エターナルトラベラー
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第二話
それからしばらくはソル、ルナを右手に、杖を左手に持っての魔法練習に励んだ。
ルナは俺に合わせて魔法を発動してくれるのに対してソルは無口ながらも俺の意思を先読みしたかのように魔法を展開してくれる。
なんだかんだ言って、ソルも自身を使ってもらえることは嬉しいらしく、しばらく使わないで居ると拗ねてしまうのが困りものだ。
そして今、俺はすっかり俺の側に居ることが当たり前になりつつあるソルとルナを机に載せて、自室の机の上で羊皮紙を前に羽ペンにインクを染み込ませ、一生懸命昔の記憶を思い出している。
「うぅーん」
『どうかしましたか?』
俺の唸っている様子をいぶかしんだルナが話しかけてきた。
「うーーん。いや、今のままでも十分に役に立ってくれている君達だけど、俺は君達自身を杖として使うために購入したのだよ」
『はあ…』
ルナの気の無い返事を聞き流し俺は羊皮紙にペンを走らせる。
「やっぱり両手が塞がるのはネックだからね」
前世は同人などで自作本を出したりしていて絵にはそれなりに自信があるため割りと細かく自身の思い描く杖の設計図を完成させることが出来た。
『それは?まるで斧みたいですが、杖なのですが?』
ルナの発言で気づいたと思うが、ぶっちゃけまんまバルディッシュです。
「まあ、ね。
一応ブレイドによる直接戦闘も視野に入れているからこんな形状なんだよ。」
なんて、ぶっちゃけただの趣味ですとは言えませんね。
「ここ、この窪みに君達をはめ込んで杖として使えないかなと」
斧の付け根の部分を指差してルナに説明する。
『しかし、これはまたえらく精巧な形をしていますね。好く描けるものです』
「まあね。俺の数少ない取り得のようなものだよ」
絵を描くのは子供の頃から好きだったからね。
「だけど、これをどうやってつくろうか…。これだけ精巧な物を錬金で作り上げる力は俺には未だないし、かといってこの設計図を見ただけでこれを再現できる魔法使いの知り合いも居ないし…どうした物か」
俺が考えに耽っていると、救いの手はかなり近場からかけられた。
『あの、私達を造った方なら恐らく再現が可能かと思われます』
と、ルナが俺に話しかけてきた。
「マジ?」
『はい。恐らくは。店に売られるまでの道のりは記憶していますので、お会いになるなら案内は出来ると思うのですが…』
「何か問題でも有るの?」
『はい。あの造物主はかなり変わった性格と言いますか、かなり危ない思想の持ち主といいますか、かなり逝っちゃってる感じの人でして…』
「言葉は通じるんでしょう?ならこちらの態度しだいだよ」
『それと、これがかなり重要なことなのですが…』
「何?」
『えっと。彼はその、エルフなのです』
「へえ、そうなんだ」
『あの、驚かないんですか?』
「いや、驚いているけどね、そっか、エルフかぁ」
『あの、マスターはもしかして人間とエルフの確執を未だご存知無いのですか?』
「ううん。知っているよ。ハルケギニアの人間はエルフを恐れ、嫌っているって事は」
『なら何故動じないのですか?』
「それは俺が無神論者でブリミル教だの聖地だのはぶっちゃけどうでも良いと思って居るからね」
俺のその発言にルナは驚いて声が出ないようだ。
それはそうだ。俺の体は今だ5歳を少し過ぎたくらい。
普通の人間なら親の教えを絶対視したり、自身の考えなど持って居ないような年齢なのだから
「まあ、そんな事はどうでもいいよ。それよりもそのエルフの人の所に案内よろしくね」
『…了解しました』
ルナからの了解の返事をもらい、俺は出かける支度を済ませる。
そして俺はこっそり屋敷を抜け出した。
何でこっそり抜け出したかって?
