エターナルトラベラー
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第三話
あれから一年後。
俺は7歳になっていた。
そしてついにアレの完成の日を迎えた。
「ふむ。完成だ」
ドクターの古屋を 訪れていた俺の耳に聞こえてきたドクターの言葉。
それは二年間今か今かと待ちに待った言葉だった。
「ドクター!?」
俺はドクターに問い詰める。
「そう急かすな」
そうは言われても俺は期待で胸がドキドキしている。
「ほれ」
と、手渡されたてのは小指の先ほどの大きさの水晶の珠。
それはソルとルナに似た水晶だったが大きさが違った。
ソルとルナは手の平大の大きさだ。
しかしこれは小指の先ほど。
「これは?」
ドクターに質問する。
「待機状態だ」
「へ?」
『分かりませんか?』
金色の水晶が俺に話しかけてきた。
「え?ルナ?」
『はい』
「じゃあ、こっちはソル?」
すると何度か点滅する銀の水晶。
「お主の設計図に描いてあっただろう?これを再現するのは骨が折れたぞ」
なんと!?
「風の精霊の力を借りて、その質量を変化させている。変化そのものはルナ達が出来るから、私が居なくてもその状態から元の杖の状態、更にまたその水晶の状態へと戻せるだろう」
おおお!
さすがドクター。
不可能を可能にするバグキャラ!
「ほれ、待機状態から杖に戻してみろ」
「了解しました」
よし!気合は十分。
いきます!
「ゴールドルナ、シルバーソル。セーーーートアーーープ!」
『へ?え?何ですか?その掛け声は!?』
『スタンバイレディ・セットアップ』
するとシルバーソルの宝石を核に質量が変化する。
そして現れる斧を模した魔法杖。
ぶっちゃけバルディッシュなんだけどね!
おれはソルを握り締め感動に打ち震えていた。
『え?もしかして今のはトランスの命令だったのですか!?』
普通はそうだよね。
というかソル!
君は何ゆえ完璧な対応を!?
教えた事は無かったはずだが……謎だ。
「成功だ」
ドクターも満足そうに呟いた。
「凄い!さすがですドクター!」
「当然だとも」
凄い再現率です。
良い仕事をしてます、ドクター。
「それからソル、ルナとも自身の体で在る杖の形状操作は勿論の事、魔法へのアプローチのラインも一本から二本に増やしてある」
「はい?」
「つまり、ソル、ルナとも二つの魔法を同時行使可能だ。君自身の分も加えれば理論上三つの魔法を行使可能だ」
「マジで!?」
「ウソを吐いてどうする。まあ、今の所これが私の限界と言ったところか。とはいってもこれを抜くのは後1000年は出来ないような杖だと自負している」
同時行使魔法が3つ。
これは凄い!
「ドクター!俺魔法の試し撃ちしてきます」
そう言って俺はドクターの古屋を飛び出した。
「待ちたまえ、それは良いがお主、未だ杖との契約をしていないのではないか?」
ドクターが何か言っていたような気がしたが、俺は既に聞こえていなかった。
古屋を飛び出した俺はソルを握り締めて命令する。
ルナは期を逸してしまっていて待機状態のままだ。
「ソル、飛ぶよ」
『フライ』
俺の手から精神力が吸われる感覚と同時に俺の体が宙に浮かんだ。
「フォトンランサー」
『フォトンランサー』
「ファイヤ」
虚空に打ち出す無数の魔法の矢。
『サイズフォルム』
杖の先端にある斧の部分がスライドし、其処から雷を宿したブレイドの魔法が現れる。
「アークセイバー(偽)」
ソルを一振りして刃を飛ばす。
飛んでいった刃は森に生えている木を二本程切り倒した。
「凄い。今までの杖で使っていた時よりも威力命中とも上がっている」
それにソルを通して周囲の精霊に力を貸してもらっているので、消費する精神力が今までの半分以下だ。
それから俺は暫くの間、空を縦横無尽に駆け回り、魔法を乱射していた。
すると。
『マスター、あちらの方から煙が上がっています』
ソルよ、何時の間に俺をマスターと呼ぶようになったんだ?
