駄目親父としっかり娘の珍道中
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第52話 花粉症対策は万全に!
春一番に皆様が困るのは一体何か? それは言わずもかなだろう。
そう、花粉だ。この時期になって花達は色々とハイな状態になっているらしく所構わず花粉を撒き散らし始めるのだ。花粉症持ちの人にとっては禄でもない時期に直面していたりする。
そして、そのはた迷惑な花粉症のシーズンはここ江戸でも大流行していたりする。だが、今年の花粉症はちょっとばかり厄介な様子であり、その証拠として、江戸の一角にある万事屋銀ちゃんの屋内でも、何時もは騒がしい声は全く聞こえず、ただただくしゃみを連呼する音だけが響き渡っている次第であった。
「あ~くそっ、何だってんだ今年の花粉はよぉ! 何時もより気合入ってんじゃねぇのか?」
開始早々から鼻っ柱を真っ赤にしながら銀時は愚痴った。万事屋メンバー全員が花粉症に掛かってしまったらしく、皆ティッシュがないと明日も生きられない位にやばい状態になってしまっていた。
「何でも今年の花粉はかなりやばいらしいですよ。例年のうん倍だとか、溜まったもんじゃないですよ全く」
「だよなぁ、こんな花粉だらけの日だってのに晴れてるからだとかで遊びに行ったあの馬鹿の気が知れねぇや」
「ってか、なのはちゃんこんな花粉真っ只中なのに遊びに行っちゃったの? 何でそんなに冒険心溢れてるの!?」
「知らねぇよ。子供は風の子花粉の子って言うだろ?」
「言わねぇよ」
道理でメンバーが一人足りなかった訳でもある。現在万事屋内に居るのは銀時、新八、神楽の三名だけのようだ。まぁ、もうすぐお昼時になるのでそろそろ帰って来ると思われるのだが。
「ただいまぁ!」
「ほぉら帰ってきた。今頃俺達と同じで鼻水ダッラダラの面してるぜ多分よぉ」
「マジアルか! そんな面じゃヒロインやれないアル。今日からヒロインは私アルね」
「おい、鏡で自分の面見て来い。お前も鼻水ダラダラの面してるぞ」
等と相変わらずな会話を交えている三人の下へなのはは帰ってきた。何処と無く息が五月蝿く感じるのだが気のせいだろうか?
「どうしたの三人共?コーホー、そんな鼻水垂らしてコーホー」
「……は?」
聞き慣れない呼吸音が聞こえてきたので見てみると、其処には確かになのはが居るのだが、彼女は顔に分厚いガスマスクを被っていた。まるで某宇宙戦争的な映画の黒幕で出てきそうなマスクを被っていたのだ。
「何だ? そのダースベーダーみたいなマスクは」
「花粉症防止マスクコーホー。結構便利なんだよこれコーホー」
「コーホーコーホーうっせぇんだよ! お前は何処のスカイウォーカーだ! フォースでも使う気かコノヤロー! 大体てめぇだけずっけぇんだよ! 何で自分だけそんなマスク被ってんだ! 外せ馬鹿!」
余程そのマスクの存在が気に入らないのだろうか、無理やりなのはが被ってたマスクを脱がそうとする心底情けない父銀時だったりする。
「わ~わ~、や~め~て~よ~!」
「【~】で可愛い子ぶっても無駄だ! 良いからとっとと取れ! 一々何言ってるのか分からないだろうが!」
必死の抵抗も空しく銀時の手によりマスクをはがされてしまった。こうして外界に素顔をさらす事になったなのはだったが、次の瞬間盛大にくしゃみをし、鼻水を垂らす結果となってしまった。
「うへ~、鼻がむずむずする~」
「ったりめぇだ馬鹿野郎。自分だけこんな性能の良いマスク被りやがって」
「うぅ、お父さんの意地悪」
「意地悪で結構。大人は意地悪でずる賢い生き物なんだよ。こんな大人を見て子供はそんな大人にならないように努力して、なんやかんやで結局こんな大人になっちまうんだよ。そう言う世の中なんだよ」
何を一人で納得しているのか分からないがとにもかくにもこうして万事屋ご一行が皆鼻水を垂らして勢揃いした次第でもある。
「やれやれ、この小説だってやっと50話まで行ったってのに開始早々これかよ。たまには銀さんが格好良くバトルシーンとか銀さんが大活躍するシーンとか無いのかねぇ全く」
「おい、あんまりメタイ発言してんじゃねぇよ駄目人間。そんな事言ってるから私達が最近ギャグ話しか回ってこないんだろうが。察しろよこの天然パーマ」
「そーだそーだ。少しは可愛い娘を労われ~」