そりゃ会いにいくのがエルフだからです。
俺自身はエルフに偏見を持っては居ないけれど、護衛についてくる大人達はそうは行かない。
恐らく一触即発の事態に陥る事請け合い。
そんな事態を回避するために一人屋敷を抜け出したのです。
フライの魔法で飛び続けること30分。
人気の無い山の方に向かって進んで行きます。
ソル、ルナに補助されたフライの魔法は、周りの風に干渉して風圧を減らしてくれるのでかなりの速度で飛翔する事が可能になっている。
眼下に目的地が見えてきたとのルナの言葉に俺は地上に降り立った。
オラン伯爵領の端の森の入り口にひっそりと立つ古屋。ルナによれば此処が目的地らしい。
「ここ?」
『はい』
それは見るからに怪しい古屋だった。
窓の類は一切無いのに、幾つ物の煙突が小屋のいたる所から突き出し、煙を噴出している。
俺はその光景に少しばかり気後れした物の、勇気を振り絞って扉をノックした。
「すみませーん」
しかし、中からの反応は無い。
俺はもう一度ノックし、さらに大きな声で問いかける。
「すみませーーーーん!」
「何か用か?小僧」
「ひっ!」
俺の掛け声に答えた言葉は俺の真後ろからだった事に俺は驚きの声を上げて振り返る。
するとそこにはローブを深くかぶり、手に麻袋を持った男性がこちらを見ている。
「何か用かと言ったのだが」
俺が驚いて何も答えられずにいた所、ローブの男から再度声がかけられた。
俺は慌てて取り造って話しかけた。
「あの、俺は、アイオリア・ド・オランと申します。此処には先日街で買い上げたマジックアイテムの製作者が居ると聞いて訊ねてきたのですが」
おそるおそる俺は相手を伺うように話しかけた。
「ふむ。しかし私はこの場所を誰にも教えた事は無いはずだが、どうやってたどり着いた」
「あの、人に聞いたのではなくて、彼女達に教えてもらってのです」
そう言って俺はソルとルナを手のひらに乗せ男に差し出すように見せた。
「それは、ほう。気まぐれに私が魔法屋に売ったインテリジェントスフィアか」
「はい。彼女達は此処までの道のりを覚えていたので教えてもらいました」
そう俺が説明すると、男は俺の横をすり抜けて、家の扉を開け、中に入っていった。
それを呆然と見送っていると、中に入った男から声をかけられた。
「何をしている?入りたまえ。私に用が会ってきたのだろう?」
「あ、はい。失礼します」
その言葉に従い俺は中に入る。
中に入るとそこはソル、ルナを購入した魔法屋が可愛く見えるほどのカオスッぷりだった。
あたり一面見渡す限りところ狭しと積み上げられた何に使うものか解らないマジックアイテムの数々、この世界では珍しい製本された魔法書や、幻獣の物としか思えないような角やツメ、鱗など。八割以上が判別する事すら出来ないが貴重な物品が辺りを埋め尽くす勢いで乱雑に置かれている。
俺はそれを踏まないように気をつけながら男の下まで歩いていった。
「まあ、座りたまえ」
そして俺は差し出されたイスに腰掛ける。
男は自分の定位置であろう部屋の隅に備え付けられた机に麻袋を置き、手前のイスに腰掛けこちらを向いた。
「それで?どのような用件でこんな人気の無い山奥まで来たのだ?」
男は未だフードをかぶったまま、俺に来訪の用件を聞いてきた。
「はい。貴方の作った彼女達マジックスフィアを杖として加工したいのですが、私の望むレベルの加工技術を持っている人間は今のハルケギニアを探しても居らず、藁をも掴む思いで貴方を訪ねてきたのです」
少々誇張して事の顛末を説明する。
「ほお。それはかなり私を高く買っているのだな坊主」
「それは当たり前です。今の世界にインテリジェンスアイテムを製作出来る人物が2人と居るとは思いませんから」
