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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第3部
芙蓉編
  第53話 ジャンプは資源ごみだから無闇やたらに捨てるのは勿体無い!

 
前書き
今回からいよいよ銀魂シリアスパートの一つである【芙蓉編】に突入します。
遂に皆様お待ちかねのあのキャラが登場するパートです。では、是非お楽しみ下さい。 

 
 それは、ある暑い夏の日の事であった。
 何時もの様に町内のゴミ掃除をしていた男は、一人の女を見た。その女は夏の猛暑だと言うのに顔以外素肌を見せないほどの厚着をし、更に両の手は分厚く包帯が巻かれていた。女の顔は酷く痩せこけており目元には隈が浮き彫りになり、今にも倒れそうにも見えた。
 その女は男に目もくれる事なく持っていた白いビニール袋を無造作にゴミ捨て場へと放り捨てた。男は薄気味悪さを感じてはいたが、気にせずそれをゴミ収集車へと放り捨ててその場を後にした。
 男はゴミの中を確認しなかった。女が食い入るように見ていたからだ。まるで、ゴミを一刻も早く捨てて欲しいと目で訴えてるかの様に。
 その翌日もまた、女は現れた。何時もの様に厚着で、何時もの様に痩せこけた姿で、何時もの様にビニール袋を捨てて、何時もの様にそのゴミが捨てられるまで男を睨みつけて……
 そんな事が何日も続いた。ある時、其処に女の姿はなく、あったのは例のゴミ袋だけだった。男は恐る恐るその中身を見る事にした。其処には女は居た。何時もの様に―――




     ***




【ゴミの分別に気をつけよう】
「CMかよ……人騒がせな事しやがって!」

 真夜中の暗い部屋の中で、銀時は寝る前のはみがきをしながら主室にテレビをつけてみた。そして、例の光景を目の当たりにしてしまったのであった。
 どうやら昨今のゴミの分別の悪さに端を発した清掃会社の嫌がらせなのであろう。

「ったく、はた迷惑な事しやがって、そうでもしなきゃゴミの分別をしないなんて考える事自体幼稚だって気づけってんだよ!」

 一人ブツブツ言いながらはみがきを続ける銀時。だが、心なしかその肩は小刻みに震え続けていた。どうやらこう言った類の話は相当苦手なようだ。
 一通りはみがきを終え、後は寝るだけと言う矢先、銀時はふと思い出してしまった。
 明日のゴミは可燃ごみを集める日だ。しかし、そんな日だと言うのに銀時はあろう事か資源ごみであるジャンプを纏めて捨ててしまったのだ。このままでは業者がジャンプを可燃ごみとして捨ててしまう事になる。が、時刻は既に深夜。
 俗に言う草木も眠る丑三つ時位だ。現在外は月の光しか照らしておらず、結構暗かったりする。特にゴミを纏めるゴミ捨て場辺りなど不気味でとても近づけたり出来る雰囲気じゃない。

「べ、別に良いか。ジャンプは読んでて燃えるんだしぃ、ちゃんと燃えるごみとして分類してもおかしくねぇよなぁ」

 一人で勝手に納得してしまった銀時、そんな銀時の脳裏にふと、あの光景が浮かび上がる。先のCMで出た不気味な女性が脳内一杯にサムズアップしてる光景が浮かび上がった。 ゴミの分別を間違えたにも関わらずそれを放ったままにした銀時を恨めしそうに見つめていた。

「・・・・・・・・・」

 歯ブラシを握る手が恐ろしく震えていた。目元が真っ暗になり銀時の振るえは最高潮にまで達していた。このままジャンプをそのままにしておけば、最悪の場合あの女がやってくるかも知れない。
 あの厚着で痩せこけた不気味な顔と目をした恐ろしい女が銀時の目の前に―――




 昼はあれだけ賑わっていたかぶき町だが、夜になると一転して恐ろしい位に静けさに支配されていた。そんな静けさが漂う万事屋近くのゴミ捨て場前に銀時は来ていた。その横には不満たらたらな表情の神楽と既に意識もうろうな状態のなのはが居た。