というか此処はサーと言うべき所じゃないか?
それはさて置き、俺はソルに言われた方向に視線を向けた。
すると眼に入ってくる黒煙。
それから何かが焦げる匂い。
「あっちの方向って…」
『ド・オランの城下町の方向ですね』
ルナが答える。
「何が起こったんだろう…」
嫌な感じだ…
嫌な予感がした俺は街の方へ進路を変え飛んでいく。
すると見えてくるのは焼け焦げた街の光景。
逃げ惑う人々。
「何だこれ!」
いったい何が起こったと言うのだ?
俺は未だ火の気が残る街に降り立つ。
辺りを見渡すと破壊され尽した町並みに、火災から逃げると言うよりは、それより大きな恐怖から逃げるように走り去る人々。
人々が逃げてきた先を見やると、其処にはゆうに五メートルを越すトロールが姿を現した。
どうやらあれが街を破壊し尽くした原因らしい。
こちらに迫ってくるトロール。
しかし、俺は初めて見たモンスターに驚き、体が動かずにいた。
すると目の前に、逃げ遅れたのか6歳程の金髪の女の子がトロールに驚き、腰を抜かししゃがみ込んでいる。
すると、トロールは手に持っていた大棍棒を振り上げ、少女を叩き潰すべく振り下ろした。
叩きつけられる大棍棒。
少女はどうにか体をひねって直撃だけはかわしたが、叩きつけられた大棍棒で抉れた石つぶてを全身に浴び吹き飛んだ。
『マスター!大丈夫ですか!?』
俺の反応が無かった事を心配したソルの声に俺はようやく正気に戻った。
目の前では吹き飛んだ少女に追い討ちをかけるべくトロールが少女の近づいて行き、今正に少女の止めを刺すべく振りかぶった。
マズイ!
このままでは少女の命が危ない。
俺は意を決してソルを構える。
「ソル!」
『サイズフォルム』
俺の意思を組んで魔法を発動してくれるそる。
こういう時、冷静に対処してくれる相棒が居る事がこんなに頼もしい事だとは思いもしなかった。
俺はソルを振りかぶり、トロールに狙いを定めて振り下ろした。
「アークセイバー」
そして飛び掛っていく魔法の刃。
刃はトロールの振りかぶった腕を切断、斬り飛ばした。
辺り一面におびただしく飛び散るトロールの血液。
俺はそれを見て、自分で仕出かしたことに気が付き、気づいたら盛大に吐いていた。
俺は前世は日本人でこういった非日常的な事なども理論経験した事など無かったし、生まれ変わってからも貴族であった為にこういった誰かを傷つけると言った事をした事など無かった。
それなのに幾ら少女を助ける為とはいえ俺は今、命を奪う為にその魔法を使ったのだ。
理性ではそれを肯定していても、精神がそれに慣れていないのだ。
故に嘔吐感に耐え切れず、胃の中にある物を戻してしまった。
『マスター』
心配そうに声をかけてくるソル。
「すまない、大丈夫だ」
『浄化の風よ』
ソルのその言葉によって発現した魔法によって俺は汚れていた不純物を清められた。
浄化の風。
文字道理、不純物を浄化する魔法。
その効果は身についたありとあらゆる汚れに対して有効で、この魔法を行使すると風呂に入る必要すらないほどに清潔が保たれる、かなり便利だが、実生活においては余り役に立たない魔法である。
それはさて置き、腕を切り飛ばしたトロールを見ると腕を無くしたショックから立ち直り斬り飛ばされた腕から持っていた大棍棒を持ち直し、攻撃したであろう俺を認めると、雄たけびを上げ大股で走りよって来る。
『マスター』
「サンダースマッシャー、いける?」
『勿論です』
俺は術式をソルに任せデバイスを握りなおす。
そして。
「サンダーーー、スマッシャーーー」
今の俺に出来る最大の攻撃呪文。
極大のライトニングクラウドを杖の先から走り寄ってくるトロールに向けて撃ち放った。
直撃して焼け焦げながら感電するトロール。
暫くして魔法の発動を終え、トロールを確認すると未だその場で立ち往生しているトロール。