「ふむ、そうか。しかし坊主は本当に見た目道理の年齢なのか?その年齢にしては自分の意思をしっかり持っていて、大人と話している錯覚を覚える」
「それは…」
「答えられないか。まあいい。それで?その造って欲しい杖とやらの概要か設計図のような物はあるのか?」
そう問われ俺は設計図を渡す。
手渡された羊皮紙に目を通すフードの男。
「ふむ。これはなかなか面白い。確かにこれを造れるのは自慢じゃないがハルケギニアでは私くらいのものだろう」
「造れるんですか!?」
「ああ」
「本当に?」
「もちろんだ」
男のその言葉に俺は感動に震えた。
「だが、造ってやるとは言っていない」
感動に震えていた俺を正気に戻したのはそんな言葉だった。
「えっと、あの。お金なら払いますから」
「私は余りお金と言う物に執着はしていない」
「えっと…なら」
「私は知識に飢えている。私はこの世の総ての事が知りたいのだよ。だから多くのことを研究し、実験を繰り返している」
「はあ…」
「非人道的な実験も躊躇わずに行って来たせいで国を追い出されたくらいだ。
だが、そんなことでは私の知的欲求は収まってはくれない。」
「えっと。つまりなにを…」
俺の言葉に唇を吊り上げて笑う男。
「君が私の知的欲求に叶う知識を教えてくれるのなら喜んで引き受けよう」
…この人はかなりヤバイ人物なのかもしれない。総ての知識が手に入るなら悪魔とでも取引しそうだ。メフィストみたいに…
だけど、この人を味方に付けられればこれから先多くの物を得られる予感がある。
此処で断られるわけにはいかない。
俺は前世、地球での知識で思いつく限りの事を男に話した。
「ほお、つまりこの世界は平らではなく球形で太陽がハルケギニアを回っているのではなく。このハルケギニアを含む星という球形が太陽の周りを自身も回転しながら回っていると?」
「はい」
多くのファンタジー世界よろしくこの世界も天動説が主流…いやそもそも地動説があるわけも無く、俺の語った事はかなり知的好奇心を刺激されたようだった。
「なるほど、しかしこの大地が丸いとしたら反対側の人は落っこちてしまうのではないか?」
「それは、星には引く力、引力と言う物がありまして」
と、今度は引力の説明。
「なるほど、月の満ち欠けと潮の満ち引きにそんな関係が有ったとは」
しきりに頷いている男。
ひとしきり話した後、俺は切り出す。
「それで、あの…」
「あ、ああ。なぜお前がそんな知識が有るのか気になるが、今は良いだろう。この仕事を引き受ければまだまだ君から面白い話が聞けそうだ。良かろう、造ってやろう。その代わり時々此処に来て私の話し相手になってくれ。
お前の語る話は実に興味深い」
「はあ…」
「そうと決まれば早速その杖の概要をお前の口から説明してくれ。この設計図はかなりの出来だがどういう意図が込められているのか興味がある」
そして俺は杖の概要を説明するのだった。
しばらくすると俺の話から今度は設計図を見ながらなにやら一人の世界に入ってしまったらしく、一人ぶつぶつ言いながら何かを羊皮紙に書きなぐっている。
「メインフレームの金属はこの前偶然開発したミース・リ・ルーギンで魔法増幅効果を付けたして…ブツブツ…」
「あのー」
ダメだ完全に聞こえていない。
しかも今ミスリル銀とか言わなかったか?
良くファンタジーにある魔法増幅効果のある魔法石だろうか?
マジで?
「此処の穴はなんの為に開いているんだ?」
自分の世界に入っていると思ったら突然話しかけられた。
「あ、えっと。それは余剰魔力を排出させるついでに固定化させてフィンのようなブレイドが生成できないかなっと」
「ふむ。それは何か意味があるのか?」
「あ、いえ。見た目…です」
だって、首の付け根部分から生えてるフィンってカッコイイじゃないか!
出来る物なら再現したかったんだよ!