「あんだゴラァ! てめぇら二人揃ってヒロインらしい色気の欠片もねぇ癖して偉そうな事言ってんじゃねぇよ! あれだよぉ、この作品を見に来てる奴らなんて大概はヒロインのボンキュッボンのナイスバディとかエロティックなシーン見たさで来てる部屋中ティッシュまみれの―――」
言い終わる前に銀時の顔面に向かい神楽となのはが同時に投げたトレイが叩きつけられる。どうやら色気の欠片もないと言われたのが相当腹立たしかったのだろう。万事屋オーナー特有の回転椅子に座っていた為にトレイを食らった拍子にそのまま後ろに倒れこんでしまうと言う光景が出来上がっていた。
「そう言えばお登勢さん今日は休むみたいだってさ」
「え? あのお登勢さんが!? 信じられないなぁ。寧ろ花粉を栄養源にして仕事してそうな人なのに」
結構酷い事言ってるようだが、新八の言ってる事も強ち間違いじゃなかったりする。
とにもかくにも今年の花粉症は例年にも増してかなり酷いようだ。
「とにかく、こんな日は外に出ない方が良いね。益々花粉症が酷くなっちゃうよ」
「あ、ティッシュが切れちゃった」
「あ、じゃねぇよ! 人の話聞いてた?」
花粉症となれば必然的にティッシュの使用速度がマッハなのは火を見るより明らかだったりする。そんな訳で現在万事屋銀ちゃんにはティッシュは一箱もなかったりするのであり。
「おい新八、とっととティッシュ買って来いよ。どうせティッシュを買う位しか役に立たないんだしさぁ」
「何かむかつくんだけど。何でこっち側の女子ってこうも性格悪いの? ねぇ、なのはちゃんも何か言ってあげてよ」
救いを求めるかの如くなのはに話題を振る新八。だが、相変わらず鼻水を垂らしたままのなのはは新八の話などアウトオブ眼中なのであり。
「良いから早くティッシュ買って来てよ。鼻水が固まってガベガベになっちゃうでしょ。そうなると結構痛いんだからねぇこれ」
「おいぃぃぃ! 二人して人の事パシリにしか使わない気かてめぇら! 少しは年上を敬えバカヤロー!」
流石に二人の対応に切れたのか新八が逆切れしだす。普段からぞんざいな扱いをされ続けたせいなのだろう。同情したい気持ちもあるがそれが新八なのもまた事実だったりする。
「おいおい、あんま騒ぐなよガキ共。只でさえ狭いんだからよぉ、返って埃が立つだろう……」
ヨロヨロと起き上がりながら銀時はふと窓の外を見入った。窓柵越しに見える町。その町の中央にでかでかと聳え立つ巨木。
あれ? 巨木って昨日まであったっけ?
銀時の脳内で過去の映像が映し出されていく。明らかにない。昨日まではあんな巨木なかった筈だ。
「おい、お前等……あんな木昨日まであったか?」
後ろを振り返り三人に尋ねようとした。だが、そこで映し出されていたのは神楽にアルゼンチンバックブリーカーを決められて虫の息の新八と、審判よろしく床を叩くなのはの姿が映し出されていた。
その際に神楽の「どぉだ参ったかぁ! これがヒロインの力じゃぁ!」とか新八の「死ぬ死ぬ! マジで死ぬからぁ!」とかなのはの「新八君、ギブ? ギブするぅ?」などと言う全く今回の話と関係ない事をしまくっている自由極まりない面々であった。
「おぉい、てめぇらそれ一旦中断してこれ見ろって。何かマジで凄い物見れるから。もう眉唾物ってレベルじゃ済まねぇ代物だからマジで」
一旦プロレス紛いな行いを中断し、全員が窓の外に目をやる。そして全員が町に聳える巨木を目にした。
「あの、何ですかあれ?」
「でっかい木が生えてるねぇ。でもあんなの昨日あったっけ?」
「嫌、確実になかったよ。ってか、あの木から猛烈に花粉が出てるんだけど、江戸の花粉症の原因ってあの巨木じゃないの!?」
「おいおい、洒落になんねぇぞぉこりゃ」
このままだと江戸は半永久に花粉症の恐怖に見舞われてしまう事になる。そうなれば江戸の町人は皆鼻水をダラダラ流し続けて鼻の辺りがガベガベになりながら人生を過ごすことを強いられてしまうのだろうか。
「そんなの私絶対嫌ネ! 何処の世界に鼻水垂らしっぱなしのヒロインが居るアルか!」
「私だって嫌だよ! そんな汚らしいの」
「俺だって嫌に決まってるだろうが! 何処の世に鼻水垂らしっぱなしの主人公が居るんだよぉ!」
「いや、そう言う問題じゃないと思うんですけど」
新八の柔らかなツッコミが入った矢先の事だった。万事屋のインターホンが突如鳴り響く。誰かがやってきたのだろう。恐らく客なのでは?