「マズイな、今のでごっそり精神力を消費したし、これで倒れてくれないと…」
今の規模での魔法をもう一度放てと言われても精神力が足りなくて恐らく発動しないだろう。
此処に来る前にハイになって魔法を乱射していたのが悔やまれる。
ドォォォォン
重そうな音を立てて地面に倒れ落ちるトロール。
「やった…のか?」
『そのようですね』
「そうか」
俺は初めて知性ある生き物を殺してしまったと言う罪悪感に囚われ立ちすくんでいると、ソルから声をかけられた。
『それより、あの子供はどうするのですか?』
「そうだった」
それを聞いた俺はすぐさま少女に駆け寄り、容態を確認する。
「うっ…」
確認した少女の容態は芳しくなかった。
全身打撲にすり傷。
一番酷いのは右目。
石つぶてに当てられたか眼球から血を流している。
これはもしかすると失明は免れないかもしれない。
そうでなくても全身打撲により今にも命の火が消えそうだ。
俺は辺りを確認する。
どうやらこの辺りには既に人の姿はなく、誰の手も借りられない上にこの混乱では真っ当な治療はかなわないだろう。
魔法による治療も考えたが、俺は風の系統であり、治療魔法の本分は水の系統であるため、ここまで大怪我となると今の俺ではどうしようもない。
俺がどうしようか考えていると、ルナから声がかけられた。
『ドクターの所にお連れしたらどうです?』
なるほど!その手があったか。
未だ街をこのようにした原因は分からないが、魔力切れ一歩手前の俺に出来る事など既にあるはずも無く、俺は少女を抱えて飛び上がり、急ぎドクターの古屋へ急ぐのだった。
ドクターの古屋に着くと俺は扉をお構い無しに荒々しく開け放つ。
「どうしたんだ?そんなに慌てて」
俺が抱えている物が見えているはずなのに質問してくるドクター。
「この子の治療を頼む」
そう言って俺は少女を寝台の上に横たえた。
「何が在ったのか、理由は後で尋ねる事にして、私も子供が死ぬのは忍びない。治療は引き受けよう」
ドクターはすぐさま寝台の方へと駆け寄り少女の診察を始めた。
「全身打撲に擦り傷、一番酷いのは右目の怪我だな」
「治る?」
「水の秘薬を用いれば、打撲と擦り傷は後も残らず癒えるだろう。だがこの右目だけは別だ」
「治らない?」
「水の秘薬を使っても失明は免れんだろうな」
「何とかならない?」
未だ6歳位の少女。
出来れば右眼も治してやりたいが…
「ふむ、確か悪魔の瞳が片方残っていたな。それを移植すれば失明は免れるだろうが、両目を失ったわけではあるまいし、このままでも良いのではないか?」
ドクターの発言に俺は一瞬カッとなってしまった頭を冷やして考える。
確かに両目を喪失したわけでは無い。
中世ヨーロッパのような世界のハルケギニアだ、事故や紛争などで体の一部を失っている人を見かけることもある。
だけど、やはり俺は根本的な所で平和ボケした日本人なのだろう。
体を失うと言う事に耐えられそうに無い。
「それでその子の右目が光を失わずに済むなら」
これは単に俺のエゴだ。
「そうか。解った」
そう言ってドクターは準備に入る。
ドクターに任せておけばこの少女は助かるだろう。
性格はともあれ、能力はずば抜けて高いバグキャラだ。
「後は頼んだ」
俺はそう言い残して古屋を後にした。
古屋を出た俺は一目散にド・オランの屋敷に飛んでいった。
屋敷に着くと、街と同様、煙を上げている屋敷。
俺はそれを見るや否やすぐさま地上に降り立った。
屋敷の中庭に降り立たって辺りを確認すると屋敷邸宅の被害はそれほどでもないが、門辺りの被害が大きい。
いったい何が起きたと言うのだろう。
俺は門へ向かって走っていった。
門に着くと、辺りは爆弾を落としたような穴が幾つも開いており、その所々にトロールの死体が散らばっている。
見渡すと門から離れた片隅に執事やメイドによる人垣が出来ていた。