設計図は俺の願望で描かれていて実現可能かどうかは考えてない。
「見た目。ははははは!お前は最高だな!最高に馬鹿だ」
笑われてしまった。
「ふむ、だがそうか…この前の魔力固定化の実験の応用で何とかなるかもしれない。アレをこうして…」
え?マジで!?
何とかなるの!?
…もしかしてこの人はいわゆるバグキャラなのか?
そしてなおも勢い良く書きなぐっていく男、時折頭を掻き毟っているが、その反動でフードが落ちてその顔があらわになる。
慌ててフードを被りなおしこちらをむく。
「見たか?」
「はい」
「驚かないのか?」
「ルナ達に聞いていましたから。それに俺自身はエルフだからといっても必要以上に怖がる必要は無いと思っています」
「そうなのか?」
「はい。それに俺は無神論者なので、ブリミルだの聖地だの何ていうのはどうでも良いんです」
「ほお、邪教徒と言う訳でもないのだろう?面白い、実に君は面白いな」
そう言って男はフードを降ろした。
年齢は人間でいう50歳ほどの初老の男性。
しかしそこはエルフ、長い時間を生きてきた貫禄を感じさせる。
「周りはブリミル教徒ばかりなので、祈りの言葉などは口にはしますが、そもそも神でもないただの人間を信仰するのもどうかと思うので」
「そうか」
「そんな事よりも、貴方の名前をまだ伺っていないのですが」
俺の切り返しに少しあっけに取られたような表情をしてから答える。
「そうだな。ドクター。ドクターと呼べ」
本名は教えてくれる気は無いらしい。
「解りましたドクター。それで杖はどのくらいで完成しそうですか?」
「ふむ。おおよそ二年と言った所か」
「二年!?」
その言葉に俺は仰天する。
「ああ。まずこの基礎フレームに使う金属、ミース・リ・ルーギンを必要量生成するのに1年。更にそれを加工するのに1年かかる」
「そんなに?もう少し短く成りませんか?」
「ふむ。他の金属を使えば3ヶ月くらいで出来るかもしれないが、それだとこのフィン部分の再現が不可能になるぞ?私としてはこんな面白そうな物の作成に妥協するつもりは全く無いのでな。気に入らんのなら他の奴を当たってくれ」
そう言われて俺は、
「…お願いします」
と、頭を下げていた。
だって、この人でしかフィンの再現は不可能っぽいし、この人以上の技術者が居るとは思えないから仕方ない。
「そうか。なら坊主。お前はこれから時間のあるときは俺の古屋まで来い」
「はぁ……はあ!?」
「先ほども言っただろう?私の話し相手になって欲しいと。じゃ無かったらこの話は無しだ」
「くっ…解りました」
こうして俺は暇を見つけてはドクターの古屋に通う日々が幕開けした。
それから一年。俺は魔法の修行をしながらもドクターの古屋を訪れる毎日を送っている。
6歳現在、俺の最高精神量は160、回復量は29%と言った所だ。
そして今、俺はドクターの古屋を訪れてドクターの古屋の掃除をしている。
この一年で俺はすっかりドクターの小間使いの立場となってしまっていた。
ドクター以外に杖…この際デバイスと呼ぶが、それを完成させる事ができる者が居ないので、ドクターの頼みごとを断るわけにも行かず、今日も俺はドクターに言いつけられた掃除に精を出していた。
しかし、片付けても片付けても一向に物品が減っていないように感じるのはどう言ったことだろうか。
片付け始めて既に三日。しかし未だ先は見えず…はぁ。
などと思っていた所、俺は何か円柱のビンのような物を踏んで転んでしまった。
ドシンッ
「いった!?」
『大丈夫ですか?』
「あ、ああ。大丈夫だよルナ」
俺は机の上に置いておいたルナに向けて返答する。
そして俺を転ばしてくれた物体を睨みつけるように確認する。
「いったい何が…」
俺はそれを確認して言葉を呑んだ。
『どうかしたのですか?』
ルナの問いかけに俺は答えない。
何故なら俺はそれを見て思考が停止していたからだ。
ようやくの事で思考を再起動させて改めて目の前のビンを見つめる。
ビンの中に入っているのは保護溶液に入った一対の眼。
それだけを言えばただグロいだけで此処までビックリはしなかっただろう。
しかし俺は今、盛大に驚愕している。
なぜならその眼球には勾玉模様が2つずつ浮かんでいたのだから。
写輪眼。
そう、NARUTOと言う漫画の中で主人公のライバルキャラが持っている特殊な瞳。
何でこんな物が?