「客か、こんな花粉症の時に一体何処の物好きだ?」
「とにかく出て見るアル。新八、行って来いヨ」
「おい、また僕かよ!」
「良いから行けよ、どうせ客の応対しか出来る事ない癖に!」
神楽の言い分に不満を覚えながらも仕方なく玄関へと向う新八。これが客なのならば丁重に扱わなければならない。下手に扱って機嫌を損ねてしまい、仕事をふいにするなど馬鹿げているからだ。
「はいはい、今出ますよ」
入り口の引き戸を開けた新八は見た。其処に居たのは頭に咲いた一輪の綺麗な花と、鉢の中に咲くこれまた一輪の綺麗な花。そして、それを持つ大柄で緑色の皮膚をした化け物の形相を持った巨漢。
その風貌は地獄の底から這い出てきたデビルを彷彿とさせるに充分足る井出達だったと言う。
ライオンの鬣の様な髭を持ち、二本の角はスケープゴートの様に曲がりくねっており、鋭い眼光がギョロリと得物を探し回り、口に並んだ鮫の様な牙からは得体も知れない臭いが漂ってきそうな感じがする。
そんな感じの恐ろしい風貌をした巨漢が花を携えて立っていたのだ。
(えええ―――! 何あれ、何あれ! 何で、何で家の前にデビル、嫌、魔王が居るのぉぉぉ! 別に此処魔王城じゃないんですけどぉ! ラスボスの居座る居城じゃないんですけどぉぉぉ!)
頭の中で早速パニックを起こし始めている新八。無理もないだろう。いきなり目の前にこうしてデカデカと悪魔の様な風体をした巨人が立っているのだから。
後ろに居た銀時達もまたその余りの恐ろしい風貌にすっかり固まってしまった次第でもある。
「どうも始めまして。今日この裏隣に越してきたヘドロと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
悪魔の風貌をした外見とは裏腹に丁重かつ低姿勢かつ丁寧な挨拶をしてきた。そんなヘドロの挨拶に新八は震えながらただただ頭を上下に振る動作しか出来なかった。
「僕の名前の書き方ですけど、放屁の屁に怒りの怒、そしてロビンマスクの絽と書いて屁怒絽と書きます。一応花屋をやってます。色々とご迷惑をお掛けするかも知れませんが何卒宜しくお願いします。それと、これはお近づきのしるしにどうぞ」
ヘドロから丁重に渡された植木鉢を震える手で受け取る新八。鉢を渡すとヘドロはそそくさと万事屋を後にしていった。徐々にヘドロの重々しい足音が遠ざかっていくのが聞こえて来る。やがて、足音が完全に消え去ったと同時に、新八は恐る恐る首を銀時達の方へと向ける。その時の新八の顔は大層青ざめていた事この上なかったと言うそうだ。
「怖ぇぇよ! マジで怖いんですけどぉぉ!」
「何だよあの恐怖の面はぁ! 隣のヘドロマジで怖いんだけどぉ!」
いきなり場はパニックになり始める。そりゃいきなりあんな強面な怪物紛いの人が裏隣に越してきたなんて言ってきたらそりゃ驚きと恐怖でパニックになってもおかしくはない。
「確かにちょっと怖そうな人だったけど、でもお花屋さんだって言うから良い人なんじゃないかなぁ?」
「馬鹿野郎! 何時まで頭ん中リリカルマジカル引き摺ってんだぁクソガキ! 此処は銀魂の世界なんだよ! リリカルもマジカルもねぇんだよ! 萌えもエロも欠片すら見当たらない世界なんだよ! ギャグとカオスの支配するバイオレンスな世界なんだよぉ!」
「あんたどんだけ自分の世界嫌ってるんですか!?」
「もうお仕舞いネェ! こうなったらせめてお前等を道連れにして死んでやるネェ! 覚悟しろやこの腐れ天パーに駄眼鏡がぁ!」
恐怖がMAXとなってしまった銀時、新八、神楽の三人が仕舞いには互いに互いを潰しあう果てしないバトルロイヤルをおっぱじめだしてしまった。目の前で繰り広げられる死闘、死闘、そしてまた死闘。このままでは物語もグダグダに終わってしまう事山の如しであった。
「まぁまぁまぁ、三人共落ち着きなよ」
そんな三人を戒めたのはなのはであった。流石は万事屋のプチ良心回路的存在なだけあって早々恐怖で潰れるような事はないようだ。
「人は見かけで判断しちゃ駄目だよ。確かにヘドロさんも強面だったけどきっと見た目に反して良い人なんだよ」
「何処が良い人だよ! あんなのどう見ても地球侵略に来た異星人じゃねぇか! 表沙汰じゃ善人面してっけどなぁ、きっと裏じゃ密かに人を誘拐して人体実験とか解剖とかエイリアンとかに改造しているに決まってるよ! マジで怖いよ! 上京したての田舎者が何するか分からない並に怖いよ!」
「例えの意味が分からないよお父さん」
