じて、虚空を掴む右手にイメージする剣はただ一つ。
 誇り高き彼女が持ちし聖剣。

 出来ないはずがない。

 この身には彼女の剣の鞘がある。

「―――投影、開始(トレース・オン)!」

 ―――創造された理念を鑑定し、
 ―――警告

 ―――基本とする骨子を想定し、
 ―――負荷増大中

 ―――構成された材質を複製し、
 ―――肉体不完全

 ―――製作に及ぶ技術を摸倣し、
 ―――肉体耐久性能低下

 ―――成長に至る経験に共感し、
 ―――肉体崩壊の危険あり

 ―――蓄積された年月を再現し、
 ―――魔術回路崩壊の危険あり

 ―――あらゆる工程を凌駕しつくし、
 ―――固有結界暴走の危険あり

 ―――ここに幻想を結び剣と成す!

「っ! ゴボッ!!」

 聖剣を握るとほぼ同時に膝をつき、大量に吐血する。

 まずかった。
 あのままだと肉体が崩壊していてもおかしくなかった。
 いや、聴覚や視覚など一部にノイズが混じっているように一時的なものだろうが、異常をきたしている。

 元いた世界でも彼女の剣を投影した時には魔術回路にかなりの負荷がかかるし、封印回路を使用すれば肉体にも負荷がかかる。
 だが今回の肉体への負荷は全く別物だ。
 恐らくは

「子供という成長途中の不完全な肉体のためか」

 この世界に来て若返った肉体のためだろう。
 元いた世界ではすでに成人男性として肉体が完成していたが、今の子供の肉体は不安定で不完全だ。
 封印回路の封印を解いた状態での膨大な魔力の運用はただでさえ肉体に負荷がかかる。
 そこに来て不完全な肉体だ。
 肉体への負荷が大きすぎて悲鳴をあげたか。

 ゆっくりと立ち上がり剣を両手で握り直す。

 不完全な肉体でのエクスカリバーの真名開放。
 ただでさえ封印回路の封印を解けば反動があるというのに、これでは予想より反動は大きいだろう。
 最悪しばらく身体が使い物にならなくなるかもしれない。

 もっともそんな事でやめようとは思わないのだが
 自分に苦笑しながら手に握る聖剣に全力で魔力を流し込む。

 魔力の高まりと共に剣は光り輝き、その輝きも増していく。
 輝きと共に全身がギチギチと軋みを上げているのがわかる。
 それを無視し魔力を流し込み続ける。

 聖剣の輝きは最高潮を迎え、周囲を世界を照らす光となる。

 聖剣をゆっくりと振りあげる。
 さあ

約束された(エクス)―――」

 全てを救うために

 俺の誓いを守るために

 ケリをつけるとしよう。

「―――勝利の剣(カリバー)!!!!」

 黄金の剣を、軋む身体で振り下ろした。

 放たれる光の斬激。
 その光は一瞬にして八つのジュエルシードを呑み込む。

 聖剣の光はジュエルシードだけではなくその後ろにある壁や残った天井なども薙ぎ払う。
 壁を貫いた衝撃か、一際大きな振動がこの場を襲うが、徐々に揺れが収まっていく。

 そしてジュエルシードがあったところには何も残らず、揺れも完全に収まった。

 そのことに安心すると同時に手からエクスカリバーが零れ落ち、地面に落ちる。
 と同時に砂のようにエクスカリバーが崩れ始め、霧散した。
 今の身体ではこれが限界のようだ。

 霧散したエクスカリバーを見届けながら、投影の事が管理局にばれるなと場違いな心配をしつつ、瞼を閉じる。

 封印回路を使用する時間と比例し代償も大きくなる。
 プレシアの病の治療がまだだがそれは少し待ってもらわないとならないか。

 さて、己を縛るために

「―――封印、開始(トレース・オン)

 再び264の魔術回路に封印を施し対価を払うとしよう。

 全身から聞こえていた異音が大きくなる。

 膨大な魔力を糧に肉体を浸食しようとする剣。
 その剣の浸食を抑え込んでいるのが封印回路。
 つまり封印回路は剣の浸食を防ぎながら、肉体を崩壊させようとするモノ
 俺の肉体を守りながら壊そうとする諸刃の剣の魔術回路。

 そして、封印回路が封印された今肉体の崩壊の心配はとりあえずはなくなる。
 だがあまりにも膨大な魔力は魔術回路を封印しても身体を纏っている。
 抑えている魔術回路がなくなった今、剣はその魔力を糧に肉体の浸食を始める。