俺はそれに近づいて声をかける。
「何があったの?」
「坊ちゃま!?」
メイドの一人俺の声に気づき振り返ると、人垣が一斉に此方を向き各々に俺を呼び人垣が割れた。
割れた人垣の先に見えてきたのはその身をおびただしく血の赤で染め上げられた姿で地面に寝かされている両親の姿だった。
「父上!?母上!?」
俺は走りより声をかける。
しかし既に事切れているのは明白で、返事が返ってくるわけもなかった。
「坊ちゃま…」
俺は血で汚れるのも構わずに母の腕を握り執事に問うた。
「いったい何があった?」
その問いにしばらく沈黙のあと、とつとつと執事は語り出した。
俺が何時ものように屋敷を抜け出してからしばらくした後に、街にいきなりトロールの集団が現れ街を破壊し始めた事。
それを鎮圧するためにすぐさま兵士達に呼びかけ、魔法使い数人を伴いトロール殲滅へ派遣した。
しかし、それを見越したかのように屋敷の方にも複数のトロールが現れた。
屋敷には既に父、母以外の魔法使いは出払っていて、執事達を守るために母と一緒に門の辺りで迎え撃ちあらかた殲滅はしたものの、最後数匹にてこずり、精神力が切れた母がついに足を取られ、倒れ込んだところに振り下ろされる大棍棒の一撃を庇いに入った父もろとも吹き飛ばした。
吹き飛ばされながらも父は最期の気力を振り絞り、トロールを絶命にまで追い込んだが、既に致命傷で、母ともども助からなかったらしい。
前世の記憶の在る俺には少し複雑な気持ちだが、それでも優しい両親だった。
俺はその日、この世界に生れ落ちて初めて声が枯れるまで泣きはらしたのだった。
次の日、両親の訃報を聞き、兄が魔法学院から帰郷した。
10歳年上の兄は学院の寮に入っていて、この難をのがれたのだった。
兄が帰郷し、両親の葬儀を執り行う。
直轄の街も被害甚大で、領主の訃報にも駆けつける領民は皆無に等しいが、それでも盛大に執り行った。
それから一週間。
兄はオラン伯爵領の領主引継ぎを済ませた後、執事のセバさんに領地経営を任せ、自分は王宮騎士に志願すべくトリスタニアに行ってしまった。
どうやらこのトロール襲撃事件を裏で操っていた物が居るというのが兄の見解だ。
父は清廉潔白を絵で描いたような人で、汚職を嫌い、何時も不正を正す事を躊躇わず、官僚からの覚えは悪かったのだろう。
今回も宮廷での汚職を告発すべく王都に向かう手前だったのだ。
その直前に現れたトロールを不審に思うのは当たり前だ。
更に、両親が死んだ後、他の住人を攻撃するでもなく直ぐに引き上げて言ったトロールにも疑念がのこる。
兄は事の真相を突き止めるために学院を辞め騎士になり、出世する道を進むと決めたようだ。
屋敷の内部は余り破壊されていない為生活には不自由しないが、両親を失った事による喪失感と、ただ一人の肉親となった兄もこの屋敷を出て行ってしまったことによる寂寥感に俺はさいなまれるのだった。
そんな喪失と寂寥を感じていた俺は、ドクターの所に預けたままの少女の事をようやく思い出した。
俺はこの喪失感を紛らわさせるためにドクターの古屋を訪れるのだった。
ドクターの古屋の扉を開き俺は中に入る。
「ドクター?」
俺はドクターの定位置であろう研究机の方に視線を向ける。
するとそこに机に向い何かを書きなぐっているドクター。
しかしどこか精彩を欠いている。
「あ、ああ。お主か」
机から振り返りこちらを向くドクター。
少しやつれたようだ。
「女の子は?」
「ああ、あっちの部屋に居るよ。体は無事完治した。右目の方も恐らくは見えているだろうとは思うのだが」
うん?何やら歯切れが悪いな。
と言うか未だ此処に居たのか。
まあ、此処から街まで、徒歩だとかなりの距離がある上にドクターはこの古屋を出る事は先ず無い。
ドクターのあの性格から言って送り届けるような事はせずに、追い出すように放り出すものと思っていたのだけれど?