流石にお子様には意味が分からなかったようだ。とにもかくにも、そのお陰で三人の終わりなきバトルロワイヤルは未然に防げたのだから、これはなのはのファインプレイだったりする。
「オォイ、朝ッパラカラウッセェゾテメェラ!」
そんな矢先に、再び引き戸を開けて入って来たのはキャサリンであった。花粉症にやられたのだろう。分厚いマスクを口にし、手には回覧板らしき物を持っていた。
「あ、キャサリンさん」
「ホレ、回覧板ダゾクソガキ! サッサト次回セヤボケェ!」
そう言ってなのはに回覧板を手渡して去って行く。その際に銀時が「回覧板なんて渡してる場合じゃねぇだろうが! 今地球はピンチなんだぞゴラァ!」等と言っていたが全く意に返す様子が見られなかった。まぁ、普通の思考を持つ人間が聞いたらそんな反応をするのは至極当たり前なのだが。
「えぇっと、今日の内容は……あれ?」
「どしたぁ?」
「ねぇ、この住所って家のすぐ近くだよねぇ」
なのはが書かれている住所を指差す。それを銀時達が揃って見た。其処に書かれている住所。それは紛れもなく先ほど来たあの隣のヘドロの住所であった。
「ま、マジですか……これって、今度こそ僕達終わりじゃないですか?」
「もうお仕舞いアル。私達揃ってあのヘドロにやられてお仕舞いアルよ!」
早速絶望ムードに浸る新八と神楽。だが、町内会の秩序と治安を守る為に行かねばならない。何より、そうしないと話が進まないからだ。
***
江戸に突如として現れた巨木の根元付近。そこでひそかに花屋を営んでいるヘドロ。今日も花達にせっせと水をやりながら大事に世話をしている。見た目に似合わず結構まめな性格なようだ。
そんなヘドロを遠目から眺める我等が万事屋ご一行。遠目から見れば良い人そうなのだが、やはり近くで見るとめっさ怖い。寧ろごっさ怖い。それ位怖いのだ。
「何か、普通の花屋さんみたいですね」
「馬鹿野郎、見かけに騙されてるんじゃねぇぞてめぇら。もしかしたらあの花は地球侵略用の生物兵器かも知れねぇぞ」
用心に越した事はない。が、今はこの回覧板を一刻も早く渡す必要がある。だが、正直言うと直に渡すのはかなり怖い。ぶっちゃけ御免被ったりするのだ。
「そうなの? でもあぁやってお花の世話してるヘドロさんって良い人そうに見えるけどなぁ」
「お前の頭の中はお花畑しかないみてぇだな。良いか、あれがもし対人専用の生物兵器だったらどうすんだ? 俺達速攻であれの餌になっちまうんだぞ! 其処んとこ分かっとけやクソガキ」
相変わらずヘドロの危険性を今一理解していないなのはの素っ頓狂な答えに銀時の鋭いツッコミが木霊する。今此処で釘を刺しておかないと以降ヘドロが登場する回でどんな事をやらかすか分かった物じゃない。
「それで、一体どうやって渡すアルか?」
「それをこれから決める。行くぞ、ジャ~ンケ~ン―――」
銀時の掛け声と共に四人一斉に思い思いのジャンケンを出した。その結果、銀時、神楽、なのははグーなのに対し新八だけチョキと言う具合に終わった。つまり新八の負けである。
「はい、それじゃ回覧板を回すのは新八に決定な」
「ま、マジっすか! ってか、此処はヘドロさんに態勢のあるなのはちゃんに任せるべきじゃないんですか?」
「馬鹿かてめぇは、此処で男を見せておけばこれを見ていた読者が【あれ、何か新八って男っぽくね?】とか【やっぱ新八ってカッコいいキャラなんだなぁ】って尊敬の眼差しで見て貰える事山の如しだろうが」
「オッケェイ! 僕に任せて下さい! 必ずこのミッションを遂行させてみせますよ!」
案外ちょろい新八であった。そんな訳で新八が回覧板を渡す役に決まったと言う訳だが、問題は渡し方だ。幾ら新八が覚悟を決めたとは言え流石に直に渡すのは辛い。何か策が欲しかった。
「良いか、此処はさりげなく回覧板を置いて行くんだ。さりげなく、通行人Aの様にな。名前のない只の通行人になってそっと置いていくんだ」
「って、言いますけど、この通り誰一人通らないんですけど」
新八が示唆したとおり、ヘドロの花屋の近辺には人っ子一人通っていない。皆ヘドロを恐れて通れないようだ。これでは例の通行人Aが確実に浮いてしまう。ただの通行人の筈が重要なキーパーソンキャラになってしまう危険性すらある。下手したら死亡フラグつきの。
「心配すんな。お前だけに危険な橋は渡らせねぇよ。俺達が奴の注意を引いてやる。その隙にお前は回覧板を渡すんだ」
「そう言う事ネ。お前は安心して回覧板を渡す事だけに意識を集中すれば良いネ」
「ファイト一発だよ、新八君!」
「み、皆―――」
思わずジーンとなってしまう瞬間だった。彼等が此処まで自分の為に骨を折ってくれた事が今まであっただろうか?