「何でこんな時間に叩き起こすアルか?」
「いや、あれだよ。実はさぁ、明日燃えるゴミの日なのにも関わらずジャンプ捨てちゃったからさぁ、このままにしておくと清掃会社に良い迷惑じゃん? だから今の内に撤去しておこうと思ってさぁ」
「じゃぁお前一人で行けば良いじゃねぇか。何でわざわざこの小説のヒロインである私達を連れて来るネ? ヒロインは顔が命だって知ってるだろうが。染みが出来たらどうすんだよコノヤロー!」

 普段から毒舌の耐えない神楽であったが、今宵の神楽の毒舌は普段にも増して酷かった。まぁ、言ってる事が当たってると言えば当たってるかも知れないし外れてるかも知れない。

「いやさぁ、あれだよ? もしかしたら他にもとんでもないゴミが捨てられてるかも知れないじゃん。町内会の一員としてはそれは絶対に見過ごせないからさぁ」
「普段からやりもしない癖に何今更真面目ぶってるアルか? キモイアルよ」
「あぁ、もうきもくてもいいからよぉ、とにかくゴミ片付けるの手伝ってくれよ。お前等だけが頼りなんだよ、な」

 そう言って音沙汰の全く無いなのはに話題を振ってみる。だが、神楽とは打って変わりなのはは既に眠っているらしく立ったまま意識が飛んでいた。鼻からは鼻ちょうちんが大きくなったり小さくなったりしている辺り、既に熟睡モードに入っている事が見て取れていた。

「駄目だこりゃ。立ったまま寝ちまうなんて相変わらず器用なガキだなぁ」
「良いからさっさと取って来いよ。面倒だけどなのはをこのままにしておけないから此処で見ていてやるからよぉ」
「本当? 見ててくれるの? 有り難う神楽ちゃん! 俺マジでお前の事尊敬しちゃうよ! 畳の上を這い回るダニの次に尊敬しちゃうからマジで」
「やっぱり帰るアル」

 一言余計だった。完全に機嫌を損ねた神楽がそのまま万事屋へと戻って行ってしまった。
 その場で寝ているなのはを放っておいたまま。

「おいぃぃぃ! 待て神楽ぁぁぁ! せめて其処で器用に寝てるなのはを連れて行けぇぇぇ! そのままにしてたらそいつ風邪引くだろうがぁぁ!」
 
 大声で怒鳴るも、神楽は気にせずだった。どうやら神楽もまた寝ぼけていたようだ。最早一刻の猶予もない。早くジャンプを回収せねばならない。頭の中に例の女が浮かび上がり恨めしそうにこちらを見つめてくる。
 不気味な気配がそこかしこに漂ってくる。例えば、向いの家のゴミ捨て場とか―――

「はっ! 騙されるかよ、どうせゴミ漁りに来た野良猫とかだろ? そんなのに一々ビビる銀さんじゃねぇんだよ」
 
 とか言いつつ恐る恐る向かいのゴミ捨て場を見る。其処にはちょうど銀時の目線の高さ位の位置にゴミを入れる容器が横倒しになって転がっていた。丁度中が見える位置に。そして、その容器の中にはダークグリーンの髪を生やした美しい女性の生首がゴロンと転がっていた。

「………え?」
【不審者発見。これより解析モードに移行します。対象者の心拍数上昇―――】

 銀時の心臓の鼓動がみるみる内に高まっていく。そして、やがて銀時は後ろで寝ているなのはと同じ様に意識を手放しその場に倒れこんでしまった。そんな銀時を見てかそうでないのか、生首は最期にこう言葉を発した。

【目標、喪失しました、引き続き節電モードへ移行します】

 と―――。




     ***




 重い目蓋がゆっくりと開かれる。視界一杯に広がるのは見慣れた天井と温かな布団の温もり、そして、目の前に巨大な寸胴鍋を抱えて今にもその中身をかけようとしている少女の姿。

「待て待て待てえええええええ! 起きたから、俺もう起きて目とかバッチリ覚めたからぁ!」
「あ、本当だ! おはよう、お父さん」
 
 しれっとそう言ってなのはは持っていた寸胴鍋をその場に置いた。鍋の中にはこれまた並々に入れられた熱い湯がぐらついているのが見えた。恐らく沸騰した直後の奴を持ってきたのだろう。危うくこの熱湯を大量に浴びる羽目になる所だったと銀時はつくづく安堵の溜息を吐いた。