その時奥の扉を開けてドクターがこちらの部屋に入ってきた。
「どうしたんだ?何やら大きな物音がしたが…ん?それは悪魔の瞳か」
俺がまじまじと見ている事に気づいたドクターがそれを確認して声をかけてきた。
「悪魔の瞳?」
「便宜上私はそう呼んでいるだけで、実際はどういった物か解らないのだよ」
「あの。これどうしたんですか!?」
俺の剣幕に若干押されながらも答えるドクター。
「それは昔私が国を追われてサハラを横断して此方に来るときにサハラで拾った物だよ。もう一組拾って開封して研究してみたのだがさっぱり解らなかった為、そのままもう片方は放置していたのだが、そんな所にあったのか」
サハラか…
確かサハラにはブリミルがガンダールブの武器になる物を召喚するゲートが今でも開かれていて、たまに場違いの工芸品といった武器がこの世界に紛れ込んでくるんだったか?
まあ…これも武器…なのか?
しかしこれは…明らかに漫画の世界の産物。
これはどういう事だろう。
俺の思考が深みに嵌りそうになっているとドクターからの声でわれに返った。
「ふむ。私にはこれが何か解らないのだが、君には解るのかね?」
ドクターのその質問に俺は若干放心しながら返答する。
「あ、ああ。これは写輪眼。物事を見抜く瞳だ」
本当は忍者における体術・幻術・忍術を見抜きコピーする瞳だ。
「ふむ。しかしそれはどうやって使うのかね?」
そんなの決まっているじゃないか!
て、ああそうか。知ってるわけ無いか。
「それは自分の目に移植して使う物です」
「なるほど…その考えは無かった。何かの生物の眼だとは思っていたがまさか人に移植する物だったとは。しかし残念だな、どうやらそれは子供の瞳みたいだから私にはあわないだろう」
そうなのだ。
この眼球は成人した人間のよりも一回りほど小さいのだ。
いやまあ、俺は生のくり貫かれた眼球なんて見たことはないけれど、ドクターの瞳と比べてみてもやはり一回り小さいと思う。
つまりドクターが言うように子供からくり貫かれたものなのだろう。
これはアレか?
マダラがうちはの眼を幾つも保存していた描写が確か漫画であったような気がするから其処からゲートを通じて流れてきた…とか?
て、ことは最低でもこの世界の他にNARUTOの世界が存在していると言う事か?
「…ぃ…おい、聞いているのか?」
と、俺が自分の世界に入っていた所ドクターは俺に話しかけていたらしい。
「へ?あ、はい」
「そうか?今の『はい』は、了承したと言うことだな?」
「へ?いったい何を?」
「今言ったではないか、お前にこの眼球を移植すると」
は?
いやいやいや。
まて、それは無い。
眼球を移植?
「って?そんな技術がハルケギニアにあるわけが無いでしょう!?」
「いや、私は出来る。昔人体の解剖やら動物実験のやり過ぎで国を終われたのだよ私は」
なんだってー!?
国を追われた理由がそんな事だったなんて聞いてませんでしたよ!?
「いやいやいや、待ってください。だから何で移植なんてする方向に話が行っているのですか?」
「それは私の知的欲求を満たすためだ」
そうだった。この人はそういう人だった!