そう思うと思わずホロリと来てしまった。
と、言う訳で銀時案の作戦が結構された。要するに他の通行人を作れば良いのだ。そうすれば必然的に通行人Aが浮く事はない。正に完璧な作戦と言えた。その内容を除けばだが……
で、その通行人と言うのが、一台の乳母車を押す侍。と言う図式だった。俗に言う子連れ狼みたいな物だ。
だが、その乳母車に何故か銀時が乗っており、時折「ちゃ~ん」と可愛いくない声を発していた。明らかに場違いにも程がある。
で、その乳母車を押しているのが神楽となのはの二人と言う訳だ。
「おい、何だあの通行人! あんなデカイ子供居る訳ないだろうが! 明らかにミステイクだろうが! 普通逆じゃないの?」
等と遠目からツッコミを入れる新八なのだが、当然一同が気付く筈がなく、そのまま作戦が決行された。
ヘドロの鋭い視線が通行人B,C,Dに向けられる。まるで射殺すかの様な恐ろしい目線が三人に向けられていたのだ。
かなりガン見されている。めっちゃ見られている状態だったのだ。そんな中、三人はヘドロの視線を一身に浴びながら通行人を装う事となった。
こんな具合に。
「あぁ、なんて事だろうか。我等が父は先に戦の為に精神崩壊を起こしてしまい、今では【ちゃ~ん】としか言わなくなってしまった。おまけに、隣に居る幼い妹が居るのに、世間の風は冷たく、私達はこれからどうして生きていけば良いのか?」
神楽がお涙頂戴な展開をベラベラと並べて行った。が、何故か余り感情移入できないのはそれぞれの演技が酷くヘタクソだからなのかも知れない。
「お姉ちゃん、私お腹減っちゃったよぉ」
「御免よぉ、可愛い妹よ。だが、父上がこの様な状態になってしまった為に、私達には一切稼ぎがないのだ。おまけにこのご時世、私達みたいな幼子では仕事もなく、このまま私達一家は飢えと貧困に戦いながら生きていくしかないのだ」
腹を擦りながら縋り寄ってくるなのはに対し、神楽が目尻に涙を浮かべながら天を仰ぎ己が不憫さを呪っていた。そんな中、父親役の銀時は未だに【ちゃ~ん】とやる気が全く感じられない言葉を並べていた。
その光景を見ていた新八は酷く呆れ果てていたのは至極当然の極みだったりする。だが、ヘドロは違っていた。
なんと、目元に手を当ててしくしくと泣いているではないか。どうやら三人の下手な芝居が効いたようだ。これならば隙をついて回覧板を渡す事が出来る。今がチャンス。これを逃せば次にチャンスが回ってくる事は確実にない。
「すいませぇぇん! 回覧板でぇぇっす!」
大声を発し、新八は走った。三人の命懸けで作ったこのチャンスを無駄にする訳にはいかない。此処で決めねば男が廃るのだ。
だが、その時突然足に違和感を感じた。履いていた草履の花緒が突然音を立てて切れてしまったのだ。思い切り前のめりに倒れ込む新八。軽く顔面から地面に叩きつけられたがそんな事気にしてられない。早く回覧板を届けなければならない。
ところで、下駄や草履の類の花緒が切れるのは不吉の予兆と言われるのが世間一般の理だったりする。今回のそれもバッチリそうであり、花緒が切れた人物、つまり新八に不吉が舞い降りた。それは、新八が持っていた筈の回覧板が彼の手元を離れ、転んだ拍子に勢いづき宙を舞い、そのまま渡す筈だったヘドロの顔面に叩き付けてしまったのだ。回覧板の分厚い板の角の部分がヘドロの目元にジャストミートする。気持ち良い音と共に銀時、新八の血の気の引く顔が其処にあった。
***
薄暗い部屋の中でせっせと包丁を研ぐ。一種のホラー演出としてはバッチリな内容だったりする。増してや、その包丁を研いでいるのが恐ろしい風貌をした巨人であれば尚更恐ろしいと言える。
「いやぁ、すみませんねぇ。わざわざ回覧板を届けていただけるなんて。ご近所にあいさつ回りした甲斐がありましたよ」
とても嬉しそうに包丁を研いでいるヘドロ。そして、その後ろでは万事屋メンバー全員が正座のままヘドロの家にご招待されていた。
と、言うのもヘドロ曰く回覧板をぶつけられた事は大して気にしていないらしく、寧ろわざわざ届けてくれた事に大層感謝したらしくお礼として食事をご馳走してくれると言うのだそうだ。
だが、それを待っていた銀時達の顔色は良くなかった。何故なら、その食事に自分達が食材として使われるかも知れないと思っていたからだ。
「やばいよ、マジでやばいよこれ。どれ位やばいかって言ったらマジでヤバイよこれ」
青ざめた表情で銀時が淡々と語っている。まるで死刑執行を待っている受刑者の様な顔をしていた。
無論、それは新八も同じだったりする。何せ、回覧板をぶつけた本人なのだから。自分自身のミスのせいで皆を巻き込んでしまったという罪悪感も+されてるらしく更に青ざめている。