「ご飯出来てるよ。今日は神楽ちゃんの要望で卵かけご飯だよ」
「あぁ、そうかい。んじゃいただくとするか」

 起きた途端に覚える空腹感。窓の外を見ればすっかり太陽が江戸の町を照らしている。時刻的に言えば朝飯を食べるには上々の時刻と言えた。欠伸を一つし、体中から感じる気だるさを顔で表現しつつ起きる銀時を他所に、てけてけと居間へ戻り支度を始めるなのは。毎度毎度の万事屋の風景だったりする。

「あ~あ、ったく―――」

 一人愚痴りながらも寝巻きから普段着へと着替え、居間へと向う。其処には既に一通りの食事が整えられており、なのはと神楽が椅子に座って銀時が来るのを待っていた。

「あ、銀ちゃんやっと起きたアルか?」
「あぁ、危うく鍋一杯の熱湯をぶっ掛けられる所だったけどな」

 既に慣れたとは思うかも知れないが実際慣れたくない。あれの凄まじさと言ったら体言するのも身震いしてしまう程だ。あれのせいで一体何度火傷を負い掛けたか知れない。
 まぁ、それが嫌なら常人並の時間で起きれば問題ないのだが―――

「さってと、んじゃとっとと食うとするか。昨日はあれのせいで朝からテンション駄々下がりだからなぁ」
「アレ? アレって何アルか?」

 お椀に盛られたご飯の上に卵を乗せ、醤油を掛けてさらさら食べながら神楽は聞いてきた。銀時も同じ様にしつつ昨夜自分が見た事を明確に思い出そうとする。

 可燃ごみの日に間違えて資源ごみを捨てた自分、夜中に無理やり神楽となのはを引き連れて回収に向ったが神楽が非情にも引き返してしまいてんぱりだす銀時、そして不気味な視線と共に其処に現れた女の生首。

 思い出しただけでも背筋が凍りそうになる夢であった。

「昨日ゴミ捨て場で生首の事アルかぁ?」
「ん? 何でお前がそれを知ってるんだよ」

 何故脳内イメージの部分を神楽が知っているのか? もしかして、神楽にエスパーの類みたいなスキルが発動したからでは?
 と思っても見たがそんな事は稀有だった。

「うなされてたアルよ。あの後何時まで経っても戻ってこないからゴミ捨て場に行って見たら銀ちゃんそこで倒れてたアルよ」
「マジかよ。居酒屋2,3件はしごしたってそうはならねぇぞ。ま、見られたのがお前でよかったってところか」

 これが神楽以外の奴に見られたら洒落にならない。ゴミ捨て場で寝巻き姿の銀時が倒れていた何て知れ渡った日には最悪万事屋を畳む覚悟も辞さなければならない事になりかねない……訳はないと思う。

「ふぅん、昨夜そんな事があったんだ。私全然覚えてないや」
「お前は器用に立ちながら寝てたからな。ったく、お陰で朝からテンション激下がりだぜ。こう言う時は何か糖分でも摂取するにかぎ―――」

 ふと、銀時は机の上にある異質な物に気付いた。本来そんな物を乗せるはずがない物が乗っていたのだ。神楽のすぐ横に置かれている物。緑色の髪をし綺麗な髪飾りを施された女の生首が其処に静かに置かれていた。

「か、神楽ちゃぁん……それ何?」
「あぁ、これアルかぁ? 銀ちゃんを連れて来るついでに拾ったアル」

 分かり易く、そして明確に神楽は告げた。要するに自分が気絶した原因をそのままテイクアウトしたって事になる。
 それを見て、それを聞いた途端銀時は一気に顔面蒼白になり座っていた椅子から即座に後ろへと飛び退き震える指でその生首を指差した。

「ななな、何でそんな物騒な物をテイクアウトしてんだてめぇはよぉ! ってか、何でそれを食卓に置くんだ! 明らかに食卓に使う代物じゃねぇだろうが!」

 ギャンギャン騒ぎたてる銀時。慌てふためく銀時を見て、なのはも不審に思ったのかさっきまで気にも留めてなかった例の生首を見た。銀時ほど慌てはしなかったが、確かに食卓に生首っと言うのは些かいただけないシチュエーションだった。

「ねぇ神楽ちゃん。何でそれを置いてるの? 髪結床にあるマネキンなんて置いたって食べれないよ」
「違うアル。これはマネキンじゃないアル。これは卵割機アルよ」
「卵割機? これがぁ?」

 言われるがままに神楽が見せた生首をなのはは繁々と眺める。見れば見る程唯の生首でしかない。こんな生首の何処に卵割り機の機能があるのだろうか?