怪訝に思った俺はドクターに聞き返した。
「ドクターにしては珍しく歯切れが悪いですね」
「ああ。どうにもこちらの言葉が通じないらしく、意志の伝達が難しい」
「は?言葉を喋れないのですか?」
「いや、喋れないのではなく、あの子供の言っている言葉が私には理解できないのだよ。今もこうやって彼女が発した言葉からどうにか法則性を見つけようとメモした言葉とにらめっこさ」
さすがドクター。
未知の言語に好奇心を刺激されたらしい。
「奥の部屋に居るから会ってみると良い」
促された俺は、それに従い奥の部屋に通じるドアを開ける。
ガチャ
中に入ると寝台の隅で体育座りでうずくまっている少女を見つける。
「こんにちわ」
俺は取り合えず少女に向って挨拶をする。
しかし少女はこちらに顔を向けて俺を確認するように見つめるだけで、何の返答もない。
「そうか、言葉が通じないんだったな」
だが、おかしいな。
俺は彼女を街中で保護したはず。
それにハルケギニアでの公用語は一種類しか無いので、未知の言語なんて物があるはずも無いのだが…
「あー、困ったな。君はいったいどこから来たんだい?」
俺はそう言って少女に近づく。
すると。
『いや!こっちに来ないで!』
俺が何をするために近づいて来るのかが解らず少女は恐怖を感じたのだろう。少女は拒絶の言葉を発した。
「怖がらないでも何もしやしない。これ以上近づかないから、ね?」
そう俺は安心させるように言う。
立ち止まった俺から発せられた言葉を聞いて少女が答える。
『ごめんなさい。私、貴方が何ていっているのか解らないの…』
「解らないか………ん?」
ちょっと待て、俺は彼女の言葉を理解しているぞ?
まてまて、俺はアホか?
彼女はずっと日本語で話していただけではないか。
って、日本語!?
『日本人?』
『え?』
俺の発したその言葉に少女が反応する。
『君は日本人なのか?』
俺は今度は日本語で語りかける。
ハルケギニアに来て初めて使った日本語。
ちゃんと発音出来ていただろうか。
『貴方は?』
まさか日本語で話しかけられるとは思わなかったのだろう。
少し驚きながら問い返してきた。
『ああ、自己紹介が未だだったね。俺はアイオリア・ド・オラン。君は?』
『神前穹(かんざきそら)』
そう日本語で返した少女。
しかし、彼女の容姿は俺と同じ金髪。
このハルケギニアでは珍しくはない容姿をしてはいるが、日本人の容姿とはかけ離れている。
ここで考えられるのは、俺と同じ転生者かトリッパーと、後は後天的に記憶が混入される憑依か。
まあ、憑依も現実世界に帰れないのだから生まれ変わったのと変わりは無いだろう。
自分を前世の自分と認識するのが遅かっただけで、生まれ変わりと言う説も捨てられない。
原作キャラ憑依はこの範疇ではないだろうが。
『そうか、君は何処に住んでいたの?』
『解らな知らないところにいて、姿もかわっていて。なんか小さくなってたし、なぜか一緒に住んでいた女の人と一緒に暮らしていたんだけど、何を言っているのか解らなくて。それで、いきなり家が燃え出したから外に出たら大きな怪物が出てきて、逃げていたら怪物に襲われて、女の人を見つけたから追いかけようとしたら、怪物に殺されちゃった。そして気づいたらここに』
支離滅裂だが、どうやらあの街に女性と一緒に住んでいたのだろう。
考えるにその女性と言うのは母親か?