「ど、どうしましょう銀さん。このまま僕達……」
「焦るな新八。こう言うホラー演出の際に一番死亡フラグを引き易いのは絶体絶命の時にいの一番にパニくる奴って相場が決まってるんだよ」
最もらしい事を述べる銀時。古今東西パニックホラー物の映画で一番最初に死ぬ人のタイプと言えば極限状態でパニックを起こす人、もしくは一人で単独行動をするKYな奴。そうと決まっているのだ。
なので、死亡フラグを引かない一番の方法はパニックを起こさない事だったりする。
「ねぇねぇ、お父さん」
「あん?」
ふと、隣で座っていたなのはが銀時の裾を引っ張っている。顔を見ると少しはにかんでおり俯いている。それに、何故かもじもじしている仕草をしていた。
「んだよ、まさかトイレ行きたいとかってんじゃねぇだろうな?」
「違うんだけど……ちょっと、此処の雰囲気が怖くなっちゃって……」
ヘドロは平気なようだが、どうやらこの薄暗い佇まいがお子様にはちょっぴり怖くなってしまったのだろう。元々暗がりを怖がるなのはだ。薄暗い部屋は絶好の恐怖スポットだったのだろう。
「どうしましたか、お嬢ちゃん? 厠でしたら此処を出て突き当たりを右ですよ」
そう言って振り返った際、ヘドロの両目がギラリと恐ろしげに輝いた。その眼光を見た刹那、なのはの中で築かれていた優しいヘドロのイメージが音を立てて崩れていくのが見て取れた。
「あ、あうあうあうあうあう……」
「馬鹿! さっきも言っただろうが! パニックホラー物で真っ先にパニックに陥った奴が一番先に死ぬんだよ! お前映画で一番最初に死ぬ殉職キャラになりてぇのか?」
「だって、だってぇ!」
銀時の腕に縋りつき、半泣きの状態になったなのはが言葉を詰まらせながら見ていた。頭の中に出来上がった恐怖をどう表現すれば良いのか分からなくなってしまったのだ。
「あ、あのぉ……ヘドロさん、折角お食事をご馳走してくれるのは嬉しいんですけど、実は僕達これから予定がありまして、すぐに向わないといけないんですよ」
「え? そうなんですか! そうとは知らずに呼び止めてしまって申し訳ない事をしてしまいましたね。いやぁ、僕ってば人が尋ねてきてくれたもんだからつい舞い上がっちゃって―――」
気恥ずかしそうに頬を掻く仕草をしているヘドロ。だが、その眼光は銀時達を見ている。まるで【俺の飯よりそっちの方が大事なのか貴様等? 今夜の晩飯に貴様等を使ってやろうか?】と言ってるかの様であった。
(不味い、めっさ不味い! 何か言い訳っぽい事言って逃げようとしたけど、逆に逃げられない雰囲気になっちまった!)
(どうするんですか? このままじゃ僕達確実に今夜の晩御飯の主食にされちゃいますよ!)
耳打ちで語り合う新八と銀時。二人の脳裏に映るフラッシュバック。それはこの後ヘドロの研ぎ終わった包丁にて四人全員細切れにされて鍋の具材にされると言う最悪の図式が其処に映っていた。
「あ、あのぉ……やっぱ良いですわ。あれ結構どうでも良い仕事でしたんで」
「え? 良いんですか。遠慮なさらずとも良いんですよ。お仕事大事じゃないんですか?」
あくまで控え目に言ってくれるヘドロ。しかし顔はやっぱり怖い。
「大丈夫だよ。今日は仕事なんて全然ない―――」
なのはが解説をしてきたので即座に彼女の後頭部を平手打ちして黙らせる銀時。だが、時既に遅しだった。ヘドロの耳に仕事がないと言うのがばれてしまったのだ。
「なぁんだ、仕事じゃなかったんですね。すると私事とかですか?」
「え、えぇ……実はあんまり重くなる話題だったんで伏せたかったんですが、実は先ほど父が危篤と言う報せが届きまして―――」
目元を手で覆って悲壮感を露にしようとする銀時。回りの新八、神楽もそれに釣られて頷いてみせる。だが―――
「あれ? 家に御爺ちゃんっていな―――」
またしても墓穴を掘ろうとするなのはに再度後頭部に平手打ちを見舞う。これ以上此処を抜け出す手段を潰されたのでは敵わない。
「何ですって! それは一大事じゃありませんか? すぐに支度しましょう! あの、心配なんで僕もついて行って良いですか? 知り合って間もない身ですが、万事屋さんのご家族の安否が心配で仕事にも手がつきそうにないんですよ」
口元に生え揃った無数の牙がガチガチと噛み合い不気味な音を奏でる。折角抜け出す方法を考え出したと言うのに、どうやらヘドロはついてくるつもりの様だ。そして、挙句の果てにはその危篤中の父諸とも自分達を危篤状態にするつもりなのかも知れない。