「ちょちょちょ!ちょっとまって!」
「待たん!」
そう言ってドクターは左手でビンを持ち、もう反対側の手で俺の腕を握り強引に奥の部屋、ドクターの研究室に連行される。
だめだ、こうなってはドクターは止められない。
それはこの一年だ学んだことだ。
暴走したドクターは力ずくでも止められない。
もはや眼が逝ってしまっている。
魔法で抵抗しようにもここ辺り一帯の精霊と契約を結んでいるドクターと真っ向から立ち向かっても負けること必至。
マズイ!
眼球移植からは抜けられそうに無い!
ならせめて…
「あの!ドクター。片目!片目だけで!両目は勘弁!」
くっ!片目を失う危険性は消えないが両目をくり貫かれて失明することだけは回避しなくては!
「そうだな。一気に両目を移植して万が一失敗しては元も個もないからな。良いだろう」
そうして俺は引きずられながらソルとルナの方を助けを求めるように見やる。
しかし2人は沈黙を保ったまま何も反応しない。
どうやら見捨てられたようだ。
そして扉をくぐり研究室に入り扉が閉められる。
ァーーーーーーーーッ
俺が覚えているのは此処までだった。
何故なら水の秘薬で眠らされたから。
どうやら麻酔薬のような物を使用してくれたようだ。
意識のあったまま移植とか…考えるだけで恐ろしい。
眼が覚めると左目に包帯が巻かれていた。
どうやら手術は終わったようだ。
成功…したのだろうか…
「起きたかね」
「っ…ここは?」
そして俺は視界に入った天井を見つめ。
「知らない天井だ…」
「何を言っているのかね?」
いやだってこういったシチュエーションだったら言うでしょ?オタクなら!
余り使う機会のないあの名台詞を!
「まあ、君の奇妙な発言は今に始まったことではないな。
さて、どうかね左目の調子は?」
そう聞かれて俺は起き上がって左目に巻かれている包帯に触れた。
「水の秘薬をもちいて傷は既に塞がっている。包帯をはずしても問題ないはずだが」
その言葉を聞いて俺は巻かれたいた包帯をはずした。
そしてゆっくり左目を開く。
開いた俺の左目はちゃんと景色を写している事に俺は心底安堵した。
「どうだ?見えるか?」
そう言いながら確かめようと近づいてくるドクター。
「はい」
「そうか。…しかしこれはどういったことだ?眼の色は愚か眼球の模様まで消えているが?」
「え?」
その言葉と同時にドクターから差し出された手鏡を受け取り俺は自分の左目を確認する。
するとそこにあったのは日本人として見慣れた黒い瞳だった。
碧眼である俺の右目と日本人特有の黒い左目。
オッドアイとはいえるかも知れないけれど少し不恰好だ。
移植前の写輪眼が勾玉模様と真っ赤な虹彩をしていた所と比べればその違いははっきりわかる。
どういう訳か移植したことで待機状態に移行したようだ。
「それで?それは大丈夫なのかね?」
ドクターが俺に確認してくる。
「あ、はい。恐らく待機状態になっただけだと思いますから」
「ふむ。そうか、では発動は出来るのかね?」
そう言われて俺は実際どうなんだろう?と思っていた。
まあ、とりあえずどうやって発動すれば解らないので取り合えず叫んでみた。
「写輪眼!」
「…………」
「…………」
沈黙が痛い。
何の反応も示さないドクター。
俺は恐る恐る手鏡を覗いてみた。
するとそこには叫ぶ前と何一つ変わらない黒い瞳。
………失敗したらしい。
まてまて、今のは恐らくやり方を間違えただけだ。
叫ぶだけで発動できるわけ無いよね。
て事は発動するのに必要なプロセス、またはエネルギーが要る訳で。
俺は魔法を発動させる時に杖に送る精神力の要領で、瞳に精神力を流し込むイメージを構築する。
そして。
「写輪眼!」
すると今度は瞳が赤く染まり、勾玉模様が2つ浮かび上がった。
「おお!」
成功した事に感嘆の声を上げるドクター。
しかし俺はそれどころではない。
どんどん精神力が削られていっているのだ。
堪らなくなり、俺は精神力の供給をカットする。
「ぜはーっぜはーっ」
肩で息をする俺。
「どうかしたかね?」
「あの、これは物凄く精神力を消費するようです」
「なるほど、強大な力には其れなりの代償が必要と言う事か」
と、一人納得しているドクターを横目に俺は再度意識を手放した。
しばらくして俺が気を取り直すと、既に夕方になっていた。
「起きたか」
「あの?」
俺はどうして寝ていたのかをドクターに問うた。
「ああ、精神力の使いすぎで気絶したのだよ。全く、これからと言う時に気絶してしまって、しかももう夕方だ。帰らねば親御さんが心配するだろう」
「そうですね」
それを聞いて俺は急いで屋敷に帰ろうと身支度を整える。
「待ちたまえ」
そこに声をかけてきたドクター。
「何ですか?」
「ああ。これを渡して置こう」
そう言って渡されたのは1つの小瓶。
「これは?」
「私が開発したフェイスチェンジを行使できる魔法薬だ。その瞳の色では色々問題があろう?」
そういえば失念していたが、今の俺は左目が黒い状態なのか。
…というかもう二度と元には戻らないのだろうけれど、写輪眼が使えるようになった代償だと思えば安い物…なのか?