「何が卵割り機だ! そんな生首の卵割り気を使う位なら波○さんが買って来た卵割り機を使った方が遥かにマシだろうが!」

 因みにどこぞの町に在住している永遠年を取らない一家にて、全く同名の機械があったようだが形状は全く違っている。
 まぁ、どちらにしても余り使い道はないと言うのは同じなのだが。

「二人共、想像してみてヨ。卵を見るとついつい人の頭で割りたくなって来ないアルか? こう、アニメみたいにおでこでぶつけて卵を割る。そう言うシチュエーションに憧れた事って無いアルかぁ?」
「あ、あるある! 私もやってみたいなぁって思ってたけど中々出来ないんだよねぇあれ」

 神楽の言い分に納得したのかなのはがうんうんと頭を上下に振って頷いていた。そんな二人のやり取りを見て銀時は不安を覚えたのか顔を手で覆って深い溜息をついていた。
 どんどんなのはがやばい方向へ導かれていく気がしてならないのだ。まぁ、回りに居るのが殆ど馬鹿で変態な奴らしか居ないのだから当然と言えば当然なのだが。

「で、具体的にどうやって使うんだよ? まさか口で割らせるって訳じゃねぇよな?」
「簡単ね、それはこうやって額に卵を叩きつければ良いだけアル。こんな具合にぃ!」

 言った直後、神楽は持っていた卵を主室に生首へと叩き付けた。無論、そんな事をすれば殻は粉々になり中の白身と黄身がグチャグチャに混ざり合って生首の髪と顔に付着し、そのまま生首は床にゴロゴロと転がってしまった。
 やっぱり、この卵割り機も全然使えない。そう断言出来る光景であった。

「いや、要らねぇだろこんな物! あったって邪魔なだけだ! すぐ元あった場所に戻して来い! こんなのが家ん中にあったら絶対何か面倒毎に巻き込まれるだろうが!」
「嫌アル、あれは私の卵割り機アル! 誰にも使わせないネ!」
「馬鹿だろお前! 果てしなく馬鹿だろ! とにかくあんな物は捨てて来るに限るんだよ! どうせ禄でもない物に決まってるんだ!」

 銀時の予想ではこの生首はきっとまたはた面倒な厄介事を持って来るに違いない。そうなる前にさっさと処分してしまった方が吉だ。
 そう判断した銀時であったが、生憎にも神楽がその生首を卵割り機などと呼称し、置いておきたがる有様だった。こうなれば是が非でもあの生首を処分しなければならない。もしあれが町人なんかに見つかったら変な誤解を招く。下手したら獄中に入れられてしまうかも知れない。
 そんな脳内イメージを浮かべていた銀時がふと、生首のあった箇所を見た。さっきまで其処にあった生首が忽然と姿を消している。
 変わりにあったのは、定春の巨大な前足と、そして生首を咥えている定春の姿であった。

「さ、定春……お前それをどうするつもりだ?」
 
 銀時の目元が歪になっていく。口元もひくつきだし、嫌な予感がヒシヒシと頭の中を駆け巡っていく。そんな銀時達のことなどお構いなしに定春は外へと出ようとしていく。口に例の生首を咥えたままの状態で。

「待て待て待てぇぇぇ! 定春、お願いだからそれだけは止めてくれ! 頼む、その生首とビーフジャーキー交換してやるから頼むからその生首をこっちに寄越せぇ!」

 外へ出ようとする定春を必死に押さえつける銀時。が、超大型犬である定春相手に力押しで勝てる筈などなく、ズルズルと引っ張られていくだけであった。
 遂には入り口の扉をぶち破り外へと顔を出す定春。流石にこれには神楽も焦りを覚えて定春を止めに入った。
 まぁ、神楽の場合はただたんに卵割り機を返して欲しいだけなのだが。

「定春! それは私のネ! 良い子だから返すヨロシ!」
「だからこれは卵割り機じゃねぇってんだろうが! もう良いよ。明日から俺がお前の卵割り機になってやるからこれを処分させてくれ! 頼むよ、マジでさぁ!」