「いえ、やっぱ良いですわ! 実は家の親父かなりのDV親父だったもんで、俺も家族全員大迷惑してたんですわ。もういっその事くたばってくれたらせいせいしたなぁ、何て思ってたんですよマジで」
身振り手振りで誤魔化す銀時。しかしそろそろ限界だった。これ以上誤魔化し通すのも言い訳をするのも無理だった。となれば最後の手段しかなかった。
「もうこれ以上は無理そうだな。新八、神楽、お前等はなのはと一緒に此処から逃げろ! 俺がその間時間を稼ぐ」
「お、お父さん何する気なの?」
「今のあいつは包丁研ぎに夢中で俺達の動作に気付いちゃいない。この隙をつき奴に必殺の一撃を見舞う」
要するに奇襲だった。如何に強靭な輩であっても背後からの奇襲には案外脆かったりする。
あのヘドロを破るには最早奇襲戦法しか残されてなかったのだ。
「嫌だよ! お父さん死なないでよ! お父さん死んだら私寂しいよぉ!」
「泣くななのは。お前も侍の子なら親との別れの時位笑顔で見送ってくれよ。でねぇと父さん安心して戦えねぇだろう?」
完全に泣きが入ってるなのはの頭にそっと手をやりながら銀時は囁くように言った。こう言う場合は笑顔で見送ってくれた場合の方が寧ろ戦いやすかったりする。まぁ、それで勝てるかどうかは別問題だったりする。下手すると死亡フラグになりそうだし。
「銀さん、僕達も一緒に戦いますよ! 全員で掛かれば勝機が見えるかも知れないじゃないですか!」
「馬鹿野郎! 此処で全員共倒れしたら、誰が地球の危機を江戸に報せるんだ! お前等は俺の屍を越えて、明日を生きるんだよ!」
「ぎ、銀ちゃん……マジ泣かせる台詞ヨ。私思わずホロリと来ちゃったアル」
見れば、新八と神楽もまた涙を流していた。それ程までに銀時の台詞は心にグッと来たのだろう。
「お前等、此処は俺に任せて早く行け! 江戸を頼むぞ!」
「やだやだぁ! 此処でお別れなんて私絶対にやだよ! そんなの、そんなの―――」
「新八、こいつを連れて早く逃げろ! こう引っ付かれたんじゃ禄に戦えない!」
「分かりました! 銀さん、貴方の事一生忘れませんよ!」
並だを拭い去り、銀時にしがみついてるなのはを強引に振り解いた。その際に激しく暴れられたが今はそんな事を気にしている余裕はない。
即座に新八と神楽は愚図るなのはを連れて部屋から外へ向けて全力疾走を始めた。
「あれ? どうしたんですか皆さん。何か騒がしいようですが」
「ヘドロォォォ! 俺の命と侍の意地を賭けて、てめぇをぉぉぉぉ―――」
怒号と共に飛翔し、銀時は木刀の一閃を放った。
***
薄暗く長い通路を新八達はひたすらに走っていた。涙を拭い、銀時が残した明日に向ってひたすらに走り続けていたのだ。
「うぅっ……お父さんが、お父さんがぁ……」
「御免よ、僕が弱いせいで銀さんを……すみません、銀さん!」
「銀ちゃん、銀ちゃんの事は忘れないよ! 銀ちゃんの分までこの小説を盛り上げていくから安心して成仏してよ」
等と三人共銀時が既に故人になっているのかと思い込んでいる様子だった。まぁ、あれだけフラグを立てればそう誤解しないでもないのだが。
背後から猛スピードで何かが近づいてくるのを感じた。まさか、もう銀時を片付けたヘドロが追い駆けてきたと言うのだろうか?
となれば、銀時の死は正に犬死。全くの無駄死に終わった事になる。悔しさに新八は歯噛みした。そして、後ろを振り向き、新八は見た。
こちらに向って猛スピードで逃げてくる銀時の姿を。
「やっぱ怖いから無理いいいいいいいい!」
「おぉぉい! さっきまであんなカッコいい台詞吐いといて結局それかよ!」
「無理なもんは無理なんだよ! 銀さんこれでも一生懸命頑張ったんだよ! 必死こいて頑張ったんだよ! だからもう良いじゃん! もうゴールしても良いじゃん!」
要するに怖くなって逃げてきただけの様だ。まぁ、生きていただけでも有り難いのだが。
「お父さん! 無事だったんだね? 生きてまた会えるって絶対信じてたよぉ」
「なのはちゃん、感動の再会みたいだけど、結局銀さん何もしてないからね。ただ怖くなって逃げてきただけだからね」
付け足すように言う新八。とにもかくにもこれで万事屋四人が無事勢揃いしたのは喜ばしいと言える。
そんな折、またしても背後から近づいてくる足音が聞こえた。地響きと共に凄まじい足音が聞こえて来る。人間のそれとは掛け離れた重々しく恐ろしげのある足音。
その足音を聞いた四人は一斉に振り返る。其処には恐ろしい形相のまま銀時達を追い掛けるヘドロの姿があった。両手を直角に曲げて激しく振りながら恐ろしいスピードで追い駆けてくるヘドロが四人の視界に映った。
「ぎいいいやああああ! 逃げろてめぇら! 捕まったら俺達全員お陀仏だぞぉ!」