そして俺はドクターから小瓶を受け取り左目に数滴振り掛ける。
すると見る見る内に瞳の色が黒から碧に変色した。
「ありがとうございますドクター」
「なに。面白い物を見せてもらったし、初めて生きた人間の眼球を移植すると言う快挙を打ち立てたのだ、私は今気分が良い。気にしなくてもいいよ」
ちょっとまて。
今初めてと言ったか?
初めてなのにあんなに自信満々に移植手術をしたと言うのか。
しかも成功させている辺りこのドクターは侮れない。
やはりこの人はバグキャラなのだろうか?
俺は高揚しているドクターに刺激を与えないようにその日は古屋を後にした。
さて、経緯はどうあれ写輪眼を手に入れてしまった俺。
ついにおれにもチート主人公特性がついてきた!これで勝つる!
なんて思っていた時期も在りました。
写輪眼を手に入れてからしばらくの間、俺はその能力の把握に努めていた。
そして解った事が幾つか。
写輪眼発動にもちいる精神力はおよそ一分毎に10といった具合だ。
俺の今の精神力が160。
精神力がフルで溜まっている状態で16分しか使えない。
燃費の悪い事この上ない。
更にそれとは別に魔法を使用するとどんどん使用できる時間が減っていく。
魔法も精神力を使用しているのだから当たり前だ。
今の俺だと魔法を併用しての持続時間はおよそ7分と言ったところか。
しかしそれは精神力が最大に回復している状態でだ。
俺は普段精神力を使い切っていて、一日の回復量はおよそ29%。
つまり一日に使える精神力はおよそ50。
写輪眼を使うだけで5分後には精神力切れでぶっ倒れる。
これに魔法使用を考えると2分を切る。
更にこの写輪眼に困った事が1つ。
父上が魔法使っているところを後ろからこっそり写輪眼でコピーしようと父上に魔法を見せてくれとねだってみたのです。
確かに一度見ただけで相手の魔法の術式を看破できました。
だけどぶっちゃけコピーは出来ませんでした。
いえ、コピー出来ないのではなくて使えないのです。
俺の系統は風なのですが、これは母親譲りで、父親は土のライン。
と言う事は土の魔法であるゴーレムなどを作れるわけですが、コピーしたところで系統違いの俺には使えませんでした。
つまり。
現状この左目の写輪眼はちょっと動体視力のいい眼でしかない状態です。
全く使えねぇぇぇぇ!
失明の危険まで犯して手に入れたのに!
…鬱だ。
それからまた俺は二ヶ月ほどダウナーな生活をおくり、最近ドクターの所に行っていない事を思い出してドクターの所に向かうと、連絡すら寄越さなかった俺にキレたドクターに馬車馬のごとく使い走りにされている内にどうにかダウナー状態から回復するのだった
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