 必死に止めに入る銀時と神楽。しかし定春は止まる事を知らない。しかし流石に鬱陶しかったのだろうか。遂には咥えていた生首を放り捨ててしまった。上空へ向けて投げ捨てられた生首はそのまま放物線を描く様に町の方へと落下して行った。その光景を目の当たりにした銀時は頭の中が真っ白になる感覚を覚えた。
 もうだめだ、おしまいだ! あの生首を誰かに見られたら確実に殺人事件と誤解して警察に通報される。そうなったら人生オワタになってしまうのは火を見るより明らかだった。
 だが、幸いにも今の時刻は余り人通りは多くない。通行人に目をつけられる前に拾って処分すれば問題ないだろう。そう思いベランダから外を見る。其処には良いタイミングでやってきた新八が振って来た生首をキャッチしている光景を目の当たりにした。

「し、新八! 良い所に来た。すぐにそれを処分しろ! でないと指紋がついちまう! 俺達揃って獄中入りになっちまうよぉ!」
「獄中? 何言ってるんですか? 朝っぱらから騒々しいなぁ……これがどうかしたんですか?」
「だぁかぁらぁ! それを誰かに見られる前に処分しないとだなぁ―――」
「大丈夫ですよ、別にこれを誰かに見られたって僕達獄中入りしませんから」

 焦る銀時を他所に新八は冷静な顔をしていた。銀時には新八が何故生首を見て冷静でいられるのか皆目検討がつかなかった。一体何故新八は落ち着いていられるのだろうか?

「ねぇお父さん、さっき言い忘れてたんだけどさぁ」
「ん?」

 ふと、家の中からなのはが現れ、同様に新八を見下ろしながら語った。

「あれ、ただの機械だよ」
「マジか!」

 どうやらなのはが大して慌てなかったのはそれを見て初めから気付いていたからなのだろう。
 ふと、それを知らずに一人慌てふためいていた自分が物凄く恥ずかしい事に気付き、穴があったら入りたいと思ってしまった銀時であった。




     ***




 新八の説明によると、どうやらこの生首は今巷で有名なからくり家政婦「悦子ちゃん」と言う類の様だ。江戸でからくりと言ったらもう行く場所はひとつしかない。万事屋ご一行は生首だけの悦子ちゃんを片手に源外の居る工房へと訪れた。

「どうだ? じいさん」
「偉く派手にやられたみたいだなぁ。ま、大事な部分の損傷はないし、この分なら直せるだろう」

 どうやら損傷していた部分は簡単に直せる部分だけだったらしく源外も簡単に直せると言ってくれた。それを聞いた銀時は邪悪な笑みを浮かべだす。
 聞けばこの悦子ちゃんと言うからくり、どうも巷では高値で取引されているらしく、上手くボディも取り揃えられればかなりの金額が期待出来ると言うものだ。

「しっかし時代は進歩しているねぇ、ツンデレメイドに熟女メイド、ぶりっ娘メイドに眼鏡っ娘メイドと来たかぁ。からくりもついに此処まで来るとはねぇ―――」
「仕事もこなせるし気立ても良いし、最近じゃぁ人間より使えるって商人達から専ら評判が良いみたいですよ。まぁ、僕達庶民が買えるような値段じゃないんですけどね」

 遠い目をしながら新八が淡々と語ってくれた。それをパンフレット片手に聞き耳を立てていた銀時はうんうんと頷いた後に、新八に目線を向けた。

「因みに新八、何でお前このからくり家政婦についてそんなに詳しいんだ?」
「え? あ、あぁ……オタクの間では割と有名な話なんで……自然とオタクなら耳に入ってしまう事なんですよ」

 銀時の問いに新八は頬を紅く染めながらちょっとはにかみ混じりに応えた。そんな思春期特有の反応を楽しむかの様に銀時はパンフレットで口元を抑えて面白半分な目線で新八を見入った。

「おいおいこいつ、からくりに言う事何でも聞かせるつもりだぜぇ。思春期特有のちょっぴりエロスな事で頭が一杯なんでねぇのぉ? これだから童貞君は危ないねぇ」
「なっ、あんたに童貞の何が分かるってんだよぉ!」

 銀時の煽りに慌てふためく新八。そりゃ童貞だの何だのと言われればそりゃ普通の少年なら慌てるだろう。ましてや新八はその手の話題には過剰に敏感な体質だったので仕方ないと言えば仕方ない。
 が、それを側から聞いていた神楽となのはの冷たい目線が突き刺さる。