『そう。君がここに来てどの位?』
『わかんないけど、たぶん一年位』
一年か。
『じゃあ、君が前に住んでいた所は?』
『日本、此処は何処?日本じゃないみたいだけど、テレビも電話も無いし』
総合すると、少女、神咲穹は一年ほど前に憑依か前世覚醒かしたと同時に此方で過ごしてきた時間総てを失ったのだろう。
そのため、いきなり喋れなくなった我が子にどうして良いか解らず、家に閉じ込められていたらしい。
しかし、あの襲撃の時火災に遭い命からがら抜け出したところトロールに襲われ、その直後俺が助けた。
この世界に来る前は7歳の日本人で、先天性の病で病院で養生中だったらしい。
俺自身もどうだか解らないが、こう言った場合のセオリーとして現実世界では既に死亡しているのだろう。
それから俺はこの世界の事を少女に語って聞かせた。
俺も日本から気が付いたらこの世界に生まれ変わっていた事。
此処は別の世界で日本なんて何処にも無いと。
余りの出来事になかなか受け入れられなかったが、何とか自分の現状を理解してくれたようだ。
『じゃあ私は生まれ変わったっていうの!?』
『ああ』
『もう、パパとママに会えないの?』
『ああ』
一応このままいけばルイズが日本からサイトを召喚するだろうが、その日本が彼女のいた日本であるとは限らない。
あの世界にゼロ魔なんてライトノベルがある訳も無いのだし。俺のいた日本とは違うのだろう。
パラレルワールドと言う奴だ。
と言うか俺の考えではここは無限に漫画の世界が連なっている世界なのではないか?などと最近考えるようになっていた。
でなければ写輪眼なんて物がゲートを通ってくるわけも無いのだから。
『うぇーーーん、パパー。ママー』
ようやく帰れないと言う事を理解したのだろう、少女は関を切ったように泣き出してしまった。
しばらくして落ち着いたソラに話しかける。
『落ち着いた?』
『うん』
『そうか、それで君はこれからどうする?保護者の女性はこの前のトロール襲撃で亡くなったのだろう?』
『…うん』
記憶の融合もなくこの世界に落とされ、尚且つ言葉も未だ覚えておらず、それが原因で家の外には余り出なかったようだから、他の知り合いも居ないだろう。
どうした物か…
このまま街に返しても恐らく碌に生活もできず、生きては行けないだろう。
この世界で初めて見つけた同郷の者。
見捨てることは俺には出来そうも無い。
『家に来る?』
『え?』
『だから俺の家に』
『いいの?』
『ああ、構わない。家に来るか?』
『……うん』
小さな声で返答する。
実際彼女は俺の手をとる以外の選択肢は余り残されていなかったのかもしれないが。
冷静に考えると、美少女を連れ帰るとか…なんかコレ、光源氏みたいだな…
『そういえばこの世界での君の名前は何ていうの?ソラでは無いのだろう?』
『え?うん。ソラフィア。ソラフィア・メルセデスって呼ばれてた』
『ソラフィアか。名前の中に『ソラ』があるね。じゃあ、俺は君の事をソラって呼ぶよ』
『うん』
ソラがそう答えたのを確認して俺はソラフィアの手をとってドクターの居る部屋へ移ったのだった。
ガチャ
「どうだったかね?おや、随分懐かれたようだな」
そうなのだ、部屋から出るとソラは俺の裾をぎゅっと握って離してくれないのだ。
「まあね、それでこの子、ソラは俺が連れて帰るから」
「ふむ。ソラって言うのか。というかどうやって名前を聞き出したのだ?」
「まあ、それはその内。じゃあまた来ます、ドクター」
「そうか、また来なさい」
そういって俺はドクターと別れ、古屋を後にする。
ソラを連れて古屋を出ると、俺はソラにおぶさる様に言い、俺はフライの魔法を行使する。
『え?ええ!?空飛んでいるよ!?』
『あ、ああ。魔法使いなんだから空くらい飛べるよ』
『魔法使い?』
俺は屋敷に向って飛んでいく途中、ソラの質問に答えていた。
『そう、魔法使い』
『それって私も使える?』
『んー。魔法は貴族じゃないと使えないんだ』
『貴族?』
『そ。大きく分けるとこのハルケギニアには魔法を使える貴族と、使えない平民の二種類の人間がいる』
『?』
『つまり貴族の家に生まれ無いと魔法は使えないって事』
『じゃあ私は?』
『えっと…』
どうなんだろう。
住んでいた所はオラン領の直轄地だが。
普通に考えたら平民と言う事になるだろうが、ソラも転生者。
俺と同じで転生テンプレの様に貴族の血縁なのだろうか?