「そんなの嫌アルよ! 私は死にたくないからお前等私の身代わりになって死ぬヨロシ!」
「ざけんなコラ! 寧ろ俺が死にたくないから俺を生かせてくれ! さっきあんだけ頑張ったんだからもう良いだろうがよぉ!」
更にスピードアップして走る万事屋メンバー達。記憶にない通路をひたすら走り、とにかく外へ出ようと必死になって走っていた。ふと、走っている通路に違和感を覚える。
見れば、それは平坦な道などではなく、昇り式になっている階段であった。つまり、四人は着実に上に向って進んでいる事になっているのだ。
「ちょっとぉぉぉ! 上に上ってるんですけどぉ! 僕達外に出たいんでしたよねぇ! 何で上に行ってるんですかぁ!」
「じゃぁテメェだけ下に下りろぉ! 俺達は上に上るけどなぁ!」
「やっぱ嫌ですぅ! 僕だけ死にたくないぃぃ!」
結局そのまま上へ上へと上り続ける銀時達。その間、新八に抱えられる形でなのはは後ろから猛スピードで迫るヘドロを目撃する。大股で何段も階段をすっ飛ばして駆け上がってくる為に尋常じゃないスピードで登ってきているのだ。
「来てる! 来てるよぉヘドロさんがぁ!」
「んなこたぁ知ってんだよぉ! だからこうして捕まらないように俺達必死に逃げてるんだろうがぁ!」
「もう駄目ネ、此処はレディーファースト曰くお前等男達が捨て駒になって私達を生かすネ! それが男の最期の花道になるネ」
「冗談じゃねぇ! 俺は最期の最期まで醜くしぶとく生きてやるからなぁ!」
喧々囂々しながらも必死に階段を駆け上っていく。一体何処まで続いているんだこの階段は?
そんな新八達の疑問を払拭するかの様に目の前に明るく輝く扉が見えた。恐らく外へと続いている扉なのだろう。
助かった。これでこの悪夢の巣窟から脱出出来るんだ。舞い上がる気持ちで一同はドアを蹴破り外へと飛び出した。三人を出迎えたのは美しい青空と腹部へと激しい痛みであった。どうやら其処は巨木の天辺だったらしく、銀時達は慌てて飛び出したが為に手すりにそのまま体を打ち付けてしまったようだ。
「いたたた! マジでいた~い、これ出ちゃうんじゃね? 昨日のパフェとか出そうなんだけどぉ!」
「ほ、本当に痛いんですけど、マジで痛い!」
「ふぐおぉぉぉ! 腹が、腹に諸に決まったアル~~」
三人揃ってその場で痛みを抑えつつ手すりに捕まっていた。見ればかなりの高さだ。其処から落ちたら下手すると命を失い掛けない。
そして、そんな高さだと言うのに銀時達の目の前には新八の手からすっぽ抜けたなのはがそのままベランダの外に飛び出している光景が見えた。
「え?」
「あ!」
一瞬の沈黙。そして感じる落下の感覚。銀時達が揃って身を乗り出して手を伸ばす。
間に合え! 間に合ってくれ!
祈る気持ちで銀時は目一杯手を伸ばし、落下しつつも銀時達に手を伸ばすなのはの手を掴もうとした。銀時の爪はなのはの中指を掠めるだけの終わった。
銀時の顔が蒼白に染まっていく。新八と神楽は大声を張り上げて必死に手を伸ばす。だが、間に合わない。
三人の目の前に映る遥か下の江戸の風景、そして落ち行く少女の光景が―――
突如三人の間に割って入るかの様に巨大な影が現れ、その影が腕を伸ばした。
伸びた腕は少女の片腕を掴み落下するのをその場で防いだ。
一同は見た。汗だくになり息を切らせたヘドロがなのはの手を掴み助けてくれた光景を。
「ヘドロ……さん?」
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
相変わらず恐ろしい形相をしていたが、そんな顔のままヘドロがにっこりと微笑んでくれた。その時のヘドロの顔はとても優しく見えたと言う。
***
それから数日、結局地球が侵略される事もなければ食人植物が現れると言う事もなく、江戸の町は平和そのものであった。
万事屋達が訪れたと言う事もあり、それからヘドロの営む花屋には徐々にだが人が訪れるようにはなったと言う。
が、やはり怖いので余り売れ行きは良いとは言えないらしいが。それでも、江戸の住人の中に溶け込めた事をヘドロはとても喜んでいた。
それは何よりと言える。そして、それから暫くの間は、万事屋の中でくしゃみが絶えなかったと言うそうだ。
つづく
後書き
緊急告知
次回から銀魂編のシリアスバージョンに突入します。銀さん達万事屋メンバーとリリカルなメンバーが織り成すギャグとバトルなお話をご期待下さい。
次回【ジャンプは資源ごみだから無闇やたらに捨てるのは勿体無い!】
お楽しみに
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