「なんか、新八君の印象が私の中でがた落ちした気分だなぁ」
「全くアル。暫く私達に近づかないで!」
「てめぇら! ここぞとばかりに人の事おちょくりやがって!」

 子供達のいざこざがその場で勃発したが、大人である銀時は大して気にも留めずに源外が修理している生首に目をやった。幾ら人気のからくり家政婦と言ったって生首だけでは売り物にはならない。どうにかボディを揃えられればそれなりに売れるのだが―――

「じいさん、どうにかボディを作れないか?」
「う~ん、俺はこの手のからくりは得意じゃないんだがなぁ、しっかしあいつめぇ……雑な仕事しやがって!」
「あいつ?」

 ぶつぶつと文句にも似た言葉を並べながらも淡々と源外は作業を行っていた。どうやら源外だけにしか分からない何かがあるのだろう。
 まぁ、聞いた所で答えてくれそうにないだろうが。

「うっし、何とかありあわせで作ってみたんだが、どうだ?」

 そう言って源外がありあわせで作ったボディの上に例の生首を乗せて見せてくれた。其処には生首ではなくちゃんとしたからくりのボディが作られていた。
 何処かで見た機動戦士に似たボディで象られており右手には無骨な銃が持たれて左手にはシールドが供えられている。そして胸には特徴的な文字で【A】と書かれていた。

「おい、何だこのボディは? 明らかに顔とミスマッチじゃねぇか! ロボコップじゃねぇんだぞこれ」
「性能は問題ねぇ。このボディなら100年戦争が出来る代物だぞ」
「何でからくり家政婦が100年も戦争するんだよ! 大体なんでからくり家政婦がライフルやシールドを持ってるんだよ! 其処は普通ほうきとかだろ? そんな無骨なメイド要らんわ!」

 余りにも体と頭がミスマッチ過ぎた。これでは誰も買ってはくれないだろう。仮に買ってくれたとしてもかなり値切りされそうだ。

「んだよ折角作ったってのによぉ、このライフルなんて苦労したんだぞぉ! トリガーボタンを押すと醤油が出るんだ。更にカートリッジを交換すればだし醤油も砂糖醤油も思いのままってんだからよぉ」
「へぇ、結構便利だねぇそれ」
「何処がだよ!」

 繁々と眺めるなのはに対し銀時の不満の篭ったツッコミが木霊する。銀時の求めているボディとは掛け離れている為だ。

「とにかくだ、俺達は戦争する気なんてこれっぽっちもネェからよぉ。折角高値で売れそうな代物なんだからもっとこうナイスバディの色っぽい姉ちゃん風に作ってくれよ。シグナムやシャマル並の奴で良いからよぉ」
「何言ってんだあんたは! 悦子ちゃんは僕だけの僕のメイドになるんだ! 売るなんて許さん!」

 銀時の言い分にいきなり新八が異を唱えだした。この男、かなりマジな目で訴えている。かなり危ない目で銀時を睨みつけてきてた。しかし、それに対し今度は神楽が待ったを掛けてきた。

「冗談じゃないネ! あれは私が見つけた卵割り機ネ! 私の卵割り機を勝手に売り物にしたりメイドにしてんじゃねぇよエロ男子共が! てめぇ等は揃って冥土に行って冥土と乳こねくりあってりゃ良いんだよぉボケがぁ!」
「黙れこの酢昆布娘! お前みたいな色気の欠片もない奴に僕の気持ちなんて分かりはしないんだよぉ!」

 喧々囂々と新八と神楽の意見のぶつけ合いが勃発しだした。まぁ、十中八九二人の言い分を通す気など銀時には微塵もないのだが。

「ねぇねぇ、それじゃこんなのはどうかなぁ?」

 そう言ってなのはが取り出したのは彼女が大好きなアニメ【不思議魔女っこととこちゃん】の主人公こと羅漢仁王堂ととこの変身した姿だった。因みにその変身スーツは何故かPT事件の折になのはが変身したバリアジャケットと酷似していたのだが其処は遭えて触れないで欲しい。