魔法は血で使う物だからねぇ。
と言うか、貴族と平民の子供は魔法の素質は遺伝するのだろうか?
遺伝するとしたら普通に考えて有史6000を超えるハルケギニア。
市井に紛れた貴族や妾の子供なんかの子孫とか大勢いそう。
ならば平民でも多数の人が魔法を使えるんじゃないか?
まあ、考えても仕方ないか。
後で機会があったらドクターにでも聞いてみるか。
それに翌々考えてみればソラフィアのフルネームはソラフィア・メルセデス。
家名が着いていると言う事は貴族かもしくはそれに連なる者なのでは?
『解らないけれど、今度練習してみる?』
『うん』
と、元気の良い返事が返ってきた。
しばらく飛んでいるとようやく屋敷が見えてきた。
『あれがアオの家?』
『そうだね』
『大きい…』
『そりゃこのオラン伯爵領の領主の屋敷だからね』
『ふうん。アオって王子様?』
王子って…ま現実世界ではまだ小学生低学年、しかもほぼ入院生活だったと聞いている。
精神年齢は実年齢相応なのだろう。
屋敷に着いた俺とソラは地面に降りると、未だ使用人総出で修復している門をくぐった。
「坊ちゃま、お帰りなさいませ」
俺に気づいたセバさんがあいさつをしてきた。
「ただいま」
「そちらのお嬢様は?」
俺の袖を掴んで背中に隠れるようにして縮こまるソラを見つけ問いただしてきた。
「この子はソラフィア。今日から此処で暮らすから。世話をしてあげて」
「…かしこまりました」
『ソラ、今日から此処が君の家だ。解らない事があったらメイド…俺に聞いてくれれば良いから』
『…うん』
先ずは言葉を覚えない事にはこの先どうしようもない。
『言葉は俺が教えてあげるから』
『本当!?』
『本当』
それから俺たちは屋敷に入り、ソラの部屋を用意させ、風呂に入り、疲れを癒した。
ソラは風呂を心底嬉しそうに入っていたのが印象的だ。
え?何でそんな事が解るかって?
俺の側を離れたがらないソラが離してくれず一緒に入浴したからですよ?
俺自身もまだこの世界では7歳。十分許されるのです。
まあ、何で入浴が喜ばれたかと言えば、この世界には貴族の屋敷くらいしかお風呂が無いから。
今まで見よう見まねでサウナで汗を流していたそうな。
だから湯船につかれるのは本当に嬉しそうだった。
その後、ソラと一緒に食事を取り就寝。
就寝時も部屋を与えていたにも関わらず俺のベッドにもぐりこんでくるソラフィア。
ようやく見つけた俺と言う言葉を理解してくれる存在を手放したくないと言う恐怖の表れか、それともトロール襲撃のショックからかは解らないけれど、俺に抱きついて眠る安堵した表情を見ると引き離す気は起きなかった。
それに俺も両親が亡くなり、兄もトリスタニアへ出て行ってしまい、急に広く感じてしまった屋敷。
その孤独を埋めるかのように現れた俺と同じ身の上の少女の暖かさを感じながら、俺も就寝した。
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