 身体の至る所から嫌な音と共に食い破って出てくる剣
 身体を覆う無数の小さな剣
 まったく自分の身体ながらこの光景と音にはなれない。

 体は剣で出来ている。
 まさしくその通りだ。

 そんな事を思いつつ意識を失った。




side なのは

 フェイトちゃんを抱えて入口に向かって全速で飛ぶ。
 途中瓦礫が落ちてくるけど

「サポートするから速度は維持しな!」

 アルフさんがサポートしてくれるからほとんど気にする事はない。
 ようやく壊れかけた道を抜け、入口に辿りつくと

「なのは! フェイト! アルフ!」

 手を振って出迎えてくれるユーノ君。

「リンディさんもアースラに戻った。三人も」
「だめっ! まだ士郎君とプレシアさんが」
「だけど」
「ユーノ、私からもお願い。もう少し待って」

 私の言葉に難しい顔をするユーノ君だけど、私の手を握るフェイトちゃんと私を見つめて

「はあ、これ以上は無理だと思ったら転位させるからね」

 呆れたように息を吐きながらも頷いてくれた。

 フェイトちゃんと手を繋いで士郎君とプレシアさんを待つ。

 でもなかなか帰ってこない。

 と庭園が嫌な音を立てて揺れが大きくなる。
 まるで庭園が悲鳴を上げているように
 その悲鳴に不安が大きくなる。

 もしかしたら士郎君が帰ってこないんじゃないだろうかと
 その時

「きゃっ!」
「なにっ?!」

 青い光が瓦礫を吹き飛ばしながらクロノ君が飛び出してくる。
 その腕にはバインドで結ばれたアリシアさんの入ったポット。

「君達まだ居たのか!」
「まだ士郎君が」
「ユーノ、なのは達を転送しろ。これ以上はいつアースラに戻れなくなるかわからない」
「っ! わかった!」

 緑の魔法陣が一際輝きを増す。

「ユーノ君!」
「ゴメン。座標固定、転送!」

 光に包まれる。

 そして、光が収まった時にはそこは崩壊しかけた庭園ではなく、見覚えのあるアースラの転送ポート。
 転送されたのは私達にアリシアさんにクロノ君。

「クロノ君、士郎君は!?」

 私の言葉にクロノ君が静かに首を振るう。
 士郎君がどうなったかわからない。
 私はこんなにも無力で、涙がこぼれそうになった。

「なのは! ブリッジだ! あそこなら映像が見れる!
 アリシアは僕とクロノが」

 ユーノ君の言葉にハッとする。
 フェイトちゃんと頷き合い、ブリッジに駆けようとした時、身体が浮遊感に包まれた。

「とばすからしっかり捕まっときなよ!」

 私とフェイトちゃんを抱えたアルフさんがものすごい勢いでアースラを走り、ブリッジになだれ込んだ。

 そして、モニターを見た瞬間言葉も何もなくてただ茫然としてしまっていた。

 いつもの赤い瞳は金色に変わって、赤いナニカを纏っている。
 赤いナニカは魔力。
 駆動炉から最下層まで 降りるときなどに纏っていた魔力とは量も密度も全然違う。
 だけど

「……怖い」

 怖かった。
 でも恐怖じゃない。なんというかうまく表現できなかったけど嫌だった。
 士郎君が纏っている血のように赤い魔力が嫌だった。
 士郎君の魔力なのに士郎君を傷つけそうで

 士郎君が何かを紡ぐと現れた黄金の剣。
 とてもきれいですごい魔力を秘めた剣。

 だけど士郎君がその剣を握った。次の瞬間
 士郎君の顔が苦痛に歪み、血を吐いた。

「士郎君!!」
「士郎!!」

 その瞬間、あまりの光景に固まっていたのが嘘のように声が出た。

「エイミィ! いったい何が起きてるの?」
「わ、わかりません。士郎君も士郎君の剣も尋常じゃない魔力です!
 というかこれだけの魔力一個人で扱えるレベルじゃ……」

 リンディさんとエイミィさんもあまりの光景に今の状況を把握できてないみたい。

 そんな中士郎君の剣の輝きがどんどん増していってる。
 光はいくつもの星が集まったかのような黄金の輝き。
 その光が最高潮を迎えた時、士郎君は剣を振り上げて

約束された(エクス)―――」

 一閃した。

「―――勝利の剣(カリバー)!!!!」

 放たれたのは剣の一撃とはまるで思えない、一条の光の斬撃。
 その光はジュエルシードを一瞬で呑み込んで、揺れは収まっていた。

 さっきまでの悲鳴のような崩壊の音は消えて静寂だけがあった。

「じ、次元震、それどころかジュエルシードも消滅!?」

 どれだけの規模の魔術なのかまったく理解できない攻撃。
 エイミィさんも何が起きたのか把握できていないみたいで慌ててる。

 そんな中ゆっくりと士郎君の手から剣が零れ落ちる。
 その剣は地面に落ちて、砂のように崩れて消えてしまった。
 あれ?
 砂のように?
 転送じゃない?
 そんな疑問が頭をよぎるけど

 士郎君が何かをつぶやいた瞬間そんな疑問はなくなっていた。

 全身に寒気がした。
 なんでかはわからなかった。
 でも

「ダ、ダメ!」
「士郎、ダメ!」

 私とフェイトちゃんの叫びが重なる。
 私もフェイトちゃんも本能的に理解していたのかもしれない。
 そして、私達の声に応えたのは士郎君の優しい声ではなくて



 何かが砕けるような音と千切れるような音、そしてその音に応えるように士郎君を貫く何本もの剣。

 でもそこにいるのは士郎君だけ。
 ほかにまだ敵がいて攻撃されたわけじゃない。
 ただ士郎君の体内から剣が食い破るように出てきた。

 呆然としながらも頭の冷静などこかで正確に認識してしまう。

「「いやああああ!!!!」」

 私とフェイトちゃんの叫びが重なった。

「…………ッ!」

 リンディさんが何かを言ってたみたいだけど、聞こえない。
 体に力が入らない。

 私は崩れ落ちるように意識を失った。 
 

 
後書き
というわけでいつもより二時間ばかり遅れて更新。

挿絵は貫咲賢希さんから頂いたものです。

そして今週もリアルが忙しくて修正できたのは一話だけ。
なかなか思い通りに進まないものです。

それではまた来週

ではでは 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