「おい、何だこの格好は? まさかこんな目立ち過ぎる格好をさせようってんじゃねぇだろうな?」
「えぇ~、カッコいいと思うんだけどなぁ」
「バッカお前、こんな格好するのはオタクか馬鹿しか居ねぇんだよ!」

 普通街中でアニメキャラのコスプレをする人間はそうそう居ない。居たら居たで変人扱いされるのが目に見えているからだ。偶然その格好をするならともかく明らかにそう思える格好と思われた場合恥ずかしさの余り表を歩けなくなる事もあるかも知れない。

「おいおい、お前等よぉ、要求は一つに絞ってくれねぇか? 流石にこうも多種多様な意見を出されると対応出来ねぇよ」
「そうだなぁ、とりあえず俺達四人の意見の中間としてだ、とりあえずあんたなりの良い女を再現してくれよ。とにかくボンキュッボンのナイスバディで頼むな」
「面倒臭ぇがしゃぁねぇ。しかし参ったなぁ」

 頭を掻きながら源外は困った風な声を挙げていた。

「どうした?」
「最近良い女に出会ってねぇからなぁ、俺の頭ん中にゃ無骨なカラクリしかねぇんだよ。どっかにお前等が言う良い女のサンプルがあれば良いんだけどよぉ」
「おいおい、頭ん中まで腐っちまってんのかぁ?」

 何はともあれ困った事になった。源外の頭の中には良い女のデータは残っておらず、良い女のボディを作るには良い女の体を見なければならないと言う。が、そうそう良い女がこの近くを歩く筈がない。どうした物かと銀時が腕を組んで悩んでいた。

「貴様等、こんな所で何しているんだ?」
「あ?」

 そんな矢先の事だった。突如外の方から声がした。振り返ると、其処には黒い真選組隊士の服を身に纏ったシグナムが立っていた。腰には真選組で配給されている刀を挿している。以外と様になっている格好だった。

「あれ? シグナムさん。どうしたんですか?」
「偶々市内の巡回をしていたところだ。此処は私の担当なんでな。で、妙な声を聞いて来て見たら貴様等と出くわしたと言う所だ」

 どうやら勤務中の様だ。流石は天下の真選組。町人達がのんべんだらりんと過ごしている間も真面目に勤務しているようだ。一部を除いては……だが。

「おぉっ、丁度良い所に!」

 そんなシグナムを見て銀時が手を叩いた。何かを閃いたようだ。
 軽い足取りで銀時がシグナムに近づく。

「シグナム、お前に頼みたい事がある。いや、これは最早お前にしか頼めない事だ」
「私にしか出来ない事……だと?」
「あぁ、俺達は今非常に困っている。手を貸して貰えないか」

 何時になくシリアスムードをかもし出して銀時がシグナムに頼み込んだ。その頼みを聞き、シグナムも断る気はなく快く引き受けてくれた。

「分かった。お前達にはこの町で暮らせるようにしてくれた恩がある。私に出来る事ならば協力しよう」
「助かったぜ。流石は烈火の将様だぜ」
「で、何をすれば良いんだ?」

 工房内に訪れたシグナムが銀時に尋ねた。それを聞いた銀時がシグナムにもわかるように簡潔に説明してくれた。

「とりあえず、今着ている服脱げ!」
「………は?」

 いきなりの発言に彼女の脳内は一瞬フリーズを起こし、再起動した途端その言動の意味を悟った。
 制服を脱ぐ、つまり白昼の町内で自分の体をさらせと言う事を意味する。

「何を言っているんだ貴様は?」
「いや、あれだよぉ。ちょっとお前のボディラインを見たいだけでさぁ、決してやましい気持ちはこれっぽっちもねぇから安心してくれよ」
「既にやましい気持ちが出まくってるだろうが!」
「いやいや、此処は天下のシグナムさんにしか出来ない事なんだよ。その魅惑のボディを見せて欲しいんだよなぁ俺としちゃぁよぉ」
「ふざけるな! 貴様白昼から堂々と子供の居る前で何寝ぼけた事を抜かしているんだ!」

 案の定断られてしまった。まぁ、あんな言い方で普通OKしてくれる輩など居る筈はないのだが。だが、それもこれも全てはこのからくりを高値で売る為の事。背に腹は変えられない。

「仕方ねぇ、おいじじい! 一丁頼むぜ」
「分ぁったよ。野郎共! 出て来い!」

 源外の合図を受け、工房の奥から無骨な腕が飛び出し、シグナムの手足を拘束し上空で吊り上げてしまった。

「な、何をする貴様等!」
「うし、今の内だじいさん! こいつをひん剥いて参考にしろぃ!」

 金に目の眩んだ銀時は何をしでかすか分からない。そしてそれが犯罪行為だと分かっていても目先の大金のせいで理性が吹き飛んでしまっていたのだ。

「ちょ、ちょっと銀さん! 何やってるんですか? 此処一般小説ですよ! そんな所で女性の○○○や○○○をさらすのは流石に不味いですって!」
「何言ってんだ新八。こんないい女の○○○とか見れる機会なんざ滅多にねぇぞ」
「そ、そりゃ確かに……そうですけど」

 どうやら新八も己の中にある理性と本能との格闘をしていたようだ。
 此処は小説的に止めないと不味い。だが、シグナムのわがままボディを見たいと言う感情もまたあった。
 己の理性と本能とのせめぎあいに苦しんでいる新八の肩に銀時がそっと手を置いた。

「良いか新八。男にゃぁなぁ、時には犯罪と分かっていてもやらなきゃならん事だってあるんだ。盗んだバイクで走り出す15の夜みたいなもんだよ。男ってなぁちょっと汚れた位がカッコいいんだ」
「いや、あんた良い事言って纏めようとしてますけどやろうとしてる事は最低な事ですからね! ジャンプ主人公史上最低の暴挙をしようとしている事を自覚しているんですか?」

 確かに、言ってる事はカッコいい。だが、やろうとしている事は白昼から堂々と女性の服をひん剥くと言うわいせつ行為だった。
 そんな事をあの友情・努力・勝利の三大原理を掲げるジャンプ主人公が今までやってきただろうか? 
 いや、多分ない。

「貴様等……黙って聞いていれば好き勝手な事を……」
「へ?」
 
 再び視線をシグナムに戻す。見れば、彼女の額に大量の青筋が浮かび、拘束されていた手足に力が込められているのが見える。
 拘束していたからくりの腕がきしむ音をあげている。相当な力を発揮しているのが見える。
 そして、彼女の怒りの目線が目の前に居る銀時を捉えた。

「最早勘弁ならん! レヴァンティン!」

 シグナムが叫び、ペンダント状になっていたデバイスの名を叫ぶ。すると彼女の体を眩い光が包み込み、先ほどの真選組隊士の服装から一変し、白と紫で彩られたバリアジャケットへと姿を変えていた。そして、その手には彼女の愛機でもある刀型のデバイスであるレヴァンティンが握られていた。

「あ、あれぇ……シグナムさん、もしかしてかなりご立腹なご様子でぇ?」
「坂田銀時、婦女わいせつ容疑、並びに暴行罪で貴様を手打ちにする! 土方に変わりこの私が貴様に引導を渡してくれるわぁ!」

 完全にプッツン行っていた。大量の青筋を浮かべたシグナムが工房内で銀時を追い掛け回す。当然斬られれば相当痛いのは明白な為銀時も必死に逃げ回る。

「待て待て待てぇぇぇ! 今のは冗談、マジで冗談だから! まさか本気にしてたってか? そんな訳ないじゃないっすかぁ!」
「今更弁解など聞く耳持たん! 侍なら侍らしく潔く覚悟を決めろ!」
「冗談じゃねぇ! 此処で死ぬなんざ俺はお断りだ! 逃げるぞ!」

 咄嗟に持ってきた生首を抱えて銀時達は源外の工房から逃げ出す。その後に飛び出したシグナムが再度銀時達を追跡し始める。

 待て貴様等! 待ちません!待って欲しかったらその物騒な奴仕舞え! 貴様の首を跳ねたら仕舞ってやるわ! それじゃ意味ないっての! 喧しい!其処に直れ! 嫌です、直りたくありません!

 互いに言葉を放ちながら逃げ惑う万事屋ご一行とそれを追い掛ける鬼神シグナム。果たして、銀時達は無事に彼女の猛攻から逃げられる事が出来るのだろうか?
 そして、工房から飛び出した源外が銀時達に大声で言葉を放った。

「おぉい! お前等、金払えぇぇ!」





     つづく 
 

 
後書き
次回【ゲームのセーブはこまめにしておこう】お楽しみに 
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